説明

PLLシンセサイザ

【課題】 信号純度を低下させることなく、誤差信号の極性を反転させる際のロック外れを起こさないようにする。
【解決手段】 VCO11の自走発振周波数をローカル信号Bの周波数より高い第1の周波数領域内にするために必要な第1のオフセット電圧V1と、ローカル信号Bの周波数より低い第2の周波数領域内にするために必要な第2のオフセット電圧V2のうち、周波数領域を切り替える際に、その切り替える方の周波数領域に対応したオフセット電圧を選択してVCO11に一時的に印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御発振器の出力信号をローカル信号によって低い周波数帯に変換し、その変換された信号と基準信号とを位相同期させて電圧制御発振器の出力信号の周波数をロックさせるPLL(フェーズ・ロック・ループ)シンセサイザにおけるロック外れを防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
PLLシンセサイザは、電圧制御発振器の出力信号を、安定な基準信号に位相同期させる構成を有しているが、特に高周波の信号を出力するものでは、電圧制御発振器の出力信号を低い周波数に変換し、その変換された信号と安定な基準信号との位相比較を行い、その誤差信号を電圧制御発振器に与えてその出力信号の周波数が所望周波数にロックするように制御している。
【0003】
電圧制御発振器から出力される高周波信号を低い周波数に変換する方法として、分周器を用いる方法の他に、ミキサを用いる方法がある。
【0004】
ミキサによる周波数変換を用いたPLLシンセサイザでは、一般的に、電圧制御発振器の出力信号とローカル信号の周波数の高低関係が反転すると、ループの制御方向が位相を同期させる方向と逆になってしまい、電圧制御発振器の出力信号の周波数をロックさせることができないので、通常は、電圧制御発振器の出力信号とローカル信号の周波数の高低関係が反転しない範囲で使用される。
【0005】
ただし、電圧制御発振器に与える誤差信号の極性を反転させることで、ローカル周波数より高い周波数領域と低い周波数領域のいずれにもロックできる構成のものもある。
【0006】
図5は、上記した誤差信号の極性を反転させる機能を有するPLLシンセサイザ10の構成を示している。
【0007】
このPLLシンセサイザ10では、電圧制御発振器(以下VCOと記す)11から発振出力される信号Aを、周波数変換器12のミキサ12aに入力する。ここで、VCO11は、正の所定電圧(例えば+15V)から負の所定電圧(例えば−15V)の範囲内で入力される誤差信号Eの電圧が高くなる程、高い周波数の信号Aを発振出力するものとする。このVCO11の自走発振の周波数範囲は、例えば800MHz±100Mとする。
【0008】
2重平衡型のミキサ12aには、ローカル信号発生器13から出力されたローカル信号Bが入力される。このローカル信号Bは、VCO11の自走発振の周波数範囲のほぼ中間の固定周波数Fb(例えば800MHz)を有している。
【0009】
したがって、ミキサ12aの出力には、信号Aの周波数Faとローカル信号Bの周波数(以下、ローカル周波数という)Fbとの和と差の成分が含まれ、そのうちの差の周波数(以下、差信号周波数という)Fd=|Fa−Fb|の差信号Dの成分(例えば40〜50MHzの成分)がフィルタ12bによって抽出される。フィルタ12bは、BPF型とLPF型のいずれでもよいが、必要な帯域の差信号Dのみを抽出するBPFのほうが、信号純度が高くなる。
【0010】
この差信号Dの成分は、分周比M(例えばM=10)の分周器12c(省略される場合もある)によってさらに低い位相比較用の周波数帯(例えば4〜5MHz)に変換され、その変換信号D′が、基準信号発生器14からの基準信号Rとともに位相比較器15に入力される。
【0011】
基準信号発生器14は、プログラマブル分周器やDDS(ダイレクトデジタルシンセサイザ)等によって構成され、後述する制御部18から指定された基準周波数Frの基準信号Rを、例えば4〜5MHzの範囲で出力する。
