説明

3次元形状の織物要素およびその製造方法

【課題】簡単な方法で所望の3次元形状を付与し、それによって形成される織物製品が後加工工程や使用中であっても賦型された形状を確実に保つことができる3次元織物製品を提供する。
【解決手段】少なくとも局所的に異なる潜在収縮性を示す2つ以上の層を有する織物材料層を配置し、これらを機械的に結合し、熱作用、他の物理作用または化学作用によって潜在収縮性が完全にまたは部分的に顕在化されることによって、立体的なアーチ形状の3次元織物製品を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体形状すなわち3次元形状の織物要素の製造方法とその方法によって製造された要素とに関する。
【背景技術】
【0002】
使用前に所望の立体形状を付与する必要のある織物は、服飾産業やその他の技術分野において頻繁に使用されている。たとえば、特許文献1には、帽子を製造する方法が開示されている。この文献には、高分子繊維を含む適切に成形可能なフェルト布地が、プレス機によって所望の立体形状に変形され、熱作用によってこの形状に固定される。ここでは、高分子繊維が加熱された状態で容易に可塑変形できる現象が利用されている。この場合、付与された形状が冷却後も保持される。しかし、合成材料もまた特定の記憶特性を示す。再加熱されると、これらの合成材料は元の形状に戻る傾向が頻繁に見られる。このような方法で製造された織物が加温された状態で洗浄され、その後乾燥機で熱風にさらされると、所望の形状を失うおそれがある。
【0003】
加えて、フェルト内の部分的に溶融した合成繊維には、耐摩耗性を損ない、ひいてはフェルト体の多孔性を低下させる結果をもたらすおそれがある。後者の多孔性の低下は、フェルト体を複合材料の製造のために使用し、液状プラスチック材料または合成樹脂内に浸漬させる場合には問題となる点である。
【0004】
特許文献2は、ブラジャーの製造のために使用される縦編布地を開示している。縦編布地は、ポリエステル糸から成る。これらポリエステル糸は、第1の棒によって加工され、基礎構造を有している。第2の棒を使用することで、縦編布地に可撓性糸が導入され、それによって布地に柔軟性が付与される。後続の加熱処理の間、材料は、型の上に載置され、ポリエステル糸が収縮して型によって画定される形状を材料が帯びるまで加熱される。
【0005】
特許文献3も同様の(発明)概念を使用しているが、当該発明はフリース状の織物構造に基づいている。
【0006】
さらに、立体構造を有する不織布が特許文献4から公知となっている。渦巻状またはジグザク形状のフェルト材料を製造するために、適切な熱可塑性繊維が熱風流を用いて噴霧される。これらの繊維は、ドラム上に付着し、このドラムの表面形状を帯びる。ドラムから引きはがすと、所望のハニカム形状の材料が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3673611号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0887451号明細書
【特許文献3】特開昭第2004―300593号公報
【特許文献4】国際公開第2000/29656号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題の1つは、3次元織物製品に対して簡単な方法で所望の3次元形状を付与し、それによって織物製品が後続のさらなる加工や使用中であっても形状を確実に保つようにするために使用できる発明概念を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる課題は、上記の要求を満たす形状付与された適切な織物要素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、請求項1に記載の方法と、請求項12に記載の形状付与された織物要素とによって解決される。
【0011】
本発明の3次元織物製品の製造方法は、少なくとも局所的に異なる潜在収縮性を有する少なくとも2つの織物層を重ねて配置することに基づく。さらに、本発明の概念には、層が互いに機械的に結合され、その直後に収縮プロセスが開始されることが含まれている。こうすることで、少なくとも2つの層の領域が2次元的に収縮することになる。第1の層、第2の層、そして任意のさらなる層が異なって収縮するので、織物製品は自動的に所望の形状を帯びる。織物製品はこの形状をそのまま保ち続ける。織物製品が後続の加工や使用や処理の間に再びこの形状を失うおそれはない。それどころか、収縮プロセスが熱作用によって開始および実行されると、製品を後から再加熱したとしても、結果として所望の形状が失われるおそれはない。したがって、本発明に係る方法は、帽子、ショルダーパッド、ブラジャー、プロテクター(膝用プロテクター、肘用プロテクター等)、シートクッション等として着用される織物の製造に適している。さらに、本発明に係る方法は、たとえばシートシェル、ヘルメット、シャシー部品、機械部品等のプラスチック複合材料用の強化織物を含む技術製品の製造にも適している。
