説明

RANKL産生抑制剤

【課題】 日常的に摂取でき、長期にわたって摂取しても安全性の高い破骨細胞分化因子(RANKL)産生抑制剤の提供。
【解決手段】乳由来の塩基性タンパク質を経口的に摂取することにより、RANKLの産生を抑制することができる。乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分としたRANKL産生抑制剤、このRANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤ならびに免疫疾患用治療剤、さらには、このRANKL産生抑制剤を特定量配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品ならびに飼料はRANKLの産生を抑制する効果が顕著である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳由来の塩基性タンパク質画分を有効成分とするRANKL(Receptor Activator NF−kB Ligand; 以下、RANKLという)の産生抑制剤、RANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤ならびに免疫疾患用治療剤に関する。さらには、RANKL産生抑制剤を特定量以上配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品ならびに飼料に関するものである。乳由来の塩基性タンパク質画分を経口的に摂取することにより、従来の方法では有効に制御できなかったRANKLの産生を抑制することができる。
【背景技術】
【0002】
骨は、自らの形態変化や血中カルシウム濃度の維持のため、常に形成と吸収とを繰返しリモデリングを行う動的な器官として知られている。正常な骨では骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収によってホメオスタシスが保たれているが、骨形成と骨吸収とのバランスが崩れると、骨粗鬆症などの骨代謝異常になる。骨代謝調節因子として、全身性のホルモンや局所性のサイトカインがあり、これらの調節因子によって骨の形成と維持が営まれている。
【0003】
RANKL(OPGL、TRANCE、又はODFとも呼ばれる)は、骨芽細胞、繊維芽細胞などに発現して、破骨細胞分化を調節するTNFファミリーとして同定され(非特許文献1参照)、破骨細胞前駆細胞膜上に発現する受容体であるRANKと結合することによって破骨細胞への分化を促す分子である。また、RANKLは活性化T細胞にも発現する分子であり、T細胞が産生するRANKLでも骨代謝が調節されるなど、骨代謝と免疫細胞機能が密接に関わっていることが示唆されている (非特許文献2参照)。樹状細胞(dendritic cell;以下、DCという)は、もっとも強力な抗原提示細胞(APC)であり、in vivoではT細胞への抗原提示が一連の免疫応答の開始に必要である。DCも細胞膜上に受容体であるRANKを発現することが知られており、T細胞膜上RANKLとDC膜上RANKとの相互作用が免疫応答に関与するとされている(非特許文献3、4参照)。またT細胞膜上から遊離した可溶性RANKLはDCの成熟化と活性化を調節するともいわれている(非特許文献5-9参照)。
【0004】
このことから、T細胞が産生するRANKLは、RANKを介して破骨細胞分化を調節することで骨代謝を制御するだけでなく、T細胞とDCの相互作用やDCの成熟化に関与することで免疫系も制御している。そのため、RANKL産生抑制剤のような薬剤は、RANKL-RANKシグナルを介する疾患、例えば骨粗鬆症といった骨代謝疾患や、免疫系の異常活性化を起因とするアレルギー疾患や関節リウマチといった免疫疾患の治療および改善が期待できる。
【0005】
腸管は食物が直接接触する器官であり、単に栄養の吸収のみならず、食物から様々な信号を受け、また神経やホルモンを通して様々な信号を身体中に送っている。さらには生体防御の最前線として、病原微生物をはじめとする数多くの異物(食物、アレルゲン、粘膜常在細菌、発がん物質)と対峙するため、生体のホメオスタシスの維持に寄与する人体最大の免疫システムが配備されている。そのため、日常摂取する食事から、免疫系へ作用する食品成分を摂取できれば、免疫疾患に対して非常に有効であると期待できる。しかし、一般に、骨疾患や免疫疾患の治療には医薬品が用いられている。しかし、これらの物質は医薬そのものであり、安全性が高いとは決して言えず、適正量などの問題から、日常の食事から無理なく取り入れることは困難である。そこで、腸管免疫系で作用し、免疫担当細胞であるT細胞が産生するRANKLを制御することができれば、骨において破骨細胞の分化成熟を抑えることで骨吸収を抑制することが期待でき、骨吸収の抑制は骨を強化することにつながる。同様に、異常な免疫反応によるアレルギー等の免疫疾患を抑制することも期待できる。
【0006】
したがって、RANKL産生抑制剤を前記のような薬物として摂取するよりも、日常的に摂取でき、長期にわたって摂取しても問題がなく、食品素材としても使用可能なものから得られる、免疫系へ作用する食品成分を摂取できれば、免疫疾患に対して非常に有効であると期待でき、このような抑制剤の開発が強く望まれる。
現在、T細胞のRANKL産生を抑制する作用を有し、かつ食品素材としても使用可能な成分は報告されておらず、本発明は新規な技術である。
【0007】
