説明

SQUID磁束計及びグラジオメータのバランス調整方法

【課題】 第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイル間のバランス調整を容易にし、効率よく微弱磁場を検出することを可能としたSQUID磁束計及びグラジオメータのバランス調整方法を提供する。
【解決手段】 生体磁場から発生する磁束を、グラジオメータを介して入力するSQUID磁束計において、
同心円状のコイルボビンの軸方向に所定距離を隔てて巻回された第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルを有するグラジオメータと、
前記コイルボビン内において前記第1ピックアップコイルまたは第2ピックアップコイルに近接し、その位置が前記コイルボビン外から調整可能に配置された超伝導部材部材と、
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体磁場から発生する磁束を、グラジオメータを介して入力するSQUID磁束計及びグラジオメータのバランス調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳内の細胞活動で生成される磁場から発生する磁束を、をSQUID(Superconducting Quantum Interference Device)磁束計を用いて測定する脳磁計測システム、SQUID磁束計の構成、磁束を検出してSQUID磁束計に入力する、グラジオメータと呼ばれるノイズキャンセル機能を備えるピックアップコイル手段については、非特許文献1に詳細な技術開示がある。更に、バランス調整手段を具備する従来の同軸型1次グラジオメータの構成例については、特許文献1に技術開示がある。
【0003】
SQUID磁束計によれば、地磁気の10億分の1という極めて微弱な磁場を検出することが可能である。そのため脳磁のような微弱な磁場から発生する磁束を検出することが可能である。一方で、同様に外来磁場(外来ノイズ)の影響も受け易い。通常、SQUIDの使用環境下では、磁気シールドルーム(以下、MSR)が使用されるが、そのMSRで外来ノイズを遮蔽しても100%の遮蔽は見込めない。
【0004】
遮蔽を100%近傍にするためには、設置環境及びコストといった問題が発生する。そのため、外来ノイズを除去すると共に脳磁のような微弱な磁場からの磁束を検出してSQUID磁束計に入力する、グラジオメータと呼ばれるピックアップコイル手段が使用されている。
【0005】
図6は、従来のSQUID磁束計におけるグラジオメータの動作説明図であり、代表的な同軸型1次微分グラジオメータを示す。このグラジオメータは、第1ピックアップコイル10と、これより所定距離を隔てて同軸に配置された第2ピックアップコイル20を備えている。
【0006】
第1及び第2ピックアップコイル10及び20は、逆巻きに巻いて直列接続され、SQUID磁束計30に入力されている。このために、第1及び第2ピックアップコイル10及び20の両方を同時に通過する外来ノイズによる磁束Φ2がキャンセルされ、第1ピックアップコイル10だけを通過する、このピックアップコイルの近傍にあるダイポールD(磁場源)からの磁束Φ1のみを感知してSQUID磁束計30に渡すことができる。
【0007】
【非特許文献1】横河技報Vol.44 No.3 P151-154 「脳磁計測システムMEGvision」
【特許文献1】特開平5−045432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図7は、従来のSQUID磁束計におけるグラジオメータの課題を説明する模式図である。図7(A)に示すように、第1ピックアップコイル10及び第2ピックアップコイル20の面積、傾き(以下、バランスという)が同一であれば、第1ピックアップコイル10及び第2ピックアップコイル20を共通に通過する磁束Φ2は論理的にはキャンセルすることが可能であり、極めて微弱な信号を検出することが可能となる。
【0009】
しかしながら、現実の設計では、図7(B)のように第1ピックアップコイル10及び第2ピックアップコイル20の傾きに不並行があり、更に図7(C)のように第1ピックアップコイル10及び第2ピックアップコイル20の径に誤差があるので、磁束Φ2のキャンセルを理想的に実施することができず、検出感度に限界が生じる。
【0010】
現在、第1及び第2ピックアップコイルのバランス改善手法が色々検討されているが(薄膜で作製したり等)、立体構造をしているこの同軸型一次微分グラジオメータでは、理想的なバランスを備えるグラジオメータの作製は不可能である。
【0011】
現在は、機械精度で凹に削られた溝に第1及び第2ピックアップコイルの線を人手で巻きつけているため、バランスの精度は機械精度に頼られた状態である。また、このグラジオメータは、極低温中(LHe4.2k)にあるため、常温中で調整しようとしても、その調整棒の侵入熱等によりLHeが蒸発してしまい、調整は容易ではない。
【0012】
図8は、特許文献1に開示されているグラジオメータの縦断面図である。コイルボビン40に所定距離を隔てて巻回された第1ピックアップコイル10及び第2ピックアップコイル20間の空間内に超伝導部材50を配置し、これにヒータ手段60を接触させ、外部からの電流Iでこれを発熱させることで超伝導部材50を部分的に常温化させ、第1ピックアップコイル10と第2ピックアップコイル20のバランス調整を実行する。
【0013】
このような調整手法では、極低温環境のコイルボビン40内にヒータ手段60を備える超伝導部材50を配置する必要があり、ピックアップコイルの内部構造が複雑であり、コスト的にも問題がある。
【0014】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイル間のバランス調整を容易にし、効率よく微弱磁場を検出することを可能としたSQUID磁束計及びグラジオメータのバランス調整方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1)生体磁場から発生する磁束を、グラジオメータを介して入力するSQUID磁束計において、
