説明

2トローク・クロスヘッド内燃エンジンのシリンダライナの直径を測定する方法、直径測定装置、および、前記方法に用いる可撓性リング

【課題】2ストローク・クロスヘッドエンジンが一時的に非作動状態にある間に、シリンダライナの直径を測定する方法およびその方法で使用される直径測定装置を提供する。
【解決手段】シリンダライナの直径を測定する電子的な直径測定装置10は、掃気ポート103を介して内燃エンジンのシリンダライナ106の内側に挿入されて測定位置に配置され、シリンダライナ106の内径を電子的なパラメータとして測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2ストローク・クロスヘッド内燃エンジン(クロスヘッド型二行程内燃機関)のシリンダライナの直径(シリンダライナ径)を測定する方法に関し、エンジンが非作動状態にあるときに、直径測定装置(直径ゲージデバイス)をシリンダライナの掃気ポートからシリンダライナの内部に挿入して測定位置に配置し、シリンダライナの内径を測定する方法に関する。
【発明の背景および発明の概要】
【0002】
大型の2ストローク・クロスヘッド内燃エンジンにおいては、シリンダ摩耗の記録を残すことが重要である。エンジンが作動している間、燃焼室内の圧力がピストンリングをシリンダライナの内側表面に対して半径方向外側に押圧するため、ピストンリングのシリンダライナに対する荷重によってシリンダの摩耗が生じる。エンジンの保守においては、シリンダ摩耗の情報を経時的に取得することが重要であり、その記録を確立するために、エンジンの個々のシリンダライナの実際の摩耗状態の測定が周期的に実行される。シリンダ摩耗は、オーバーホールのためにあるいはエンジンの他の部品を修理するためにエンジンを停止させたときに典型的に測定される。しかしながら、エンジンの状態は、保守点検の間の長い期間において変化する。
【0003】
大型の2ストローク内燃エンジンは典型的に船舶の主機として用いられるが、多くの種類の船舶においては港に停泊する時間が短く、コンテナ船においては典型的に約5時間である。そのような短い時間は、エンジンにおけるシリンダのシリンダライナ摩耗を測定するには不十分である。
【0004】
米国特許第3,090,125号に開示されている測定装置は、細長いベース部材と、それに枢着されてシリンダライナの掃気ポートから部分的に挿入し得る調節可能なロッドとを備えている。この装置は、前記ロッドの長さを短縮しかつ伸長させるための機械的な調節手段と、前記ベース部材に対して前記ロッドを揺動させるように操作可能な他の機械的な手段とを備えている。この測定装置は、掃気ポートを介してシリンダライナに部分的に挿入されるとともに、外側から操作できるように構成されている。そして測定が終了すると、この装置は取り出される。
【0005】
2ストローク・クロスヘッドエンジンのシリンダライナ摩耗を測定するために一般に用いる方法は、シリンダライナカバーあるいは排気弁ハウジングを解体することにより、シリンダライナの最上部に充分なサイズの通路を確保し、シリンダライナの内部に直径測定装置を降ろして、シリンダライナ内の様々な高さ位置において直径の測定を実行するというものである。
【0006】
デンマーク特許第152628号に開示されている直径測定装置は、シリンダカバーを解体して取り除いた後に、シリンダライナの内径を測定するように構成されている。この直径測定装置は、その一端に2つの支持脚を有したフレーム部分と、2つの支持脚に対して直径方向の反対側に配置された測定プローブとを備えている。フレーム部分には、支持脚の端部の近傍に配設されたハンドルと、測定プローブに機械的に接続されたダイアルゲージが設けられている。ハンドルまたは絆によって、この直径ゲージ装置をシリンダライナの内部に降ろすと、支持脚および測定プローブがシリンダライナに当接して測定のための基準点としての役割を果たし、測定値はダイアルゲージ上に示され、直径測定装置を取り扱う作業員が視覚的に読み取る。
【0007】
日本の特許公開第2007−248303号公報に開示されているボア測定装置は、シリンダの排気バルブを解体して取り除いた後にシリンダ内に降ろされる。このボア測定装置は、シリンダの内壁と接触するように構成された少なくとも3つの折り畳み可能な保持アームが2組設けられた細長い基体を備えている。そして測定センサを有した測定アームが、保持アームの間に設けられている。保持アームおよび測定アームは、ボア測定装置を所定の位置に保持してシリンダ内径の測定を実施するべく、ボア測定装置をシリンダ内に降ろした後に作動位置に配置される。
【0008】
シリンダカバーの燃料噴射装置の取付穴を介して測定装置を挿入することにより、小さいエンジンのシリンダ内径を測定することは、日本の特許公開第2003−1945506号公報のような刊行された従来技術から既知である。この測定装置は、携帯型であり、かつ外側に揺動してシリンダの内壁に接触する1本のアームと関節で接続されている。挿入孔がシリンダの中心軸に対して傾斜していることにより、シリンダ上部の限られた領域においてのみシリンダ内径の測定が可能である。
【0009】
本発明の目的は、2ストローク・クロスヘッドエンジンが一時的に非作動状態にある間に、シリンダライナの摩耗の測定を容易に行えるようにすることにある。また本発明の目的は、そのような摩耗測定を迅速に、好ましくはシリンダライナの摩耗測定を実行するために必要な時間を標準的な港湾作業の間にまかなえるように、極めて迅速に実行できるようにすることにある。
【0010】
このため、本発明の方法は、以下を特徴とする。エンジンはストロークとボアの比率が少なくとも2.4であるロングストロークエンジンであり、その掃気ポートはシリンダライナの下部にあり、直径測定装置はシリンダライナの長手方向に沿って少なくとも一つの他の位置に移動し、前記少なくとも一つの他の位置はシリンダライナの上側部分にあり、直径測定装置は前記少なくとも一つの他の位置においてシリンダライナの内径の測定を実行し、直径測定装置は個々の位置において、直径を表す第1の電子パラメータとして直径の測定値を取得し、かつシリンダ内における直径測定装置の対応する高さ位置が決定される。
【0011】
本発明に関連するタイプの2ストローク・クロスヘッドエンジンは、ユニフロー掃気エンジンであり、個々のシリンダライナには掃気ポートの円周方向の列がそのシリンダライナの下部に設けられるとともに、シリンダライナの上端に装着されたシリンダカバーの中央に単一の排気弁が配設されている。燃焼行程の最後において、ピストンが下方に移動して掃気ポートを通過し、かつ排気弁が開くと、掃気および吸込空気がシリンダライナを通って上方に流れ、燃焼ガスを燃焼室から一掃する。この掃気は、掃気プロセスの間にシリンダライナの底部から上方へと一方向に流れる。掃気ポートは、排気弁が開いているときに加圧された空気の充分な流れがシリンダライナに流入するように、かなりの大きさの開口領域を有している。