【0012】
このように、3次元織物製品は、フィラメント糸から成る任意の立体形状を有する製品であって、これらはある程度厚い複数の層内に配置される。このため、織物という用語には、合成繊維も天然繊維も、また短繊維も長繊維も、鉱物繊維も、炭化水素繊維も、セラミック繊維も、前述したタイプの金属含有繊維も、金属繊維も含む。繊維は、平坦な不織構造、たとえばいわゆる長手方向にのみまたは横方向にのみ配向されている粗紡として、またはいわゆる不織布として提供されてもよい。しかしながら、繊維は、ステッチ形状、つまりニット、縦編地、不織布、ループ状の束および/またはカットされた束を有する束状材料として層内に配置することもできるし、その他のやり方で設けることもできる。各織物層は、単一の材料タイプのフィラメント糸または複合糸または異なる糸の混合物から成っていてもよい。
【0013】
互いに機械的に結合された2つ以上の層は、少なくとも局所的に異なる潜在収縮性を示す。このため、潜在収縮性は、収縮誘引要因が発動された際に、影響を受けている層の領域の選択された部分の減少の基準である。こうした要因は、たとえば、熱作用、照射作用(たとえばUV照射、IR照射、マイクロ波照射)、化学作用あるいは経時作用である。たとえば、潜在収縮性を、本来占められる領域に対するある領域の減少として見なす場合、収縮していない織物は、潜在収縮性がゼロになるが、収縮プロセス中に半分の領域まで収縮した織物は、50%の潜在収縮性を示すということになる。これに対して、該当する領域が収縮プロセス中にわずかに増加した場合、潜在収縮性はマイナスとなる(たとえば−10%)。本発明の範疇では、2つ以上の層の間で局所的に異なる、ゼロもしくはゼロ以下の潜在収縮性を含むあらゆる潜在収縮性が考慮される。
【0014】
潜在収縮性が局所的に異なるということが意味するのは、織物要素を観察した場所において、重ねられている層部分が該当する領域の両方向に伸長しており、異なる潜在収縮性を示すということである。また、この場合の伸長は各織物層の厚さよりも大きくなっている。潜在収縮性の違いは、各潜在収縮性の程度および/または潜在収縮性の好適な配向に関係する。
【0015】
2つの層は、互いに対して機械的に結合されている。機械的結合とは、あらゆる結合と、力伝達要素としてのフィラメント糸を用いて達成される結合タイプとを含む。機械的結合は特に、各層から他の層へ部分的に移入されるフィラメント糸によって達成される。たとえば、2つの層は、フェルトの製造において既に知られているボンディング(繊維エンタングリング)プロセスによって互いに結合されていてもよい。ボンディングプロセスは、フェルト針、たとえば水噴射等の流体噴射、またはフェルト製造に適している他の方法を用いて開始または実行されることができる。その後、層は、ボンディングプロセスによって再配置されたフィラメント糸によって互いに結合されるので、その結果、一方の層の一端が他方の層に固定されるとともに他方の層の一端が一方の層に固定される。物理的プロセスおよび化学的プロセスを使用して、結合を強めてもよい。たとえば、合成不織布アルカンターラ(登録商標)を製造する際に既に知られているように、2層織物材料を溶剤で処理すること、蒸気などを用いることで、結果としてフィラメント糸が互いに少なくとも局所的に接着するようにしてもよい。さらに、層は、互いに対して交互にまたは追加で縫い付けてもよい。追加の機械的結合技術、たとえばホチキスなどの機械的結合要素を組み込んでもよい。
【0016】
