説明

V型エンジン

【課題】 本発明は、気筒間の着火間隔の相違に応じて燃料噴射量を設定し、トルク変動に起因する振動や騒音を低減したV型エンジンを提供する。
【解決手段】 不等着火間隔をもつV型エンジンにおいて、着火間隔が短い場合Cの手前の気筒#1,#3,#5,#7,#9に噴射する燃料噴射量を着火間隔が長い場合Dの手前の気筒#2,#4,#6,#8,#10に噴射する燃料噴射量よりも少量に設定する。各気筒間の着火間隔の長短に応じて燃料噴射量を変更したので、気筒間の着火間隔が異なる場合に、トルク発生量の変動が均一となり、トルク変動に起因する振動や騒音の発生を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、多気筒に対してそれぞれ燃料を噴射するV型エンジンに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、内燃機関の燃焼爆発によるトルク変動はエンジンの起振力となり、車両を振動させ、運転者に不快感を与える要因になっている。多気筒間での着火間隔が不等着火間隔に設定されているV型エンジンは、特に、トルク変動が大きく、起振力が増大される。
【0003】V型エンジンにおけるトルク変動は、多気筒間での着火間隔が不等着火間隔に設定されることが一因となっている。多気筒間での着火間隔に関して、具体的に、バンク角が90度である10気筒のV型エンジンの場合について、V型エンジンは向かい合う二つの気筒が5セットあり、4ストロークエンジンではクランクシャフトが2回転、即ち、クランク角度が720度で1つのサイクルを終了するから、5つの各セットを均等に配置した場合には1セット当たり144度となる。V型エンジンにおいては、向かい合う気筒で連続して着火するような着火順序が採用されるのが一般的であるが、その場合、向かい合う気筒が連続して着火し、そのときの着火間隔は当然90度である。次いで、他のセットの気筒へ移るときの着火間隔は54度となる。このように、10気筒のV型エンジンにおいては、90度の着火間隔と54度の着火間隔とが繰り返されることになり、多気筒間での着火間隔が不等になる。
【0004】図8は10気筒のV型エンジンの気筒配列を示した概略図である。符号#1〜#10は各気筒を表す。また、図9は図8に示した従来のV型エンジンにおける着火順序、着火間隔及び燃料噴射量の関係を示した説明図である。図8に示すように、10気筒のV型エンジンでは、気筒#1と気筒#2、気筒#3と気筒#4、気筒#5と気筒#6、気筒#7と気筒#8、及び気筒#9と気筒#10がセットに構成されている。また、図9に示すように、多気筒間での着火順序は、気筒#1の着火に始まって、その後は、気筒#10、気筒#9、気筒#4、気筒#3、気筒#6、気筒#5、気筒#8、気筒#7、気筒#2の順次で着火し、再び、気筒#1から着火を繰り返す。
【0005】更に、気筒間の着火間隔について見てみると、向かい合う気筒(例えば、気筒#10と気筒#9)の間での着火間隔(D=90度)は長く、他のセットの気筒へ移るとき(例えば、気筒#9から気筒#4へ移るとき)の着火間隔(C=54度)は短く設定される(C<D)。これに対して、各気筒への燃料噴射量は、従来においては、基本噴射量Aに対してプラスマイナスB%(公差)で管理されており(即ち、A±B)、どの気筒についても同等の燃料噴射量になっていた。
【0006】上記のとおり、V型エンジンにおける着火間隔は不等であるにもかかわらず、従来から各気筒に対する燃料噴射量に関しては特に考慮されておらず、V型エンジンの各気筒に対する燃料噴射量は同等としていたので、着火間隔が54度の時と90度の時とでトルク変動が生じ、該トルク変動がエンジンにおける振動・騒音の発生原因の1つとなっている。
【0007】ところで、V型エンジンの振動や騒音を抑制するために、従来から種々のものが開発されてきた。例えば、特開平6−193538号公報には、V型エンジンの燃焼制御装置が開示されている。該V型エンジンの燃焼制御装置は、左右の気筒に対応するコンロッドがクランクシャフトにおける同一のクランクピンに連結され、上記気筒のうちクランクシャフトの回転方向上流側の気筒のみ、気筒の燃焼圧力を低下させる燃焼圧力制御手段を備えている。該V型エンジンの燃焼制御装置では、燃焼圧力を低下させる手段の具体例として、クランクシャフト回転方向の上流側の気筒の点火時期を遅らせるように構成したもの、或いはインジェクタによる燃料噴射量を減ずるように構成したもの等が挙げられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前掲特開平6−193538号公報に記載されたV型エンジンの燃焼制御装置は、クランクの回転方向上流側の気筒の燃料噴射量を減ずるようにしたものであって、V型エンジンの不等着火間隔を考慮して燃料噴射量を制御するようにしたものではないから、エンジンのトルク変動に起因する振動や騒音を低減させる上であまり有効とはいえない。