一方、乳由来の塩基性タンパク質画分は、乳中に微量含まれている複数の塩基性タンパク質の総称であり、脱脂乳や乳清などの乳原料から塩基性のタンパク質画分として抽出されるものである。そして、この乳由来塩基性タンパク質画分は、経口摂取により骨強化作用があることが知られている(特許文献1参照)。しかし、この乳由来塩基性タンパク質画分の骨強化作用について知られていることは、破骨細胞に直接作用して分化増殖を抑制するものであり、破骨細胞以外のRANKL産生を抑制するということに関しては知られていない。本発明者らは、骨代謝に関与していると言われているRANKLに着目し、食品成分が直接接触する腸管免疫細胞のRANKL産生を抑制する食品成分を探索した。
【非特許文献1】Sudaら, Endcr.Rev., 20:345(1999)
【非特許文献2】Theilら, Annu.Rev.Immunol., 20:795(2002)
【非特許文献3】Hochwellerら,Eur.J.Immunol., 35:1086(2005)
【非特許文献4】Williamsonら, J Immunol.,169:3606(2002)
【非特許文献5】Wongら, J. Exp. Med., 186:2075(1997)
【非特許文献6】Wongら, J. Leukocyte Biol., 65:715 (1999)
【非特許文献7】Wongら, J. Biol. Chem., 272:25190-25194(1997)
【非特許文献8】Josienら, J. Immunol., 162:2562(1999)
【非特許文献9】Josienら, J. Exp. Med., 191:495(2000)
【特許文献1】特開平8-151331
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、日常的に摂取でき、長期にわたって摂取しても安全性の高い乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とするRANKL産生抑制剤、RANKL産生抑制を介した破骨細胞分化抑制作用または樹状細胞分化抑制作用を有し、骨疾患または免疫疾患・アレルギーを治療することができるRANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤ならびに免疫疾患用治療剤を提供することを課題とする。さらに、RANKL産生抑制剤を一定量配合したRANKL産生抑制を特徴とする飲食品ならびに飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、RANKL産生抑制を介した破骨細胞分化または樹状細胞分化を抑制する物質を得るために、RANKL産生抑制作用を有する物質を探索し続けてきた。その結果、乳中に微量にしか存在しない塩基性タンパク質が、T細胞膜上RANKLおよび可溶性RANKLの産生を抑制することを発見した。そして、この乳由来塩基性タンパク質画分をRANKL産生抑制剤の有効成分として利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とするRANKL産生抑制剤である。また、このRANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤ならびに免疫疾患用治療剤に関する。さらには、RANKL産生抑制剤を特定量配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品ならびに飼料に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とするRANKL産生抑制剤を用いることにより、RANKLの産生を抑制することができる。本発明のRANKL産生抑制剤、 RANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤ならびに免疫疾患用治療剤、RANKL産生抑制剤を配合したRANKL産生抑制を特徴とする飲食品もしくは飼料は、破骨細胞の分化を抑制することにより骨代謝疾患の治療もしくは症状の改善等に、また樹状細胞の分化を抑制することにより免疫機能を調節し、アレルギー疾患等の免疫機能に関与する疾患の治療もしくは症状の改善等に用いることができ、非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のRANKL産生抑制剤の特徴は、乳由来の塩基性タンパク質画分を有効成分とすることにある。また、乳由来の塩基性タンパク質画分、を有効成分とするRANKL産生抑制剤を配合することにより、RANKLの産生を抑制し、破骨細胞の分化を抑制することにより骨代謝疾患の治療に利用する。さらに、RANKLの産生を抑制し、樹状細胞を分化抑制することにより免疫機能を調節し免疫機能に関与する疾患の治療に利用する。
【0012】
本発明の、RANKL産生抑制剤およびこのRANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤ならびに免疫疾患用治療剤、およびRANKL産生抑制剤を特定量配合したRANKL産生抑制を特徴とする飲食品ならびに飼料の有効成分として牛乳、人乳、山羊乳、羊乳などの哺乳類の乳を原料とする乳由来塩基性タンパク質画分を用いる。
【0013】
本発明のRANKL産生抑制剤の有効成分である乳由来の塩基性タンパク質画分を得る方法としては、乳または乳由来の原料を陽イオン交換体に接触させて乳由来の塩基性タンパク質画分を吸着させた後、この陽イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質画分を、pH5を越え、イオン強度0.5を越える溶出液で溶出して得る方法(特開平5-202098号公報)、アルギン酸ゲルを用いて得る方法(特開昭61-246198号公報)無機の多孔性粒子を用いて乳清から得る方法(特開平1-86839号公報)、硫酸化エステル化合物を用いて乳から得る方法(特開昭63-255300号公報)などが知られており、本発明ではこのような方法で得られた乳由来の塩基性タンパク質画分を用いることができる。