2つの織物層を異なる率で収縮(または膨張)させることができる任意の物理的作用または化学的作用によって、収縮プロセスを開始または実行してもよい。こうした物理的作用は、熱作用、線照射作用、電波または磁界または波、あるいは別の形態のエネルギーの作用であり得る。化学作用を用いて収縮プロセスを開始することもできる。たとえば、溶解作用または膨張作用を有する液体の作用、たとえば高分子の架橋やもつれ(convolution)等の化学プロセスを誘引する液体の作用である。化学作用もまた、結果として少なくとも1つの層の材料の膨張(マイナス収縮)につながることがある。使用される作用が、結果として、関与している繊維を突出させ得る突然の圧力変化等の、領域または容積の恒常的な変化につながることが好ましい。1つまたは2つの層を構成する織物繊維材料の記憶作用を利用することもできる。たとえば、繊維を伸長させ、それによって繊維の高分子鎖が大まかに言って平行に配置されるようにしてもよい。もし高分子鎖が熱作用によって再びもつれた形状に戻る傾向を示す場合、これは収縮プロセスを伴う。
【0017】
収縮プロセスは、それまでは平坦であった織物を立体状に変形させる。立体形状を付与することは、大きめの織物ウェブに対して行われてもよいし、個々に切断された断片に対して行われてもよい。形状付与プロセスを、追加で形状を固定し得る外部のサポート型によって支援してもよい。ただし、外部のサポート型の型押し圧力は、形状付与要因のみになるわけではない。したがって、形状付与圧力は、通常の形状付与プロセスよりも低く保つことができ、結果として、織物要素内の気孔容積を大きめに保ちつつ、材料の厚さが減少しないかまたはほぼ減少しないようにすることが可能になる。
【0018】
使用目的に応じて、3次元開孔織物製品は、たとえば衣服にしてもよく、あるいは、こうした織物に、合成樹脂や他のプラスチック材料を含浸させて、技術部品、たとえばバックミラーハウジングを製造してもよい。
【0019】
各層の潜在収縮性は、該当領域の両方向において同じ大きさである必要は必ずしもない。つまり、織物層は、必ずしも等方性である必要はない。たとえば、2つの層のうち片方の層または両方の層の繊維が好適な配向を示し、それによって好適な収縮プロセス(異方性)の設定を可能にするようにしてもよい。この効果はまた、収縮プロセスを開始させることにより形状付与要素に目標とする形状を付与するために利用してもよい。このことはとりわけ、たとえばある層の収縮可能繊維が局所的に異なる好適な配向を示す場合に当てはまる。織物ウェブの場合、繊維は、たとえばウェブの長手方向に基本となる配向を有してもよく、それによって選択された点で横方向配向が優位(predominant)になっていてもよい。このようにすることで、ウェブを収縮すると、結果として横方向と長手方向が制御されるので、ひいてはナップパターン等の形成を制御できるようになる。
【0020】
収縮プロセスの開始前後において、アーチ状ゾーンの外部で織物要素の層を特に緊密にボンディングするために、あるいは、局所的にアーチ形状化するのを防ぐために、高い圧力と高温とを局所的に加えること(熱封止プロセス)によって、各ゾーン、たとえば縁領域、折り線等をその他の材料部分よりも強固にボンディングすることもできる。
【0021】
本発明に係る方法は、局所的に異なる潜在収縮性を利用することによって立体形状付与された織物製品を製造するための様々な技術的可能性を開くものである。この場合の潜在収縮性は、それが解放されると平坦な2次元構造が所望の立体形状へと変換されるような配置および大きさになっている。
【0022】
本発明の実施形態の詳細は、請求項、明細書および図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】立体形状を付与されたカップを備える衣服(ブラジャー)の概略斜視図である。
【図2】図1に係る衣服のカップの詳細を示す断面図である。
【図3】図2の拡大概略図である。
【図4】3次元織物製品の製造の複数の基本ステップの1つを示す長手方向概略図である。
【図5】3次元織物製品の製造の複数の基本ステップの1つを示す長手方向概略図である。
【図6】3次元織物製品の製造の複数の基本ステップの1つを示す長手方向概略図である。
【図7】3次元織物製品の製造のための織物層の様々な構造の1つを示す概略図である。
【図8】3次元織物製品の製造のための織物層の様々な構造の1つを示す概略図である。
【図9】3次元織物製品の製造のための織物層の様々な構造の1つを示す概略図である。
【図10】3次元織物製品の製造のための織物層の様々な構造の1つを示す概略図である。
【図11】3次元織物製品の製造のための材料の代替形態を示す図である。
【図12】本発明に係る織物製品の3層から成る実施形態の変形前の長手方向断面図である。
【図13】本発明に係る織物製品の3層から成る実施形態の変形前の長手方向断面図である。
【図14】局所的に異なる潜在収縮性を示す織物製品の平面図である。
【図15】立体形状を有する繊維複合物体の垂直方向斜視断面図である。