【0012】
掃気ポートを介した直径測定装置のシリンダライナの内部への挿入は、シリンダカバーあるいは掃気弁ハウジングを解体することなしに、この直径測定装置をシリンダライナの内部に配置できるようにする。これにより、この挿入は、エンジンの作動を止めた直後に実行できるとともに、測定プロセスの全体的な期間を極めて大幅に短縮する。加えて、大きなシリンダ部品の解体を必要とする従来技術の方法の場合とは異なり、エンジンのシリンダは測定の影響をほとんど受けない。
【0013】
この直径測定装置は、直径を表す第1の電子パラメータとして直径の測定値を取得する。これは、この直径測定装置をシリンダライナから取り出した後における読み出しのために、あるいはシリンダライナの外側にある装置のメモリへと測定値を転送する受信機への迅速な移動のために、この直径測定装置が測定値を簡単な方法でメモリに記憶できるようにする。したがって、測定を目視で観察する必要は全くなく、典型的に摩耗が最も大きくなる場所における測定のために直径測定装置をシリンダライナの上部に配置した後での、シリンダライナの内部における多数の測定の実行を可能とする。
【0014】
燃焼行程の最初において、ピストンがシリンダライナの最上部近傍にあるときに燃焼室内の圧力レベルは高く、したがってシリンダライナの内側表面に対するピストンリングの押圧力も高く、同時にピストンリングとシリンダライナとの間の相対運動が比較的小さいことにより、ピストンリングとシリンダライナの表面の間に充分な潤滑を維持することはより困難でなる。また、シリンダライナの上側部分が高温であることと相俟って、上側部分において最も摩耗が生じるようにする。このエンジンはロングストロークエンジンであって、ストロークとボアの比率(S/B)は少なくとも2.4であり、好ましくはS/B=3.0より大きい。シリンダライナの上側部分における測定の間、この直径測定装置は、掃気ポートから遠い位置においてシリンダライナの内側に配置される。
【0015】
好ましくは、シリンダライナの内側における直径測定装置の位置を測定するために、高さ測定装置が用いられる。この高さ測定装置は、距離を表す第2の電子パラメータとしての距離の測定値を取得する。直径測定装置と連携した高さ測定装置の使用は、内燃エンジンの制御装置との如何なるインターフェースもない直径の測定を可能とする。高さ測定装置は、直径測定装置が直径の測定を実行するときに、この直径測定装置のシリンダライナの内部における高さ位置の測定に注意を払う。これにより、直径の測定値は、ライナの摩耗カーブを描画しあるいは計算できるように、シリンダライナの特定の場所に単純な方法で関連付けることができる。
【0016】
本発明による方法をさらに発展させると、第1の電子パラメータおよび第2の電子パラメータの対応する値の複数の組は、好ましくはメモリ内に記憶値として記録される。第1および第2の電子パラメータの対応する値の記録は、データのフェイルセーフな電子的取扱いを可能とする。そして、測定プロセスの間にこの直径計測装置がシリンダライナの内側に配置されているときにこの記録が実行されると、測定プロセスの間にシリンダの外側と連絡する必要がないという意味において、測定プロセスの全体が自己完結型となる。収集されたデータの組は、測定が完了して装置がシリンダライナから取り除かれた後に、例えばメモリから検索することができる。
【0017】
高さの測定は、いくつかの異なる方法で実行できる。1つの可能性は、シリンダライナの内側の直径測定装置の位置から排気弁の下面に至る高さを、高さ測定装置に測定させることである。この場合、高さ測定装置を直径測定装置上に配置しあるいは一体化すると、シリンダライナの下部の掃気ポートにおいて実行する共通の操作が、シリンダライナの内側への挿入だけでよいという組み合わされた装置に帰着する。他の可能性は、シリンダライナの内側における直径測定装置の位置までの高さ(上下方向における長さ)を高さ測定装置に測定させることである。この後者の場合は、高さ測定装置はシリンダの上部に取り付けなければならない。これは、例えばシリンダカバーにおける、このために設計されたアクセス孔に、あるいは燃料噴射装置を取り除いた後に燃料噴射装置のための取付孔に、高さ測定装置を取り付けることによって達成することができる。さらに他の可能性は、エンジンフレームに対して静止している表面上に高さ測定装置を配置すると共に、直径測定装置を支持しているピストンの一部の高さを測定することである。ピストン上の測定部分とピストン上にある直径測定装置の実際の位置との間の高さの違いによって、測定された高さを修正することが可能である。
【0018】
高さ測定装置をシリンダカバーに取り付けたときに、この高さ測定装置はシリンダの外側から燃焼室の内側へと延びるため、シリンダの外側に配設された装置へとシリンダの内側からデータを転送するための手段として測定プロセスの間に利用することができる。このことの1つの利点は、シリンダライナの内側に囲まれているシリンダ容積とピストンおよびシリンダカバーが電子的な通信を不可能とするファラデーの箱として作用するという事実にもかかわらず、データの通信および読み出しを達成できることである。したがって、好ましくは、直径測定装置の送信機から発信された信号を受信する受信機が高さ測定装置に設けられる。
【0019】
シリンダライナの内側表面上を走行してシリンダライナの内側表面に沿って直径測定装置を上方に移動させることができる、例えば電気的に駆動されるホイール(車輪)である昇降装置と共に直径測定装置を実現することは可能である。あるいは、直径測定装置は、シリンダの内部で上方に延びるとともにシリンダカバーの適切な開口を通過する装置に固定された線を備えることができる。この線は、所定の位置にあるときに、シリンダ内の所望の測定位置へと直径測定装置を引き上げるために用いることができる。しかしながら、他の好ましい方法では、直径測定装置はピストン上に配設されるとともに、エンジンのクランクシャフトを回転させることによってシリンダライナの高さ方向に動かされる。この場合、ピストンクラウンは、測定の間に直径測定装置を支持すると共にシリンダライナの内側で直径測定装置を上下に移動させるためのプラットフォームとして用いられる。2ストローク・クロスヘッドエンジンは、ことによると推力軸を介してクランクシャフトに接続された回転輪を典型的に有している。そして、この回転輪は、エンジンが作動中でないときにクランクシャフトを回転させるために起動される電気モータと、回転ギヤを介して係合している。直径測定装置をピストン上に配設する前に、可撓性のリングあるいは円形プレートを掃気ポートに挿入してピストン上に配設することができる。この可撓性のリングあるいは円形プレートは、その上に直径測定装置を支持できる清浄な表面を提供する。ピストンクラウンとの間の支持部材として可撓性リングを用いることは、ピストンクラウン上のコークス付着物によって妨げられない、直径測定装置の小さいな動きの実行を助ける。必要に応じ、ピストンクラウン上の大きいコークス付着物は、直径測定装置を支持する領域において平坦にしあるいは取り除くことができる。
