説明

2サイクルエンジン

【課題】高い圧力をかけずにシリンダの内部にガス燃料を直噴でき、且つ、過早着火を防止することができる2サイクルエンジンの提供。
【解決手段】排気ポート6と掃気ポート9との間においてシリンダ2の内部にガス燃料を噴射する第1燃料噴射ポート13と、排気ポート6と掃気ポート9との間において摺動面2aに潤滑油を供給する潤滑油供給ポート12と、排気ポート6からシリンダ2の内部の排気ガスの排気が完了する前に、第1燃料噴射ポート13からのガス燃料の噴射を開始させると共に、少なくとも長さ方向一端側へ向うピストン3が潤滑油供給ポート12を通過するまで、潤滑油供給ポート12からの潤滑油の供給を停止させるよう制御する制御装置15と、を有するユニフロー型2サイクルエンジンを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルエンジンに関し、特にシリンダの内部に燃料を直接噴射(直噴)する2サイクルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
2サイクルエンジン(2ストロークエンジンとも称される)は、シリンダの内部でピストンが1往復するごとに、吸気、圧縮、燃焼、排気が1サイクルするレシプロエンジンである。一般に、2サイクルエンジンは、シリンダの内部にインジェクタ等の燃料噴射ポートを備え、掃気ポート及び排気ポートが閉塞された状態で、燃焼室内に燃料噴射することで、燃料の吹き抜けを防ぐ構成となっている。
【0003】
この2サイクルエンジンとして、例えば、下記特許文献1に記載の2サイクル改質ガスエンジンが知られている。この2サイクルエンジンは、シリンダの上部に排気ポートを備え、シリンダの下部に掃気ポートを備えるユニフロー型2サイクルエンジンである。この2サイクルエンジンにおいても、排気完了後、ピストンが掃気ポートより上方に位置して燃焼室が閉鎖された圧縮行程中に、改質ガスを燃焼室内に噴射する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−291769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術においては、排気完了後の燃焼室内に排気ガスが殆ど存在しない圧縮行程中に、ガス燃料を燃焼室内へ噴射する構成となっている。しかしながら、圧縮行程中、燃焼室内は高圧になっており、ガス燃料を燃焼室内に噴射するためには、より高い圧力でガス燃料を噴射するための高出力の昇圧装置が必要となる。
【0006】
また、上記従来技術においては、一般的な2サイクルディーゼルエンジン等と同様に、シリンダの内部におけるピストンの摺動性を確保するため、シリンダの摺動面に潤滑油を供給しなければならない。しかしながら、2サイクルガスエンジンの場合、シリンダの摺動面に供給された潤滑油は、ピストンリング等により掻き揚げられて、燃焼室内に飛散し、また、潤滑油に含まれる揮発成分の蒸発が起こり、混合気の着火源となる場合がある。潤滑油が着火源になると、混合気が正規のタイミングで燃焼せず、圧縮行程中に燃焼が始まってしまう過早着火が生じ得る。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高い圧力をかけずにシリンダの内部にガス燃料を直噴でき、且つ、過早着火を防止することができる2サイクルエンジンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、ピストンが摺動する摺動面を有するシリンダの長さ方向一端側において開閉する排気ポートと、上記シリンダの長さ方向他端側において開閉する掃気ポートと、上記排気ポートと上記掃気ポートとの間において上記シリンダの内部にガス燃料を噴射する燃料噴射ポートと、上記排気ポートと上記掃気ポートとの間において上記摺動面に潤滑油を供給する潤滑油供給ポートと、上記排気ポートから上記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前に、上記燃料噴射ポートからのガス燃料の噴射を開始させると共に、少なくとも上記長さ方向一端側へ向う上記ピストンが上記潤滑油供給ポートを通過するまで、上記潤滑油供給ポートからの潤滑油の供給を停止させるよう制御する制御装置と、を有する2サイクルエンジンを採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、シリンダの内部における排気ガスの排気が完了する前の低圧状態で、ガス燃料の噴射を開始させる。これにより、従来よりも低圧で、ガス燃料を燃焼室内に噴射することができる。また、本発明では、圧縮行程中、少なくとも長さ方向一端側に向うピストンが潤滑油供給ポートを通過するまで、潤滑油の供給を停止させる。これにより、燃焼室内に掻き揚げられる潤滑油の量が低減され、過早着火が防止される。
