説明

C/Cコンポジット材及びその製造方法

【課題】曲げ強度や層間せん断強度の向上を図りつつ、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができるC/Cコンポジット材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素繊維一方向クロス11、12とフェルト10とを有する層状体1が2以上積層された積層体を有し、且つ、当該積層体の内部に気相熱分解炭素から成るマトリックス成分が含まれたC/Cコンポジット材であって、上記炭素繊維一方向クロス11における炭素繊維の延設方向は、炭素繊維一方向クロス12における炭素繊維の延設方向とは直角を成すように配置されており、且つ、ニードルパンチにより、積層体の積層方向にはフェルト10の炭素繊維が配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はC/Cコンポジット材及びその製造方法に関し、特に、曲げ強度や層間せん断強度を低下させることなく、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができるC/Cコンポジット材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
C/Cコンポジット材は炭素の持つ耐食性、耐熱性に加え、炭素繊維との複合化により、高強度、高靱性を持つに至っている。またC/Cコンポジット材は、炭素の比重が小さいことから、金属に比べ軽量であることも特徴である。このような特徴から、航空宇宙用、半導体及び太陽電池パネル製造用、原子力用諸材料、金属熱処理治具用途等に使用することが検討されており、これらの用途に用いる場合には、高強度であることの他に、高い熱伝導性が要求される。特に大面積のものを支持することが必要な場合には、C/Cコンポジット材の積層方向における熱伝導率を向上させることが必要となる場合が多くある。
【0003】
ここで、C/Cコンポジット材の高強度化と高熱伝導性とを図るため、例えば、炭素質フェルト内部に熱分解炭素が含浸させることによって熱伝導率の向上を図り、かさ密度を規制することによって強度の向上を図っている(下記特許文献1参照)。
また、目的は異なるが、C/Cコンポジット材の強度特性と熱伝導率との最適化を図るため、曲げ強度と、積層方向の熱伝導率とを規制するような提案がなされている(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−306168号公報
【特許文献2】特開2002−255664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、積層方向と垂直方向の熱伝導度を向上させることはできるが、積層方向の熱伝導度を向上させることは困難である。また、単に、かさ密度を規制するだけでは、C/Cコンポジット材の強度を十分に高めることはできない。
また、特許文献2に記載の技術では、低温(常温)での熱伝導率を所望の値にまで向上させることはできない。
【0006】
そこで本発明は、曲げ強度や層間せん断強度の向上を図りつつ、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができるC/Cコンポジット材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、連続繊維を用いた層状体、チョップド繊維を用いた層状体、2D織布、及び、フェルトを用いた層状体から成る原料群から選択される炭素繊維を含む少なくとも2以上の原料が積層された積層体を有し、且つ、当該積層体の内部にマトリックス成分を含むC/Cコンポジット材であって、常温において、曲げ強度が100MPa以上で、且つ、積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上であることを特徴とする。
上記構成であれば、曲げ強度の向上を図りつつ、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができる。
ここで、連続繊維を用いた層状体とは、例えば面方向両端に至るまで一方向に配置された一体の長炭素繊維を平行に並べて形成させた層状体をいい、チョップド繊維を用いた層状体とは、例えば短炭素繊維を二次元でランダムに隙間無く薄く面状に敷き詰めて、プレスして層状体としたものをいい、2D織布とは、例えば長炭素繊維を平行に配置して短冊状に形成したトウを縦横に配置し、該トウを互いに交差させて織布状に形成したものをいい、フェルトを用いた層状体とは、例えば短炭素繊維を三次元にランダムに集合させ、ある程度の圧力でプレスして層状体としたものをいう。
【0008】
