説明

STED光シートを用いるSPIM顕微鏡

【課題】STED光シートを用いるSPIM顕微鏡を提供する。
【解決手段】y方向の照明光源とz方向検出光カメラとを有するSPIM顕微鏡(選択的面結像顕微鏡)が開示される。xスキャナは、x方向に照明光線を走査することによって、連続的な光シートを生成する。STED失活光線を選択的にオンにすることによって、光シートを選択的に、より薄くすることができ、したがって、光学解像度を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光線をy方向から画像化対象の物体へと送る光源と、物体から発せられる蛍光および/または反射光として発せられる光を、第一の検出方向としてz方向に検出するカメラと、を備え、z方向はy方向に対して略垂直に延びるSPIM顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
特に、生体試料の分析は、素早く、かつ試料を損傷せずに行うべきである。多くの用途において、三次元画像を生成することが有益である。特に照明光が蛍光を励起するための励起光の役割を果たす蛍光顕微鏡の分野においては、照明光と試料との相互作用による散乱アーチファクトと吸収アーチファクトを回避するべきである。
【0003】
顕微鏡用試料を、高速で、損傷を与えずに、高い解像度で分析するためには、いわゆるSPIM(選択的平面照明顕微鏡若しくは選択的面結像顕微鏡)法が特に適しており、この技術においては、照明光が光シートを生成し、その一方で、蛍光と反射によって生成される検出光が、カメラによって、照明方向と比較して垂直な方向に検出される。
【0004】
光シートは、略長方形の断面を有する照明対象域(illumination volume)であり、この断面は、第一の断面方向(ここではz方向)には非常に薄く、第二の断面方向(ここではx方向)には、第一の断面方向と比較して有意に大きい。照明方向(ここではy方向)は、第一の断面方向(ここではz方向)に対して略垂直かつ、第二の断面方向(ここではx方向)に対して略垂直に延びる。光シートは、円柱レンズによって合焦され、光シートの焦点または焦点距離は、照明方向(ここではy方向)に延びる特定の範囲と理解するものとし、この範囲で光シートは特に薄く、それによって、照明される対象域(volume)がシートの形状を有し、すなわちz方向に非常に薄く、x方向とy方向にははるかに大きい。
【0005】
円柱レンズを用いる先行技術のSPIM法による光シートの生成には、システムの柔軟性が非常に低いという欠点があり、たとえば焦点が固定され、したがって照明される対象域も予め決定される。高解像度とするためには、非常に薄くて長い焦点が有利である。この焦点を走査して、試料についての一方向の三次元画像を得ることができる。長さが長くなると幅も広くなるため、z方向の解像度が低下する。これは、照明光学系に低い開口数を選択することによって焦点を長くすると、照明対象域の厚さも厚くなることを意味する。これは、検出方向への光軸に沿った光学解像度も同様に低下することを意味する。実際の用途に応じて、矛盾する目的が生じる。すなわち、照明光の浸透深度を深くするべきである場合は、長い焦点が必要であるが、これによって光シートが厚くなり、したがって解像度が低下する。焦点は、照明光学系の開口数を小さくすると長くなる。
【0006】
照明光の浸透深度を深くし、同時にまた、解像度を高くすることが望ましいこととは別に、一般に、照明対象域に変更を加える柔軟性があることもまた望ましい。たとえば、用途によっては、より大きな照明対象域が必要かもしれず、たとえば、物体の特定の対象域の中で起こる化学反応を観察する場合等である。これに対して、より小さな照明対象域もまた望ましいかもしれず、これは特に、たとえば物体内の拡散速度を測定するために、たとえばより明確に画定される層または平面を持たせるために、より薄い光シートによって得られる、より薄い照明対象域である。
【0007】
本発明の目的は、冒頭に記した顕微鏡の柔軟性を改善し、特に、照明対象域を選択する際の柔軟性を改善して、使用する顕微鏡の種類を選択する際の柔軟性を改善することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記の目的は、x方向に照明光線を走査することによって、連続的光シートを生成する第一のxスキャナであって、x方向はy方向とz方向に対して略垂直に延び、光シートがx方向とy方向によって画定される平面内で連続的に形成される第一のxスキャナと、y方向から少なくとも1つの失活光線(deactivation light beam)を物体へと送り、連続的に生成された光シートをz方向により薄くする失活光源(deactivation light source)であって、失活光線が、少なくとも照明光線に関してz方向にずれた地点で最大強度を有し、x方向に走査されるその照明光線に平行に延びる失活光源によって達成される。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によれば、失活光線変調器が提供され、これは、失活光線を、その断面がz方向に少なくとも2つの最大強度を有し、それらの間に励起光線の中心に位置付けられるゼロ地点があるように変調するようになされている。別の例において、失活光線を失活光線のサイドローブ(周辺最強部)もまた失活されるように変調することもできる。この場合、励起光線のサイドローブのピークが失活光線のピークと一致すれば有利である。励起光線は、より強力なサイドローブが生成されるように変調することが可能である。これによって主要最強部をより長く、より薄くすることができる。サイドローブ(周辺最強部)がより強力であると、失活しない場合、z方向への解像度が低下する。しかしながら、周辺最強部を失活すれば、解像度は増大する。
【0010】
さらに、「可変音響式屈折率分布型レンズ(Tunable Acoustic Gradient Index of Refraction Lenses)」、略してTAGレンズを使用することができ、これによって、励起光線の変調をさまざまに選択できることになる。このようなTAGレンズを用いれば、別の方法でベッセルビームを生成できる。このようなTAGレンズでは、光屈折流体が円形の圧電素子の中に入れられ、交流電流によって励起されて、交番の屈折率を生成する。励起信号の振幅と周波数の変化によって、透過パターンを高速で変化させることができる。実現可能な切り替え速度は、切り替え動作の間の、安定したパターンを確立するのに必要な時間によって決まり、これは主として流体の粘度に依存する。流体粘度が640csから0.65csの場合、300から2000μsの切り替え速度が可能である。