【0009】
また、本発明においては、上記シリンダの長さ方向一端側において上記シリンダの内部に液体燃料を噴射する第2燃料噴射ポートを有しており、上記制御装置は、上記シリンダの内部に供給する燃料の種類に応じて、上記排気ポートから上記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前に、上記燃料噴射ポートからのガス燃料の噴射を開始させると共に、少なくとも上記長さ方向一端側へ向う上記ピストンが上記潤滑油供給ポートを通過するまで、上記潤滑油供給ポートからの潤滑油の供給を停止させる第1燃焼モードと、上記排気ポートから上記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了した後に、上記第2燃料噴射ポートから液体燃料を噴射させると共に、少なくとも上記長さ方向一端側へ向う上記ピストンが上記潤滑油供給ポートを通過するまでの間に、上記潤滑油供給ポートから潤滑油を供給させる第2燃焼モードと、に切り替えるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、シリンダの内部における排気ガスの排気が完了する前の低圧状態でガス燃料を燃焼室内に噴射し、且つ、燃焼室内に掻き揚げられる潤滑油の量を低減して過早着火を防止できる第1燃焼モードと、シリンダの内部における排気ガスの排気が完了した後に、ガス燃料と異なり過早着火の虞が殆どない液体燃料を燃焼室内に噴射し、且つ、燃焼室内に潤滑油を積極的に掻き揚げさせる第2燃焼モードと、を切り替え可能なデュアルフューエル方式を採用することで、効率の良い運転が可能となる。
【0010】
また、本発明においては、上記液体燃料は、硫黄成分を含んでおり、上記第2燃焼モードでは、上記潤滑油を、上記硫黄成分を中和する中和剤が添加された第2潤滑油に切り替えるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、第2燃焼モードのときに、ピストンの潤滑性を得ると共に、液体燃料に含まれる硫黄成分によるライナ摺動面の硫酸腐食を防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
したがって、本発明によれば、高い圧力をかけずにシリンダの内部にガス燃料を直噴でき、且つ、過早着火を防止することができる2サイクルエンジンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態における2サイクルエンジンの全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態における第1燃焼モードの燃料噴射動作を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態における第1燃焼モードのクランク角度と各ポートの開放度(リフト量、開口面積等)との対応関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態における第2燃焼モードの潤滑油供給動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態における2サイクルエンジンの全体構成を示す図である。
本実施形態の2サイクルエンジンは、例えば船舶等に設けられる大型のユニフロー型2サイクルエンジンであり、燃料として、LNG(液化天然ガス)をガス化したガス燃料と、軽油や重油等(ディーゼル燃料)の液体燃料とを用いるデュアルフューエル(2元燃料)方式を採用している。
【0014】
同図における符号1は、エンジン本体であり、シリンダ2の内部の摺動面2aに沿って、不図示のクランク機構に連結されたピストン3が往復移動する構成となっている。なお、ピストン3としては、ストロークが長いクロスヘッド型ピストンを採用している。ピストン3は、複数のピストンリング3aを有しており、当該ピストンリング3aが摺動面2aに沿って摺動する構成となっている。
【0015】
