説明

RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化したレンチウイルスベクターを用いた気道上皮幹細胞への遺伝子導入

【課題】RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するためのレンチウイルスベクターの提供。
【解決手段】センダイウイルスのエンベロープ糖蛋白質であるFおよびHNでシュードタイプ化したサル免疫不全ウイルスベクターを用いて、気道上皮組織幹細胞に遺伝子を導入する。ベクターを用いた気道上皮組織幹細胞への遺伝子導入は、嚢胞性線維症等の遺伝性呼吸器疾患の遺伝子治療に有用である。また、遺伝性疾患で欠損しているタンパク質を供給する生産組織として肺などの呼吸器を選択することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するためのレンチウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis : CF)は、コーカシアンにおける最も一般的な致死性の常染色体劣性疾患であり、嚢胞性線維症膜内外伝導度調節因子(CF transmembrane conductance regulator : CFTR)遺伝子における変異によって引き起こされ、そのためにイオンが気道上皮を横切って移動できなくなり、それによって粘膜肥厚および細菌の定着が起こり、最終的に疾患の原因となる。したがって、気道上皮細胞は、遺伝子治療にとって重要な標的である。
【0003】
導入遺伝子を長期発現させるためには、幹細胞を含む気道上皮細胞前駆細胞に遺伝子導入することが重要である。幹細胞とは、多分化能と自己複製能を有する未分化細胞である。気道の場合、幹細胞は粘液下腺組織(sub-mucosal gland)の導管上皮(ductal epitherium)周辺、また、基底膜(basement membrane)の基底細胞(basal cells)周辺に存在し、導管上皮や基底細胞は外部からの毒素や障害から保護されている(非特許文献1および2参照)。また、マウス気管では軟骨組織間にも散在していることが報告されている(非特許文献1参照)。一般的に、上皮細胞の幹細胞は、その細胞数が非常に少ないこと、粘液下腺組織(sub-mucosal gland)の隔離された場所に存在していることから、遺伝子導入などのアプローチが困難である。さらに、幹細胞を含む気道上皮細胞は、ムチン層や粘液の存在によって、遺伝子導入が非常に困難な組織であることが知られている。
【0004】
また、気道上皮細胞は極性をもっており、外気に接触する側をアピカル側、体腔側をバソラテラル側と呼ぶ。気道上皮細胞のアピカル表面には、ウイルス受容体がなく、無傷の気道上皮に効率的に形質導入することができるベクターはほとんど存在しなかった。アデノウイルスをはじめ、多くのウイルスレセプターはバソラテラル側にあるため、EGTAや界面活性剤などによるpre-conditioning(前処理)が遺伝子導入の直前に必要である。水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)によってシュードタイプ化されたレンチウイルスベクターの場合、例えば、効率的な形質導入を行うために洗浄剤によって上皮表面を前処理しなくてはならない。しかし、これらの化学物質による処理は、臨床では利用できない可能性がある。
【0005】
嚢胞性線維症等の呼吸器系が障害される遺伝性疾患において、遺伝子治療用ベクターおよび、その投与法が開発されている。気道上皮細胞に遺伝子導入するためには、ムチン層、および粘液を通過して上皮細胞のアピカル側から遺伝子導入する必要がある。バソラテラル側から感染するウイルスベクターでは上皮細胞間に存在するタイトジャンクションによって、それらのベクターの侵入は妨げられる。そこで、カルシウムキレート剤のEGTA、さらに各種の界面活性剤の併用によって、このタイトジャンクションを破壊する投与法が採用されている。しかしながら、ヒトへの臨床を考えると、こうした処置(pre-conditioning)は望ましいものではない。
【0006】
一般にシュードタイプ化に使用されているVSV-Gのレセプターは気道上皮細胞のバソラテラル側にあることから、遺伝子導入するためにはlysophosphatidylcholine (LPC; 界面活性剤の一種) による処理が必要である。LPC処理後にVSV-Gシュードタイプ化HIVベクター(搭載遺伝子;LacZ)をマウス鼻腔に感染させると、少なくとも92日間導入遺伝子の発現は持続した(非特許文献3参照)。この結果は、上皮細胞の寿命が3ヶ月であることから幹細胞への遺伝子の導入を示唆するものである。pre-conditioningなしのレンチウイルスベクターのシュードタイプ化の例では、エボラウイルス・ザイール株のエンベロープタンパク質について報告されている(非特許文献4参照)。マウス気道系組織で63日間、搭載遺伝子のLacZの持続が観察された。この実験での実施期間は上皮細胞の寿命には満たないが、幹細胞が存在するとされるsub-mucosal glandへの遺伝子導入を確認している。
【0007】
また、以下の文献が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Borthwick ら著、Am J. Respir. Cell Mol. Biol.、Vol. 24、pp662-670、2001年
【非特許文献2】Engelhardt著、Am J. Respir. Cell Mol. Biol.、Vol. 24、pp649-652、2001年
【非特許文献3】Limberisら著、Human Gene Therapy、Vol. 13、pp1961-1970、2002年
【非特許文献4】Kobingerら著、Nature Biotechnology、Vol. 19、pp225-230、2001年
【非特許文献5】Alberto Auricchioら著、The Journal of Clinical Investigation、Vol. 110、Number 4、pp.499-504、2002年
【非特許文献6】John F. Engelhardt著、The Journal of Clinical Investigation、Vol. 110、Number 4、pp.429-432、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するためのレンチウイルスベクターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。即ち、気道上皮幹細胞に遺伝子導入できるベクターを開発するために、RNAウイルスの1つであるセンダイウイルスのスパイクタンパク質であるエンベロープ糖蛋白F、HNで、レンチウイルスの1つであるサル免疫不全ウイルス (simian immunodificiency virus; SIV) ベクターをシュードタイプ化した。
【0011】
気道上皮は粘液に覆われており、従来の技術では、気道上皮細胞等への遺伝子導入は困難であった。これらの細胞に対して遺伝子を導入する場合、粘液などの細胞外マトリックスを洗浄して物理的に除去する方法が試みられていた。しかしこの方法は煩雑であり、組織を傷つける危険が存在していた。
【0012】
今回本発明者らは、気道系感染ウイルスであるセンダイウイルスが、前処理なしの気道上皮細胞にアピカル側から効率よく形質導入するという機能に着目し、センダイウイルスのエンベロープ糖蛋白F、HNでサル免疫不全ウイルスベクターをシュードタイプ化したベクターを開発し、当該ベクターにより、気道上皮細胞とともに気道幹細胞に遺伝子導入する方法を初めて見出した。
【0013】
サル免疫不全ウイルスベクター等のレンチウイルスベクターは、インテグラーゼの働きにより宿主ゲノムに搭載遺伝子を組み込む。したがって、センダイウイルスの糖蛋白でシュードタイプ化したサル免疫不全ウイルスベクターで幹細胞に遺伝子導入することができれば、呼吸器系遺伝性疾患、たとえば嚢胞性線維症の治療にとって有用である。
【0014】
以上のように本発明者らは、気道感染するセンダイウイルスのスパイクタンパク質である糖タンパク質F、HNによってサル免疫不全ウイルスベクターをシュードタイプ化したベクターを開発し、当該ベクターを用いて前処理なしに粘液層を貫通してアピカル側から効率的に気道上皮幹細胞に遺伝子導入する方法を開発した。気道感染するウイルスの糖タンパク質をエンベロープタンパク質として使用することによって、気道上皮細胞とともに前駆細胞を含む幹細胞に遺伝子導入することが可能となった。本発明のベクターを用いて幹細胞に遺伝子導入する技術によって、上皮細胞の寿命をはるかに越えて、遺伝子の発現を安定に持続することが可能になった。
【0015】
即ち本発明は、RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するためのレンチウイルスベクターに関し、詳しくは
〔1〕 RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するためのレンチウイルスベクター、
〔2〕 RNAウイルスが気道系組織に感染するRNAウイルスである、〔1〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔3〕 RNAウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、〔1〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔4〕 マイナス鎖RNAウイルスがパラミクソウイルスである、〔3〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔5〕 パラミクソウイルスがセンダイウイルスである、〔4〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔6〕 マイナス鎖RNAウイルスがオルソミクソウイルスである、〔3〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔7〕 オルソミクソウイルスがインフルエンザウイルスである、〔6〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔8〕 マイナス鎖RNAウイルスがフィロウイルスである、〔3〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔9〕 フィロウイルスがエボラ出血熱ウイルスである、〔8〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔10〕 RNAウイルスがプラス鎖RNAウイルスである、〔1〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔11〕 プラス鎖RNAウイルスがコロナウイルスである、〔10〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔12〕 コロナウイルスがSARSコロナウイルスである、〔11〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔13〕 DNAウイルスが気道系組織に感染するDNAウイルスである、〔1〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔14〕 DNAウイルスがバキュロウイルスである、〔13〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔15〕 レンチウイルスベクターが組み換えサル免疫不全ウイルスベクターである、〔1〕から〔14〕のいずれかに記載のレンチウイルスベクター、
