GLP−1の分泌を促進しかつGIPの分泌を抑制する薬剤
【課題】 GIPの分泌を完全に抑制しながらもGLP−1の分泌を促進することができ、しかも安全性に優れているインクレチンホルモン関連薬を提供する。
【解決手段】 L−アラビノース、D−キシロース及びD−タガトースなどのショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖を有効成分として含むか、または前記不拮抗型阻害剤を含むがショ糖を含有せず、別個にショ糖もしくはショ糖含有食品を併用することを特徴とする、GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤。
【解決手段】 L−アラビノース、D−キシロース及びD−タガトースなどのショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖を有効成分として含むか、または前記不拮抗型阻害剤を含むがショ糖を含有せず、別個にショ糖もしくはショ糖含有食品を併用することを特徴とする、GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防に有用なインクレチンホルモン関連薬に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の糖尿病の罹患者数は、全国統計(平成16年)では約740万人、その予備軍も含めると約1,620万人と言われ(厚生労働省 平成14年糖尿病実態調査)、前回調査(平成9年)より約20%増加している。死亡原因としては、直接では男性で第10位、女性で第9位(厚生労働省 平成17年人口動態統計の概況)であるが、糖尿病との合併症によって誘発される大血管障害などを含めると更に深刻な数になると考えられている。
【0003】
糖尿病予備軍の初期症状として注目されているのが耐糖能異常である。耐糖能異常とは、食後の血糖値が下がりにくくなる症状であり、通常、75gブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で判定される。
【0004】
近年において、糖尿病治療について、インクレチンホルモン(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1))関連薬が注目されている。GIPは主に、腸管上部に存在するK細胞への刺激により分泌され、一方GLP−1は主に、腸管下部に存在するL細胞への刺激により分泌される。インクレチンホルモンは、膵臓に働きかけて高血糖時でのインスリン分泌量の増幅を促すが、血糖値が高くない場合は、インスリン分泌量を増加させないため、低血糖を引き起こすリスクは低い。ただし、インクレチンホルモンは、分解酵素(DPP−4)によって速やかに分解されるという欠点を有する。そこで、その分解を抑制する作用を有するもの(分解酵素の阻害剤、または酵素作用を受けないインクレチンホルモンアナログ)がインクレチンホルモン関連薬として開発されている。こうした医薬品は、副作用が少ないものとして期待されている。ただし、いずれのインクレチンホルモン関連薬も自然界に存在するものでないことから、処方に厳格な医師のコントロールを要し、その製造コストも安価ではない。
【0005】
上述の2種類のインクレチンホルモンのうち、GLP−1は、インスリン分泌増幅のほか摂食抑制作用もある(非特許文献1)とされるため、肥満防止にも有効であり、その分泌の促進が望まれる。一方、GIPは、インスリン分泌増幅のほか脂肪蓄積作用もある(非特許文献2)ことから、体重コントロールが求められる耐糖能異常の治療や糖尿病の予防には好ましくなく、その分泌は抑制されることが望ましい。
【0006】
一般的なインクレチンホルモン間連薬であるDPP−4阻害剤やGLP−1アナログ薬の他に、GLP−1の分泌を促進しかつGIPの分泌を抑制する作用を有するインクレチンホルモン関連薬としては、アカルボース、ボグリボース、ミグリトールなどの二糖類分解酵素阻害薬(α−GI剤)が知られている。しかし、従来のα−GI剤は、GIP分泌量をある程度抑制することは可能であるが、完全に分泌を抑えることはできなかった(アカルボース:非特許文献3、ボグリボース:非特許文献4、ミグリトール:非特許文献5)。また、従来のα−GI剤は、日々の食事と一緒に経口摂取できるが、やはり医師の処方が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Turton MD,et al.,Nature,379,p69,1996.
【非特許文献2】Miyawaki,K.,et al.,Proc.Acad.Sci.USA,96,p14843、1999.
【非特許文献3】Seifarth,C.,et al.,Diabetic Med.,15,p485,1998.
【非特許文献4】G[o¨]ke,B.,et al.,Digestion,50,p493,1995.