シリンダ2の上部(長さ方向一端側)には、第2燃料噴射ポート5(後述)及び排気ポート6が設けられている。排気ポート6は、ピストン3の上死点近傍であって、シリンダヘッド4aの頂部において開口している。排気ポート6は、排気弁7を有する。排気弁7は、排気弁駆動装置8によって所定のタイミングで上下動し、排気ポート6を開閉させる構成となっている。排気ポート6を介して排気された排気ガスは、例えば、不図示の排気主管を通って外部に排気される。
【0016】
シリンダ2の下部(長さ方向他端側)には、掃気ポート9が設けられている。掃気ポート9は、ピストン3の往復移動によって所定のタイミングで開閉する構成となっている。掃気ポート9は、ピストン3の下死点近傍であって、シリンダライナ4bの側部において開口している。掃気ポート9は、筐体10によって形成された空間11に囲まれている。筐体10には、不図示の掃気チャンバが接続されている。掃気チャンバには、例えば、不図示の空気冷却器を通過した空気が圧送されてくる構成となっている。
【0017】
シリンダ2の中腹部(中間部)には、潤滑油供給ポート12及び第1燃料噴射ポート(燃料噴射ポート)13が設けられている。潤滑油供給ポート12は、排気ポート6と掃気ポート9との間において、シリンダ2の摺動面2aに潤滑油を供給する構成となっている。潤滑油供給ポート12は、第1燃料噴射ポート13よりも上部(長さ方向一端側)に位置し、シリンダライナ4bの周方向に間隔をあけて複数設けられている。各潤滑油供給ポート12は、注油器20と接続されている。注油器20は、制御装置15からの指令を受け、各潤滑油供給ポート12からの潤滑油の供給、供給停止を行う構成となっている。
【0018】
注油器20には、潤滑油導入配管21が接続されている。潤滑油導入配管21は、電動切り替え弁22によって、ガス燃料用潤滑油タンク23あるいはディーゼル燃料用潤滑油タンク24に切り替え接続可能となっている。ガス燃料用潤滑油タンク23には、シリンダ2の内部におけるピストン3の摺動性を確保するためのガス燃料用の潤滑油が貯溜されている。ディーゼル燃料用潤滑油タンク24には、シリンダ2の内部におけるピストン3の摺動性を確保すると共に、ディーゼル燃料に含まれる硫黄成分による摺動面2aの硫酸腐食を防止するために、当該硫黄成分を中和する中和剤(水酸化カリウム等)が添加されたディーゼル燃料用の潤滑油(第2潤滑油)が貯溜されている。
【0019】
第1燃料噴射ポート13は、排気ポート6と掃気ポート9との間においてシリンダ2の内部(燃焼室)に、LNGをガス化したガス燃料を噴射する構成となっている。第1燃料噴射ポート13は、シリンダライナ4bの周方向に間隔をあけて複数設けられ、それぞれが第1燃料噴射弁13aを有する。第1燃料噴射弁13aは、制御装置15からの指令を受け、第1燃料噴射ポート13を開放あるいは閉塞させ、ガス燃料の噴射、噴射停止を行う構成となっている。
【0020】
第2燃料噴射ポート5は、シリンダ2の上部である上死点近傍においてシリンダ2の内部に、軽油や重油等の液体燃料(ディーゼル燃料)を噴射する構成となっている。第2燃料噴射ポート5は、シリンダヘッド4aに設けられ、第2燃料噴射弁5aを有する。第2燃料噴射弁5aは、制御装置15からの指令を受け、第2燃料噴射ポート5を開放あるいは閉塞させ、液体燃料の噴射、噴射停止を行う構成となっている。
【0021】
制御装置15は、上記構成のエンジン本体1の全体の動作を制御するものであり、シリンダ2の内部に供給する燃料の種類に応じて、ガス燃料の供給によりエンジン本体1をガス運転させる第1燃焼モードと、液体燃料の供給によりエンジン本体1をディーゼル運転させる第2燃焼モードとに切り替え可能な構成となっている。制御装置15は、入力された燃焼モード指令信号と、不図示のクランク機構に設けられたロータリエンコーダ17からのクランク角度信号とに基づいて、各構成機器の駆動を制御する構成となっている。
【0022】
第1燃焼モードは、排気ポート6からシリンダ2の内部の排気ガスの排気が完了する前に、第1燃料噴射ポート13からのガス燃料の噴射を開始させると共に、少なくともシリンダ2の長さ方向一端側へ向うピストン3が潤滑油供給ポート12を通過するまで、潤滑油供給ポート12からの潤滑油の供給を停止させる燃焼モードである。
第2燃焼モードは、排気ポート6からシリンダ2の内部の排気ガスの排気が完了した後に、第2燃料噴射ポート5から液体燃料を噴射させると共に、少なくともシリンダ2の長さ方向一端側へ向うピストン3が潤滑油供給ポート12を通過するまでの間に、潤滑油供給ポート12から潤滑油を供給させる燃焼モードである。
【0023】
次に、図2及び図3を参照して、上記構成の制御装置15の下に行われる第1燃焼モードの燃料噴射動作について詳しく説明する。
