説明

LOX−1アンタゴニスト剤

【課題】血管内皮細胞、マクロファージなどで発現されている酸化LDL受容体LOX−1の安全性の高いアンタゴニスト剤、及びそれを含有する食品組成物並びに心血管病又は癌の予防薬及び治療薬の提供。
【解決手段】下記式(1):


で示されるフラボノイド没食子酸エステルを有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体(LOX−1)のアンタゴニスト剤、及び該アンタゴニスト剤を含有する食品組成物、並びに心血管病又は癌の予防又は治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本をはじめとする東アジアでは急激な社会の高齢化が進んでいる。さらに、医療技術の向上、国民の長寿化に伴い、医療費の中心は従来の急性疾患より、慢性疾患の治療へとシフトしつつある。
【0003】
日本国厚生労働省の最近の人口動態統計によると、日本における疾患別死亡者の1位が悪性新生物(腫瘍及び癌)、2位が心疾患、3位が脳血管疾患となっているが、心疾患と脳血管疾患による死亡者の合計は全体の約27%であり、これは悪性新生物の死亡者割合である約30%にほぼ匹敵する(平成20年(2008年))。悪性新生物の対処方法に関しては、その発症プロセスから考慮すると早期発見・早期治療が重要であり、臨床学的なアプローチが望ましいとされる。一方、心疾患・脳血管疾患については、生活習慣病に起因する、慢性的な疾患である肥満症・動脈硬化症の下流に位置する疾患であり、その治療も長期間わたるものである。つまり、先に述べたように医療出費の中心が慢性疾患の治療へとシフトしていることが統計的にも現れている。
【0004】
慢性的な疾患に対しては治療法として、長期投薬による治療と日常生活習慣への指導という形での対処法が一般的であるが、疾患の特性から、日常的に摂取可能な形態を用いる食品からの予防学的なアプローチが可能なプロセスであり、むしろ、このようなプロセスでの対処方法が望ましい。
【0005】
心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患の危険因子として、低密度リポタンパク質(LDL)が知られている。元来LDLは血漿脂質の運搬に必要な脂質蛋白質複合体であるが、酸化を受け易い不飽和脂肪酸を多く含み、容易に酸化的修飾を受ける。この酸化型のLDL(酸化LDL)が血管内皮細胞の機能変化を引き起こし、病的生理活性を担う重要な因子であることが近年わかりつつある。
【0006】
酸化LDLによる血管内皮細胞への作用を媒介する受容体として、レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体(LOX−1)が本発明者の一人である沢村 達也氏により血管内皮細胞より初めて分離同定された(非特許文献1)。その後の研究により、LOX−1は内皮細胞のみならず、マクロファージ、血小板、血管平滑筋細胞などにおいても発現が確認されている(非特許文献2〜4)。
LOX−1の発現は、糖尿病、高血圧、高脂血症などで増加しており、また、沢村 達也氏により作成された抗LOX−1抗体(抗ヒトLOX−1マウスモノクローナル抗体TS92)は酸化LDLとLOX−1との結合を阻害することにより酸化LDLによる内皮依存性弛緩反応の低下を回復し、さらに、心筋梗塞後の梗塞巣の形成やバルーン傷害後の血管内膜肥厚を抑制する。血栓の形成や、エンドトキシン起因性炎症作用、脳卒中の発症にもLOX−1の関与が示唆されており、LOX−1が心血管病の発症において様々なレベルで関与していることが想定されている (非特許文献2、5〜10)。
【0007】
さらに、近年、酸化LDL以外にLOX−1のリガンドとして体内の炎症反応と深い関係のあるC反応性タンパク質(C-reactive protein;CRP)が報告されている(非特許文献11)。また、酸化LDLが関与する炎症性疾患及び代謝性疾患と癌との関連性も指摘されている(非特許文献12)。疫学的研究としては、コホート研究によりLOX−1の臨床的応用の可能性が報告されている(非特許文献10)。すなわち、LOX−1を標的とすることは、これら、心血管病や癌などの関連疾患の予防、治療において高い効果を上げることが予想される。
【0008】
例えば、LOX−1へのリガンドの結合を阻害することを目的とした発明は本発明者の一人である沢村 達也氏より酸化LDL受容体に対する抗体を利用した医薬組成物が報告されている(特許文献1)。
【0009】
