DNAマーカーを利用した青枯病抵抗性カプシカム属植物個体の選抜方法
【課題】カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖するDNAマーカーを見出し、これを利用して育苗段階早期に青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を安定的かつ効率的に識別・選抜する手段を提供すること。
【解決手段】カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット、および、カプシカム属植物から抽出した核酸を鋳型とし、前記のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を選抜する方法。
【解決手段】カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット、および、カプシカム属植物から抽出した核酸を鋳型とし、前記のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を選抜する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーマンをはじめとするカプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖するDNAマーカーを増幅するためのプライマーセット、当該プライマーセットを用いた青枯病抵抗性のカプシカム属植物個体の選抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青枯病は、Ralstonia solanacearumによって引き起こされる土壌病害であり、ピーマンやトウガラシなどのカプシカム属植物を萎凋枯死させる。青枯病は、一度発生すると永年にわたって発生し続け、防除がきわめて困難であり、早急な対策が求められている。青枯病に対する防除対策としては、青枯病に対する抵抗性品種の導入がまず挙げられ、これまでピーマンやトウガラシについて、その抵抗性程度に差はあるものの種々の青枯病抵抗性品種及び系統が報告されている(非特許文献1、2)。しかしながら、ピーマンやトウガラシなどにおける青枯病抵抗性は、複数の量的な遺伝形質(QTL:Quantitative trait loci)によって支配されていると考えられ(非特許文献3)、抵抗性個体の安定した選抜が難しく、優れた青枯病抵抗性品種は未だ育成されてない。そのため、現在のところ、抵抗性を有する台木を用いて青枯病を回避しているが、この方法では苗の接ぎ木および育苗に多くの労力とコストを要するという問題がある。
【0003】
従来の病原菌接種検定による抵抗性個体の選抜方法では、多大な労力と時間を必要とするため非効率的である上に、接種時の温度などの環境や植物の生育ステージなどに左右されるため検定精度が低い。従って、育苗段階で青枯病抵抗性個体を安定的かつ効率的に選抜する方法の開発が望まれる。一方、DNA情報を形質マーカーとする選抜方法は、従来の病原菌接種検定による抵抗性個体の選抜方法とは異なって、植物個体が目的とする形質を発現する前の生育段階における選抜が可能であるので労力や時間の省略化につながり、しかも環境や生育ステージによってDNA情報は変化しないので安定である。しかしながら、カプシカム属植物について青枯病抵抗性個体を効率的に識別し、選抜する手段となる有効なDNAマーカーについては未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Matsunaga and S. Monma, Sources of resistance to bacterial wilt in Capsicum, J. Japan. Soc. Hort. Sci., 68(4): 753-761 (1999)
【非特許文献2】D. Lafortune et al., Partial resistance of pepper to bacterial wilt is oligogenic and stable under tropical conditions, Plant disease, 89(5): 501-506 (2005)
【非特許文献3】津呂 正人ら、日本産トウガラシ(Capsicum annuum L.)における青枯病抵抗性に関するQTL解析、育種学研究、9(3):111-115 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖し、青枯病抵抗性個体の識別・選抜に有効なDNAマーカーを見出し、これを利用して育苗段階早期に青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を安定的かつ効率的に識別・選抜する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(i) ピーマンの青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統との間で多型性を示すDNAマーカー(AFLP、RAPD、SSR)を選抜し、(ii)青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統との交配後代集団を解析集団として上記DNAマーカーの多型分布を調査して連鎖地図を作成し、(iii)交配後代集団の本病原菌に対する表現型の分離パターンを調査してQTL解析を行った。その結果、17個のSSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)が、青枯病抵抗性QTLと連鎖することを見出すとともに、該DNAマーカーを用いることにより育種過程で青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を効率的に選抜できることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(A)〜(Q)のいずれかに記載のカプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット。
(A) 配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs1増幅用プライマーセット
(B) 配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs2増幅用プライマーセット
(C) 配列番号5に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs3増幅用プライマーセット
(D) 配列番号7に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs4増幅用プライマーセット
(E) 配列番号9に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs5増幅用プライマーセット
(F) 配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs6増幅用プライマーセット
(G) 配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs7増幅用プライマーセット
(H) 配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs8増幅用プライマーセット
(I) 配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs9増幅用プライマーセット
(J)配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs10増幅用プライマーセット
(K)配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs11増幅用プライマーセット
(L)配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs13増幅用プライマーセット
(M)配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs14増幅用プライマーセット
(N)配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号28に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs15増幅用プライマーセット
(O)配列番号29に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号30に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs16増幅用プライマーセット
(P)配列番号31に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号32に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs17増幅用プライマーセット
(Q)配列番号33に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号34に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs18増幅用プライマーセット
【0008】
(2) カプシカム属植物がピーマンである、(1)に記載のプライマーセット。
(3) カプシカム属植物から抽出した核酸を鋳型とし、(1)に記載のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を選抜する方法。
(4) (1)に記載のプライマーセットを含む、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体の選抜用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖するDNAマーカーを増幅するためのプライマーセットが提供される。本発明のプライマーセットを用いることにより、温度などの環境条件や植物の生育ステージに左右されることなく、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を育苗段階で早期にかつ効率よく選抜を行うことができる。従って、本発明は、青枯病抵抗性を有するカプシカム植物の育種に際し、育種効率の向上、労力や時間の軽減、コストの削減、栽培面積の削減に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】青枯病罹病性系統「K9-11」と青枯病抵抗性系統「MZC-180」のF1由来DH集団(以下、「DH集団」という)を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG1〜3)を示す。
【図1B】DH集団を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG4〜6)を示す。
【図1C】DH集団を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG7〜9)を示す。
【図1D】DH集団を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG10〜15)を示す。
【図2】DH集団における青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布(2006年)を示す(A:強接種検定(菌濃度: 2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、B:弱接種検定(菌濃度: 2.0×106個/ml) 5回の発病指数平均)。
【図3】DH集団における青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布(2007年)を示す(強接種検定(菌濃度: 2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均)。
【図4】DH集団における青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布(2006年および2007年)を示す(強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均)。
【図5A】DH集団を用いた青枯病抵抗性に関するQTL解析(LG1〜4)を示す(2006aバーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、2006bバーは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均、 2007バーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均を用いてQTL解析を行った結果、LOD値 2.0を超えた領域を示す。三角矢印は、QTLのピークを示す)。
【図5B】DH集団を用いた青枯病抵抗性に関するQTL解析(LG5〜8)を示す(2006aバーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、2006bバーは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均、 2007バーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均を用いてQTL解析を行った結果、LOD値 2.0を超えた領域を示す。三角矢印は、QTLのピークを示す)。
【図5C】DH集団を用いた青枯病抵抗性に関するQTL解析(LG9〜15)を示す(2006aバーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、2006bバーは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均、2007バーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均を用いてQTL解析を行った結果、LOD値 2.0を超えた領域を示す。三角矢印は、QTLのピークを示す)。
【図6】DNAマーカーRs1(上段)及びRs2(下段)を用いた場合のPCR増幅産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動図を示す。Mはサイズマーカー(100bpラダー)、Kは「K9-11」、Lは「MZC-180」の電気泳動パターンを示す。図右に示している矢印は、多型の得られている増幅断片部位を示す。