図2は、本発明の実施形態における第1燃焼モードにおける燃料噴射動作を説明するための図である。図3は、本発明の実施形態における第1燃焼モードのクランク角度と各ポートの開放度(リフト量、開口面積等)との対応関係を示すグラフである。なお、図2中、符号Aは、排気ガス層を示し、符号Bは、吸入新気層を示し、符号Cは、ガス燃料と空気が混合した予混合気層を示す。
【0024】
図2(a)は、燃焼後の膨張行程を示す。この時、排気ポート6及び掃気ポート9は閉塞されており、シリンダ2の内部が排気ガス層Aで満たされている。
図2(a)から、さらにピストン3が下がり、クランク角度が所定角度に達すると、制御装置15によって排気弁駆動装置8が駆動し、排気弁7が下がり、排気ポート6が開放される(ステップS1:図2(b)及び図3参照)。
【0025】
図2(b)から、またさらにピストン3が下がり、クランク角度が所定角度に達すると、ピストン3により閉塞されていた掃気ポート9が開放される(ステップS2:図2(c)及び図3参照)。そして、ピストン3が下死点に達するときには、完全に掃気ポート9が開放される(図2(d)参照)。
吸気は、排気ポート6及び掃気ポート9が開いたステップS2から開始される。そして、掃気ポート9からシリンダ2の内部に吸入された吸入新気層Bは、排気ガス層Aを押し上げつつ、シリンダ2の内部を下方から上方に向けて満たして行く。
【0026】
吸入新気層Bが、第1燃料噴射ポート13が設けられた燃料噴射位置に達した後、制御装置15によって第1燃料噴射弁13aが駆動し、第1燃料噴射ポート13からの、ガス燃料の噴射が開始される(図2(e)及び図3参照)。
この時、排気ポート6及び掃気ポート9が開放されて排気中であるため、シリンダ2の内部は、低圧である。したがって、第1燃料噴射ポート13からは、圧縮中における圧力よりも低圧で、ガス燃料をシリンダ2の内部に噴射することができる。このため、高出力の昇圧装置を設けずとも、ガス燃料を燃焼室内に噴射することが可能となる。
【0027】
本実施形態では、燃料噴射タイミングを、掃気ポート9からシリンダ2の内部に吸入された吸入新気層Bが第1燃料噴射ポート13の燃料噴射位置に達した後となるように制御している。吸入新気層Bが第1燃料噴射ポート13の燃料噴射位置に達した後であれば、ユニフロー(単流)であることも相俟って吸入新気層Bが排気ガス層Aを押し出すので、噴射されたガス燃料が、シリンダ2の内部に一部残存している高温の排気ガスに接触してしまうことを回避できる。このため、過早着火を予防し、エンジン駆動の安定化を図ることができる。
【0028】
さらに、本実施形態では、燃料噴射タイミングを、吸入新気層Bが燃料噴射位置に達した後で、且つ、排気ガス層Aと燃料噴射位置との間に吸入新気層Bを形成させるための遅れ時間が経過した後に、設定している。この遅れ時間によって排気ガス層Aと燃料噴射位置との間に形成された吸入新気層Bは、排気ガス層Aと予混合気層Cとの間に介在し、両者の接触を防止する(図2(e)参照)。具体的な作用としては、第1燃料噴射ポート13からガス燃料が所定幅で噴射・拡散しても、介在する吸入新気層Bによって、排気ガス層Aとの接触を阻止することができる。さらに、両者間に吸入新気層Bを介在させることによって、排気ガス層Aの界面の揺らぎによる燃料噴射位置への侵入に伴う予期せぬ過早着火を予防することができる。したがって、この遅れ時間によって、排気ガス層Aと予混合気層Cとの間に吸入新気層Bを介在させることによって、より確実に過早着火を予防することができる。
【0029】
なお、シリンダ2の内部において吸入新気層Bが、排気ガス層Aを押し出しつつどの位置まで達したかは、排気ポート6の開放度(リフト量)及び掃気ポート9の開放度(開口面積)の少なくともいずれか一方に基づいて推定できる。本実施形態では、掃気ポート9の開放度は、ピストン3の位置、すなわち、クランク角度により一に定まるので、排気ポート6の開放タイミングに基づいて、燃料噴射タイミングを設定している(図3参照)。排気ポート6の開放タイミングは排気弁駆動装置8により可変であり、エンジンの負荷に応じて、掃気ポート9の開放タイミングと前後する場合がある。この理由からも、本実施形態では、排気ポート6の開放タイミングに基づいて、燃料噴射タイミングを設定している。
【0030】
ピストン3が下死点を過ぎて上昇し始めると、掃気ポート9が閉塞され始める(図2(f)参照)。この時、燃料噴射は、継続されており、排気ガス層Aとの間に吸入新気層Bが介在した状態で、予混合気層Cがシリンダ2の内部を満たして行く。