また、本発明は上記目的を達成するために、連続繊維を用いた層状体、チョップド繊維を用いた層状体、2D織布、及び、フェルトを用いた層状体から成る原料群から選択される炭素繊維を含む少なくとも2以上の原料が積層された積層体を有し、且つ、当該積層体の内部にマトリックス成分を含むC/Cコンポジット材であって、層間せん断強度が10MPa以上で、且つ積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上であることを特徴とする。
上記構成であれば、層間せん断強度の向上を図りつつ、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができる。
【0009】
上記マトリックス成分の一部もしくは全部が、気相熱分解炭素又はピッチ由来の炭素により構成されることが望ましい。
このような構成であればマトリックスを容易に作製でき、曲げ強度や層間せん断強度の更なる向上、及び、常温における積層方向の熱伝導度の更なる向上を図ることができる。
【0010】
上記積層体の積層方向に炭素繊維が配されていることが望ましい。
このような構成であれば、炭素繊維により熱伝導がなされるため、常温における積層方向の熱伝導度を一層向上させることができる。
【0011】
本発明は上記目的を達成するために、連続繊維から成るクロスを2枚以上とフェルトとを有する炭素繊維を含む層状体が2以上積層された構造の積層体を有し、且つ、当該積層体の内部にマトリックス成分を含むC/Cコンポジット材であって、上記クロスの繊維は、積層方向とは垂直の平面内における1方向に延設され、且つ、上記層状体における少なくとも1のクロスは他のクロスと異なる方向に繊維が延設され、しかも、上記フェルトの繊維の一部は、上記クロスを積層方向に貫通していることを特徴とする。
上記構成であれば、曲げ強度と層間せん断強度(以下、両強度と称するときがある)の高い連続繊維から成るクロスが存在しているので、C/Cコンポジット材の両強度を高めることができる。また、熱伝導度の高いフェルトの繊維の一部がクロスを積層方向に貫通していることにより、C/Cコンポジット材において、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができる。更に、フェルトの繊維がクロスを積層方向に貫通することにより、各層が強固に結合されるので、C/Cコンポジット材の両強度を一層高めることができる。また、層状体における少なくとも1のクロスは他のクロスと異なる方向に繊維が延設されているので、一方向ではなく、多方向において、C/Cコンポジット材の両強度を高めることができる。加えて、積層体の内部にマトリックス成分を含んでいるので、C/Cコンポジット材の両強度を更に高めることができる。
【0012】
上記1のクロスにおける繊維の延設方向と上記他のクロスにおける繊維の延設方向とが、直角となるように構成されることが望ましい。
1の繊維の延設方向は他の繊維の延設方向とは直角となるように構成されていれば、何れの方向においても、C/Cコンポジット材の両強度を高めることができる。
【0013】
上記マトリックス成分の一部もしくは全部が、気相熱分解炭素又はピッチ由来の炭素により構成されることが望ましい。
このような構成が望ましいのは、上述した理由と同様の理由である。
【0014】
本発明は上記目的を達成するために、連続繊維を用いた層状体、チョップド繊維を用いた層状体、2D織布、及び、フェルトを用いた層状体から成る原料群から選択される少なくとも2以上の原料が積層された積層体を作製するステップと、ニードルパンチを用いて、積層体の積層方向に炭素繊維を配するステップを有する、上記積層体の内部にマトリックス成分を配置するステップと、を有することを特徴とする。
このような方法であれば、上記C/Cコンポジット材を容易に作製することができる。また、ニードルパンチを用いれば、積層体の積層方向に炭素繊維を容易に配することができるので、常温における積層方向の熱伝導度の向上を低コストで実施することができ、しかも、各層が強固に結合されるので、C/Cコンポジット材の強度が高くなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、曲げ強度や層間せん断強度の向上を図りつつ、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に用いる層状体の分解斜視図である。
【図2】本発明に用いる炭素繊維質プリフォームの分解斜視図である。
【図3】本発明材料A1〜A5及び比較材料Z1〜Z3における熱伝導率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明材料A1〜A5及び比較材料Z1〜Z3における層間せん断強度と熱伝導率との関係を示すグラフである。
【図5】本発明に用いる層状体の変形例を示す分解斜視図である。
【図6】本発明に用いる層状体の他の変形例を示す分解斜視図である。