【図7】DNAマーカー座(Rs1、Rs2、Rs3)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図8】DNAマーカー座(Rs4、Rs5、Rs6)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図9】DNAマーカー座(Rs7、Rs8、Rs9)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図10】DNAマーカー座(Rs10、Rs11、Rs13)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図11】DNAマーカー座(Rs14、Rs15、Rs16)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図12】DNAマーカー座(Rs17およびRs18)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図13】QTL近傍の複数DNAマーカー座におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す。Aは、LG 2 (Rs3、Rs4)及びLG 4 (Rs6、Rs9)、LG 8(Rs10、Rs17) 上のQTL最近傍DNAマーカー6座において「MZC-180型」を示す系統の度数分布を示す。Bは、同座において、「K9-11型」を示す系統の度数分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー
カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを取得するための手順を説明する。
【0012】
まず、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座の推定のために用いる解析集団として、カプシカム属の青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統を交配して得られるF1系統を葯培養して抵抗性の程度に差のある倍加半数体(doubled haploid、以下DHという)系統を育成する。カプシカム属の青枯病罹病性系統としては、例えば、宮崎県総合農業試験場が葯培養によって育成したベルタイプのピーマンである「K9-11」を用いることができる。カプシカム属の青枯病抵抗性系統としては、例えば、トウガラシ野生種LS2341を宮崎県総合農業試験場において青枯病接種検定後に選抜自殖した後代系統である「MZC-180」を用いることができる。「MZC-180」はCapsicum annuum L.に属し、強度青枯病抵抗性を有する系統であり、その病害抵抗性形質は他カプシカム属の品種及び系統とは異なり非常に強い抵抗性である。ここで、育成するDH集団は、規模が大きいほうが好ましく、150系統以上の集団を用いることが好ましい。
【0013】
次に、青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統との間で多型を示すDNAマーカーを検索する。当該DNAマーカーとしては、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、ランダム増幅多型(RAPD)マーカー、単純反復配列(SSR)マーカーを挙げることができる。
【0014】
AFLPマーカーとは、AFLP法によって得られるDNAマーカーをいい、抽出したDNAを制限酵素(例えばMseI,EcoRI)で消化した断片に、DNAリガーゼを用いてアダプターを結合させたオリゴヌクレオチドを鋳型として用い、いわゆる前選択合成オリゴヌクレオチドを用いたPCRを行い、次いで、この増幅断片を鋳型にして、いわゆる選択合成オリゴヌクレオチドを組み合わせてPCRを行うことによって得られる。これらの用いる制限酵素や合成オリゴヌクレオチドの種類を変えることにより、容易にかつ数多くのDNAマーカーを得ることができる。
【0015】
RAPDマーカーとは、RAPD法によって得られるDNAマーカーをいい、抽出したDNAを任意の10〜12塩基の配列を持つ合成オリゴヌクレオチドを用いてPCRすることによって得られる。これらの用いる合成オリゴヌクレオチドの種類を変えることにより、容易にかつ数多くのDNAマーカーを得ることができる。
【0016】
SSRマーカーとは、ゲノム上に広く散在している数塩基の繰り返し配列からなる反復配列を利用して得られるDNAマーカーをいい、抽出したDNAを特定の20〜30塩基程度の配列を持つ合成オリゴヌクレオチドを用いてPCRすることによって得られる。このSSRマーカーは、一度に得られるDNAマーカー数は少ないものの、多型性に富み、且つゲノム上の位置情報が明確であるため、動植物において種々のDNAマーカーとして利用されている。
【0017】
上記DNAマーカー解析により、青枯病罹病性系統「K9-11」と青枯病抵抗性系統「MZC-180」の増幅産物を比較することにより、「K9-11」と「MZC-180」との間で多型検索を行い、「K9-11」と「MZC-180」にそれぞれ特異的に存在し、かつ上記で育成した「K9-11」と「MZC-180」の交配後代集団(DH集団)でその有無の分離が認められる増幅産物を、選抜用マーカーの候補として選択する。
【0018】
次に、前記のDH集団を用いて青枯病菌接種検定を行い、その表現型(青枯病発病指数)の分離パターンと、候補DNAマーカーの多型分布を調査して連鎖地図を作製する。DNAマーカーによる連鎖地図は、例えばMAPMAKER Ver. 3.0[Lander, E., P. Green, J. Abrahamson, A. Barlow, M. Daley, S. Lincoln and L. Newburg (1987) MAPMAKER: An interactive computer package for constructing primary genetic linkage maps of experimental and natural populations. Genomics 1:174-181.]で作製することができる。
【0019】
連鎖地図を作製した後、青枯病抵抗性遺伝子座と強く連鎖するDNAマーカーを詳細に特定するために、DH集団における青枯病接種検定結果とDNAマーカーが示す多型との関連についてQTL解析を行う。QTL解析は、例えばMAPMAKER/QTL Ver. 1.1[Lincoln, S. E., M. J. Daily and E. S. Lander (1993) Mapping genes controlling quantitative traits using MAPMAKER/QTL version 1.1: a tutorial and reference manual, 2nd edn. Whitehead Institute Technical Report. Cambridge, Massachusetts.]で行うことができる。特定した領域に存在するDNAマーカーの中から、青枯病抵抗性個体の選抜に有効なDNAマーカーとして最適なものを選定する。その結果、本発明においては、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖し、青枯病抵抗性個体の選抜に有効なDNAマーカーとして17個のSSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)を選定することができた。
【0020】
2.カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット
上記のSSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)は、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖しているため、青枯病抵抗性形質の検出に利用することができる。本発明によれば、この検出を容易に行うために、当該SSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)を特異的に増幅できるプライマーセットが提供される。
【0021】
本発明のプライマーセットは、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを特異的に増幅することのできるオリゴヌクレオチドのペアから構成される下記の17組のプライマーセットである。本発明のプライマーセットを用いたPCR増幅産物を指標としてカプシカム属植物が青枯病抵抗性を有するか否かの識別、および青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体の選抜を行うことできる。
(A) 配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs1増幅用プライマーセット
5'-caaatcttaccctaccgtaag-3' (配列番号1)
5'-ggttctaaacgagttagtgaaac-3' (配列番号2)
(B) 配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs2増幅用プライマーセット
5'-ctcacaccttacaatcttttggtatg-3' (配列番号3)
5'-ctctctgtctctgtctctgtc-3' (配列番号4)
(C) 配列番号5に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs3増幅用プライマーセット
5'-atcaaatggctaacaatcattccg-3' (配列番号5)
5'-gtttgaagcaatgggtttaacaagcagg-3' (配列番号6)
(D) 配列番号7に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs4増幅用プライマーセット
5'-acctcaacagcatccaatgttacaa-3' (配列番号7)
5'-gtttgcatatcagcagaagccataattgg-3' (配列番号8)
(E) 配列番号9に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs5増幅用プライマーセット
5'-gcagaagccataattggctg-3' (配列番号9)
5'-ggagttaactcaaaggttgc-3' (配列番号10)
(F) 配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs6増幅用プライマーセット
5'-tgagggtattttcgtcatttcac-3' (配列番号11)
5'-gaaagcggaaaacattaagagtca-3' (配列番号12)
(G) 配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs7増幅用プライマーセット
5'-tctttgtccctgctgctgta-3' (配列番号13)
5'-accccaaaacacaaccaaaa-3' (配列番号14)
(H) 配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs8増幅用プライマーセット
5'- acgaggcccaagctgttatgtc -3' (配列番号15)
5'- ttgtcccgactctccattgacc -3' (配列番号16)
(I) 配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs9増幅用プライマーセット
5'-tgctttcaaaacaatttgcatgg -3' (配列番号17)
5'-gcgtctaatgcaaaacacacattac -3' (配列番号18)
(J)配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs10増幅用プライマーセット
5'-ataatgcatgctaaatccggttcc -3' (配列番号19)
5'-gtttagctgttctcgaagccgaactcta -3' (配列番号20)
(K)配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs11増幅用プライマーセット
5'-ctaggcaatttgaaggccaa -3' (配列番号21)
5'-gggtgatggaagtatggtgg -3' (配列番号22)
(L)配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs13増幅用プライマーセット
5'-agtcatcaacttcgcgttattgtc-3' (配列番号23)
5'-gtttctgctgtttggccatatcc-3' (配列番号24)
(M)配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs14増幅用プライマーセット
5'-gtggtgcttcattctctacct-3' (配列番号25)
5'-ccaacagatgtgtcagttatttgct-3' (配列番号26)
(N)配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号28に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs15増幅用プライマーセット
5'-atgatatctgaacgatgtgtcggg-3' (配列番号27)
5'-gtttaattcaatgcgatggaaagagcc-3' (配列番号28)
(O)配列番号29に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号30に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs16増幅用プライマーセット
5'-gatagtatctatgattgacgagac-3' (配列番号29)
5'-cttgtgacggaatgtaacaacac-3' (配列番号30)
(P)配列番号31に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号32に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs17増幅用プライマーセット
5'-gtgttgcagggcattccttga-3' (配列番号31)
5'-ttcactggagggatgtccca-3' (配列番号32)
(Q)配列番号33に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号34に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs18増幅用プライマーセット
5'-aagaagggggagatgatgacga-3' (配列番号33)
5'-tcctcaagccatgatagagaagca-3' (配列番号34)
【0022】
上記プライマーセットの各オリゴヌクレオチドは、配列番号1〜34に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと実質的に同一の機能を有する限り、配列番号1〜34に示す塩基配列において1〜数個(例えば、5個、好ましくは3個、より好ましくは1個)の塩基が欠失、付加、置換した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0023】