〔16〕 組み換えサル免疫不全ウイルスベクターがagm株由来である、〔15〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔17〕 組み換えサル免疫不全ウイルスベクターが自己不活性化型である、〔15〕または〔16〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔18〕 レンチウイルスベクターがウマ伝染性貧血ウイルスベクター、ヒト免疫不全ウイルス1および2ベクター、またはネコ免疫不全ウイルスベクターである、〔1〕から〔14〕のいずれかに記載のレンチウイルスベクター、
〔19〕 外来遺伝子を発現可能に保持する、〔1〕から〔18〕のいずれかに記載のレンチウイルスベクター、
〔20〕 外来遺伝子が、グリーン蛍光タンパク質、ベータ−ガラクトシダーゼおよびルシフェラーゼから選ばれるタンパク質をコードする遺伝子である、〔19〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔21〕 外来遺伝子が、先天的、あるいは後天的に機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子である、〔19〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔22〕 外来遺伝子が、先天的、あるいは後天的に機能不全になっている嚢胞性線維症(CF)原因因子をコードする遺伝子である、〔19〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔23〕 外来遺伝子が、先天的、あるいは後天的に機能不全になっているCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)タンパク質をコードする遺伝子である、〔19〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔24〕 外来遺伝子が、嚢胞性線維症に対して治療効果のあるタンパク質をコードする遺伝子である、〔19〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔25〕 外来遺伝子が、遺伝性の疾患で機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子である、〔19〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔26〕 遺伝性の疾患で機能不全になっているタンパク質が、CFTRをコードする遺伝子である、〔25〕に記載のレンチウイルスベクター、
〔27〕 〔1〕から〔26〕のいずれかに記載のレンチウイルスベクターを、気道上皮細胞に接触させる工程を含む、気道上皮幹細胞に遺伝子を導入する方法、
〔28〕 〔1〕から〔26〕のいずれかに記載のレンチウイルスベクターが導入された気道上皮幹細胞、
〔29〕 〔1〕から〔26〕のいずれかに記載のレンチウイルスベクターを有効成分として含有する、気道上皮幹細胞用遺伝子導入剤、
〔30〕 疾患治療に必要なタンパク質を供給するために、肺を生産組織として利用することを特徴とする、〔29〕に記載の気道上皮幹細胞用遺伝子導入剤、
〔31〕 〔1〕から〔26〕のいずれかに記載のレンチウイルスベクターを有効成分として含有する、遺伝性呼吸器疾患治療剤、
〔32〕 遺伝性呼吸器疾患が嚢胞性線維症である、〔31〕に記載の治療剤、
に関する。
【0016】
さらに本発明は、本発明に記載のレンチウイルスベクターを個体へ投与する工程を含む、遺伝性呼吸器疾患を予防または治療する方法に関する。また本発明は、上記遺伝性呼吸器疾患が嚢胞性線維症である、予防または治療する方法に関する。さらに本発明は、本発明に記載のレンチウイルスベクターの遺伝性呼吸器疾患治療剤の製造における使用に関する。また本発明は、上記遺伝子呼吸器疾患が嚢胞性線維症である、治療剤の製造における使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、細胞質側領域置換型HN発現プラスミドがコードする蛋白質のSIV細胞質側領域(イタリック下線部)とHN蛋白膜貫通領域(イタリック)の境界部分のアミノ酸配列(配列番号:1)を示す図である。
【図2】図2は、SIV細胞質側領域付加型HN発現プラスミドがコードする蛋白質の細胞質側領域(イタリック下線部)とHN蛋白膜貫通領域(標準字体)の境界部分のアミノ酸配列(配列番号:2)を示す図である。
【図3】図3は、細胞質側領域欠失型F発現プラスミドがコードする蛋白質のF蛋白膜貫通領域(イタリック)とF蛋白細胞質側領域(標準字体)の境界部分のアミノ酸配列(配列番号:3〜5)を示す図である。
【図4】図4は、SIV細胞質側領域を付加した細胞質側欠失型F発現プラスミドがコードする蛋白質のF蛋白膜貫通領域(下線なしのイタリック)およびF蛋白細胞質側領域(標準字体)とSIV細胞質側領域11アミノ酸(SIVc11)(イタリック下線)の境界部分のアミノ酸配列(配列番号:6〜8)を示す図である。
【図5】図5は、本願発明のF/HNシュードタイプSIVベクターによるマウス鼻腔における長期間の遺伝子発現を示す写真である。Day-3からDay-360までの結果を表示した。括弧内記載の数値(x/x)は、遺伝子発現が見られたマウス個体数/供試したマウス個体数を表す。左右に数値が分かれている場合は、左側は強いGFP発現を示した個体数、右側は各日数で解析に使用したマウス個体数を表す。バーは5mmを表す。
【図6】図6は、本願発明のF/HNシュードタイプSIVベクターによるマウス鼻腔上皮に優れた特異的な遺伝子導入が見られたことを示す写真である。Day-36およびDay-50の結果を示す。バーは0.5mmを表す。
【図7】図7は、図6の続きの写真である。細胞の寿命を超えてDay-160およびDay-220およびDay-360でも発現していたことが分かる。バーは0.5mmを表す。
【図8】図8は、幹細胞が適所に存在する場合(右)および上皮細胞基底膜周辺に幹細胞が点在している場合(左)における、分化した細胞の上皮組織における移動を示す概念図である。SMGとは、submucosal glandの略である。下段の4枚の平面図は気道上皮のアピカル表面を表す。下2枚の平面図は、幹細胞分裂の2サイクル後(約180日後)の図である。幹細胞がある割合に達すると、分化した細胞は急速に側方へ移動する。そして3か月間隔で細胞の再生が行われる。図中、ストライプ(斜線)の丸は幹細胞、白丸は気道上皮前駆細胞、灰色の丸は分化途上の気道上皮細胞、黒丸は分化した気道上皮細胞を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、遺伝子治療ベクターとしての利用が期待されているレンチウイルスの中でも、遺伝子治療の分野において従来から用いられてきたヒト免疫不全ウイルス(HIV)と比較して、安全性が高いなど様々な利点を有するサル免疫不全ウイルス(SIV)を用いて、マイナス鎖RNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化したベクターの構築を行った。例えば、下記実施例に示すように、マイナス鎖RNAウイルスの1つであるセンダイウイルスのF、HN蛋白質でシュードタイプ化したサル免疫不全ウイルスベクターを構築した。さらに当該ベクターを用いることによって、マウス鼻腔の幹細胞に外来遺伝子を導入することに成功した。
【0019】
すなわち本発明は、RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するためのレンチウイルスベクター(以下本明細書においては「シュードタイプ化レンチウイルスベクター」、あるいは単に「ベクター」と記載する場合がある)を提供するものである。
【0020】
本発明における「レンチウイルスベクター」は、レンチウイルスに由来するウイルスゲノムを含み、自己複製能を欠如し、宿主内に核酸分子を導入する能力を有するウイルス粒子である。即ち、ベクターがレンチウイルスのバックボーンを有することを指す。「レンチウイルスのバックボーンを有する」とは、該ベクターを構成するウイルス粒子に含まれる核酸分子がレンチウイルスゲノムに基づくことを言う。例えば、ウイルス粒子に含まれる核酸分子がレンチウイルスゲノム由来のパッケージングシグナル配列を有するベクターは、本発明においてレンチウイルスウイルスベクターに含まれる。また本発明における「組み換え」ウイルスベクターとは、遺伝子組み換え技術により構築されたウイルスベクターを言う。ウイルスゲノムをコードするDNAとパッケージング細胞を用いて構築したウイルスベクターは、組み換えウイルスベクターという。
【0021】
レンチウイルスとは、レンチウイルス亜科(Lentivirus)に属するレトロウイルスを指す。たとえば次のようなウイルスが、レンチウイルスに含まれる。
ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus; HIV);
(例えばHIV1またはHIV2)、
サル免疫不全ウイルス(simian immunodeficiency virus; SIV)、
ネコ免疫不全ウイルス(feline immunodeficiency virus ; FIV)、
マエディ・ビスナウイルス(Maedi-Visna-like virus ; EV1)、
ウマ伝染性貧血ウイルス(equine infectious anemia virus ; EIAV)、
ヤギ関節炎脳炎ウイルス(caprine arthritis encephalitis virus ;CAEV)
【0022】
本発明においては、任意の株およびサブタイプに由来するレンチウイルスベクターを利用することができる。例えばHIV1としては、全てのメジャー(M)サブタイプ(AからJを含む)、Nおよび outlier(O)が含まれる(Hu, D. J. et al., JAMA 1996; 275: 210-216; Zhu, T. et al., Nature 1998, 5; 391(6667): 594-7; Simon, F. et al., Nat. Med. 1998, 4(9): 1032-7)。
【0023】
「RNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、レンチウイルスべクター」とは、RNAウイルスのスパイクタンパク質を有するレンチウイルスベクターをいう。また、該レンチウイルスベクターの天然型が保持していない1つまたはそれ以上のRNAウイルスのスパイクタンパク質を保持しているレンチウイルスベクターをいう。
「DNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、レンチウイルスべクター」とは、DNAウイルスのスパイクタンパク質を有するレンチウイルスベクターをいう。また、該レンチウイルスベクターの天然型が保持していない1つまたはそれ以上のDNAウイルスのスパイクタンパク質を保持しているレンチウイルスベクターをいう。
【0024】
また本発明において遺伝子導入の対象となる「気道上皮幹細胞」とは、気道上皮組織に存在する幹細胞(stem cell)を指す。幹細胞とは、多分化能と自己複製能を有する未分化細胞である。造血幹細胞、間葉系幹細胞(bone marrow stroma cells:D.J.Prockop, Science, 276, 71-74, 1997)、各種臓器組織内に存在する幹細胞、の3種類が知られている。また気道上皮組織とは、例えば、鼻、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支、肺等の組織を指す。本発明において好ましい気道上皮系組織は、鼻腔、気管、肺である。また本発明の気道上皮幹細胞は、粘液下腺組織(sub-mucosal gland)内に存在する幹細胞に限局されない。すなわち、気道上皮幹細胞とは、気道上皮系組織に分化することが出来る、造血幹細胞、間葉系幹細胞、各種臓器組織内幹細胞の全てを指すと定義する。
【0025】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスウイルスベクターは、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入する機能を有する。すなわち、本発明のシュードタイプ化に用いられるRNAウイルスまたはDNAウイルスは、気道上皮組織に感染する機能を有することが好ましい。
【0026】
本発明において「RNAウイルス」とは、RNAゲノムを持つウイルスを言う。本発明におけるRNAウイルスは、好ましくはウイルスのライフサイクルにおいてRNAを鋳型にRNA合成を行うウイルスである。RNAウイルスとしては、気道上皮細胞においてゲノムRNAを複製する所望のRNAウイルスであってよく、野生型ウイルスであっても、弱毒型ウイルスや温度感受性ウイルスなどの変異型ウイルスであってよい。また、天然のウイルス(自然発生したウイルス)であっても、組み換えウイルスであってもよい。RNAウイルスには、一本鎖RNAウイルス(プラス鎖RNAウイルスおよびマイナス鎖RNAウイルスを含む)、および二本鎖RNAウイルスを含む。またエンベロープを有するウイルス(エンベロープウイルス;enveloped viruses)およびエンベロープを有さないウイルス(非エンベロープウイルス;non-enveloped viruses)を含むが、好ましくはエンベロープウイルスが用いられる。本発明におけるRNAウイルスには、具体的には以下の科に属するウイルスが含まれる。
ラッサウイルスなどのアレナウイルス科(Arenaviridae)
インフルエンザウイルスなどのオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)
SARSコロナウイルスなどのコロナウイルス科(Coronaviridae)
風疹ウイルスなどのトガウイルス科(Togaviridae)
ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、センダイウイルス、RSウイルスなどのパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)
ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスなどのピコルナウイルス科(Picornaviridae)
マールブルグウイルス、エボラ出血熱ウイルスなどのフィロウイルス科(Filoviridae)
黄熱病ウイルス、デング熱ウイルス、C型肝炎ウイルス、G型肝炎ウイルスなどのフラビウイルス科(Flaviviridae)
ブンヤウイルス科(Bunyaviridae)
狂犬病ウイルスなどのラブドウイルス科(Rhabdoviridae)
レオウイルス科(Reoviridae)
【0027】
本発明における「プラス鎖RNAウイルス」とは、プラス鎖のRNAをゲノムとして含むウイルスである。中でも、本発明においてはコロナウイルス科のSARSコロナウイルス(Severe Acute Respiratory Syndrome virus(重症急性呼吸器症候群ウイルス、SARSウイルス)、新型コロナウイルス)、が好ましく用いられる。本発明におけるプラス鎖RNAウイルスには、例えば以下のものが含まれる。
SARSウイルスなどのコロナウイルス科(Coronaviridae)
ノロウイルスなどのカリシウイルス科(Caliciviridae)
ピコルナウイルス科(Picornaviridae)
アストロウイルスなどのアストロウイルス科(Astroviridae)
トガウイルス科(Togaviridae)
フラビウイルス科(Flaviviridae)
ヒト免疫不全ウイルスなどのレトロウイルス科(Retroviridae)
ブンヤウイルス科(Bunyaviridae)
【0028】
また本発明における「マイナス鎖RNAウイルス」とは、マイナス鎖(ウイルス蛋白質をコードするセンス鎖に対するアンチセンス鎖)のRNAをゲノムとして含むウイルスである。マイナス鎖RNAはネガティブ鎖RNAとも呼ばれる。本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスとしては、特に一本鎖マイナス鎖RNAウイルス(非分節型(non-segmented)マイナス鎖RNAウイルスとも言う)が挙げられる。「一本鎖ネガティブ鎖RNAウイルス」とは、一本鎖ネガティブ鎖[すなわちマイナス鎖]RNAをゲノムに有するウイルスを言う。
【0029】
上記マイナス鎖RNAウイルスとしては、パラミクソウイルス(Paramyxoviridae; Paramyxovirus, Morbillivirus, Rubulavirus, および Pneumovirus属等を含む)、ラブドウイルス(Rhabdoviridae; Vesiculovirus, Lyssavirus, および Ephemerovirus属等を含む)、エボラ出血熱ウイルスを含むフィロウイルス(Filoviridae)、オルソミクソウイルス(Orthomyxoviridae; Infuluenza virus A, B, C, および Thogoto-like viruses 等を含む)、ブニヤウイルス(Bunyaviridae; Bunyavirus, Hantavirus, Nairovirus, および Phlebovirus属等を含む)、アレナウイルス(Arenaviridae)などの科に属するウイルスが含まれる。
【0030】
本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスを具体的に挙げれば、例えばパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)ウイルスのセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1,2,3型、オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のインフルエンザウイルス(Influenza virus)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)の水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)、狂犬病ウイルス(Rabies virus)、フィロウイルス科のエボラ出血熱ウイルス(Ebola virus)等が例示できる。中でも、本発明においてはセンダイウイルス、インフルエンザウイルス、あるいはエボラ出血熱ウイルスが好ましく用いられる。
【0031】
センダイウイルスには、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などが含まれる。DI粒子(J. Virol. 68, 8413-8417(1994))等の不完全ウイルスや、合成したオリゴヌクレオチド等も、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを製造するための材料として使用することができる。
【0032】
また本発明における「スパイクタンパク質」とは、エンベロープタンパク質と呼ばれることもある。具体的には「スパイクタンパク質」は、ウイルスのエンベロープ表面に配列する突起状のタンパク質を指し、ウイルス糖タンパクであり、多量体として存在することもある。エンベロープを持つウイルスの宿主細胞への吸着侵入に必須の役割を果たす。例えばセンダイウイルスでは、血球凝集素-ノイラミニダーゼ(HN)糖タンパクと融合糖タンパク(F)からなる2種のスパイクタンパク質が存在する。インフルエンザウイルスでは、血球凝集素(三量体)(HA)とノイラミニダーゼ(四量体)(NA)の2種のスパイクタンパク質が存在する。SARSウイルスでは、スパイク糖タンパク質がスパイクタンパク質として存在する。エボラ出血熱ウイルスザイール株では、長さ約10nmの突起状のEboZエンベロープタンパク質がスパイクタンパク質として存在する。
【0033】
本発明におけるスパイクタンパク質は、上記HN、F、HA、NA、EboZ等のスパイクタンパク質だけでなく、例えば他のRNAウイルスまたはDNAウイルスにおいて、上記スパイクタンパク質に相当するタンパク質であれば、例え名称が異なっていても、本発明に含まれる。これらのスパイクタンパク質は、本来のタンパク質の機能を維持している限り、天然由来のタンパク質から1または複数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加などにより改変されていてもよい。改変されるアミノ酸の数は、特に制限はないが、一般的には、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、より好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。アミノ酸の改変は、好ましくは保存的置換である。このような改変されたアミノ酸からなるタンパク質でシュードタイプ化されたレンチウイルスベクターも、本発明に含まれる。
【0034】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターは、ウイルスの産生時にスパイクタンパク質を共存させることにより製造することができる。例えば、スパイク発現ベクターのトランスフェクションや、宿主染色体DNAに組み込んだスパイク遺伝子からの発現誘導により、パッケージング細胞内でスパイクを発現させることにより、この細胞から産生されるウイルス粒子がスパイクタンパク質でシュードタイプ化される。
【0035】
また本発明は、RNAウイルスがパラミクソウイルスである、シュードタイプ化レンチウイルスベクターに関する。
【0036】