【0011】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、位相板が提供され、これは失活光線を変調するようになされている。より薄い光シートを生成する側でのみ励起が狭められるように失活光線を変調するべきである場合、1枚の位相板で十分である。しかしながら、別の例では、すべての側の各々の励起点を、たとえばボルテックスフィルタや円形位相板によって狭めることも可能であり、または2枚の位相板を設置し、相互に関して90°の角度で配置して、x方向(走査方向)とz方向(連続的に生成される光シートの厚さ)の両方において狭めることが可能である。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、励起光線をベッセルビームに変調するための励起光線変調器を提供することができる。
【0013】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、励起光線変調器は、可変音響式屈折率分布型(Tunable Acoustic Gradient Index of Refraction)(TAG)レンズである。これに加えて、多光子励起は、変調された励起光線のサイドローブの励起可能性が連続光での励起(連続波、すなわちCW励起とも呼ばれる)の場合の10の2乗分の1しかなく、したがって検出時の背景がより少なくなるという利点を有する。特に、連続光による励起の場合、励起光線のサイドローブを抑制するための失活光線の変調が有益な場合があり、失活光線も同様にTAGレンズによって変調することができる。
【0014】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、励起光線変調器はアキシコン(Axicon)である。
【0015】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの音響光学素子が提供され、これによって、少なくとも、励起光線を変調することができる。
【0016】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、音響光学素子は音響光学偏向器(AOD,Acousto Optical Deflector)である。AODによって、たとえば走査機能を提供するために、照明光線を偏向させることができる。別の例において、走査機能を提供するために、AODの代わりに検流計を設置することができる。
【0017】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、音響光学素子は、励起光線の波長を選択し、その強度を調整するための音響光学可変フィルタ(AOTF,Acousto Optical Tunable Filter)である。AOTFにより提供される特別な利点は、その二重の機能を果たす、すなわち強度と波長の両方を調整できることである。特に、強度はAOTFによって広い限度内で制御することができ、すなわち、AOTFの出力側での出力強度は、入力強度のほとんど100%まで調整でき、かつ入力強度の千分の数強度程度の低さまで制御できる。
【0018】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、失活光線の波長は一定である。これには、たとえばAOTFによって失活光線の波長を変調する必要がないという利点がある。この目的のために、マルチカラー蛍光顕微鏡において、好ましくは、異なる励起波長を有するが、一つの同じ失活波長で失活させることが可能な染料が選択される。
【0019】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、励起光線と失活光線の強度を選択するための、少なくとも1つの強度コントローラが提供される。
【0020】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、強度コントローラは音響光学素子を含む。
【0021】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、スイッチが提供され、これは、失活光線を追加しない通常のSPIMモードである第一の動作モードと、それに加えて失活光線がオンにされるSPIMプラスSTEDモードである第二の動作モードとを切り替えるようになされている。
【0022】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、スイッチは、前記第一の動作モードと前記第二の動作モードの間で永久的な選択を行うようになされている。
【0023】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、スイッチは、前記第一の動作モードと前記第二の動作モードとを特定の切り替え周期で自動的に切り替えるようになされている。
【0024】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、画像処理ユニットが提供され、これは、切り替え周期を用いて第一の動作モードと第二の動作モードでカメラによって第一の検出方向に検出される検出光を2つのデータストリームに分離して、第一の動作モードによる画像と第二の動作モードによる画像を同時に生成する。
【0025】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、照明光学系が提供され、これは励起光線の経路内に設置され、複数のレンズ集合を含む光学ズームを備え、レンズ集合は相互に関して機械的に移動されて、開口数を変化させ、したがって連続的に生成された光シートの焦点を拡張または短縮し、したがって物体内で光シートにより照明されるy照明方向への視野の長さを拡張または短縮する。照明光学系は、好ましくは、照明対物レンズを備える。柔軟性のある光学ズームユニットによって、光シートの長さ(y方向とz方向)を調整できる。薄い層だけを照明するべきである場合はズーム光学系の開口数を大きくするが、その結果、光シートの使用可能な長さは短くなる。本発明は、このような目標の相反を克服するために、STED光線による失活を追加することによって光シートを薄くし、したがって照明対象域を薄くするもので、それによって、同時に、長い焦点を有し、また、薄い、連続的に生成される光シートが得られる。一連の画像は、z方向に沿って高い解像度で撮影することができる。ズーム光学系の光学パラメータがわかっているため、適当な画像処理を選択することによって、その領域だけを使って合成し、高解像度の画像を提供することができる。
【0026】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、光検出器が提供され、これは、物体から発生される蛍光および/または反射検出光を、x方向と反対の第二の検出方向に検出する。光検出器は一般に、カメラより高速であるが、位置推定を行えないものの、これは絶対的に必要なことではなく、それは、多光子照明光線を介して位置推定を実現できるからである。特に、多光子照明の場合、これは容易に実現でき、この種の照明では、ある時点で物体の中のどの特定の対象域部分が照明されたかがほとんど正確にわかり、考えうるあらゆる方向からの信号検出光を走査できるからである。