【0009】また、上記の多気筒間での不等着火間隔を是正するために、向かい合う気筒のコンロッドが共通に接続されるクランクピンの軸心をオフセットすることが考えられるが、該方法はエンジンそのものの生産性や強度上に問題が生じ、あまり好ましいものではない。
【0010】多気筒間での不等着火間隔を持つV型エンジンでは、上記のように、エンジンのトルク変動が大きく、エンジンの起振力が増大されるため、運転席の振動が問題となり、商品力を損ねるという問題がある。また、V型エンジンには、エンジン支持ラバーや運転台支持ラバー等が必要となり、部品点数も増え、コスト高となる問題も発生する。
【0011】
【課題を解決するための手段】この発明の目的は、上記の課題を解決することであり、気筒間での着火間隔の違いに応じて各気筒に対して燃料を噴射する燃料噴射量を変更して設定することによって、トルク変動の不均一さを低減し、トルク変動に起因する振動や騒音を低減することができるV型エンジンを提供することである。
【0012】この発明は、多気筒間での着火間隔が不等着火間隔に設定されているV型エンジンにおいて、着火間隔が短い場合の手前の気筒に対して噴射する燃料噴射量が、着火間隔が長い場合の手前の気筒に対して噴射する燃料噴射量よりも少量に設定されていることを特徴とするV型エンジンに関する。
【0013】また、このV型エンジンにおいて、前記各気筒へのそれぞれの燃料噴射量は燃料噴射ポンプの噴射量設定で達成できるものである。
【0014】この発明によるV型エンジンは、上記のとおり、気筒間の着火間隔の長短に応じて各気筒に対する燃料噴射量を変えるように設定したので、気筒間の着火間隔が異なる場合においても、トルク発生量の変動が均一となり、トルク変動に起因する振動や騒音の発生を低減することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、この発明によるV型エンジンの一実施例を説明する。この実施例ではV型エンジンは、10気筒のV型タイプに構成されている。V型エンジンの気筒配列は、図8に示したものと同一である。また、V型エンジンは、着火順序、着火間隔及び燃料噴射量の関係は、図1に示すとおりである。また、図1では、各気筒に対する燃料の供給の燃料噴射量について、本願発明と従来のものとを比較して表示した。
【0016】V型エンジンの着火順序及び着火間隔は、図1に示すように、上記従来のものと同一である。即ち、V型エンジンの各気筒の着火順序は、気筒#1の着火に始まって、その後は気筒#10、気筒#9、気筒#4、気筒#3、気筒#6、気筒#5、気筒#8、気筒#7、気筒#2の順序で着火し、再び気筒#1から着火を繰り返す。また、V型エンジンの各気筒間の着火間隔は、向かい合う気筒(セットという)の間での着火間隔D(=90度)よりも、他のセットの気筒へ移るときの着火間隔C(=54度)の方が短く設定されている(C<D)。
【0017】各気筒への燃料噴射量は、気筒間の着火間隔が短い場合(Cの場合)の手前の気筒#1,#3,#5,#7,#9に噴射する基本噴射量Eを着火間隔が長い場合(Dの場合)の手前の気筒#2,#4,#6,#8,#10に噴射する基本噴射量Fよりも少量に設定されている(E<F)。ここで、基本噴射量Eは従来における基本噴射量Aから公差B%を差し引いた値に設定されており、基本噴射量Fは従来における基本噴射量Aに公差B%を加えた値に設定されている。また、各気筒間の着火間隔が短い場合(Cの場合)の手前の気筒に噴射される燃料噴射量は、基本噴射量Eに対してプラスマイナスB%で管理されるように設定されている(E±B)。更に、着火間隔が長い場合(Dの場合)の手前の気筒に噴射される燃料噴射量は、基本噴射量Fに対してプラスマイナスB%で管理されるように設定されている(F±B)。従って、各気筒間の着火間隔が長い場合には、手前の気筒#2,#4,#6,#8,#10に多量の燃料を噴射し、各気筒間の着火間隔が短い場合には、手前の気筒#1,#3,#5,#7,#9に少量の燃料を噴射するように設定されている。