例えばパラミクソウイルスのウイルスタンパク質をコードする遺伝子としては、NP、P、M、F、HN、およびL遺伝子が知られている。「NP、P、M、F、HN、およびL遺伝子」とは、それぞれヌクレオキャプシド、ホスホ、マトリックス、フュージョン、ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ、およびラージ蛋白質をコードする遺伝子のことを指す。パラミクソウイルス亜科に属する各ウイルスにおける各遺伝子は、一般に次のように表記される。一般に、NP遺伝子は「N遺伝子」と表記されることもある。
パラミクソウイルス属 NP P/C/V M F HN - L
ルブラウイルス属 NP P/V M F HN (SH) L
モービリウイルス属 NP P/C/V M F H - L
【0037】
例えばパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)のパラミクソウイルス属(Paramyxovirus)に分類されるセンダイウイルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、NP遺伝子については M29343、M30202, M30203, M30204, M51331, M55565, M69046, X17218、P遺伝子については M30202, M30203, M30204, M55565, M69046, X00583, X17007, X17008、M遺伝子については D11446, K02742, M30202, M30203, M30204, M69046, U31956, X00584, X53056、F遺伝子については D00152, D11446, D17334, D17335, M30202, M30203, M30204, M69046, X00152, X02131、HN遺伝子については D26475, M12397, M30202, M30203, M30204, M69046, X00586, X02808, X56131、L遺伝子については D00053, M30202, M30203, M30204, M69040, X00587, X58886を参照のこと。
【0038】
例えば、パラミクソウイルスのエンベロープ蛋白質によりシュードタイプ化されたレンチウイルスベクターは、例えば、不活化パラミクソウイルス、またはパラミクソウイルスのエンベロープ蛋白質を持つビロソームなどを調製し、これをレンチウイルスに融合させることにより製造することができる。また、パラミクソウイルスのエンベロープ蛋白質を発現する発現ベクターを、レンチウイルスのパッケージング細胞で発現させることにより製造することができる。
【0039】
また本発明は、パラミクソウイルスがセンダイウイルスである、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。
【0040】
また本発明は、マイナス鎖RNAウイルスがオルソミクスウイルスである、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。
【0041】
オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)ウイルスには、インフルエンザ A ウイルス属(Genus:Infleuenzavirus A)、インフルエンザ B ウイルス属(Genus:Infleuenzavirus B)、インフルエンザ C ウイルス属(Genus:Infleuenzavirus C)、およびトゴトウイルス属(Genus:Thogotovirus)が含まれる。インフルエンザ A ウイルス属としては、A型インフルエンザウイルス (Infleuenza A virus (FLUAV))、インフルエンザ B ウイルス属としては、B型インフルエンザウイルス (Infleuenza B virus (FLUBV))、インフルエンザ C ウイルス属としては、C型インフルエンザウイルス (Infleuenza C virus (FLUCV))、トゴトウイルス属としては、Thogoto virus(THOV)、Dhori virus (DHOV)などが挙げられる。
【0042】
例えばオルソミクソウイルスのウイルスタンパク質をコードする遺伝子としては、HA、NA、およびM1遺伝子が知られている。「HA、NA、およびM1遺伝子」とは、それぞれ血球凝集素、ノイラミニダーゼ、マトリックス(メンブレン)タンパク質をコードする遺伝子のことを指す。オルソミクソウイルス科に属する各ウイルスにおける各遺伝子は、一般に次のように表記される。一般にHA遺伝子はH、NA遺伝子はNと表記されることもある。
インフルエンザAウイルス属 PB2・PB1・PA・HA・NP・NA・M1+M2・NS1+NS2
インフルエンザBウイルス属 PB2・PB1・PA・・HA・NP・NA+NB・M1+M2・NS1+NS2
インフルエンザCウイルス属 PB2・PB1・P3 (PA)・HE (HA)・NP・M・NS1+NS2
トゴトウイルス属 PB2・PB1・PA・GP-75 (THOV)・GP-64 (DHOV)・NP・M
【0043】
例えばオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のインフルエンザAウイルス属に分類されるA型インフルエンザウイルスのエンベロープ遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、HA遺伝子についてはNC_002017、NA遺伝子についてはNC_002018を参照のこと。
【0044】
インフルエンザBウイルス属に分類されるB型インフルエンザウイルスのエンベロープ遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、HA遺伝子についてはNC_002207、NA遺伝子についてはNC_002209を参照のこと。
【0045】
インフルエンザCウイルス属に分類されるC型インフルエンザウイルスのエンベロープ遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、HE (hemagglutinin-esterase precursor) 遺伝子についてはNC_006310を参照のこと。
【0046】
トゴトウイルス属に分類されるDhori virusのエンベロープ遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、GP-64遺伝子についてはNC_006506を参照のこと。
【0047】
また本発明は、オルソミクソウイルスがインフルエンザウイルスである、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。
【0048】
また本発明は、マイナス鎖RNAウイルスがフィロウイルスである、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。
【0049】
フィロウイルス科(Filoviridae)には、マールブルグ様ウイルス属(Genus:Marburg-like viruses)、エボラ様ウイルス属(Genus:Ebola-like viruses)が含まれる。マールブルグ様ウイルス属としては、マールブルグウイルス(Marburg virus)など、エボラ様ウイルス属としては、ザイール型エボラ出血熱ウイルス、レストン型エボラ出血熱ウイルス、スーダン型エボラ出血熱ウイルスなどが挙げられる。本発明におけるエボラ出血熱ウイルスとしては、上記した型のいずれを利用しても構わない。好ましくは、ザイール型のエボラ出血熱ウイルスを用いる。
【0050】
例えばエボラ出血熱の各ウイルスタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、NC_002549, L11365, AF086833, AF272001, U28077, U31033, AY142960を参照のこと。
【0051】
また本発明は、フィロウイルスがエボラ出血熱ウイルスである、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。
【0052】
また本発明は、プラス鎖RNAウイルスがコロナウイルスである、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。
【0053】
コロナウイルス科(Coronaviridae)には、コロナウイルス属(Genus:Coronavirus)、トロウイルス属(Genus:Torovirus)が含まれる。コロナウイルス属としては、SARSウイルス、伝染性気管支炎ウイルス(infectious bronchitis virus)、ヒトコロナウイルス(Human coronavirus)、マウス肝炎ウイルス(Murine hepatitis virus)など、トロウイルス属としては、ウマトロウイルス(Equine torovirus)、ヒトトロウイルス(Human torovirus)などが挙げられる。
【0054】
例えばSARSウイルスの各ウイルスタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、NC_004718、スパイクタンパク質についてはNP_828851を参照のこと。
【0055】
また本発明は、コロナウイルスがSARSウイルスである、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。
【0056】
また本発明は、DNAウイルスがバキュロウイルス(Baculovirus)である、シュードタイプ化されたレンチウイルスベクターに関する。バキュロウイルスのスパイクタンパク質はトゴト(Thogoto)などのインフルエンザDウイルスのスパイクタンパク質と構造上の類似性を有し、気道上皮への感染が示唆される(Sinn,P.L., Burnight,E.R., Hickey,M.A., Blissard,G.W., and McCray,P.B.,Jr. Persistent gene expression in mouse nasal epithelia following feline immunodeficiency virus-based vector gene transfer. J.Virol.(2005) 79:12818-12827)。なお本発明におけるバキュロウイルスとしては、例えばオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)が挙げられる。
【0057】
本発明のRNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されているレンチウイルスベクターは、例えばマイナス鎖RNAウイルスがパラミクソウイルスの場合は、HN蛋白質およびF蛋白質も含むことが好ましい。また、マイナス鎖RNAウイルスがオルソミクソウイルスの場合は、HAタンパク質だけでなく、NAタンパク質、あるいはGP88タンパク質やHEを含むことが好ましい。また、RNAウイルスがコロナウイルスの場合は、Sタンパク質を含むことが好ましい。またRNAウイルスがフィロウイルスの場合は、エンベロープタンパク質を含むことが好ましい。
【0058】