【0027】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、SPIM法の適用によってz方向に検出される二次元広視野画像と平行して、物体の一次元共焦点画像も生成され、これはx方向に延びる直線である。二次元画像は、前述のように光シートによって照明され、ズーム光学系により変更された照明面を画像化しており、同時に、それと平行して、いわゆるx−t画像が生成され、これはすなわち、特に生体試料において、たとえば分子またはその他の細胞部分(細胞小器官)の拡散を介して、物体内の特定の要素の移動速度に関する情報を提供する直線画像である。
【0028】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、zスキャナが提供され、これは、物体をz方向に移動させて、z方向に相互に離間された連続する数枚の光シートを生成し、したがって、数枚の照明面を提供し、各光シートとカメラの間の距離は一定に保たれる。利点は、照明光学系全体のほか、選択的にオンにすることのできるSPIM検出光学系と共焦点検出光学系を、これに加えて同じ位置のままにしておくことができることと、さらに、照明光線をスキャナによってz方向に偏向させる必要がなく、その結果、照明光学系が単純となることである。別の例においては、しかしながら、照明光学系を移動させるか、または、たとえば音響光学偏向器(AOD)または検流計によって照明光線をz方向に偏向させることも可能である。この場合、好ましくは、SPIM検出光学系を照明に追従させて移動し、そのためには、SPIM検出光学系の対物レンズの位置を変えるか、カメラを含めたSPIM検出光学系全体を移動させればよい。
【0029】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、スイッチが提供され、これは、以下の動作モードの間で切り替えるようになされている。
i)y照明方向と反対の検出光の共焦点検出、
ii)z方向への広視野検出光のSPIM検出、
iii)z方向への広視野検出光の多光子検出、
iv)上記の共焦点検出とスピン検出(spin detection)の同時検出、
v)上記の共焦点検出と多光子検出の同時検出。
【0030】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、動作モードi)〜v)は、STED失活光線を追加でオンにしたり、しなかったりすることにより、選択的に実行できる。オンまたはオフの切り替えは、線ごとに、または画素ごとにさえも行うことができ、データストリームは分離できる。これによって、異なる照明対象域を画像化した2つの異なる画像を生成することができる。これらの画像はまた、オーバーレイによって合成することもでき、これはたとえば、より大きな照明対象域内の化学反応を観察するため、しかし同時にまた、より小さな照明対象域内であるが、たとえば二次元FCS(蛍光相関分光法)を通じて可能な場合のように、より高い精度で拡散速度を検出するためにも利用できる。
【0031】
以下に、本発明を、図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】先行技術によるSPIM法の基本原理を示す概略斜視図である。
【図2】先行技術によるSPIM法による照明光線の経路と検出光線の経路の概略図である。
【図3】先行技術によるSTED原理もまた示す概略図である。
【図4】本発明による顕微鏡の概略図である。
【図5】位相板によるSTED失活光線の変調を示す概略図である。
【図6】図4に示される本発明による顕微鏡をx走査方向に見た概略図であり、励起光線、失活光線および検出光線の経路が含まれる。
【図7】図6に示される顕微鏡をy照明方向に見た概略図である。
【図8a】座標x、y、zとした、励起光線の断面のほか、これに関係する強度分布である。
【図8b】座標x、y、zとした、励起光線と失活光線との比較のほか、x方向への走査によって生成される連続光シートおよび強度分布である。
【図9】多光子信号を検出するためにSPIM検出光学系を追加で使用する、本発明の他の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、先行技術によるSPIM顕微鏡の原理を簡潔に示しており、この顕微鏡は「選択的面結像(Selective Plane Imaging)」法の原理に基づいて動作する。照明はy方向に、物体の特定の物体面を照明する光シートによって行われる。検出方向は、光シート1に対して略垂直に、すなわちz方向に延び、検出光の検出は対物レンズ3によって行われる。図1に示されるように、光シート1は、z方向に高い解像度を得るために、内側部分の範囲にわたり特に薄くあるべきである。高い解像度は、光シート1が物体内で狭い焦点を有する場合に得られる。
【0034】
以下により詳しく説明するように、この焦点距離は変更することができ、画像化される視野はより大きくなるが、焦点の鮮鋭さが低下し、したがって光シート1の狭さが低下し、したがってz方向への画像の解像度が低下する。具体的な用途によっては、z方向への解像度は低いが、同時に、より厚い光シートに基づく、より大きな視野とより大きな画像化対象域を得ることが有益かもしれない。より大きな画像化対象域はまた、生成された画像でも画像の中の関心対象物をよく見ることができれば有益かもしれないが、同時に、より大きな画像化対象域とすることは、画像化された対象域の中に関心対象物が確かに含まれていることを確認しやすいという利点を有する。その後、関心対象物について、はるかに高解像度の画像を生成するべきであれば、ズーム光学系によって連続的な光シート1の焦点を操作して、焦点をより小さく、しかしより鮮鋭にすることが可能である。
【0035】
共焦点走査顕微鏡と異なり、SPIM法によりz方向の検出光を検出するには、SPIM法が広視野顕微鏡法であることから、検出された光の位置推定が必要である。位置推定は一般に、カメラ、たとえばCCDカメラまたはCMOSカメラによって行われる。物体の三次元画像をSPIM法で生成すべき場合、光シート1または物体をz方向に走査でき、さまざまな照明面で得られた画像を合成して、三次元画像を生成することができる。この画像処理はまた、この場合はz方向の「レンダリング」と呼ばれる。
【0036】
図2は、SPIM顕微鏡の先行技術による照明光線の経路を概略的に示す。レーザ4は照明光線5を生成し、これがビームエキスパンダを通じてコリメートレンズ6に送られ、その後円柱レンズ7によって引き継がれて、光シート1が物体に合焦される。対物レンズは検出光を集光し、これをカメラ9に向ける。光シートの焦点は、レンズ集合の中の要素を移動させることによって変更することができ、この図2による、ごく単純化された例においては、円柱レンズ7をコリメートレンズ6に関して移動させることによる。
【0037】