【図7】本発明に用いる層状体の更に他の変形例を示す分解斜視図である。
【図8】本発明に用いる積層体の変形例を示す分解斜視図である。
【図9】本発明に用いる積層体の他の変形例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を以下に説明する。
先ず、PAN系炭素繊維トウ(単繊維直径約7μm、引っ張り強度約5GPa、フィラメント数約12000本)を作製した後、ナイロン繊維を用いて、複数のPAN系炭素繊維トウを筏状に束ねることにより炭素繊維一方向クロスを作製した。この炭素繊維一方向クロスは曲げ強度は高く、PAN系炭素繊維トウの延設方向における熱伝導率は高いが、これを積層した場合には隣接する炭素繊維一方向クロス同士の積層方向の熱伝導度は低くなる。
これと並行して、上記同じPAN系炭素繊維を約25mmにカットし、炭素繊維がランダムに配向したフェルト(かさ密度:約0.1g/cm)を作製した。このフェルトにマトリックス成分を含浸させたC/Cコンポジットは曲げ強度等には劣っているが、あらゆる方向において熱伝導度は高い。
【0018】
次に、図1に示すように、2枚の上記フェルト10と、2枚の上記炭素繊維一方向クロス11、12とを、上から順に、フェルト10、炭素繊維一方向クロス12、フェルト10、炭素繊維一方向クロス11を積層して層状体1を作製した。この際、一の炭素繊維一方向クロス11における炭素繊維の延設方向は、他の炭素繊維一方向クロス12における炭素繊維の延設方向とは直角を成すように配置されている。このように炭素繊維一方向クロス11、12を配置することにより、C/Cコンポジット材を作製した際に、両方向(図1のA方向とB方向)における曲げ強度の向上を図ることができる。
【0019】
次いで、図2に示すように、上記層状体1を8枚積層した後、逆とげを有する針を全層に貫通させることにより、ニードルパンチを施してフェルトの炭素繊維により絡合することにより各層を結合し、これによって、厚さ約10mm、かさ密度約0.6g/cmの炭素繊維質プリフォーム(積層体であって、以下、2.5Dプリフォームと称するときがある)を作製した。尚、上記ニードルパンチにより、直径0.3〜0.6mmの開口孔が平均約2mm間隔で設けられた。このように、ニードルパンチを施せば、フェルトの炭素繊維が炭素繊維一方向クロスを積層方向に貫通するように配されるので、常温での積層方向の熱伝導度を向上させることができる。加えて、各層が強固に結合されるので、C/Cコンポジット材の曲げ強度と層間せん断強度とを高めることができる。
【0020】
しかる後、上記2.5DプリフォームをCVI処理した。具体的には、温度が約1000℃で、圧力が10Torrの条件下、水素とプロパンとの混合気流中(水素とプロパンとの体積比は、約90:10となっている)に、上記2.5Dプリフォームを約1000時間保持することにより、マトリックス成分である気相熱分解炭素を2.5Dプリフォーム内に沈積させた。これにより、かさ密度が約1.7g/cmまで高められたC/Cコンポジット材が得られた。最後に、C/Cコンポジット材を約2000℃で熱処理した。尚、当該C/Cコンポジット材の厚さは約10mmであった。
【0021】
尚、上記実施形態においては、炭素繊維質プリフォームは約10mmと比較的厚みの小さいものであるため、ニードルパンチにより針を全層に貫通させているが、全層に針を貫通させるのが困難な程に厚みの大きい炭素繊維質プリフォームを形成する際には、ある程度の数の層状体を重ねてニードルパンチを施し、更に層状体を重ねてニードルパンチを施す工程を繰り返すことで、フェルトの繊維を積層方向に貫通させるようにしてもよい。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
実施例1としては、上記形態で示したC/Cコンポジット材を用いた。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、本発明材料A1と称する。
【0023】
(実施例2)
2.5Dプリフォーム中のナイロン繊維を除去するため、2.5Dプリフォーム作製後CVI処理前に、窒素雰囲気下約1000℃で約1時間の熱処理を行なった以外は、上記実施例1と同様にしてC/Cコンポジット材を作製した。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、本発明材料A2と称する。
【0024】
(実施例3)
アチェソン黒鉛化炉を用いて、C/Cコンポジット材に更に熱処理(約3000℃で約24時間)を施した以外は、上記実施例1と同様にしてC/Cコンポジット材を作製した。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、本発明材料A3と称する。
【0025】
(実施例4)