本発明において、センダイウイルスのHNおよびF蛋白を持つシュードタイプ化サル免疫不全ウイルスベクターが、気道上皮幹細胞に対し高い遺伝子導入効率を示すことが実証された。すなわち本発明のレンチウイルスベクターには、このFおよびHN蛋白質を含むシュードタイプ化サル免疫不全ウイルスベクターが含まれる。また、本発明のシュードタイプサル免疫不全ウイルスベクターは、パラミクソウイルスのM蛋白質をさらに含んでもよい。
【0059】
サル免疫不全ウイルス(Simian Immunodeficiency Virus, SIV)はサルにおけるHIV類似ウイルスとして発見され、HIVとともにPrimates Lentivirusグループを形成している(井戸栄治, 速水正憲, サル免疫不全ウイルスの遺伝子と感染・病原性. 蛋白質 核酸 酵素: Vol.39, No.8. p1425, 1994)。このグループはさらに大きく4つのグループに分類され、
1)ヒトにおいて後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome, AIDS)の原因となるHIV-1とチンパンジーより分離されたSIVcpzを含むHIV-1グループ、
2)スーティーマンガベイ Cercocebus atys より分離されたSIVsmmとアカゲザル Macaca mulatta より分離されたSIVmac、およびヒトに対し低頻度ではあるが病原性を示すHIV-2(Jaffar, S. et al., J. Acquir. Immune Defic. Syndr. Hum. Retrovirol., 16(5), 327-32, 1997)よりなるHIV-2グループ、
3)アフリカミドリザル Cercopithecus aethiops から分離されたSIVagmに代表されるSIVagmグループ、
4)マンドリル Papio sphinx から分離されたSIVmndに代表されるSIVmndグループ
からなっている。
【0060】
本発明におけるSIVには、SIVの全ての株およびサブタイプが含まれる。SIV単離株としては、SIVagm、SIVcpz、SIVmac、SIVmnd、SIVsm、SIVsnm、SIVsyk等が例示できる。
【0061】
このうち、SIVagmおよびSIVmndでは自然宿主における病原性の報告はなく(Ohta, Y. et al., Int. J. Cancer, 15, 41(1), 115-22, 1988; Miura, T. et al., J. Med. Primatol., 18(3-4), 255-9, 1989; 速水正憲, 日本臨床, 47, 1, 1989)、特にSIVagmの一種であるTYO-1株は、自然宿主でも、カニクイザル Macaca facicularis 、アカゲザル Macaca mulatta に対する実験感染でも病原性を示さないことが報告されている(Ali, M. et al, Gene Therapy, 1(6), :367-84, 1994; Honjo, S. et al., J. Med. Primatol., 19(1), 9-20, 1990)。SIVagmのヒトに対する感染、発症については報告がなく、ヒトに対する病原性は知られていないが、一般に霊長類におけるレンチウイルスは種特異性が高く、自然宿主から他種に感染、発症した例は少なく、その発症も低頻度あるいは進行が遅いという傾向がある(Novembre, F. J. et al., J. Virol., 71(5), 4086-91, 1997)。すなわち、本発明においては、好ましくはagm株由来のSIVを用いる。さらに、SIVagm TYO-1株をベースとして作製したウイルスベクターは、HIV-1や他のレンチウイルスをベースとしたベクターと比べて安全性が高いと考えられ、本発明において好適に用いられ得る。
【0062】
本発明のシュードタイプ化サル免疫不全ウイルスベクターは、他のウイルス由来のエンベロープ蛋白質をさらに含むことができる。例えば、このような蛋白質として、ヒト細胞に感染するウイルスに由来するエンベロープ蛋白質が好適である。このような蛋白質としては、特に制限はないが、レトロウイルスのアンフォトロピックエンベロープ蛋白質などが挙げられる。レトロウイルスのアンフォトロピックエンベロープ蛋白質としては、例えばマウス白血病ウイルス(MuLV)4070A株由来のエンベロープ蛋白質を用い得る。また、MuMLV 10A1由来のエンベロープ蛋白質を用いることもできる(例えばpCL-10A1(Imgenex)(Naviaux, R. K. et al., J. Virol. 70: 5701-5705 (1996))。また、エボラ出血熱ウイルスのZaire株のエンベロープ糖タンパク質(GP)や新型コロナウイルスとして同定された重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスのスパイクエンベロープタンパク質(Sタンパク質)があげられる。ヘルペスウイルス科の蛋白質としては、例えば単純ヘルペスウイルスのgB、gD、gH、gp85蛋白質、EBウイルスのgp350、gp220蛋白質などが挙げられる。ヘパドナウイルス科の蛋白質としては、B型肝炎ウイルスのS蛋白質などが挙げられる。
【0063】
本発明のサル免疫不全ウイルスベクターは、他のレトロウイルスのゲノムRNA配列の一部を有していてもよい。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus; HIV)、ネコ免疫不全ウイルスFeline Immunodeficiency Virus(FIV)(Poeschla, E. M. et al., Nature Medicine, 4(3), 354-7, 1998)、ヤギ関節炎脳炎ウイルスCaprine Arthritis Encephalitis Virus(CAEV)(Mselli-Lakhal, L. et al., Arch. Virol., 143(4), 681-95, 1998)などの他のレンチウイルスのゲノム配列の一部をサル免疫不全ウイルスのゲノムの一部と置換したキメラ配列を有するベクターも、本発明のサル免疫不全ウイルスベクターに含まれる。
【0064】
上記レトロウイルスとしては、LTR(long terminal repeat)に改変を加えることもできる。LTRはレトロウイルスに特徴的な配列であり、ウイルスゲノムの両端に存在している。5' LTRはプロモーターとして働き、プロウイルスからのmRNAの転写を促す。したがって、ジーントランスファーベクターの5' LTRのプロモーター活性をもつ部分を別の強力なプロモーターと置換すれば、ジーントランスファーベクターのmRNA転写量が増大し、パッケージング効率が上昇、ベクター力価を上昇させる可能性がある。さらに、例えばレンチウイルスの場合、5' LTRはウイルス蛋白質tatによる転写活性の増強を受けることが知られており、5' LTRをtat蛋白質に依存しないプロモーターに置換することで、パッケージングベクターからtatを削除することが可能となる。また、細胞に感染し細胞内に侵入したウイルスRNAは逆転写された後、両端のLTRを結合させた環状構造となり、結合部位とウイルスのインテグラーゼが共役して細胞の染色体内にインテグレートされる。プロウイルスから転写されるmRNAは5' LTR内の転写開始点より下流、3' LTRのpolyA配列までであり、5' LTRのプロモーター部分はウイルス内にパッケージングされない。したがって、プロモーターを置換したとしても標的細胞の染色体に挿入される部分には変化が無い。以上のことから、5' LTRのプロモーターの置換は、より高力価で安全性の高いベクターを作製することにつながると考えられる。従って、ジーントランスファーベクターの5' 側プロモーターの置換を行い、パッケージングされるベクターの力価を上昇させることができる。
【0065】
また、本発明の組み換えサル免疫不全ウイルスベクターにおいては、3' LTRの配列を部分的に削除し、標的細胞から全長のベクターmRNAが転写されることを防止する自己不活性化型ベクター(Self Inactivating Vector:SINベクター)の作製により、安全性を上昇させることも可能である。標的細胞の染色体に侵入したレンチウイルスのプロウイルスは、3' LTRのU3部分を5' 端に結合した形となる。したがってジーントランスファーベクターは、標的細胞の染色体では5' 端にU3が配置され、そこからジーントランスファーベクター全体のRNAが転写されることになる。仮に、標的細胞内にレンチウイルスあるいはその類似の蛋白質が存在した場合、ジーントランスファーベクターが再びパッケージングされ、他の細胞に再感染する可能性がある。また3' LTRのプロモーターにより、ウイルスゲノムの3' 側に位置する宿主由来の遺伝子が発現されてしまう可能性がある(Rosenberg, N., Jolicoeur, P., Retoroviral Pathogenesis. Retroviruses. Cold Spling Harbor Laboratory Press, 475-585, 1997)。この現象はレトロウイルスベクターにおいてすでに問題とされ、回避の方法としてSINベクターが開発された(Yu, S. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 83(10), 3194-8, 1986)。ジーントランスファーベクター上の3' LTRのU3部分を欠失させることにより、標的細胞内では5' LTRや3' LTRのプロモーターが無くなるため、全長のRNAや宿主遺伝子の転写が起こらない。そして、内部プロモーターからの目的遺伝子の転写のみが行われることになり、安全性が高く、高発現のベクターとなることが期待される。このようなベクターは、本発明において好適である。SINベクターの構築は、公知の方法などに従えばよい。
【0066】
レトロウイルスベクターなどのゲノムにLTR配列を含むウイルスベクターを用いた遺伝子治療の問題点の一つに導入遺伝子の発現が次第に低下することがある。これらのベクターは宿主ゲノムに組み込まれると、宿主側の機序によりそのLTRがメチル化され、導入遺伝子の発現が抑制されてしまうことが原因の一つと考えられている(Challita, P. M. and Kohn, D. B., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:2567, 1994)。自己不活性化(SIN)型ベクターでは、宿主ゲノムに組み込まれるとLTR配列の大部分を失うため、LTRのメチル化による遺伝子発現の減弱を受けにくい利点がある。ジーントランスファーベクターの3'LTRのU3領域を他のプロモーター配列に置換して製造した自己不活性化型ベクターは、霊長類ES細胞に導入後、2ヵ月以上にわたって安定した発現を維持することが判明している(WO 02/101057)。このように、LTR U3領域の改変により自己不活性化するように設計されたSINベクターは、本発明において特に好適である。
【0067】
本発明のレンチウイルスベクターとしては、上記サル免疫不全ウイルスベクターの他にも、例えばウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)ベクター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV、例えばHIV1またはHIV2)ベクター、または、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)ベクターを用いることができる。