【非特許文献5】Aoki,K.,et al.,Endocrine J.,57,p667,2010.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、GIPの分泌を完全に抑制しながらもGLP−1の分泌を促進することができ、しかも安全性に優れているインクレチンホルモン関連薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するために、従来のα−GI剤の作用機構を検討したところ、従来のα−GI剤は、拮抗型阻害剤であるため、その二糖類分解酵素阻害作用にムラがあり、特に腸管上部で阻害があまり有効に働かず、腸管上部のK細胞が刺激されてGIPが分泌されてしまうことを見出した。そして、拮抗型阻害剤の代わりに不拮抗型の阻害剤をショ糖に対して特定量以上使用すると、二糖類分解酵素阻害作用にムラがなく、腸管上部では阻害が有効に働き、腸管下部で二糖類の緩やかな消化吸収が行われ、その結果、腸管上部のK細胞に刺激を与えることなく、腸管下部のL細胞に刺激を長時間に亘って与えることができ、GIPを全く分泌させることなくGLP−1分泌を増幅できることを見出した。また、不拮抗型のα−GI剤には、食品添加物として従来から使用されているものが多く、人体に対して安全であることも確認した。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(6)から構成されるものである。
(1)GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖を有効成分として含有し、ショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤がL−アラビノース、D−キシロース及び/またはD−タガトースであることを特徴とする薬剤。
(2)ショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする(1)に記載の薬剤。
(3)GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤を含有するが、ショ糖を含有せず、薬剤がショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時に服用されるか、摂取前10分未満以内に服用されるか、または摂取後15分以内に服用されることによってショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖が相互作用することによって効能を発揮することを特徴とする薬剤。
(4)服用されるショ糖またはショ糖含有食品中のショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする(3)に記載の薬剤。
(5)ショ糖含有食品が、和洋菓子類、乳製品、飲料、または飲料水であることを特徴とする(4)に記載の薬剤。
(6)耐糖能異常の治療または糖尿病の予防のために使用されることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載の薬剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薬剤は、不拮抗型のα−GI剤を有効成分としているので、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防に望ましくないGIPの分泌を完全に抑制しながら、望ましいGLP−1の分泌のみを促進することができる。また、不拮抗型のα−GI剤は、一般的に食品添加物として従来から使用されているものが多く、人体に対する安全性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血糖値の経時変化を示すグラフである。
【図2】図2は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血清中のインスリン量の経時変化を示すグラフである。
【図3】図3は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図4】図4は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血漿中の総GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図5】図5は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【図6】図6は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図7】図7は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【図8】図8は、ショ糖+D−キシロース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図9】図9は、ショ糖+D−キシロース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【図10】図10は、ショ糖+D−タガトース(対ショ糖10%、20%、30%、40%、50%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図11】図11は、ショ糖+D−タガトース(対ショ糖10%、20%、30%、40%、50%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の薬剤は、ショ糖分解酵素の拮抗型阻害剤及び不拮抗型阻害剤のうち、不拮抗型阻害剤を使用することにより、腸管上部のK細胞に刺激を与えることなく腸管下部のL細胞のみに刺激を与えて、望ましいGLP−1の分泌を促進しかつ望ましくないGIPの分泌を抑制するものであり、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防のために極めて有用なものである。
【0014】
本発明の薬剤の有効成分である不拮抗型阻害剤としては、従来公知のいずれのものも使用できるが、安全性の観点から自然界に存在するものが望ましく、更には食経験の観点から一般食品として用いられる植物由来のものが望ましい。また、自然界にほとんど存在しないものを使用する場合は、公的機関で食品に添加可能であると認められているものを使用することが望ましい。不拮抗型阻害剤の好ましい例としては、L−アラビノース、D−キシロース及びD−タガトースが挙げられ、これらは単独でまたは混合して使用することができる。
【0015】
本発明の薬剤がその効果を発揮するためには、ショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖とが患者の腸内で同時に存在する状態を作ることが必要である。そのためには、薬剤自体に初めからショ糖を含有させるか、またはショ糖を含有しない薬剤をショ糖もしくはショ糖含有食品と併用することが好ましい。
【0016】
薬剤自体にショ糖を含有させる場合、別個の不拮抗型阻害剤とショ糖を同時に服用した場合と同じ効果を持つ。この場合の薬剤中の不拮抗型阻害剤のショ糖に対する配合割合は、ショ糖分解酵素に対する阻害効果の点で、4.5重量%以上であることが好ましい。不拮抗型阻害剤の配合割合が上記下限以上で初めて、阻害剤がショ糖分解酵素を有意に阻害できるからである。不拮抗型阻害剤の配合割合の上限については特に制限はないが、ある程度以上増加させても効果に差はないので、経済性及び味質のバランスの点から最大200重量%であることが好ましい。不拮抗型阻害剤がL−アラビノースまたはD−キシロースの場合、そのショ糖に対する配合割合は、4.5〜99重量%であることが好ましく、4.5〜75重量%であることがより好ましい。また、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることが好ましく、25〜75重量%であることがより好ましい。
