CFRP製矢板
【課題】十分な高強度特性を発揮しつつ軽量性を発揮でき、耐久性や取扱い性、施工性に優れ、岸壁用等に十分に実用的に使用し得るCFRP製矢板を提供する。
【解決手段】炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなり、CFRPにおける炭素繊維の体積含有率が40%以上であることを特徴とするCFRP製矢板。矢板軸方向に配向されている炭素繊維の割合は50%以上である。
【解決手段】炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなり、CFRPにおける炭素繊維の体積含有率が40%以上であることを特徴とするCFRP製矢板。矢板軸方向に配向されている炭素繊維の割合は50%以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製矢板に関し、とくに、岸壁用矢板等に用いて好適な軽量かつ高強度のCFRP製矢板に関する。
【背景技術】
【0002】
CFRPは、鋼材等に比べて軽量で高強度であり、航空機部材等に利用されている。しかし、社会基盤構造物に対しては要求性能やコストの制約から採用された事例は限られている。岸壁などで使用される矢板には、従来、鋼製やコンクリート製のものが用いられていたが、いずれも海水により長期的には劣化することが知られている。また、これら従来の矢板は、とくに重量が大きいので取扱い性や施工性が良いとは言えず、取扱い性や施工性向上の目的で軽量なFRP製矢板の検討も始められつつある(例えば、特許文献1、2、3)。しかし、従来のFRP製矢板は、仮設工事用の比較的長さの短い用途を対象としており、単体では強度が無いため、腹起こし材との併用が前提となっている。
【特許文献1】特開平10−183604号公報
【特許文献2】特開平10−317366号公報
【特許文献3】実用新案登録3013067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、従来の鋼製やコンクリート製矢板の代替品としてCFRP製矢板を提案するものであり、本発明の課題は、十分な高強度特性を発揮しつつ軽量性を発揮でき、耐久性や取扱い性、施工性に優れ、岸壁用等に十分に実用的に使用し得るCFRP製矢板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係るCFRP製矢板は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなり、CFRPにおける炭素繊維の体積含有率が40%以上であることを特徴とするものからなる。
【0005】
すなわち、FRPは、一般に剛性や強度に優れた軽量な材料として知られており、強化繊維としてはアラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、PBO繊維(ポリベンゾビスオキサゾール)などがあるが、本発明に係る矢板では、特に強度や曲げ剛性に優れ、強化繊維の含有率も制御しやすいCFRP製部材とされる。マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましく、中でも、耐候性や接着性に優れるエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が好ましい。ただし、矢板には主に曲げモーメントが作用するので、例えば曲げ応力が多く作用する外内面には炭素繊維を強化繊維として使用し、曲げ応力があまり発生しない中立面にはガラス繊維を強化繊維として使用したハイブリッド構成としてもよい。
【0006】
この本発明に係るCFRP製矢板においては、矢板の曲げ剛性を確保するために炭素繊維を矢板軸方向に配向することが必要であるが、炭素繊維の配向方向としては、矢板軸方向とそれ以外の方向を含む構成とすることができる。この場合、矢板軸方向に配向されている炭素繊維の割合が50%以上であることが好ましい。
【0007】
また、矢板の横断面形状としては、フランジ部と、該フランジ部の端部(とくに、両端部)に接続されたウェブ部とを有する形状を採用できる。この場合、フランジ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に実質的に直交する矢板横方向にも炭素繊維が配向されており、ウェブ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に対して±45度方向にも炭素繊維が配向されている構成とすることが好ましい。
【0008】
そして、フランジ部における矢板横方向に配向されている炭素繊維の割合としては、15〜40%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは20〜30%の範囲(例えば、25%程度)である。ウェブ部における±45度方向に配向されている炭素繊維の割合としては、15〜40%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは20〜30%の範囲(例えば、25%程度)である。
