説明

CTコロノグラフィに用いられる経口投与用液剤及び消化管造影用製剤

【課題】服用後CTコロノグラフィの撮像を適切なタイミングで実施することを可能にする経口投与用液剤、及び当該経口投与用液剤の調製に用いられる消化管造影用製剤の提供。
【解決手段】CTコロノグラフィの消化管造影における経口投与用液剤であって、ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤と、経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーとを含有することを特徴とする経口投与用液剤、並びに、ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤とを含有する消化管造影用液剤、及び経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーを含み、前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用液剤とは独立して包含されており、前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用液剤の少なくとも一部とともに経口摂取されることを特徴とする消化管造影用製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CTコロノグラフィの前処置に用いられる経口投与用液剤、及び当該経口投与用液剤の調製に用いられる消化管造影用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ断層撮影(CT)による大腸検査(CTコロノグラフィ)は、ヘリカルCTや多列検出器CTの開発によって、一般化しつつある検査法である。すでに欧米では大腸のスクリーニング検査として普及しつつある。CTコロノグラフィは、腸管洗浄により大腸内の便塊を洗浄した後、空気で大腸内腔を拡張させた状態でCT撮影を行い、大腸組織と空気の僅かなX線コントラストの違いをもとに画像情報が構成、処理される(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
CTコロノグラフィは、視覚的に残渣を除ける大腸内視鏡検査や、強力なX線造影剤である硫酸バリウムを使用して画像にコントラストをつけることができる注腸X線検査に比べると、消化管組織と空気等の僅かなX線コントラストの違いをもとに画像情報が構成、処理されるため、大腸内に残存する便塊は、病変と誤認されやすい。このため、多列検出器CT、例えばMDCT(Multi detector − row CT)を用いて、大腸の2次元画像や3次元画像を良好に描出するためには、腸管前処置における腸管内容物の排除が必要である。
【0004】
腸管前処置の方法としては、非分泌性非吸収性の経口腸管洗浄液による腸管洗浄法が広く用いられている。経口腸管洗浄法は、電解質等からなる粉末状組成物を一定量、例えば2L程度の水で溶解して調製した腸管洗浄液を2〜4時間かけて服用する。CTコロノグラフィの腸管前処置においては、大腸内視鏡検査や注腸X線検査において従来から用いられてきた腸管洗浄液を用いることができる。このような腸管洗浄液としては、例えば、ポリエチレングリコール等の等張化剤と電解質を主要な成分とするもの(例えば、特許文献1及び2参照。)や、クエン酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等の塩類下剤と等張化剤とを配合して等張水溶液としたもの(例えば、特許文献3参照。)がある。
【0005】
腸内の液状残渣は、消化管組織とのコントラストが得られず、診断に有用な検査画像を構成できない。液状残渣を低減させることにより病変検出不能な領域を減少させる方法として、例えば、経口腸管洗浄の際に、消化管運動促進剤を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。消化管運動促進剤を経口腸管洗浄液の服用前後若しくは経口腸管洗浄液と同時に服用することにより、腸管内の液状残渣の量を低減させることができる。
【0006】
また、腸管洗浄液と共に造影剤を投与することにより、大腸内の残水や貯留液を電子的に消去する検査法(electronic cleansing)の有用性が注目されている。造影剤を用いることにより、残水や液状残渣貯留部が標識(タギング)されてCT値(輝度値)が上がるため、造影剤に標識されないポリープ病変と区別することができる(例えば、特許文献5参照。)。
【0007】
造影剤として、一般的にヨード化合物が用いられている。しかしながら、ヨード化合物は非常に苦く、高濃度のヨード化合物を含む腸管洗浄液を大量に服用することは、非常に困難である。そこで、通常は、十分量(例えば、1.5L以上)の腸管洗浄液を服用し、腸内を十分に洗浄した後、ヨード含有量が15mg/mLとなるようにヨード化合物を含有させた腸管洗浄液を少量(例えば、350〜450mL)服用することが提案されている。
【0008】
一方で、薬剤に薬効には直接的に寄与しない色素が配合される場合がある。例えば、誤った薬剤の投与を防止するために、注射用薬剤に色素を配合して着色する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。また、経口摂取した際に、患者の口腔及び/又は咽頭腔の少なくとも一部分を着色することができる色素を配合した配合薬も開示されている(例えば、特許文献7参照。)。患者の口腔及び/又は咽頭腔の着色の有無を観察することにより、患者が当該配合薬を摂取したかを判定することができる。
【0009】
大腸の検査において色素を使用する方法としては、例えば、色素内視鏡法が挙げられる。当該方法は、赤色調を呈する消化管内膜に対照的な青色系の色素を撒布して、微細な凹面に色素液が留まることを利用して、粘膜の凹凸面を強調して明瞭化する方法である。青色系の色素として、インジゴカルミンが使用されている(例えば、特許文献8〜10参照。)。しかしながら、CTコロノグラフィ及びその前処置において色素を利用する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−187448号公報
【特許文献2】特許第4131266号公報
【特許文献3】特開平5−306221号公報
【特許文献4】国際公開第2004/004542号
【特許文献5】特開2005−2006号公報
【特許文献6】特表2009−515895号公報
【特許文献7】国際公開第2002/056919号
【特許文献8】特開2008−273900号公報
【特許文献9】国際公開第2010/018723号
【特許文献10】国際公開第2011/016487号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Liang, J.Z.著、「3.大腸仮想内視鏡:大腸の新たな検査法(Virtual colonoscopy: An Alternative Approach to Examination of the Entire Colon)」、INNERVISION、2001年、第16巻、第10号、第40〜44ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
十分量の腸管洗浄用液剤(腸管洗浄液)により腸内を洗浄した後に造影剤含有腸管洗浄用液剤を服用する場合には、大腸内の液状残渣を十分にタギングするために、造影剤が大腸の深部にまで到達した後にCTコロノグラフィの撮像を行う必要がある。一方で、被験者の受容性改善の点からは、造影剤服用後可能な限り早く撮像を行うことが好ましい。つまり、CTコロノグラフィの撮像のタイミングが重要であるが、従来は撮像のタイミングは経験的に判断されており、必ずしも適切なタイミングで撮像できるとは限らなかった。これは、服用した造影剤が大腸深部にまで到達し、大腸内の液状残渣を十分にタギングするために要する時間は、一般的に個体差が大きく、また腸管洗浄の程度等にも影響されるためである。造影剤服用後撮像までの時間が短すぎると、造影剤が大腸にまで到達しておらず、液状残渣がタギングされていない時点で撮像を行ってしまうことになり、逆に撮像までの時間が長すぎると、被験者の負担が過大となる。
【0013】
本発明は、服用後CTコロノグラフィの撮像を適切なタイミングで実施することを可能にする経口投与用液剤、及び当該経口投与用液剤の調製に用いられる消化管造影用製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、造影剤を含む腸管洗浄用液剤に、経口摂取後大腸からの排泄の有無を排泄物から視覚的に判別するための視覚的マーカーを配合することにより、造影剤が大腸深部にまで到達し、CTコロノグラフィの撮像に適切なタイミングを簡便に知ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) CTコロノグラフィの消化管造影における経口投与用液剤であって、
ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤と、経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーとを含有することを特徴とする経口投与用液剤、