【0017】
本発明の薬剤の剤型は特に限定されず、例えばタブレット状、顆粒状、粉末状、カプセル状、ゲル状、ゾル状などであることができる。また、製剤化は、公知の方法に従って行えばよく、有効成分の不拮抗型阻害剤をショ糖と共に、デンプン、マンニット、カルボキシメチルセルロースなどの薬学的に許容できる担体と混合し、さらに必要に応じて安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤などを添加することにより行うことができる。
【0018】
ショ糖を含有しない薬剤を別個のショ糖またはショ糖含有食品と併用する場合、薬剤の服用は、ショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時かまたは摂取の前後の一定時間内に行うことが必要である。ショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時に薬剤を服用することが効果の点で確実であるが、ショ糖または不拮抗型阻害剤の腸管滞留時間を考慮すると、両者の摂取時間は大きく離さないことが好ましい。具体的には、薬剤の服用が早すぎるとショ糖またはショ糖含有食品を摂取したときに不拮抗型阻害剤が腸管に既に存在しないおそれがあるので、薬剤の服用は、摂取前10分未満以内に行うことが好ましく、摂取前5分未満以内に行うことがより好ましい。また、ショ糖またはショ糖含有食品の摂取後の薬剤の服用は、先に腸管に到達したショ糖がショ糖分解酵素によって分解されて、分解物により腸管上部のK細胞が刺激されてGIPが分泌されるおそれがあるので、できる限り回避することが望ましいが、摂取後15分以内、好ましくは10分以内であれば、実際の使用状況では許容可能である。
【0019】
ショ糖を含有しない薬剤を別個のショ糖またはショ糖含有食品と併用する場合のショ糖またはショ糖含有食品中のショ糖に対する不拮抗型阻害剤の配合割合は、基本的に薬剤自体にショ糖を含有させる場合と同様にすることが好ましい。
【0020】
本発明の薬剤と共に使用されるショ糖含有食品としては、ショ糖を十分に含有していれば特に限定されることはなく、例えば、飴、ガム、クッキー、ケーキ、プリン、ゼリー、ババロア、ムース、羊羹、饅頭、最中、どら焼き、たい焼き、回転焼き、煎餅、おはぎ、大福、団子、ぜんざいなどの和洋菓子類;アイスクリーム、ヨーグルトなどの乳製品;コーヒー、紅茶などの飲料;清涼飲料水、炭酸飲料水、果汁入り飲料水などの飲料水を挙げることができる。
【0021】
本発明の薬剤をショ糖含有食品の摂取と同時に服用する場合、本発明の薬剤をこれらの食品に予め添加しておき、薬剤含有食品の形態をとらせることもできる。この場合、不拮抗型阻害剤に起因する食品の味質の低下を防止するために、スクラロース、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、アスパルテーム、アセスルファムKなどの代替甘味料を添加することもできる。また、必要により、食品形態を保持するために、カラギーナン、寒天、植物ガム(グアガム、アラビアガム等)、その他不溶性食物繊維、水溶性食物繊維などの増粘剤を添加することもできる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の薬剤の優れた効果(GLP−1の分泌を促進しかつGIPの分泌を抑制する効果)を具体的に示す。なお、実施例の記載は純粋に発明の理解のためのみに挙げるものであり、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0023】
実施例1:不拮抗型阻害剤としてL−アラビノースを使用した場合の効果の検証試験
試験方法
ショ糖とL−アラビノースをラットに投与した場合、ショ糖単独(コントロール)をラットに投与した場合、及びL−アラビノース単独(コントロール)をラットに投与した場合について、GLP−1及びGIPの分泌量を調べることにより、血糖値及びインスリン値の抑制効果を検討した。
【0024】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を12匹用意し、これらを4匹ずつ3群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース125mg/体重kg(対ショ糖5%)、ショ糖2.5g/体重kg、またはL-アラビノース125mg/体重kgを経口投与した。
【0025】
投与前、投与30分後、及び投与60分後に各ラットから門脈血及び静脈血を採取した。DPP−4阻害剤とEDTAをあらかじめ注入した採血管を準備しておき、そこに採取した門脈血を入れ、攪拌後、直ちに氷冷し、採取後30分以内に遠心分離して血漿を得た。次に、この血漿から、ELISA法を用いて各試料の活性型GLP−1、総GLP−1及びGIPを定量した。また、採取した静脈血は、採血用試験管に入れ、遠心分離して血清を得た。次に、この血清から、ELISA法を用いて血清中のインスリン値を定量し、酵素法を用いて血清中のブドウ糖値(血糖値)を測定した。各特性値のグラフへの記載値は、4匹のラットから得られた測定値の平均値とした。
【0026】
結果
測定結果を図1〜5に示す。図1は、ショ糖+L−アラビノース投与群とショ糖投与群(コントロール)とL−アラビノース投与群(コントロール)の投与前後の血糖値の経時変化を示すグラフであり、図2〜5はそれぞれ、血清中のインスリン値、活性型GLP−1の量、総GLP−1の量、GIPの量に関する図1と同様のグラフである。
【0027】
図1及び2から、ショ糖とL−アラビノースを同時投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、血糖値及び血清中のインスリン値の上昇が抑制されたことがわかる。また、図3及び4から、ショ糖とL−アラビノースの投与により、活性型GLP−1及び総GLP−1の分泌は促進され、活性型GLP−1の分泌量は、60分後でも有意であったことがわかる。一方、図5から、GIPはショ糖とL−アラビノースを投与してもほとんど分泌されなかったことがわかる。なお、図1〜5から、L−アラビノースのみを投与しても、血糖値、血清中のインスリン値、活性型GLP−1の量、総GLP−1の量、GIPの量はいずれも変化しなかったことがわかる。
【0028】
実施例2:L−アラビノースの用量を変化させた場合の効果の検討試験
試験方法
ラットに投与するL−アラビノース量を実施例1から変化させて、GLP−1とGIPの分泌量の変化を調べた。
【0029】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を24匹用意し、これらを4匹ずつ6群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース25mg/体重kg(対ショ糖1%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース62.5mg/体重kg(対ショ糖2.5%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース100mg/体重kg(対ショ糖4%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース250mg/体重kg(対ショ糖10%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース500mg/体重kg(対ショ糖20%)、またはショ糖2.5g/体重kgを経口投与した。投与後の処理は、実施例1と同様とし、活性型GLP−1及びGIPを測定した。