【0009】
また、本発明に係るCFRP製矢板においては、矢板の横断面形状においてフランジ部の中央部に凹みが設けられている構成とすることもできる。
【0010】
さらに、矢板に中空部が設けられている構成、例えば、矢板のフランジ部に中空部が設けられている構成を採用することもできる。
【0011】
このような本発明に係るCFRP製矢板は、岸壁用として使用される場合には、比較的長尺のものが要求されることから、引き抜き成形により成形されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るCFRP製矢板によれば、所定量以上の炭素繊維を含有した高強度のCFRPを用いることにより、矢板に要求される高い曲げ強度等の機械的特性を十分に発現することができ、また、従来の矢板に比べて部材使用量が低減でき、大幅な軽量化が可能となる。その結果、取扱い性、施工性を大幅に向上できる。とくに、軽量であるため工期が短く、従来の施工機械を転用することができる。また、ハンドレイアップなど施工現場で可能な成形方法とすれば、搬送に伴う分割や現場での接合も不要となる。
【0013】
また、錆などの劣化が無いため、優れた耐久性を発現できる。さらに、震災等が発生した場合にあっても、CFRPは塑性変形を伴わないため、震災後の復旧も土を埋め戻すだけで済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、従来および本発明に係る矢板共通に採用可能な、岸壁における矢板を用いた施工の標準的な一例を示している。図1において、1は岸壁部、2は計画水深(計画海底部)、3は設計水深(設計海底部)、4は潮位が高いときの海面、5は潮位が低いときの海面、をそれぞれ示している。このような岸壁部1に対して、矢板6が設けられ、矢板6の下部側は土中に埋設される(根入れ)。矢板6の海とは反対側には、現地盤高7に対して裏込石8が適宜敷設される。また、矢板6の海とは反対側には、矢板6に対して適当な距離を離して、鋼管杭9が地表10下に埋設されている(本実施態様では、逆V字型に埋設されている)。矢板6の上端部または該上端部に連結された腹起こし材11と、鋼管杭9の上端部に連結された上端部材12との間には、高張力鋼からなるタイロッド13が張設されており、タイロッド13を介して矢板6が鋼管杭9に支持されるようになっている。14は、地表10部に敷設された支持部材、15は堤防材を示している。
【0015】
このような岸壁用矢板6として、従来の鋼製やコンクリート製矢板に代えて本発明に係るCFRP製矢板が使用される。したがって、使用するCFRP製矢板は、基本的な全体形状は従来鋼材品と同一とすることができ、曲げ強度は従来鋼材品より高くなるように設計を行い、部材厚は従来鋼材品以下とすることが好ましい。
【0016】
CFRP製矢板の上下端には保護材を取り付けてもよい。上端に取り付ける保護材は、打設の外力から矢板を保護する役目を果たし、下端に取り付ける保護材は、土中に石などに当たった場合を想定して矢板を保護する役目を果たすことができる。
【0017】
CFRP製矢板の長さは30m程度まで対応可能であるが、一般的には従来のU型鋼矢板で想定の15m前後を対象とすればよい。CFRP製矢板は軽量材料のため、成形方法を適宜選択することにより長尺の矢板が製作可能である。とくに、引き抜き成形により、長尺のCFRP製矢板が製作可能である。また、施工現場でのハンドレイアップ成形も可能である。
【0018】
CFRP製矢板における炭素繊維の強度(ハイブリッド構成の場合は内外面に用いる)は、引張強度で3GPa以上のものが好ましい。これにより従来品よりも大幅な薄肉化が可能となる。そして、従来品と基本的に同一断面形状にすることにより、施工機械を転用することが可能となる。
【0019】
CFRP製矢板のCFRPの炭素繊維の体積含有率VFは、ハンドレイアップを想定すると40%以上、引き抜き成形を想定すると50%以上であることが好ましい。
【0020】
そして、矢板には主に曲げモーメントが作用するため、CFRPを構成する炭素繊維は、0°方向(矢板軸方向)が中心となり、0°方向の炭素繊維の割合が50%以上であることが好ましい(後述の試設計では75%)。
【0021】
CFRP製矢板の形状、とくにその横断面形状は、例えば図2の(A)、(B)、(C)に示すように形成できる。これらの例では、CFRP製矢板21a、21b、21cは、フランジ部22a、22b、22cとその両端部に接続され両端部から斜めに延びるウェブ部23a、23b、23cで構成されている(いわゆる、U字型矢板)。
【0022】