(2) 前記視覚的マーカーが、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、ブリリアントブルーFCF、コチニール色素、ラック色素、及びアシッドレッドからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(1)に記載の経口投与用液剤、
(3) 前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン、ペクチン、アルブミン及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される1種類以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の経口投与用液剤、
(4) 浸透圧が200〜440mOsm/Lであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の経口投与用液剤、
(5) さらに、シュクロース、ソルビトール、キシリトール、エリトリトール、マンニトール、トレハロース、ラクチトール、ラクチュロース、マルチトール、パラチノース、ラフィノース及びグリセリンからなる群より選択される1種以上の糖類を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の経口投与用液剤、
(6) 前記ヨード化合物の含有量が3.5〜90mg/mLであることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の経口投与用液剤、
(7) さらに、ジメチルポリシロキサン及び消化管機能促進剤からなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の経口投与用液剤、
(8) ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤とを含有する消化管造影用液剤、及び
経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーを含み、
前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用液剤とは独立して包含されており、
前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用液剤の少なくとも一部とともに経口摂取されることを特徴とする消化管造影用製剤、
(9) 前記視覚的マーカーが、液剤、粉末剤、錠剤、顆粒剤、又はカプセル剤である前記(8)に記載の消化管造影用製剤、
(10) 前記視覚的マーカーが、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、ブリリアントブルーFCF、コチニール色素、ラック色素、及びアシッドレッドからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の消化管造影用製剤、
(11) 前記消化管造影用液剤の浸透圧が200〜440mOsm/Lであり、
ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン、ペクチン、アルブミン及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される1種類以上の水溶性高分子、又は
クエン酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選択される1種類以上の塩類下剤を含有することを特徴とする前記(8)〜(10)のいずれか一つに記載の消化管造影用製剤、
(12) 前記消化管造影用液剤が、さらに、ジメチルポリシロキサン及び消化管機能促進剤からなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする前記(8)〜(11)のいずれか一つに記載の消化管造影用製剤、
(13) さらに、水溶性高分子又は塩類下剤を含有し、浸透圧が200〜440mOsm/Lであり、かつヨード化合物を含有していない腸管洗浄用液剤を含み、
前記腸管洗浄用液剤は、前記消化管造影用液剤及び前記視覚的マーカーとは独立して包含されていることを特徴とする前記(8)〜(12)のいずれか一つに記載の消化管造影用製剤、
(14) ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤とを含有する消化管造影用組成物、及び
経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーを含み、
前記消化管造影用組成物は、水に溶解させて、ヨード含有量が3.5〜90mg/mLの水溶液として、CTコロノグラフィの前に服用されるものであり、
前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用組成物とは独立して包含されていることを特徴とする消化管造影用製剤、
(15) 前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用組成物を水に溶解させた液剤の少なくとも一部とともに経口摂取されることを特徴とする前記(14)に記載の消化管造影用製剤、
(16) 前記視覚的マーカーが、液剤、粉末剤、錠剤、顆粒剤、又はカプセル剤である前記(14)又は(15)に記載の消化管造影用製剤、
(17) 前記視覚的マーカーが、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、ブリリアントブルーFCF、コチニール色素、ラック色素、及びアシッドレッドからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする前記(14)〜(16)のいずれか一つに記載の消化管造影用製剤、
(18) 前記消化管造影用組成物は、水に溶解したとき、浸透圧が200〜440mOsm/Lとなるように電解質を含有し、
ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン、ペクチン、アルブミン及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される1種類以上の水溶性高分子、又は
クエン酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選択される1種類以上の塩類下剤を含有することを特徴とする前記(14)〜(17)のいずれか一つに記載の消化管造影用製剤、
(19) 前記消化管造影用組成物が、さらに、ジメチルポリシロキサン及び消化管機能促進剤からなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする前記(14)〜(18)のいずれか一つに記載の消化管造影用製剤、
(20) さらに、水溶性高分子又は塩類下剤を含有し、かつヨード化合物を含有していない腸管洗浄用組成物を含み、
前記腸管洗浄用組成物は、前記消化管造影用組成物及び前記視覚的マーカーとは独立して包含されており、かつ水に溶解したとき、浸透圧が200〜440mOsm/Lとなるように電解質を含有していることを特徴とする前記(14)〜(19)のいずれか一つに記載の消化管造影用製剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
CTコロノグラフィの前処置において、本発明の経口投与用液剤を服用した場合には、ヨード化合物によって大腸深部の液状残渣がタギングされた時点を簡便に知ることができる。したがって、本発明の経口投与用液剤を用いることにより、CTコロノグラフィの撮像を適切なタイミングで実施することができる。
また、本発明の消化管造影用製剤を用いることにより、本発明の経口投与用液剤を簡便に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1において、A群の被験者(症例1)のCT画像である。
【図2】実施例1において、B群の被験者(症例2)のCT画像である。
【図3】実施例1において、A群の被験者(症例3)のCT画像である。
【図4】実施例1において、B群の被験者(症例4)のCT画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明及び本願明細書において、視覚的マーカーとは、経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するために用いられるマーカーである。視覚的マーカーが含まれている排泄物の色調は、視覚的マーカーが含まれていない排泄物の色調とは異なるため、排泄物の色から、視覚的マーカーが排泄されたか否かが確認できる。
【0019】
本発明の経口投与用液剤は、ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤と、経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーとを含有することを特徴とする。視覚的マーカーが排泄された時には、当該視覚的マーカーと共に又はそれよりも以前に服用されたヨード化合物は、既に大腸深部まで到達している。したがって、ヨード化合物と視覚的マーカーとを共に服用した場合には、排泄物の色から、視覚的マーカーが排泄された時点、すなわち、ヨード化合物が大腸深部まで到達し、大腸全域の液状残渣のタギングが完了した時点を視覚的に知ることができる。
【0020】
