説明

PC鋼より線の防錆被膜形成方法及びPC鋼より線

【課題】ラインスピードを上げて生産性を向上させてコストダウンを図ること、および均一で良好な被膜を効率よく形成する。
【解決手段】一連のラインでPC鋼より線1の防錆被膜形成方法であって、加熱は合成樹脂粉体塗料を塗装する前の前加熱と合成樹脂粉体塗料の塗装後の後加熱であり、前記前加熱の温度は後加熱の温度より30〜130℃高く設定し、前記樹脂被膜を設定した膜厚にするために、前記合成樹脂粉体塗料の平均粒径を40〜50μmのものを使用し、前記ラインのスピードを5〜10m/minにしたことにより、生産性を向上させてコストダウンが図れるばかりでなく、柔軟性と、コンクリートとの付着強度とを損なわない均一で良好な被膜を効率よく形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物並びに土木構造物等に於けるプレストレストコンクリート工法のポストテンショニング方式またはプレテンショニング方式の緊張材や張設材用として、または、塩害腐食の虞がある海洋構造物や斜張橋の張設材または斜張材用ケーブルとして用いられるPC鋼より線の芯線及び側線に、合成樹脂粉体塗料で防錆被膜を形成する方法と該方法によって得られたPC鋼より線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にPC鋼より線の構造は、芯線の周囲に複数本の側線がより合わされた構造となっている。その理由は、PC鋼より線に柔軟性を付与するためと、側線のより合せによって形成される螺旋状溝部でコンクリートとのせん断抵抗を得るためである。従って、PC鋼より線の防錆加工方法としても、上記の特性を阻害することのない方法が望まれている。現在、PC鋼より線の防錆加工方法として幾つかの方法が公知になっている。
【0003】
その公知に係る第1の従来技術として、PC鋼より線の撚り合わせ部分を順次一時的により戻し、そのより戻された部分を拡開維持手段により維持すると共に余剰となる芯線を調整し、より戻された部分の芯線と側線のそれぞれの外周面全面に、合成樹脂粉体塗料付着膜をそれぞれ形成し、それらの付着膜を加熱溶着させて芯線と側線のそれぞれの外周面全面に被膜を形成し、これら被膜を冷却した後に芯線と側線を再度より合わせることを特徴とするPC鋼より線の防錆被膜形成加工方法である(特許第2691113号の特許公報)。
【0004】
このようにして形成されたPC鋼より線は、芯線及び側線それぞれの外周面全面に渡って単独に1本1本被膜が形成されていることからして、PC鋼より線として要求されている柔軟性、およびコンクリートとのせん断抵抗等の特性が全く阻害されることはなく、しかも、防錆機能は十分であり、この防錆方法はPC鋼より線の究極の防錆方法であると評価されているものである。
【0005】
この種の被膜厚さの規定としては、業界では一応次の様になっている。即ち、被膜厚さは耐食性能と力学性能(耐衝撃性・曲げ特性・コンクリートの付着性)とを満足されるために多くの研究結果によると、粉体型エポキシ樹脂塗装であれば、200±50μmの被膜厚さが妥当であると報告され、またアメリカ合衆国のFHWA(アメリカ連邦道路局)の実験結果でも約170±50μmの範囲が好ましいと報告されている。
【0006】
また、公知に係る第2の従来技術としては、PC鋼より線の側線を順次一時的に芯線からより戻し、そのより戻された状態において、芯線、側線それぞれの外周面全面に防錆被膜を形成し、直径が増大したことにより余剰となる芯線を集積吸収しながら再度側線を芯線により合わせ、更に、防護被膜を形成するPC鋼より線の二重被膜形成方法であって、特殊な構造物で防錆被膜の損傷の恐れがある場合に、安定的に保持される被膜最大厚さ250μm以上の膜厚が要求される場合に、前記第1の従来技術のPC鋼より線に対して、更に、その外周面に厚手の防護被膜を形成して二重の被膜を形成する方法である(特許第3172486号の特許公報)。
【0007】
更に、公知に係る第3の従来技術としては、素線をメッキ処理してからPC鋼より線を形成し、該PC鋼より線をより戻して芯線および側線の外周面全面に樹脂被膜を形成し、該樹脂被膜を冷却した後に再度より合わせて防錆被膜を形成する方法である(特許第3654889号の特許公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2691113号の特許公報