フランジ部22a、22b、22cでは座屈耐力を向上させるために90°方向(矢板横方向:矢板軸方向と直交する方向)の炭素繊維が15〜40%含まれている(後述の試設計では25%)。また、ウェブ部23a、23b、23cではせん断耐力を向上させるために±45°方向の炭素繊維が15〜40%含まれている(後述の試設計では25%)。つまり、図2(A)、(B)、(C)のいずれに示したCFRP製矢板においても、0°方向の炭素繊維に加えて、前記割合にて、フランジ部には90°方向の炭素繊維が含まれ、ウェブ部には±45°方向の炭素繊維が含まれていることが好ましい。
【0023】
図2(B)に示すCFRP製矢板21bでは、さらに、フランジ部22bの中央部に凹み24が設けられており、これによって座屈耐力がより向上されている。
【0024】
図2(C)に示すCFRP製矢板21cでは、さらに、フランジ部22cに中空部25が設けられており、中空部25を通して水を流すことにより、矢板先端より水を噴出させながら施工するウォータージェット工法による施工が可能となっている。ウェブ部23cに、あるいはフランジ部22cとウェブ部23cの両方に中空部を形成してもよい。
【0025】
なお、図示は省略するが、上記のようなU字型CFRP製矢板の他に。管状のCFRP製矢板の形成も可能である。
【0026】
次に、上記のようなCFRP製矢板を用いた矢板式岸壁の試設計を行った結果について説明する。
【0027】
(CFRP物性の検討)
従来の矢板代替製品のCFRPはPAN系の炭素繊維をエポキシ樹脂で固めたもので、ハンドレイアップなどにより成形される。主に軸方向の曲げモーメントが作用するため、繊維方向は矢板軸方向が主となるが、座屈や土圧による外力に対し、横方向にも繊維を配向する。炭素繊維の物性は東レ(株)製”トレカ”(登録商標)T700Sを適用し、複合則により算定した。その結果設定されたCFRPの軸方向物性を表1に示す。ここで、繊維配向は軸方向:横方向=3:1、体積繊維含有率は40%、繊維の剛性利用率95%、繊維の強度利用率80%として与えている。
【0028】
【表1】
【0029】
(検討対象構造)
検討の対象とした岸壁の基本諸元は、港湾構造物設計事例集(沿岸開発技術研究センター、1999年4月発行)を参考に設定した。図1に示した標準断面(従来の鋼管矢板SKY490使用)に対して、CFRP材のU字型矢板および管状矢板に置き換えた断面を検討した。その際、CFRPのU字型矢板は鋼材の矢板FSP−IV(幅400 mm、高さ170 mm、板厚15.5 mm)と同一断面に、また、管状矢板は鋼管矢板に対して直径を1,100 mmと変更せず、肉厚を6mmに半減している。このようにして設定された矢板の諸元を表2にまとめた。
【0030】
【表2】
【0031】
(試設計の結果)
設計に用いる外力条件は、前述の港湾構造設計事例集のとおりである。また、設計震度は0.19としている。設計の対象は前面矢板のみとし、タイ材、控え工および矢板継ぎ手は検討していない。
【0032】
仮想ばり法により算定した前面矢板の断面力をロウの方法による簡便法で補正した結果、常時および地震時の最大曲げモーメントは、それぞれM1=1060.7 kN・m/m およびM2=2155.2 kN・m/m となった。採用する矢板断面は、この最大曲げモーメントによる応力度が許容値を超えないように決定した。なお、矢板の材料が鋼材(鋼矢板、鋼管矢板)の場合には、矢板の腐食を考慮し、腐食後の断面性能により照査を行うこととした。検討結果を表3に示す。ここで、常時の許容応力度はCFRP引張強度の1/3として与えている。
【0033】
【表3】
【0034】
矢板の根入れ長は、鋼材がDL-27.0 mに対してCFRPでは断面剛性が小さいことから、DL-25.5 mで満足することになった。したがって、矢板長は1.5 m程度低減することができる結果となった。また、いずれの矢板を用いても応力度は許容値以下となり、所要の根入れ長を満足すれば断面は成立する結果となった。その結果、表2に示したように、矢板壁1m当たりの矢板質量はU字型矢板については18%に、管状矢板では9%となっており、大幅な軽量化が実現された。
【0035】
このように、矢板式岸壁を対象として本発明に係るCFRP材の適用性を検討した結果、鋼矢板および鋼管矢板をCFRPで代替した部材は強度上の要求性能を満足し、軽量化や高強度化などの効果が十分期待できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るCFRP製矢板は、従来鋼製やコンクリート製矢板が用いられていたあらゆる対象に適用でき、とくに岸壁用矢板として好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】岸壁における矢板を用いた施工の標準的な一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係るCFRP製矢板の形状例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 岸壁部
