説明

2電極アーク溶接方法

【課題】2電極アーク溶接において、スパッタによる両溶接ワイヤ1a、1b間の異常短絡を判別して溶接不良を防止する。
【解決手段】ノズル5内を通って互いに絶縁された第1溶接ワイヤ1a及び第2溶接ワイヤ1bを送給し、2つのアークを発生させる2電極アーク溶接方法において、溶接開始前に、第1溶接ワイヤ1aと母材2との間に電極間短絡判別電圧Vnlを印加し、第2溶接ワイヤ1bと母材2との間に電圧Vo2が検出されたときは第1溶接ワイヤ1aと第2溶接ワイヤ1bとが短絡状態にあると判別して溶接開始を禁止し、第2溶接ワイヤ1bと母材2との間に電圧Vo2が検出されないときは第1溶接ワイヤ1aと第2溶接ワイヤ1bとが短絡状態にないと判別して溶接開始を許可する2電極アーク溶接方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ付着による2電極間の短絡異常を判別するための2電極アーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
[従来技術1]
図3は、溶接トーチ先端部のノズル内を通って2つの溶接ワイヤを送給して2つのアークを発生させて溶接する2電極アーク溶接方法のための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して従来技術1(特許文献1参照)について説明する。
【0003】
同図において、第1溶接ワイヤ1aと第2溶接ワイヤ1bとは互いに絶縁されている。溶接トーチ先端部に取り付けられたノズル5は金属製のものが一般的であり、両溶接ワイヤ1a、1b及び母材2とも絶縁されている。
【0004】
第1溶接電源PS1は、第1給電チップ4aを介して第1溶接ワイヤ1aにアーク溶接用の電力を供給すると共に、第1送給モータM1の回転を制御するための第1送給制御信号Fc1を出力する。第1送給モータM1は、送給ロールを回転駆動して第1溶接ワイヤ1aを送給する。第1溶接ワイヤ1aは上述したように第1給電チップ4aから電力を供給されて、母材2との間に第1アーク3aが発生する。
【0005】
第2溶接電源PS2は、第2給電チップ4bを介して第2溶接ワイヤ1bにアーク溶接用の電力を供給すると共に、第2送給モータM2の回転を制御するための第2送給制御信号Fc2を出力する。第2送給モータM2は、送給ロールを回転駆動して第2溶接ワイヤ1bを送給する。第2溶接ワイヤ1bは上述したように第2給電チップ4bから電力を供給されて、母材2との間に第2アーク3bが発生する。
【0006】
ノズル5内側からシールドガスが噴出されると共に、第1溶接ワイヤ1a及び第2溶接ワイヤ1bが内側を通過する。同図においては、溶接方向に対して第1溶接ワイヤ1aが先行し、第2溶接ワイヤ1bが後行するように配置されている。しかし、これ以外にも、第2溶接ワイヤ1bが先行し、第1溶接ワイヤ1aが後行するように配置される場合もある。さらに、両溶接ワイヤ1a、1bが、溶接線に直交する方向に配置される場合もある。この2電極アーク溶接方法では、同時に2つのアーク3a、3bが発生するので、高溶着溶接及び2m/minを超える高速溶接を行うことができる。
【0007】
[従来技術2]
一般的な単電極の消耗電極アーク溶接において、長時間溶接を行うと、ノズル内にスパッタが次第に付着し、シールドガスの噴出が偏りシールド不良が発生して溶接品質が悪くなる。このために、所定間隔ごとにノズル内のスパッタを除去するクリーニング作業を行う必要がある。特許文献2に記載する従来技術2は、ノズル内に許容量以上のスパッタが付着したことを判別する技術である。すなわち、正常状態では溶接ワイヤとノズルとは絶縁状態にあるが、ノズル内のスパッタ(導電性)によって溶接ワイヤとノズルとは短絡状態になる。そこで、溶接開始前に、溶接ワイヤとノズルとの電気的な導通をチェックし、導通状態であればスパッタ付着が許容量以上であると判別する。上記の導通チェックは、ノズルと母材とを一時的に接続し、溶接ワイヤと母材との間に電圧を印加したときに短絡電圧値となるか否かによって判別する。この従来技術2では、ノズルへのスパッタ付着が許容量以上になったときに、ノズルのクリーニング作業を行うことができるので、作業効率が向上する。
【0008】
【特許文献1】特開2001−287031号公報