【0020】
上述したように、本発明の方法には、そのために設計された装置の使用による、シリンダライナの内側における高さ位置の検出が含まれる。しかしながら、上死点(TDC)あるいは下死点(BDC)におけるピストンの位置に対応するクランクシャフトの回転角度に関連しているエンジンのクランクシャフトの回転角度に基づいて、シリンダの高さ方向におけるピストンの位置を取得することもまた可能である。特定のシリンダについて、下死点あるいは上死点のピストン位置に対応するクランクシャフトの回転角度が判る場合には、クランクシャフトの任意の回転角度をシリンダライナの内側におけるピストンの対応高さ位置と関連づけることは容易である。基準点として下死点あるいは上死点を用いる代わりに、ピストンの上側表面が掃気ポートの上側の縁部あるいは下側の縁部と水平になる位置を用いることもまた可能である。ピストンのこれらの位置は、直径測定装置を掃気ポートの一つを介してピストンクラウンの上側表面上に挿入するときに、容易に把握することができる。
【0021】
あるいは、直径計測装置から垂下する細い紐を直径計測装置に接続するとともに、測定の間に掃気ポートにおいて手動で検出しあるいは視覚的に読み込むことができるマーキングをこの紐に設ける。マーキング付きの紐は、シリンダの内部を上方に延びて、シリンダカバーの適切な開口から外側に出ることができる。いずれの場合においても、直径計測装置の高さ位置は、測定プロセスの間に手動で注目することができる。
【0022】
本発明は、ツーストローク・クロスヘッドエンジンのシリンダライナの内径を測定できる直径測定装置に関する。この直径測定装置は、その一方に延びる2つの突起を有したフレーム構造と、前記フレーム構造の反対側に延びる細長い測定アームと、を備える。前記測定アームは、前記2つの突起から離間する方向に変位するように付勢されるとともに、シリンダライナの予め定められた内径の設計値に対して測定アームが変位した距離を測定するメータに接続されている。
【0023】
本発明の直径測定装置の一実施形態において、測定アームは、引き込まれた非作動位置に測定アームを後退させることができる駆動装置を伴っている。この駆動装置は、非作動位置に測定アームを変位させ、あるいは2つの突起から離間する方向への付勢が作動している伸長位置に測定アームを配置するために電子制御される。かつ前記メータは、伸長位置にあるときの前記測定アームの位置を、直径を表す第1の電子パラメータに換算する。
【0024】
引き込まれた非作動位置に測定アームを後退させる駆動装置は、この直径測定装置を掃気ポートに通して安全な方法で挿入するとともにピストン上部の所定位置へと正しく配置されるように操作される。装置の配置および掃気ポートの領域を通過する上方への移動の後、この駆動装置は、電子的に起動して伸長した作動位置へと測定アームを変位させる。この位置において、測定アームの付勢によって、2つの突出部がシリンダライナの内側表面に当接するように変位して直径測定装置を正しく配置し、シリンダライナの内径の測定の準備が完了する。メータが直径を第1の電子パラメータに換算することにより、メータを視覚的に読み取る必要はない。このようにして、シリンダライナの直径は自動的に読み込まれ、後の検索のために装置内に記憶されあるいは受信機に送信される。
【0025】
好ましい実施形態において、メータは、シリンダライナの内径が250mm〜1100mmの範囲にあるときに0.1〜0.005mmの範囲の精度で直径を測定するべく較正される。シリンダの摩耗は典型的にエンジンの長い年月の作動の間に非常にゆっくりと進行するため、非常に小さい摩耗の値を測定できることは有利である。例えば60、80あるいは90cmという大きさのシリンダライナ直径にもかかわらず、0.01mmの精度で摩耗を測定するときには、異常な摩耗を早い段階で検出して、例えばシリンダ潤滑油を多量に供給し、ピストンリングを手入れし、あるいはシリンダライナの内側表面を処理するといった、シリンダの作動状態に必要な是正措置を取ることが可能である。
【0026】
本発明の一実施形態においては、直径測定装置の温度を測定する第1の温度センサを直径測定装置に設けることによって、測定される直径の精度を高めることができる。この温度測定は、直径測定装置の測定方向における温度に依存した長さの変化に基づいて、測定値を修正できるようにする。これは、アームの材料が温度の変化によって大きな長さの変化を呈する場合に重要である。
【0027】
他のあるいは更なる実施形態において、直径測定装置は、シリンダライナの内側表面の温度を測定する少なくとも1つの第2の温度センサを備える。この実施形態の利点は、エンジンの作動を停止させた直後に、直径測定装置をシリンダライナの内側に挿入してその直径を測定できることにある。シリンダライナの温度測定は、シリンダライナ材料の温度の変化によって生じる測定値の変化の補償を可能とする。従来技術の測定においては、シリンダカバーを分解しなければならないが、冷却水(約80℃)の温度により、シリンダライナの温度がより均一なものとなるまでにかなりの時間がかかっていた。直径の測定と共にシリンダライナの温度を測定すると、シリンダライナの温度がその高さ方向に沿って変化するかどうかは直径測定値の精度にとってもはや重要ではなく、したがってライナが均一な温度に冷えるまで直径の測定を待つ必要はない。好ましくは、少なくとも1つの第2の温度センサが、2つの突出部の一方または両方に配置される。
【0028】