図2(f)から、さらにピストン3が上がり、クランク角度が所定角度に達すると、開放されていた掃気ポート9がピストン3により閉塞される(ステップS3:図2(g)及び図3参照)。この時、排気ポート6は、未だ閉塞されていないので、低圧での燃料噴射は継続される。
【0031】
図2(g)から、またさらにピストン3が上がり、クランク角度が所定角度に達すると、排気弁7が上がりきり、排気ポート6が閉塞され、排気が完了する(ステップS4:図2(h)及び図3参照)。この時、排気ガス層Aの殆どすべてが排気されることとなるが、本実施形態では、排気ガス層Aと予混合気層Cとの間に吸入新気層Bを介在させているので余裕が生まれ、介在した吸入新気層Bの一部が吹き抜けた状態での排気ポート6の閉塞が可能となる。これにより、排気ガス層Aの殆どすべてを排気しつつ、予混合気層Cの吹き抜けを防ぐことができる。
【0032】
圧縮は、排気ポート6及び掃気ポート9が閉じたステップS4から開始される。燃料噴射は、燃焼室の圧力が高くなる前の圧縮行程前半まで継続する。もっとも、昇圧装置の性能限界の圧力に達する前には、燃料噴射を終了させる。少なくとも、ピストン3が、燃料噴射位置に達する前、すなわち、シリンダ2の中腹部に達する前には、制御装置15によって第1燃料噴射弁13aが閉じられて、燃料噴射が終了する(図2(i)参照)。
その後、ピストン3が上死点まで達し、予混合気層Cが圧縮されると、着火が行われ、燃焼により生じた排気ガスが、ピストン3を押し下げて、図2(a)の状態に戻る。
以上により、エンジンの1サイクルにおける燃料噴射動作が終了する。
【0033】
図1に戻り、続いて、上記構成の制御装置15の下に行われる第1燃焼モードにおける潤滑油供給動作について詳しく説明する。
第1燃焼モードでは、ガス燃料による燃焼が行われるため、先ず、制御装置15は、電動切り替え弁22を駆動させ、潤滑油導入配管21とガス燃料用潤滑油タンク23とを接続させる。これにより、ガス燃料用潤滑油タンク23から注油器20に潤滑油が導入される。
【0034】
制御装置15は、第1燃焼モードにおけるエンジンの1サイクルにおいて、少なくとも、シリンダ4の長さ方向一端側へ向う上昇行程中のピストン3が、潤滑油供給ポート12を通過するまで、潤滑油供給ポート12からの潤滑油の供給を停止させるよう、注油器20の駆動を制御する。
具体的に、制御装置15は、ロータリエンコーダ17からのクランク角度信号に基づいて、少なくともピストン3が下死点に達した後であってそこから上死点へ向う上昇行程中、その最下段のピストンリング3aが潤滑油供給ポート12を通過するまで、注油器20の駆動を停止させて、潤滑油の供給を停止させる。
【0035】
この第1燃焼モードにおける潤滑油の供給は、シリンダ4の長さ方向他端側へ向うピストン3の下降行程中に行う。具体的に、制御装置15は、ロータリエンコーダ17からのクランク角度信号に基づいて、ピストン3の下降行程中、少なくとも、ピストン3の最下段のピストンリング3aが潤滑油供給ポート12を通過する直前(図1参照)から、ピストン3の最上段のピストンリング3aが潤滑油供給ポート12を通過した直後まで、注油器20を駆動させて、潤滑油を供給させる。
【0036】
このように、第1燃焼モードでは、ピストン3の下降行程中に潤滑油が供給され、ピストン3の上昇行程中、ピストン3が潤滑油供給ポート12を通過するまで、潤滑油の供給が停止される。すなわち、図2(d)〜(i)に示すピストン3の上昇行程中に、潤滑油の供給が停止されるので、ピストン3の上昇によって、燃焼室内に掻き揚げられる潤滑油の量が低減され、過早着火が防止される。すなわち、ピストン3の上昇行程中には、潤滑油が供給されず、ピストンリング3aによって燃焼室内に掻き揚げられる余剰の潤滑油が低減されるため、潤滑油が掻き揚げられたとしても微小であり、予混合気層C内に飛散、蒸発してその自着火温度を低下させる等、予混合気層Cの着火源として機能し得なくなる。
したがって、第1燃焼モードでは、高い圧力をかけずにシリンダ2の内部にガス燃料を直噴でき、且つ、過早着火を防止することができる。
【0037】
続いて、図4を参照して、上記構成の制御装置15の下に行われる第2燃焼モードの潤滑油供給動作について詳しく説明する。なお、第2燃焼モードにおける燃料噴射動作は、周知の2サイクルディーゼルエンジンの燃料噴射動作と同じなので、その詳細な説明は割愛するが、第1燃焼モードと異なり、排気ポート6からシリンダ2の内部の排気ガスの排気が完了した後、ピストン3が上死点に達したタイミングで、第2燃料噴射ポート5からディーゼル燃料を噴射するものである。