【0014】
RANKL産生産生抑制効果を得るためには、本発明のRANKL産生抑制剤および、RANKL産生抑制剤を特定量配合したRANKL産生抑制を特徴とする飲食品の有効量として、成人において、固形物換算で乳由来塩基性タンパク質画分を20mg/日以上摂取することが望ましい。そして、RANKL産生抑制剤もしくはRANKL産生抑剤を配合する飲食品には、固形物換算で乳由来塩基性タンパク質画分を10mg〜100g/100g配合することが望ましい。
【0015】
本発明のRANKL産生抑制剤においては、乳由来塩基性タンパク質画分を単独で用いてもよいし、以下に述べる他の成分と一緒に用いてもよい。使用目的や方法などに応じて、粉末状、液状、タブレット状などの形状に製剤化すればよい。
【0016】
本発明のRANKL産生抑制剤を栄養組成物の形態として、以下に述べるタンパク質、糖質、脂質、ビタミン類およびミネラル類などを主成分として構成することもできる。このRANKL産生抑制効果のある栄養組成物も、使用目的や方法などに応じて、粉末状、液状、タブレット状などの形状に加工する。
【0017】
また、本発明のRANKL産生抑制剤を以下に述べる飲食品に添加して、常法により加工してRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品とすることもできる。
本発明のRANKL産生抑制剤もしくはRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品とする場合に、タンパク質としては、カゼイン、乳清タンパク質濃縮物(WPC)、乳清タンパク質分離物(WPI)、αs-カゼイン、β-カゼイン、α-ラクトアルブミンおよびβ-ラクトグロブリンなどの乳タンパク質分画物、大豆タンパク質や小麦タンパク質などの植物タンパク質などを挙げることができ、さらには、これらのタンパク質を酸や酵素で処理して、ペプチドもしくは遊離アミノ酸の形態で用いてもよい。なお、遊離アミノ酸は、窒素源としての他に、特定の生理作用を付与するために用いることもでき、それらのアミノ酸としては、タウリン、シスチン、システイン、アルギニン、グルタミンなどを挙げることができる。これらのタンパク質やペプチドもしくは遊離アミノ酸は、RANKL産生抑制剤及びRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品の固形分当たり 5〜30重量%配合することが好ましい。
【0018】
糖質としては、デンプン、可溶性多糖類、デキストリン、ショ糖、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖などや、ガラクトシルラクトース、フラクトオリゴ糖、ラクチュロースなどのオリゴ糖、あるいは人工甘味料などを挙げることができる。糖質は、RANKL産生抑制剤もしくはRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品の固形分当たり40〜80重量%配合することが好ましい。
【0019】
脂質としては、乳脂肪、ラード、牛脂および魚油などの動物性油脂、大豆油、菜種油、コーン油、月見草油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)および綿実油などの植物性油脂、さらには、それらの分別油、水添油、エステル交換油などを挙げることができる。脂質は、RANKL産生抑制剤もしくはRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品の固形分当たり40重量%以下配合することが好ましい。
【0020】
ビタミン類およびミネラル類については、食品衛生法に基づく指定添加物(施行規則別表第2に収載の食品添加物)および既存食品添加物(既存添加物名簿に収載の食品添加物)のビタミン類およびミネラル類を用いればよい。ビタミン類の具体例としては、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK類、葉酸、パントテン酸、β-カロチン、ニコチン酸アミド、ビオチン、イノシトール、コリンなどを挙げることができ、RANKL産生抑制剤もしくはRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品の固形分当たり0.01〜5重量%を配合することが好ましい。また、ミネラル類の具体例としては、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リン、塩素、鉄、銅、亜鉛、ヨウ素、マンガン、セレン、フッ素、クロム、モリブデンなどを挙げることができ、RANKL産生抑制剤もしくはRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品の固形分当たり0.001〜5重量%を配合することが好ましい。
【0021】
さらに、本発明のRANKL産生抑制剤を配合する飲食品としては、チーズ、バターおよび発酵乳などの乳食品、乳飲料、ドリンクヨーグルト、コーヒー飲料および果汁などの飲料、ゼリー、プリン、クッキー、ビスケットおよびウエハースなどの菓子、育児用調製乳、フォローアップミルク、幼児用飲食品、妊産婦用飲食品、病態食、医療食、高齢者用食、介護食、さらには、冷凍食品などの各種飲食品が挙げられる。 RANKL産生剤を配合する飲食品の製造に当たっては、乳由来塩基性タンパク質画分は熱に比較的不安定であるため、特に加熱殺菌の工程では、可能な限り低い熱履歴にすることが望ましい。