上記プライマーセットの各オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することが可能である。
【0024】
また、上記オリゴヌクレオチドは、これらをプライマーとするPCR増幅産物の検出を容易にするために、標識物質をつけたオリゴヌクレオチドであってもよい。標識物質としては、当該技術分野においてよく知られる蛍光物質(FITC、ROC等)、放射性同位体、化学発光物質(例えば、DNP)、ビオチン、DIG(ジゴキシゲニン)等を用いることができる。
【0025】
3.青枯病抵抗性カプシカム属植物個体の選抜方法
本発明の青枯病抵抗性カプシカム属植物個体の選抜方法は、カプシカム属植物個体から抽出した核酸を鋳型とし、上記のプライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析することにより行う。
【0026】
本発明において「カプシカム属植物」とは、ナス科(Solanaceae)カプシカム属(Capsicum)に属する植物で、代表的な種としては、Capsicum annuum、Capsicum Chinese、Capsicum baccatum、Capsicum frutescens等を挙げることができる。なお、カプシカム属の中で、我が国において最も生産流通が多い種は、Capsicum annuumであり、それに属する野菜としては、ピーマン、シシトウガラシ、パプリカ等である。
【0027】
上記プライマーセットは、識別・選抜すべき被検植物の種類や数によって、全てを用いる必要はなく、プライマーセットの1種または複数種を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0028】
具体的手順を例示すると以下のようになる。まず、被検植物となるカプシカム属植物個体からDNAを抽出する。DNA抽出に用いる植物体の組織は特に限定されず、葉、果実、種子、根、茎など、いずれの組織であってもよいが、好ましくは葉を用いる。さらに、これらの組織は、核酸抽出の効率を良く行うことができるように液体窒素を用いて粉砕しておくことが好ましい。
【0029】
DNAの抽出は、公知の方法で行うことができ、好ましくはCTBA法[Murrayら、Nucleic Acids Res. 8, 4321-4325 (1980)]が用いられる。具体的には、以下のような手順で行う。まずカプシカム属植物個体の葉などの組織を液体窒素中で磨砕する。該磨砕物に臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)溶液を添加してインキュベートした後、クロロホルム−イソアミルアルコールを加えてよく混和する。遠心分離により水層を分離・回収し、これにイソプロピルアルコールを加えてよく混和する。遠心分離により沈殿部を回収後、例えばEDTA等含有の緩衝液を加えて溶解し、RNase処理する。処理後、フェノール、フェノールとクロロホルム−イソアミルアルコール、クロロホルム−イソアミルアルコールの順序で溶媒を置換する。置換処理後、エタノールを加えてよく混和し、遠心分離によりゲノムDNAを得ることができる。抽出には市販のキット(例えば、QIAGEN社の「DNeasy」等)を利用して行うこともできる。なお、DNA抽出量としては、DNAマーカーの解析が可能な量が抽出されていればよい。PCRに供する場合には、例えば、1反応あたり1ng以上である。
【0030】
次いで、抽出したDNAを鋳型とし、本発明のプライマーセットの1種または複数種を用いて、PCR増幅を行う。PCR増幅は前述のプライマーセットを用いる以外は特に制限はなく、常法に従って行えばよい。具体的には、鋳型DNAの変性、プライマーへの鋳型へのアニーリング、および耐熱性酵素(Taqポリメラーゼ)を用いたプライマーの伸長反応を含むサイクルを繰り返すことにより、目的とする青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを含む断片を増幅させる。PCR反応液の組成、PCR反応条件(温度サイクル、サイクルの回数等)は、上記のプライマーセットを用いたPCRにおいて高感度でPCR増幅産物が得られるような条件を予備実験等により当業者であれば適切に選択および設定することができる。プライマーのTmに基づいて適当なPCR反応条件を選択する方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、最初に94℃で2分間の変性反応、次に94℃で1分間、45℃で1分間、72℃で3分間を1サイクルとして30サイクル、最後に72℃で5分間の伸長反応により実施することができる。このようなPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。PCR装置は、例えば、GeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems社製)、GeneAmp PCR System 9600(Applied Biosystems社製)などが使用できる。
【0031】
PCR増幅産物の検出は、アガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などの慣用の電気泳動、DNAハイブリダイゼーションやリアルタイムPCR等の方法を用いて確認する。例えば、アガロースゲル電気泳動では、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を単一のバンドとして検出し、バンドの位置に基づいて、「青枯病抵抗性型」か否かを判定する。
【0032】
上記プライマーセットはキット化することもできる。本発明のキットは、上記の17組のプライマーセットを含むものであればよく、識別・選抜すべき被検植物の種類や数によって、これらのプライマーセットの中から適当なセットを適宜選択して用いればよい。本発明のキットには、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、反応の陽性コントロールとなるPCR増幅領域を含むDNA溶液、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)DNAマーカーを用いたピーマン連鎖地図の作成
(1) 解析材料となる倍加半数体系統(DH)の育成
青枯病罹病性系統「K9-11」と、強度の青枯病抵抗性を有するトウガラシ野生種LS2341の自殖後代から青枯病菌接種試験により選抜した青枯病抵抗性系統「MZC-180」とを交配して得られたF1系統を葯培養し、抵抗性の程度に差のある倍加半数体(DH:doubled haploid)184系統を育成した。
【0034】
(2) DNA抽出
上記各系統植物からのDNA抽出・精製は市販のDNA抽出・精製キット(DNeasy Plant mini Kit;キアゲン社製)を用い、具体的な操作はキアゲン社の推奨するプロトコルに従って行った。まず、植物の新鮮な上位葉1枚程度(約0.1 g)を液体窒素で冷やしておいた乳鉢上でパウダー状になるまで粉砕し、当該粉砕サンプルにプロトコルに従ってAP1 Buffer(同キット添付)とRNase A を添加し、65℃で10分間インキュベートした。次いで、AP2 Buffer(同キット添付)を加え、氷上で5 分間静置した後、遠心分離した。得られた上清をQIA shredder spin columnを用いて遠心分離し、溶出したろ液をAP3/E Buffer(同キット添付)と混和した。この混和液をDNeasy spin culumnに加えて遠心分離し、溶出液を除去した後、カラムにAW Buffer(同キット添付)を加え遠心分離することでリンスした。さらにもう1回AW Bufferを加え、遠心分離を行い、DNAの吸着したメンブレンからエタノールを完全に取り除いた。このメンブレンにAE Buffer(同キット添付)を加え5分以上静置した後、遠心分離し、DNAを抽出した。さらにもう1回この操作を繰り返した。得られたDNA抽出液の濃度は約400 ng/μLであった。得られたDNA抽出液をTEバッファー(10 mM Tris, 1mM EDTA, pH 8.0)で25 ng/μLに希釈したDNA溶液を、鋳型DNAとして試験に用いた。
【0035】
(3) DNAマーカー解析
DH集団184系統を用いた連鎖解析によって連鎖地図を作製することを目的として、「K9-11」と「MZC-180」との間で多型のあるDNAマーカーを検索した。
【0036】
DNAマーカーには、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、ランダム増幅多型(RAPD)マーカー、単純反復配列(SSR)マーカーを用いた。
(3-1)AFLPマーカー解析
上記(2)で抽出したDNAを鋳型として、AFLP/HEGS法[Kawasaki, S. and Y. Murakami (2000) Genome Analysis of Lotus japonicus. J. Plant Res. 113:497-506.]を行った。まず、抽出したDNAに制限酵素Pst IとMse I、又はXba IとMse Iを加え、37℃で12時間制限酵素処理を行った。次に、制限酵素処理断片にPst IアダプターとMse Iアダプター、又はXba IアダプターとMse Iアダプターを加えて室温で4時間DNAリガーゼによるライゲーション反応を行った後、Pst I又はXba IとMse Iアダプターの部分塩基配列とそれに隣接する制限酵素の切断面の塩基配列とで構成されるPst I又はXba IとMse I前選択プライマーを用いてPCR(反応条件:94℃で1分間の前処理後、94℃で30秒間(熱変性)、56℃で1分間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計20サイクル)を行った。その後、Pst I又はXba IとMse I前選択プライマーの3'末端側にさらに任意の3塩基を付加した塩基配列を有するPst I又はXba I選択プライマー(各31種類)、Mse I選択プライマー(16種類)を用い、合計992(31x16x2)通りの選択PCR(反応条件:94℃で30秒間(熱変性)、68℃(-0.7℃/1サイクル)で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計17サイクル、その後、94℃で30秒間(熱変性)、56℃で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計23サイクル)を行った。なお、各段階におけるPCR反応は、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を使用し、Kawasaki, S. and Y. Murakami (2000)の手法に従って行った。得られたPCR増幅産物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(日本エイドー社製4連式電気泳動装置を使用)後、SYBR Green I希釈溶液に30分間浸し、FUJI FILM社製フルオロイメージアナライザー(FLA5100)で撮影を行うことによって検出した。
【0037】
(3-2)RAPDマーカー解析
上記(2)で抽出したDNAを鋳型として、任意の10〜12塩基の配列を持つプライマー(RAPDプライマー)を用いてRAPD法[Williams, J. G. K., A. R. Kubelik, K. J. Livak, J. A. Rafalski and S. V. Tingey (1990) DNA polymorphisms amplified by arbitrary primers are useful as genomic markers. Nucleic Acids Res. 18:6531-6535.]を行った。RAPDプライマーとして、オペロン社と和光純薬社から市販されている10塩基からなる計1,470種類[オペロン社:OPA(1〜20)〜OPZ(1〜20), OPAA(1〜20)〜OPAZ(1〜20), OPBA(1〜20)〜OPBH(1〜20)の計1200種類、和光純薬社:C(60種類), D(60種類), E(E-1,E-2,E-3の36種類)、その他A+B+F+G(114種類)の計270種類]を用いた。
【0038】
DNA抽出液2μL(10ng/μL)、10×緩衝液(100mM Tris-HCl,500mM KCl,15mM MgCl2,タカラバイオ社)2μL、2.5mM dNTPs 2μL(タカラバイオ社)、20μM ランダムプライマー 1μL(オペロンバイオテクノロジー社)、5uints/μL Taqポリメラーゼ(rTaq;タカラバイオ社)0.4μL、蒸留水12.6μLを含む反応液を調製し、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を用いてPCR反応を行った(反応条件:95℃で1分間の前処理後、94℃で1分間(熱変性)、35℃で2分間(アニーリング)、72℃で3分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計40サイクルを行い、最後に72℃で5分間伸長反応する)。得られたPCR増幅産物は、アガロースゲル電気泳動し、エチジウムブロマイド染色して検出した。
【0039】
(3-3)SSRマーカー解析
SSRマーカーとして、(i) 新たに作製したゲノム由来SSRマーカー、(ii)データベース(Pepper Gene Index(CaGI2.0:13,003配列、http://compbio.dfci.harvard.edu/tgi/)に掲載のEST由来SSRマーカー、(iii)同データベースに掲載のEST配列情報を利用してread2Marker[read2Marker: H. Fukuoka et al., Bio Techniques 39:472-476 (2005)]によりSSRを検索し、新たにプライマーを設計したEST由来SSRマーカー、および(iv)文献(Yi G, Lee JM, Lee S, Choi D, Kim BD. (2006) Exploitation of pepper EST-SSRs and an SSR-based linkage map. Theor Appl Genet. 2006 Dec;114(1):113-30.;Lee, J.M., Nahm, S.H., Kim, Y.M., and Kim, B.D. (2004) Characterization and molecular genetic mapping of microsatellite loci in pepper. Theor. Appl. Genet. 108: 619-627)に報告されるSSRマーカーを用いた。
【0040】
ゲノム由来SSRマーカーの作製は、Nunome et al., Plant Mol. Biol. Rep. 24, 305-312(2006)に従って行った。まず、青枯病罹病性系統「K9-11」の新鮮な上位葉を用いてCTAB法にて抽出したゲノムDNAを制限酵素Alu I, Hae III, およびRsa Iで完全消化後、DNAリガーゼを用いてDNA断片の両末端にアダプター配列を付加した。得られたDNA断片をビオチンで標識し、Dynabeads M-280 Streptavidin(DYNAL社製)により濃縮して回収した。回収したDNA断片を鋳型として、アダプター上に設計されたプライマーを用いてPCR反応を行った。