本発明の経口投与用液剤に含有させるヨード化合物としては、分子中に1以上のヨード原子を含み、造影剤として用いることが可能な水溶性有機化合物であれば特に限定されるものではない。このような水溶性有機ヨード化合物としては、ベンゼン環の2、4及び6位にヨードが結合したトリヨードベンゼン類を挙げることができる。本発明の経口投与用液剤に含有させるヨード化合物は、イオン性化合物であってもよく、非イオン性化合物であってもよいが、非イオン性化合物であることが好ましい。非イオン性のヨード化合物は、イオン性のヨード化合物に比べて味がよく服用しやすい上に、アレルギー反応の心配も少ないためである。
【0021】
イオン性のヨード化合物としては、具体的には、アミドトリゾ酸(amidotrizoic acid、化学名3,5−diacetamino−2,4,6−triiodobenzoic acid)、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、アミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオキサグル酸、イオキシラン、イオプロミドを挙げることができる。また、非イオン性のヨード化合物としては、具体的には、イオヘキソール、イオパミドール、イオベルソール、イオメプロール等を挙げることができる。
【0022】
各ヨード化合物はそれぞれアナフィラキシー様反応等の副作用を呈する場合があり、アレルギー体質等の患者背景により適宜選択することができる。イオン性のヨード化合物を用いる場合であって、特にアレルギー体質等の副作用発生のリスクが少ない患者には、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミンの使用が、その製剤学的な安定性、コスト等の面から好ましい。
【0023】
本発明の経口投与用液剤のヨード含有量は、90mg/mL以下であることが好ましく、70mg/mL以下であることがより好ましく、35mg/mL以下であることがさらに好ましく、28mg/mL以下であることが特に好ましい。また、本発明の経口投与用液剤のヨード含有量は、3.5mg/mL以上であることが好ましく、7mg/mLであることがさらに好ましく、10mg/mL以上であることがよりさらに好ましく、15mg/mL以上であることが特に好ましい。
【0024】
本発明の経口投与用液剤は、ヨード化合物に加えて、水溶性高分子と塩類下剤の少なくともいずれか一方を含む。本発明においては、被験者に対する負担がより軽減されるため、ヨード化合物と水溶性高分子とを含むことが好ましい。なお、本発明の経口投与用液剤は、水溶性高分子と塩類下剤の両方を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の経口投与用液剤に含有させる水溶性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン、ペクチン、カルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。これらの中でも、ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン及びペクチンからなる群より選択される高分子が、製剤的安定性等の面から好ましい。
【0026】
本発明の経口投与用液剤としては、水溶性高分子としてポリエチレングリコールを含有することが特に好ましい。ポリエチレングリコールの分子量としては2000から8000のものが好ましく、3000から7000の範囲のものを使用することがより好ましい。
【0027】
本発明の経口投与用液剤に含有させる塩類下剤としては、クエン酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどを挙げることができる。本発明の経口投与用液剤に含有させる塩類下剤の濃度は、緩下作用を奏することが可能な濃度であれば特に限定されるものではなく、塩類下剤の種類や服用する被験者の状態等を考慮して適宜調整することができる。例えば、ナトリウムイオンは60mEq/L、カリウムイオンは20mEq/L、マグネシウムイオンは3mEq/L、塩化物イオンは50mEq/L、リン酸塩は10mmol/L、クエン酸イオンは35mEq/L、乳酸イオンは20mEq/Lであれば、生体内の電解質のバランスに過度の影響を与えることはない。このため、塩類下剤は、本発明の経口投与用液剤中の含有量がこれらの濃度よりも高くなるように添加する。
【0028】
本発明の経口投与用液剤の浸透圧は200〜440mOsm/Lであることが好ましい。浸透圧を当該範囲内とすることにより、当該経口投与用液剤を服用することによる生体内の血清電解質バランスと浸透圧の変動を最小限に抑えることができる。本発明の経口投与用液剤としては、280〜320mOsm/Lの等張、若しくは等張に近い浸透圧範囲に調整することがより好ましい。
【0029】
本発明の経口投与用液剤は、例えば特許第4131266号公報に記載の腸管洗浄液のように、水等の服用と併用して腸管内の浸透圧を調製するような製剤であってもよい。このように水等と併用して服用する場合、例えば、本発明の経口投与用液剤の浸透圧を、前記浸透圧範囲より高浸透圧、例えば700mOsm/L以下の浸透圧としてもよい。すなわち、本発明の経口投与用液剤は、浸透圧が200〜700mOsm/Lの公知の腸管洗浄液のいずれを用いることもできる。
【0030】
本発明の経口投与用液剤は、所望の浸透圧に調整するために、電解質を含むことが好ましい。本発明の経口投与用液剤に含有させる電解質の種類と配合量は、経口投与用液剤の浸透圧が前記範囲内となるように、適宜選択される。
【0031】
電解質とは、溶液中で解離してイオンとなる物質をいい、Na、K、Ca2+、Mg2+、Cl、HCO、SO2−、HPO2−、有機酸基、有機塩基等を挙げることができる。例えば、塩類下剤も電解質に含まれる。本発明の経口投与用液剤に含有させる電解質としては、静脈投与される電解質輸液等に用いられる電解質と同様のものを挙げることができる。より具体杓には、ナトリウムイオン源としては、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウムなどが、カリウムイオン源としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸カリウム、乳酸カリウムなどが、カルシウムイオン源としては、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウムなどが、マグネシウムイオン源としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウムなどが、リン酸イオン源としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリセロリン酸ナトリウムなどが、塩素イオン源としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどが、また重炭酸イオン源としては、炭酸水素ナトリウムなどがそれぞれ例示され、これらの化合物は水和物の形態であってもよい。
【0032】
本発明の経口投与用液剤に含有させる視覚的マーカーとしては、経口摂取可能な化合物であって、経口摂取後大腸から排泄される際に排泄物の色調を変化させ得る化合物であればよい。腸管洗浄後に大腸から排泄された排泄物は、固形物を含まない、若しくは極少量しか含んでいない液状物である。この液状物は、胆汁由来の色素を含むため、淡黄色をしている。したがって、経口摂取後大腸から排泄された際に、排泄物の色調を黄系統色以外の色調、例えば、緑色、青色、紫色、赤色等にすることが可能な色素、蛍光物質等を、視覚的マーカーとして用いることができる。
【0033】
具体的には、本発明の経口投与用液剤に含有させる視覚的マーカーとしては、経口摂取可能な色素であって、黄系統色以外の色調のものを用いることができる。また、経口摂取後に、黄系統色以外の色調の代謝産物が大腸から排泄される化合物も、視覚的マーカーとして用いられる。本発明の視覚的マーカーは、蛍光物質であってもよい。排泄物に特定の波長の光(例えば、紫外線)を照射し、蛍光観察されるか否かを観察することにより、当該視覚的マーカーの排泄の有無を視覚的に確認することができる。
【0034】
本発明において用いられる視覚的マーカーとしては、排泄物の色調変化がより判別しやすいため、排泄物の色調を赤系統色等の暖色系に変化させる化合物よりも、緑系等色、青系統色、紫系統色等の中間色系又は寒色系に変化させる化合物のほうが好ましい。また、中間色系又は寒色系に変化させる化合物を視覚的マーカーとして用いた場合には、本発明の経口投与用液剤を服用した後にCTコロノグラフィを行い、さらにその後に内視鏡検査を実施した際に、腸管内の視覚的マーカーを含む液状残渣と腸管内組織とをより明確に識別できる。
【0035】
また、排泄物のpHは、個体差が大きい上に、体調や食事内容等にも影響を受けて変動する。このため、本発明において用いられる視覚的マーカーとしては、広いpH域(例えば、pH4〜9)で安定して黄系統色以外の色調を呈する化合物が好ましい。
【0036】