本発明の他の実施形態においては、シリンダライナの内側における直径測定装置の高さ位置をほぼ連続的に測定できるようにするために、相対的な高さを測定するために高さ測定装置を用いる。この高さ測定装置は、レーザ光源と、シリンダカバーの燃料噴射器用取付開口の取付位置に高さ測定装置を固定する取付部材と、高さ測定装置を取り付けた位置において、前記レーザ光源から発射された光線をシリンダライナの中心軸と実質的に平行に下方へと反射する鏡と、を備える。高さ測定装置は、シリンダライナの内側でピストン上に配置された直径測定装置までの距離を表す第2の電子パラメータとしての距離の測定値を取得する。他の実施形態において、高さ測定装置は、直径測定装置上に配設されるとともに、シリンダライナの中心軸と実質的に平行に上方へとレーザ光線を発射するレーザ光源を有し、高さ測定装置は、排気弁の下側表面までの距離を表す第2の電子パラメータとして距離の測定値を取得する。高さ測定装置は、レーザ光源に代えて、レーダあるいはソナーにおいて用いるような、マイクロ波あるいは他の周波数の波を放射する放射源と、反射波を検出するための受信機と、距離を計算するための処理装置と、を有する。
【0029】
直径測定装置による測定とレーザ光源による測定の組み合わせは、ごく少数の分散した予め定められた箇所での手動による測定を提供する従来の測定装置において可能であったものより、多数の分散した位置におけるシリンダライナ直径のより正確な測定を提供する。実際に、この高さ測定装置は、シリンダライナ上でピストンリングの摺動表面として作用する内側表面に沿った、シリンダライナ直径の連続したあるいはほぼ連続した測定値の取得を可能とする。
【0030】
本発明はまた、本発明の方法において用いる柔軟なリングに関連している。この柔軟なリングは環状であるとともに、折り畳まれてない状態において、シリンダライナの予め定められた内径の設計値より小さな外径と、内径の設計値の30%より大きい、好ましくは少なくとも50%より大きい内径とを有する。
【0031】
リングを環状で柔軟なリングとして製造することにより、このリングを掃気ポートから容易に挿入してピストン上に配置できることが確認された。この柔軟なリングは、その上に直径測定装置を支持できる清浄な表面を提供すると共に、例えばシリコン、PTFE、またはPEHDあるいはPDMのような適切な合成樹脂の1〜2mmの厚さのリングである、典型的に柔軟で強い材料から製造される。レーザ光源からの光線を反射する材料もまた適している。リングのこの効果は、コークスが付着している表面がレーザ光源からの光線を吸収することにより、ピストンクラウンの上側表面にかなりのコークスが付着しているときに起こりうる問題を緩和する。
【0032】
以下、概咯図で示される好ましい実施形態を参照しつつ、本発明の例示的な実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による直径測定装置の平面図。
【図2】本発明による高さ測定装置の側面図。
【図3】2ストローク・クロスヘッド内燃エンジンの断面図。
【図4】シリンダライナの内側に配置された直径測定装置を上方から見た図。
【図5】(a)〜(d)は、シリンダライナの内側に導入された直径測定装置、および本発明の一実施形態において用いる高さ測定装置と共に示すシリンダの要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、2ストローク・クロスヘッド内燃エンジンのシリンダライナの内径を測定できる直径測定装置10の一実施の形態を示している。この直径測定装置10は、2つの突出部12および測定アーム13を有したフレーム構造11を備え、2つの突出部12は、フレーム構造11の一方の側へ延び、測定アーム13は、フレーム構造11の反対の側へ延びばねで付勢されている。2つの突出部12は、実質的に球形であり、ピストンクラウンの表面上においてフレーム構造11のための支持点としての役割を果たすとともに、シリンダライナの内側表面に対する当接点17としての役割を果たす。
【0035】
測定アーム13にも、シリンダライナの内側表面に当接する当接点17としての役割を果たす球形のノブが設けられている。2つの突出部12および測定アーム13の全てに、シリンダライナ壁に当接するための金属球を設けることができる。測定アーム13は、2つの突出部12から離間する方向に変位するように付勢されるとともに、シリンダライナの予め定められている内径の設計値に対する測定アーム13の変位距離を測定する電子メータ14に接続されている。この電子メータ14は、VIGGO A. KJAER型であり、かつ0.1〜0.005mm、典型的に0.01mmの範囲の精度で直径を測定するべく較正されている。
【0036】
測定アーム13は、電子回路モジュール15により制御されるとともに電池16から電力が供給されるアクチュエータ20によって、非作動状態あるいは作動測定状態へと制御される。図示した実施形態においては、アクチュエータ20は、スピンドル21を回転させる電動モータとして設計されている。このスピンドル21の端部領域は、ブラケット40の開口を通過して、ナットに螺合する雄ねじを支持している。このナットは、ブラケット40に回転方向に固定されており、スピンドルが回転するとスピンドル上において内側あるいは外側に螺進する。ブラケット40の脚部は、測定アーム13の端部領域に固定されて横断方向(横方向)に延びるバー42に固定されている。図1に示されているナット、ブラケット40およびバー42の位置は、測定アーム13が完全に伸長した位置に対応している。スピンドルが1つの方向に回転すると、ナットがアクチュエータ20の方向に変位してU字形のブラケット40の底部を押動するので、バー42および測定アーム13はそれと一体となってアクチュエータ20の側に引っ張られる。これにより、測定アームは引き込まれるが、スピンドルが他の方向に回転するときにはその反対となる。ハウジング41は、フレーム構造11に対して静止している。測定アーム13は、ハウジング41内の軸受に取り付けられて、ハウジング41に対しその長手方向にスライドできるようになっている。圧縮ばねは、測定アーム13の周りに取り付けられて、その内側端部がハウジング41の端部壁に当接し、かつその外側端部が測定アーム13に固定されたばねガイドに当接している。したがって、この圧縮ばねは、ハウジング41から出てスピンドル21から離間する方向へと測定アーム13を付勢する。測定アーム13の端部は、ハウジング41の端部壁の開口を通って突出し、測定アーム13の端部領域に固定されて横断方向に延びるバー42を支持している。測定アーム13が作動しない位置では、圧縮ばねは、バー42の外側の対向表面がハウジング41の内側の対向端部表面に当接する終端位置へと測定アームを付勢している。
【0037】