【特許文献2】特許第3172486号の特許公報
【特許文献3】特許第3654889号の特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記第1の従来技術においては、防錆用の樹脂被膜の厚さが200±50μmであり、究極の防錆方法であると評価されているが、その厚みの樹脂被膜を形成させるためには、ラインスピードが精々4.5m/min以下であり、それよりも早くすると予定した膜厚が得られないのであり、生産効率が悪いという問題点を有している。
【0010】
また、前記第2の従来技術においては、前記第1の樹脂被膜が形成されたPC鋼より線に対して、さらに、特殊な構造物で施工中に外力が加えられて防錆被膜が損傷するのを防止するために、防錆被膜の上に粒状物を混入した防護被膜を形成した二重構造としたものであるが、それによって被膜の厚みは増すが、PC鋼より線に要求されている柔軟性が阻害されるばかりでなく、生産性が劣るという問題点が生ずることになる。
【0011】
更に、前記第3の従来技術においては、メッキと樹脂被膜による二重の被膜防錆加工を施すものであり、防錆性には優れているが、PC鋼より線を製造する初期の段階で予めメッキしなければならないのであり、そのメッキしたものとそうでないものとを用途別に区別して保管管理する必要があると共に、メッキする工程が余分に必要であることおよび樹脂被膜形成においても前記第1の従来技術と同様にラインスピードが制約されていることから生産効率が悪く、製造および管理のコストが高くなるという問題点を有している。
【0012】
ところで、いずれの従来技術においても、形成される被膜について、ラインスピードと樹脂粉体との関係を調べて生産性を向上させ、さらに良好な被膜を効率よく形成することについては全く言及していないのである。
【0013】
従って、従来技術においては、PC鋼より線に要求されている柔軟性と、コンクリートとの付着強度とを損なわないようにして、引張疲労特性の向上を図るようにし、且つラインスピードを上げて生産性を向上させてコストダウンを図ると共に、均一で良好な被膜を効率よく形成することに解決課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前述の従来例の課題を解決する具体的手段として、第1の発明は、PC鋼より線をより戻して側線を芯線から緩解し、緩解状態にある芯線及び側線のそれぞれ外周面全面に合成樹脂粉体塗料を塗布すると共に加熱して均等に付着させた後に冷却して樹脂被膜を形成し、その後に芯線に対して側線を元の状態により合わせるようにした一連のラインでPC鋼より線の防錆被膜形成方法であって、前記加熱は合成樹脂粉体塗料を塗装する前の前加熱と合成樹脂粉体塗料の塗装後の後加熱であり、前記前加熱の温度は後加熱の温度より30〜130℃高く設定し、前記樹脂被膜を設定した膜厚にするために、前記合成樹脂粉体塗料の平均粒径を40〜50μmのものを使用し、前記ラインのスピードを5〜10m/minにしたことを特徴とするPC鋼より線の防錆被膜形成方法を提供するものである。
【0015】
この発明においては、前記樹脂被膜の設定した膜厚が、200±80μmであることを付加的な要件として含むものである。
【0016】
また、第2の発明として、前記第1の発明に係る方法によって得られる防錆被膜が形成されたことを特徴とするPC鋼より線を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成方法によれば、加熱処理を合成樹脂粉体塗料を塗布する前の前加熱と、塗布後の後加熱であり、しかも、前加熱の温度を高く設定してあり、また、塗布される合成樹脂粉体塗料の粒径を平均粒径40〜50μmとし、ラインスピードを5〜10m/minにして生産性を向上させてコストダウンが図れるばかりでなく、柔軟性と、コンクリートとのせん断抵抗とを損なわない均一で良好な被膜を効率よく形成することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の形態に係る加工方法を実施する加工ラインの概略を示した側面図である。
【図2】同実施の形態で加工されるPC鋼より線を示す断面図である。