本発明の経口投与用液剤は、1種類の視覚的マーカーを含有していてもよく、2種類以上の視覚的マーカーを組み合わせて含有していてもよい。また、本発明の経口投与用液剤中の視覚的マーカーの含有量は、服用により排泄物の色調を変化させるために充分な量を服用可能な濃度であれば特に限定されるものではなく、視覚的マーカーの種類、服用する本発明の経口投与用液剤の容量等を考慮して適宜決定することができる。例えば、視覚的マーカーとしてインジコカルミンを用いる場合には、一回の前処置において服用する量は、10mg(2.5mL)以上であることが好ましく、20mg(5.0mL)以上であることがより好ましい。視覚的マーカーの服用量の上限値は、生体への安全性やコスト等を考慮して適宜決定される。
【0037】
本発明において用いられる視覚的マーカーは、安全に経口摂取可能な化合物であることが好ましい。特に、食用の着色料や、医薬品として使用実績のある色素又は蛍光物質であることが好ましい。本発明において用いられる視覚的マーカーとしては、具体的には、インジゴカルミン、ブリリアントブルーFCF、メチレンブルー、ピオクタニンブルー(クリスタルバイオレット)、トルイジンブルー、ニューメチレンブルー、インドシアニングリーン、メチレングリーン、コチニール色素、ラック色素、アシッドレッド、コンゴーレッド、スルホブロモフタレインナトリウム、フルオロレインナトリウム、又はそれらの混合物等が挙げられる。中でも、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、ブリリアントブルーFCF、コチニール色素、ラック色素、及びアシッドレッドからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、又はブリリアントブルーFCFであることが好ましく、不染性であるインジゴカルミンがより好ましい。
【0038】
視覚的マーカーは、薬学的に許容される塩として、経口投与用液剤に含有させてもよい。薬学的に許容される塩としては、薬物の遊離塩基形態と組み合わされる、当技術分野で公知の無機酸又は有機酸の群のいずれであってもよい。具体的には、塩酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、コハク酸、及びサリチル酸等が挙げられる。
【0039】
視覚的マーカーとして、インジゴカルミン等の酸化されやすい化合物を用いる場合には、アスコルビン酸、L−システイン等の還元作用を有する物質とともに、本発明の経口投与用液剤に含有させることが好ましい。
【0040】
本発明の経口投与用液剤は、さらに糖類を含んでいてもよい。特にスクリーニング検査として行われるCTコロノグラフィの前処置に好ましい経口投与用液剤としては、製剤安定性や、服用の容易性等を含めた患者受容性が優れているとの理由から電解質と糖類の混合物を添加することも好ましい。
【0041】
本発明の経口投与用液剤に含有させる糖類としては、糖と糖アルコールのいずれであってもよい。本発明の経口投与用液剤に含有させる糖類としては、具体的には、シュクロース、ソルビトール、キシリトール、エリトリトール、マンニトール、トレハロース、ラクチトール、ラクチェロース、マルチトール、パラチノース、ラフィノース、グリセリンなどを挙げることができる。これらの中では、キシリトール、ソルビトール、ラクチュロース、ラクチトール及びラフィノースが製剤安定性や、服用の容易性等を含めた患者受容性等の理由から特に好ましい。
【0042】
本発明の経口投与用液剤は、視覚的マーカー、ヨード化合物、電解質、水溶性高分子、及び塩類下剤に加えて、さらに、消化管機能促進剤を含有していることが好ましい。消化管機能促進剤により、服用された経口投与用液剤や、当該経口投与用液剤と腸管内容物との混合物が、排泄され易くなり、CTコロノグラフィ時に腸管内残渣の量を低減させることができる。
【0043】
本発明の経口投与用液剤に含有させる消化管機能促進剤としては、セロトニン5−HT受容体刺激剤が挙げられる。セロトニン5−HT受容体刺激剤としては、クエン酸モサプリドを含む特公平3−54937号公報「特許請求の範囲」第1項に記載の一般式で表されるベンズアミド誘導体、シサプリド、メトロクロプラミドなどを挙げることができる。これらの化合物のなかでは、不整脈誘発等の副作用の少ない点で、クエン酸モサプリドが最も好ましい((株)メディカルレビュー社、1998年発行、「モサプリドと消化管運動」)。クエン酸モサプリドは、一日当たりの服用量(すなわち、1回のCTコロノグラフィのための前処置における使用量)が5〜40mgとなるように適宜調整して、本発明の経口投与用液剤に含有させることが好ましい。
【0044】
一般に、CTコロノグラフィ検査において、腸管内の有泡性粘液の存在が撮影した映像からの病変の読み取りを困難にすることは、しばしば経験することである。本発明の経口投与用液剤を服用する前処置を行った場合にも、腸管内に有泡性粘液が存在し、映像からの病変の読み取りが困難になる場合がある。このため、本発明の経口投与用液剤は、視覚的マーカー、ヨード化合物、水溶性高分子、及び塩類下剤に加えて、さらにジメチルポリシロキサンを含有することも好ましい。有泡性粘液中の泡に対してジメチルポリシロキサンが消泡作用を示すため、撮影した映像殻の病変の読み取り精度及び読み取り効率を改善することができる。
【0045】
本発明の経口投与用液剤に含有させるジメチルポリシロキサンとしては、消化管内ガス駆除剤として市販されている「カスコン(登録商標)」等が挙げられる。本発明の経口投与用液剤に含有させるジメチルポリシロキサンの量は、成人における一日当たりの服用量(すなわち、1回のCTコロノグラフィのための前処置における使用量)が30〜120mg、好ましくは40〜80mgとなるように適宜調整して、本発明の経口投与用液剤に含有させることが好ましい。
【0046】
なお、ジメチルポリシロキサンは、従来は、胃腸管内のガスに起因する腹部症状の改善、胃内視鏡検査時における胃内有泡性粘液の除去、腹部X線検査時の腸内ガスの駆除等に使用されていたが、CTコロノグラフィ検査の前処置に使用されたことはなかった。しかも、ジメチルポリシロキサンの消泡作用は従来のジメチルポリシロキサンの役割とは相違し、その結果、撮影した映像からの病変の読み取り精度及び読み取り効率を改善できたことは、予想外のことである。
【0047】
視覚的マーカー、ヨード化合物、水溶性高分子、及び電解質は、特有の味や臭いを有している場合が多い。そこで、本発明の経口投与用液剤には、矯味や矯臭手段を施すことが好ましい。具体的には、甘味料や香料を配合することができる。
【0048】
本発明の経口投与用液剤に含有させる香料としては、経口で経口投与用液剤を摂取する際の水溶性高分子や電解質等に起因する臭いをマスクするものであればよく、特に限定されるものではない。本発明においては、食品香料が適当であり、特に果物の香料が適している。果物香料としては、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、レモンライム、マンダリンオレンジ、葡萄、いちご、さくらんぼ、林檎、杏、ラズベリー等の香料が挙げられる。そのうちでもレモン、オレンジ、グレープフルーツ、レモンライムのような柑橘系の液体香料が、さわやかな飲み心地を与えられるため最適である。液体香料としては、これらの果物から圧搾法や水蒸気蒸留によって得られる精油を用いることができる。また、リモネン、シトラール、シトロネラール、リナロール、オクタナール等を単独にあるいは配合して作ることができる。なかでもリモネンを含む柑橘系の香料を使用することが好ましい。このような香料は香料メーカーから市販されており、それを用いることが実際的である。なお、液体香料には、香料成分を含水アルコール等で抽出したり溶解させたりした水溶性の液体香料、及び香料成分を油性溶剤に溶かした油溶性の液体香料が含まれる。さらに香料成分(精油)に保存剤等を加えたものも含まれる。液体香料としては、保存安定性の点から、水溶性の液体香料より、油溶性若しくは精油由来の香料を用いることが好ましい。
【0049】
香料を用いる場合には、各製造工程での揮散、包装体への吸着、及び包装体からの透過散逸等を考慮して添加量を調整する必要がある。好ましい添加量は、経口投与用液剤の0.001〜0.3質量%である。本発明においては、香料を電解質粉末に直接吸着させる。香料をあらかじめ糖類に吸着させて配合することは、水素ガスやメタンガスの発生の危険があるので避けなければならない。
【0050】
本発明の経口投与用液剤には、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、その他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の経口投与用液剤には、アスコルビン酸及び/又はその1種以上の塩(アスコルベート成分)を含有させてもよい。例えば、アスコルベート成分は、本発明の経口投与用液剤1L当たり4〜15gの範囲内で添加することが好ましい。
【0051】
好ましいアスコルビン酸の塩は、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸マグネシウム及びアスコルビン酸カルシウムである。特に好ましいアスコルビン酸の塩は、アスコルビン酸ナトリウムである。好ましくは、アスコルベート成分は、アスコルビン酸及びその1種以上の塩の両方を含む。好ましくは、アスコルビン酸及びその塩は、1:9ないし9:1の範囲内の重量比で存在する。アスコルビン酸及びその塩は、実際には、水和物として提供され得る。水和物が使用されるならば、ここで言及された重量及び/又は重量比は、水和水を除いたアスコルビン酸又はその塩の重量及び/又は重量比である。好ましくは、アスコルビン酸及びその塩は、2:8ないし8:2、より好ましくは3:7ないし7:3、更により好ましくは4:6ないし6:4の範囲内、例えば、4.7:5.9の重量比で存在する。