本発明によれば、光シート1は、これに加えてSTED(Stimulated Emmision Depletion(誘導放出抑制))失活光線をオンにすることによってさらに狭めることができ、すなわち、より薄くしてz方向への解像度を高めることができる。先行技術から知られているSTED顕微鏡の基本構造を図3に示す。励起光線31と失活光線32は、ビームコンバイナによって、この実施形態においてはたとえばダイクロイックフィルタによって合成されて、統合光線経路34として対物レンズ3を通って物体2へと向けられる。それらの間には、いくつかのその他の光学素子、たとえばレンズ、光伝導ファイバまたはカラーフィルタ等を設置できる。失活光線は一般に、その強度分布において変調され、これはたとえば、図5に関して以下に説明するような位相板によって実現できるが、その目的のために特に構成されたレンズによっても実現可能である。変調は、失活光線がその中心においてゼロ地点を有するように実行することができ、これは、強度がゼロ地点においてゼロであるか、または非常に低く、このゼロ地点の周囲に、均一の環状の強度最大値が得られることを意味する。蛍光顕微鏡で使用される染料は、特定の励起波長と失活波長で反応して、特によく蛍光を励起し、または蛍光を失活させる。一般に、励起波長と失活波長は相互に異なり、励起光線と失活光線は相互に関して時間的に遅延されて物体に送られる。これはパルスSTEDと呼ばれるが、ハイブリッド版も利用可能であることが明らかとなっている。
・パルス励起と遅延パルス失活
・CW(連続波)励起とCW失活
・パルス励起とCW失活
・パルスMP(多光子)励起とパルス失活
・パルスMP(多光子)励起とCW失活
【0038】
励起により、特定の大きさの画像点を励起して、蛍光を発生させることができ、その一方で、その直後に、励起の中心の周囲で失活を適用することができ、それによって物体2のこの画像点から発せられた蛍光を狭めて小さな画像点とし、したがって解像度を改善することができる。マルチカラー蛍光顕微鏡では、さまざまな異なる染料を使用でき、これらは異なる励起波長によって相互に区別され、すなわちさまざまな波長の励起光によって、蛍光を発生するために特に強力な励起を行うことができる。好ましくは、染料は、これらが共通の同じ失活波長で失活でき、さまざまな失活波長を供給する必要がなくなるような組み合わせで選択することができる。
【0039】
対物レンズ3を通って物体から送り戻される検出光35は、ビームスプリッタ、この場合は同様にダイクロイックミラー37によって、レンズと適当な開口38を通って送られ、光検出器36への散乱光を除去することができる。
【0040】
STED顕微鏡の基本構造を示す図3の例において、励起光線と失活光線は、統合された光線経路へと合成される。検出光線の経路は、ある範囲にわたって、励起光線と失活光線と同軸的であるが、これらに関して反対方向に延び、その後、検出光線がダイクロイックミラー37によって光検出器36へと側方へと分離される地点に至る。このような構成は特にコンパクトであるが、理解すべき点として、失活光線はまた、別の失活光線光学系から送ることもでき、それによって、照明光学系とは無関係に、失活光線の変調をより柔軟に行うことができる。
【0041】
位相板39による失活光線40の変調を図5に示す。位相と強度分布はどちらも、このような位相板39によって変調可能である。この目的のために、位相板は、失活光線40は変調されるが、励起光線41は変調されないように設計され、すなわち、変調は、励起光線41と比較して失活光線40については異なる波長に依存する。
【0042】
図4は、本発明によるSPIM顕微鏡の概略的構造を示しており、照明光線の経路は参照番号10で示され、SPIM検出光線の経路は参照番号11で示される。照明光学系の光線経路10は、これに加えて共焦点検出光線の経路の機能も有するが、これは照明方向と比較して反対方向に延びる。
【0043】
まず、照明光学系の光線経路について説明する。レーザ4が発生する照明光はスキャナ12を介してズーム光学系13に送られる。スキャナ12は、物体2を照明するための連続的な光シート1を生成する。光シート1を連続的に生成するために、照明レーザ光線はx方向、すなわち図4によれば、それぞれ図の平面から出る、または図の平面に入る方向に走査される。レーザ光線は、たとえば、円形の断面を有するが、別の例においては、その断面形状が変調されてもよく、たとえば、楕円の断面にして、楕円の断面の長軸がx方向に延びるようにしてもよい。同様に、照明光線の経路は、たとえば長方形とすることができ、あるいはその他どのような形状にしてもよい。
【0044】
SPIM検出光線の経路11はz方向、すなわち照明光線の経路10が延びるy方向に対して略垂直に延びる。照明ビーム光線の経路と検出光線の経路との垂直の関係を若干ずらすことが有利かもしれず、たとえば、2つの経路の間で90°より小さい、または大きい角度を、たとえば物体内の部分または粒子のための背景照明を提供するため等に選択することができる。たとえばmSPIM法として知られているように、異なる角度から画像を検出して、その後、これらを合成することが可能である。以下に、説明を簡単にするために、長方形の関係について説明するが、理解するべき点として、ずれた角度も包含され、これはしかしながら、多かれ少なかれ90°に近いと理解されるべきである。反射または蛍光発生のいずれかによって物体2から発せられた検出光は、対物レンズ3によって集光される。特に、マルチカラー検出の場合、カラーフィルタ14が対物レンズの下流に設置され、特定の波長の検出光がフィルタにかけられ、この光は次に、管状レンズ15を介して、カメラ16、たとえばCCDカメラ16に向けられる。
【0045】
追加のレーザ46が設置され、特定の波長の失活光を生成する。失活光の波長は、励起光の波長とは異なる。一般に、失活光は励起光より長い波長を有する。マルチカラー顕微鏡の場合、異なる励起波長を有するが、だいたい同じ失活波長を有する染料が選択される。これには、失活波長を発生するために、その失活波長そのものを生成するレーザを1つだけ設ければよく、その波長の変調が不要であり、波長変調のためのコストを削減でき、たとえば音響光学素子(AOTF)が不要となり、それぞれAOTFを駆動するための周波数発生器も不要となるという利点がある。STEDの場合、約20の染料が知られており、たとえば590nmの波長での励起と600nmの波長での失活、あるいは400nmの波長での励起、532nmの波長での失活が知られている。励起と失活はどちらも、周波数のほか、強度に関して、AOTFによって調整可能である。
【0046】
図3に関連してすでに述べたように、失活光は、励起光と同じ光学系を介して送ることができ、すなわち、同じ経路をたどり、また、たとえば後に図6に示されるように、別の光線経路を介して送ることもできる。図4による実施形態において、レーザ4は励起光を生成し、レーザ46は失活光を生成し、これを、統合スキャナ12を介して走査する。
【0047】