【0030】
結果
測定結果を図6及び7に示す。図6は、ショ糖+L−アラビノース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフであり、図7は、ショ糖+L−アラビノース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後のGIPの量の経時変化を示すグラフである。なお、図6及び7では、実施例1で測定した対ショ糖5%のデータも併記した。
【0031】
図6及び7から、ショ糖に対し1%、2.5%又は4%のL−アラビノースを投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、活性型GLP−1は60分後に有意に増加し、GIPも若干増加したことがわかる。また、ショ糖に対し10%又は20%のL−アラビノースを投与すると、活性型GLP−1は増加し、一方、GIPは増加しなかったが、その程度は、ショ糖に対し5%のL−アラビノースを投与する場合とほぼ同様であったことがわかる。
【0032】
実施例3:不拮抗型阻害剤としてD−キシロースを使用した場合の効果の検証試験
試験方法
ショ糖とD−キシロースを様々な配合割合でラットに投与した場合、及びショ糖単独(コントロール)をラットに投与した場合について、GLP−1及びGIPの分泌量を調べた。
【0033】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を28匹用意し、これらを4匹ずつ7群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース25mg/体重kg(対ショ糖1%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース62.5mg/体重kg(対ショ糖2.5%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース100mg/体重kg(対ショ糖4%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース125mg/体重kg(対ショ糖5%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース250mg/体重kg(対ショ糖10%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース500mg/体重kg(対ショ糖20%)、またはショ糖2.5g/体重kgを経口投与した。投与後の処理は、実施例1と同様とし、活性型GLP−1及びGIPを測定した。
【0034】
結果
測定結果を図8及び9に示す。図8は、ショ糖+D−キシロース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフであり、図9は、ショ糖+D−キシロース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後のGIPの量の経時変化を示すグラフである。
【0035】
図8及び9から、ショ糖に対し1%、2.5%又は4%のD−キシロースを投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、活性型GLP−1は60分後に有意に増加が促進し、GIPも若干増加したことがわかる。また、ショ糖に対し5%、10%又は20%のD−キシロースを投与すると、活性型GLP−1は増加し、一方、GIPは増加しなかったことがわかる。
【0036】
実施例4:不拮抗型阻害剤としてD−タガトースを使用した場合の効果の検証試験
試験方法
ショ糖とD−タガトースを様々な配合割合でラットに投与した場合、及びショ糖単独(コントロール)をラットに投与した場合について、GLP−1及びGIPの分泌量を調べた。
【0037】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を24匹用意し、これらを4匹ずつ6群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース250mg/体重kg(対ショ糖10%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース500mg/体重kg(対ショ糖20%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース750mg/体重kg(対ショ糖30%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース1000mg/体重kg(対ショ糖40%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース1250mg/体重kg(対ショ糖50%)、またはショ糖2.5g/体重kgを経口投与した。投与後の処理は、実施例1と同様とし、活性型GLP−1及びGIPを測定した。
【0038】
結果
測定結果を図10及び11に示す。図10は、ショ糖+D−タガトース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフであり、図11は、ショ糖+D−タガトース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後のGIPの量の経時変化を示すグラフである。
【0039】
図10及び11から、ショ糖に対し10%又は20%のD−タガトースを投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、活性型GLP−1は60分後に有意に増加し、GIPも若干増加したことがわかる。また、ショ糖に対し30%、40%又は50%のD−タガトースを投与すると、活性型GLP−1は増加し、一方、GIPは増加しなかったことがわかる。
【0040】
以上の結果から、L−アラビノース、D−キシロース、及びD−タガトースはいずれもショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤として、GIPの分泌を抑制しながらGLP−1の分泌を効果的に促進することができること、及びショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合は、L−アラビノース又はD−キシロースの場合は4.5重量%以上であれば十分であり、D−タガトースの場合は25重量%以上であれば十分であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の薬剤は、インクレチンホルモンのうちでも耐糖能異常や糖尿病にとって望ましくないGIPの分泌を完全に抑制しながら、望ましいGLP−1の分泌のみを促進することができる。また、本発明の薬剤の有効成分である不拮抗型のα−GI剤は、一般的に食品添加物として従来から使用されているものが多く、人体に対する安全性に優れている。従って、本発明の薬剤は、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防のために日常的に摂取するのに極めて好適である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防に有用なインクレチンホルモン関連薬に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の糖尿病の罹患者数は、全国統計(平成16年)では約740万人、その予備軍も含めると約1,620万人と言われ(厚生労働省 平成14年糖尿病実態調査)、前回調査(平成9年)より約20%増加している。死亡原因としては、直接では男性で第10位、女性で第9位(厚生労働省 平成17年人口動態統計の概況)であるが、糖尿病との合併症によって誘発される大血管障害などを含めると更に深刻な数になると考えられている。