【図16】図15に係る繊維複合物体の詳細の拡大図である。
【図17】本発明に係る立体形状付与された要素の製造のための複数の製造ステップの1つの概略図である。
【図18】本発明に係る立体形状付与された要素の製造のための複数の製造ステップの1つの概略図である。
【図19】本発明に係る3次元織物製品の他の実施形態の長手方向断面図である。
【図20】長手方向および横方向において局所的に異なる潜在収縮性を示す3次元織物製品の製造のための織物ウェブの例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
図1は、3次元織物製品の例としてストラップ11とカップ13、14とを備えるブラジャー10を示す。これらのカップは、一体状に、または、たとえば縫製(あるいは合成繊維の場合は溶接)等の適切な結合技術によって結合点15を介して互いに結合されていてもよい。以下、カップ14に関する記載は同様にカップ13にも当てはまる。
【0025】
カップ14は3次元、つまり立体形状を付与されている。このカップはアーチ型の中空型のように見える。つまりカップは、図1に示すようにXおよびY表面方向において湾曲している。
【0026】
図2は、図1の線II―IIに沿った断面図を示す。図から明らかなように、カップ14は、2つの異なる層、つまり第1の層16と第2の層17とから成る織物材料から構成されている。2つの層16、17は、互いに緊密に結合されている。図3では、境界面18として対応の移行ゾーンが破線で示されている。しかしこの場合、この面は、層16、17が互いに対して相対移動するような分割面ではなく、2つの層16,17を平坦状に互いに結合する結合ゾーンである。
【0027】
例示されている実施形態において、2つの層16、17は、ランダム繊維不織構造から成る。2つの層16、17の各繊維19、20は、それぞれ1つの不織布を形成する。それによって、2つの不織布は境界面18において混じり合う。
【0028】
層16がより大きな潜在収縮性P1を有する一方、層17がより小さな潜在収縮性P2を有していることが好ましい。織物製品12では、潜在収縮性は既に使い尽くされており、それによって織物製品12またはカップ14に立体的な中空形状が付与されている。図3において、潜在収縮性P1およびP2は、互いに異なる長さの矢印でそれぞれ示されている。矢印の長さは、潜在収縮性の大きさを示している。
【0029】
層16が有するより大きな潜在収縮性によって、この潜在収縮性が解放されると、層16上でカップ14の中空アーチ形状が生じる。
【0030】
たとえば、繊維19、20は、異なる合成材料で構成し得る。層16および/または17のそれぞれを繊維混合物から製造することもできる。ここで、繊維混合物は、収縮性繊維も非収縮性繊維も含むことができ、たとえば天然繊維と合成繊維の混合物であり得る。繊維19、20が異なる化合物を含むことによって、2つの層16、17の繊維19、20が異なる収縮特性を有するようにすることもできる。たとえば、第1の層16は、部分的にまたは全体にポリアミド繊維を含んでいてもよく、一方、第2の層17の大部分が、収縮しないかほとんど収縮しない綿繊維から成っていてもよい。
【0031】
2つの層16、17の異なる収縮特性を、使用した繊維に対して様々な物理熱的(physico-thermal)前処理を行うことで得ることもできる。このようにして、個々の繊維のいわゆる伸長が収縮特性に影響を与え得る。たとえば、層16は、高伸長性繊維を含んでいてもよく、一方、層17は、同じまたは異なる組成物を有するかまたは同じ組成物および異なる組成物から成る低伸長性繊維を含んでいてもよい。
【0032】
2つの層16、17の潜在収縮特性P1およびP2の解放は、たとえば加熱処理によって行われる。これによって、織物製品12が好ましくは均一に加熱されるので、2つの層の潜在収縮特性P1、P2が使い果たされる。このことによって、たとえば洗浄および乾燥の際に織物製品12が後で加熱されることがあってもさらなる形状変化は起こらず、形状安定性を与えることができるようになる。このことは、織物製品12が服飾に用いられる場合に特に好都合である。しかしながら、収縮プロセスの開始および実行が織物製品の特定のゾーンにのみ限定され、そのゾーンにおいて立体形状への変形が行われる一方、他のゾーンは変形されないかまたはほとんど変形せず、場合によっては任意で潜在変形性を保持したままであるということは技術的な観点からは必須であり得る。このようにすることで、たとえば、滑らかな基礎材料に対して個々の隆起やくぼみを作ることができる。もし材料が、たとえば硬化注型樹脂に浸漬させることによって後で固定された場合、残りの繊維が有する残存する収縮性はもはや有害な影響を及ぼさない。