【0012】
位相比較器15は、基準信号Rに対する変換信号D′の位相差に比例して電圧が変化する第1の誤差信号Eaを出力する。この位相比較器としては、位相だけでなく周波数の高低も検出可能なPFD型のものが用いられる。
【0013】
また、位相比較器15はPLLループの応答特性を決定するループフィルタを含むものとし、例えば基準信号Rに対して変換信号D′の位相が遅れる程、また、基準周波数Frに対して変換信号D′の周波数が低い程、電圧が高くなり、逆に、基準信号Rに対して変換信号D′の位相が進む程、また、基準周波数Frに対して変換信号D′の周波数が高くなる程、電圧が低くなる第1の誤差信号Eaを出力するものとする。この第1の誤差信号Eaは、正負いずれか一方の極性(ここでは正とする)の範囲内で出力されるものとする。
【0014】
位相比較器15から出力される第1の誤差信号Eaは、反転増幅器等で構成された第2誤差信号発生器16に入力され、第2誤差信号発生器16からは第1の誤差信号Eaと絶対値が等しく極性が反転された第2の誤差信号Ebが出力される。
【0015】
誤差信号選択器17は、第1の誤差信号Eaと第2の誤差信号Ebのうち、制御部18によって指定された誤差信号を選択してVCO11に与える。
【0016】
制御部18は、例えば外部から指定される所望出力周波数Foに応じて基準周波数Frを指定するとともに、VCO11に入力する誤差信号の極性の切り替えを行う。
【0017】
即ち、基準信号発生器14に対して、所望出力周波数Foとローカル周波数Fbとの差|Fo−Fb|の1/Mに等しい周波数を基準周波数Frとして基準信号発生器14に指定し、基準周波数Frの基準信号Rを出力させる。
【0018】
また、所望出力周波数Foとローカル周波数Fbとの高低関係に応じて誤差信号を選択して、VCO11に入力させる。
【0019】
例えば、図6の(a)のように、所望出力周波数Foがローカル周波数Fbより高い第1の周波数領域Wa(前記数値例でいえばローカル周波数800MHzに対し、840〜850MHzの範囲)にある場合、第1の誤差信号EaをVCO11に入力させる。なお、図6において、直線Vは、VCO11の入力信号電圧に対する発振周波数の変化特性を表す。
【0020】
この状態で、例えばVCO11の出力信号Aの周波数Faが、所望出力周波数FoよりΔFだけ高いと、変換信号D′の周波数は基準周波数FrよりΔF/Mだけ高くなる。このため、位相比較器15から出力される第1の誤差信号Eaの電圧が減少し、VCO11の出力信号Aの周波数Faは下がる。以下、ループ制御によりこの制御が継続し、変換信号D′と基準信号Rの位相が一致する状態、即ち、出力信号Aの周波数Faが所望出力周波数Foに引き込まれてロック状態となる。
【0021】
逆にVCO11の出力信号Aの周波数Faが、所望出力周波数FoよりΔF′だけ低いと、変換信号D′の周波数は基準周波数FrよりΔF′/Mだけ低くなり、第1の誤差信号Eaの電圧が上昇して、出力信号Aの周波数Faは高くなる。以下、ループ制御によりこの制御が継続し、変換信号D′と基準信号Rの位相が一致する状態、即ち、出力信号Aの周波数Faが所望出力周波数Foに引き込まれてロック状態となる。
【0022】
また、図6の(b)のように、所望出力周波数Foがローカル周波数Fbより低い第2の周波数領域Wb(前記数値例でいえばローカル周波数800MHzに対し、750〜760MHzの範囲)にある場合、制御部18は第2の誤差信号EbをVCO11に入力させる。
【0023】
この場合、例えばVCO11の出力信号Aの周波数Faが、所望出力周波数FoよりΔFだけ高いと、変換信号D′の周波数は基準周波数FrよりΔF/Mだけ低くなる。このため、位相比較器15から出力される第1の誤差信号Eaの電圧は上昇するが、VCO11に入力されている第2の誤差信号Ebの電圧は負の範囲で低下して、出力信号Aの周波数Faは低くなる。以下、ループ制御によりこの制御が継続し、変換信号D′と基準信号Rの位相が一致する状態、即ち、出力信号Aの周波数Faが所望出力周波数Foに引き込まれてロック状態となる。