【0052】
本発明の経口投与用液剤は、大腸内視鏡検査、注腸X線検査、及びCTコロノグラフィのための前処置として腸管洗浄を行う際に用いられる液状の経口腸管洗浄用液剤(腸管洗浄液)に、ヨード化合物を有効成分とする造影剤及び視覚的マーカーを添加したものであってもよい。すなわち、経口腸管洗浄用液剤に、ヨード含有量が3.5〜90mg/mLになるようにヨード系水溶性造影剤を配合し、さらに視覚的マーカーを配合したものを、本発明の経口投与用液剤とすることができる。その他、視覚的マーカーとしてインジゴカルミン等の医薬品として使用されている化合物を用いる場合、ヨード系水溶性造影剤を配合した経口腸管洗浄用液剤に、さらに当該化合物を含む既存の医薬品を適当量配合することによっても、本発明の経口投与用液剤とすることができる。
【0053】
このような経口腸管洗浄用液剤としては、水溶性高分子及び塩類下剤の少なくとも一方を含有するものであれば特に限定されるものではないが、服用時の浸透圧が200〜440mOsm/Lとなるように電解質を含むものが好ましく、さらに甘味料及び/又は香料を含有するものであるものも好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレングリコールと電解質との組合せの組成からなるもの(例えば特開平1−125319号公報に開示の発明に係わる「ニフレック(登録商標)」配合内用剤(味の素製薬社製))、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリデキストロース、アラビアゴム及びペクチンから選ばれる少なくとも1種の水溶性高分子と電解質との組合せの組成からなるもの(特開平2−25424号公報、特開平3−206046号公報)、エリトリトール又はキシリトールと電解質との組合せの組成からなるもの(特開平3−284620号公報)、フラクトオリゴ糖と電解質との組合せの組成からなるもの(特開平3−291228号公報)、ラクチトール、マルチトール及びカルボキシメチルセルロースから選ばれる少なくとも1種と電解質とを含有する組成物(特開平5−255092号公報)、クエン酸マグネシウム(特開平5−306221号公報)、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等の塩類下剤と等張化剤とを使用して等張水溶液としたもの等を挙げることができる。
【0054】
本発明の経口投与用液剤は、CTコロノグラフィの前処置のために服用される造影剤として使用することができる。視覚的マーカーは、前処置の造影剤として服用されるヨード化合物の少なくとも一部とともに服用すればよい。つまり、1回の前処置のために服用されるヨード化合物の全量を、本発明の経口投与用液剤として服用してもよく、1回の前処置のために服用されるヨード化合物の一部を、本発明の経口投与用液剤として服用してもよい。例えば、充分量の腸管洗浄用液剤を服用した後、CTコロノグラフィの前処置として必要な量のヨード化合物を服用するために充分な量の本発明の経口投与用液剤を服用してもよい。また、同じく十分量の腸管洗浄用液剤を服用した後、視覚的マーカーを含まないヨード化合物含有腸管洗浄用液剤と本発明の経口投与用液剤とをそれぞれ別個に服用してもよい。本発明の経口投与用液剤と併用服用する視覚的マーカーを含まないヨード化合物含有腸管洗浄用液剤としては、腸管洗浄のために一般的に使用される腸管洗浄用液剤にヨード化合物を添加したものを用いることができる。
【0055】
視覚的マーカーを含まないヨード化合物含有腸管洗浄用液剤と本発明の経口投与用液剤とを併用して服用する場合、両者の総服用量により、CTコロノグラフィの前処置として必要な量のヨード化合物が服用でき、かつ排泄物を着色可能な量の視覚的マーカーを服用可能であればよく、両者のヨード化合物の濃度、両者の服用量の体積比等は特に限定されるものではない。また、視覚的マーカーを含まないヨード化合物含有腸管洗浄用液剤と本発明の経口投与用液剤は、いずれを先に服用してもよいが、先に本発明の経口投与用液剤を服用した後に、視覚的マーカーを含まないヨード化合物含有腸管洗浄用液剤を服用することが好ましい。本発明の経口投与用液剤服用後に視覚的マーカーを含まないヨード化合物含有腸管洗浄用液剤を服用することにより、口腔内に残留した本発明の経口投与用液剤が洗い流され、口腔内等の着色を低減させることができる。
【0056】
視覚的マーカーは、ヨード化合物と実質的に同時に服用することにより、腸管内の液状残渣のタギング完了時のチェッカーとしての機能が発揮される。このため、本発明の経口投与用液剤を服用する方法以外にも、例えば、ヨード化合物を含有する液剤を服用した直後に、視覚的マーカーをそのまま、若しくはヨード化合物を含有していない液体等で服用した場合や、ヨード化合物を含有する液剤を用いて粉末剤、錠剤、顆粒剤、又はカプセル剤等の固形の視覚的マーカーを服用した場合でも、本発明の経口投与用液剤を服用した場合と同様に、排泄物の色から、視覚的マーカーが排泄された時点、すなわち、ヨード化合物が大腸深部まで到達し、大腸全域の液状残渣のタギングが完了した時点を視覚的に知ることができる。なお、ヨード化合物及び視覚的マーカーを含有する液剤や、視覚的マーカーを服用するために用いられるヨード化合物を含有する液剤、視覚的マーカーを服用するために用いられるヨード化合物を含有していない液体は、少なくとも水溶性高分子又は塩類下剤を含む腸管洗浄用液剤であることが好ましい。
【0057】
本発明の経口投与用液剤を服用した後(又は、ヨード化合物を含有する腸管洗浄用液剤と視覚的マーカーを実質的に同時に服用した後)、排泄物の色を観察し、視覚的マーカーが排泄されたことを確認した後に、CTコロノグラフィの撮像を行う。撮像は、視覚的マーカーの排泄が確認された時点の後、タギングされた腸内の液状残渣が、その後に分泌された胆汁や腸液により置換される前であれば、いつ実施してもよい。腸管洗浄後CTコロノグラフィの撮像完了までは、通常食事を行わないため、胆汁や腸液の分泌も少ない。このため、一般的には、視覚的マーカーの排泄が確認された時点から12時間以内であれば、CTコロノグラフィの良好な画像を取得することができる。但し、被検者の受容性の点からは、視覚的マーカーの排泄確認後、速やかに撮像することが好ましい。
【0058】
CTコロノグラフィを撮像するためには、通常、まず腸管を拡張するために、炭酸ガスが注入される。ガスの注入には、通常、ガスの注入用カテーテルと排水用カテーテルを備える器具が用いられる。腸内の液状残渣がヨード化合物によりタギングされている場合には、当該液状残渣中には視覚的マーカーも含まれているため、炭酸ガスの注入時に排水用カテーテルから排水される腸内の液状残渣も、視覚的マーカーにより着色されている。排泄物の色の確認は、通常、CTコロノグラフィの被検者が行うが、炭酸ガスの注入時に液状残渣の色調を調べることにより、排水CTコロノグラフィの撮像前に、医療従事者によっても再度確認することができる。
【0059】
本発明の経口投与用液剤は、予め各成分を含有する濃縮液を調製し、服用時に適当量の水で希釈することにより調製することができる。各成分の濃縮液は、アルミ缶、可撓性容器、剛性若しくは準剛性の容器に充填した形態をとってもよい。この際、溶解液は常法により殺菌あるいは滅菌されることはもちろんである(特開平9−58747号公報、特開平8−253220号公報など)。
【0060】
また、ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤とを含有する消化管造影用液剤と、視覚的マーカーとを、予めそれぞれ独立して調製しておき、使用直前に両者を混合することによって、本発明の経口投与用液剤を調製することができる。また、ヨード系水溶性造影剤(ヨード化合物)と腸管洗浄用液剤と視覚的マーカーとを、予めそれぞれ独立して調製しておき、使用直前に三者を混合してもよい。
【0061】
本発明の経口投与用液剤は、それぞれ粉末化、錠剤化、若しくは粒状化された各成分を用意し、これらを服用時に適当量の水に溶解させることによっても調製することができる。2種類以上の成分を予め混合した組成物を調製しておき、服用時に、当該組成物とその他の成分とを適当量の水に溶解させてもよい。
【0062】
例えば、水溶性高分子及び塩類下剤の少なくとも一方と、必要に応じて塩類下剤以外の電解質を含有し、所定量の水に溶解させることによって浸透圧が200〜440mOsm/Lである腸管洗浄用液剤を調製することができる腸管洗浄用組成物の粉末剤(例えば、前掲特開平1−125319号公報記載の発明に係わる前掲「ニフレック(登録商標)」配合内用剤(味の素製薬社製))と、ヨード化合物を有効成分とする固形状のヨード系水溶性造影剤と、固形状の視覚的マーカーとを調製しておき、共に服用時に所定量の水に溶解させることにより、本発明の経口投与用液剤を調製することができる。なお、腸管洗浄用組成物は、粉末剤に代えて、錠剤又は顆粒剤の剤形に製剤化したものを用いてもよい。
【0063】
また、腸管洗浄用組成物と、固形状のヨード系水溶性造影剤と、液剤である視覚的マーカーとを製剤化してもよい。服用時に、腸管洗浄用組成物とヨード系水溶性造影剤とを共に所定量の水に溶解させた後、得られた液剤の少なくとも一部に視覚的マーカーを混合することにより、本発明の経口投与用液剤を簡便に調製することができる。
