説明

4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体またはその塩の製造方法

【課題】4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体の簡便かつ効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】下記工程を含む式(1)で表される化合物[Rは、置換されていてもよいC1−4アルキル基であり、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1−4アルキル基等である。] またはその塩の製造方法:
工程(1):塩素系溶媒の存在下、式(2)で表される化合物[RおよびRは、前記と同じである。] またはその塩を、ニトロ化剤と反応する工程、及び
工程(2):工程(1)の反応後に析出した不溶物を除去した後、得られるろ液に不活性溶媒を添加し、該溶液を静置または撹拌する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素系溶媒中で、4−ヒドロキシ安息香酸誘導体またはその塩に対して、ニトロ化反応を行った後、4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体またはその塩を結晶として単離する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】

[式中、Rは置換されていてもよいC1−4アルキル基であり、Rは水素原子、C1−4アルキル基またはベンジル基である。] で表わされる化合物(以下、4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体と称する。)またはその塩は、医薬品を合成するための中間体として有用な化合物である。簡便な操作で4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体を製造する方法を確立することは、医薬品製造における中間体を供給する面で重要である。4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体を4−ヒドロキシ安息香酸誘導体から製造する方法としては、以下の製造方法が従来知られている。
【0004】
すなわち、式(A)で表される4−ヒドロキシ安息香酸エステル(式中、Xはメチル基またはトリフルオロメチル基である。)を酢酸溶媒中、濃硫酸および濃硝酸で処理しニトロ基を導入した後、目的の式(B)で表される4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸エステルとその位置異性体である式(C)で表される4−ヒドロキシ−3−ニトロ安息香酸エステルを、カラムクロマトグラフィーを用いて分離することにより、式(B)で表される4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸エステル(式中の記号は前記と同じである。)を製造する方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0005】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2009/078481号パンフレット
【特許文献2】特開2010−064982号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
4−ヒドロキシ安息香酸エステルのニトロ化反応では、式(B)、及び式(C)で表される両位置異性体が生成する。両位置異性体は結晶性が高く、式(B)、及び式(C)で表される両位置異性体の混合物から結晶化と濾取操作のような簡便な操作のみで、各位置異性体を単離することは難しく、大量合成には不向きである。そのため、4−ヒドロキシ安息香酸エステルをニトロ化に付し、簡便な操作で不要な位置異性体を取り除き、4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸エステルを単離する製造方法の確立が望まれている。
本発明は、4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体またはその塩の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
項1:下記工程を含む式(1)で表される化合物
【0010】
【化3】

[Rは、置換されていてもよいC1−4アルキル基であり、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1−4アルキル基またはC7−14アラルキル基である。]またはその塩の製造方法:
工程(1):塩素系溶媒の存在下、式(2)
【0011】
【化4】