【特許文献2】特開平5−220570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術1の2電極アーク溶接方法においても、溶接を繰り返すにつれてノズル5先端部に次第にスパッタが付着して溶接品質が悪くなってくる。特に、2電極アーク溶接方法は同時に2つのアーク3a、3bを発生させて溶接するので、通常の単電極消耗電極アーク溶接に比べてスパッタ発生量も多くなる。
【0010】
上述した図3に示すように、2電極アーク溶接方法においては、ノズル5内から2つの溶接ワイヤ1a、1bが送給されるために、両溶接ワイヤ1a、1b(両給電チップ4a、4bも含めて)の間隔が狭い。このために、両溶接ワイヤ1a、1bがスパッタによって短絡状態になるおそれがある。この状態が発生すると、両溶接ワイヤ1a、1bは絶縁状態から導通状態になる。本発明が対象とする2電極アーク溶接方法では、両溶接ワイヤ1a、1bが絶縁されていることが前提となって、両溶接ワイヤ1a、1bそれぞれを独立して電流・電圧波形制御して高性能化を実現している。このために、スパッタ付着によって両溶接ワイヤ1a、1bが短絡すると同電位となるので、独立した制御が不能となり溶接状態が不安定になる。したがって、2電極アーク溶接方法では、両溶接ワイヤ1a、1b間の短絡を自動判別してノズル5等のクリーニングを行う必要がある。しかし、従来技術2のスパッタ付着判別方法では、両溶接ワイヤ1a、1b間の短絡を自動判別することができない。
【0011】
そこで、本発明では、溶接開始前に、スパッタによる両溶接ワイヤ間の短絡状態を自動判別する機能を有する2電極アーク溶接方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、第1の発明は、溶接トーチ先端部のノズル内を通って互いに絶縁された第1溶接ワイヤ及び第2溶接ワイヤを送給し、2つのアークを発生させて溶接する2電極アーク溶接方法において、
溶接開始前に、前記第1溶接ワイヤと母材との間に電極間短絡判別電圧を印加し、
前記第2溶接ワイヤと母材との間に前記電極間短絡判別電圧に基づく電圧が検出されたときは前記第1溶接ワイヤと前記第2溶接ワイヤとが短絡状態にあると判別して溶接開始を禁止し、
前記第2溶接ワイヤと母材との間に前記電極間短絡判別電圧に基づく電圧が検出されないときは前記第1溶接ワイヤと前記第2溶接ワイヤとが短絡状態にないと判別して溶接開始を許可する、ことを特徴とする2電極アーク溶接方法である。
【0013】
第2の発明は、前記電極間短絡判別電圧が、前記第1溶接ワイヤに電力を供給する溶接電源からの無負荷電圧である、第1の発明記載の2電極アーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶接開始前に、スパッタによる両溶接ワイヤ間の短絡状態異常を自動的に判別して溶接開始を禁止することができる。溶接開始が禁止されたときに、ノズル等に付着したスパッタのクリーニングを行うことができる。このために、両溶接ワイヤが短絡状態異常となって溶接状態が不安定になり溶接品質が悪くなることを抑制することができる。さらに、両溶接ワイヤの短絡状態を判別してノズル等のクリーニング作業を行うので、効率よく作業ができ、生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る2電極アーク溶接装置の構成図である。同図において上述した図3と同一の構成物には同一符号を付してそれらの説明は省略する。同図には、電極間短絡判別回路SDが追加されている。この電極間短絡判別回路SDは、第2溶接電源PS2の出力端子電圧Vo2を検出して、その値が所定値未満のときは溶接開始禁止信号となり、その値が所定値以上のときは溶接開始許可信号となる溶接開始禁止/許可信号Sdを両溶接電源PS1、PS2に出力する。出力端子電圧Vo2は、第2溶接ワイヤ1bと母材2との間の電圧と等しい。溶接電源内には出力電圧を検出する回路があることが多いので、上記の電極間短絡判別回路SDを第2溶接電源PS2に内蔵してもよい。
【0017】
図2は、両溶接ワイヤ1a、1bのスパッタによる短絡を自動判別する手順を示すフローチャートである。同図に示す自動判別は溶接開始前に行い、その判別結果が溶接開始禁止のときはノズル等のクリーニングを実施し、その判別結果が溶接開始許可のときは溶接を開始する。同図のフローチャートのように、図1で上述した両溶接電源PS1、PS2はシーケンス制御される。以下、同図を参照して説明する。