【0064】
本発明の経口投与用液剤を構成する成分のうち、ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤とを少なくとも含み、かつ視覚的マーカーを含まない組成物を、消化管造影用組成物という。消化管造影用組成物と視覚的マーカーとを、予めそれぞれ独立して調製しておき、使用直前に、両者を共に所定量の水に溶解させることによっても、本発明の経口投与用液剤を調製することができる。消化管造影用組成物を先に所定量の水に溶解させた後、得られた液剤の少なくとも一部に視覚的マーカーを混合させてもよい。
【0065】
本発明の経口投与用液剤の調製に用いられる消化管造影用組成物は、ヨード化合物と、水溶性高分子と塩類下剤の少なくとも一方とを含有し、水に溶解又は希釈させることにより、ヨード含有量が3.5〜90mg/mLの水溶液が調製される。また、本発明の経口投与用液剤の調製に用いられる消化管造影用組成物を水に溶解又は希釈させることにより得られる水溶液の浸透圧は、200〜440mOsm/Lであることが好ましい。
【0066】
当該消化管造影用組成物は、塩類下剤以外の電解質、ジメチルポリシロキサン、消化管機能促進剤、甘味料、香料等の成分をも含んでいてもよい。また、水溶性高分子と塩類下剤の少なくとも一方とヨード化合物(必要に応じて、塩類下剤以外の電解質、ジメチルポリシロキサン、及び消化管機能促進剤)を含有する消化管造影用組成物と、甘味料や香料といったその他の成分とを別個に調製しておき、服用時に、当該消化管造影用組成物と甘味料や香料といったその他の成分とを適当量の水に溶解させてもよい。経口腸管洗浄用液剤や造影剤の有効成分を予め一の組成物として調製しておき、且つ甘味料や香料のような矯味矯臭作用を有する成分を個別に調整可能としておくことにより、所望の味や臭いを有する経口投与用液剤をより簡便に調製することができる。なお、本発明の消化管造影用組成物としては、各成分が混合可能なように粒子径を調整された後に混合されたものであることが好ましい。
【0067】
本発明の経口投与用液剤の調製に用いられる視覚的マーカー等を製剤化し、消化管造影用製剤としておくことが好ましい。例えば、消化管造影用液剤と、当該消化管造影用液剤とは独立して包含された視覚的マーカーとを含む消化管造影用製剤や、ヨード系水溶性造影剤、腸管洗浄用液剤、及び視覚的マーカーをそれぞれ独立して包含する消化管造影用製剤を用いることにより、本発明の経口投与用液剤をより簡便に調製することができる。また、腸管洗浄用組成物と、固形状のヨード系水溶性造影剤と、視覚的マーカーとを含む消化管造影用製剤としてもよく、消化管造影用組成物と視覚的マーカーとを含む消化管造影用製剤としてもよい。
【0068】
独立して調製される視覚的マーカーの剤形は、比較的安定して保存が可能であり、かつ使用時に簡便に腸管洗浄用液剤と混合可能な形態であれば特に限定されるものではなく、液剤、粉末剤、錠剤、及び顆粒剤等が挙げられる。また、視覚的マーカーの安定性を向上させるために、視覚的マーカーには、還元剤等の化合物等を配合させることができる。
【0069】
その他、前述のように、視覚的マーカーは、本発明の経口投与用液剤としてではなく、固形剤のまま服用してもよい。例えば、ヨード化合物を配合した腸管洗浄用液剤と、粉末剤、錠剤、顆粒剤、及びカプセル剤等の経口摂取可能な固形剤である視覚的マーカーとを、予めそれぞれ独立して調製しておき、使用時に、腸管洗浄用液剤の少なくとも一部と共に視覚的マーカーを服用することもできる。また、腸管洗浄用組成物と、ヨード系水溶性造影剤と、経口摂取可能な固形剤である視覚的マーカーとを、予めそれぞれ独立して調製しておき、使用直前に、腸管洗浄用組成物及びヨード系水溶性造影剤を共に所定量の水に溶解させ、得られた液剤の一部と共に視覚的マーカーを服用することもできる。
【0070】
本発明の消化管造影用製剤に包含される視覚的マーカー及び腸管洗浄用液剤(又は、消化管造影用組成物)の量は、いずれもCTコロノグラフィの前処置一回分の服用量であることが好ましい。経口投与用液剤を調製する際、本発明の消化管造影用製剤に含まれている視覚的マーカーは、腸管洗浄用液剤(又は、消化管造影用組成物を水に溶解させて得られた腸管洗浄用液剤)の全量に溶解させてもよく、その一部に溶解させてもよい。腸管洗浄用液剤の一部に視覚的マーカーを混合させて調製された本発明の経口投与用液剤を服用した後、残る腸管洗浄用液剤を服用することができる。
【0071】
本発明の消化管造影用製剤は、さらに、腸管洗浄に用いられるヨード化合物を含有していない腸管洗浄用液剤(若しくは当該腸管洗浄用液剤を調製するための腸管洗浄用組成物)を、消化管造影用液剤(若しくは当該消化管造影用液剤を調製するための消化管造影用組成物)及び前記視覚的マーカーとは独立して包含することも好ましい。当該腸管洗浄用液剤は、水溶性高分子又は塩類下剤を含有し、浸透圧が200〜440mOsm/Lであり、かつヨード化合物を含有していない液剤である。
【0072】
本発明の消化管造影用製剤に包含される消化管造影用組成物又は腸管洗浄用組成物は、気密性の容器に充填、密封包装して流通に置くことが好ましい。特に、服用の容易性や使用の便宜性を図るためには、いずれも、1回の服用量が包装物1個当たりの内容量となるように調整することが好ましい。
【0073】
消化管造影用組成物又は腸管洗浄用組成物は、熱可塑性樹脂で内張りしたアルミニウム等の金属製の袋ないし缶のような包装体、若しくは熱可塑性樹脂で形成したプラスチック製の包装体に充填される。この場合、リモネンを含有する香料は特にポリオレフィン系の熱可塑性樹脂に吸着されあるいはそれを通して透過散逸され易いため、使用時に十分な量の香料が残存するような包装体とする必要がある。包装体内面の面積と共に樹脂層の厚みも吸着量及び透過散逸量を左右するため、包装体のシール強度の低下を招かず、しかも使用時に十分な量の香料が残存するような範囲に樹脂層の厚み等を設定する必要がある。特に、リモネンの吸着量あるいは透過散逸量が、使用時までに一包装体当たり1000mg以下となるような包装体とすることが好ましい。
【0074】
本発明の消化管造影用製剤に包含される消化管造影用組成物又は腸管洗浄用組成物は、包装体から容器に移して水で溶解することにより、消化管造影用液剤又は腸管洗浄用液剤を調製することができる。しかし、包装体自身を必要な溶解水(例えば200〜1200mL)を収納できるプラスチック製の容器とし、使用時に包装体の中に直接溶解水を入れて溶解し服用すれば、溶解用の容器を別途準備する必要がなくなるので便利である。また、包装体には分割服用する一回当たりの服用量が目視できる目盛りを表示することが好ましい。
【0075】
この場合のプラスチック容器としては、ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂で形成されることが好ましい。ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンを挙げることができる。軟質ポリオレフィンは、容器の成型上必要な樹脂同士の接着性がよいが、リモネンを含有する香料のガス吸着性/透過性が高い。一方、硬質ポリオレフィンは、ガス吸着性/透過性は低いが、樹脂同士の接着性が悪い。したがって、成型上の要件とガス吸着性/透過性の要件の両者を満足させるためには、内層(消化管造影用組成物と接触する面)には軟質ポリオレフィンを用い、その上に硬質ポリオレフィンを重層させれば、全体としてガス吸着性/透過性が低く、接着性(成形性)が良く、しかも溶解用容器としても兼用できる大容量の包装体とすることができる。さらに、最内層(消化管造影用組成物と接触する面)に軟質ポリオレフィン、その外側に硬質ポリオレフィン、さらにその外側に軟質ポリオレフィンを重層して、合計3層としたものが特に好ましい。
【0076】
最内層には軟質ポリエチレン、特に直鎖状ポリエチレンを用いることが好ましい。その場合の最内層の厚みは、リモネンを含有する香料の吸着あるいは透過散逸による減少を抑えるため、100μm以下、好ましくは50μmのポリオレフィン系の熱可塑性樹脂で形成されることが好ましい。軟質ポリオレフィンからなる内層と硬質ポリオレフィンからなる外層の2層でプラスチック製の包装体を形成する場合には、合計の厚みが70〜200μmとし、内層及び外層のそれぞれの厚みを35〜100μmとするのが好ましい。軟質ポリオレフィンを最内層とし、その外側に硬質ポリオレフィンをさらにその外側に軟質ポリオレフィンを重層して3層からなるプラスチック製の包装体を形成する場合には、合計の厚みが70〜200μmとし、それぞれの層の厚みを15〜70μm、特に20〜40μmとするのが好ましい。
【0077】
有効成分のうち、炭酸水素ナトリウムが経時的に炭酸ガスを発生し含量が低下するのを抑え、且つリモネンの包装体からの散逸を防止するという双方の目的を達成するために、包装体のガス透過度は20cc/m・day・atm(25℃)以下であることが好ましい。
【0078】
前記の2層若しくは3層のポリエチレン層の更に外側に、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の熱可塑性樹脂を積層して、包装体の落下衝撃や突き刺しに対する強度を高めた包装体を形成することが好ましい。
【0079】