【0018】このV型エンジンは、トルク変動について、実験の結果、図2のグラフに示すような結果が得られた。図2中の実線は、本願発明によるV型エンジンのトルク変動を示しており、点線は従来のV型エンジンのトルク変動を示している。図2から明らかなように、本願発明によるV型エンジンは、従来のものに比較して、トルク変動が均一であり、トルク変動の不均一さがかなり低減されることがわかる。
【0019】この発明によるV型エンジンの燃料噴射量の設定方法としては、以下のようなものを使用できる。例えば、列形噴射ポンプPによって各気筒に対する燃料噴射量を設定する方法としては、次のものが使用できる。
(1)同一プランジャで噴射量調節時に設定する方法(2)プランジャ、バレル等の仕様を二種類設定する方法(3)プリストローク位置(噴射開始位置)の設定を二種類にする方法(4)スピルポートの径を二種類設定する方法等が挙げられる。また、コモンレール型の燃料噴射ノズルを使用する場合には、各気筒間で燃料噴射量の設定を変えたロジックをもったコントロールユニットで行う方法等を使用できる。
【0020】V型エンジンの各気筒に対する列形噴射ポンプPにおける燃料噴射量の設定方法について、具体的に説明する前に、列形噴射ポンプPの構造及び燃料の圧送作動について説明する。図3は列形噴射ポンプの主要部の構造を示す部分断面図である。プランジャ11はカム(図示せず)によって上下に往復運動をする。燃料はプランジャ11の往復運動によって圧送される。燃料はプランジャ下死点でフューエルチャンバ12からシリンダ13に形成されたスピルポート14を通ってプランジャ室15内に吸入される。カムの回転によりプランジャ11が上昇し、プランジャ上面16がスピルポート14を閉じたとき、燃料の圧送が始まる。プランジャ11の下死点から圧送始めまでのストロークをプリストロークという。プランジャ11の上昇により燃料は加圧され、図3の上方に設けられているデリバリバルブ(図示せず)を開いて噴射管(図示せず)へ圧送される。更に、プランジャ11が上昇して、プランジャリード17とスピルポート14が連通すると、プランジャ室15の高圧燃料はプランジャ11の中心孔10、プランジャリード17を経由して、スピルポート14からフューエルチャンバ12に流出する。次いで、燃料の噴出により、圧力が低下して燃料の圧送が終わる。
【0021】次に、列形噴射ポンプの燃料噴射量の設定方法について、図4乃至図7を参照しながら説明する。図4乃至図7はいずれも図3に示した列形噴射ポンプの部分図である。図4は上記(1)の方法を示し、同一プランジャで噴射量調節時に、燃料噴射量を設定する方法を示した説明図である。プランジャ11の上昇に伴って、プランジャ上面16がスピルポート14を閉じた時からスピルポート14とプランジャリード17が連通するまでが圧送ストロークとなる。コントロールラック18を矢印の方向に動かすと、コントロールピニオン19が回動し、プランジャ11が回動して、圧送ストロークは増え、燃料噴射量は増加する。逆に、矢印と反対方向にコントロールラック18を動かすと、燃料噴射量は減少する。図4(X)は噴射量を減少させた場合、図4(Y)は噴射量を増加させた場合を示している。気筒#1,#3,#5,#7及び#9については図4(X)に示すように噴射量を減少させるように調節し、気筒#2,#4,#6,#8及び#10については図4(Y)に示すように噴射量を増加させるように調節する。
【0022】図5は上記(2)の方法を示し、プランジャ、バレル等の仕様を二種類設定することによって燃料噴射量を設定する方法を示した説明図である。この方法はプランジャ上面16とプランジャリード17までの距離を変えたものである。即ち、気筒#1,#3,#5,#7及び#9については、図5(X)に示すように、プランジャ上面16とプランジャリード17までの距離をa,bとし、気筒#2,#4,#6,#8及び#10については、図5(Y)に示すように、プランジャ上面16とプランジャリード17までの距離をa' ,b' とするものである。ただし、a<a' ,b<b' の関係が成り立つように設定するので、燃料噴射量は図5(Y)の方が多くなる。従って、気筒#1,#3,#5,#7及び#9に対する燃料噴射量の方が気筒#2,#4,#6,#8及び#10に対する燃料噴射量よりも少量になる。
【0023】図6は上記(3)の方法を示し、プリストローク位置(噴射始め位置)を二種類設定することによって燃料噴射量を設定する方法を示した説明図である。この方法はバレル20に形成したスピルポート14の位置を二種類設定するものである。スピルポート14とプランジャ11の位置関係により圧送ストロークが定まるので、二種類の設定が可能である。図6(X)のスピルポート14は図6(Y)のものに比べて上方に位置している。即ち、図中においてa<a' の関係が成り立つようにスピルポート14の位置が設定される。図6(X)の方が図6(Y)よりもプリストロークが長くなる分、圧送ストロークが短くなり、燃料噴射量が少なくなる。従って、気筒#1,#3,#5,#7及び#9に対する燃料噴射量の方が気筒#2,#4,#6,#8及び#10に対する燃料噴射量よりも少量になる。