【0024】
逆に、VCO11の出力信号Aの周波数Faが所望出力周波数FoよりΔFだけ低いと、変換信号D′の周波数は基準周波数FrよりΔF/Mだけ高くなり、第1の誤差信号Eaの電圧が下がるが、第2の誤差信号Ebの電圧は負の範囲で反対に上がって、出力信号Aの周波数Faは高くなる。以下、ループ制御によりこの制御が継続し、変換信号D′と基準信号Rの位相が一致する状態、即ち、出力信号Aの周波数Faが所望出力周波数Foに引き込まれてロック状態となる。
【0025】
上記構成のPLLシンセサイザ10は、ローカル周波数Fbより高い周波数領域Waと低い周波数領域Wbのいずれにも同一の応答特性でロックさせることができ、広い周波数範囲で信号特性を均一化できるという利点がある。
【0026】
また、極性反転を使わず同一極性だけで750〜850MHzの出力範囲を得るためには100MHzの帯域が必要なのに対し、上記のように極性反転を使うことで、半分の50MHzの帯域で済むため、フィルタ設計が楽になる。
【0027】
なお、このように誤差信号の極性を反転する構成のPLLシンセサイザは、例えば次の特許文献1に開示されている。
【0028】
【特許文献1】特許第2637418号公報の第1図
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、上記構成のPLLシンセサイザでは、誤差信号の極性を切り替える際に、VCO11の出力信号Aの周波数FaがPLLの引込可能なレンジ(キャプチャレンジ)から逸脱し、ロック外れが発生する場合がある。
【0030】
例えば、VCO11の出力信号Aの周波数Faが、ローカル周波数Fbと周波数変換器12のフィルタ12bの高域側カットオフ周波数との和より高くなったり、ローカル周波数Fbとフィルタの低域側カットオフ周波数との差より低くなると、周波数変換器12から変換信号D′が出力されず、位相比較器15から正しい第1の誤差信号Eaが出力されず、ループ制御が効かなくなる。
【0031】
これを解決するために、周波数変換器12の帯域、即ち、フィルタ12bの帯域を広くして、引込可能なレンジを拡大することも考えられるが、このように帯域を広くすると、VCO11の出力信号Aの信号純度が低下してしまう。
【0032】
本発明は、この問題を解決し、信号純度を低下させることなく、誤差信号の極性を反転させる際のロック外れを起こさないようにしたPLLシンセサイザを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0033】
前記目的を達成するために、本発明のPLLシンセサイザは、
正から負の範囲の入力信号電圧に応じた周波数の信号(A)を発振出力する電圧制御発振器(11)と、
前記電圧制御発振器の出力信号と所定のローカル信号(B)と混合するミキサ(12a)と、該ミキサの出力から差の周波数成分を抽出するフィルタ(12b)とを含み、前記電圧制御発振器の出力信号をより低い周波数の変換信号(D′)に変換して出力する周波数変換器(12)と、
所定の基準信号と前記変換信号との位相を比較し、前記基準信号と前記変換信号との位相差に応じて電圧が変化する単一極性の第1の誤差信号(Ea)を出力する位相比較器(15)と、
前記第1の誤差信号の極性を反転した第2の誤差信号(Eb)を発生する第2誤差信号発生器(16)と、
前記第1の誤差信号と第2の誤差信号のいずれか一方を前記電圧制御発振器に入力させる誤差信号選択器(17)と、
前記電圧制御発振器の出力信号の周波数を前記ローカル信号より高い第1の周波数領域(Wa)内の所望周波数にロックさせるときには前記第1の誤差信号を前記電圧制御発振器に入力させ、前記ローカル信号より低い第2の周波数領域(Wb)内の所望周波数にロックさせるときには前記第2の誤差信号を前記電圧制御発振器に入力させる制御部(25)とを備えたPLLシンセサイザにおいて、