【0068】
ただしHIVベクターをはじめとするレンチウイルスベクターは、宿主ゲノムがHIVプロウイルスをすでに保持している場合、外来ベクターと内因性プロウイルスの間で組み換えが生じ、複製可能ウイルスが発生しないかという危惧が指摘されている。これは、将来実際にHIV感染患者にHIVベクターを用いる時には確かに大きな問題になろう。今回使用したSIVベクターは、HIVとの相同配列はほとんどない上、ウイルス由来の配列を80.6%取り除いた複製不能ウイルスであり、この危険性は極めて小さく、他のレンチウイルスベクターに比べて安全性が高い。従って、本発明においては、これらのレンチウイルスベクターの中でも、サル免疫不全ウイルス(SIV)ベクターは特に好ましいレンチウイルスベクターとして用いられる。
【0069】
本発明のSIVベクターは、好ましくは、このベクターが由来するSIVのゲノム由来の配列の40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上が取り除かれた複製不能ウイルスである。
【0070】
レトロウイルスの産生には、宿主細胞でパッケージングシグナルを有するジーントランスファーベクターDNAを転写させ、gag, pol蛋白質およびエンベロープ蛋白質の存在下でウイルス粒子を形成させる。ジーントランスファーベクターDNAにコードされるパッケージングシグナル配列は、この配列により形成される構造を保持できるように可能な限り長く組み込むことが好ましい一方で、該ベクターDNA上のパッケージングシグナルと、gag,pol蛋白質を供給するパッケージングベクターとの間で起こる組み換えによる野生型ウイルスの出現頻度を抑制するためにはこれらベクター間の配列の重複を最小限にする必要がある。従って、ジーントランスファーベクターDNAの構築においては、パッケージング効率および安全性の両者を満足させるために、パッケージングに必要な配列を含むできる限り短い配列を用いることが好ましい。
【0071】
例えば、SIVagm由来のパッケージングベクターの場合は、HIVベクターはパッケージングされないため、用いられるシグナルの由来としてはSIVのみに制限されると考えられる。但し、HIV由来のパッケージングベクターを用いた場合、SIV由来のジーントランスファーベクターもパッケージングされるので、組換えウイルスの出現頻度を低下させるために、異なるレンチウイルス由来のジーントランスファーベクターとパッケージングベクターとを組み合わせてベクター粒子を形成させることが可能であると考えられる。このようにして製造されたSIVベクターも、本発明のベクターに含まれる。この場合、霊長類のレンチウイルスの間の組み合わせ(例えば、HIVとSIV)であることが好ましい。
【0072】
ジーントランスファーベクターDNAでは、gag蛋白質が発現しないように改変されていることが好ましい。ウイルスgag蛋白質は、生体にとって異物として認識され、抗原性が現れる可能性がある。また、細胞の機能に影響を及ぼす可能性もある。gag蛋白質を発現しないようにするためには、gagの開始コドンの下流に塩基の付加や欠失等によりフレームシフトするように改変することができる。また、gag蛋白質のコード領域の一部を欠失させることが好ましい。一般にウイルスのパッケージングには、gag蛋白質のコード領域の5'側が必要であるとされている。従って、ジーントランスファーベクターにおいては、gag蛋白質コード領域のC末側を欠失していることが好ましい。パッケージング効率に大きな影響を与えない範囲でできるだけ広いgagコード領域を欠失させることが好ましい。また、gag蛋白質の開始コドン(ATG)をATG以外のコドンに置換することも好ましい。置換するコドンは、パッケージング効率に対する影響が少ないものを適宜選択する。これにより構築されたパッケージングシグナルを有するジーントランスファーベクターDNAを、適当なパッケージング細胞に導入することにより、ウイルスベクターを生産させることができる。生産させたウイルスベクターは、例えばパッケージング細胞の培養上清から回収することができる。
【0073】
パッケージング細胞に使われる細胞としては、一般的にウイルスの産生に使用される細胞株であれば制限はない。ヒトの遺伝子治療用に用いることを考えると、細胞の由来としてはヒトまたはサルが適当であると考えられる。パッケージング細胞として使用されうるヒト細胞株としては、例えば293細胞、293T細胞、293EBNA細胞、SW480細胞、u87MG細胞、HOS細胞、C8166細胞、MT-4細胞、Molt-4細胞、HeLa細胞、HT1080細胞、TE671細胞などが挙げられる。サル由来細胞株としては、例えば、COS1細胞、COS7細胞、CV-1細胞、BMT10細胞などが挙げられる。
【0074】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターが保持する外来遺伝子としては特に制限はなく、蛋白質をコードする核酸であってもよく、また、例えば、アンチセンスまたはリボザイムなどの蛋白質をコードしない核酸であってもよい。遺伝子は天然由来または人為的に設計された配列であり得る。人工的な蛋白質としては、例えば、他の蛋白質との融合蛋白質、ドミナントネガティブ蛋白質(受容体の可溶性分子または膜結合型ドミナントネガティブ受容体を含む)、欠失型の細胞接着分子および可溶型細胞表面分子などであってよい。
【0075】
また本発明におけるシュードタイプ化レンチウイルスベクターは、気道上皮幹細胞、あるいは気道上皮前駆細胞を含む気道上皮細胞において外来遺伝子を長期間発現することが本発明者らにより確認された。すなわち、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターは、気道上皮細胞において少なくとも90日以上、より好ましくは360日以上、外来遺伝子を発現する能力を有することを特徴とするベクターである。
【0076】
また、本発明における外来遺伝子としては、遺伝子の導入効率や発現安定性等を評価するためのマーカー遺伝子であってもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、グリーン蛍光蛋白質(以下、GFPともいう)、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどをコードする遺伝子が挙げられる。とりわけ、GFPをコードする遺伝子が好ましい。
【0077】
また、本発明における外来遺伝子としては、先天的あるいは後天的に機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。ここで「先天的に機能不全」とは生まれながらにして遺伝的な要因により機能不全になっていることを指し、「後天的に機能不全」とは生まれた後の環境的な要因により機能不全になっていることを指す。
例えば、嚢胞性線維症(CF)の場合は、先天的あるいは後天的に機能不全になっている嚢胞性線維症原因因子(タンパク質)をコードする遺伝子、好ましくは先天的あるいは後天的に機能不全になっているCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)タンパク質をコードする遺伝子を挙げることができる。
【0078】
あるいは、本発明における外来遺伝子としては、嚢胞性繊維症に対して治療効果のあるタンパク質をコードする遺伝子を挙げることができる。
あるいは本発明における外来遺伝子としては、遺伝性の疾患で機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、CFTRタンパク質をコードする遺伝子を挙げることができる。
【0079】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターは、実質的に純粋になるよう精製することができる。「実質的に純粋」とは、該シュードタイプ化レンチウイルスベクターが、レンチウイルス以外の複製型ウイルスを実質的に有さないことを指す。精製方法はフィルター濾過、遠心分離、およびカラム精製等を含む公知の精製・分離方法により行うことができる。例えば、ベクター溶液を0.45マイクロメーターのフィルターにて濾過後、42500 x g、90分、4℃で遠心を行うことで、ベクターを沈殿・濃縮することができ、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターは、必要に応じて薬学的に許容される所望の担体または媒体と適宜組み合わせて組成物とすることができる。「薬学的に許容される担体」とは、ベクターと共に投与することが可能であり、ベクターによる遺伝子導入を有意に阻害しない材料である。具体的には、例えば滅菌水、生理食塩水、培養液、血清、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などと適宜組み合わせることが考えられる。さらに、その他にも、安定剤、殺生物剤等が含有されていてもよい。本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを含む組成物は、試薬または医薬として有用である。例えば、気道幹細胞に対する遺伝子導入試薬として、または遺伝性疾患等の各種疾患における遺伝子治療のための医薬として、本発明の組成物を用いることができる。
【0080】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを、ヒトを含む霊長類の気道上皮細胞に接触させることにより、該ベクターが含む核酸を気道上皮幹細胞に導入することができる。本発明は、本発明のベクターを気道上皮細胞に接触させる工程を含む、気道上皮幹細胞に遺伝子を導入する方法に関する。また本発明は、RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されているレンチウイルスベクターの気道上皮幹細胞への遺伝子導入のための使用に関する。導入の対象となる気道上皮幹細胞に特に制限はなく、例えば所望のサルやヒトの気道上皮に分化する可能性のある、間葉系幹細胞を含む骨髄由来幹細胞なども気道上皮幹細胞として用いることができる。
【0081】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターによる遺伝子導入の対象となるサル由来の気道上皮幹細胞としては特に制限はないが、例えばマーモセット気道上皮幹細胞、アカゲザル気道上皮幹細胞、カニクイザル気道上皮幹細胞などが挙げられる。
【0082】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスべクターを用いた気道上皮幹細胞への遺伝子導入においては、その操作は該ベクターを気道上皮細胞に接触させる工程を含む方法により行われる。例えば、下記実施例記載のように、当該ベクターを鼻腔にカテーテルを用いて投与することにより接触せしめることも可能である。
【0083】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターにおいては、当該ベクターの接触前に細胞表面を洗浄する等の前処理を行わなくても、きわめて高い遺伝子導入効率が得られるという利点を有する。