アクチュエータ20が測定アーム13を外側に変位させて当接点17がシリンダライナの内側表面に接触すると、測定アームの変位は停止するが、外側へのさらなる変位の間にナットとU字形ブラケット40の底部との間に隙間が作り出されることにより測定アーム13は解放されて、シリンダライナの直径を正確に測定する状態となる。アクチュエータとスピンドルの機構には、ナットが予め定められた外側の端部位置に達したときにアクチュエータへの電流を止めるストッパ部材(図示せず)が設けられている。
【0038】
電子メータ14は、横断方向に延びるバー42の内側の対向表面に当接するように付勢された測定ピン43を有している。これにより、電子メータ14は、横断方向に延びているバー42の現在の位置を測定することによって測定アーム13の変位を記録する。ブラケット49は、この直径測定装置10の底板に対して電子メータ14のハウジングの位置を固定している。直径の測定が完了して起動信号が電子回路モジュール15に送信されると、アクチュエータ20が作動して内側方向へとハウジング41を変位させて横断方向に延びるバー42と当接させるので、測定アーム13は非作動位置となる。すると、ハウジング41および測定アーム13の両方がシリンダライナの内側表面からある距離を開けて配置されるので、この直径測定装置10を操作してシリンダライナから取り出すこともできるし、あるいはシリンダライナの直径の他の組を測定するためにピストンクラウン上に再配置することもできる。この再配置は、エンジンの横方向およびエンジンの縦方向における直径の測定を可能とする。
【0039】
電子メータ14は、RS232接続を介して電子回路モジュール15に接続されていて、測定された電子パラメータをメモリへ転送し、あるいは、測定された電子パラメータを受信装置50(図2を参照)に通信するようになっている。電子メータ14および電子回路モジュール15には、フレーム構造11に取り付けられた電池16から電力が供給されている。この電池は、例えば1作業日に対応する約8時間の容量を有している。電子回路モジュール15は、受信装置50と通信するために、例えば標準的なブルートゥース2.0モジュールのような全二重送受信機ユニットを有している。
【0040】
さらに、直径測定装置10は、この直径測定装置10の温度を測定するべくフレーム構造11上に配置された第1の温度センサを備えている。フレーム構造11および測定アーム13の両方が金属から製造されているため、最も大きいシリンダ直径を測定するために測定アーム13の長さが80cmであるときに、周囲の温度はそれらの長さに影響を及ぼし得る。
【0041】
また、直径測定装置10は、シリンダライナの内側表面の温度を測定する第2の温度センサを備えることができる。好ましくは、少なくとも1つの第2の温度センサが、2つの突出部12の一方または両方に配置される。しかしながら、他の実施形態においては、第2の温度センサは、2つの突出部12の間でフレーム構造11上に配置され、例えばばねブレード型の温度センサ(spring blade temperature)とすることができる。
【0042】
図2に示されている高さ測定装置50は円柱状の金属製チューブ53を備えているが、その一端には電子回路モジュール52の隣に配置された、例えばボッシュ社から商業的に入手可能なレーザ光源51を有している。このレーザ光源は、レーザ光を反射するための鏡55が設けられている横方向の凹部54を有した反対側の端部に向けて、円柱状の金属製チューブ53に通してレーザ光を照射するのに適した位置にある。円柱状の金属製チューブ53の自由端には、直径測定装置10へあるいは直径測定装置10から信号を送受信するように構成されたアンテナ56が設けられている。ワイヤレス通信は、受信した測定値を収集する電子回路モジュール52により制御される。取付治具58は、円柱状の金属製チューブ53に固定されてそこから延び、使用の間に正しい位置に高さ測定装置50を保持するようになっている。金属製チューブ53には、挿入および取り付けの間におけるこの装置の向きの変更を助けるガイド57も設けられている。高さ測定装置50は、図5(a)から図5(d)にその仕組みが示されているように、シリンダカバーにおける燃料噴射器用取付開口(燃料噴射器用取付孔)に取り付けられるようになっている。金属製チューブの長手方向と鉛直方向との間の実際の角度は、取付開口の方向によって定まるが、その角度範囲は典型的に10〜20度である。
【0043】
高さ測定装置50を取り付けた状態では、鏡55は、レーザ光源51から照射された光を、シリンダライナ106の中心軸と実質的に平行な方向に、シリンダライナに対して半径方向にオフセットさせて下方に反射する。照射された光がピストン102の表面あるいは直径測定装置10の表面で反射するため、高さ測定装置50は、リンダライナ106の内側でピストン102上に配置された直径測定装置10までの下向きの距離の測定値を取得する(図5(a))。
【0044】
実際に測定された距離は、ピストン102の明確な位置、例えば下死点における高さを測定することによって較正される。この較正は、コークスの付着物およびその上に直径測定装置10が配置されている環状リングの厚みを補償するために用いることができる。この較正あるいは補償は、無線またはケーブル接続によって、電子回路モジュール52に接続される外部コンピュータでなすことができるし、あるいは測定プロセスの間に取得されて記憶された値に基づいて手動で計算することもできる。
【0045】
図3は、2ストローク・クロスヘッド内燃エンジン100を示しているが、これは例えばMAN Diesel SE社製のタイプMEまたはタイプMCの2ストロークエンジン、またはWartsila社製のタイプRTAあるいはRT―flexである。このエンジンは複数のシリンダ、例えば4〜14のシリンダを備えているが、個々のシリンダ101の内部において、ピストン102は上死点TDCと下死点BDCとの間で動くことができる。下死点においては、ピストンの上部(上面、上端)は、シリンダ101の内側でシリンダライナ106の下側部分に配置されている掃気ポート103の円周方向の列の直下にある。シリンダの内径は、250〜1100mmの範囲であるが、この直径測定装置は、大きい直径のシリンダを測定するのとは別に、より小さい直径のシリンダ、例えば250mm〜350mm、250mm〜400mm、250mm〜420mm、250mm〜460mm、250mm〜500mmおよび250mm〜600mmといった範囲の1つ若しくは複数の直径のシリンダを測定するためにも有用である。個々の掃気ポートの典型的寸法は、以下の表1に与えられている。
【表1】

直径測定装置は、高さを30mm以下とし、かつ幅を100mm以下とすることにより、様々な寸法の掃気ポートの全てを介して挿入することができる。当然、直径測定装置は他の寸法、および直径測定装置の個々のモデルが実際のエンジンのポート寸法に適合するように様々な寸法に製造できる。