一方、慢性疾患の一つである動脈硬化症に対する効能を主張する化合物について、これまでに報告がされている。例えば、特許文献2ではプロアントシアニジンを含む血栓形成抑制剤又は血小板凝集抑制剤を報告しているが、プロアントシアニジンは複数のフラボノイド単位が重合した縮合型タンニンであり、分子量が比較的大きいものである。これら高分子化合物は効能が見られたとしても特に経口からの摂取では有効成分の吸収面において非常に効率が悪く、事実、確実なに効果を発現するには、実施例のマウスの結果から換算して、成人男性60kgに対しては一日24gの有効成分を含む血栓形成抑制剤又は血小板凝集抑制剤を摂取し続ける必要がある。また、プロアントシアニジンについては血糖若しくは血圧の上昇を抑制する効果、血中アディポネクチン濃度上昇効果などの報告もなされている(特許文献3,4)。また、動脈硬化症において発生の見られる線維性肥厚を防ぐ目的で没食子酸エステルの有効量を含む線維化抑制剤の報告も存在する(特許文献5)。しかしながら、特許文献5には没食子酸とフラボノイドとのエステルについて記載されているものの、この化合物とLOX−1との関連については記載がなく不明である。
【0010】
また、フラボノイドの一種であるカテキンやエピカテキンによる血管系機能改善も報告されている(特許文献6)が、後述の実施例1に記載のようにカテキン類はLOX−1に対しアンタゴニスト作用をほとんど有さない化合物である。また、特許文献6において言及されているカテキンやエピカテキンの没食子酸エステル化合物についてはLOX−1との関連性について詳細な検討が実施されていない。
【0011】
その他、没食子酸エステルを含有する物としての緑茶の抽出物と動脈硬化に関する報告がいくつかなされているが、LOX−1との関連性については一切の検討がなされていない。例えば、血清コレステロール値を低下させる効果を特許文献7〜10などで報告されているが、いずれも、腸管でのコレステロールの吸収を阻害することを目的としており、そもそも、人を含む動物は自身にコレステロール合成経路を持ち合わせる中、腸管でのコレステロールの吸収を阻害することでの動脈硬化効果は非常に限定的であると推測される。
【0012】
加えて、近年、血中コレステロール値と動脈硬化の因果関係について、日本脂質栄養学会が従来の見解と異なった新たなガイドラインを発表するなど(非特許文献13)、必ずしも血中コレステロール値の低下が動脈硬化の予防、更には心血管病の根源的な予防の効果があるとは言い切れていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−180212号公報
【特許文献2】特開2004−238289号公報
【特許文献3】特開2003−212783号公報
【特許文献4】特開2006−182706号公報
【特許文献5】特開平5−271067号公報
【特許文献6】特表2009−501161号公報
【特許文献7】特開昭60−156614号公報
【特許文献8】特開昭62−30711号公報
【特許文献9】特許第2812682号公報
【特許文献10】特開2004−262927号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Sawamura T, et al., Nature, 386:73-77,(1997)
【非特許文献2】Chen M, et al., Biochem Biophys Res Commun, 282:153-158 (2001)
【非特許文献3】Kataoka H, et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol, 21:955-960(2001)
【非特許文献4】Yoshida H, et al., Biochem J, 334:9-13(1998)
【非特許文献5】Mehta JL, et al., Cir Res 100(11)1634-1642(2007)
【非特許文献6】Li et al., J.Pharmacol. Exp. Ther., 302:601-605(2002)
【非特許文献7】Hinagata et al., Cardiovasc Res, 69:263-271(2006)
【非特許文献8】Kakutani M., et al., Proc Natl Acad Sci USA. 97:360-364(2000)
【非特許文献9】Honjo M., et al., Proc Natl Acad Sci USA. 100:1274-1279(2003)
【非特許文献10】Inoue N., et al., Clin Chem. 2010 Apr;56(4):550-558
【非特許文献11】Fujita R., et al., Clin Chem. 2010 Mar;56(3):478-481
【非特許文献12】Heather A. Hirsch, et al., Cancer Cell, 17, 348-361(2010)