包装体の形状は特に問わないが、溶解水を収納できるプラスチック製の容器を兼用する場合には、溶解水の注入口を備え、溶解した場合にそれを立てられるような底面を設けるのが好ましい。製造の便を考慮すると、底辺よりも高さの長い縦長のほぼ三角形の2枚の側壁、その側壁の上部に付けた注入口、その側壁の下部に付けた椿の葉のような形状を有する底面を有するものが好ましい。2枚の側壁と底面は柔軟性のあるプラスチックで構成し、注入口は硬いプラスチックで構成し、注入口には蓋を付ける。2枚の側壁と底面を柔軟性のあるプラスチックで構成し、底面は溶解水を入れるまでは内部に折りたためる構造とすることにより、溶解水を注入する迄は、包装体(容器)から空気を排除しておけば全体をコンパクトにできるため、貯蔵、輸送に好都合である。2枚の側壁は内容量が眼で確認できるように透明又は半透明のプラスチックで構成するのが好ましい。その側壁には溶解水の量を示す目盛りを付すことにより、溶解水の注入に計量器を必要とせず、服用に際して服用量を眼で確認できる。
【0080】
本発明の消化管造影用製剤に包含される消化管造影用組成物又は腸管洗浄用組成物は、所定の成分を従来公知の方法で混合して調製することができる。包装体に充填する場合には、空気をできるだけ排除しておくほうが、酸素に不安定な有効成分の経時的な品質劣化を防止でき、嵩張らないので保存、輸送に便利である。 また、長期保存が必要な場合には、本包装体をさらにアルミラミネートフィルム等で形成したガス非透過性の外装用袋に入れ密封することができる。
【0081】
視覚的マーカーや消化管造影用組成物等の本発明の消化管造影用製剤に包含される各成分は、一のキット又は包装品とすることが好ましい。このようなキットや包装品は、その作成には特別の制限はなく、適宜常法によることができる。すなわち、一つの包装形態において少なくとも本発明の消化管造影用製剤の各成分及び組成物が含まれておればよい。これらのキットや包装品には、服用順序、服用方法を記載した指示書、服用を中止しなければならない症状、副作用時の対応が記載された注意書きを入れることが好ましい。さらに、コップ、服用量のチェックシート、時計、溶解液などを入れておくことができる。
【0082】
一例として、電解質及び水溶性高分子(必要に応じて糖類、ジメチルポリシロキサン、及び消化管機能促進剤)を含有し、所定量の水に溶解させることによって浸透圧が200〜440mOsm/Lである腸管洗浄用液剤を調製することができる粉末製剤をプラスチック容器に充填し(特開平4−259461号公報参照)、その容器に、ヨード化合物を含む液剤や錠剤、視覚的マーカーを含む液剤や錠剤、並びに服用手順が記載された指示書及び副作用の症状とその対処法が記載された注意書きが分離収納されたブリスターパックを取り外し可能に装着する。そして、前記ブリスターパック付プラスチック容器を消化管造影用組成物溶解用の容器に挿入あるいは外壁に取り付ける形態が有用である。前記溶解用の容器にあらかじめミネラルウオーター等の溶解液を充填しておくと更に便宜性が高まる。
【0083】
また、電解質及び水溶性高分子(必要に応じて糖類、ジメチルポリシロキサン、及び消化管機能促進剤)を含有し、浸透圧が200〜440mOsm/Lである腸管洗浄用液剤が充填された容器に前記ブリスターパックを取り付けてもよい。
【0084】
他の例として、トリプルバッグとも称すべき、可撓性のプラスチック製バッグを融着部によって仕切られた3個の区画に、本発明の消化管造影用製剤の各成分及び組成物を収容できるようにしたキット用バッグを良い例として挙げることができる。このキット用バッグは使用時に手等で押圧することによって、中間の融着部を剥離し、粉末の各成分又は組成物とその溶解液を混合して経口投与用液剤を調製することができる特徴を有している。そして、このキット用バッグの表面に指示書、注意書きを印刷しておけばバッグひと袋でキット化できる(意願2000−2619号)。
【0085】
炎症性腸疾患患者においては、造影剤が腸管粘膜の炎症を刺激し、潰瘍部等の疾患部への悪影響が懸念されるため、キット又は包装品には、炎症防止の目的でステロイド剤を入れても良い。
【実施例】
【0086】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
[実施例1]
CTコロノグラフィ検査前の前処置において、ヨード系水溶性造影剤とともに視覚的マーカーを服用した場合(A群、2名)と、ヨード系水溶性造影剤のみを服用した場合(B群、2名)とにおいて、CT撮影により得られた大腸画像を評価した。
各群の具体的な前処置は、以下の通りである。なお、ヨード系水溶性造影剤は、イオン性ヨード系造影剤(商品名「ガストログラフィン」、バイエルン製薬社製)を使用し、視覚的マーカーとしてインジゴカルミン注射液(商品名「インジゴカルミン注20mg」、第一三共社製、20mg/5mL)を使用した。
【0088】
A群:検査当日の朝9時に、経口腸管洗浄剤(商品名「ニフレック(登録商標)配合内用剤」、味の素製薬社製)(以下、PEG液剤)1600mLを服用した後、続いてPEG液剤380mLにヨード系水溶性造影剤20mL及びインジゴカルミン注射液5mLを配合した合計405mLを内服した。排泄物の色が淡黄色から緑色に変化したことを確認した後、MDCT撮影を行なった。
B群:検査当日の朝9時に、PEG液剤1600mLを服用した後、続いてPEG液剤380mLにヨード系水溶性造影剤20mLを配合した合計400mLを内服した。ヨード系水溶性造影剤を含有した経口腸管洗浄剤を服用した時点から3〜6時間経過後に、MDCT撮影を行なった。
【0089】
MDCTはマルチスライスCT装置(東芝メディカルシステムズ社製)を使用した。撮影は、仰臥位及び腹臥位の2体位で行い、撮影条件は、管電流の実効値が100mA以下、ガントリ回転速度が0.5sec/r、撮影スライス厚が1.0mm以下、再構成スライス厚が1.0mm以下、再構成間隔が0.8mm以下とした。撮影された画像から造影剤による残渣標識の程度を調べ、各群の前処置の質の評価を行った。
図1及び3はA群の被験者のCT画像であり、図2及び4はB群の被験者のCT画像である。いずれも図の上側が腹側、下側が背中側である。
【0090】
この結果、A群の被験者のうち症例1(図1)では、直腸の残液のCT値は398〜349であり、良好にタギングされていた。これに対して、B群の被験者である症例2(図2)では、小腸残液のCT値は416〜289であったが、直腸の残液はCT値が71〜−46であり、盲腸の残液のCT値も81〜62であり、直腸と盲腸はいずれもタギングが全くされていなかった。
また、A群の被験者のうち症例3(図3)では、盲腸の残液のCT値は439〜288であり、下行結腸のCT値も394〜285であり、いずれも良好にタギングされていた。これに対して、B群の被験者である症例4(図4)では、小腸残液のCT値は345〜309であったが、盲腸の残液はCT値が64〜9であり、下行結腸の残液のCT値も18〜−59であり、盲腸と下行結腸はいずれもタギングが全くされていなかった。
つまり、視覚的マーカーを用いてCT撮像のタイミングを決定したA群では、大腸の深部の液状残渣も良好にタギングされた時点で撮影されていたが、視覚的マーカーを用いなかったB群では、ヨード系水溶性造影剤が大腸に到達していない時点で撮影を行ってしまっており、撮影タイミングを間違えていた。
【0091】
[実施例2]
CTコロノグラフィ検査前の前処置において、ヨード系水溶性造影剤とともに視覚的マーカーを服用し、CT撮影により得られた大腸画像を評価した。
各群の具体的な前処置は、以下の通りである。なお、ヨード系水溶性造影剤、PEG液剤、及びインジゴカルミン注射液は、実施例1で使用したものを用いた。
【0092】
A群:検査当日の朝9時に、PEG液剤1600mLを服用した後、続いてPEG液剤190mLにヨード系水溶性造影剤10mL及びインジゴカルミン注射液10mLを配合した合計210mLを服用し、その後さらにPEG液剤190mLにヨード系水溶性造影剤10mLを配合した合計200mLを服用した。
B群:検査当日の朝9時に、PEG液剤1600mLを服用した後、続いてPEG液剤190mLにヨード系水溶性造影剤10mL及びインジゴカルミン注射液5mLを配合した合計205mLを服用し、その後さらにPEG液剤190mLにヨード系水溶性造影剤10mLを配合した合計200mLを服用した。
C群:検査当日の朝9時に、PEG液剤1600mLを服用した後、続いてPEG液剤380mLにヨード系水溶性造影剤20mL及びインジゴカルミン注射液10mLを配合した合計410mLを服用した。
【0093】
排便の色を観察し、排便に色がつきはじめたら(すなわち、排泄物の色が淡黄色から緑色に変化しはじめたら)、排便の色をデジタルカメラで撮影し記録した。排便の色の変化を確認した後、実施例1と同様にしてMDCT撮影を行なった。撮影された画像から、盲腸、横行結腸、下行結腸、及び直腸中の液状残渣のCT値を測定した。
【0094】
目視で観察した結果、排便の色が黄緑から新緑色、そして青みがかったナイトブルーへと変化することが観察された。腸管洗浄開始から排便に色が観察されるまでに要した時間は検体ごとに大きく異なり、ヨード系水溶性造影剤が大腸深部にまで到達するまでの時間は、個体差が非常に大きいことが確認された。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に、盲腸、横行結腸、下行結腸、及び直腸中の液状残渣のCT値の測定結果を示す。表1中、「色確認時間」は、排便に色がつきはじめたことが確認された時間であり、「CT撮影時間」は、CT画像が撮影された時間である。インジゴカルミンの排泄を確認後にCT画像を撮影したため、得られたCT画像では、全ての検体において、大腸深部の液状残渣まで良好にタギングされていた。