【0046】
図3においては、ピストン102が上死点の近傍にある。シリンダカバー105が、シリンダライナ106の上端部でシリンダを閉鎖している。また排気弁104が、シリンダの中心位置でハウジングに取り付けられている。運転中に排気弁104が開放した位置にあるときに、燃焼室からの排気ガスは排気ガス通路を通って排気ガスレシーバ120に流れる。装填空気レシーバ122は、シリンダ101の掃気ポート103を囲んでいるチャンバ123に圧縮された空気を供給する。排気ガスは、圧縮された吸入空気および掃気を装填空気レシーバ122に供給するターボチャージャ121の圧縮機部分を通って流れる。
【0047】
エンジンが停止して非作動状態となると、このエンジンのクランクシャフトは電動機115によって回転させることができる。この電動機115は、典型的にエンジンの推力軸に取り付けられてクランクシャフトに接続されている回転輪117とターニング装置116とを介して係合している。エンジンのクランクシャフトが電動機115によってゆっくり回転すると、ピストンはシリンダライナの内側で上方あるいは下方に動く。この回転動作は、例えば起動ボタンを押すことによって手動で制御できるし、あるいは本発明に関連する直径測定の実行に適したストアドプロシージャにプログラムすることもできる。この回転動作の間、排気弁は、好ましくは開いた位置に保持される。
【0048】
エンジンが停止して非作動状態となると、測定するシリンダに付随しているシリンダ部分のサイドドアを開き、シリンダライナの下側部分を囲んでいる空間へのアクセスできるようにする。エンジンは、ピストンの上側表面が掃気ポートの列の下方の位置となるまで、すなわち図5(a)に示すようにピストンが下死点の位置となるまで、ターニングギヤによって回転させられる。サイドドアは、掃気ポート103に隣接して配置されている。次いで、直径測定装置10を操作して、その底部表面の向きを鉛直方向に定めつつ掃気ポート103の1つに通して挿入し、シリンダライナ106の内部に入るとこの装置を回転させて、図4および図5(a)に示したようにピストン102の上部(上面、上端)上に配置する。
【0049】
所望により、この直径測定装置10を挿入する前に環状リング130を掃気ポートに通して挿入し、ピストン102の上に配置する。挿入の間に折り畳むことができるように、リングは柔軟なものとなっている。リングを展開すると、このリングはシリンダクラウン上にフィットする。その外径がシリンダライナの内径より小さいからである。リングは、一つの実施形態として、ピストンの全体を覆う材料の円形の薄板とすることができる。しかしながら、このリングは、その導入および配置を容易にするために、前述した内径の設計値の50%より大きい内径を有することが好ましい。リングの材料の量が減少するからである。リングは、適切な柔軟材料、例えばPTFEあるいは合成樹脂製である。必要に応じ、リングあるいは直径測定装置をピストンの上部(上面、上端、トップ)上に配置する前に、ピストン上で直径測定装置10を支持する領域にあるコークス付着物を平らにしあるいは取り除くことができる。
【0050】
図5(a)において、直径測定装置10はピストン102上に配置されている。直径測定装置10は、その2つの突出部12をピストン102の外周縁に接近させてピストン102上に配置されている。リングおよび/または直径測定装置10の挿入が完了すると、エンジンのクランクシャフトを回転させる。すると、図5(b)に示したように、ピストンの上側表面が掃気ポートの上端近傍となる位置へとピストンは上方に移動する。
【0051】
次いで、アクチュエータ20が測定アーム13を作動位置に配置すると、測定アーム上の付勢力は2つの突出部12をシリンダライナの内側表面の一方に当接させる。そして、横断方向に延びているバー42がハウジング41との当接から解放されると、メータ14はシリンダライナの実際の直径を検出して測定するように作動する。アクチュエータ20の起動は、直径測定装置10をピストンの上部の所定位置に配置した後であって予め設定された期間の後、例えば3分後に起動を実行する時間遅れ装置によって遂行することができ、これはクランクシャフトの回転を可能とする。あるいは、アクチュエータの起動は、電子回路モジュール15に発信される制御信号によって生じさせることができる。この制御信号は、高さ測定装置を用いる場合に、その送信機を介して発信できる。
【0052】
起動の後、直径測定装置10は、シリンダライナの内部で内径の測定を実行する。測定の間にエンジンを回転させると、ピストン102は、図5(c)に示したように直径測定装置10と共に上死点に向かって移動する。直径測定装置10は、シリンダライナの直径を表す電子パラメータとしてシリンダライナの直径Dを測定する。ピストンが上死点にあるときに、ピストンより上の燃焼室内の空間が直径測定装置を収容するには不十分である場合は、ピストンがこの位置に達する前に回転を止める。
【0053】
測定が完了した後、ピストンがシリンダ内で下方に移動するようにクランクシャフトの回転を実行する。中間の位置が図5(c)に示されている。直径の測定は、ピストンが下方に移動する間に実行することもでき、二重の測定結果は測定されたデータの点検を可能とする。測定は、例えば毎秒2回といった短い間隔で実行できる。これは、シリンダのほぼ連続した直径の測定を可能とする。ピストンの動きが遅いからである。
【0054】
船舶に関して横方向(横断方向)および縦方向(長手方向)の両方において、シリンダの長さに沿ってシリンダライナの直径を測定することが望ましい。船舶に関して横方向(横断方向)および縦方向(長手方向)の両方において、シリンダライナの長さに沿った測定を実行する1つの方法は、ピストンが図5(a)に示されている位置に再び到達したときに、直径測定装置10を手動で他の位置に移動させることである。手動での移動には、装置シリンダライナの縦軸の回りに約90度回転させることが含まれる。したがって、第1の測定サイクルの間、直径測定装置10は、例えば船舶の縦方向(長手方向)に沿ってピストン102上に配置される。そして、第2の測定サイクルの間、直径測定装置10は船舶の横方向(横断方向)に沿って配置される。あるいは、直径測定装置10は、この直径測定装置10上に取り付けられた車輪およびアクチュエータによって2つの位置の間で移動することができる。例えばピストンが上死点に到達したときに移動させることにより、出発位置から上死点に向かうとともに再び出発位置に戻るピストン102の動きに対応した、エンジンを回転させる1つのサイクルの間に2つの方向におけるシリンダライナ直径の完全な測定を実行できる。