【非特許文献13】長寿のためのコレステロールガイドライン2010年度版 中日出版社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の背景技術を鑑みてなされたものであり、心血管病や癌の根源的な予防、治療を目標とし、血管内皮細胞、マクロファージなどで発現されている酸化LDL受容体であるLOX−1への酸化LDL及びその他LOX−1へのリガンドの結合を阻害する安全性が高いアンタゴニスト剤、該アンタゴニスト剤を含有する食品組成物、心血管病予防薬又は治療薬、並びに癌の予防薬又は治療薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために、様々な天然物よりLOX−1の酸化LDL結合能を阻害するアンタゴニスト作用成分を鋭意探索した。その結果、フラボノイド没食子酸エステルの中より、本目的のアンタゴニスト作用の強い化合物を発見し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 下記式(1):
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、R1〜R4はH又は−CH3、R5〜R8はH、−OH又は−OCH3であり、R1〜R4はそれぞれ同一の基であっても、或いは異なった基でもよく、R5〜R8はそれぞれ同一の基であっても、或いは異なった基でもよい。)
で示されるフラボノイド没食子酸エステルを有効成分とするLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤(以下、LOX−1アンタゴニスト剤と略す)、
〔2〕前記式(1)において、R1、R4がHである前記〔1〕記載のLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤、
〔3〕前記フラボノイド没食子酸エステルが下記式(2)で示されるエピカテキンガレート(ECg)及び/又は下記式(3)で示されるカテキンガレート(Cg)である請求項1又は2記載のLOX−1アンタゴニスト剤、
【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
〔4〕酸化低密度リポ蛋白質以外のリガンドを介したLOX−1結合抑制作用を有する前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載のLOX−1アンタゴニスト剤、
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載のLOX−1アンタゴニスト剤を含有する食品組成物、
〔6〕前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載のLOX−1アンタゴニスト剤を含有する心血管病予防又は治療薬、
〔7〕前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載のLOX−1アンタゴニスト剤を含有する癌の予防又は治療薬
に関する。
【0023】
なお、本発明において、アンタゴニスト作用とは、後述の実施例に記載のような方法で評価した場合に、LOX−1への酸化LDLの結合を阻害する作用を意味する。
【0024】
また、本発明において、心血管病としては、心臓・血管における疾患を意味しており、例えば、脳卒中、心筋梗塞、血栓症疾患、炎症性疾患が挙げられる。また、癌としては、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫が含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のLOX−1アンタゴニスト剤を用いることで、LOX−1を介した酸化LDLの血管内皮細胞、マクロファージ、平滑筋細胞などの細胞内への取り込みや、その他LOX−1へのリガンドの結合を阻害することができる。また、LOX−1アンタゴニスト剤の有効成分である式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルの優れた加工適性から食品組成物や医薬品への応用が容易であり、安価且つ安全にLOX−1を介した心血管病を治療又は予防するという効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、実施例1における、各化合物のhLOX−1タンパク質(ヒト由来組換え型LOX−1タンパク質)に対する酸化LDL結合阻害能の結果を示すグラフである。縦軸は、化合物未添加の場合の酸化LDL結合阻害能を100とした場合の、各化合物が有する酸化LDL結合阻害能の相対値を示す。相対値が低いほど、酸化LDL結合阻害能が高いことを示す。