【図3】同実施の形態において使用される緩解装置(緩閉装置)を示す略示的正面図である。
【図4】同実施の形態において使用される拡開装置を示す略示的正面図である。
【図5】同実施の形態において使用される一例の芯線調整装置を略示的に示した側面図である。
【図6】同実施の形態において塗装工程後の拡開状態におけるPC鋼より線の断面図である。
【図7】同実施の形態において塗装工程後に芯線に対して側線を元の状態により合わせた状態のPC鋼より線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を図示の実施の形態に基づいて詳しく説明する。図1は、本発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成加工方法を実施するための加工ラインの概略図である。そして、使用される一例のPC鋼より線1は、図2に示すように、中央部に芯線1aがあり、その外周に複数本(6本)の側線1bが螺旋状により合わされた7本のPC鋼より線である。
【0020】
一般に、この種のPC鋼より線1は、長尺のものがコイル状態に巻き取られており、その巻き取られているPC鋼より線1をコイル状態のまま従来例と同様に加工ラインの始端側にセットし、一端部側から順次繰り出しながら防錆被膜形成加工を行うのである。
【0021】
本発明に係る加工ラインの工程の概要は、コイル状態に巻いたPC鋼より線1がセットされる架台2が設けられ、その架台2にセットされたPC鋼より線1は、防錆被膜形成加工のために順次各工程に向けて送り出される。即ち、前処理工程A、塗装工程Bを経て元のより線状態に戻した後に、加工ラインの終端部側で塗装済みのPC鋼より線をコイル状に巻き取る巻取工程Cからなるのである。以下、各工程について説明する。
【0022】
まず、連続運転開始にあたって、準備作業として同種のダミーのPC鋼より線を使用して、手作業によって加工ラインの始端から終端まで、予め各工程のカテゴリまたは手法に沿った状態にして挿通させておき、架台2にセットされた新たに防錆加工するPC鋼より線1の芯線1aおよび側線1bの端部とダミーのPC鋼より線の対応する芯線および側線の端部とを夫々突き合わせ状態に溶接して準備し、この準備作業が終了した後に連続運転が開始される。
【0023】
装置の運転が開始されると、PC鋼より線1が始端部側から終端部側まで一定の速度で移動し、その間に芯線1aと各側線1bとの各外周面にそれぞれ均一な被膜(塗膜)が形成され且つ元の撚り合わせ状態になって巻取られるのである。
【0024】
架台2にセットされたPC鋼より線1は、まず最初に芯線調整装置5を経て前処理工程Aを通過する。この場合に、図3に示した緩解装置3によって芯線1aから側線1bがより戻されて拡開され、その拡開された状態を図4に示した拡開維持装置4a〜4dによって維持され、その拡開状態に維持された状態で被膜が形成される塗装工程Bまで設定された速度でPC鋼より線1が通過する。
【0025】
緩解装置3は、ベアリング17を介して回転リング18が回転自在に配設され、該回転リング18には、その中央部にPC鋼より線1の芯線1aが挿通される芯線通過孔19が設けられると共に、該芯線通過孔19から所要間隔をもって放射状に6個の側線1bが挿通される側線通過孔20が設けられている。
【0026】
拡開維持装置4a〜4dは、前記緩解装置3と略同じ構成で一回り大径であって、緩解したPC鋼より線1の拡開状態を維持するものであり、ベアリング27を介して回転リング28が回転自在に配設され、該回転リング28には、その中央部にPC鋼より線1の芯線1aが挿通される芯線通過孔29が設けられると共に、該芯線通過孔29から所要間隔をもって放射状に6個の側線1bが挿通される側線通過孔30が設けられており、前記緩解装置3と異なる点は、芯線通過孔29と側線通過孔30との間隔が広くなっている点であり、各孔の大きさは略同じである。
【0027】
この前処理工程Aによるショットブラスト装置6においては、拡開状態にある芯線1a及び側線1bの外周面全面に研掃材(0.3mm程度の鋼球)を高速回転ブレードによって投射し、それぞれの外周面に付着している油、錆等の異物を除去すると共に、外周面全面の素地調整、例えば、梨地状の素地状態にして被膜との付着または接着性を向上させるものである。