【0055】
高さ測定装置50を用いる場合、この高さ測定装置50は、ピストン102が図5(b)に示された位置にいつ到達したかを自動的に検出することができる。そして、高さ測定装置50は、測定を開始するべく直径測定装置を作動させるための信号を自動的に発信することができる。電子回路モジュール15の受信機が信号を受信すると、測定アーム13は、測定のための作動位置に配置される。エンジンが回転している間に、シリンダライナの内径は直径測定装置により測定され、第1の電子パラメータは装置内のメモリに記憶されあるいは高さ測定装置に送信される。高さ測定装置は、受信した第1の電子パラメータを、対応する第2の電子パラメータと共にコンピュータに転送する。
【0056】
直径を測定している間、高さ測定装置は高さを測定する。すなわちピストンの位置と高さの測定値、および直径測定装置10から受信した測定値は、電子回路モジュール内に記憶され、あるいは上述したように外部コンピュータに送信される。好ましい実施形態においては、直径測定装置10の測定値は高さ測定装置50に転送される。温度の測定値も、同時に記憶しあるいは送信することができる。したがって、シリンダを測定する間、シリンダライナの直径およびそれに対応する高さの測定値は組み合わされて、後の使用のために電子回路モジュール52に記憶され、あるいはシリンダライナ直径および対応する高さの測定パラメータは電子回路モジュール52によって外部コンピュータに直接送信される。
【0057】
1つの可能な実施形態は、内側表面の写真を撮影するために、直径測定装置にカメラまたは写真装置を取り付けることである。この写真は、作動表面、すなわちシリンダライナの内側表面であってピストン上のピストンリングが摺動する表面の状態を評価するために用いることができる。したがって、例えばシリンダライナの内側表面の変色を観察することにより、過剰な摩耗の早期の警告を検出することができる。
【0058】
他の実施形態においては、直径測定装置は、レーザ光線による測定に基づいて距離を測定する装置を備えることができる。距離測定のために、レーザ光を照射する装置を用いることは良く知られている。このレーザ装置は、上述した直径測定装置のように3箇所あるいはそれ以上の箇所で支持されるフレーム上に取り付けることができる。このレーザ距離測定装置は、互いに反対な2つの方向にレーザ光線を照射することができるので、測定を実行するためにはシリンダライナの内側表面からある距離を開けてピストン上に配置するだけでよい。このレーザ装置は、この装置のハウジングの中央位置から延びる垂直シャフト上に取り付けることができるので、ピストンクラウン上に配置されたときに主として水平方向にレーザ光線を発することができる。レーザ装置のピストンクラウン上でのそのような位置決めにより、測定を実行しているときにレーザ装置を回転させるために電気駆動モータを用いることができる。このようにして、シリンダライナの内径をその内側表面のほぼ全体にわたって連続的に検出することができる。ピストンがシリンダライナの内側で上方に移動するときに、レーザ光線が螺旋状の動きでシリンダライナの内側表面を走査するからである。測定された第1の電子パラメータは、メモリに記憶し、あるいは受信機、例えば上述した種類のうちの1つの高さ測定装置上の受信機に送信することができる。
【0059】
レーザ装置を備える直径計測装置10および前述した種類の測定アーム13を備える直径計測装置の両方において、クランクシャフトの回転位置の値に基づいてシリンダライナ106の高さ方向におけるピストンの位置を取得することができる。前述したように、シリンダの内部におけるピストンの位置とクランクシャフトの回転角度との間には明確な相互関係がある。この関係に基づいて、ピストンの下死点位置に対応する回転角度(基準値)と直径測定を実行するときのクランクシャフトの実際の回転角度の情報から、ピストンの高さ位置を計算することができる。
【0060】
高さは、他の方法で測定することができる。直径計測装置10がピストン102上に配置されて、ピストン102の動きによってシリンダライナの内側で上下動するときには、ピストンの高さ位置に基づいて直径計測装置の高さ位置を決定することができる。ピストンの高さ位置は、距離測定装置140の支持面としてのエンジンフレーム内の中間底部141を用いることによって、測定することができる(図3を参照)。この距離測定装置は、例えばピストンスカートの下側部分、あるいはピストン上のピストンリング溝(図示せず)に取り付けられているピストンリングの下面が露出している部分といった、ピストンの一部を視認できるように、ピストン102の下方に配置される。この距離測定装置は、レーザによる距離測定に基づくものとすることができる。この装置で測定した距離は、直径測定装置の実際の位置を取得するために、ピストンの一部と直径測定装置の位置との距離によって修正することができる。
【0061】
上述した様々な実施形態は、他の実施形態と組み合わせることができる。また、特許請求項の範囲内において他の方法で特定の特徴を設計することもできる。一実施形態として、高さ測定装置をエンジン内部のクロスヘッドの下方の領域に配置して、クロスヘッドあるいはクロスヘッドシューの高さ方向の位置を測定し、次いでこの距離測定値を計算によってシリンダライナの内部におけるピストンの高さ位置に変換することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストローク(S)とボア(B)との比(S/B)が少なくとも2.4であるロングストロークエンジンであり掃気ポート(103)はシリンダライナの下部にある2ストローク・クロスヘッド内燃エンジン(100)が非作動状態にあるときに、シリンダライナ(106)の前記掃気ポート(103)を介して前記シリンダライナの内部に直径測定装置(10)を導入し、シリンダライナの内径を測定する測定位置に直径測定装置(10)を配置して、エンジンのシリンダライナの直径を測定する方法であって、
前記直径測定装置(10)をシリンダライナの長手方向に沿って、シリンダライナ(106)の上側部分にある少なくとも一つの他の測定位置に移動させ、
前記直径測定装置(10)は、前記少なくとも一つの他の測定位置においてシリンダライナの内径の測定を実行し、
前記直径測定装置(10)は、個々の測定位置において直径を表す第1の電子パラメータとしての直径の測定値を取得し、且つ
シリンダ内における前記直径測定装置(10)の対応する高さ位置が特定される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