三次元画像を生成するために、物体キャリア17をz方向に走査して、物体2の中の連続的に異なる照明面を照明することができ、照明面の各々は、x方向に走査される走査レーザ光線によって走査され、したがって各々の照明面において連続的に形成される、連続的に形成される光シート1によって照明される。z方向に隣接する複数の連続的に形成される光シート1は、z方向に「レンダリング」によって合成することができる。
【0048】
三次元画像をz駆動の「レンダリング」で生成するべきである場合、物体2を移動させることは、物体内のそれぞれの隣接する照明面と対物レンズとの間の距離が一定であるという点で有利であり、これは、照明光線の位置も変化しなければ、カメラ16の位置も変化しないからである。別の例において、光シート1をたとえば検流計によってz方向に走査することも可能である。これには、しかしながら、対物レンズ3もまた移動させて、それぞれの照明面と物体との間の距離が同じになるようにする必要がある。別の例においては、もちろん、対物レンズ3、フィルタ14、管状レンズ15およびカメラ16を含むSPIM検出光学系の全体を移動させることも可能である。
【0049】
照明検出光学系の光線経路10は、前述のように、共焦点検出光線の経路の機能をさらに有していてもよく、その目的のために、物体から反射された光をy方向に検出し、および/または発せられた蛍光を検出するために、検出器18を設置することができる。検出光線の経路11を通じてSPIM法により画像を検出するのと同時に、平行して共焦点画像検出を実行することも可能であり、これは、光シート1がx方向への走査によって連続的に生成されるからである。生成される共焦点画像は、SPIM検出によって検出される画像と比較して、一次元低い。たとえば、SPIM検出によって二次元画像だけが生成される場合、すなわち1つの画像面だけの画像の場合、いわゆるx−t画像、すなわち1次元直線画像を検出することも可能である。これは、たとえば、蛍光を発生するためにマーカによりマークされるか、染色される特定の分子の拡散速度を測定するために使用でき、その一方で、同時に画像化される二次元SPIM画像からは、異なる情報、たとえば物体の画像化された画像面内のどの分子が他のどの分子と結合するかという情報が提供されるかもしれない。
【0050】
SPIM検出によって、z駆動で三次元画像が生成される場合も同じことが言え、すなわち共焦点二次元画像が生成される。このように、たとえば、三次元形状の物体の中のどの分子が他のどの分子と結合するかを判定することが可能であり、その一方で、平行して、特定の面を通じて拡散する分子の拡散速度も測定できる。“n”次元のSPIM画像と平行して“n−1”次元の共焦点生成画像を同時に検出することにより、その組み合わせで、追加の判断が可能となり、たとえば追加の速度情報から、物体2の中でどの個体の要素、たとえば分子またはその他の要素が移動しているかを判断することができる。特に、顕微鏡の分野において、これによって生体内での新たな用途が見出される。
【0051】
図6は、本発明の別の実施形態を示す。同様の要素には、それ以前の図面と同じ参照番号が付与されている。また、この図において、SPIM検出光線の経路は参照番号11で示されており、その一方で、照明光線の経路は参照番号10で示されている。また、図6によるこの実施形態において、照明光線の経路10は、追加の検出光線の経路の機能を有し、開口20を通じて共焦点検出光21を受けるフォトダイオード19によって信号検出が行われ、それぞれの信号は画像処理ユニット22を介してモニタ23に送られる。検出光は、ダイクロイックミラー24によってフォトダイオード19へと偏向される。フォトダイオード19の代わりに、その他の光センサ、たとえばアバランシェダイオード、光電子増倍管またはカメラを設置することができる。これは共焦点画像検出に関するものであるため、位置推定は不要であり、これは、位置に関する情報は走査された照明光線から得られ、すなわち、ある時点で物体のどの画像点が照明されているかがわかり、したがって、その特定の画像点から受け取った信号が、信号を受信する直前に照明されていた画像点からのものであるという情報がわかるからである。したがって、共焦点検出にはカメラのためのコストが不要となる。
【0052】
連続的に生成される光シート1の焦点を変更するために、ズームレンズ25を、別のレンズ26に関してy方向に移動させてもよい。実際の用途においては、レンズ集合がこの目的のために設置されるが、簡素化のために、説明する実施形態では、ズームレンズ25を1枚だけ示す。したがって、ズーム光学系13は、照明対物レンズ(マクロ対物レンズ)との組み合わせにより、焦点距離の範囲27を変更する光学ズームとなる。焦点が鮮鋭となるほど、使用可能な焦点距離は短くなるが、同時に、光シート1はより薄くなる。簡素化のために、SPIM検出光学系の詳細は、図6では省略されており、これらの光学系はすでに、対物レンズ3、フィルタ14および管状レンズ15を含むものとして図4に示されているからである。概略的に示されているCCDカメラ16は、z方向に受け取る検出光のためのx−y面における位置推定ステーションとなる。SPIM画像処理ユニット28を介して、CCDカメラにより受け取られた信号は処理され、SPIMモニタ29に送られる。物体2内の多数の面を照明するべきである場合、物体キャリア17をz方向に移動することができる。図6の例から明確にわかるように、照明面とCCDカメラとの間の距離Lは常に一定である。図4に関してすでに説明したように、照明光線をz方向に移動させ、その一方で、物体2を同じ位置に保持することも可能であり、また、代わりにCCDカメラを移動させることによって、あるいは実行しやすい方法として、対物レンズ3のCCDカメラ16に関する位置を変えることもできる。
【0053】
レーザ46によって生成された失活光線は、STED光線とも呼ばれ、本実施形態によれば、別々の失活光線の経路47を介して送られる。照明光線と同じように、失活光線もまた、最初に拡張され、その後、統合ズーム光学系によって合焦される。
【0054】
走査モジュール12の前のダイクロイックミラーを介して、失活光線の光線経路は次に偏向され、これによって失活光線の経路は励起光線の経路と同軸的に延びる。失活光線の変調は、図5に関してすでに説明した位相板39を介して行われる。失活光線の変調の種類については、図8aと図8bを参照することによって、後にさらに詳しく説明する。
【0055】
図7は、図6に示される実施形態を異なる視点、すなわち照明光線の方向から見た図、すなわち、y方向に見た図である。ここでは特に、連続的に形成される光シート1を生成するためにx方向に走査される個別の照明点30のほか、照明点に平行な列における失活点を同様にx方向に走査することによって物体に送られる失活点50が示されている。ダイクロイックミラー24は検出光をフォトダイオード19の方向に偏向させる。物体キャリア17はz方向に走査することができ、すなわち、CCDカメラ16に向かって移動させ、またはCCDカメラから遠ざかるように移動させて、物体内の異なる照明面を照明するようにすることができる。
【0056】