2 計画水深(計画海底部)
3 設計水深(設計海底部)
4 潮位が高いときの海面
5 潮位が低いときの海面
6 矢板
7 現地盤高
8 裏込石
9 鋼管杭
10 地表
11 腹起こし材
12 上端部材
13 タイロッド
14 支持部材
15 堤防材
21a、21b、21c CFRP製矢板
22a、22b、22c フランジ部
23a、23b、23c ウェブ部
24 凹み
25 中空部
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製矢板に関し、とくに、岸壁用矢板等に用いて好適な軽量かつ高強度のCFRP製矢板に関する。
【背景技術】
【0002】
CFRPは、鋼材等に比べて軽量で高強度であり、航空機部材等に利用されている。しかし、社会基盤構造物に対しては要求性能やコストの制約から採用された事例は限られている。岸壁などで使用される矢板には、従来、鋼製やコンクリート製のものが用いられていたが、いずれも海水により長期的には劣化することが知られている。また、これら従来の矢板は、とくに重量が大きいので取扱い性や施工性が良いとは言えず、取扱い性や施工性向上の目的で軽量なFRP製矢板の検討も始められつつある(例えば、特許文献1、2、3)。しかし、従来のFRP製矢板は、仮設工事用の比較的長さの短い用途を対象としており、単体では強度が無いため、腹起こし材との併用が前提となっている。
【特許文献1】特開平10−183604号公報
【特許文献2】特開平10−317366号公報
【特許文献3】実用新案登録3013067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、従来の鋼製やコンクリート製矢板の代替品としてCFRP製矢板を提案するものであり、本発明の課題は、十分な高強度特性を発揮しつつ軽量性を発揮でき、耐久性や取扱い性、施工性に優れ、岸壁用等に十分に実用的に使用し得るCFRP製矢板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係るCFRP製矢板は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなり、CFRPにおける炭素繊維の体積含有率が40%以上であることを特徴とするものからなる。
【0005】
すなわち、FRPは、一般に剛性や強度に優れた軽量な材料として知られており、強化繊維としてはアラミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、PBO繊維(ポリベンゾビスオキサゾール)などがあるが、本発明に係る矢板では、特に強度や曲げ剛性に優れ、強化繊維の含有率も制御しやすいCFRP製部材とされる。マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましく、中でも、耐候性や接着性に優れるエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が好ましい。ただし、矢板には主に曲げモーメントが作用するので、例えば曲げ応力が多く作用する外内面には炭素繊維を強化繊維として使用し、曲げ応力があまり発生しない中立面にはガラス繊維を強化繊維として使用したハイブリッド構成としてもよい。
【0006】
この本発明に係るCFRP製矢板においては、矢板の曲げ剛性を確保するために炭素繊維を矢板軸方向に配向することが必要であるが、炭素繊維の配向方向としては、矢板軸方向とそれ以外の方向を含む構成とすることができる。この場合、矢板軸方向に配向されている炭素繊維の割合が50%以上であることが好ましい。
【0007】
また、矢板の横断面形状としては、フランジ部と、該フランジ部の端部(とくに、両端部)に接続されたウェブ部とを有する形状を採用できる。この場合、フランジ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に実質的に直交する矢板横方向にも炭素繊維が配向されており、ウェブ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に対して±45度方向にも炭素繊維が配向されている構成とすることが好ましい。
【0008】
そして、フランジ部における矢板横方向に配向されている炭素繊維の割合としては、15〜40%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは20〜30%の範囲(例えば、25%程度)である。ウェブ部における±45度方向に配向されている炭素繊維の割合としては、15〜40%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは20〜30%の範囲(例えば、25%程度)である。