【図2】図2は、実施例2における各化合物のhLOX−1に対する酸化LDL結合阻害能の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のLOX−1アンタゴニスト剤は、有効成分として式(1):
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R1〜R4はH又は−CH3、R5〜R8はH、−OH又は−OCH3であり、R1〜R4はそれぞれ同一の基であっても、或いは異なった基でもよく、R5〜R8はそれぞれ同一の基であっても、或いは異なった基でもよい。)
で示されるフラボノイド没食子酸エステルを含有する。前記フラボノイド没食子酸エステルは、フラボノイドと、没食子酸とのエステル化合物である。
【0030】
本発明では、前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルを有効成分として用いることで、例えば、プロアントシアニンのような重合体に比べると、単量体であるため、投与されたヒトや非ヒト動物の体内に吸収されやすいという利点がある。
【0031】
前記R1〜R4は、H又は−CH3であり、R1〜R4はそれぞれ同一の基であっても、異なった基であってもよい。また、R5〜R8は、H、−OH又は−OCH3であり、R5〜R8はそれぞれ同一の基であっても、異なった基であってもよい。
【0032】
中でも、前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルとしては、強いLOX−1アンタゴニスト作用を発現する観点から、R1、R4がHであることが好ましく、R1〜R4がH、R5〜R8がH又は−OHであることがより好ましい。中でも、LOX−1アンタゴニスト作用を顕著に有する観点から、下記式(2)で示されるECg及び/又は下記式(3)で示されるCgであることが好ましい。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルの多くはカメリア シネンシス(Camellia sinensis)(茶)をはじめ幅広い植物中に見出される。カメリア シネンシスは、日本を含む世界中において古くから飲料及び食品の原料として様々な形態で長く食されているため、前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルは、安全性の点で、問題はない。
【0036】
ただし、前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルはいずれも前記カメリア シネンシス中における含有量が少ない。例えば、天然界で比較的存在量の多いとされるECgにおいてすら、前記カメリア シネンシスに含まれる全主要フラボノイド類中の約10%程度に過ぎない(例えば、茶の科学:p88,朝倉書店)。したがって、前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルはいずれも、カテキンなどの他のフラボノイドに比べると、これまで作用の検討が見過ごされてきた化合物群である。
【0037】
前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルは、そのままLOX−1アンタゴニスト剤の有効成分として用いることが好ましいが、本発明のLOX−1アンタゴニスト剤では、前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルに加えて、必要であれば製剤に使用される公知の成分を混合した組成物としてもよい。前記式(1)で示されるフラボノイド没食子酸エステルのLOX−1アンタゴニスト剤中における含有量は、有効成分として作用効果が奏される量であればよく、特に限定はない。
【0038】
また、本発明のLOX−1アンタゴニスト剤は、食品、医薬品などの組成物に、公知の技術を用いて、配合することができる。この場合、本発明のLOX−1アンタゴニスト剤をそのまま用いてもよいが、各種基材に配合してもよい。基材の種類は特に限定されるものではなく、適時設定すればよいが、例えば、錠剤、カプセル、飴、グミあるいはドリンクなどの経口投与基材が、食品などに簡易に配合できる観点から好ましい。
【0039】
食品組成物としては、一般食品として、種々の食品原料に前記LOX−1アンタゴニスト剤の所望量を加え、通常の製造方法により加工することにより、また、健康食品、機能性食品として、食べ易い状態にして使用することができる。
【0040】
医薬品組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤、液剤などが挙げられ、これらは増量剤、賦形剤、潤沢剤、崩壊剤、結合剤、矯味矯臭剤などと共に通常の方法に従って製剤すればよい。これらの医薬品組成物は、心血管病又は癌の予防薬又は治療薬として使用される。