前記電圧制御発振器の自走発振周波数を、前記第1の周波数領域内にするために必要な第1のオフセット電圧(V1)と、前記第2の周波数領域内にするために必要な第2のオフセット電圧(V2)とを発生するオフセット電圧発生器(21)と、
前記第1のオフセット電圧と第2のオフセット電圧のいずれかを前記電圧制御発振器に印加するためのオフセット電圧印加手段(22)とを設け、
前記制御部は、前記電圧制御発振器の出力信号の周波数を前記誤差信号の切り替えにより前記第1の周波数領域と第2の周波数領域の一方から他方へ切り替える際に、前記第1のオフセット電圧と第2のオフセット電圧のうち、切り替える方の周波数領域に対応したオフセット電圧が前記電圧制御発振器に一時的に印加されるように制御している。
【0034】
また、本発明の請求項2のPLLシンセサイザは、請求項1のPLLシンセサイザにおいて、
前記所望周波数に対して、誤差信号の極性および印加するオフセット電圧を特定する情報とが対応付けされて記憶されているメモリテーブル(26)を備え、
前記制御部は、前記メモリテーブルに基づいて、前記誤差信号選択器およびオフセット電圧印加手段を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
このように、本発明のPLLシンセサイザでは、誤差信号の極性を反転させて出力周波数領域を切り替える際に、その切り替える方の周波数帯域に対応したオフセット電圧を電圧制御発振器に一時的に印加して、その発振周波数を強制的に所望の周波数帯域に設定している。
【0036】
つまり、極性が反転した誤差信号が与えられるとき、電圧制御発振器の発振周波数はオフセット電圧を受けてその極性に対応した周波数領域に必ず存在しており、この状態からループ制御で所望出力周波数に引き込まれることになるので、ロック外れは発生しない。
【0037】
また、電圧制御発振器に対するオフセット電圧の印加は一時的であり、定常時には、このオフセット電圧が印加されていないので、オフセット電圧に存在する雑音の影響を受けず、信号純度が悪化することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用したPLLシンセサイザ20の構成を示している。
【0039】
図1に示しているように、このPLLシンセサイザ20は、前記した従来のPLLシンセサイザ10の構成とほぼ同一である。
【0040】
即ち、VCO11は、正負の所定電圧(例えば±15V)の範囲内で入力される信号(後述の誤差信号およびオフセット電圧)電圧に応じた(ほぼ比例した)周波数Foの信号Aを発振出力する。VCO11の自走発振周波数の範囲は、例えば800±100MHzとする。
【0041】
このVCO11の回路構成は任意であり、共振素子に用いられた可変容量コンデンサに印加される電圧を可変して発振周波数を変える構成や、YIG等の磁気共鳴素子に磁界を与える駆動コイルに、入力信号の電圧に比例した電流を供給する構成のいずれでもよい。
【0042】
また、周波数変換器12は、VCO11の出力信号Aと、ローカル信号発生器13からのローカル信号Bとをミキサ12aで混合し、その差の周波数成分をフィルタ12bによって抽出し、抽出された差信号Dを分周比Mの分周器12cによってさらに低い周波数の信号D′に変換して出力する。
【0043】
フィルタ12bの帯域は、このPLLシンセサイザ20の引込レンジを決定するものであり、例えば40〜50MHzの通過帯域を有しているものとする。
【0044】
なお、周波数変換器12の構成としては、上記ミキサ12aとフィルタ12bを含むもので、VCO11の出力信号Aの周波数をより低い周波数に変化できるものであればよい。例えば、分周器12cを含まず、差信号Dを変換信号として出力する最も簡易な構成や、ミキサとフィルタによる周波数変換処理を複数段行う構成等であってもよい。
【0045】
ローカル信号発生器13は、前記したように、VCO11の自走発振周波数の範囲のほぼ中間の固定周波数(例えば800MHz)Fbのローカル信号Bを出力する。