【0033】
図4は、2つの層16、17を有する織物基礎材料21を示している。これらの層は、緩やかに重ねられている。ここでも、この層は、微細にボンディングされたランダム繊維不織布であってもよく、たとえばゆるんだ不織材料である。後続の処理工程の間、2つの層16、17は、たとえばフェルト針によって穿刺や水噴射等によって互いに機械的に結合される。いまだ平坦な複合材料22が得られる。ここで、2つの層16、17は、結果として得られる織物ウェブに対して長手方向または横方向に移動することができず、互いに緊密にボンディングされている。この複合材料22は、たとえばベール梱包(bale)に巻かれていてもよく、準備状態に置かれるかまたは別のプロセスに直ぐに送られてもよい。
【0034】
図6はさらなる処理を示している。この処理は主に、収縮プロセスの開始および実行を含む。ここで、2つの層16、17は、領域の少なくとも1つの方向において収縮し、好ましくは領域の2つの方向XおよびYにおいて収縮する。これによって、フィラメント糸の配向次第で、X方向とY方向において(つまり織物ウェブに対して長手方向および横方向に)均一な収縮を得ることもできるし、また、所望の場合にはX方向とY方向とで異なる収縮を得ることもできる(等方性または異方性収縮)。このことは、主として繊維の配向と繊維の組成とに依存する。
【0035】
変形されるべき複合材料22の部分は、分離していてもよい。つまり、これらの部分は所望の大きさの断片に切断されていてもよく、それによってこれらの断片が後続の収縮プロセスの間互いに対して収縮を妨げることがないようにすることができる。これに代えて、支持体として機能するワンピース型またはツーピース型を提供することも可能である。ここで、上半分型23と下半分型24が図6において破線で示されている。しかしながら、複合材料22は、収縮誘引要因、たとえば熱、UV放射、圧力変化またはその他の形態のエネルギーの作用下に所望の3次元中空形状に自動的に変形する。しかし、半分型23、24を支持体として使用して、寸法安定性や形状修正を改善することができる。
【0036】
図6に示される中空型は、図1または図2に示されるカップ13、14を製造するために使うことができる。
【0037】
ブラジャー10を例に挙げて説明してきた一般的な織物準備(preliminary)要素12の例示的な実施形態において、両方の層16、17は図7の平面図で概略的に説明されているフェルト状またはフリース状の材料から成るということが前提となっている。さらに、個々のフィラメント糸19および/または20が、好ましい配向を有していない、つまりX配向およびY配向すべてが同じ周期で生じることも前提とされている。その結果、長手方向と横方向において均一な潜在収縮性が存在し、ひいては基本的に半球中空形状が得られることになる。
【0038】
このような中空形状は、第1の層16および/または第2の層17が、図8に示す紡織材料から作られているときにも達成される。層16および/または17が紡織材料から成る場合、様々な種類のものを使用して長手方向と横方向とにおいて異なる潜在収縮性を達成することができる。図示される平坦な織地は、長手方向と横方向において同じ収縮をもたらす。その他の織地、たとえば綾織り、縦糸よりも横糸を多く含む(あるいは横糸よりも縦糸を多く含む)要素は、長手方向と横方向とにおいて異なる潜在収縮性を示し得る。織地が局所的に特定のバリエーションを示す結果、たとえば縦糸と横糸が異なる潜在収縮性を示す、局所的な収縮修正とバリエーションを達成することができる。多軸織地を使用して特に収縮特性および変形特性を制御することも可能である。
【0039】
図9に示されるように、層16および/または17は、ニット材料として構成することもできる。あるいは、図10にように、縦編材料として構成することもできる。使用されるボンディングモード次第で、この場合、長手方向と横方向とにおいて異なる潜在収縮性を達成することが可能である。このことは特に、層16および/または17がニット材料として構成されている時に当てはまる。この場合、適切なパターン編み機を使用して、局所的な潜在収縮性パターンを編むことができる。このパターンは、潜在収縮性が解放されている間に対応する立体形状に変化することができる。
【0040】