【0041】
本発明のLOX−1アンタゴニスト剤の1日あたりの投与量は、症状、身長、体重、年齢などにより異なるが、成人1人あたりの摂取量が、1〜2000mg/kg・日、好ましくは1〜100mg/kg・日となるように、1回ないし数回に分けてヒトや非ヒト動物などの被検体に投与するのがよい。
【0042】
本発明のLOX−1アンタゴニスト剤は、ヒトや非ヒト動物(例えば、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ラクダ、ウサギ、イヌ、ネコ、ネズミ、マウス、モルモットなどの哺乳動物、ニワトリ、アヒル、ガチョウなどの鳥類)に投与することで、心血管病又は癌を予防/治療することが期待できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の主旨はこれらによって制限されるものではない。
【0044】
(実施例1)
茶抽出物より得られる主要なカテキン類のLOX−1アンタゴニスト作用を、組換えhLOX−1タンパク質を用いて評価を行った。
【0045】
試料には(−)C、Cg、EC、ECg、EGC、EGCgとLOX−1アンタゴニスト活性が見いだされているプロシアニジンC1の計7種類を使用した。
【0046】
組換えhLOX−1タンパク質は、ヒト由来LOX−1の細胞外ドメインである。human LOX−1 cDNA(Genbank:NM002543)のうち、細胞外ドメイン(ex−hLOX−1)をコードする領域(61〜273番目の塩基配列)を、定法に従い発現、精製し得たものを使用した。組換えhLOX−1タンパク質は酸化LDLに対する結合能力を有していることを確認し、以下のELISAによる試験用LOX−1標品として用いることにした。
【0047】
ELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay:酵素免疫測定法)は、マキシソープ・イムノプレート(96ウェルタイプ、NUNC製)を用いて行った。上記のように精製した組換えhLOX−1タンパク質を5μg/mLとなるようにPBS(−)バッファーで調整し、50μLずつ各ウェルにアプライした。4℃で1晩静置後、PBS(−)バッファーで各ウェルを400μL×2回で洗浄し、20%イムノブロックを含むPBS(−)バッファー300μLを各ウェルにアプライした。25℃で2時間静置した後に、PBS(−)バッファーで各ウェルを400μL×2回で洗浄し。10mM HEPESバッファーを含むHamF12−HEPES培地で1μMとなるように調整した各精製サンプルを50μLずつ各ウェルにアプライした。4℃で1時間静置した後に、PBS(−)バッファーで各ウェルを400μL×3回で洗浄し、1μg/mLとなるようにHamF12−HEPES培地で調整した酸化LDLを各ウェルにアプライした。4℃で1時間静置した後に、PBS(−)バッファーで各ウェルを400μL×3回で洗浄し、Anti−ApoB HUC20抗体を10mM HEPES/150 mM NaCl/0.1% BSAで適当量希釈し、50μLずつ各ウェルにアプライした。室温で1時間の静置後、PBS(−)バッファーで各ウェルを400μL×3回で洗浄し、Donkey anti−chicken IgY抗体を10mM HEPES/150 mM NaCl/0.1% BSAで適当量希釈し、50μLずつ各ウェルにアプライした。室温で1時間の静置後、PBS(−)バッファーで各ウェルを400μL×5回で洗浄し、 3,3’,5,5’−テトラメチルベンヂジン(TMB)ペルオキシダーゼ−酵素免疫測定(EIA)−基質−キット試薬(Bio−rad社製)を50μLずつ各ウェルにアプライした。適当な反応時間後に、0.5M H2SO4を50μLずつ各ウェルにアプライして反応を停止させた。最終的に450nmで検出を行い、LOX‐1アンタゴニスト活性(LOX‐1に対する酸化LDL結合阻害率)を定量した。図1に結果を示す。
【0048】
その結果、図1に示すように、ECgに最も優れたLOX−1アンタゴニスト活性が見いだされた。これは公知のLOX−1アンタゴニスト剤であるプロシアニジンC1よりも優れた活性である。またCgにおいてもプロシアニジンC1と同等のアンタゴニスト活性が見いだされた。このことからECg及びCgが新規なLOX−1アンタゴニスト剤として有用であることが示された。
【0049】
(実施例2)ECg類縁体のLOX−1アンタゴニスト作用
下記フラバン骨格:
【0050】
【化7】

【0051】
において、C環に没食子酸エステル構造を持つ、フラボノイド没食子酸エステルであるECg及びECgの類縁体4種(下記式:
【0052】
【化8】

【0053】