【0046】
基準信号発生器14は、安定な固定周波数の信号をプログラマブル分周器で分周する構成や、指定した周波数の信号を直接発生するDDS(ダイレクトデジタルシンセサイザ)等で構成され、後述する制御部25によって指定された基準周波数Frの基準信号Rを出力する。
【0047】
位相比較器15は、前記したようにPFD型のものであり、周波数変換器12から出力される変換信号D′と基準信号Rとの周波数と位相の比較を行い、周波数の高低と位相差に応じて電圧が変化する単一極性の第1の誤差信号Eaを出力する。
【0048】
より具体的にいえば、周波数基準信号Rに対して変換信号D′の位相が進むとき電圧が正の範囲内で低くなる方向に変化し、基準信号Rに対して変換信号D′の位相が遅れるとき電圧が正の範囲内で高くなる方向に変化する第1の誤差信号Eaを出力する。なお、この第1の誤差信号Eaの極性は負でもよく、またその変化方向は上記の場合と逆であってもよい。
【0049】
第2誤差信号発生器16は、位相比較器15から出力される第1の誤差信号Eaの極性を反転した第2の誤差信号Ebを発生し、誤差信号選択器17は、第1の誤差信号Eaと第2の誤差信号Ebのうちの一方をVCO11に選択的に入力させる。
【0050】
ここで、第2誤差信号発生器16が、ループの応答特性を決定するアクティブ型のループフィルタの増幅素子を兼ねていてもよい。
【0051】
この実施形態のPLLシンセサイザ20には、従来装置で示した上記構成の他に、オフセット電圧発生器21とオフセット電圧印加手段22とが設けられている。
【0052】
オフセット電圧発生器21は、VCO11の自走発振時の出力信号Aの周波数を、ローカル周波数Fbより高い第1の周波数領域Wa内の所定周波数F1(例えば領域Waの中心の845MHz)に設定するために必要な第1のオフセット電圧V1と、ローカル周波数Fbより低い第2の周波数領域Wb内の所定周波数F2(例えば領域Wbの中心の755MHz)に設定するために必要な第2のオフセット電圧V2とを発生する。
【0053】
なお、第1の周波数領域Waと第2の周波数領域Wbは、このPLLシンセサイザ20の引込レンジであり、前記したように、ローカル周波数を800MHz、周波数変換器12の帯域を40〜50MHzとすれば、第1の周波数領域Waは、840〜850MHzの範囲であり、第2の周波数領域Wbは、750〜760MHzの範囲となる。
【0054】
オフセット電圧発生器21は、図1に示しているように、電圧V1、V2の固定電圧源21a、21bから並列的に出力させる構成の他に、可変電圧源から一系統で出力される電圧を、V1とV2のいずれかに可変する構成であってもよい。
【0055】
オフセット電圧印加手段22は、第1のオフセット電圧V1または第2のオフセット電圧V2のいずれかをVCO11の制御信号ラインに選択的に印加するためのものであり、例えば図1に示しているように、1回路3接点型のスイッチ回路で構成される。このスイッチ回路の2つの端子には、それぞれ第1のオフセット電圧V1、第2のオフセット電圧V2が入力され、残りの端子はオープン状態となっており、誤差信号選択器17によって選択された誤差信号、第1のオフセット電圧V1または第2のオフセット電圧V2のいずれかが、VCO11に印加されることになる。
【0056】
なお、図1では、誤差信号をVCO11に与えるための制御信号ラインとオフセット電圧印加手段22がオフセット電圧の出力ラインとが単純に接続されているが、厳密にいえば、第1の誤差信号Eaおよび第2の誤差信号Ebは、図示しない抵抗(フィルタの一部を形成している場合もある)を介してVCO11への制御信号ラインへ出力され、オフセット電圧発生器21の出力インピーダンスは上記抵抗に対して無視できる程度に小さいので、誤差信号の電圧とこの制御信号ラインに印加されるオフセット電圧との間に電位差があっても、そのラインの電圧はオフセット電圧に設定されることになる。
【0057】