【0028】
図5に示した芯線調整装置5は、架台2と前処理工程Aとの間で、拡開維持装置4aと4bとの間に配設されるものであり、一対の外輪21と、該一対の外輪21を所定間隔で維持する滑車アーム23と、該滑車アームに沿って移動し且つ張力調整スプリング22で緩解装置3側に一定のテンションで引っ張られている可動滑車24と、滑車アーム23に取り付けられている固定滑車25とからなるものであり、側線1bを外輪21の外側でガイドさせ、PC鋼より線1の側線1bのより合わせピッチに対応して両外輪21が自由回転できるようになっており、拡開維持装置4aの芯線通過孔29を通した芯線1aは、先に固定滑車25に掛けUターンさせ可動滑車24に掛けてから拡開維持装置4b側に至るようにすることによって、順次の防錆被膜形成と側線1bを元のより合わせ状態に戻すことによって余剰になった芯線1aを引き戻すことにより調整するものである。
【0029】
なお、可動滑車24の移動距離、または滑車の溝数は吸収または回収すべき余剰芯線長さに応じて定められるものであり、例えば滑車溝数を2本づつにすれば、余剰芯線集積吸収量は4倍となる。可動滑車24は常時張力状態にある張力調整スプリング22によって緩解装置3側に一定のテンションで引っ張られているので、終端部側で芯線1aに対して側線1bが元の状態により合わされることで余剰となった芯線1aを自動的吸収又は回収するものである。また、芯線調整装置としては滑車方式に限定するものではない。
【0030】
前処理工程Aで処理された芯線1aおよび側線1bは、拡開維持装置4c、4dによって拡開された状態を維持し、且つ側線より合わせピッチに略対応した回転をしながら塗装工程Bに供給され、該塗装工程Bにおいて、前加熱装置7aによって加熱を施し、粉体塗装装置8によって芯線1aと側線1bとのそれぞれの外周面全面に独立状態で樹脂被膜26を形成し、その樹脂被膜26は前加熱によって溶融状態になるが、更に後加熱装置7bによる加熱で全体を略均一で滑らかにし、その樹脂被膜26を冷却装置10によって充分に冷却して表面硬度を高める。
【0031】
加熱装置7a、7bは温度調節が容易である高周波誘導加熱方式が望ましい。また、粉体塗料の供給方法は、ガン吹付法、或いは流動浸漬法のいずれであっても良く、要するに静電粉体塗装方法を用いるのが望ましい。さらに、加熱の仕方および温度と、静電ガンの種類と個数及び配置の位置、更にエアー状態と、粉体塗料の粒径とその混合比率等によって、樹脂被膜26の形成状態、すなわち厚さと品質とが決定できるのである。
【0032】
冷却装置10としては、ある程度の長さにおいて冷水をシャワー状に振りかけて冷却すれば良いが、好ましくは、二段階に分けて冷却した方が良い。すなわち、一次冷却と二次冷却とを隣接状態に設け、一次冷却では例えば冷気を吹きかける空冷手段を用いて被膜表面の緩やかな冷却を行い、続いて冷水をシャワー状に掛けて急速な冷却を行うようにすれば樹脂被膜26の表面が略均一で滑らかに仕上がるのである。
【0033】
塗装工程Bで形成される樹脂被膜26の厚さは、例えば、略200±80μm程度であり、この塗装工程Bで樹脂被膜26が形成された後、側線1bは緩閉装置11によって芯線1aに対して元の状態により合わされる。この場合に、緩閉装置11は、図3に示した前記緩解装置3を逆向きに使用したものであり、実質的に同一の構成を有するものであるので、その説明は省略し、緩閉装置11として符号を付したものである。そして、緩閉装置11により、側線1bはより癖がそのまま残っているので、芯線1aに対して速やかに元の状態により合わせることができ、その元の状態により合わせたPC鋼より線1の断面形状は、図7に示す通りであり、芯線1aおよび側線1bの全周に均一厚さの樹脂被膜26が形成されているのである。
【0034】
樹脂被膜26の形成後に元の状態により合わされたPC鋼より線は、被膜検査装置としての膜厚測定装置13によって表面膜厚が測定され、その膜厚が設定された許容値以外であるとそれを報知するための警報を発すると共に、許容値に満たないのか或いは許容値を超えているのかの信号が発せられる。更に、ピンホール検出装置14によって、被膜の状態が検査される。その検査方法は被膜に損傷を与えないように非接触型の、例えば光学式検出手段を用いピンホールが検出された場合、その検出位置にマーキングを施し警報信号を発するようにしてある。