アチェソン黒鉛化炉を用いて、C/Cコンポジット材に更に熱処理(約3000℃で約24時間)を施した以外は、上記実施例2と同様にしてC/Cコンポジット材を作製した。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、本発明材料A4と称する。
【0026】
(実施例5)
2.5Dプリフォームにマトリックスを形成する際、気相熱分解炭素を用いずピッチ由来の炭素を用いた以外は、上記実施例1と同様にしてC/Cコンポジット材を作製した。
具体的には、上記実施例1と同様の2.5Dプリフォームにフェノール樹脂を含浸し、窒素雰囲気中約1000℃で約1時間焼成して低密度のC/Cコンポジット材を得た。次に、この低密度のC/Cコンポジット材に石炭ピッチを含浸して約1000℃で約1時間焼成するという工程を5回繰り返すことにより、かさ密度が約1.6g/cmまで高められたC/Cコンポジット材を得た。最後に、これを約2000℃で約1時間熱処理した。尚、上述の如く、2.5Dプリフォームに石炭ピッチを含浸して焼成するという工程を繰り返しているので、マトリックス成分は主にピッチ由来の炭素により構成されることになる。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、本発明材料A5と称する。
【0027】
(比較例1)
先ず、約12000本の炭素繊維フィラメントからなるトウを用いて平織りクロス作製し、これにフェノール樹脂を含浸し、積層後に熱盤プレスで成形して積層体(低密度のC/Cコンポジット材であって、以下、2Dクロスの積層体と称することがある)を得た。次に、この積層体を窒素雰囲気中約1000℃で約1時間焼成した後、石油ピッチを含浸して約1000℃で約1時間焼成するという工程を5回繰り返すことにより、かさ密度が約1.6g/cmまで高められたC/Cコンポジット材を得た。最後に、これを約2000℃で約1時間熱処理した。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、比較材料Z1と称する。
【0028】
(比較例2)
アチェソン黒鉛化炉を用いて、C/Cコンポジット材に更に熱処理(約3000℃で約1時間)を施した以外は、上記比較例1と同様にしてC/Cコンポジット材を作製した。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、比較材料Z2と称する。
【0029】
(比較例3)
実施例1で用いた層状体を40枚積層した積層体をニードルパンチせずに、間隔を約10mmとした2枚の金属板間に挟んだ後、フェノール樹脂を含浸し、更に硬化させて、厚さ約10mmの積層体を得た。この積層体を、窒素雰囲気中約1000℃で約1時間焼成し、低密度のC/Cコンポジットを作製した。これに、石炭ピッチを含浸して約1000℃で約1時間焼成するという工程を5回繰り返すことにより、かさ密度が約1.6g/cmまで高められたC/Cコンポジット材を得た。最後に、これを約2000℃で約1時間熱処理した。
このようにして作製したC/Cコンポジット材を、以下、比較材料Z3と称する。
【0030】
(実験)
上記本発明材料A1〜A5及び比較材料Z1〜Z3のかさ密度と、曲げ強度と、層間せん断強度(ILSS)と、積層方向の熱伝導率(以下、熱伝導率⊥と表示することがある)と、平面方向の熱伝導率(積層方向と垂直方向の熱伝導率であって、以下、熱伝導率//と表示することがある)とを、以下に示す方法により調べたので、その結果を表1に示す。尚、実験は常温(23℃)で行った。また、これら材料の曲げ強度と熱伝導率⊥との関係、及び、熱伝導率⊥と層間せん断強度との関係について、それぞれ図3及び図4に示す。
【0031】
〔曲げ強度〕
長さ60mm、幅10mm、高さ3mm(積層方向を高さとする)である直方体形状のテストピースを準備し、スパン間距離40mm、クロスヘッドスピードを0.5mm/分として3点曲げ試験を行い、最大荷重より下記(1)式を用いて曲げ強度を算出した。
曲げ強度=3PL/(2wh)・・・(1)
尚、(1)式において、Pは荷重、Lはスパン間距離、wは幅、hは高さである。
【0032】
〔ILSS(層間せん断強度)〕
長さ50mm、幅10mm、高さ6mm(積層方向を高さとする)である直方体形状のテストピースを準備し、スパン間距離30mm、クロスヘッドスピードを0.5mm/分として3点曲げ試験を行い、最大荷重より下記(2)式を用いて層間せん断強度を算出した。
ILSS=3P/(4wh)・・・(2)
尚、(2)式において、Pは荷重、wは幅、hは高さである。
【0033】
〔熱伝導率⊥、熱伝導率//〕
直径約10φ、厚さ3mm(測定方向は厚さ方向)のテストピースを準備し、レーザーフラッシュ法を用いて熱拡散率を測定した。これと、かさ密度、比熱(黒鉛の値を使用した。尚、出典は、JANAF Thermochemical Tables,3rded.等である)を乗ずることにより熱伝導率を算出した。