また、この制御信号ラインとアースの間に挿入されているコンデンサ23は、制御ラインに印加されたオフセット電圧を保持し、オフセット電圧の印加が停止した直後に誤差信号がVCO11に不連続に印加されないようにするためのものであり、ループの応答特性に影響を与えない範囲の容量値に設定されている。このコンデンサ23は、前記した図示しない抵抗との組合せでフィルタ(LPF)を形成するものを兼用したり、VCO11内の入力フィルタ(LPF)を構成しているコンデンサを兼用することができ、専用に設けなくてもよい。
【0058】
制御部25は、前記した従来装置の制御部18と同様に、所望出力周波数Foに対応した基準周波数Frを基準信号発生器14に指定するとともに、誤差信号選択器17を制御して、所望出力周波数Foが第1の周波数領域Wa内のときには、第1の誤差信号EaをVCO11に入力させ、所望出力周波数Foが第2の周波数領域Wb内のときには、第2の誤差信号EbをVCO11に入力させる。
【0059】
なお、ロック状態における周波数関係は、
Fo=Fa=Fb+M・Fr (Foが領域Wa内の場合)
Fo=Fa=Fb−M・Fr (Foが領域Wb内の場合)
となる。
【0060】
したがって、基準信号発生器14に指定する基準周波数Frは、
Fr=|Fo−Fb|/M
となる。
【0061】
また、この制御部25は、誤差信号の極性反転により、VCO11の出力信号Aの周波数Faを、第1の周波数領域Waと第2の周波数領域Wbの一方から他方へ切り替える際に、第1のオフセット電圧V1と第2のオフセット電圧V2のうち、切り替える方の周波数領域に対応したオフセット電圧がVCO11に一時的に印加されるようにオフセット電圧印加手段22を制御して、ロック外れを防いでいる。
【0062】
この制御部25は、メモリテーブル26に記憶されている情報に基づいて、上記制御を行う。メモリテーブル26には、図2に一例を示すように、第1の周波数領域Wa内で指定される可能性のある所定数(ここでは100個とする)の所望出力周波数Fo(1)〜Fo(100)と、これらの各周波数Fo(1)〜Fo(100)に対応する100個の基準周波数Fr1〜Fr100と、その周波数領域を識別するための情報Wa(即ち、誤差信号の極性とオフセット電圧を特定する情報)が記憶されている。
【0063】
また、第2の周波数領域Wb内で指定される可能性のある所望出力周波数は、ローカル周波数Fbを挟んでFo(1)〜Fo(100)と対称な位置にある周波数Fo(−1)〜Fo(−100)とし、第1の周波数領域Waで用いている100個の基準周波数Fr1〜Fr100を共用している。
【0064】
なお、ここでは、誤差信号の極性とオフセット電圧を特定する情報として、領域を識別する情報を用いているが、所望周波数に対して誤差信号の極性およびオフセット電圧そのものを記憶させてもよい。
【0065】
図3は、制御部25の周波数切替処理の手順を示すフローチャートである。
以下、このフローチャートに基づいて実施形態のPLLシンセサイザ20の動作を説明する。
【0066】
制御部25は、所望出力周波数Foが新規に指定されると、メモリテーブル26を参照し、その指定された所望出力周波数Foに対応する基準周波数Frを基準信号発生器14に指定して、その周波数の基準信号Rを出力させる(S1、S2)。
【0067】
次に、周波数領域の切り替えが必要か否かを判定し、必要であればオフセット電圧印加手段22を制御し、オフセット電圧V1、V2のうち、指定された所望出力周波数Foが含まれる周波数領域に対応するオフセット電圧を選択してVCO11に入力させるとともに、誤差信号Ea、Ebのうち指定された所望出力周波数Foが含まれる周波数領域に対応する誤差信号を選択させる(S3〜S5)。
【0068】
例えば、指定された所望出力周波数Foが、図4の(a)のように、第1の周波数領域Waに含まれる周波数であれば、第1のオフセット電圧V1を選択してVCO11に入力させる。このため、VCO11の発振周波数は、印加された第1のオフセット電圧V1に対応した周波数F1(周波数領域Waのほぼ中心)にほぼ設定される。