【0035】
このように検査されたPC鋼より線1は、上下に無端ゴムベルトが配された引取装置15によって樹脂被膜26に傷を付けることのない構造であり、またこの引張装置15はこの加工ラインの速度設定装置になっているのでインバータモーターを使用し、ライン速度を自由に変換可能な構造となっている。そして、前加熱の温度条件、樹脂粉体塗料の吐出量等が同じであれば、ライン速度によって形成される被膜厚さが異なってくるのであり、ライン速度を選択することによって任意厚さの被膜が形成できるのである。
【0036】
連続運転が進行して架台2にセットされているPC鋼より線1がなくなった時点で、加工ラインの駆動を停止し被膜形成を一時停止して新たなPC鋼より線を架台2にセットし、先のPC鋼より線1のエンド側後端と新たにセットされたPC鋼より線1の先端とを溶接して接続し、運転は再開される。
【0037】
このようにして形成されたPC鋼より線1は、芯線1a及び側線1bの表面にそれぞれ独立又は単独の状態で樹脂被膜26が形成されているので、この種PC鋼より線で要求されている柔軟性が失われないばかりでなく、耐腐食性及び耐引張疲労特性を向上させることができる。
【0038】
本願発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成方法は、特に、ラインスピードと粉体塗料の粒径と加熱温度との条件によって、生産効率を高めてしかも良好な樹脂被膜を形成したPC鋼より線が得られるのである。これらの条件については以下の通りである。
【0039】
まず、ラインスピードについては、5〜10m/minであり、5m/min未満の速度では生産性の向上が期待できないのでコスト高になり経済的に不利である。また、ラインスピードが10m/minを超えると、塗装した粉体塗料が充分に硬化する前によりを戻すため、芯線1aと各側線1bとに独立して形成した被膜(塗膜)同士が相互に付着してしまうと共に、より戻しによる押圧力で部分的に変形する虞があり、均一性が失われるばかりでなく要求されている柔軟性が失われるという問題点が生ずる。最も好ましいラインスピードは、7〜8m/minであるが、その下限は5m/minまで適用でき、上限は10m/minまで適用できるのである。
【0040】
なお、塗料の硬化時間を長くするためには、塗装後の拡開している距離を長くすることが考えられるが、芯線1aに対して各側線1bのより合わせの癖付けを維持して拡開させて塗装処理していることから、拡開維持の長さ、すなわち、元の状態により戻しを行うための焦点距離がある程度の範囲で設定されており、それよりも長くすると、素線(芯線または側線)にたるみが発生して回転時に設備に接触したり、素線同士が接触したりして生産に支障を来すことになり、実質的に拡開維持の長さを長くすることはできない。
【0041】
使用される粉体塗料は、熱硬化性のエポキシ樹脂であり、粉体の粒径については、平均粒径が40〜50μmのものが使用され、最も好ましいものとしては平均粒径が45μmであって、最少粒径が10μmで最大粒径が100μmの分布であるようにする。なお、粒径が小さいと膜厚が薄くて均一性に優れたものが得られ、粒径が大きいと厚い膜厚のものが得られる。しかしながら、塗装領域では余剰となった粉体塗料が集塵とリサイクル工程によって分けられるが、粒径が10μm以下のものだけであると集塵機で吸引されて使用されない状態で廃棄される量が多くなり材料無駄が生じ、粒径が100μmを超えたものだけであると集塵機に吸引される量が少なくロスは小さくなるが、素地と被膜との間に発泡現象が見られ被膜にピンホールが生じ易くなるばかりでなく、塗装後の被膜が不均一になり表面肌が悪くなって製品としての品質管理ができなくなるのである。従って、粉体塗料として平均粒径が45±5μmであって、全体として10〜100μmの粒径のものが略均等に分布していることが好ましいのである。
【0042】
前加熱装置7aによる素線の加熱温度は150〜250℃であり、後加熱装置7bによる加熱温度は120〜220℃である。要するに、前加熱を後加熱よりも30〜130高くして静電粉体塗装を行うことによって素線に付着した粉体塗料は速やかに溶融して均一な膜厚になり、後加熱によって樹脂の熱変性が生じない範囲でさらに硬化反応を促進させるのである。