【0034】
【表1】

【0035】
<表1に示す結果の考察>
2.5DプリフォームにCVI処理を施して緻密化した本発明材料A1、A2は、曲げ強度が100Mpa以上、層間せん断強度が10MPa以上、熱伝導率⊥が30W/(m・K)以上となっていることが認められる。
また、それぞれ約3000℃の熱処理(黒鉛化処理)を加えた点において本発明材料A1、A2と異なる本発明材料A3、A4は、本発明材料A1、A2に比べて、曲げ強度と層間せん断強度とが若干が低下している(但し、曲げ強度が100Mpa以上で、層間せん断強度が10MPa以上である)が、両熱伝導率(熱伝導率⊥と熱伝導率//)については、本発明材料A1、A2に比べて大幅に向上していることが認められる。
【0036】
更に、マトリックス成分をピッチ由来の炭素で構成した点において本発明材料A1とは異なる本発明材料A5は、本発明材料A1に比べて、両熱伝導率が若干低下している(但し、熱伝導率⊥が30W/(m・K)以上ではある)が、曲げ強度と層間せん断強度とについては本発明材料A1と略同等となっていることが認められる。
以上のことから、本発明材料A1〜A5では、全て、曲げ強度が100Mpa以上、層間せん断強度が10MPa以上、熱伝導率⊥が30W/(m・K)以上となっていることがわかる。
【0037】
これに対して、2.5Dプリフォームの代わりに2Dクロスの積層体を用いた点において本発明材料A1と異なる比較材料Z1、Z2では、曲げ強度は100Mpa以上であるが、両者共に熱伝導率⊥が30W/(m・K)未満であり、更に、比較材料Z2では層間せん断強度も10MPa未満となっていることが認められる。
また、プリフォームの形成においてニードルパンチを施していない点において本発明材料A5と異なる比較材料Z3では、曲げ強度は100Mpa以上であるが、熱伝導率⊥が30W/(m・K)未満であり、層間せん断強度も10MPa未満となっていることが認められる。
【0038】
以上のことから、曲げ強度が100MPa以上で、且つ、積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上である、或いは、層間せん断強度が10MPa以上で、且つ積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上であるためには、本発明のような構成とするのが望ましいことがわかる。尚、このことは、図3及び図4から明らかである。
【0039】
(その他の事項)
(1)上記層状体1としては上記の構造に限定するものではなく、例えば図5に示すように、一の炭素繊維一方向クロス11における炭素繊維の延設方向は、他の炭素繊維一方向クロス12における炭素繊維の延設方向とは直角でなくても良い。
また、図6に示すように、炭素繊維一方向クロス11,12,13を3枚配置し、これらの炭素繊維の延設方向をそれぞれ異ならしめても良い(図6では、隣接する炭素繊維一方向クロスにおける炭素繊維の延設方向の成す角度は60°となっている)。
更に、図7に示すように、一の方向(例えば、図7ではA方向)における強度が特に必要とされる場合には、炭素繊維一方向クロス11,12における炭素繊維の延設方向を共にA方向とし、炭素繊維一方向クロス13のみをA方向以外の方向としても良い。
加えて、層状体1におけるフェルト10は、上記の如く1枚に限定するものではなく、2枚以上であっても良く、また図1に示したような炭素繊維一方向クロスとフェルトとを交互に積層する形態としても良い。
【0040】
(2)積層体2としては、上述した構造のものに限定するものではなく、例えば図8に示すように、2.5Dプリフォームから成る積層体21、21間に2D織布22を配置する構造や、図9に示すように、2.5Dプリフォームから成る積層体21の一方の面に2D織布22を配置する構造であっても良い。更には、積層体2としては、連続繊維を用いた層状体、チョップド繊維を用いた層状体、2D織布、及び、フェルトを用いた層状体から成る原料群から選択される少なくとも2以上の原料が積層されたもので、曲げ強度が100MPa以上で且つ積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上、或いは、層間せん断強度が10MPa以上で且つ積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上であれば、如何なる構造であっても良い。
【0041】
(3)炭素繊維トウ及び炭素繊維フェルトを構成する単繊維の直径は、上述のように限定されるものではないが、5〜20μm程度であることが好ましい。単繊維の直径が5μm未満であると、単繊維一本当たりの強度が低くなり過ぎ、強度が低下するという不都合が生じることがある一方、単繊維の直径が20μmを超えると、取り扱い時やニードルパンチ時などで繊維が折損し易くなるという不都合が生じることがある。