シリンダライナ(106)の内部における前記直径測定装置(10)の位置を測定するために高さ測定装置(50)を用いるとともに、
この高さ測定装置(50)が、距離を表す第2の電子パラメータとして距離の測定値を取得する、
ことを特徴とする請求項1に記載した方法。
【請求項3】
前記第1の電子パラメータおよび前記第2の電子パラメータの複数の組が、好ましくはメモリ内の記憶値として、記録される、
ことを特徴とする請求項2に記載した方法。
【請求項4】
前記高さ測定装置(50)は、シリンダライナの内側の前記直径計測装置(10)の位置から排気弁(104)の下面までの高さを測定する、
ことを特徴とする請求項2または3に記載した方法。
【請求項5】
前記高さ測定装置(50)は、シリンダライナ(106)の内側における前記直径計測装置(10)の位置までの高さを測定する、
ことを特徴とする請求項2または3に記載した方法。
【請求項6】
シリンダのシリンダカバー(105)上にある燃料噴射装置を取り除き、前記燃料噴射装置の取付孔を介して前記高さ測定装置(50)をシリンダの内部に導入し、
好ましくは、前記高さ測定装置(50)は、前記直径測定装置(10)の送信機から発信される信号を受信する受信機を備えている、
ことを特徴とする請求項5に記載した方法。
【請求項7】
前記直径測定装置(10)を、ピストン(102)の上部に配置し、前記エンジンのクランクシャフトを回転させることによってシリンダライナ(106)の高さ方向に移動させ、
好ましくは、前記直径測定装置(10)を配置する前に、可撓性リング(130)をピストン上に配置する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載した方法。
【請求項8】
シリンダの高さ方向におけるピストンの位置を、上死点(TDC)あるいは下死点(BDC)のいずれかにおけるピストンの位置に対応するクランクシャフトの回転角度と関連させて、エンジンのクランクシャフトの回転角度に基づいて取得する、
ことを特徴とする請求項7に記載した方法。
【請求項9】
2ストローク・クロスヘッド内燃エンジン(100)のシリンダライナの内径を測定することができる直径測定装置であって、
2つの突出部(12)と、細長い測定アーム(13)と、を有したフレーム構造(11)を備え、
前記2つの突出部(12)は、前記フレーム構造(11)の一方の側へ延びており、前記細長い測定アーム(13)は、前記フレーム構造(11)の反対の側へ延び、
前記測定アーム(13)は、前記2つの突出部(12)から離間する方向に変位するように付勢されており、且つ、シリンダライナの予め決定されている内径の設計値と関連して前記測定アーム(13)の変位距離を測定するメータ(14)に接続されており、
前記測定アーム(13)は、前記測定アーム(13)を引き下げられた非作動位置に後退させることができる駆動装置(20)と連携しており、
前記駆動装置(20)は、前記測定アーム(13)を非作動位置に変位させる或いは前記2つの突出部(12)から離間する方向の付勢力が作用する伸長位置に前記測定アーム(13)を配置するよう、電気的に制御されており、
前記メータ(14)は、前記測定アーム(13)が伸長位置にある場合における前記測定アーム(13)の位置を、直径を表す第1の電子パラメータに変換する、
ことを特徴とする直径測定装置。
【請求項10】
前記メータ(14)は、シリンダライナ(106)の内径が250mm〜1100mmの範囲にある場合に0.1〜0.005mmの範囲の精度で直径を測定するように較正される、ことを特徴とする請求項9に記載した直径測定装置。
【請求項11】
前記直径計測装置(10)は、前記直径計測装置の温度を測定する第1の温度センサを備える、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の直径測定装置。
【請求項12】
前記直径測定装置(10)は、シリンダライナ(106)の内側表面の温度を測定するための少なくとも1つの第2の温度センサを備え、
好ましくは、前記少なくとも1つの第2の温度センサは、前記2つの突出部(12)の一方または両方に位置している、
ことを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の直径測定装置。
【請求項13】
シリンダライナ(106)内のピストン上に配置されている直径測定装置(10)までの下向きの距離を表す第2の電子パラメータとして距離の測定値が、高さ測定装置(50)によって、取得され、
前記高さ測定装置(50)は、
レーザ光源(51)と、
シリンダカバーの燃料噴射装置用取付孔の取付位置に当該高さ測定装置を取り付けるための取付部材(58)と、
当該高さ測定装置が取付位置にある場合に、前記レーザ光源(51)から下向きに照射された光をシリンダライナ(106)の中心軸と実質的に平行な方向へと反射する鏡(55)と、有する、
ことを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載の直径測定装置。
【請求項14】
シリンダライナ(106)の中心軸と実質的に平行な方向で上向きにレーザ光を照射するレーザ光源(51)を有した高さ測定装置(50)が、前記直径測定装置(10)上に配置され、
前記高さ測定装置(50)によって、排気弁の下面までの上向きの距離を表す第2の電子パラメータとして距離の測定値が取得される、
ことを特徴とする請求項9乃至13のいずれかに記載の直径測定装置。
【請求項15】
請求項9乃至14のいずれかに記載の直径計測装置とともに用いられる可撓性のリングであって、
前記可撓性リング(130)は、環状であり、
展開した状態において、シリンダライナの予め決定されている内径の設計値より小さい外径と、
前記内径の設計値の30%より大きい内径、好ましくは記内径の設計値の少なくとも50%の内径と、を有する、
ことを特徴とする可撓性リング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−160137(P2010−160137A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−271053(P2009−271053)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(509329590)
【氏名又は名称原語表記】JOHN ROSENSKJOLD
【出願人】(509329604)
【氏名又は名称原語表記】GITTE ROSENSKJOLD
【Fターム(参考)】