【0069】
また、図4の(b)のように、所望出力周波数Foが第2の周波数領域Wbに含まれる周波数であれば、第2のオフセット電圧V2を選択してVCO11に入力させる。このため、前記同様にVCO11の発振周波数は、印加された第2のオフセット電圧V2に対応した周波数F2(周波数領域Wbのほぼ中心)にほぼ設定される。
【0070】
この周波数F1またはF2のVCO11の出力信号Aは、周波数変換器12に入力されるが、その出力信号Aとローカル信号Bとの差の周波数成分はフィルタ12bの通過帯域内にあるため、フィルタ12bからは十分なレベルの差信号Dが出力され、分周器12cからは、差信号Dが正確にM分周された変換信号D′が出力され、位相比較器15において基準信号Rと位相比較される。
【0071】
したがって、位相比較器15からは、基準信号Rと変換信号D′の位相差に応じた第1の誤差信号Eaが出力される。
【0072】
ただし、前記したように、VCO11の制御信号ラインの電圧は、誤差信号の電圧によらず、印加されたオフセット電圧に設定される。
【0073】
このような状態で一定時間が経過すると、制御部25は、オフセット電圧印加手段22を切り替え制御し、オフセット電圧の印加を停止する(S6、S7)。このため、誤差信号選択器17で選択されている誤差信号がVCO11に入力されて、ループ制御に移行する。
【0074】
なお、オフセット電圧の印加を停止したときの誤差信号の電圧とオフセット電圧との電位差が大きい場合であっても、コンデンサ23にそのオフセット電圧が充電されているので、VCO11に入力される電圧は不連続に変化せず、ループ制御によって決まる誤差信号の電圧まで円滑に変化する。
【0075】
このループ制御により、VCO11の発振周波数Faは、その直前までに入力されていたオフセット電圧に対応した周波数領域内の周波数から、その周波数領域内の所望出力周波数Foに引き込まれることになる。
【0076】
つまり、ループ制御を開始する前に、予めVCO11の発振周波数を所望出力周波数Foが含まれる周波数領域内に設定しているので、ロック外れを起こすことなく、VCO11の周波数を所望出力周波数Foに円滑に引き込むことができる。
【0077】
また、指定周波数Foが含まれる領域に対応するオフセット電圧をVCO11に入力している時点(S4)では、VCO11の出力信号は印加されているオフセット電圧に含まれる雑音の影響を受けるが、一定時間後にオフセット電圧の印加を停止し(S6、S7)、その後にあらためてループ制御を開始させているので、VCO11の出力信号は、オフセット電圧に含まれる雑音の影響を受けない。つまり、オフセット電圧に含まれる雑音成分を考慮することなく、VCO11の信号純度をループ構成のみで考えることができる。
【0078】
なお、この実施形態では、オフセット電圧V1、V2をそれぞれの周波数領域Wa、Wbについて一つずつ設定していたが、これは本発明を限定するものではない。
【0079】
例えば、メモリテーブル26に所望出力周波数Fo毎のオフセット電圧のデータを設定しておき、指定された所望出力周波数Foに対応するオフセット電圧を読み出してD/A変換器を介してVCO11に印加してもよい。
【0080】
また、各周波数領域Wa、Wbをそれぞれ複数の帯域に分割し、その分割帯域毎にオフセット電圧を設定しておき、指定された所望出力周波数Foが含まれる帯域に対応するオフセット電圧をVCO11に印加してもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、位相比較器15に入力される基準信号Rの周波数Frを可変して、VCO11の出力周波数を周波数領域内で可変できるようにしていたが、出力周波数の可変は、ローカル信号Bの周波数を可変することでも実現でき、また、ローカル信号Bを大きな周波数ステップで可変し、基準信号Rを小さな周波数ステップで可変してもよい。
【0082】