【0041】
PCR反応終了後、増幅断片は平滑末端の3’端Aテール付加を行い、LigaFast Rapid DNA ligation system (Promega社製)によりプラスミドベクターに挿入し、次いでコンピテントセル(ElectroMAx DH10B:Invitrogen)への形質転換を行った。ランダムシーケンシングにより、得られたライブラリーの評価を行った後、ABI社製のApplied Biosystems 3730 DNA Analyzerにより大量シーケンシングを行った。得られたシーケンス情報を大量配列データの自動解析ツール[read2Marker: Fukuoka et al. , Biotechniques (2005)]を用いてSSRプライマーを作製した。
【0042】
一方、EST由来SSRマーカーは、TIGRのPepper Gene Index(CaGI2.0:13,003配列、http://compbio.dfci.harvard.edu/tgi/)からSSRをread2Marker[read2Marker: Fukuoka et al. , Biotechniques (2005)]で検索し、プライマー設計したものか、あるいは、データベースに記載のものをそのまま用いた。
【0043】
前記(2)で抽出したDNAを鋳型として、上記の各SSRマーカープライマーを用いてPCRを行った。PCR反応は、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を使用し、10μLの反応液量で行った。反応液組成は、DNA抽出液1μL(10ng/μL)、10×緩衝液(100mM Tris-HCl,500mM KCl,15 mM MgCl2,タカラバイオ社)1μL、2.5mM dNTPs 1μL(タカラバイオ社)、20μMプライマー、5 uints/μL Taqポリメラーゼ(rTaq;タカラバイオ社)0.1μL、蒸留水5.9μLを含むように調製した。反応条件は、はじめに95℃で1分間の熱変性を行い、次いで94℃で1分(熱変性),55℃で1分(アニーリング),72℃で2分(伸長)を1サイクルとして計35サイクルで反応させ、最後に伸長反応を72℃で7分行った。
【0044】
得られたPCR増幅産物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(日本エイドー社製4連式電気泳動装置を使用)後、SYBR Green I希釈溶液に30分間浸し、FUJI FILM社製フルオロイメージアナライザー(FLA5100)で撮影を行うことによって検出した。
【0045】
(4) マーカーによる多型解析と連鎖地図の作成
上記で解析されたPCR増幅産物(バンド)について、「K9-11」と「MZC-180」の両親間で多型検索を行い、それぞれに特異的に存在し、かつDH集団184系統でその有無の分離が認められるマーカーを選択した。その結果、682個のAFLPマーカー、147個のRAPDマーカー、371個のSSRマーカーの計1200個のDNAマーカーが利用可能なマーカーであると判断された。
【0046】
次に、DH集団184系統を用い、上記DNAマーカー座における遺伝子型の分離状況を調査した。この結果をもとに、MAPMAKER Ver. 3.0を用いて連鎖解析を行い、連鎖地図を作成した。解析の設定はMinimum LOD:3.0、組換え価:25cMとした。得られた高密度連鎖地図は、総連鎖群長が1504.4 cMで、15連鎖群(LG1〜LG15)から構成され、上記1200個のDNAマーカーが網羅的に座乗していた(図1A〜D)。
【0047】
(実施例2)青枯病抵抗性評価
青枯病抵抗性分離系統であるDH集団184系統を用いて、青枯病菌接種検定による青枯病抵抗性の評価を行った。青枯病菌は、2-d菌株を用い、PS液体培地(ショ糖加用ジャガイモ煎汁液体培地)で30℃、48時間振とう培養し、菌濃度:2.0×108個/mlに調製したものを用いた。接種検定は、土壌病害検定装置で行い、検定植物の株元の両側をカッターナイフで断根し(断根かん注接種法、尾崎克己・木村俊彦 (1989). ナス属植物の青枯病抵抗性検定法. 中国農研報 4:103-117.)、その両側に調製した菌液を片側あたり10ml灌注した。接種後は、ハウス内温度及び地温が30℃以上になるように管理した。抵抗性の評価は、発病度合いを5段階評価(0:外部病徴が認められない、1:1〜2 葉が萎凋、2:3〜5 葉が萎凋、3:大部分の葉が萎凋、4:枯死)とし、2週間後の発病指数[Σ(発病評点×個体数)/全個体数]を求め、青枯病抵抗性評価結果とした。
【0048】
上記の青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布を図2〜図4に示した。図2は、2006年に実施した青枯病菌接種検定によるもので、Aは強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)8回の発病指数平均、Bは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均を示している。図3は、2007年に実施した青枯病菌接種検定によるもので、強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)6回の発病指数平均を示している。図4は、2006年および2007年に実施した青枯病菌接種検定によるもので、強接種検定(菌濃度: 2.0×108 個/ml)14回の発病指数平均を示している。
【0049】
(実施例3)QTL解析
実施例1のDNAマーカーを用いて作製した連鎖地図と実施例2のDH集団184系統の青枯病抵抗性評価結果を用いて、MAPMAKER/QTL Ver. 1.1でQTL(量的形質遺伝子座)解析を行い、青枯病抵抗性に関与している遺伝子が存在するゲノム中の領域を推定した。その結果、3つの連鎖群(LG2,4,8)上に青枯病抵抗性に対して強い寄与率を示すQTL(LOD>2.0)が認められ、このQTL領域には17個のSSRマーカーが座乗していた(図5A〜C)。
【0050】
同定された青枯病抵抗性に連鎖したSSRマーカー、および該マーカーを増幅するためのプライマーを下記表1にまとめる。
【0051】
【表1】
【0052】
(実施例4)SSRマーカーを用いた青枯病抵抗性判定
青枯病抵抗性分離系統であるDH集団184系統から抽出したDNAを鋳型とし、Rs1とRs2にそれぞれ対応するプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応は、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を使用し、10μLの反応液量で行った。反応液組成は、DNA抽出液1μL(10ng/μL)、10×緩衝液(100mM Tris-HCl,500mM KCl,15 mM MgCl2,タカラバイオ社)1μL、2.5mM dNTPs 1μL(タカラバイオ社)、20μMプライマー、5 uints/μL Taqポリメラーゼ(rTaq;タカラバイオ社)0.1μL、蒸留水5.9μLを含むように調製した。反応条件は、はじめに95℃で1分間の熱変性を行い、次いで94℃で1分(熱変性),55℃で1分(アニーリング),72℃で2分(伸長)を1サイクルとして計35サイクルで反応させ、最後に伸長反応を72℃で7分行った。
【0053】
得られたPCR増幅産物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(日本エイドー社製4連式電気泳動装置を使用)後、SYBR Green I希釈溶液に30分間浸し、FUJI FILM社製フルオロイメージアナライザー(FLA5100)で撮影を行うことによって検出した。PCR増幅産物のポリアクリロアミド電気泳動パターンを図6に示す。「K9-11」(K)と「MZC-180」(L)の間で多型が認められるバンド(図右に示している矢印)の有無を指標に、各分離系統が「K9-11」型を示すのか、「MZC-180」型と示すのかを区別でき、青枯病抵抗性を判定できる。
【0054】
(実施例5)SSRマーカーの有効性検証
前記SSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)座におけるマーカー型と発病指数との関係を図7から図12に示す。上段は各DNAマーカー座において、「K9-11型」を示す系統、下段は各DNAマーカー座において、「MZC-180型」を示す系統の度数分布を示す。
【0055】
また、QTL近傍の複数DNAマーカー座におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を図13に示す。図13Aは、LG 2 上のRs3及びRs4、LG 4 上のRs6及びRs9、 LG 8上のRs10及びRs16座上のQTL最近傍DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統の度数分布、図13Bは、同座において「K9-11型」を示す系統の度数分布を示す。
【0056】
図7〜12の結果に示されるように、各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統の度数は発病指数が高いところに多く分布し、「MZC-180型」を示す系統の度数は発病指数が低いところに多く分布することが認められた。また、図13に示されるように、複数DNAマーカー座におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係では上記の傾向がより顕著に認められた。
【0057】
以上の結果から、本発明において同定したDNAマーカー(SSRマーカー)は、青枯病抵抗性カプシカム属植物個体選抜用DNAマーカーとして有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、育種分野において、青枯病抵抗性のカプシカム属植物の育苗段階早期での選抜を可能とし、青枯病抵抗性品種の育成の効率化に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーマンをはじめとするカプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖するDNAマーカーを増幅するためのプライマーセット、当該プライマーセットを用いた青枯病抵抗性のカプシカム属植物個体の選抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青枯病は、Ralstonia solanacearumによって引き起こされる土壌病害であり、ピーマンやトウガラシなどのカプシカム属植物を萎凋枯死させる。青枯病は、一度発生すると永年にわたって発生し続け、防除がきわめて困難であり、早急な対策が求められている。青枯病に対する防除対策としては、青枯病に対する抵抗性品種の導入がまず挙げられ、これまでピーマンやトウガラシについて、その抵抗性程度に差はあるものの種々の青枯病抵抗性品種及び系統が報告されている(非特許文献1、2)。しかしながら、ピーマンやトウガラシなどにおける青枯病抵抗性は、複数の量的な遺伝形質(QTL:Quantitative trait loci)によって支配されていると考えられ(非特許文献3)、抵抗性個体の安定した選抜が難しく、優れた青枯病抵抗性品種は未だ育成されてない。そのため、現在のところ、抵抗性を有する台木を用いて青枯病を回避しているが、この方法では苗の接ぎ木および育苗に多くの労力とコストを要するという問題がある。
【0003】
従来の病原菌接種検定による抵抗性個体の選抜方法では、多大な労力と時間を必要とするため非効率的である上に、接種時の温度などの環境や植物の生育ステージなどに左右されるため検定精度が低い。従って、育苗段階で青枯病抵抗性個体を安定的かつ効率的に選抜する方法の開発が望まれる。一方、DNA情報を形質マーカーとする選抜方法は、従来の病原菌接種検定による抵抗性個体の選抜方法とは異なって、植物個体が目的とする形質を発現する前の生育段階における選抜が可能であるので労力や時間の省略化につながり、しかも環境や生育ステージによってDNA情報は変化しないので安定である。しかしながら、カプシカム属植物について青枯病抵抗性個体を効率的に識別し、選抜する手段となる有効なDNAマーカーについては未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H. Matsunaga and S. Monma, Sources of resistance to bacterial wilt in Capsicum, J. Japan. Soc. Hort. Sci., 68(4): 753-761 (1999)
【非特許文献2】D. Lafortune et al., Partial resistance of pepper to bacterial wilt is oligogenic and stable under tropical conditions, Plant disease, 89(5): 501-506 (2005)
【非特許文献3】津呂 正人ら、日本産トウガラシ(Capsicum annuum L.)における青枯病抵抗性に関するQTL解析、育種学研究、9(3):111-115 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖し、青枯病抵抗性個体の識別・選抜に有効なDNAマーカーを見出し、これを利用して育苗段階早期に青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を安定的かつ効率的に識別・選抜する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、(i) ピーマンの青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統との間で多型性を示すDNAマーカー(AFLP、RAPD、SSR)を選抜し、(ii)青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統との交配後代集団を解析集団として上記DNAマーカーの多型分布を調査して連鎖地図を作成し、(iii)交配後代集団の本病原菌に対する表現型の分離パターンを調査してQTL解析を行った。その結果、17個のSSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)が、青枯病抵抗性QTLと連鎖することを見出すとともに、該DNAマーカーを用いることにより育種過程で青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を効率的に選抜できることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) 以下の(A)〜(Q)のいずれかに記載のカプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット。
(A) 配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs1増幅用プライマーセット