で表されるECg3’−O−Me、ECg4’−O−Me、ECg3’’−O−Me、ECg4’’−O−Me)のLOX−1に対するアンタゴニスト活性を評価した。
方法は実施例1に準じて行った。結果を図2に示す。
【0054】
図2の結果より、ECg3’’−O−Meにも優れたLOX−1アンタゴニスト作用が見いだされた。ECg3’’−O−MeのLOX−アンタゴニスト作用は、ECgに比べると低いものの、図1に示される結果から、プロシアニジンC1よりも高いLOX−アンタゴニスト作用を有すると考えられる。このことからECg3’’−O−MeがLOX−1アンタゴニスト剤として有用であることが示された。
【0055】
また、フラバン骨格のB環中に位置する3’位、4’位の水酸基のいずれがメチル化したECg3’−O−Me、ECg4’−O−Me、ECgの没食子酸エステル部分の4’’位の水酸基がメチル化したECg4’’−O−Meは、いずれも化合物が未添加の場合に比べて、LOX−アンタゴニスト作用を有していたが、1μg/mlの濃度で最も結合阻害活性の強いECgに比べると、いずれもLOX−アンタゴニスト作用は低かった。このことから、フラバン骨格のB環中に位置する3’位、4’位及び没食子酸エステル部分の4’’位の側鎖が水酸基であることが強いLOX−1アンタゴニスト作用の発現に重要であることが明らかになった。
【0056】
以上の結果から、式(1)で示される化合物は、LOX−1アンタゴニスト作用を有していることがわかる。
なお、上記のLOX−1アンタゴニスト作用は、鉄イオンが存在していない培地中では生じにくいことも確認している。
【0057】
また、前記非特許文献2〜10にはLOX−1が心血管病の発症に関連していること、前記非特許文献11、12にはLOX−1が癌の関連に関連していることが示されていることから、LOX−1の作用を阻害できるLOX−1アンタゴニスト剤が動物における心血管病や癌の予防・治療薬として使用できることは十分予想される。
したがって、本発明のLOX−1アンタゴニスト剤も、上記のように、酸化LDL受容体であるLOX−1への酸化LDLの結合を阻害するLOX−1アンタゴニスト作用に優れ、かつ安全性が高いことから、本発明のLOX−1アンタゴニスト剤をヒトや非ヒトの哺乳動物などの被検体に継続的に摂取させることにより、血管内皮細胞などの心血管病又は癌に関連する細胞への酸化LDLの結合が継続的に阻害されて、ヒト、非ヒト動物における心血管病や癌などの関連疾患の発症を抑える予防薬、または疾患の症状を緩和したりする治療薬として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

(式中、R1〜R4はH又は−CH3、R5〜R8はH、−OH又は−OCH3であり、R1〜R4はそれぞれ同一の基であっても、或いは異なった基でもよく、R5〜R8はそれぞれ同一の基であっても、或いは異なった基でもよい。)
で示されるフラボノイド没食子酸エステルを有効成分とするLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤。
【請求項2】
前記式(1)において、R1、R4がHである請求項1記載のLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤。
【請求項3】
前記フラボノイド没食子酸エステルが下記式(2)で示されるエピカテキンガレート及び/又は下記式(3)で示されるカテキンガレートである請求項1又は2記載のLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤。
【化2】

【化3】

【請求項4】
酸化低密度リポ蛋白質以外のリガンドを介したLOX−1結合抑制作用を有する請求項1〜3いずれか記載のLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤を含有する食品組成物。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載のLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤を含有する心血管病予防又は治療薬。
【請求項7】
請求項1〜4いずれか記載のLOX−1(レクチン様酸化低密度リポ蛋白質受容体)アンタゴニスト剤を含有する癌の予防又は治療薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−111747(P2012−111747A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236448(P2011−236448)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】