【0084】
また本発明は、本発明のRNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化したレンチウイルスベクターが導入された気道上皮幹細胞、および該細胞の増殖および/または分化により生成した細胞に関する。
【0085】
本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターにより遺伝子導入した気道上皮幹細胞、および該気道幹細胞から分化させた細胞、組織、臓器等は、各種薬剤のアッセイやスクリーニングに有用である。例えば気道上皮幹細胞への遺伝子導入を通して、組織または細胞、特に好ましくは霊長類由来の組織または細胞の特異的分化を行なうための遺伝子や薬剤等の効果を評価したり、スクリーニングすることができる。
【0086】
また、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターが導入された気道上皮幹細胞、および気道上皮幹細胞から分化した分化細胞または分化組織も本発明の範囲に含まれる。分化細胞及び分化組織は、前記組織又は細胞に特異的なマーカーの発現、形態学的特徴の観察により同定することができる。
【0087】
また本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを用いることによって、効率よく、また長期間にわたって、気道上皮幹細胞に遺伝子を導入および発現させることが可能である。即ち本発明は、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを有効成分として含有する、気道上皮幹細胞用遺伝子導入剤に関する。例えば、上記気道上皮幹細胞用遺伝子導入剤の利用において、疾患治療に必要なタンパク質を供給するために、肺などの組織あるいは臓器を生産組織として利用しても構わない。
【0088】
また、上述のように本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターは、気道上皮幹細胞に長期に遺伝子導入が可能であることから、ヒトを含む霊長類の遺伝性呼吸器疾患の遺伝子治療にも応用が可能である。即ち本発明は、本発明のシュードタイプウイルスベクターを有効成分として含有する、遺伝性呼吸器疾患治療剤に関する。
【0089】
さらに本発明は、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを個体(例えば患者等)へ投与する工程を含む、遺伝性呼吸器疾患を予防または治療する方法に関する。本発明の予防もしくは治療方法における「個体」とは、好ましくはヒトを含む霊長類が挙げられるが、非ヒト動物であってもよい。本発明において「個体へ投与」とは、例えば、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを気道上皮細胞に接触させることにより実施することができる。下記実施例記載のように、当該ベクターを鼻腔にカテーテルを用いて投与することにより接触せしめることも可能である。
【0090】
さらに本発明は、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターの遺伝性呼吸器疾患治療剤の製造における使用に関する。なお対象となる遺伝性呼吸器疾患は特に制限されないが、好ましくは嚢胞性線維症を挙げることができる。
【0091】
また、遺伝子導入した気道上皮幹細胞から分化させた細胞、組織、臓器を疾患治療のために用いることも考えられる。例えば、遺伝子の欠損や不足によって発症する疾患に対して、気道幹細胞の染色体に当該遺伝子を導入し、これを体内に移植することによって欠損する遺伝子を補い、体循環する酵素、成長因子等の不足を補充する治療が考えられる。このような疾患に特に制限はない。また、臓器移植に関連する遺伝子治療に関しては、ヒト以外の動物ドナーの組織適合性抗原をヒト型に変えることが考えられる。これにより、異種移植の成功率を高める応用が可能となる。
【0092】
また、本発明のシュードタイプ化レンチウイルスベクターを用いて遺伝子を導入した気道上皮幹細胞がサル由来のものである場合は、当該気道上皮幹細胞を疾患モデルサルに移植することにより、ヒトの疾患の治療モデルとして有用な系を提供することができる。ヒトの疾患のモデルとして様々な疾患モデルサルが知られており、例えば、ヒトのパーキンソン病のモデルサルは人工的に作出可能であり、ヒトの糖尿病の忠実なモデルとして自然発症の糖尿病サルが多く飼育され、また、サルのSIV感染症がヒトのHIV感染症の忠実なモデルとしてよく知られている。このような疾患において、ヒト気道上皮幹細胞を用いた臨床応用を行う前に、前臨床試験としてサル気道上皮幹細胞を疾患モデルサルに移植する系は、非常に有用である。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。なお、本明細書に引用された文献は、全て本明細書の一部として組み込まれる。
【0094】
〔実施例1〕センダイウイルスエンベロープ蛋白発現プラスミドの構築
(1)細胞質側領域置換型HN発現プラスミドの構築
HN蛋白の細胞質側領域をSIVエンベロープ蛋白の細胞質側領域に置換したHN発現プラスミドを構築した(図1)。3組の合成オリゴヌクレオチド(Xho+Xma/Xma-Xho、Xma+131/135-Xma、132+Bam/Bam-136)をアニーリング後、順にpBluescript KS+ (Stratagene) のXhoI-BamHI部位へ組み込んだ。pCAGGS (Gene, vol.108, pp.193-200, 1991) のXhoI-Bsu36I部位に前記組み換えプラスミドをXhoIとDraIIIで切断した合成オリゴヌクレオチド連結断片を精製したもの、HN蛋白発現プラスミドpCAGGS-HNをDraIIIとBsu36Iで切断したHN蛋白3'側を含む断片を精製したものを組み込んだ。以上の方法により得られたプラスミドをSIV細胞質側領域置換型HN発現プラスミドpCAGGS-SIVct/HNとした。
【0095】
(2)SIV細胞質側領域付加型HN発現プラスミドの構築
SIVエンベロープ蛋白の細胞質側領域をHN蛋白に付加したHN発現プラスミドを構築した(図2)。SIVエンベロープ蛋白の細胞質側と一部のHN蛋白を含む領域を上記細胞質側領域置換型HN発現プラスミドをテンプレートとし、プライマーFSIVhnおよびRhnSIVを用いたPCRにより増幅した。増幅断片をXhoIおよびAccIにより切断後、上記(1)にて作製した3組の合成オリゴヌクレオチドを組み込んだpBluescript KS+(Stratagene)のXhoI-AccI部位へ組み、SIVエンベロープの細胞質側領域を含む断片と置換した。この組み換えプラスミドをXhoIとDraIIIで切断した合成オリゴヌクレオチド連結断片を精製したもの、HN蛋白発現プラスミドpCAGGS-HNをDraIIIとBsu36Iで切断したHN蛋白3’側を含む断片をpCAGGS(Gene,vol.108,pp.193-200,1991)のXhoI-Bsu36I部位に組み込んだ。以上の方法により得られたプラスミドをSIV細胞質側領域付加型HN発現プラスミドpCAGGS-SIVct+HNとした。
【0096】
(3)細胞質側領域欠失型F蛋白発現プラスミドの構築
F蛋白細胞質側領域のアミノ酸を5'側より27、14および4個残し、それぞれ15、28および38個のアミノ酸を欠失させたF蛋白発現プラスミドを構築した(図3)。F蛋白の全領域をpBluescript KS+ (Stratagene) のSmaI部位へ組み込んだプラスミドpBluescript KS+/SmaI/Fをテンプレートとし、15、28および38アミノ酸欠失型をそれぞれプライマーXhFFとNotF1650、NotF1611およびNotF1581を用いたPCRにより増幅した。増幅断片をXhoIおよびNotIにより切断後、pCAGGS (Gene, vol.108, pp.193-200, 1991) のEcoRI部位にXhoI/NotIリンカーを組み込んだプラスミドのXhoI-NotI部位に組み、プラスミド (15アミノ酸欠失型:pCAGGS-Fct27、28アミノ酸欠失型:pCAGGS-Fct14および38アミノ酸欠失型:pCAGGS-Fct4) を構築した。pCAGGS-Fct4をシュードタイプ化SIVベクターに使用した。
【0097】
(4)SIV細胞質側領域を付加した細胞質側領域欠失型F蛋白発現プラスミドの構築
細胞質側領域欠失型F蛋白 (F蛋白細胞質側領域のアミノ酸数は(3)で作製したプラスミドと同数) にSIV細胞質側領域5'側より11アミノ酸 (SIVct11) を付加したプラスミドを構築した(図4)。F蛋白の全領域をpBluescript KS+ (Stratagene) のSmaI部位へ組み込んだプラスミドpBluescript KS+/SmaI/Fをテンプレートとし、上記3種のアミノ酸欠失型にSIV細胞質側領域を付加したものをそれぞれプライマーXhFFとSA-F1650、SA-F1611およびSA-F1581を用いたPCRにより増幅した。増幅断片をXhoIおよびNotIにより切断後、pCAGGS (Gene, vol.108, pp.193-200, 1991) のEcoRI部位にXhoI/NotIリンカーを組み込んだプラスミドのXhoI-NotI部位に組み、プラスミド (SIVct11付加15アミノ酸欠失型:pCAGGS-Fct27/SIVct11、SIVct11付加28アミノ酸欠失型:pCAGGS-Fct14/SIVct11およびSIVct11付加38アミノ酸欠失型:pCAGGS-Fct4/SIVct11) を構築した。
【0098】
以下に、本実施例にて用いた各プライマーの塩基配列を示す。
FSIVhn: 5'-GAGACTCGAGATGTGGTCTGAGTTAAAAATCAGG-3'(配列番号:9)
RhnSIV: 5'-AGAGGTAGACCAGTACGAGTCACGTTTGCCCCTATCACCATCCCTAACCCTCTGTCCATAAAC-3'(配列番号:10)
XhFF: 5'-CCGCTCGAGCATGACAGCATATATCCAGAGA-3'(配列番号:11)
NotF1650: 5'-ATAGTTTAGCGGCCGCTCATCTGATCTTCGGCTCTAATGT-3'(配列番号:12)
NotF1611: 5'-ATAGTTTAGCGGCCGCTCAACGGTCATCTGGATTACCCAT-3'(配列番号:13)
NotF1581: 5'-ATAGTTTAGCGGCCGCTCACCTTCTGAGTCTATAAAGCAC-3'(配列番号:14)
SA-F1650: 5'-ATAGTTTAGCGGCCGCCTATGGAGATAGAGGAACATATCCCTGCCTAACCCTTCTGATCTTCGGCTCTAATGT-3'(配列番号:15)
SA-F1611: 5'-ATAGTTTAGCGGCCGCCTATGGAGATAGAGGAACATATCCCTGCCTAACCCTACGGTCATCTGGATTACCCAT-3'(配列番号:16)
SA-F1581: 5'-ATAGTTTAGCGGCCGCCTATGGAGATAGAGGAACATATCCCTGCCTAACCCTCCTTCTGAGTCTATAAAGCAC-3'(配列番号:17)
【0099】