(B) 配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs2増幅用プライマーセット
(C) 配列番号5に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs3増幅用プライマーセット
(D) 配列番号7に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs4増幅用プライマーセット
(E) 配列番号9に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs5増幅用プライマーセット
(F) 配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs6増幅用プライマーセット
(G) 配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs7増幅用プライマーセット
(H) 配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs8増幅用プライマーセット
(I) 配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs9増幅用プライマーセット
(J)配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs10増幅用プライマーセット
(K)配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs11増幅用プライマーセット
(L)配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs13増幅用プライマーセット
(M)配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs14増幅用プライマーセット
(N)配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号28に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs15増幅用プライマーセット
(O)配列番号29に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号30に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs16増幅用プライマーセット
(P)配列番号31に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号32に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs17増幅用プライマーセット
(Q)配列番号33に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号34に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs18増幅用プライマーセット
【0008】
(2) カプシカム属植物がピーマンである、(1)に記載のプライマーセット。
(3) カプシカム属植物から抽出した核酸を鋳型とし、(1)に記載のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を選抜する方法。
(4) (1)に記載のプライマーセットを含む、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体の選抜用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖するDNAマーカーを増幅するためのプライマーセットが提供される。本発明のプライマーセットを用いることにより、温度などの環境条件や植物の生育ステージに左右されることなく、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を育苗段階で早期にかつ効率よく選抜を行うことができる。従って、本発明は、青枯病抵抗性を有するカプシカム植物の育種に際し、育種効率の向上、労力や時間の軽減、コストの削減、栽培面積の削減に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】青枯病罹病性系統「K9-11」と青枯病抵抗性系統「MZC-180」のF1由来DH集団(以下、「DH集団」という)を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG1〜3)を示す。
【図1B】DH集団を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG4〜6)を示す。
【図1C】DH集団を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG7〜9)を示す。
【図1D】DH集団を用いて作製したピーマン連鎖地図(LG10〜15)を示す。
【図2】DH集団における青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布(2006年)を示す(A:強接種検定(菌濃度: 2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、B:弱接種検定(菌濃度: 2.0×106個/ml) 5回の発病指数平均)。
【図3】DH集団における青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布(2007年)を示す(強接種検定(菌濃度: 2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均)。
【図4】DH集団における青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布(2006年および2007年)を示す(強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均)。
【図5A】DH集団を用いた青枯病抵抗性に関するQTL解析(LG1〜4)を示す(2006aバーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、2006bバーは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均、 2007バーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均を用いてQTL解析を行った結果、LOD値 2.0を超えた領域を示す。三角矢印は、QTLのピークを示す)。
【図5B】DH集団を用いた青枯病抵抗性に関するQTL解析(LG5〜8)を示す(2006aバーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、2006bバーは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均、 2007バーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均を用いてQTL解析を行った結果、LOD値 2.0を超えた領域を示す。三角矢印は、QTLのピークを示す)。
【図5C】DH集団を用いた青枯病抵抗性に関するQTL解析(LG9〜15)を示す(2006aバーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)8回の発病指数平均、2006bバーは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均、2007バーは強接種検定(菌濃度:2.0×108 個/ml)6回の発病指数平均を用いてQTL解析を行った結果、LOD値 2.0を超えた領域を示す。三角矢印は、QTLのピークを示す)。
【図6】DNAマーカーRs1(上段)及びRs2(下段)を用いた場合のPCR増幅産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動図を示す。Mはサイズマーカー(100bpラダー)、Kは「K9-11」、Lは「MZC-180」の電気泳動パターンを示す。図右に示している矢印は、多型の得られている増幅断片部位を示す。
【図7】DNAマーカー座(Rs1、Rs2、Rs3)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図8】DNAマーカー座(Rs4、Rs5、Rs6)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図9】DNAマーカー座(Rs7、Rs8、Rs9)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図10】DNAマーカー座(Rs10、Rs11、Rs13)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図11】DNAマーカー座(Rs14、Rs15、Rs16)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図12】DNAマーカー座(Rs17およびRs18)におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す(上段:各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統、下段:各DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統)。接種検定データは、2006年および2007年に行ったDH集団における青枯病菌強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)14回の発病指数平均を用いた。
【図13】QTL近傍の複数DNAマーカー座におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を示す。Aは、LG 2 (Rs3、Rs4)及びLG 4 (Rs6、Rs9)、LG 8(Rs10、Rs17) 上のQTL最近傍DNAマーカー6座において「MZC-180型」を示す系統の度数分布を示す。Bは、同座において、「K9-11型」を示す系統の度数分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー
カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを取得するための手順を説明する。
【0012】
まず、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座の推定のために用いる解析集団として、カプシカム属の青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統を交配して得られるF1系統を葯培養して抵抗性の程度に差のある倍加半数体(doubled haploid、以下DHという)系統を育成する。カプシカム属の青枯病罹病性系統としては、例えば、宮崎県総合農業試験場が葯培養によって育成したベルタイプのピーマンである「K9-11」を用いることができる。カプシカム属の青枯病抵抗性系統としては、例えば、トウガラシ野生種LS2341を宮崎県総合農業試験場において青枯病接種検定後に選抜自殖した後代系統である「MZC-180」を用いることができる。「MZC-180」はCapsicum annuum L.に属し、強度青枯病抵抗性を有する系統であり、その病害抵抗性形質は他カプシカム属の品種及び系統とは異なり非常に強い抵抗性である。ここで、育成するDH集団は、規模が大きいほうが好ましく、150系統以上の集団を用いることが好ましい。
【0013】
次に、青枯病罹病性系統と青枯病抵抗性系統との間で多型を示すDNAマーカーを検索する。当該DNAマーカーとしては、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、ランダム増幅多型(RAPD)マーカー、単純反復配列(SSR)マーカーを挙げることができる。
【0014】
AFLPマーカーとは、AFLP法によって得られるDNAマーカーをいい、抽出したDNAを制限酵素(例えばMseI,EcoRI)で消化した断片に、DNAリガーゼを用いてアダプターを結合させたオリゴヌクレオチドを鋳型として用い、いわゆる前選択合成オリゴヌクレオチドを用いたPCRを行い、次いで、この増幅断片を鋳型にして、いわゆる選択合成オリゴヌクレオチドを組み合わせてPCRを行うことによって得られる。これらの用いる制限酵素や合成オリゴヌクレオチドの種類を変えることにより、容易にかつ数多くのDNAマーカーを得ることができる。
【0015】
RAPDマーカーとは、RAPD法によって得られるDNAマーカーをいい、抽出したDNAを任意の10〜12塩基の配列を持つ合成オリゴヌクレオチドを用いてPCRすることによって得られる。これらの用いる合成オリゴヌクレオチドの種類を変えることにより、容易にかつ数多くのDNAマーカーを得ることができる。
【0016】
SSRマーカーとは、ゲノム上に広く散在している数塩基の繰り返し配列からなる反復配列を利用して得られるDNAマーカーをいい、抽出したDNAを特定の20〜30塩基程度の配列を持つ合成オリゴヌクレオチドを用いてPCRすることによって得られる。このSSRマーカーは、一度に得られるDNAマーカー数は少ないものの、多型性に富み、且つゲノム上の位置情報が明確であるため、動植物において種々のDNAマーカーとして利用されている。
【0017】
上記DNAマーカー解析により、青枯病罹病性系統「K9-11」と青枯病抵抗性系統「MZC-180」の増幅産物を比較することにより、「K9-11」と「MZC-180」との間で多型検索を行い、「K9-11」と「MZC-180」にそれぞれ特異的に存在し、かつ上記で育成した「K9-11」と「MZC-180」の交配後代集団(DH集団)でその有無の分離が認められる増幅産物を、選抜用マーカーの候補として選択する。
【0018】
次に、前記のDH集団を用いて青枯病菌接種検定を行い、その表現型(青枯病発病指数)の分離パターンと、候補DNAマーカーの多型分布を調査して連鎖地図を作製する。DNAマーカーによる連鎖地図は、例えばMAPMAKER Ver. 3.0[Lander, E., P. Green, J. Abrahamson, A. Barlow, M. Daley, S. Lincoln and L. Newburg (1987) MAPMAKER: An interactive computer package for constructing primary genetic linkage maps of experimental and natural populations. Genomics 1:174-181.]で作製することができる。
【0019】