また、励起光線と失活光線を、1つのレーザ4(白色光レーザ)だけで生成することも可能であろう。この目的のために、光線を分割し、光線の一部が音響光学素子、たとえば音響光学可変フィルタ(AOTF)を通過するようにし、ここで所望の波長を選択できる。パルスレーザの使用により、励起光線と失活光線との間で、いわゆる遅延ステージによって時間遅延を発生させることができる。
【0057】
励起光線と失活光線の関係を図8aと図8bに示す。図8aは、円形の励起光線41の断面を示す。方向x、yおよびzは、図4と図5に示されているように、図8aと図8bにも示されている。励起光線の強度分布プロファイルが右側に示されており、これは一般に、回折による比較的小さいサイドローブを除いて、ガウス分布に従っている。図8bは失活光線40を示しており、これは、励起光線41の両側に最大強度があり、それらの間に、強度がゼロであるか、または少なくとも非常に低いゼロ地点があるように変調されている。図8bからわかるように、失活光線40の、ゼロ地点の両側に配置された最大強度は、断面が円形ではなく、その断面は、励起中心から遠い方面する側と比較すると、中心に向かって平坦化された曲率を有する。図8bにおいて破線で示されている、連続的に生成される光シート1として、中心領域の小さな帯状部分だけが残り、この部分においては、失活光は蛍光を失活させない。励起光線41、失活光線40および連続的に生成される光シート1の断面の右側に、励起光線41と失活光線40の強度Iの強度分布が、図8bの右側に示されている。
【0058】
図8bから、本発明の別の利点が明らかとなり、これは、先行技術の共焦点STED顕微鏡と異なり、有効な失活のために全周に照明点を画定する必要がなく、連続的に生成される光シートをより薄くするための各側で照明点を画定すればよい、という点である。これによって、失活光線の変調を単純化でき、これは、たとえば図5に示されるような1枚の位相板39だけで実現できる。
【0059】
1つの特定の実施形態によれば、片側だけの光シートを、失活光線を適用することによって、より薄くすることも可能である。失活光線の特定の変調によって、片側だけの失活光線プロファイルを生成でき、これは片側の急峻な側面と最大強度を有し、最大強度は好ましくは、励起強度が最大の領域内にある。片側失活光線には、楕円または一種の長方形等、その他の断面形状もまた有利かもしれない。
【0060】
理解するべき点として、別の例においては、全周にわたる失活も実行でき、これは、たとえば円形の位相板を有するボルテックスフィルタによって生成できる、ドーナツ型の失活光線により実現可能である。これは、照明方向に対して90°の角度でのSPIM信号検出と平行して、照明方向と比較して反対方向に共焦点検出が行われる場合にいくつかの点で有利であり、これは前述のとおりである。
【0061】
STED失活光線は、選択的に、これに加えてオンにすることができ、またはオフにすることができ、これもまた、x方向に線ごと、または画素ごとに実行できる。失活光線がいつオンにされたか、またはオフにされたかの情報はわかるため、それぞれのデータストリームを分割でき、すなわち、より厚い光シートに基づき、それぞれより大きな照明面積(照明焦点の断面と比較)とより大きな照明対象域をカバーする画像を生成するための第一のデータストリームと、より薄い光シートに基づき、より小さな照明面積(照明焦点の断面に関して)とより小さな照明対象域での画像を生成するための第二のデータストリームに分割できる。これによって、同時に、STED光線を追加することによって、z方向に、高解像度の画像と、STED光線を追加せずに、z方向に、より低い解像度であるが、物体内のより大きな対象域を照明する利点を有する画像を生成することができる。
【0062】
STED光線を追加し、またはオフにすることとは無関係に、この顕微鏡によって、平行して、同時に、n次元のSPIM顕微鏡画像とn−1次元の共焦点生成画像を生成することができ、その一方で、これらの画像はまた、平行して、それぞれSTED光線を追加でオンにし、またはオフにすることによって、高い解像度で、または低い解像度でz方向に生成することができる。全体として、以下のデータセットを生成する4つの別々のデータストリームを同時に生成することが可能である。
i)高解像度であるが、物体の中の、より小さい対象域を画像化する二次元画像(SPIM)、
ii)低解像度であるが、物体の中の、より大きい対象域を画像化する二次元画像(SPIM)、
iii)高解像度でのz方向の一次元共焦点画像x−t、
iv)より低解像度でのz方向の一次元共焦点画像x−t。
【0063】
z方向への光シートの数はxの寸法に依存せず、すなわち、異なる画像フォーマットから選択でき、たとえばx方向の画素数を512とし、その一方でz方向の画素数をより多く、またはより少なくすることができる。z方向へのギャップのない連続データセットを取得するために、z方向への供給動作は、常に確実にある程度重複するように選択しなければならない(ナイキストの定理)。
【0064】
図9は本発明の別の実施形態を示しており、図4による実施形態と同じ構成部品には同じ参照番号が付与されている。これに加えて、照明対物レンズ42が設置され、これはズーム光学系13に追加して設置することができる。照明対物レンズはまた、光学ズームの一部とすることができ、たとえば図6に示される実施形態による例のとおりである。
【0065】
連続レーザ(連続波、CW)による照明とは異なり、多光子蛍光顕微鏡にはパルスレーザも使用でき、これは、長い波長で比較的低いエネルギーの励起光子を送るため、試料への損傷を回避するのに特に適しており、これは生体試料の場合に特に重要となりうる。SPIM信号の検出のように、調光ミラー43によって、z方向に延びる検出光線の経路44から多光子信号も抽出することができ、これは光電子増倍器またはアバランシェフォトダイオード45によって検出できる。それ以外に、SPIM信号は、図4に関してすでに説明したように、カメラ16によって検出することができる。
【0066】
カメラ16が十分な速度で作動すれば、図9に示す実施形態をさらに変形したものとして、調光ミラー43がなくてもよく、その代わりに、カメラ16を使って多光子信号を検出することができる。多光子照明とz方向、すなわち照明方向に対して垂直の方向への信号検出の場合、物体上の各照明点に関して、カメラ16には直線が画像化されるため、物体上のx方向に延びる走査線を連続的にx方向に走査することによって、カメラ16ではある領域が連続的に照明され、これは、データを整理して線に戻すソフトウェアによって整理する必要がある。z方向に連続して走査することによって、物体上のいくつかの線を検出して、さらに処理し、物体のある領域の画像とすることができる。
【0067】
簡単に言えば、SPIM信号検出構造の上記のような変形版は、多光子信号検出に使用され、これは高速カメラ、たとえばフォーマット512×512で毎秒最高1000枚の画像を検出できるカメラを使えば可能である。
【0068】