【0018】
ステップST1において、両溶接ワイヤ1a、1bの送給を停止したままで、第1溶接電源PS1から無負荷電圧Vnlを出力する。この無負荷電圧Vnlは、50〜100V程度であり、第1溶接ワイヤ1aと母材2との間に印加される。両溶接ワイヤ1a、1bが正常状態で絶縁されていれば、第2溶接ワイヤ1b・母材2間の電圧値Vo2は略0Vとなる。他方、両溶接ワイヤ1a、1bがスパッタによって短絡状態にあるときは、第2溶接ワイヤ1b・母材2間の電圧値Vo2は略無負荷電圧値Vnlとなる。したがって、Vo2が所定値未満かを比較して短絡有無を判別することができる。ここで、所定値は、例えば無負荷電圧値Vnlの1/2に設定する。
【0019】
ステップST2において、第2溶接ワイヤ1b・母材2間の電圧値Vo2を検出して、その値が上記の所定値未満かを判別し、以上(NO=短絡)ならばステップST3に進み、未満(YES=正常)ならばステップST4に進む。
【0020】
ステップST3において、両溶接ワイヤ1a、1b間が短絡状態にあるので、溶接開始禁止信号を両溶接電源PS1、PS2に出力して溶接開始を禁止する。
【0021】
ステップST4において、両溶接ワイヤ1a、1b間が正常状態(絶縁状態)にあるので、溶接開始許可信号を両溶接電源PS1、PS2に出力して溶接開始を許可する。
【0022】
同図では、電極間短絡判別電圧を第1溶接電源PS1の無負荷電圧を利用したが、別電源を追加して印加してもよい。上述した実施の形態によれば、溶接開始前に、スパッタによる両溶接ワイヤ間の短絡状態を自動的に判別して溶接開始を禁止することができる。溶接開始が禁止されたときには、ノズル等に付着したスパッタのクリーニングを行うことができる。このために、両溶接ワイヤが短絡して同電位となり、溶接状態が不安定になって溶接品質が悪くなることを抑制することができる。さらに、両溶接ワイヤの短絡状態を判別してからノズル等のクリーニング作業を行うので、効率よく作業ができ、生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る2電極アーク溶接装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る両溶接ワイヤ間の短絡状態の判別方法を示すフローチャートである。
【図3】従来技術に係る2電極アーク溶接装置の構成図である。
【符号の説明】
【0024】
1a 第1溶接ワイヤ
1b 第2溶接ワイヤ
2 母材
3a 第1アーク
3b 第2アーク
4a 第1給電チップ
4b 第2給電チップ
5 ノズル
Fc1 第1送給制御信号
Fc2 第2送給制御信号
M1 第1送給モータ
M2 第2送給モータ
PS1 第1溶接電源
PS2 第2溶接電源
SD 電極間短絡判別回路
Sd 溶接開始禁止/許可信号
Vnl 無負荷電圧
Vo2 第2溶接電源の出力端子電圧


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチ先端部のノズル内を通って互いに絶縁された第1溶接ワイヤ及び第2溶接ワイヤを送給し、2つのアークを発生させて溶接する2電極アーク溶接方法において、
溶接開始前に、前記第1溶接ワイヤと母材との間に電極間短絡判別電圧を印加し、
前記第2溶接ワイヤと母材との間に前記電極間短絡判別電圧に基づく電圧が検出されたときは前記第1溶接ワイヤと前記第2溶接ワイヤとが短絡状態にあると判別して溶接開始を禁止し、
前記第2溶接ワイヤと母材との間に前記電極間短絡判別電圧に基づく電圧が検出されないときは前記第1溶接ワイヤと前記第2溶接ワイヤとが短絡状態にないと判別して溶接開始を許可する、ことを特徴とする2電極アーク溶接方法。
【請求項2】
前記電極間短絡判別電圧が、前記第1溶接ワイヤに電力を供給する溶接電源からの無負荷電圧である、請求項1記載の2電極アーク溶接方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−55444(P2008−55444A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232959(P2006−232959)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】