【0009】
また、本発明に係るCFRP製矢板においては、矢板の横断面形状においてフランジ部の中央部に凹みが設けられている構成とすることもできる。
【0010】
さらに、矢板に中空部が設けられている構成、例えば、矢板のフランジ部に中空部が設けられている構成を採用することもできる。
【0011】
このような本発明に係るCFRP製矢板は、岸壁用として使用される場合には、比較的長尺のものが要求されることから、引き抜き成形により成形されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るCFRP製矢板によれば、所定量以上の炭素繊維を含有した高強度のCFRPを用いることにより、矢板に要求される高い曲げ強度等の機械的特性を十分に発現することができ、また、従来の矢板に比べて部材使用量が低減でき、大幅な軽量化が可能となる。その結果、取扱い性、施工性を大幅に向上できる。とくに、軽量であるため工期が短く、従来の施工機械を転用することができる。また、ハンドレイアップなど施工現場で可能な成形方法とすれば、搬送に伴う分割や現場での接合も不要となる。
【0013】
また、錆などの劣化が無いため、優れた耐久性を発現できる。さらに、震災等が発生した場合にあっても、CFRPは塑性変形を伴わないため、震災後の復旧も土を埋め戻すだけで済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、従来および本発明に係る矢板共通に採用可能な、岸壁における矢板を用いた施工の標準的な一例を示している。図1において、1は岸壁部、2は計画水深(計画海底部)、3は設計水深(設計海底部)、4は潮位が高いときの海面、5は潮位が低いときの海面、をそれぞれ示している。このような岸壁部1に対して、矢板6が設けられ、矢板6の下部側は土中に埋設される(根入れ)。矢板6の海とは反対側には、現地盤高7に対して裏込石8が適宜敷設される。また、矢板6の海とは反対側には、矢板6に対して適当な距離を離して、鋼管杭9が地表10下に埋設されている(本実施態様では、逆V字型に埋設されている)。矢板6の上端部または該上端部に連結された腹起こし材11と、鋼管杭9の上端部に連結された上端部材12との間には、高張力鋼からなるタイロッド13が張設されており、タイロッド13を介して矢板6が鋼管杭9に支持されるようになっている。14は、地表10部に敷設された支持部材、15は堤防材を示している。
【0015】
このような岸壁用矢板6として、従来の鋼製やコンクリート製矢板に代えて本発明に係るCFRP製矢板が使用される。したがって、使用するCFRP製矢板は、基本的な全体形状は従来鋼材品と同一とすることができ、曲げ強度は従来鋼材品より高くなるように設計を行い、部材厚は従来鋼材品以下とすることが好ましい。
【0016】
CFRP製矢板の上下端には保護材を取り付けてもよい。上端に取り付ける保護材は、打設の外力から矢板を保護する役目を果たし、下端に取り付ける保護材は、土中に石などに当たった場合を想定して矢板を保護する役目を果たすことができる。
【0017】
CFRP製矢板の長さは30m程度まで対応可能であるが、一般的には従来のU型鋼矢板で想定の15m前後を対象とすればよい。CFRP製矢板は軽量材料のため、成形方法を適宜選択することにより長尺の矢板が製作可能である。とくに、引き抜き成形により、長尺のCFRP製矢板が製作可能である。また、施工現場でのハンドレイアップ成形も可能である。
【0018】
CFRP製矢板における炭素繊維の強度(ハイブリッド構成の場合は内外面に用いる)は、引張強度で3GPa以上のものが好ましい。これにより従来品よりも大幅な薄肉化が可能となる。そして、従来品と基本的に同一断面形状にすることにより、施工機械を転用することが可能となる。
【0019】
CFRP製矢板のCFRPの炭素繊維の体積含有率VFは、ハンドレイアップを想定すると40%以上、引き抜き成形を想定すると50%以上であることが好ましい。
【0020】
そして、矢板には主に曲げモーメントが作用するため、CFRPを構成する炭素繊維は、0°方向(矢板軸方向)が中心となり、0°方向の炭素繊維の割合が50%以上であることが好ましい(後述の試設計では75%)。
【0021】
CFRP製矢板の形状、とくにその横断面形状は、例えば図2の(A)、(B)、(C)に示すように形成できる。これらの例では、CFRP製矢板21a、21b、21cは、フランジ部22a、22b、22cとその両端部に接続され両端部から斜めに延びるウェブ部23a、23b、23cで構成されている(いわゆる、U字型矢板)。
【0022】