また、炭素繊維フェルトの炭素繊維長は、10〜100mm程度であることが好ましい。炭素繊維長が10mm未満であると、繊維同士が絡みにくく繊維集合体としてのフェルトの形状が形成されにくいという不都合が生じることがある一方、炭素繊維長が100mmを超えると、繊維同士が絡まり過ぎて逆にフェルトの製造が困難になるという不都合が生じることがある。
【0042】
(4)ニードルパンチにより形成される孔の大きさは、上述のように限定されるものではないが、直径が0.1〜1.0mm程度であることが好ましい。孔の直径が0.1mm未満であると、フェルトの繊維がクロスを積層方向に貫通する量が少なくなって、常温での積層方向の熱伝導度を十分に向上させることができないおそれがある一方、孔の直径が1.0mmを超えると、孔の面積が大きくなり過ぎて、C/Cコンポジット材の強度低下を招くおそれがある。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のC/Cコンポジット材は、航空宇宙用、半導体及び太陽電池パネル製造用、原子力用諸材料、金属熱処理治具用途等に用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 層状体
10 フェルト
11 炭素繊維一方向クロス
12 炭素繊維一方向クロス


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維を用いた層状体、チョップド繊維を用いた層状体、2D織布、及び、フェルトを用いた炭素繊維を含む層状体から成る原料群から選択される少なくとも2以上の原料が積層された積層体を有し、且つ、当該積層体の内部にマトリックス成分を含むC/Cコンポジット材であって、
常温において、曲げ強度が100MPa以上で、且つ、積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上であることを特徴とするC/Cコンポジット材。
【請求項2】
連続繊維を用いた層状体、チョップド繊維を用いた層状体、2D織布、及び、フェルトを用いた炭素繊維を含む層状体から成る原料群から選択される少なくとも2以上の原料が積層された積層体を有し、且つ、当該積層体の内部にマトリックス成分を含むC/Cコンポジット材であって、
層間せん断強度が10MPa以上で、且つ積層方向の熱伝導度が30W/(m・K)以上であることを特徴とするC/Cコンポジット材。
【請求項3】
上記マトリックス成分の一部もしくは全部が気相熱分解炭素により構成される、請求項1又は2に記載のC/Cコンポジット材。
【請求項4】
上記マトリックス成分の一部もしくは全部がピッチ由来の炭素により構成される、請求項1又は2に記載のC/Cコンポジット材。
【請求項5】
上記積層体の積層方向に炭素繊維が配されている、請求項1〜4の何れか1項に記載のC/Cコンポジット材。
【請求項6】
連続繊維から成るクロスを2枚以上とフェルトとを有する炭素繊維を含む層状体が2以上積層された構造の積層体を有し、且つ、当該積層体の内部にマトリックス成分を含むC/Cコンポジット材であって、
上記クロスの繊維は、積層方向とは垂直の平面内における1方向に延設され、且つ、上記層状体における少なくとも1のクロスは他のクロスと異なる方向に繊維が延設され、しかも、上記フェルトの繊維の一部は、上記クロスを積層方向に貫通していることを特徴とするC/Cコンポジット材。
【請求項7】
上記1のクロスにおける繊維の延設方向と上記他のクロスにおける繊維の延設方向とが、直角となるように構成される、請求項6に記載のC/Cコンポジット材。
【請求項8】
上記マトリックス成分の一部もしくは全部が気相熱分解炭素により構成される、請求項6又は7に記載のC/Cコンポジット材。
【請求項9】
上記マトリックス成分の一部もしくは全部がピッチ由来の炭素により構成される、請求項6又は7に記載のC/Cコンポジット材。
【請求項10】
連続繊維を用いた層状体、チョップド繊維を用いた層状体、2D織布、及び、フェルトを用いた層状体から成る原料群から選択される少なくとも2以上の原料が積層された積層体を作製するステップと、
ニードルパンチを用いて、積層体の積層方向に炭素繊維を配するステップを有する、
上記積層体の内部にマトリックス成分を配置するステップと、
を有することを特徴とするC/Cコンポジット材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−201750(P2011−201750A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72849(P2010−72849)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】