同心円状のコイルボビンの軸方向に所定距離を隔てて巻回された第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルを有するグラジオメータと、
前記コイルボビン内において前記第1ピックアップコイルまたは第2ピックアップコイルに近接し、その位置が前記コイルボビン外から調整可能に配置された超伝導部材部材と、
を備えることを特徴とするSQUID磁束計。
【0016】
(2)前記第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルは、その断面積が互いに異なる形状を備えることを特徴とする(1)に記載のSQUID磁束計。
【0017】
(3)前記超伝導部材は、前記第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルの一方に近接して固定位置された第1超伝導部材及び他方に近接してその位置が前記コイルボビン外から調整可能に配置された第2超伝導部材を備えることを特徴とする(1)に記載のSQUID磁束計。
【0018】
(4)前記超伝導部材は、その位置が前記コイルボビンに螺合する非磁性材の調整ネジにより前記コイルボビン外から調整可能に配置されていることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のSQUID磁束計。
【0019】
(5)前記超伝導部材は、前記コイルボビン内においてその軸方向に移動調整されることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のSQUID磁束計。
【0020】
(6)前記超伝導部材は、前記コイルボビン内においてその直径向に移動調整されることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のSQUID磁束計。
【0021】
(7)前記グラジオメータを交番磁界中に配置して第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルのバランスの狂いを計測するステップと、
前記超伝導部材の位置と前記バランスとの関係を予め計測するステップと、
常温環境において、前記計測により取得されたデータに基づいて、前記超伝導部材を前記調整ネジの回転または角度により位置決めするステップと、
を備えることを特徴とするグラジオメータのバランス調整方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の構成によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)位置調整可能な超伝導部材を、ピックアップコイルの微分効率の高い点に配置させることにより、磁場を検知する微妙なコイルの面積比を調整することができる。
【0023】
(2)その結果、遠方から来る環境磁界が効率よく除去できるため、信号対雑音比が高くなり脳磁のような微弱な磁場を検出することが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。図1は、本発明を適用したSQUID磁束計の基本構成を説明する模式図である。図1(A)の第1ピックアップコイル101及び第2ピックアップコイル102は、同一断面積Aを備えるものであり、図7(A)で説明した従来構成と同一である。
【0025】
図1(B)は、本発明構成の第1の特徴を示すものであり、第2ピックアップコイル102´は、図1(A)に示した第2ピックアップコイル102の断面積よりは大の断面積A´を備えている。
【0026】
図1(C)は、本発明構成の第2の特徴を示すものであり、第2ピックアップコイル102´に近接して配置された超伝導部材200の位置が、外部よりコイルの直径方向または軸方向に調整可能に配置されている。
【0027】
本発明は、超伝導部材の特徴であるマイスナー効果を利用し、第2ピックアップコイル102´に入る磁束の量を制御し、第1ピックアップコイル101及び第2ピックアップコイル102´間のバランスを調整しようとするものである。
【0028】
従来の技術では機械精度で凹に削られたコイルコイルボビンの溝に、第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルの面積、傾きを同じになるように線(コイル)を手巻きしていた。そのためバランスの良し悪しは機械精度(凹状に削るための、バイト精度など)に頼っていた。
【0029】
本発明では、図1(C)に示すように、第2ピックアップコイル102´のコイル面積を、第1ピックアップコイル101より意図的に大きくし、第2ピックアップコイル102´に入る磁束の量を超伝導部材のマイスナー効果を利用して調整する。
【0030】
図2は、本発明を適用したSQUID磁束計の動作説明図である。コイル面積を第1ピックアップコイル101よりは大に設計された第2ピックアップコイル102´に入力される一部の磁束Φ3は、超伝導部材200のマイスナー効果により第2ピックアップコイル102´をバイパスするように曲げられるので、超伝導部材200の位置調整により、第1ピックアップコイル101と第2ピックアップコイル102´を共に通過するノイズ磁束Φ2を高精度で一致させる調整が可能となる。
【0031】
図3(A)及び(B)は、本発明を適用したグラジオメータの一実施形態を示す斜視図及び縦断面図である。コイルボビン300内に配置された超伝導部材200の位置を調整するには、コイルボビン外部より非磁性材の調整ネジ400を使用して超伝導部材200をコイルコイルボビン300の直径方向に可変させる。
【0032】
調整ネジ400は、非磁性材のネジではなく超伝導体のネジを使用してもよい。この場合の超伝導部材は、例えばNb(ニオブ)の小片がよい。超伝導部材200は、この実施形態では直径方向に可変させる。尚、超伝導部材200の移動方向は、コイルボビン300の軸方向に可変させるようにしてもよい。
【0033】
更に、この調整ネジ400の可変量、つまり、超伝導部材200とコイルコイルボビン300との相互位置及び第2ピックアップコイル102´のバランスの関係を事前に値づけしておけば、調整が難しい極低温中ではなく、常温中でのバランス調整が可能となる。