図7ないし図10の上記の平坦構造はそれぞれ、フェルトの製造において既に知られている穿刺プロセスによって互いに機械的に結合することができる。粗面(rough flank)を有する多数の針が、層16、17を繰り返し穿孔し、一方の層16の数本のフィラメント糸を他方の層17に移動させ、また他方の層17の数本のフィラメント糸を一方の層16に移動させる。その結果、層結合体が構成される。この層結合体は、耐久性を示し、潜在収縮性の解放による変形プロセスに耐える。
【0041】
層16、17の結合は、図11に示す縫い目によって支持または代替させてもよい。縫い目をつくるために、この図では糸25、26が示されている。2糸縫い目のかわりに、空間的に互いに近接する点で(つまり数ミリまたは数センチの距離で)層16、17をボンディングする1糸縫い目または他の結合方法を使用することも可能である。マリモ(Malimo)という名でも知られるステッチ編みは、この目的のために使われる好適な技術である。2つの層16、17の異なる潜在収縮性を解放することで、たとえ2つの層16、17が境界面17でフェルト化していなくても、図11に示すような材料の立体変形を制御することができる。
【0042】
図12は別の変形例を示す。追加の層28が層16、17の間に設けられている。この層28は、たとえば中立状態にあるか、または専用の収縮材料を含んでいる。ここで例示する実施形態では、この層はゆるめに最小限のボンディングが施された中間層であり、よってこの層は収縮プロセスをほとんど抑制しない。この層は、全体として層16、17に針で縫い止められていてもよい。ここで、層16、17はそれぞれ図7ないし図10で基本的に使用され上記で説明した構成のいずれを有していてもよい。
【0043】
図13は、他の変形例を示す。2つの層16、17は、たとえば図7ないし図10に示されかつ上記で説明した原理に従った非収縮性材料から製造され得る表面層29に結合されている。この変形例は、層16、17の収縮を引き起こす処理の間に伸長または膨張する材料から成っていてもよい。
【0044】
代替的にまたは追加で、より強く収縮する層16を表面層に設けてもよい。この表面層もまた、図7ないし図10に示される原理の1つに沿って構成されるとともに上記で説明した原理に沿って構成されることができ、それによって特定の衣類等の着心地の良さを向上させる。上記の追加の層28、29と、内側層16上の特に示されていない層とは、層16、17の材料とは違う異なる材料から成っていてもよい。
【0045】
図14は、局所的に異なる潜在収縮性によって特徴づけられる改良された複合材料30を示す。層17の平面図は、減少された潜在収縮性を有するゾーン31を図示している。その間には、高い潜在収縮性を示す1つ以上の領域32が存在する。
【0046】
層17の下に隠れている層16は、全く反対の潜在収縮性分布を示す。つまり、ゾーン31の下では高い潜在収縮性を示し、領域32の下では低い潜在収縮性を示す。
【0047】
この複合材料30の製造の後で、潜在収縮性が、たとえば複合材料30を加熱することによって、または、適切な誘引メカニズムと一致させた線照射や化学処理によって解放されると、それまで平坦であった複合材料30の上にアーチ形状の構造が形成される。この構造は耐久性を有する。
【0048】
これまで説明してきた織物製品12は、開孔通気性製品として提供される。しかし、織物製品12の図示および/または記載した実施形態はそれぞれ、一方の側または他方の側においてフィルム、ワニス等を施されてもよい。
【0049】
加えて、織物製品12をたとえば合成材料と組み合わせて加工し、それによってたとえば図15に示すような複合物体33を製造することが可能である。複合物体33は、自動車のミラー筐体として使われるハウジングシェルまたは類似の技術的な用途に使うことのできる立体形状の要素である。図16は、その壁構造の断面を示す。図から分かるように、2つの層16、17から成る織物製品12は、硬化プラスチック材料のマトリックス34内に埋設されている。上記の記述は、織物製品12にも同様に当てはまる。プラスチック材料34に関して、織物製品12に浸透し凝固することができる任意のプラスチック材料を使用することが可能である。プラスチック材料は、熱可塑性またはジュロプラスチック(duroplastic)である。
【0050】
浸漬および凝固は、織物製品12が載置されている型内で行われる。この型は、所望の複合物体33の内側形状または外側形状に適合することが好ましい。織物製品12は、(片面の)収縮によって行われる以前の再整形付与プロセスによって、少なくとも所望の形状に近い形状に変化しているので、この織物製品は折り目やわずかな応力などもなく型内または型上に載置することができる。