【0003】
糖尿病予備軍の初期症状として注目されているのが耐糖能異常である。耐糖能異常とは、食後の血糖値が下がりにくくなる症状であり、通常、75gブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で判定される。
【0004】
近年において、糖尿病治療について、インクレチンホルモン(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1))関連薬が注目されている。GIPは主に、腸管上部に存在するK細胞への刺激により分泌され、一方GLP−1は主に、腸管下部に存在するL細胞への刺激により分泌される。インクレチンホルモンは、膵臓に働きかけて高血糖時でのインスリン分泌量の増幅を促すが、血糖値が高くない場合は、インスリン分泌量を増加させないため、低血糖を引き起こすリスクは低い。ただし、インクレチンホルモンは、分解酵素(DPP−4)によって速やかに分解されるという欠点を有する。そこで、その分解を抑制する作用を有するもの(分解酵素の阻害剤、または酵素作用を受けないインクレチンホルモンアナログ)がインクレチンホルモン関連薬として開発されている。こうした医薬品は、副作用が少ないものとして期待されている。ただし、いずれのインクレチンホルモン関連薬も自然界に存在するものでないことから、処方に厳格な医師のコントロールを要し、その製造コストも安価ではない。
【0005】
上述の2種類のインクレチンホルモンのうち、GLP−1は、インスリン分泌増幅のほか摂食抑制作用もある(非特許文献1)とされるため、肥満防止にも有効であり、その分泌の促進が望まれる。一方、GIPは、インスリン分泌増幅のほか脂肪蓄積作用もある(非特許文献2)ことから、体重コントロールが求められる耐糖能異常の治療や糖尿病の予防には好ましくなく、その分泌は抑制されることが望ましい。
【0006】
一般的なインクレチンホルモン間連薬であるDPP−4阻害剤やGLP−1アナログ薬の他に、GLP−1の分泌を促進しかつGIPの分泌を抑制する作用を有するインクレチンホルモン関連薬としては、アカルボース、ボグリボース、ミグリトールなどの二糖類分解酵素阻害薬(α−GI剤)が知られている。しかし、従来のα−GI剤は、GIP分泌量をある程度抑制することは可能であるが、完全に分泌を抑えることはできなかった(アカルボース:非特許文献3、ボグリボース:非特許文献4、ミグリトール:非特許文献5)。また、従来のα−GI剤は、日々の食事と一緒に経口摂取できるが、やはり医師の処方が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Turton MD,et al.,Nature,379,p69,1996.
【非特許文献2】Miyawaki,K.,et al.,Proc.Acad.Sci.USA,96,p14843、1999.
【非特許文献3】Seifarth,C.,et al.,Diabetic Med.,15,p485,1998.
【非特許文献4】G[o¨]ke,B.,et al.,Digestion,50,p493,1995.
【非特許文献5】Aoki,K.,et al.,Endocrine J.,57,p667,2010.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、GIPの分泌を完全に抑制しながらもGLP−1の分泌を促進することができ、しかも安全性に優れているインクレチンホルモン関連薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を解決するために、従来のα−GI剤の作用機構を検討したところ、従来のα−GI剤は、拮抗型阻害剤であるため、その二糖類分解酵素阻害作用にムラがあり、特に腸管上部で阻害があまり有効に働かず、腸管上部のK細胞が刺激されてGIPが分泌されてしまうことを見出した。そして、拮抗型阻害剤の代わりに不拮抗型の阻害剤をショ糖に対して特定量以上使用すると、二糖類分解酵素阻害作用にムラがなく、腸管上部では阻害が有効に働き、腸管下部で二糖類の緩やかな消化吸収が行われ、その結果、腸管上部のK細胞に刺激を与えることなく、腸管下部のL細胞に刺激を長時間に亘って与えることができ、GIPを全く分泌させることなくGLP−1分泌を増幅できることを見出した。また、不拮抗型のα−GI剤には、食品添加物として従来から使用されているものが多く、人体に対して安全であることも確認した。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(6)から構成されるものである。
(1)GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖を有効成分として含有し、ショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤がL−アラビノース、D−キシロース及び/またはD−タガトースであることを特徴とする薬剤。
(2)ショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする(1)に記載の薬剤。
(3)GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤を含有するが、ショ糖を含有せず、薬剤がショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時に服用されるか、摂取前10分未満以内に服用されるか、または摂取後15分以内に服用されることによってショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖が相互作用することによって効能を発揮することを特徴とする薬剤。
(4)服用されるショ糖またはショ糖含有食品中のショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする(3)に記載の薬剤。
(5)ショ糖含有食品が、和洋菓子類、乳製品、飲料、または飲料水であることを特徴とする(4)に記載の薬剤。
(6)耐糖能異常の治療または糖尿病の予防のために使用されることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか一項に記載の薬剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薬剤は、不拮抗型のα−GI剤を有効成分としているので、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防に望ましくないGIPの分泌を完全に抑制しながら、望ましいGLP−1の分泌のみを促進することができる。また、不拮抗型のα−GI剤は、一般的に食品添加物として従来から使用されているものが多く、人体に対する安全性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血糖値の経時変化を示すグラフである。