フランジ部22a、22b、22cでは座屈耐力を向上させるために90°方向(矢板横方向:矢板軸方向と直交する方向)の炭素繊維が15〜40%含まれている(後述の試設計では25%)。また、ウェブ部23a、23b、23cではせん断耐力を向上させるために±45°方向の炭素繊維が15〜40%含まれている(後述の試設計では25%)。つまり、図2(A)、(B)、(C)のいずれに示したCFRP製矢板においても、0°方向の炭素繊維に加えて、前記割合にて、フランジ部には90°方向の炭素繊維が含まれ、ウェブ部には±45°方向の炭素繊維が含まれていることが好ましい。
【0023】
図2(B)に示すCFRP製矢板21bでは、さらに、フランジ部22bの中央部に凹み24が設けられており、これによって座屈耐力がより向上されている。
【0024】
図2(C)に示すCFRP製矢板21cでは、さらに、フランジ部22cに中空部25が設けられており、中空部25を通して水を流すことにより、矢板先端より水を噴出させながら施工するウォータージェット工法による施工が可能となっている。ウェブ部23cに、あるいはフランジ部22cとウェブ部23cの両方に中空部を形成してもよい。
【0025】
なお、図示は省略するが、上記のようなU字型CFRP製矢板の他に。管状のCFRP製矢板の形成も可能である。
【0026】
次に、上記のようなCFRP製矢板を用いた矢板式岸壁の試設計を行った結果について説明する。
【0027】
(CFRP物性の検討)
従来の矢板代替製品のCFRPはPAN系の炭素繊維をエポキシ樹脂で固めたもので、ハンドレイアップなどにより成形される。主に軸方向の曲げモーメントが作用するため、繊維方向は矢板軸方向が主となるが、座屈や土圧による外力に対し、横方向にも繊維を配向する。炭素繊維の物性は東レ(株)製”トレカ”(登録商標)T700Sを適用し、複合則により算定した。その結果設定されたCFRPの軸方向物性を表1に示す。ここで、繊維配向は軸方向:横方向=3:1、体積繊維含有率は40%、繊維の剛性利用率95%、繊維の強度利用率80%として与えている。
【0028】
【表1】
【0029】
(検討対象構造)
検討の対象とした岸壁の基本諸元は、港湾構造物設計事例集(沿岸開発技術研究センター、1999年4月発行)を参考に設定した。図1に示した標準断面(従来の鋼管矢板SKY490使用)に対して、CFRP材のU字型矢板および管状矢板に置き換えた断面を検討した。その際、CFRPのU字型矢板は鋼材の矢板FSP−IV(幅400 mm、高さ170 mm、板厚15.5 mm)と同一断面に、また、管状矢板は鋼管矢板に対して直径を1,100 mmと変更せず、肉厚を6mmに半減している。このようにして設定された矢板の諸元を表2にまとめた。
【0030】
【表2】
【0031】
(試設計の結果)
設計に用いる外力条件は、前述の港湾構造設計事例集のとおりである。また、設計震度は0.19としている。設計の対象は前面矢板のみとし、タイ材、控え工および矢板継ぎ手は検討していない。
【0032】
仮想ばり法により算定した前面矢板の断面力をロウの方法による簡便法で補正した結果、常時および地震時の最大曲げモーメントは、それぞれM1=1060.7 kN・m/m およびM2=2155.2 kN・m/m となった。採用する矢板断面は、この最大曲げモーメントによる応力度が許容値を超えないように決定した。なお、矢板の材料が鋼材(鋼矢板、鋼管矢板)の場合には、矢板の腐食を考慮し、腐食後の断面性能により照査を行うこととした。検討結果を表3に示す。ここで、常時の許容応力度はCFRP引張強度の1/3として与えている。
【0033】
【表3】
【0034】
矢板の根入れ長は、鋼材がDL-27.0 mに対してCFRPでは断面剛性が小さいことから、DL-25.5 mで満足することになった。したがって、矢板長は1.5 m程度低減することができる結果となった。また、いずれの矢板を用いても応力度は許容値以下となり、所要の根入れ長を満足すれば断面は成立する結果となった。その結果、表2に示したように、矢板壁1m当たりの矢板質量はU字型矢板については18%に、管状矢板では9%となっており、大幅な軽量化が実現された。
【0035】
このように、矢板式岸壁を対象として本発明に係るCFRP材の適用性を検討した結果、鋼矢板および鋼管矢板をCFRPで代替した部材は強度上の要求性能を満足し、軽量化や高強度化などの効果が十分期待できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係るCFRP製矢板は、従来鋼製やコンクリート製矢板が用いられていたあらゆる対象に適用でき、とくに岸壁用矢板として好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】岸壁における矢板を用いた施工の標準的な一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係るCFRP製矢板の形状例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 岸壁部
2 計画水深(計画海底部)
3 設計水深(設計海底部)
4 潮位が高いときの海面
5 潮位が低いときの海面