連鎖地図を作製した後、青枯病抵抗性遺伝子座と強く連鎖するDNAマーカーを詳細に特定するために、DH集団における青枯病接種検定結果とDNAマーカーが示す多型との関連についてQTL解析を行う。QTL解析は、例えばMAPMAKER/QTL Ver. 1.1[Lincoln, S. E., M. J. Daily and E. S. Lander (1993) Mapping genes controlling quantitative traits using MAPMAKER/QTL version 1.1: a tutorial and reference manual, 2nd edn. Whitehead Institute Technical Report. Cambridge, Massachusetts.]で行うことができる。特定した領域に存在するDNAマーカーの中から、青枯病抵抗性個体の選抜に有効なDNAマーカーとして最適なものを選定する。その結果、本発明においては、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖し、青枯病抵抗性個体の選抜に有効なDNAマーカーとして17個のSSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)を選定することができた。
【0020】
2.カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット
上記のSSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)は、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座と連鎖しているため、青枯病抵抗性形質の検出に利用することができる。本発明によれば、この検出を容易に行うために、当該SSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)を特異的に増幅できるプライマーセットが提供される。
【0021】
本発明のプライマーセットは、カプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを特異的に増幅することのできるオリゴヌクレオチドのペアから構成される下記の17組のプライマーセットである。本発明のプライマーセットを用いたPCR増幅産物を指標としてカプシカム属植物が青枯病抵抗性を有するか否かの識別、および青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体の選抜を行うことできる。
(A) 配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs1増幅用プライマーセット
5'-caaatcttaccctaccgtaag-3' (配列番号1)
5'-ggttctaaacgagttagtgaaac-3' (配列番号2)
(B) 配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs2増幅用プライマーセット
5'-ctcacaccttacaatcttttggtatg-3' (配列番号3)
5'-ctctctgtctctgtctctgtc-3' (配列番号4)
(C) 配列番号5に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs3増幅用プライマーセット
5'-atcaaatggctaacaatcattccg-3' (配列番号5)
5'-gtttgaagcaatgggtttaacaagcagg-3' (配列番号6)
(D) 配列番号7に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs4増幅用プライマーセット
5'-acctcaacagcatccaatgttacaa-3' (配列番号7)
5'-gtttgcatatcagcagaagccataattgg-3' (配列番号8)
(E) 配列番号9に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs5増幅用プライマーセット
5'-gcagaagccataattggctg-3' (配列番号9)
5'-ggagttaactcaaaggttgc-3' (配列番号10)
(F) 配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs6増幅用プライマーセット
5'-tgagggtattttcgtcatttcac-3' (配列番号11)
5'-gaaagcggaaaacattaagagtca-3' (配列番号12)
(G) 配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs7増幅用プライマーセット
5'-tctttgtccctgctgctgta-3' (配列番号13)
5'-accccaaaacacaaccaaaa-3' (配列番号14)
(H) 配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs8増幅用プライマーセット
5'- acgaggcccaagctgttatgtc -3' (配列番号15)
5'- ttgtcccgactctccattgacc -3' (配列番号16)
(I) 配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs9増幅用プライマーセット
5'-tgctttcaaaacaatttgcatgg -3' (配列番号17)
5'-gcgtctaatgcaaaacacacattac -3' (配列番号18)
(J)配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs10増幅用プライマーセット
5'-ataatgcatgctaaatccggttcc -3' (配列番号19)
5'-gtttagctgttctcgaagccgaactcta -3' (配列番号20)
(K)配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs11増幅用プライマーセット
5'-ctaggcaatttgaaggccaa -3' (配列番号21)
5'-gggtgatggaagtatggtgg -3' (配列番号22)
(L)配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs13増幅用プライマーセット
5'-agtcatcaacttcgcgttattgtc-3' (配列番号23)
5'-gtttctgctgtttggccatatcc-3' (配列番号24)
(M)配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs14増幅用プライマーセット
5'-gtggtgcttcattctctacct-3' (配列番号25)
5'-ccaacagatgtgtcagttatttgct-3' (配列番号26)
(N)配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号28に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs15増幅用プライマーセット
5'-atgatatctgaacgatgtgtcggg-3' (配列番号27)
5'-gtttaattcaatgcgatggaaagagcc-3' (配列番号28)
(O)配列番号29に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号30に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs16増幅用プライマーセット
5'-gatagtatctatgattgacgagac-3' (配列番号29)
5'-cttgtgacggaatgtaacaacac-3' (配列番号30)
(P)配列番号31に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号32に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs17増幅用プライマーセット
5'-gtgttgcagggcattccttga-3' (配列番号31)
5'-ttcactggagggatgtccca-3' (配列番号32)
(Q)配列番号33に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号34に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs18増幅用プライマーセット
5'-aagaagggggagatgatgacga-3' (配列番号33)
5'-tcctcaagccatgatagagaagca-3' (配列番号34)
【0022】
上記プライマーセットの各オリゴヌクレオチドは、配列番号1〜34に示す塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと実質的に同一の機能を有する限り、配列番号1〜34に示す塩基配列において1〜数個(例えば、5個、好ましくは3個、より好ましくは1個)の塩基が欠失、付加、置換した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよい。
【0023】
上記プライマーセットの各オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの合成法として当技術分野で公知の方法、例えば、ホスホトリエチル法、ホスホジエステル法等により、通常用いられるDNA自動合成装置(例えば、Applied Biosystems社製Model 394など)を利用して合成することが可能である。
【0024】
また、上記オリゴヌクレオチドは、これらをプライマーとするPCR増幅産物の検出を容易にするために、標識物質をつけたオリゴヌクレオチドであってもよい。標識物質としては、当該技術分野においてよく知られる蛍光物質(FITC、ROC等)、放射性同位体、化学発光物質(例えば、DNP)、ビオチン、DIG(ジゴキシゲニン)等を用いることができる。
【0025】
3.青枯病抵抗性カプシカム属植物個体の選抜方法
本発明の青枯病抵抗性カプシカム属植物個体の選抜方法は、カプシカム属植物個体から抽出した核酸を鋳型とし、上記のプライマーセットを用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析することにより行う。
【0026】
本発明において「カプシカム属植物」とは、ナス科(Solanaceae)カプシカム属(Capsicum)に属する植物で、代表的な種としては、Capsicum annuum、Capsicum Chinese、Capsicum baccatum、Capsicum frutescens等を挙げることができる。なお、カプシカム属の中で、我が国において最も生産流通が多い種は、Capsicum annuumであり、それに属する野菜としては、ピーマン、シシトウガラシ、パプリカ等である。
【0027】
上記プライマーセットは、識別・選抜すべき被検植物の種類や数によって、全てを用いる必要はなく、プライマーセットの1種または複数種を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0028】
具体的手順を例示すると以下のようになる。まず、被検植物となるカプシカム属植物個体からDNAを抽出する。DNA抽出に用いる植物体の組織は特に限定されず、葉、果実、種子、根、茎など、いずれの組織であってもよいが、好ましくは葉を用いる。さらに、これらの組織は、核酸抽出の効率を良く行うことができるように液体窒素を用いて粉砕しておくことが好ましい。
【0029】
DNAの抽出は、公知の方法で行うことができ、好ましくはCTBA法[Murrayら、Nucleic Acids Res. 8, 4321-4325 (1980)]が用いられる。具体的には、以下のような手順で行う。まずカプシカム属植物個体の葉などの組織を液体窒素中で磨砕する。該磨砕物に臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)溶液を添加してインキュベートした後、クロロホルム−イソアミルアルコールを加えてよく混和する。遠心分離により水層を分離・回収し、これにイソプロピルアルコールを加えてよく混和する。遠心分離により沈殿部を回収後、例えばEDTA等含有の緩衝液を加えて溶解し、RNase処理する。処理後、フェノール、フェノールとクロロホルム−イソアミルアルコール、クロロホルム−イソアミルアルコールの順序で溶媒を置換する。置換処理後、エタノールを加えてよく混和し、遠心分離によりゲノムDNAを得ることができる。抽出には市販のキット(例えば、QIAGEN社の「DNeasy」等)を利用して行うこともできる。なお、DNA抽出量としては、DNAマーカーの解析が可能な量が抽出されていればよい。PCRに供する場合には、例えば、1反応あたり1ng以上である。
【0030】
次いで、抽出したDNAを鋳型とし、本発明のプライマーセットの1種または複数種を用いて、PCR増幅を行う。PCR増幅は前述のプライマーセットを用いる以外は特に制限はなく、常法に従って行えばよい。具体的には、鋳型DNAの変性、プライマーへの鋳型へのアニーリング、および耐熱性酵素(Taqポリメラーゼ)を用いたプライマーの伸長反応を含むサイクルを繰り返すことにより、目的とする青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカーを含む断片を増幅させる。PCR反応液の組成、PCR反応条件(温度サイクル、サイクルの回数等)は、上記のプライマーセットを用いたPCRにおいて高感度でPCR増幅産物が得られるような条件を予備実験等により当業者であれば適切に選択および設定することができる。プライマーのTmに基づいて適当なPCR反応条件を選択する方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、最初に94℃で2分間の変性反応、次に94℃で1分間、45℃で1分間、72℃で3分間を1サイクルとして30サイクル、最後に72℃で5分間の伸長反応により実施することができる。このようなPCRの一連の操作は、市販のPCRキットやPCR装置を利用して、その操作説明書に従って行うことができる。PCR装置は、例えば、GeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems社製)、GeneAmp PCR System 9600(Applied Biosystems社製)などが使用できる。
【0031】
PCR増幅産物の検出は、アガロースゲル電気泳動やキャピラリー電気泳動などの慣用の電気泳動、DNAハイブリダイゼーションやリアルタイムPCR等の方法を用いて確認する。例えば、アガロースゲル電気泳動では、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を単一のバンドとして検出し、バンドの位置に基づいて、「青枯病抵抗性型」か否かを判定する。
【0032】