【0051】
図17は、フェルト針35を備える針床36を使用して複合材料22または30を製造する様子を示している。この針床は、フェルト針35に長手方向の上下運動を行わせる。ここで、たとえば2つのゆるやかに重ねられたランダム繊維不織布37、38は、針床の下を通過する際に繰り返し穿孔される。材料を穿孔するこのフェルト針35によって、フリース材料のボンディングが行われる。結果として得られる複合材料22または30は、2層フェルト布地である。この布地は、2つの層16、17内に収縮性繊維を含む。ランダム繊維不織布37、38は、これらの繊維を含むかこれらの繊維から構成される。たとえば、非収縮性基礎繊維は、収縮性繊維と混合され、それによってランダム繊維不織布37、38と組み合わされる。ランダム繊維不織布37、38内の収縮性繊維の含量が異なる場合、層16、17は異なる潜在収縮性を示す。潜在収縮性は、ランダム繊維不織布37、38内の収縮性繊維の含量が適切なやり方で局所的に異なる場合、各層16、17の領域内部で均一でもあり得るし局所的に異なり得る。
【0052】
収縮誘引要因の作用、たとえば熱放射によって、それまで平坦であったフェルト布地、つまり複合材料22または30を、図18に概略的に示すような立体形状に変化させることができる。
【0053】
図14に示したように、図18の複合材料の厳密に局所的な変形は、編み込まれた層16、17の収縮性の局所的なバリエーションによって達成され得る。その結果、図19に示すように、複合材料30が異なる配向を有する立体形状を達成することも可能である。ここでは、符合39はそれぞれ層16、17のゾーンを示している。このゾーンでは、潜在収縮性が局所的に他の層の潜在収縮性を上回っている。このようにして、複合材料30の上側と下側とに凹形状が形成される。同様のことが凸形状にも当てはまる。
【0054】
説明してきた実施形態に関して、数多くの変形が可能である。たとえば、複合材料30の収縮性は、方向と相関関係にある、つまり、異方性であり得る。方向に依存する性質は局所的に変化し得る。図20は、例示的に、高い長手方向収縮性と低い横方向収縮性を有する第1のゾーン40を示す。さらにこの図には、低い長手方向収縮性と高い横方向収縮性を有する第2のゾーン41が描かれている。そのすぐ近傍かつ横に、高い長手方向収縮性と小さな横方向収縮性を示す第3のゾーン42が描かれている。適切に構成されたゾーン40、41、42は、対角線上の偏差(offset)をウェブの長手方向において繰り返していてもよい。
【0055】
異方性収縮挙動、つまり方向と相関関係にある潜在収縮性を示すこれらのゾーン40、41、42は、複合材料30の表面上で任意の所望のパターンで配置されていてもよい。これらのゾーンは、予め製造された層部分が一体化されるか、または各層16および/または17の繊維がゾーン40、41、42の関連する点においてウェブ30の長手方向または横方向あるいは対角線方向で好ましい配向を有することによって得られる。もし、繊維混合物から成る層16、17において潜在収縮性が収縮性繊維の量によって決定されるなら、潜在収縮性が局所的に異なり、それによって繊維含量がランダム繊維不織布の製造中等に局所的に異なるようになっている可能性がある。織られるかまたは編まれた(縦編みされた)層については、異なる収縮性を示す2つ以上のフィラメント糸を有する2糸または多糸構造を使用することが可能である。所望の場合には、適切な織布(織物)または適切なパターン(ニット、縦編)を選択することで潜在収縮性を局所的に変化させることが可能である。
【0056】
立体形状の織物製品12を製造するために、2つ以上の層を有する基礎材料が使用される。この基礎材料から成る2つの層16、17は、少なくとも局所的に異なる潜在収縮性を示す。その後、適切なプロセスの間に、潜在収縮性が、熱作用や他の物理的作用または化学作用によって完全にまたは部分的に解放され、結果として開始材料がアーチ形を付与される。その結果所望の織物製品12の製造が行われる。
【符号の説明】
【0057】
10 ブラジャー
11 ストラップ
12 3次元織物製品
13、14 カップ
X、Y エリア方向
15 織物材料
16 結合点
17 第2層
18 境界面
19 第1層16の繊維
20 第2層17の繊維
21 開始織物材料
22 複合材料
23 上半分型
24 下半分型
25 上方糸
26 下方糸
27 平坦構造
28 層
29 表面層
30 複合材料
31 低潜在収縮性を有するゾーン
32 領域
33 複合物体
34 プラスチック材料