【0097】
また、検体4及び5では、CT撮影後、続けて内視鏡検査も行った。両検体とも、腸管内壁にわずかに青い液が残存していたが、問題なく内視鏡検査を行うことができた。
【0098】
排便の画像から、排便の色をCMYK値で表した結果を表2に示す。色彩データは、作図ソフトウェアの色彩モード表示機能を利用して測定した。図中、「色確認時間」は、排便に色がつきはじめたことが確認された時間であり、「撮影時間」は、排便の画像がデジタルカメラで撮影された時間である。この結果、例えば検体3では、排便の色がつき始めた時点から、C(シアン)値が69.8から86.67まで経時的に増大していた。また、CT撮影時には、各検体の排便の色は、C値が80〜87であり、ほぼ同程度の量のインジゴカルミンが排泄されていたことがわかった。
【0099】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の経口投与用液剤は、CTコロノグラフィの前処置に好適に用いることができ、大腸検診等の臨床検査の分野、特に集団検診等の一次スクリーニング検査で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CTコロノグラフィの消化管造影における経口投与用液剤であって、
ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤と、経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーとを含有することを特徴とする経口投与用液剤。
【請求項2】
前記視覚的マーカーが、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、ブリリアントブルーFCF、コチニール色素、ラック色素、及びアシッドレッドからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の経口投与用液剤。
【請求項3】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン、ペクチン、アルブミン及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される1種類以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の経口投与用液剤。
【請求項4】
浸透圧が200〜440mOsm/Lであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の経口投与用液剤。
【請求項5】
さらに、シュクロース、ソルビトール、キシリトール、エリトリトール、マンニトール、トレハロース、ラクチトール、ラクチュロース、マルチトール、パラチノース、ラフィノース及びグリセリンからなる群より選択される1種以上の糖類を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の経口投与用液剤。
【請求項6】
前記ヨード化合物の含有量が3.5〜90mg/mLであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の経口投与用液剤。
【請求項7】
さらに、ジメチルポリシロキサン及び消化管機能促進剤からなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の経口投与用液剤。
【請求項8】
ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤とを含有する消化管造影用液剤、及び
経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーを含み、
前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用液剤とは独立して包含されており、
前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用液剤の少なくとも一部とともに経口摂取されることを特徴とする消化管造影用製剤。
【請求項9】
前記視覚的マーカーが、液剤、粉末剤、錠剤、顆粒剤、又はカプセル剤である請求項8に記載の消化管造影用製剤。
【請求項10】
前記視覚的マーカーが、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、ブリリアントブルーFCF、コチニール色素、ラック色素、及びアシッドレッドからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項8又は9に記載の消化管造影用製剤。
【請求項11】
前記消化管造影用液剤の浸透圧が200〜440mOsm/Lであり、
ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン、ペクチン、アルブミン及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される1種類以上の水溶性高分子、又は
クエン酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選択される1種類以上の塩類下剤を含有することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の消化管造影用製剤。
【請求項12】
前記消化管造影用液剤が、さらに、ジメチルポリシロキサン及び消化管機能促進剤からなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の消化管造影用製剤。
【請求項13】
さらに、水溶性高分子又は塩類下剤を含有し、浸透圧が200〜440mOsm/Lであり、かつヨード化合物を含有していない腸管洗浄用液剤を含み、
前記腸管洗浄用液剤は、前記消化管造影用液剤及び前記視覚的マーカーとは独立して包含されていることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一項に記載の消化管造影用製剤。
【請求項14】
ヨード化合物と、水溶性高分子又は塩類下剤とを含有する消化管造影用組成物、及び
経口摂取後大腸からの排泄の有無を視覚的に判別するための視覚的マーカーを含み、
前記消化管造影用組成物は、水に溶解させて、ヨード含有量が3.5〜90mg/mLの水溶液として、CTコロノグラフィの前に服用されるものであり、
前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用組成物とは独立して包含されていることを特徴とする消化管造影用製剤。
【請求項15】
前記視覚的マーカーは、前記消化管造影用組成物を水に溶解させた液剤の少なくとも一部とともに経口摂取されることを特徴とする請求項14に記載の消化管造影用製剤。
【請求項16】
前記視覚的マーカーが、液剤、粉末剤、錠剤、顆粒剤、又はカプセル剤である請求項14又は15に記載の消化管造影用製剤。
【請求項17】
前記視覚的マーカーが、インジゴカルミン、トルイジンブルー、インドシアニングリーン、メチレンブルー、ピオクタニンブルー、ブリリアントブルーFCF、コチニール色素、ラック色素、及びアシッドレッドからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載の消化管造影用製剤。
【請求項18】
前記消化管造影用組成物は、水に溶解したとき、浸透圧が200〜440mOsm/Lとなるように電解質を含有し、
ポリエチレングリコール、ポリデキストロース、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム、プルラン、ペクチン、アルブミン及びカルボキシメチルセルロースからなる群より選択される1種類以上の水溶性高分子、又は
クエン酸マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素二ナトリウムからなる群より選択される1種類以上の塩類下剤を含有することを特徴とする請求項14〜17のいずれか一項に記載の消化管造影用製剤。
【請求項19】
前記消化管造影用組成物が、さらに、ジメチルポリシロキサン及び消化管機能促進剤からなる群より選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項14〜18のいずれか一項に記載の消化管造影用製剤。
【請求項20】
さらに、水溶性高分子又は塩類下剤を含有し、かつヨード化合物を含有していない腸管洗浄用組成物を含み、
前記腸管洗浄用組成物は、前記消化管造影用組成物及び前記視覚的マーカーとは独立して包含されており、かつ水に溶解したとき、浸透圧が200〜440mOsm/Lとなるように電解質を含有していることを特徴とする請求項14〜19のいずれか一項に記載の消化管造影用製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60441(P2013−60441A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200789(P2012−200789)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】