6 矢板
7 現地盤高
8 裏込石
9 鋼管杭
10 地表
11 腹起こし材
12 上端部材
13 タイロッド
14 支持部材
15 堤防材
21a、21b、21c CFRP製矢板
22a、22b、22c フランジ部
23a、23b、23c ウェブ部
24 凹み
25 中空部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなり、CFRPにおける炭素繊維の体積含有率が40%以上であることを特徴とするCFRP製矢板。
【請求項2】
炭素繊維の配向方向として、矢板軸方向とそれ以外の方向を含み、矢板軸方向に配向されている炭素繊維の割合が50%以上である、請求項1に記載のCFRP製矢板。
【請求項3】
矢板の横断面形状が、フランジ部と、該フランジ部の端部に接続されたウェブ部とを有し、フランジ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に実質的に直交する矢板横方向にも炭素繊維が配向されており、ウェブ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に対して±45度方向にも炭素繊維が配向されている、請求項1または2に記載のCFRP製矢板。
【請求項4】
フランジ部における矢板横方向に配向されている炭素繊維の割合が15〜40%の範囲にある、請求項3に記載のCFRP製矢板。
【請求項5】
ウェブ部における±45度方向に配向されている炭素繊維の割合が15〜40%の範囲にある、請求項3または4に記載のCFRP製矢板。
【請求項6】
矢板の横断面形状においてフランジ部の中央部に凹みが設けられている、請求項3〜5のいずれかに記載のCFRP製矢板。
【請求項7】
矢板に中空部が設けられている、請求項1〜6のいずれかに記載のCFRP製矢板。
【請求項8】
引き抜き成形により成形されている、請求項1〜7のいずれかに記載のCFRP製矢板。
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなり、CFRPにおける炭素繊維の体積含有率が40%以上であることを特徴とするCFRP製矢板。
【請求項2】
炭素繊維の配向方向として、矢板軸方向とそれ以外の方向を含み、矢板軸方向に配向されている炭素繊維の割合が50%以上である、請求項1に記載のCFRP製矢板。
【請求項3】
矢板の横断面形状が、フランジ部と、該フランジ部の端部に接続されたウェブ部とを有し、フランジ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に実質的に直交する矢板横方向にも炭素繊維が配向されており、ウェブ部には矢板軸方向に加えて該矢板軸方向に対して±45度方向にも炭素繊維が配向されている、請求項1または2に記載のCFRP製矢板。
【請求項4】
フランジ部における矢板横方向に配向されている炭素繊維の割合が15〜40%の範囲にある、請求項3に記載のCFRP製矢板。
【請求項5】
ウェブ部における±45度方向に配向されている炭素繊維の割合が15〜40%の範囲にある、請求項3または4に記載のCFRP製矢板。
【請求項6】
矢板の横断面形状においてフランジ部の中央部に凹みが設けられている、請求項3〜5のいずれかに記載のCFRP製矢板。
【請求項7】
矢板に中空部が設けられている、請求項1〜6のいずれかに記載のCFRP製矢板。
【請求項8】
引き抜き成形により成形されている、請求項1〜7のいずれかに記載のCFRP製矢板。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2007−239255(P2007−239255A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60953(P2006−60953)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月20日 社団法人土木学会発行の「第60回年次学術講演会講演概要集」に発表
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【出願人】(000105899)サカイ・コンポジット株式会社 (11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月20日 社団法人土木学会発行の「第60回年次学術講演会講演概要集」に発表
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【出願人】(000105899)サカイ・コンポジット株式会社 (11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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