【図2】図2は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血清中のインスリン量の経時変化を示すグラフである。
【図3】図3は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図4】図4は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血漿中の総GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図5】図5は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖5%)投与群とショ糖投与群とアラビノース投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【図6】図6は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図7】図7は、ショ糖+L−アラビノース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【図8】図8は、ショ糖+D−キシロース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図9】図9は、ショ糖+D−キシロース(対ショ糖1%、2.5%、4%、5%、10%、20%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【図10】図10は、ショ糖+D−タガトース(対ショ糖10%、20%、30%、40%、50%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフである。
【図11】図11は、ショ糖+D−タガトース(対ショ糖10%、20%、30%、40%、50%)投与群とショ糖投与群の投与前後の血漿中のGIP量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の薬剤は、ショ糖分解酵素の拮抗型阻害剤及び不拮抗型阻害剤のうち、不拮抗型阻害剤を使用することにより、腸管上部のK細胞に刺激を与えることなく腸管下部のL細胞のみに刺激を与えて、望ましいGLP−1の分泌を促進しかつ望ましくないGIPの分泌を抑制するものであり、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防のために極めて有用なものである。
【0014】
本発明の薬剤の有効成分である不拮抗型阻害剤としては、従来公知のいずれのものも使用できるが、安全性の観点から自然界に存在するものが望ましく、更には食経験の観点から一般食品として用いられる植物由来のものが望ましい。また、自然界にほとんど存在しないものを使用する場合は、公的機関で食品に添加可能であると認められているものを使用することが望ましい。不拮抗型阻害剤の好ましい例としては、L−アラビノース、D−キシロース及びD−タガトースが挙げられ、これらは単独でまたは混合して使用することができる。
【0015】
本発明の薬剤がその効果を発揮するためには、ショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖とが患者の腸内で同時に存在する状態を作ることが必要である。そのためには、薬剤自体に初めからショ糖を含有させるか、またはショ糖を含有しない薬剤をショ糖もしくはショ糖含有食品と併用することが好ましい。
【0016】
薬剤自体にショ糖を含有させる場合、別個の不拮抗型阻害剤とショ糖を同時に服用した場合と同じ効果を持つ。この場合の薬剤中の不拮抗型阻害剤のショ糖に対する配合割合は、ショ糖分解酵素に対する阻害効果の点で、4.5重量%以上であることが好ましい。不拮抗型阻害剤の配合割合が上記下限以上で初めて、阻害剤がショ糖分解酵素を有意に阻害できるからである。不拮抗型阻害剤の配合割合の上限については特に制限はないが、ある程度以上増加させても効果に差はないので、経済性及び味質のバランスの点から最大200重量%であることが好ましい。不拮抗型阻害剤がL−アラビノースまたはD−キシロースの場合、そのショ糖に対する配合割合は、4.5〜99重量%であることが好ましく、4.5〜75重量%であることがより好ましい。また、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることが好ましく、25〜75重量%であることがより好ましい。
【0017】
本発明の薬剤の剤型は特に限定されず、例えばタブレット状、顆粒状、粉末状、カプセル状、ゲル状、ゾル状などであることができる。また、製剤化は、公知の方法に従って行えばよく、有効成分の不拮抗型阻害剤をショ糖と共に、デンプン、マンニット、カルボキシメチルセルロースなどの薬学的に許容できる担体と混合し、さらに必要に応じて安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤などを添加することにより行うことができる。
【0018】
ショ糖を含有しない薬剤を別個のショ糖またはショ糖含有食品と併用する場合、薬剤の服用は、ショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時かまたは摂取の前後の一定時間内に行うことが必要である。ショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時に薬剤を服用することが効果の点で確実であるが、ショ糖または不拮抗型阻害剤の腸管滞留時間を考慮すると、両者の摂取時間は大きく離さないことが好ましい。具体的には、薬剤の服用が早すぎるとショ糖またはショ糖含有食品を摂取したときに不拮抗型阻害剤が腸管に既に存在しないおそれがあるので、薬剤の服用は、摂取前10分未満以内に行うことが好ましく、摂取前5分未満以内に行うことがより好ましい。また、ショ糖またはショ糖含有食品の摂取後の薬剤の服用は、先に腸管に到達したショ糖がショ糖分解酵素によって分解されて、分解物により腸管上部のK細胞が刺激されてGIPが分泌されるおそれがあるので、できる限り回避することが望ましいが、摂取後15分以内、好ましくは10分以内であれば、実際の使用状況では許容可能である。
【0019】
ショ糖を含有しない薬剤を別個のショ糖またはショ糖含有食品と併用する場合のショ糖またはショ糖含有食品中のショ糖に対する不拮抗型阻害剤の配合割合は、基本的に薬剤自体にショ糖を含有させる場合と同様にすることが好ましい。
【0020】
本発明の薬剤と共に使用されるショ糖含有食品としては、ショ糖を十分に含有していれば特に限定されることはなく、例えば、飴、ガム、クッキー、ケーキ、プリン、ゼリー、ババロア、ムース、羊羹、饅頭、最中、どら焼き、たい焼き、回転焼き、煎餅、おはぎ、大福、団子、ぜんざいなどの和洋菓子類;アイスクリーム、ヨーグルトなどの乳製品;コーヒー、紅茶などの飲料;清涼飲料水、炭酸飲料水、果汁入り飲料水などの飲料水を挙げることができる。
【0021】
本発明の薬剤をショ糖含有食品の摂取と同時に服用する場合、本発明の薬剤をこれらの食品に予め添加しておき、薬剤含有食品の形態をとらせることもできる。この場合、不拮抗型阻害剤に起因する食品の味質の低下を防止するために、スクラロース、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、アスパルテーム、アセスルファムKなどの代替甘味料を添加することもできる。また、必要により、食品形態を保持するために、カラギーナン、寒天、植物ガム(グアガム、アラビアガム等)、その他不溶性食物繊維、水溶性食物繊維などの増粘剤を添加することもできる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の薬剤の優れた効果(GLP−1の分泌を促進しかつGIPの分泌を抑制する効果)を具体的に示す。なお、実施例の記載は純粋に発明の理解のためのみに挙げるものであり、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0023】