図4は、本発明の実施形態における第2燃焼モードの潤滑油供給動作を説明するための図である。
【0038】
図4に示すように、第2燃焼モードでは、ディーゼル燃料による燃焼が行われるため、先ず、制御装置15は、電動切り替え弁22を駆動させ、潤滑油導入配管21とディーゼル燃料用潤滑油タンク24とを接続させる。これにより、ディーゼル燃料用潤滑油タンク24から注油器20に、硫酸中和剤が添加された潤滑油(第2潤滑油)が導入される。
【0039】
制御装置15は、第2燃焼モードにおけるエンジンの1サイクルにおいて、少なくとも、シリンダ4の長さ方向一端側へ向う上昇行程中のピストン3が、潤滑油供給ポート12を通過するまでの間に、潤滑油供給ポート12から潤滑油を供給させるよう、注油器20の駆動を制御する。
具体的に、制御装置15は、ロータリエンコーダ17からのクランク角度信号に基づいて、少なくともピストン3が下死点に達した後であってそこから上死点へ向う上昇行程中、その最上段のピストンリング3aが潤滑油供給ポート12を通過する直前(図4参照)から、その最下段のピストンリング3aが潤滑油供給ポート12を通過するまでの間に、注油器20を駆動させて、潤滑油を供給させる。
【0040】
このように、第2燃焼モードでは、ピストン3の上昇行程中、ピストン3が潤滑油供給ポート12を通過するまでの間に、潤滑油が供給されるため、燃焼室内に潤滑油を積極的に掻き揚げさせることができる。すなわち、第2燃焼モードにおいて、液体燃料として、硫黄成分を多く含む純度の低いディーゼル燃料を使用する場合、その燃料中に含まれる硫黄成分に起因して生成される硫黄物(SO)によるシリンダ2の摺動面2aの硫酸腐食(低温腐食)が問題となる。
【0041】
そこで、第2燃焼モードでは、上述したタイミングで潤滑油を供給することにより、ピストンリング3aと摺動面2aとの摺動状態を良好に保つと共に、燃焼室内に中和剤を含む潤滑油を積極的に掻き揚げさせて、生成される硫黄物を中和させ、硫酸腐食を防止するようにしている。なお、第2燃焼モードでは、第1燃焼モードと異なり、圧縮行程中に空気と燃料とを予混合する方式ではないため、燃焼室内に潤滑油を掻き揚げることによる過早着火の虞は殆どない。
ちなみに、ガス燃料として、LNGを使用する場合、硫黄成分は殆ど含まれていないので硫酸腐食の心配はない。したがって、第1燃焼モードでは、硫酸中和剤が添加されていない潤滑油を使用することができる。
【0042】
したがって、上述の本実施形態によれば、ピストン3が摺動する摺動面2aを有するシリンダ2の長さ方向一端側において開閉する排気ポート6と、シリンダ2の長さ方向他端側において開閉する掃気ポート9と、排気ポート6と掃気ポート9との間においてシリンダ2の内部にガス燃料を噴射する第1燃料噴射ポート13と、排気ポート6と掃気ポート9との間において摺動面2aに潤滑油を供給する潤滑油供給ポート12と、排気ポート6からシリンダ2の内部の排気ガスの排気が完了する前に、第1燃料噴射ポート13からのガス燃料の噴射を開始させると共に、少なくとも長さ方向一端側へ向うピストン3が潤滑油供給ポート12を通過するまで、潤滑油供給ポート12からの潤滑油の供給を停止させるよう制御する制御装置15と、を有するユニフロー型2サイクルエンジンを採用することによって、シリンダ2の内部における排気ガスの排気が完了する前の低圧状態で、ガス燃料の噴射を開始させて、従来よりも低圧で、ガス燃料を燃焼室内に噴射させると共に、圧縮行程中、少なくとも長さ方向一端側に向うピストン3が潤滑油供給ポート12を通過するまで、潤滑油の供給を停止させることにより、燃焼室内に掻き揚げられる潤滑油の量を低減させて、過早着火を防止することができる。
したがって、本実施形態によれば、高い圧力をかけずにシリンダ2の内部にガス燃料を直噴でき、且つ、過早着火を防止することができるユニフロー型2サイクルエンジンが得られる。また、本実施形態によれば、第1燃焼モードによってNO低減が可能な天然ガス(LNG)を燃料としたガス運転が可能となり、また、第2燃焼モードによって高効率のディーゼル運転が可能となるため、要求に応じた効率の良い運転が可能となる。
【0043】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0044】
例えば、上記実施形態では、制御装置15が、排気ポート6の開放度に基づいて、第1燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