【0043】
このような条件範囲で、PC鋼より線の防錆被膜を形成する方法を実施した。まず、粉体塗料は同じものを使用すると共に、加熱温度は前加熱を200℃に、後加熱を140℃に設定し、ラインスピードの設定を種々変化させて被膜厚さを60μm〜220μmまで形成させものを作成した。因みに、ラインスピードを7m/minにした時に150μmの膜厚が得られ、そのスピードから1mづつスピードを上げて10m/minの時に110μmの膜厚が得られた。逆に、そのスピードから0.5m/minづつ遅くすると、6m/minで220μmの膜厚が得られた。なお、前加熱の温度を上げて樹脂粉体塗料の吐出量を増やせば、同じスピードでも被膜厚さは必然的に厚くなるのである。
【0044】
このようにして得られたものを塩水噴霧試験機を用いて、JIS Z2371「塩水噴霧試験方法」(噴霧塔方式)に基づき1000時間の塩水噴霧試験を行った。試験結果は表1に示すとおりであった。
【表1】

※ :発錆開始
× :発錆状態
○ :異常なし
【0045】
上記の実施は平均的なものであり、前加熱温度を高く(230℃に)すると粉体塗料の付着量が多くなって膜厚が厚くなるし、また、粉体塗料の粒径の小さいものと大きいものとが混在しており、粒径の大きいものの隙間に粒径の小さいものが入り込むことで塗料間の隙間が埋まり、気泡の発生をなくし全体として均一な被膜が形成できるのである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係るPC鋼より線の防錆被膜形成方法は、合成樹脂粉体塗料の粒径と、塗装前後の加熱温度の設定と、ラインスピードとを合理的に組み合わせることにより、生産性を向上させ、柔軟性と、コンクリートとのせん断抵抗とを損なわない均一で良好な被膜を効率よく形成することができるので、この種PC鋼より線の防錆加工技術に広く利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 PC鋼より線
1a PC鋼より線の芯線
1b PC鋼より線の側線
2 架台
3 緩解装置
4a、4b、4c、4d 拡開維持装置
5 芯線調整装置
6 ショットブラスト装置
7a 前加熱装置
7b 後加熱装置
8 粉体塗装装置
10 冷却装置
11 緩閉装置
13 膜厚測定装置
14 ピンホール検出装置
15 引取装置
16 巻取装置
17、27 ベアリング
18、28 回転リング
19、29 芯線通過孔
20、30 側線通過孔
21 外輪
22 張力調整スプリング
23 滑車アーム
24 可動滑車
25 固定滑車
26 樹脂被膜
A 前処理工程
B 塗装工程
C 巻取り工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼より線をより戻して側線を芯線から緩解し、緩解状態にある芯線及び側線のそれぞれ外周面に合成樹脂粉体塗料を塗布すると共に加熱して均等に付着させた後に冷却して樹脂被膜を形成し、その後に芯線に対して側線を元の状態により合わせるようにした一連のラインでPC鋼より線の防錆被膜形成方法であって、
前記加熱は合成樹脂粉体塗料を塗装する前の前加熱と合成樹脂粉体塗料の塗装後の後加熱であり、前記前加熱の温度は後加熱の温度より30〜130℃高く設定し、
前記樹脂被膜を設定した膜厚にするために、前記合成樹脂粉体塗料の平均粒径を40〜50μmのものを使用し、
前記ラインのスピードを5〜10m/minにしたこと
を特徴とするPC鋼より線の防錆被膜形成方法。
【請求項2】
前記樹脂被膜の設定した膜厚が、200±80μmであること
を特徴とする請求項1に記載のPC鋼より線の防錆被膜形成方法。
【請求項3】
前記請求項1または2によって得られる防錆被膜が形成されたこと
を特徴とするPC鋼より線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−253363(P2010−253363A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105203(P2009−105203)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000170772)黒沢建設株式会社 (57)
【Fターム(参考)】