[式中、RおよびRは、前記と同じである。] で表される化合物またはその塩を、ニトロ化剤と反応する工程、及び
工程(2):工程(1)の反応後に析出した不溶物を除去した後、得られるろ液に不活性溶媒を添加し、該溶液を静置または撹拌する工程。
【0012】
項2:Rがメチル基またはトリフルオロメチル基である、項1に記載の製造方法。
【0013】
項3:Rがメチル基である、項1または2に記載の製造方法。
【0014】
項4:Rが水素原子、メチル基、エチル基、tert−ブチル基またはベンジル基である、項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
項5:Rが水素原子、メチル基またはエチル基である、項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
項6:Rがメチル基である、項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
項7:塩素系溶媒がジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタンおよびクロロベンゼンからなる群より選択される一種以上の溶媒である、項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
項8:塩素系溶媒がクロロホルムである、項6に記載の製造方法。
【0019】
項9:不活性溶媒がテトラヒドロフラン、トルエンまたはN,N−ジメチルホルムアミドである、項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
項10:不活性溶媒がテトラヒドロフランである、項9に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、式(2)で表される4−ヒドロキシ安息香酸誘導体またはその塩から、工業的に適した簡便な操作方法で(例えば、式(C)で表される2−メチル−4,5−ジニトロ安息香酸を中間体として経由することなく、各工程で単離することなく、1工程で目的物を得ることができる。)、式(1)で表される4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体またはその塩を合成し、結晶化により、該化合物の結晶を単離することができる。従って、スケールアップに対応できる工業的に有利な4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。本明細書において「置換基」の定義における炭素の数を、例えば、「C1−4」などと表記する場合もある。具体的には、「C1−4アルキル」なる表記は、炭素数1から4のアルキル基と同義である。また、本明細書において、「置換されていてもよい」なる用語を特に明示していない基については、「非置換」の基を意味する。例えば、「C1−4アルキル」とは、「非置換」であることを意味する。
【0023】
本明細書において「基」なる用語は、特に断らない限り、1価の基を意味する。例えば、「アルキル基」は、1価の飽和炭化水素基を意味する。また、本明細書における各基の説明において、「基」なる用語を省略する場合もある。尚、「置換されていてもよい」で定義される基における置換基の数は、置換可能であれば特に制限はなく、1または複数である。また、特に指示した場合を除き、各々の基の説明はその基が他の基の一部分である場合も包含する。
「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。
【0024】
「C1−4アルキル基」は、炭素数1〜4個を有する直鎖または分枝状の飽和炭化水素基を意味する。「C1−4アルキル基」の具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等が挙げられる。
【0025】
「C3−6シクロアルキル基」は、炭素数3〜6個を有し、環状の飽和炭化水素基を意味する。例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、またはシクロヘキシル等が挙げられる。
【0026】
「C6−10アリール基」は、炭素数6〜10個を有する芳香族炭化水素基を意味する。好ましくは「Cアリール基」(フェニル)等が挙げられる。「C6−10アリール基」の具体例としては、例えば、フェニル、1−ナフチルまたは2−ナフチル等が挙げられる。
【0027】
「C7−14アラルキル基」とは、「C6−10アリールC1−4アルキル基」を意味し、前記「アルキル基」に前記「アリール基」が置換した基を意味する。好ましくは、「C7−10アラルキル基」(CアリールC1−4アルキル基)が挙げられる。「C7−14アラルキル基」の具体例としては、例えば、ベンジル、2−フェニルエチル、1−フェニルプロピルまたは1−ナフチルメチル等が挙げられる。
【0028】
「置換されていてもよい」における置換基としては、例えば、
(a)ハロゲン原子、
(b)シアノ基、
(c)C3−6シクロアルキル基(該基は、ハロゲン原子、水酸基またはC1−4アルコキシ基で置換されてもよい。)、または
(d)C6−10アリール基(該基は、ハロゲン原子、シアノ基およびC1−4アルコキシ基からなる群から選択される同種または異種の基で置換されてもよい。)などが挙げられる。尚、これらの置換基リストに限定されることはない。
【0029】
として好ましくは、メチル基、トリフルオロメチル基が挙げられる。より好ましくはメチル基が挙げられる。
【0030】
としては好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、tert−ブチル基、ベンジル基が挙げられる。より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基が挙げられる。
【0031】
「その塩」としては、例えば塩酸塩、臭化水素塩、硫酸塩、リン酸塩または硝酸塩等の無機酸塩、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の無機塩、または酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩またはアスコルビン酸塩等の有機酸塩、またはエタノ−ルアミン、メグルミン、トリエタノ−ルアミン等の有機塩基塩等が挙げられる。
【0032】
「ニトロ化剤」の具体例としては、例えば硝酸単独もしくは硫酸、リン酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸またはフルオロスルホン酸(五フッ化アンチモン)等からなる群より選択される一種以上の有機酸あるいは無機酸と硝酸を組み合わせた硝酸混合物、硝酸銀、硝酸カリウム、硝酸銅、硝酸アンモニウムまたは硝酸アンモニウムセリウム等からなる硝酸塩化合物単独もしくは三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、無水酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等からなる群より選択される一種以上の活性化剤と硝酸塩を組み合わせた硝酸塩混合物、硝酸メチル、硝酸ブチル、硝酸トリメチルシリル等からから硝酸エステル化合物単独もしくは三フッ化ホウ素等からなる一種以上の活性化剤と組み合わせた硝酸エステル混合物、テトラフルオロほう酸ニトロイル等、ヘキサフルオロリン酸ニトロイルまたは過塩素酸ニトロイル等からなるニトロイル化合物、または二酸化窒素、三酸化窒素、四酸化二窒素、五酸化ニ窒素等からなる窒素酸化物単独もしくは三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム等からなる一種以上の活性化剤と組み合わせた窒素酸化物混合物が挙げられる。
【0033】
使用されるニトロ化剤の量は、式(1)で表される化合物の当量に比して0.1〜5当量であり、好ましくは0.5〜2.5当量である。反応温度は約−78℃から用いた溶媒の沸点までの範囲であり、好ましくは、−10℃〜40℃である。反応時間は10分間〜3日間である。
【0034】
「塩素系溶媒」の具体例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、または四塩化炭素等が挙げられる。用いる塩素系溶媒の量は、式(1)で表される化合物またはその塩の重量の0.1〜100倍であり、好ましくは1〜10倍である。塩素系溶媒は、不活性溶媒と組み合わせて混合溶媒として用いてもよい。
【0035】
「不活性溶媒」の具体例としては、例えばアセトン、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒もしくはこれらの混合溶媒が挙げられる。好ましくは、テトラヒドロフラン、トルエンやN,N−ジメチルホルムアミドが挙げられる。塩素系溶媒に対する不活性溶媒の使用量は0.001〜3倍であり、好ましくは0.01〜2倍である。
【0036】
「粗生成物」とは、式(2)で表される化合物とニトロ化剤を塩素系溶媒存在下で反応させた後反応液中に析出した不要な異性体を除去した、単離されていない式(1)で表される化合物またはその塩を意味する。
【0037】
式(1)で表される化合物は、
(1)4−ヒドロキシ安息香酸誘導体またはその塩を塩素系溶媒、または塩素系溶媒と不活性溶媒との混合溶媒中、ニトロ化剤と反応する、
(2)析出する位置異性体を濾去する、
(3)得られるろ液へ不活性溶媒を加え(ろ液を濃縮後に不活性溶媒を加えてもよい。)、式(1)で表される化合物を晶析する、及び
(4)析出する式(1)で表される化合物を濾取することで、簡便かつ高純度に式(1)で表される4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体またはその塩を製造することができる。
【0038】
晶析は、−20℃から使用する溶媒の沸点までであり、好ましくは0℃〜60℃の条件で行うことができる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を、実施例により、さらに具体的に説明するが、実施例の記載は純粋に発明の理解のためにのみ挙げられるものであり、本発明はもとよりこれらに限定されるものではない。尚、以下の実施例において示された化合物名は、必ずしもIUPAC命名法に従うものではない。
【0040】
なお本明細書において、記載の簡略化のために記載の簡略化のために次の略号を使用することもある。
Me:メチル基
【0041】
実施例1:メチル 4−ヒドロキシ−2−メチル−5−ニトロ安息香酸
【0042】
【化5】