例えば、制御装置15が、掃気ポート9の開放度に基づいて、第1燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良いし、また、排気ポート6及び掃気ポート9の開放度に基づいて、第1燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良い。
【0045】
また、吸入新気層Bが、排気ガス層Aを押し出しつつどの位置まで達したかは、開きタイミングの遅い方の開放度に依存する度合いが高いので、制御装置15が、排気ポート6及び掃気ポート9のうち、開きタイミングの遅い方の開放度に基づいて、第1燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良い。
また、排気ポート6及び掃気ポート9の開放度は、クランク角度に依存するので、制御装置15が、クランク角度に基づいて第1燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良い。
【0046】
また、例えば、上記実施形態では、LNGを用いたガス燃料を噴射する形態について説明したが、本発明は他のガス燃料、例えばLPG(液化石油ガス)等を用いる形態についても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
2…シリンダ、2a…摺動面、3…ピストン、5…第2燃料噴射ポート、6…排気ポート、9…掃気ポート、12…潤滑油供給ポート、13…第1燃料噴射ポート(燃料噴射ポート)、14…ガス噴射弁(開閉部)、15…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンが摺動する摺動面を有するシリンダの長さ方向一端側において開閉する排気ポートと、
前記シリンダの長さ方向他端側において開閉する掃気ポートと、
前記排気ポートと前記掃気ポートとの間において前記シリンダの内部にガス燃料を噴射する燃料噴射ポートと、
前記排気ポートと前記掃気ポートとの間において前記摺動面に潤滑油を供給する潤滑油供給ポートと、
前記排気ポートから前記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前に、前記燃料噴射ポートからのガス燃料の噴射を開始させると共に、少なくとも前記長さ方向一端側へ向う前記ピストンが前記潤滑油供給ポートを通過するまで、前記潤滑油供給ポートからの潤滑油の供給を停止させるよう制御する制御装置と、を有することを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記シリンダの長さ方向一端側において前記シリンダの内部に液体燃料を噴射する第2燃料噴射ポートを有しており、
前記制御装置は、前記シリンダの内部に供給する燃料の種類に応じて、
前記排気ポートから前記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前に、前記燃料噴射ポートからのガス燃料の噴射を開始させると共に、少なくとも前記長さ方向一端側へ向う前記ピストンが前記潤滑油供給ポートを通過するまで、前記潤滑油供給ポートからの潤滑油の供給を停止させる第1燃焼モードと、
前記排気ポートから前記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了した後に、前記第2燃料噴射ポートから液体燃料を噴射させると共に、少なくとも前記長さ方向一端側へ向う前記ピストンが前記潤滑油供給ポートを通過するまでの間に、前記潤滑油供給ポートから潤滑油を供給させる第2燃焼モードと、に切り替えることを特徴とする請求項1に記載の2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記液体燃料は、硫黄成分を含んでおり、
前記第2燃焼モードでは、前記潤滑油を、前記硫黄成分を中和する中和剤が添加された第2潤滑油に切り替えることを特徴とする請求項2に記載の2サイクルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−40578(P2013−40578A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177196(P2011−177196)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(591083406)株式会社ディーゼルユナイテッド (30)
【Fターム(参考)】