【0022】
次に、実施例及び試験例を示して本発明を詳細に説明するが、これらは単に本発明の実施態様を例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(乳由来塩基性タンパク質画分の調製)
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績社製)400gを充填したカラム(直径5 cm×高さ30 cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40 l(pH 6.7)を流速25 ml/minで通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、続いて0.7M塩化ナトリウムを含む 0.02M炭酸緩衝液(pH 7.0)で洗浄した後、0.98M塩化ナトリウムを含む 0.02M炭酸緩衝液(pH 7.0)で樹脂に吸着した乳由来塩基性タンパク質画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥して乳由来塩基性タンパク質画分粉末 21gを得、本発明のRANKL産生抑制剤とした。
【0024】
[試験例1]
(抗原非特異的TCR刺激法によるRANKL産生量に対する乳由来塩基性タンパク質画分の影響)
6-8週齢のBALB/C雄マウスのリンパ節からMacs(磁気細胞分離システム)法によりCD4陽性細胞を分画した。4×106cells/mlとなるようにRPMI1640培地(ニプロ社製、ウシ胎児血清5%含有、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(GIBCO社製)1%含有;以下5%FCS/RPMIと言う)に懸濁後、50μl/wellで抗マウスCD3抗体コーティング96穴プレート(ベクトン・ディキンソン社製)に播種した(2×105cells/well)。抗マウスCD28抗体を最終濃度で2.5μg/mlになるように添加し、さらに実施例1で得られた乳由来塩基性タンパク質画分および対照としてウシ血清アルブミン(以下、BSA)を終濃度として0、10、100μg/mlとなるように添加後、5%炭酸ガスインキュベーター中で培養した。4日後に上清を回収し、上清中のRANKL量をELISA法にて測定した。
【0025】
RANKL量を測定した結果を図1に示す。抗体によるTCR刺激条件下でT細胞を培養すると、培養上清中のRANKL量が増加した。その際、BSAの添加ではRANKL産生量に影響はみられないが、乳由来塩基性タンパク質画分を添加して培養すると、RANKL産生が抑制されていた。本結果から、抗原非特異的TCR刺激条件下で乳由来塩基性タンパク質画分が直接T細胞のRANKL産生を抑制することが示された。骨形成と骨吸収のバランスが病的に骨吸収へと傾いた骨代謝疾患において、乳由来塩基性タンパク質画分がT細胞と破骨細胞のRANKL−RANKシグナル伝達を阻害する作用により、破骨細胞の分化抑制を介して骨吸収を抑制する可能性を示している。また、乳由来塩基性タンパク質画分がRANKLを産生する骨芽細胞または繊維芽細胞に直接作用し、RANKL産生を抑制することで骨吸収を抑制することも期待できる。
【0026】
[試験例2]
(抗原特異的TCR刺激法によるRANKL産生に対する乳由来塩基性タンパク質画分の影響)
卵白アルブミン特異的T細胞抗原レセプター産生トランスジェニック雄マウス(D011.10マウス)のリンパ組織からMacs法によりCD4陽性T細胞を分画した。4×106cells/mlとなるように5%FCS/RPMIに懸濁後、100μl/wellで48穴マイクロプレートに接種(4×105cells/well)した。BALB/C雄マウスのパイエル板細胞からMacs法によりCD11c陽性細胞(樹状細胞)を分画し、4×105cells /mlとなるように5%FCS/RPMIに懸濁後、100μl/wellで播種した(2×104cells/well)。実施例1で得られた乳由来塩基性タンパク質画分および対照としてBSAを最終濃度として0、10、100μg/mlとなるように添加した。さらに、卵白アルブミン(以下、OVA)を最終濃度で0、100μg/mlとなるように添加し、5%炭酸ガスインキュベーター中で培養した。4日後にそれぞれの細胞を回収し、PE標識抗マウスRANKL抗体、Do11.10マウスのTCRに対する特異的抗体であるFITC標識抗マウスKJ1.26抗体およびPIで染色し、フローサイトメトリー法によりRANKL陽性KJ1.26陽性細胞の割合(%)を算出した。
【0027】
その結果を図2に示す。抗原であるOVA非刺激下で乳由来塩基性タンパク質画分またはBSAを添加しても、RANKL産生はみられなかった。一方、OVA刺激下で培養するとRANKL産生が増加した。BSA添加ではRANKL産生に影響はないが、乳由来塩基性タンパク質画分の添加により顕著にRANKL産生が抑制されることが確認できた。本結果から、抗原特異的TCR刺激下で、乳由来塩基性タンパク質画分がT細胞のRANKL産生を抑制することが示された。抗原抗体反応が異常に活発化した免疫疾患において、乳由来塩基性タンパク質画分が免疫応答の初期反応であるT細胞と樹状細胞のRANKL−RANKシグナルを阻害する作用により、免疫反応を抑制することでアレルギーや自己免疫疾患を改善する可能性を示している。
【実施例2】
【0028】