多光子信号検出のためのSPIM信号検出構造の特定の利点は、信号の強度が有意に増強されることであり、そのいくつかの理由の1つは次のものである。光シートを生成するためには、一般に、低い開口数の照明対物レンズ、たとえば0.04NAの範囲の開口数の対物レンズが使用される。ここで、多光子照明から生成された信号の検出にSPIM検出経路を使用する場合、使われる対物レンズの開口数(NA)がはるかに高い(たとえば、1.0NA)ため、有意に高い信号の強度を得ることができる。これは、信号強度が20倍超、改善されることを意味する。
【0069】
SPIM検出光線の経路(z方向)が蛍光の検出に使用され、光が光電子増倍器またはAPDもしくはAPDアレイに送られ、あるいは上述の変形版によれば、高速カメラに直接送られる場合、y方向の信号検出のための照明光学系を使用する場合より、効率がはるかに改善され、これは一般に、使用される照明システムの開口数がSPIM構成の検出システムの開口数より低いからである。
【0070】
多光子検出を使用することにはいくつかの利点がある。ほとんど排他的に焦点の合った蛍光色素だけが励起され、これは、励起には、いくつかの光子が多かれ少なかれ同時に到達することが必要となるからであり、この同時の到達はほとんど排他的に焦点の中で発生し、換言すれば、焦点の外の励起の可能性は非常に低い。他の利点は、IR範囲の(散乱が低い)波長を使用すると、浸透深度がより深くなることである。他の利点はピンホールが不要であることであり、これは、発生された光の全体を照明焦点に割り当てることができるからである。これによってまた、全方向からの光を集光することが可能である。これに対して、共焦点顕微鏡は、散乱および反射光を抑制する必要があり、これによって信号の強度が弱められる。信号強度を高めることにおける上記のすべての利点とは別に、照明強度は低く、したがって試料への損傷が回避され、その一方で、このソリューションはさらに、構造的な利点を提供し、これは、SPIM顕微鏡にすでに備わっている検出光学系を多光子信号検出に使用できる点であり、それによって、構造面でのコストを追加せずに、比較的安価なソフトウェアのコストだけで、上記の利点のすべてを得ることができる。
【0071】
STED技術を適用することによって、多光子照明により提供される高い解像度をさらに高めることが可能であり、すなわち、検出方向への解像度を、多光子モードの約300nmから多光子プラスSTEDモードのわずか数nmの解像度まで改善できる。換言すれば、SPIM検出光学系によって提供される信号強度の増強と多光子モードにより提供される高解像度とSTEDの適用による解像度の一層の改善とが組み合わされ、相乗効果が得られる。本発明により提供される特定の構造的利点は、3つの実質的に異なる顕微鏡のカテゴリ、すなわち共焦点顕微鏡、SPIM顕微鏡および多光子顕微鏡を1つの単独の構成にまとめることができる点であり、その一方で、これら3つの顕微鏡のカテゴリのすべては、STED光線の追加による選択的な変調によって解像度を高められる動作モードでも使用でき、したがって、結果として、全体で6種類の動作モードが利用できる。
【0072】
ソフトウェアの観点から、カメラ16によって検出されたデータを線と画素に分離して、同時に、SPIM画像と多光子画像を生成することもまた可能である。これによって、SPIMモードと多光子モードとを切り替える必要がなくなり、あるいは、別の例において、SPIMモードと多光子モードでの同時動作を切り替えの選択肢として追加することができる。
【0073】
要約すれば、本発明による顕微鏡では、共焦点顕微鏡の部分的態様、すなわち照明光学系の部分的態様がSPIM法に基づく画像生成に適用され、照明光学系がさらにズーム光学系へと改造される。本発明によれば、さらに、SPIM法によって生成される画像より一次元低い共焦点画像を生成することができ、あるいは、別の例において、共焦点画像に追加して、またSPIM法により生成された画像の代わりに、多光子画像を生成することができる。これは、SPIM法により生成される画像をはるかに高い柔軟性で変更できるだけでなく、共焦点検出または多光子検出によって追加の画像情報が得られ、また、特定の用途に応じて、得られた画像をオーバーレイとしてSPIMおよび/または多光子画像と合成することもできる。STED光線を追加し、またはオフにすることによって、画像にさらに変更を加えることができ、さまざまな画像についてさらに追加のデータストリームを生成することが可能であり、これらは同時に生成されるという利点がある。これによって、顕微鏡に多種多様な有益さを持たせることができ、これには、画像変調の可能性および、それと同時に、分析可能な画像情報の数における相乗効果が伴う。
【符号の説明】
【0074】
1 光シート
2 物体
3 対物レンズ
4 レーザ
5 照明光線
6 コリメートレンズ
7 円柱レンズ
9 カメラ
10 照明光線の経路
11 検出光線の経路
12 スキャナ
13 ズーム光学系
14 カラーフィルタ
15 管状レンズ
16 カメラ
17 物体キャリア
18 検出器
19 フォトダイオード
20 開口
21 検出光
22 画像処理ユニット
23 モニタ
24 ダイクロイックミラー
25 ズームレンズ
26 レンズ
27 焦点距離の範囲
28 SPIM画像処理ユニット
29 SPIMモニタ
30 照明点
31 励起光線
32 失活光線
34 統合光線経路
35 検出光
36 光検出器
37 ダイクロイックミラー
38 開口
39 位相板
40 失活光線
41 励起光線
42 照明対物レンズ
43 調光ミラー
44 検出光線の経路
45 光電子倍増器またはアバランシェフォトダイオード
46 レーザ
47 失活光線の経路
50 失活点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
y方向から画像化対象の物体へと照明光線を送る光源と、
前記y方向に対して略垂直に延び第一の検出方向としてのz方向に、蛍光および/または反射光として前記物体から発せられる光を検出するカメラと、
を備えて構成されるSTED−SPIM顕微鏡において、
前記y方向と前記z方向に対して略垂直に延びるx方向に前記照明光線を走査することによって連続的な光シートを生成する第一のxスキャナであって、前記光シートが前記x方向と前記y方向によって画定される平面内で連続的に形成される第一のxスキャナと、
前記y方向から、少なくとも1つの失活光線を前記物体へと送り、前記連続的に生成される光シートを前記z方向により薄くする失活光源であって、前記失活光線が少なくとも前記照明光線に関して前記z方向にずれた地点で最大強度を有し、前記x方向に走査される前記照明光線に平行に延びる失活光源と、
を特徴とするSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項2】