35 フェルト針
36 針床
37 ランダム繊維不織布
38 ランダム繊維不織布
39 ゾーン
40 第1ゾーン
41 第2ゾーン
42 第3ゾーン
P1 第1の潜在収縮性
P2 第2の潜在収縮性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の潜在収縮性(P1)を示す第1の織物層(16)を設けるステップと、
前記第1の層の前記潜在収縮性(P2)と少なくとも部分的に異なる第2の潜在収縮性を示す第2の織物層(17)を配置するステップと、
前記2つの層(16、17)を機械的に結合するステップと、
収縮プロセスを開始するステップと、
からなる3次元織物製品(12)を製造するための方法。
【請求項2】
前記潜在収縮性(P1、P2)は、前記第1の層(16)内および/または前記第2の層(17)内においてそれぞれ均一である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の層(16)および/または前記第2の層(17)の前記潜在収縮性(P1、P2)は、前記各層(16、17)内で可変である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および前記第2の層(16、17)の間に追加の織物層(28)が配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の層(16)および/または前記第2の層(17)上に追加の織物層(29)が配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記層(16、17)間の機械的結合は、一方の層(16)の繊維(19)が他方の層(17)内に部分的に移入されるボンディングプロセスによって達成される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記層(16、17)の結合は、針(35)または流体噴射および/または縫製プロセスまたはステッチ編みプロセスによって達成される、ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記収縮プロセスは、物理的および/または機械的作用によって達成される、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記収縮プロセスは、前記層(16、17)の選択されたゾーン(31、32)に限定されるか、または前記ゾーン(31、32)内で可変である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記層(16、17)のうち少なくとも一方が、不織布、編地、縦編地または織布である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記収縮プロセスは、サポート型(23、24)内部で行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
第1の収縮特性を示す第1の織物層(16)と、
前記第1の織物層(16)上に配置されるとともに第2の収縮特性を示す第2の織物層(17)であって、前記第2の収縮特性は前記第1の層(16)の収縮特性とは局所的に異なる、第2の織物層と
を備え、
前記2つの層(16、17)は互いに機械的に結合されており、かつアーチ形状を有する
形状付与された織物要素(12)。
【請求項13】
前記2つの層(16、17)は、少なくとも1つの追加層(28、29)に機械的に結合されている、ことを特徴とする請求項12に記載の形状付与された織物要素。
【請求項14】
互いに結合された前記層(16、17)は、柔軟性を有する開孔構造を形成する、ことを特徴とする請求項12に記載の形状付与された織物要素。
【請求項15】
プラスチック材料のマトリックス(34)内に埋設されている、ことを特徴とする請求項12に記載の形状付与された織物要素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−218437(P2012−218437A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−29154(P2012−29154)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【出願人】(598132646)グロツ・ベッケルト コマンディートゲゼルシャフト (77)
【Fターム(参考)】