実施例1で得られた乳由来塩基性タンパク質粉末について、常法により表1に示す組成の粉末状のRANKL産生抑制剤を製造した。なお、このRANKL産生抑制剤には、100g当たり乳由来塩基性タンパク質画分4gが含まれていた。
【0029】
[表1]
────────────────────────────
含水結晶ブドウ糖 77.5 (重量%)
大豆タンパク質 12
ミネラル混合 5
シュガーエステル 1
香料 0.5
乳由来塩基性タンパク質画分粉末(実施例1) 4
────────────────────────────
【実施例3】
【0030】
(RANKL産生抑制剤を配合した飲料の製造)
表2に示すように、実施例1で得られた塩基性タンパク質粉末40gを、乳酸でpH 3.2に調整した脱イオン水50Lに溶解した後、砂糖1 kg、香料100gを溶解して、90℃で15秒間加熱殺菌を行った。これを50 mlずつ蓋付きガラスビンに密封充填し、RANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲料を製造した。なお、この飲料には、100 ml当たり乳由来塩基性タンパク質画分80mgが含まれていた。
【0031】
[表2]
──────────────────────────
乳由来塩基性タンパク質画分粉末(実施例1) 40 (g)
砂糖 1,000
香料 100
乳酸 1,000
脱イオン水 49,000
──────────────────────────

【実施例4】
【0032】
(RANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とするビスケットの製造)
表3に示す組成のドウを作成し、成形した後、焙焼して、RANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とするビスケットを製造した。なお、このビスケットには、100g当たり乳由来塩基性タンパク質画分100mgが含まれていた。
【0033】
[表3]
───────────────────────
小麦粉 40 (g)
砂糖 10
食塩 0.5
マーガリン 12.5
卵 11.5
水 5.5
RANKL産生抑制剤(実施例2) 20
───────────────────────
【実施例5】
【0034】
(ANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飼料の製造)
実施例1で調製した乳由来塩基性タンパク質画分粉末を用い、表4に示す配合で、各成分を攪拌して均一化し、本発明のRANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飼料を調製した。この飼料は、100g当たり100mgの乳由来塩基性タンパク質画分を含有していた。

【0035】
[表4]
──────────────────────────────
カゼイン 19.9(重量%)
α-コーンスターチ 15.0
セルロース 5.0
コーンオイル 5.0
ビタミンミックス 1.0
ミネラルミックス(カルシウムフリー) 3.5
スクロース 48.91
リン酸水素カルシウム・12水和物 1.29
DL-メチオニン 0.3
乳由来塩基性タンパク質画分粉末(実施例1) 0.1
──────────────────────────────
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とするRANKL抑制剤、RANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤ならびに免疫疾患用治療剤、さらには、RANKL産生抑制剤を配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品もしくは飼料は、RANKL−RANKシグナルを介する種々の疾患の治療、または症状の改善等に用いることができ、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】抗原非特異的TCR刺激法によるRANKL産生量に対する乳由来塩基性タンパク質画分の影響を示した図である。(実施例1、試験例1)
【図2】抗原特異的TCR刺激法によるRANKL産生量に対する乳由来塩基性タンパク質画分の影響を示した図である。(実施例1、試験例2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来の塩基性タンパク質画分を有効成分とするRANKL産生抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載のRANKL産生抑制剤を配合した骨代謝疾患用治療剤。
【請求項3】
請求項1記載のRANKL産生抑制剤を配合した免疫疾患用治療剤。
【請求項4】
請求項1記載のRANKL産生抑制剤を固形物換算で10mg〜100g/100g配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飲食品。
【請求項5】
請求項1記載のRANKL産生抑制剤を固形物換算で10mg〜100g/100g配合した、RANKL産生抑制を特徴とする飼料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−214237(P2008−214237A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52402(P2007−52402)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】