また、必ずしも各周波数領域内で周波数を可変しなくてもよく、ローカル周波数Fb±Fk(Fkは固定周波数)の2つの周波数の信号のみを選択的に出力するものにおいても本発明は適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態の構成を示すブロック図
【図2】実施形態のメモリテーブルの記憶内容を示す図
【図3】実施形態の要部の動作を説明するためのフローチャート
【図4】実施形態の要部の動作を説明するための図
【図5】従来装置の構成を示すブロック図
【図6】従来装置の動作を説明するための図
【符号の説明】
【0084】
20……PLLシンセサイザ、11……VCO、12……周波数変換器、13……ローカル信号発生器、14……基準信号発生器、15……位相比較器、16……第2誤差信号発生器、17……誤差信号選択器、21……オフセット電圧発生器、22……オフセット電圧印加手段、23……コンデンサ、25……制御部、26……メモリテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正から負の範囲の入力信号電圧に応じた周波数の信号(A)を発振出力する電圧制御発振器(11)と、
前記電圧制御発振器の出力信号と所定のローカル信号(B)と混合するミキサ(12a)と、該ミキサの出力から差の周波数成分を抽出するフィルタ(12b)とを含み、前記電圧制御発振器の出力信号をより低い周波数の変換信号(D′)に変換して出力する周波数変換器(12)と、
所定の基準信号と前記変換信号との位相を比較し、前記基準信号と前記変換信号との位相差に応じて電圧が変化する単一極性の第1の誤差信号(Ea)を出力する位相比較器(15)と、
前記第1の誤差信号の極性を反転した第2の誤差信号(Eb)を発生する第2誤差信号発生器(16)と、
前記第1の誤差信号と第2の誤差信号のいずれか一方を前記電圧制御発振器に入力させる誤差信号選択器(17)と、
前記電圧制御発振器の出力信号の周波数を前記ローカル信号より高い第1の周波数領域(Wa)内の所望周波数にロックさせるときには前記第1の誤差信号を前記電圧制御発振器に入力させ、前記ローカル信号より低い第2の周波数領域(Wb)内の所望周波数にロックさせるときには前記第2の誤差信号を前記電圧制御発振器に入力させる制御部(25)とを備えたPLLシンセサイザにおいて、
前記電圧制御発振器の自走発振周波数を、前記第1の周波数領域内にするために必要な第1のオフセット電圧(V1)と、前記第2の周波数領域内にするために必要な第2のオフセット電圧(V2)とを発生するオフセット電圧発生器(21)と、
前記第1のオフセット電圧と第2のオフセット電圧のいずれかを前記電圧制御発振器に印加するためのオフセット電圧印加手段(22)とを設け、
前記制御部は、前記電圧制御発振器の出力信号の周波数を前記誤差信号の切り替えにより前記第1の周波数領域と第2の周波数領域の一方から他方へ切り替える際に、前記第1のオフセット電圧と第2のオフセット電圧のうち、切り替える方の周波数領域に対応したオフセット電圧が前記電圧制御発振器に一時的に印加されるように制御することを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項2】
前記所望周波数に対して、誤差信号の極性および印加するオフセット電圧を特定する情報とが対応付けされて記憶されているメモリテーブル(26)を備え、
前記制御部は、前記メモリテーブルに基づいて、前記誤差信号選択器およびオフセット電圧印加手段を制御することを特徴とする請求項1記載のPLLシンセサイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−33042(P2006−33042A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204535(P2004−204535)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】