上記プライマーセットはキット化することもできる。本発明のキットは、上記の17組のプライマーセットを含むものであればよく、識別・選抜すべき被検植物の種類や数によって、これらのプライマーセットの中から適当なセットを適宜選択して用いればよい。本発明のキットには、必要に応じて、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬、反応の陽性コントロールとなるPCR増幅領域を含むDNA溶液、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(実施例1)DNAマーカーを用いたピーマン連鎖地図の作成
(1) 解析材料となる倍加半数体系統(DH)の育成
青枯病罹病性系統「K9-11」と、強度の青枯病抵抗性を有するトウガラシ野生種LS2341の自殖後代から青枯病菌接種試験により選抜した青枯病抵抗性系統「MZC-180」とを交配して得られたF1系統を葯培養し、抵抗性の程度に差のある倍加半数体(DH:doubled haploid)184系統を育成した。
【0034】
(2) DNA抽出
上記各系統植物からのDNA抽出・精製は市販のDNA抽出・精製キット(DNeasy Plant mini Kit;キアゲン社製)を用い、具体的な操作はキアゲン社の推奨するプロトコルに従って行った。まず、植物の新鮮な上位葉1枚程度(約0.1 g)を液体窒素で冷やしておいた乳鉢上でパウダー状になるまで粉砕し、当該粉砕サンプルにプロトコルに従ってAP1 Buffer(同キット添付)とRNase A を添加し、65℃で10分間インキュベートした。次いで、AP2 Buffer(同キット添付)を加え、氷上で5 分間静置した後、遠心分離した。得られた上清をQIA shredder spin columnを用いて遠心分離し、溶出したろ液をAP3/E Buffer(同キット添付)と混和した。この混和液をDNeasy spin culumnに加えて遠心分離し、溶出液を除去した後、カラムにAW Buffer(同キット添付)を加え遠心分離することでリンスした。さらにもう1回AW Bufferを加え、遠心分離を行い、DNAの吸着したメンブレンからエタノールを完全に取り除いた。このメンブレンにAE Buffer(同キット添付)を加え5分以上静置した後、遠心分離し、DNAを抽出した。さらにもう1回この操作を繰り返した。得られたDNA抽出液の濃度は約400 ng/μLであった。得られたDNA抽出液をTEバッファー(10 mM Tris, 1mM EDTA, pH 8.0)で25 ng/μLに希釈したDNA溶液を、鋳型DNAとして試験に用いた。
【0035】
(3) DNAマーカー解析
DH集団184系統を用いた連鎖解析によって連鎖地図を作製することを目的として、「K9-11」と「MZC-180」との間で多型のあるDNAマーカーを検索した。
【0036】
DNAマーカーには、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、ランダム増幅多型(RAPD)マーカー、単純反復配列(SSR)マーカーを用いた。
(3-1)AFLPマーカー解析
上記(2)で抽出したDNAを鋳型として、AFLP/HEGS法[Kawasaki, S. and Y. Murakami (2000) Genome Analysis of Lotus japonicus. J. Plant Res. 113:497-506.]を行った。まず、抽出したDNAに制限酵素Pst IとMse I、又はXba IとMse Iを加え、37℃で12時間制限酵素処理を行った。次に、制限酵素処理断片にPst IアダプターとMse Iアダプター、又はXba IアダプターとMse Iアダプターを加えて室温で4時間DNAリガーゼによるライゲーション反応を行った後、Pst I又はXba IとMse Iアダプターの部分塩基配列とそれに隣接する制限酵素の切断面の塩基配列とで構成されるPst I又はXba IとMse I前選択プライマーを用いてPCR(反応条件:94℃で1分間の前処理後、94℃で30秒間(熱変性)、56℃で1分間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計20サイクル)を行った。その後、Pst I又はXba IとMse I前選択プライマーの3'末端側にさらに任意の3塩基を付加した塩基配列を有するPst I又はXba I選択プライマー(各31種類)、Mse I選択プライマー(16種類)を用い、合計992(31x16x2)通りの選択PCR(反応条件:94℃で30秒間(熱変性)、68℃(-0.7℃/1サイクル)で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計17サイクル、その後、94℃で30秒間(熱変性)、56℃で30秒間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計23サイクル)を行った。なお、各段階におけるPCR反応は、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を使用し、Kawasaki, S. and Y. Murakami (2000)の手法に従って行った。得られたPCR増幅産物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(日本エイドー社製4連式電気泳動装置を使用)後、SYBR Green I希釈溶液に30分間浸し、FUJI FILM社製フルオロイメージアナライザー(FLA5100)で撮影を行うことによって検出した。
【0037】
(3-2)RAPDマーカー解析
上記(2)で抽出したDNAを鋳型として、任意の10〜12塩基の配列を持つプライマー(RAPDプライマー)を用いてRAPD法[Williams, J. G. K., A. R. Kubelik, K. J. Livak, J. A. Rafalski and S. V. Tingey (1990) DNA polymorphisms amplified by arbitrary primers are useful as genomic markers. Nucleic Acids Res. 18:6531-6535.]を行った。RAPDプライマーとして、オペロン社と和光純薬社から市販されている10塩基からなる計1,470種類[オペロン社:OPA(1〜20)〜OPZ(1〜20), OPAA(1〜20)〜OPAZ(1〜20), OPBA(1〜20)〜OPBH(1〜20)の計1200種類、和光純薬社:C(60種類), D(60種類), E(E-1,E-2,E-3の36種類)、その他A+B+F+G(114種類)の計270種類]を用いた。
【0038】
DNA抽出液2μL(10ng/μL)、10×緩衝液(100mM Tris-HCl,500mM KCl,15mM MgCl2,タカラバイオ社)2μL、2.5mM dNTPs 2μL(タカラバイオ社)、20μM ランダムプライマー 1μL(オペロンバイオテクノロジー社)、5uints/μL Taqポリメラーゼ(rTaq;タカラバイオ社)0.4μL、蒸留水12.6μLを含む反応液を調製し、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を用いてPCR反応を行った(反応条件:95℃で1分間の前処理後、94℃で1分間(熱変性)、35℃で2分間(アニーリング)、72℃で3分間(伸長)からなる反応を1サイクルとして計40サイクルを行い、最後に72℃で5分間伸長反応する)。得られたPCR増幅産物は、アガロースゲル電気泳動し、エチジウムブロマイド染色して検出した。
【0039】
(3-3)SSRマーカー解析
SSRマーカーとして、(i) 新たに作製したゲノム由来SSRマーカー、(ii)データベース(Pepper Gene Index(CaGI2.0:13,003配列、http://compbio.dfci.harvard.edu/tgi/)に掲載のEST由来SSRマーカー、(iii)同データベースに掲載のEST配列情報を利用してread2Marker[read2Marker: H. Fukuoka et al., Bio Techniques 39:472-476 (2005)]によりSSRを検索し、新たにプライマーを設計したEST由来SSRマーカー、および(iv)文献(Yi G, Lee JM, Lee S, Choi D, Kim BD. (2006) Exploitation of pepper EST-SSRs and an SSR-based linkage map. Theor Appl Genet. 2006 Dec;114(1):113-30.;Lee, J.M., Nahm, S.H., Kim, Y.M., and Kim, B.D. (2004) Characterization and molecular genetic mapping of microsatellite loci in pepper. Theor. Appl. Genet. 108: 619-627)に報告されるSSRマーカーを用いた。
【0040】
ゲノム由来SSRマーカーの作製は、Nunome et al., Plant Mol. Biol. Rep. 24, 305-312(2006)に従って行った。まず、青枯病罹病性系統「K9-11」の新鮮な上位葉を用いてCTAB法にて抽出したゲノムDNAを制限酵素Alu I, Hae III, およびRsa Iで完全消化後、DNAリガーゼを用いてDNA断片の両末端にアダプター配列を付加した。得られたDNA断片をビオチンで標識し、Dynabeads M-280 Streptavidin(DYNAL社製)により濃縮して回収した。回収したDNA断片を鋳型として、アダプター上に設計されたプライマーを用いてPCR反応を行った。
【0041】
PCR反応終了後、増幅断片は平滑末端の3’端Aテール付加を行い、LigaFast Rapid DNA ligation system (Promega社製)によりプラスミドベクターに挿入し、次いでコンピテントセル(ElectroMAx DH10B:Invitrogen)への形質転換を行った。ランダムシーケンシングにより、得られたライブラリーの評価を行った後、ABI社製のApplied Biosystems 3730 DNA Analyzerにより大量シーケンシングを行った。得られたシーケンス情報を大量配列データの自動解析ツール[read2Marker: Fukuoka et al. , Biotechniques (2005)]を用いてSSRプライマーを作製した。
【0042】
一方、EST由来SSRマーカーは、TIGRのPepper Gene Index(CaGI2.0:13,003配列、http://compbio.dfci.harvard.edu/tgi/)からSSRをread2Marker[read2Marker: Fukuoka et al. , Biotechniques (2005)]で検索し、プライマー設計したものか、あるいは、データベースに記載のものをそのまま用いた。
【0043】
前記(2)で抽出したDNAを鋳型として、上記の各SSRマーカープライマーを用いてPCRを行った。PCR反応は、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を使用し、10μLの反応液量で行った。反応液組成は、DNA抽出液1μL(10ng/μL)、10×緩衝液(100mM Tris-HCl,500mM KCl,15 mM MgCl2,タカラバイオ社)1μL、2.5mM dNTPs 1μL(タカラバイオ社)、20μMプライマー、5 uints/μL Taqポリメラーゼ(rTaq;タカラバイオ社)0.1μL、蒸留水5.9μLを含むように調製した。反応条件は、はじめに95℃で1分間の熱変性を行い、次いで94℃で1分(熱変性),55℃で1分(アニーリング),72℃で2分(伸長)を1サイクルとして計35サイクルで反応させ、最後に伸長反応を72℃で7分行った。
【0044】
得られたPCR増幅産物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(日本エイドー社製4連式電気泳動装置を使用)後、SYBR Green I希釈溶液に30分間浸し、FUJI FILM社製フルオロイメージアナライザー(FLA5100)で撮影を行うことによって検出した。
【0045】
(4) マーカーによる多型解析と連鎖地図の作成
上記で解析されたPCR増幅産物(バンド)について、「K9-11」と「MZC-180」の両親間で多型検索を行い、それぞれに特異的に存在し、かつDH集団184系統でその有無の分離が認められるマーカーを選択した。その結果、682個のAFLPマーカー、147個のRAPDマーカー、371個のSSRマーカーの計1200個のDNAマーカーが利用可能なマーカーであると判断された。
【0046】
次に、DH集団184系統を用い、上記DNAマーカー座における遺伝子型の分離状況を調査した。この結果をもとに、MAPMAKER Ver. 3.0を用いて連鎖解析を行い、連鎖地図を作成した。解析の設定はMinimum LOD:3.0、組換え価:25cMとした。得られた高密度連鎖地図は、総連鎖群長が1504.4 cMで、15連鎖群(LG1〜LG15)から構成され、上記1200個のDNAマーカーが網羅的に座乗していた(図1A〜D)。
【0047】
(実施例2)青枯病抵抗性評価
青枯病抵抗性分離系統であるDH集団184系統を用いて、青枯病菌接種検定による青枯病抵抗性の評価を行った。青枯病菌は、2-d菌株を用い、PS液体培地(ショ糖加用ジャガイモ煎汁液体培地)で30℃、48時間振とう培養し、菌濃度:2.0×108個/mlに調製したものを用いた。接種検定は、土壌病害検定装置で行い、検定植物の株元の両側をカッターナイフで断根し(断根かん注接種法、尾崎克己・木村俊彦 (1989). ナス属植物の青枯病抵抗性検定法. 中国農研報 4:103-117.)、その両側に調製した菌液を片側あたり10ml灌注した。接種後は、ハウス内温度及び地温が30℃以上になるように管理した。抵抗性の評価は、発病度合いを5段階評価(0:外部病徴が認められない、1:1〜2 葉が萎凋、2:3〜5 葉が萎凋、3:大部分の葉が萎凋、4:枯死)とし、2週間後の発病指数[Σ(発病評点×個体数)/全個体数]を求め、青枯病抵抗性評価結果とした。
【0048】
上記の青枯病菌接種検定による発病指数の度数分布を図2〜図4に示した。図2は、2006年に実施した青枯病菌接種検定によるもので、Aは強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)8回の発病指数平均、Bは弱接種検定(菌濃度: 2.0×106 個/ml) 5回の発病指数平均を示している。図3は、2007年に実施した青枯病菌接種検定によるもので、強接種検定(菌濃度: 2.0×108個/ml)6回の発病指数平均を示している。図4は、2006年および2007年に実施した青枯病菌接種検定によるもので、強接種検定(菌濃度: 2.0×108 個/ml)14回の発病指数平均を示している。
【0049】
(実施例3)QTL解析