実施例1:不拮抗型阻害剤としてL−アラビノースを使用した場合の効果の検証試験
試験方法
ショ糖とL−アラビノースをラットに投与した場合、ショ糖単独(コントロール)をラットに投与した場合、及びL−アラビノース単独(コントロール)をラットに投与した場合について、GLP−1及びGIPの分泌量を調べることにより、血糖値及びインスリン値の抑制効果を検討した。
【0024】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を12匹用意し、これらを4匹ずつ3群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース125mg/体重kg(対ショ糖5%)、ショ糖2.5g/体重kg、またはL-アラビノース125mg/体重kgを経口投与した。
【0025】
投与前、投与30分後、及び投与60分後に各ラットから門脈血及び静脈血を採取した。DPP−4阻害剤とEDTAをあらかじめ注入した採血管を準備しておき、そこに採取した門脈血を入れ、攪拌後、直ちに氷冷し、採取後30分以内に遠心分離して血漿を得た。次に、この血漿から、ELISA法を用いて各試料の活性型GLP−1、総GLP−1及びGIPを定量した。また、採取した静脈血は、採血用試験管に入れ、遠心分離して血清を得た。次に、この血清から、ELISA法を用いて血清中のインスリン値を定量し、酵素法を用いて血清中のブドウ糖値(血糖値)を測定した。各特性値のグラフへの記載値は、4匹のラットから得られた測定値の平均値とした。
【0026】
結果
測定結果を図1〜5に示す。図1は、ショ糖+L−アラビノース投与群とショ糖投与群(コントロール)とL−アラビノース投与群(コントロール)の投与前後の血糖値の経時変化を示すグラフであり、図2〜5はそれぞれ、血清中のインスリン値、活性型GLP−1の量、総GLP−1の量、GIPの量に関する図1と同様のグラフである。
【0027】
図1及び2から、ショ糖とL−アラビノースを同時投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、血糖値及び血清中のインスリン値の上昇が抑制されたことがわかる。また、図3及び4から、ショ糖とL−アラビノースの投与により、活性型GLP−1及び総GLP−1の分泌は促進され、活性型GLP−1の分泌量は、60分後でも有意であったことがわかる。一方、図5から、GIPはショ糖とL−アラビノースを投与してもほとんど分泌されなかったことがわかる。なお、図1〜5から、L−アラビノースのみを投与しても、血糖値、血清中のインスリン値、活性型GLP−1の量、総GLP−1の量、GIPの量はいずれも変化しなかったことがわかる。
【0028】
実施例2:L−アラビノースの用量を変化させた場合の効果の検討試験
試験方法
ラットに投与するL−アラビノース量を実施例1から変化させて、GLP−1とGIPの分泌量の変化を調べた。
【0029】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を24匹用意し、これらを4匹ずつ6群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース25mg/体重kg(対ショ糖1%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース62.5mg/体重kg(対ショ糖2.5%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース100mg/体重kg(対ショ糖4%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース250mg/体重kg(対ショ糖10%)、ショ糖2.5g/体重kg+L-アラビノース500mg/体重kg(対ショ糖20%)、またはショ糖2.5g/体重kgを経口投与した。投与後の処理は、実施例1と同様とし、活性型GLP−1及びGIPを測定した。
【0030】
結果
測定結果を図6及び7に示す。図6は、ショ糖+L−アラビノース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフであり、図7は、ショ糖+L−アラビノース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後のGIPの量の経時変化を示すグラフである。なお、図6及び7では、実施例1で測定した対ショ糖5%のデータも併記した。
【0031】
図6及び7から、ショ糖に対し1%、2.5%又は4%のL−アラビノースを投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、活性型GLP−1は60分後に有意に増加し、GIPも若干増加したことがわかる。また、ショ糖に対し10%又は20%のL−アラビノースを投与すると、活性型GLP−1は増加し、一方、GIPは増加しなかったが、その程度は、ショ糖に対し5%のL−アラビノースを投与する場合とほぼ同様であったことがわかる。
【0032】
実施例3:不拮抗型阻害剤としてD−キシロースを使用した場合の効果の検証試験
試験方法
ショ糖とD−キシロースを様々な配合割合でラットに投与した場合、及びショ糖単独(コントロール)をラットに投与した場合について、GLP−1及びGIPの分泌量を調べた。
【0033】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を28匹用意し、これらを4匹ずつ7群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース25mg/体重kg(対ショ糖1%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース62.5mg/体重kg(対ショ糖2.5%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース100mg/体重kg(対ショ糖4%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース125mg/体重kg(対ショ糖5%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース250mg/体重kg(対ショ糖10%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−キシロース500mg/体重kg(対ショ糖20%)、またはショ糖2.5g/体重kgを経口投与した。投与後の処理は、実施例1と同様とし、活性型GLP−1及びGIPを測定した。
【0034】
結果
測定結果を図8及び9に示す。図8は、ショ糖+D−キシロース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフであり、図9は、ショ糖+D−キシロース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後のGIPの量の経時変化を示すグラフである。
【0035】
図8及び9から、ショ糖に対し1%、2.5%又は4%のD−キシロースを投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、活性型GLP−1は60分後に有意に増加が促進し、GIPも若干増加したことがわかる。また、ショ糖に対し5%、10%又は20%のD−キシロースを投与すると、活性型GLP−1は増加し、一方、GIPは増加しなかったことがわかる。