メチル 4−ヒドロキシ−2−メチル安息香酸 (90g, 541 mmol)のクロロホルム (900 mL)溶液に0℃下、発煙硝酸 (102g, 1.63 mol)を滴下した。0℃で3時間攪拌した後、水 (1000 mL)を加え一晩攪拌した。析出した固体をろ過により除去し、クロロホルム (1000 mL)を加え、抽出分離した後、クロロホルム層を減圧濃縮した。得られた残渣を60℃でTHF (140 mL)に溶解し、0℃まで冷却した。析出した結晶を集めて、実施例1の化合物 (39.8g, 35%)を淡黄色結晶として得た。
【0043】
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ. 10.7 (s, 1H), 8.76 (s, 1H), 7.02 (s, 1H), 3.91 (s, 1H).
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、式(2)で表される4−ヒドロキシ安息香酸誘導体を出発原料として、式(1)で表される4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体またはその塩を簡便な操作で製造することができる。従って、スケールアップにも対応できる工業的に有利な4−ヒドロキシ−5−ニトロ安息香酸誘導体の製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む式(1)で表される化合物

[RおよびRは置換されていてもよいC1−4アルキル基であり、Rは、水素原子、置換されていてもよいC1−4アルキル基またはC7−14アラルキル基である。]またはその塩の製造方法:
工程(1):塩素系溶媒の存在下、式(2)

[式中、RおよびRは、前記と同じである。] で表される化合物またはその塩を、ニトロ化剤と反応する工程、及び
工程(2):工程(1)の反応後に析出した不溶物を除去した後、得られるろ液に不活性溶媒を添加し、該溶液を静置または撹拌する工程。
【請求項2】
がメチル基またはトリフルオロメチル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
がメチル基である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
が水素原子、メチル基、エチル基、tert−ブチル基またはベンジル基である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
が水素原子、メチル基またはエチル基である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
がメチル基である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
塩素系溶媒がジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタンおよびクロロベンゼンからなる群より選択される一種以上の溶媒である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
塩素系溶媒がクロロホルムである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
不活性溶媒がテトラヒドロフラン、トルエンまたはN,N−ジメチルホルムアミドである、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
不活性溶媒がテトラヒドロフランである、請求項9に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−18746(P2013−18746A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154157(P2011−154157)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】