前記失活光線を、その断面がz方向に少なくとも2つの最大強度を有し、それらの間に、前記励起光線の中央に設けられたゼロ地点があるように、変調するように構成された失活光線変調器を特徴とする、請求項1に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項3】
前記失活光線を変調するように構成された位相板を特徴とする、請求項2に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項4】
前記励起光線をベッセルビームに変調するように構成された励起光線変調器を特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項5】
前記励起光線変調器が可変音響式屈折率分布型(TAG)レンズであることを特徴とする、請求項4に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項6】
前記励起光線変調器がアキシコンであることを特徴とする、請求項4に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項7】
少なくとも前記励起光線を変調するようになされた、少なくとも1つの音響光学素子を特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項8】
前記音響光学素子が音響光学偏向器(AOD)であることを特徴とする、請求項7に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項9】
前記音響光学素子が、前記励起光線の周波数と強度を調整するための音響光学可変フィルタ(AOTF)であることを特徴とする、請求項7に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項10】
前記失活光線は一定の周波数を有することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一項一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項11】
前記励起光線と前記失活光線の強度を調整するように構成された、少なくとも1つの強度コントローラを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項12】
前記強度コントローラが音響光学素子であることを特徴とする、請求項11に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項13】
前記失活光線変調器が可変音響式屈折率分布型(TAG)レンズであることを特徴とする、請求項2に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項14】
前記失活光線変調器が光空間変調器(SLM)であることを特徴とする、請求項2に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項15】
前記失活光線を追加しない通常のSPIMモードである第一の動作モードと、前記失活光線が追加でオンにされるSPIMプラスSTEDモードである第二の動作モードの間で切り替えるように構成されたスイッチを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項16】
前記スイッチが、前記第一の動作モードと前記第二の動作モードの間で永久的な選択を行うように構成されていることを特徴とする、請求項15に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項17】
前記スイッチが、前記第一の動作モードと前記第二の動作モードの間で、特定の切り替え周波数で自動的に切り替えるように構成されていることを特徴とする、請求項15に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項18】
前記切り替え周波数を用いて前記第一の動作モードと前記第二の動作モードによって第一の検出方向に前記カメラによって検出された検出光を、2つのデータストリームに分割し、同時に、前記第一の動作モードによる画像と前記第二の動作モードによる画像を生成する画像処理ユニットを特徴とする、請求項17に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項19】
前記励起光線の光線経路内に設置され、相互に機械的に動かされて開口数を変化させ、したがって、前記連続的に生成される光シートの焦点を拡張または短縮させ、したがって前記物体内で前記光シートによって照明される前記y照明方向における視野の長さを拡張または短縮させる複数のレンズ集合を含む光学ズームを備える照明光学系を特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項20】
前記x方向と反対の第二の方向に、前記物体から発せられた蛍光および/または反射検出光を検出する光検出器を特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項21】
SPIM法を適用することによってz方向に検出される二次元広視野画像と平行して、前記x方向に延びる線である、前記物体の共焦点一次元画像が生成されることを特徴とする、請求項20に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項22】
前記物体を前記z方向に移動させて、それぞれの照明面にて相互にz方向に離間された複数の光シートが連続的に生成されるようにし、前記各光シートと前記カメラの間の距離が一定のままであるzスキャナを特徴とする、請求項20に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項23】
次の動作モード、
i)前記y照明方向と反対の検出光の共焦点検出、
ii)前記z方向での広視野検出光のSPIM検出、
iii)前記z方向での広視野検出光の多光子検出、
iv)前記共焦点検出とスピン検出の同時検出、
v)前記共焦点検出と多光子検出の同時検出、
の間で切り替えるように構成されたスイッチを特徴とする、請求項20〜22のいずれか一項に記載のSTED−SPIM顕微鏡。
【請求項24】
前記動作モードi)〜v)は、選択的に追加で前記STED失活光線をオンにして、またはオンにせずに実行可能であることを特徴とする、請求項23に記載のSTED−SPIM顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−93757(P2012−93757A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−231661(P2011−231661)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(500178876)ライカ マイクロシステムス ツェーエムエス ゲーエムベーハー (80)
【Fターム(参考)】