【0036】
実施例4:不拮抗型阻害剤としてD−タガトースを使用した場合の効果の検証試験
試験方法
ショ糖とD−タガトースを様々な配合割合でラットに投与した場合、及びショ糖単独(コントロール)をラットに投与した場合について、GLP−1及びGIPの分泌量を調べた。
【0037】
まず、通常食で1週間馴化したSD雄系ラット(4週齢)を24匹用意し、これらを4匹ずつ6群に分け、各群に、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース250mg/体重kg(対ショ糖10%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース500mg/体重kg(対ショ糖20%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース750mg/体重kg(対ショ糖30%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース1000mg/体重kg(対ショ糖40%)、ショ糖2.5g/体重kg+D−タガトース1250mg/体重kg(対ショ糖50%)、またはショ糖2.5g/体重kgを経口投与した。投与後の処理は、実施例1と同様とし、活性型GLP−1及びGIPを測定した。
【0038】
結果
測定結果を図10及び11に示す。図10は、ショ糖+D−タガトース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後の活性型GLP−1の量の経時変化を示すグラフであり、図11は、ショ糖+D−タガトース投与群とショ糖投与群(コントロール)の投与前後のGIPの量の経時変化を示すグラフである。
【0039】
図10及び11から、ショ糖に対し10%又は20%のD−タガトースを投与すると、ショ糖のみを投与する場合と比較して、活性型GLP−1は60分後に有意に増加し、GIPも若干増加したことがわかる。また、ショ糖に対し30%、40%又は50%のD−タガトースを投与すると、活性型GLP−1は増加し、一方、GIPは増加しなかったことがわかる。
【0040】
以上の結果から、L−アラビノース、D−キシロース、及びD−タガトースはいずれもショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤として、GIPの分泌を抑制しながらGLP−1の分泌を効果的に促進することができること、及びショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合は、L−アラビノース又はD−キシロースの場合は4.5重量%以上であれば十分であり、D−タガトースの場合は25重量%以上であれば十分であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の薬剤は、インクレチンホルモンのうちでも耐糖能異常や糖尿病にとって望ましくないGIPの分泌を完全に抑制しながら、望ましいGLP−1の分泌のみを促進することができる。また、本発明の薬剤の有効成分である不拮抗型のα−GI剤は、一般的に食品添加物として従来から使用されているものが多く、人体に対する安全性に優れている。従って、本発明の薬剤は、耐糖能異常の治療や糖尿病の予防のために日常的に摂取するのに極めて好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖を有効成分として含有し、ショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤がL−アラビノース、D−キシロース及び/またはD−タガトースであることを特徴とする薬剤。
【請求項2】
ショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤を含有するが、ショ糖を含有せず、薬剤がショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時に服用されるか、摂取前10分未満以内に服用されるか、または摂取後15分以内に服用されることによってショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖が相互作用することによって効能を発揮することを特徴とする薬剤。
【請求項4】
服用されるショ糖またはショ糖含有食品中のショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
ショ糖含有食品が、和洋菓子類、乳製品、飲料、または飲料水であることを特徴とする請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
耐糖能異常の治療または糖尿病の予防のために使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項1】
GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖を有効成分として含有し、ショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤がL−アラビノース、D−キシロース及び/またはD−タガトースであることを特徴とする薬剤。
【請求項2】
ショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
GLP−1(グルカゴン様ペプチド−1)の分泌を促進しかつGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の分泌を抑制するための薬剤であって、薬剤がショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤を含有するが、ショ糖を含有せず、薬剤がショ糖またはショ糖含有食品の摂取と同時に服用されるか、摂取前10分未満以内に服用されるか、または摂取後15分以内に服用されることによってショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤とショ糖が相互作用することによって効能を発揮することを特徴とする薬剤。
【請求項4】
服用されるショ糖またはショ糖含有食品中のショ糖に対するショ糖分解酵素の不拮抗型阻害剤の配合割合が、L−アラビノースまたはD−キシロースの場合、4.5〜99重量%であり、D−タガトースの場合、25〜99重量%であることを特徴とする請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
ショ糖含有食品が、和洋菓子類、乳製品、飲料、または飲料水であることを特徴とする請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
耐糖能異常の治療または糖尿病の予防のために使用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図9】
【公開番号】特開2013−63947(P2013−63947A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−108986(P2012−108986)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】
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