【0034】
調整の手順としては、まずヘルムホルツコイルなどの均一性の高いコイル中にグラジオメータを設置して交番磁界を印加し、そのとき出てくる信号を検知する。次に、グラジオメータを常温に戻し、予め求めた超伝導部材200と第2ピックアップコイル102´の相互位置と、微分コイルのバランスの関係から、最も微分効率が高くなるネジの押し出し量を決定し、超伝導部材200の位置決めをすればよい。
【0035】
なお、均一性の高い磁場としては、ヘルムホルツコイルばかりでなく、遠方に設置したコイル、あるいはシングルターンの大型コイル、有限長ソレノイドコイル等で形成される磁場を利用することができる。
【0036】
図4は、本発明が適用可能な各種のグラジオメータの模式図である。本発明の応用として、測定対象物に対し色々な検出コイルがあるが、図4(A)乃至図4(D)の各種形態のグラジオメータ全てに使用でき、応用分野も広がる。
【0037】
尚、図4(A)の平面型のグラジオメータに適用すれば、コイルの実効的な面積を制御できるので、マグネトメータ間の感度バラツキを抑制できるため、任意のコイル間の差分をとって、効率よく信号を拾うことができるという長所がある。
【0038】
図5は、本発明を適用したグラジオメータの他の実施形態を示す縦断面図である。グラジオメータのコイル101と102の中間のコイルボビン300内に超伝導部材の小片200を置いて、外部よりボールネジによる調整手段600を用いて位置の微調整を行う手法である。
【0039】
この場合、コイルボビン300の中の中央付近にニオブネジを設置しておき、コイルバランスの測定結果に合わせてネジ位置を微調整すればよく、コイルの大きさを予めアンバランスにしておかなくてもよい。コイルバランスを計測した結果、製造工程のバラツキから混入するコイルバランスのずれがなければ、調整工程を省略できるという利点がある。
【0040】
複数のピックアップコイルを備えるSQUID磁束計において、ピックアップコイルの1つの近傍に、予め超伝導体部材を設置して実効的にそのコイルをアンバランスにしておき、もう一方のコイルの近傍に位置調整可能な超伝導部材を配置する実施形態を取ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用したSQUID磁束計の基本構成を説明する模式図である。
【図2】本発明を適用したSQUID磁束計の動作説明図である。
【図3】本発明を適用したグラジオメータの一実施形態を示す斜視図及び縦断面図である。
【図4】本発明が適用可能な各種のグラジオメータの模式図である。
【図5】本発明を適用したグラジオメータの他の実施形態を示す縦断面図である。
【図6】従来のSQUID磁束計におけるグラジオメータの動作説明図である。
【図7】従来のSQUID磁束計におけるグラジオメータの課題を説明する模式図である。
【図8】特許文献1に開示されているグラジオメータの縦断面図である。
【符号の説明】
【0042】
30 SQUID磁束計
101 第1ピックアップコイル
102´ 第2ピックアップコイル
200 超伝導部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体磁場から発生する磁束を、グラジオメータを介して入力するSQUID磁束計において、
同心円状のコイルボビンの軸方向に所定距離を隔てて巻回された第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルを有するグラジオメータと、
前記コイルボビン内において前記第1ピックアップコイルまたは第2ピックアップコイルに近接し、その位置が前記コイルボビン外から調整可能に配置された超伝導部材部材と、
を備えることを特徴とするSQUID磁束計。
【請求項2】
前記第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルは、その断面積が互いに異なる形状を備えることを特徴とする請求項1に記載のSQUID磁束計。
【請求項3】
前記超伝導部材は、前記第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルの一方に近接して固定位置された第1超伝導部材及び他方に近接してその位置が前記コイルボビン外から調整可能に配置された第2超伝導部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のSQUID磁束計。
【請求項4】
前記超伝導部材は、その位置が前記コイルボビンに螺合する非磁性材の調整ネジにより前記コイルボビン外から調整可能に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のSQUID磁束計。
【請求項5】
前記超伝導部材は、前記コイルボビン内においてその軸方向に移動調整されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のSQUID磁束計。
【請求項6】
前記超伝導部材は、前記コイルボビン内においてその直径向に移動調整されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のSQUID磁束計。
【請求項7】
前記グラジオメータを交番磁界中に配置して第1ピックアップコイル及び第2ピックアップコイルのバランスの狂いを計測するステップと、
前記超伝導部材の位置と前記バランスとの関係を予め計測するステップと、
常温環境において、前記計測により取得されたデータに基づいて、前記超伝導部材を前記調整ネジの回転または角度により位置決めするステップと、
を備えることを特徴とするグラジオメータのバランス調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−148578(P2010−148578A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327803(P2008−327803)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】