実施例1のDNAマーカーを用いて作製した連鎖地図と実施例2のDH集団184系統の青枯病抵抗性評価結果を用いて、MAPMAKER/QTL Ver. 1.1でQTL(量的形質遺伝子座)解析を行い、青枯病抵抗性に関与している遺伝子が存在するゲノム中の領域を推定した。その結果、3つの連鎖群(LG2,4,8)上に青枯病抵抗性に対して強い寄与率を示すQTL(LOD>2.0)が認められ、このQTL領域には17個のSSRマーカーが座乗していた(図5A〜C)。
【0050】
同定された青枯病抵抗性に連鎖したSSRマーカー、および該マーカーを増幅するためのプライマーを下記表1にまとめる。
【0051】
【表1】
【0052】
(実施例4)SSRマーカーを用いた青枯病抵抗性判定
青枯病抵抗性分離系統であるDH集団184系統から抽出したDNAを鋳型とし、Rs1とRs2にそれぞれ対応するプライマーを用いてPCRを行った。PCR反応は、DNAサーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Perkin-Elmer社)を使用し、10μLの反応液量で行った。反応液組成は、DNA抽出液1μL(10ng/μL)、10×緩衝液(100mM Tris-HCl,500mM KCl,15 mM MgCl2,タカラバイオ社)1μL、2.5mM dNTPs 1μL(タカラバイオ社)、20μMプライマー、5 uints/μL Taqポリメラーゼ(rTaq;タカラバイオ社)0.1μL、蒸留水5.9μLを含むように調製した。反応条件は、はじめに95℃で1分間の熱変性を行い、次いで94℃で1分(熱変性),55℃で1分(アニーリング),72℃で2分(伸長)を1サイクルとして計35サイクルで反応させ、最後に伸長反応を72℃で7分行った。
【0053】
得られたPCR増幅産物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(日本エイドー社製4連式電気泳動装置を使用)後、SYBR Green I希釈溶液に30分間浸し、FUJI FILM社製フルオロイメージアナライザー(FLA5100)で撮影を行うことによって検出した。PCR増幅産物のポリアクリロアミド電気泳動パターンを図6に示す。「K9-11」(K)と「MZC-180」(L)の間で多型が認められるバンド(図右に示している矢印)の有無を指標に、各分離系統が「K9-11」型を示すのか、「MZC-180」型と示すのかを区別でき、青枯病抵抗性を判定できる。
【0054】
(実施例5)SSRマーカーの有効性検証
前記SSRマーカー(Rs1〜Rs11、Rs13〜Rs18)座におけるマーカー型と発病指数との関係を図7から図12に示す。上段は各DNAマーカー座において、「K9-11型」を示す系統、下段は各DNAマーカー座において、「MZC-180型」を示す系統の度数分布を示す。
【0055】
また、QTL近傍の複数DNAマーカー座におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係を図13に示す。図13Aは、LG 2 上のRs3及びRs4、LG 4 上のRs6及びRs9、 LG 8上のRs10及びRs16座上のQTL最近傍DNAマーカー座において「MZC-180型」を示す系統の度数分布、図13Bは、同座において「K9-11型」を示す系統の度数分布を示す。
【0056】
図7〜12の結果に示されるように、各DNAマーカー座において「K9-11型」を示す系統の度数は発病指数が高いところに多く分布し、「MZC-180型」を示す系統の度数は発病指数が低いところに多く分布することが認められた。また、図13に示されるように、複数DNAマーカー座におけるマーカー遺伝子型と発病指数との関係では上記の傾向がより顕著に認められた。
【0057】
以上の結果から、本発明において同定したDNAマーカー(SSRマーカー)は、青枯病抵抗性カプシカム属植物個体選抜用DNAマーカーとして有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、育種分野において、青枯病抵抗性のカプシカム属植物の育苗段階早期での選抜を可能とし、青枯病抵抗性品種の育成の効率化に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(Q)のいずれかに記載のカプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット。
(A) 配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs1増幅用プライマーセット
(B) 配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs2増幅用プライマーセット
(C) 配列番号5に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs3増幅用プライマーセット
(D) 配列番号7に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs4増幅用プライマーセット
(E) 配列番号9に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs5増幅用プライマーセット
(F) 配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs6増幅用プライマーセット
(G) 配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs7増幅用プライマーセット
(H) 配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs8増幅用プライマーセット
(I) 配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs9増幅用プライマーセット
(J)配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs10増幅用プライマーセット
(K)配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs11増幅用プライマーセット
(L)配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs13増幅用プライマーセット
(M)配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs14増幅用プライマーセット
(N)配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号28に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs15増幅用プライマーセット
(O)配列番号29に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号30に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs16増幅用プライマーセット
(P)配列番号31に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号32に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs17増幅用プライマーセット
(Q)配列番号33に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号34に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs18増幅用プライマーセット
【請求項2】
カプシカム属植物がピーマンである、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
カプシカム属植物から抽出した核酸を鋳型とし、請求項1に記載のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を選抜する方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプライマーセットを含む、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体の選抜用キット。
【請求項1】
以下の(A)〜(Q)のいずれかに記載のカプシカム属植物の青枯病抵抗性遺伝子座に連鎖するDNAマーカー増幅用プライマーセット。
(A) 配列番号1に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号2に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs1増幅用プライマーセット
(B) 配列番号3に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号4に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs2増幅用プライマーセット
(C) 配列番号5に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号6に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs3増幅用プライマーセット
(D) 配列番号7に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号8に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs4増幅用プライマーセット
(E) 配列番号9に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号10に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs5増幅用プライマーセット
(F) 配列番号11に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号12に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs6増幅用プライマーセット
(G) 配列番号13に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号14に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs7増幅用プライマーセット
(H) 配列番号15に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号16に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs8増幅用プライマーセット
(I) 配列番号17に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号18に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs9増幅用プライマーセット
(J)配列番号19に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号20に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs10増幅用プライマーセット
(K)配列番号21に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号22に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs11増幅用プライマーセット
(L)配列番号23に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号24に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs13増幅用プライマーセット
(M)配列番号25に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号26に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs14増幅用プライマーセット
(N)配列番号27に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号28に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs15増幅用プライマーセット
(O)配列番号29に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号30に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs16増幅用プライマーセット
(P)配列番号31に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号32に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs17増幅用プライマーセット
(Q)配列番号33に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドと配列番号34に示す塩基配列を含むオリゴヌクレオチドとから構成されるDNAマーカーRs18増幅用プライマーセット
【請求項2】
カプシカム属植物がピーマンである、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
カプシカム属植物から抽出した核酸を鋳型とし、請求項1に記載のプライマーセットの1種または複数種を用いてPCRを行い、該PCRにより得られた増幅断片長を解析して、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体を選抜する方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプライマーセットを含む、青枯病抵抗性を有するカプシカム属植物個体の選抜用キット。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−155860(P2011−155860A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18375(P2010−18375)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、農林水産省、平成20年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(390028130)タキイ種苗株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、農林水産省、平成20年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(390028130)タキイ種苗株式会社 (7)
【Fターム(参考)】
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