その結果、天然のエンベロープタンパク質によるSIVのシュードタイプ化は不可能であったが、その細胞質領域の融合(F)およびヘムアグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)による改変によって、効率的なシュードタイピングが可能となった。GFP遺伝子を有するSeV-F/HNシュードタイプ化SIVベクターを、293T細胞における一過性のトランスフェクションによって産生して、VSG-Gシュードタイプベクターに関して通常用いられる技法を用いて遠心によって濃縮した。
【0100】
〔実施例2〕F/HNシュードタイプSIVベクターによるマウス鼻腔上皮細胞への遺伝子導入
eGFPを搭載したF/HNシュードタイプ化SIVベクター(n=3、一頭あたり4 x 10e8 TU; 100マイクロリットル)を細いカテーテルを用いてマウス鼻腔;左鼻孔に、pre-conditioningなしに、投与した。導入遺伝子の発現期間をDay-3からDay-360までとし、マウス鼻腔断面の解剖学的な解析はMeryら(Mery et al. Toxicol. Pathol. Vol. 22, p353-372, 1994)の方法に従った。マウス鼻骨先端から1 〜 4 mm (距離で1, 2, 3, 4 mmの断面) の鼻腔断面におけるGFP発現を評価した。
【0101】
その結果、効率的な形質導入および持続的なGFP発現が、前処理なしで、少なくとも160日間気道上皮細胞において認められた。Day-220でもDay-360でもeGFPの発現が持続していることが明らかになった。マウス鼻腔上皮細胞の寿命は90日以内(Borthwick et al. Am J. Respir. Cell Mol. Biol. Vol. 24, pp662-670, 2001)であることから、間接的な証拠として鼻腔気道組織幹細胞に遺伝子導入されていることが示唆された(図5〜7)。
【0102】
また図8に示すように、図8右(submucosal glandのようなniches(適所)に幹細胞がある場合)あるいは図8左(上皮細胞基底膜周辺に幹細胞が点在している場合)のいずれの場合も幹細胞は適所にとどまるが、分化した細胞は寿命の尽きた細胞と入れ替わるために上皮組織上を移動 (lateral movement) することが知られている(J. M. W. Slack Science Vol.. 287, p1431-1433, 2000)。そのためGFP陽性細胞は、Day-160でもDay-220でもDay-360でも鼻腔全体に散在して観察された。分化した細胞が移動しない場合には、幹細胞周辺に分化した上皮細胞が集合して観察されるはずである。実験結果は、lateral movementの前者の可能性を示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明者らによって、初めてマイナス鎖RNAウイルスであるセンダイウイルスのエンベロープ糖タンパク質F/HNでシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するための組み換えサル免疫不全ウイルスベクターが提供された。当該ベクターを用いることにより、長期的に且つ効率的に気道上皮幹細胞に遺伝子を導入することが可能であり、当該ベクターは、嚢胞性線維症のような遺伝性の呼吸器疾患を治療するために非常に価値があると考えられる。例えば外来遺伝子として、先天的、あるいは後天的に機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子(例えば嚢胞性線維症原因因子等)、あるいは遺伝性の疾患で機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子を本発明のベクターに発現可能に保持させることで、上記のような疾患を治療するために非常に有用であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAウイルスまたはDNAウイルスのスパイクタンパク質でシュードタイプ化されている、気道上皮幹細胞へ遺伝子を導入するためのレンチウイルスベクター。
【請求項2】
RNAウイルスが気道系組織に感染するRNAウイルスである、請求項1に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項3】
RNAウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、請求項1に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項4】
マイナス鎖RNAウイルスがパラミクソウイルスである、請求項3に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項5】
パラミクソウイルスがセンダイウイルスである、請求項4に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項6】
マイナス鎖RNAウイルスがオルソミクソウイルスである、請求項3に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項7】
オルソミクソウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項6に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項8】
マイナス鎖RNAウイルスがフィロウイルスである、請求項3に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項9】
フィロウイルスがエボラ出血熱ウイルスである、請求項8に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項10】
RNAウイルスがプラス鎖RNAウイルスである、請求項1に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項11】
プラス鎖RNAウイルスがコロナウイルスである、請求項10に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項12】
コロナウイルスがSARSコロナウイルスである、請求項11に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項13】
DNAウイルスが気道系組織に感染するDNAウイルスである、請求項1に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項14】
DNAウイルスがバキュロウイルスである、請求項13に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項15】
レンチウイルスベクターが組み換えサル免疫不全ウイルスベクターである、請求項1から14のいずれかに記載のレンチウイルスベクター。
【請求項16】
組み換えサル免疫不全ウイルスベクターがagm株由来である、請求項15に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項17】
組み換えサル免疫不全ウイルスベクターが自己不活性化型である、請求項15または16に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項18】
レンチウイルスベクターがウマ伝染性貧血ウイルスベクター、ヒト免疫不全ウイルス1ベクター、ヒト免疫不全ウイルス2ベクター、またはネコ免疫不全ウイルスベクターである、請求項1から14のいずれかに記載のレンチウイルスベクター。
【請求項19】
外来遺伝子を発現可能に保持する、請求項1から18のいずれかに記載のレンチウイルスベクター。
【請求項20】
外来遺伝子が、グリーン蛍光タンパク質、ベータ−ガラクトシダーゼおよびルシフェラーゼから選ばれるタンパク質をコードする遺伝子である、請求項19に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項21】
外来遺伝子が、先天的、あるいは後天的に機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子である、請求項19に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項22】
外来遺伝子が、先天的、あるいは後天的に機能不全になっている嚢胞性線維症(CF)原因因子をコードする遺伝子である、請求項19に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項23】
外来遺伝子が、先天的、あるいは後天的に機能不全になっているCFTRタンパク質をコードする遺伝子である、請求項19に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項24】
外来遺伝子が、嚢胞性線維症に対して治療効果のあるタンパク質をコードする遺伝子である、請求項19に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項25】
外来遺伝子が、遺伝性の疾患で機能不全になっているタンパク質をコードする遺伝子である、請求項19に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項26】
遺伝性の疾患で機能不全になっているタンパク質が、CFTRをコードする遺伝子である、請求項25に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項27】
請求項1から26のいずれかに記載のレンチウイルスベクターを、気道上皮細胞に接触させる工程を含む、気道上皮幹細胞に遺伝子を導入する方法。
【請求項28】
請求項1から26のいずれかに記載のレンチウイルスベクターが導入された気道上皮幹細胞。
【請求項29】
請求項1から26のいずれかに記載のレンチウイルスベクターを有効成分として含有する、気道上皮幹細胞用遺伝子導入剤。
【請求項30】
疾患治療に必要なタンパク質を供給するために、肺を生産組織として利用することを特徴とする、請求項29に記載の気道上皮幹細胞用遺伝子導入剤。
【請求項31】
請求項1から26のいずれかに記載のレンチウイルスベクターを有効成分として含有する、遺伝性呼吸器疾患治療剤。
【請求項32】
遺伝性呼吸器疾患が嚢胞性線維症である、請求項31に記載の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55941(P2013−55941A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−228651(P2012−228651)
【出願日】平成24年10月16日(2012.10.16)
【分割の表示】特願2007−542690(P2007−542690)の分割
【原出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(505048482)ディナベック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】