【0024】図7は上記(4)の方法を示し、スピルポートの径を二種類設定することによって燃料噴射量を設定する方法を示した説明図である。図7(X)のスピルポート14の径aの方が図7(Y)のスピルポート14の径a' よりも大きい(a>a' )。従って、図7(X)の噴射ポンプの方が後で圧送を開始し、先に圧送の終わりに達してしまうので、図7(X)の方が燃料噴射量が少なくなる。従って、気筒#1,#3,#5,#7及び#9に対する燃料噴射量の方が気筒#2,#4,#6,#8及び#10に対する燃料噴射量よりも少量になる。
【0025】上記各実施例では、10気筒のV型エンジンについて説明したが、多気筒間での着火間隔が不等着火間隔を持つV型エンジンであれば、この発明によるV型エンジンを4気筒、6気筒、8気筒、12気筒等の多気筒のV型エンジンにも適用できることはいうまでもない。
【0026】
【発明の効果】この発明によるV型エンジンは、以上のように構成されているので、次のような特有の効果を有する。即ち、このV型エンジンは、着火間隔が短い場合の手前の気筒に噴射する燃料噴射量を着火間隔が長い場合の手前の気筒に噴射する燃料噴射量よりも少なめに設定したものであるから、エンジンのトルク変動の不均一変動が低減し、エンジンの起振力が低減することになり、それ故、運転台等の振動の少ない快適な車両を提供することができる。
【0027】また、このV型エンジンは、トルク変動が低減するので、運転台の振動や騒音を防止するために他の部品、例えば、エンジン支持ラバーや運転台支持ラバー等で対応する必要もなくなり、部品点数を低減でき、コストを低減することができる。また、燃料噴射ポンプの調整規格も、気筒数が減り、調整母数が減るため、生産性の向上につながる。V型エンジンについて、若しくは、同一生産工数で規格を絞り、更なる品質を向上することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明によるV型エンジンにおける各気筒の着火順序、気筒間の着火間隔及び各気筒に対する燃料噴射量の関係の一実施例を示す説明図である。
【図2】この発明によるV型エンジンのトルク変動と従来のV型エンジンのトルク変動との比較を示したグラフである。
【図3】列形燃料噴射ポンプの主要部の構造を示す部分断面図である。
【図4】同一プランジャで燃料噴射量の調節時に、燃料噴射量の設定を行う方法を示した説明図である。
【図5】プランジャ、バレル等の仕様を二種類設定することによって燃料噴射量を設定する方法を示した説明図である。
【図6】プリストローク位置を二種類設定することによって燃料噴射量を設定する方法を示した説明図である。
【図7】スピルポートの径を二種類設定することによって燃料噴射量を設定する方法を示した説明図である。
【図8】10気筒のV型エンジンの気筒配列の一例を示す概略説明図である。
【図9】従来の10気筒V型エンジンにおける各気筒の着火順序、気筒間の着火間隔及び各気筒に対する燃料噴射量の関係の一実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
C 短い着火間隔
D 長い着火間隔
P 燃料噴射ポンプ
#1,#2,#3,#4,#5,#6,#7,#8,#9及び#10 気筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】 多気筒間での着火間隔が不等着火間隔に設定されているV型エンジンにおいて、着火間隔が短い場合の手前の気筒に対して噴射する燃料噴射量が、着火間隔が長い場合の手前の気筒に対して噴射する燃料噴射量よりも少量に設定されていることを特徴とするV型エンジン。
【請求項2】 前記各気筒へのそれぞれの燃料噴射量は燃料噴射ポンプの噴射量設定で達成できることを特徴とする請求項1に記載のV型エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開平9−72232
【公開日】平成9年(1997)3月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−252073
【出願日】平成7年(1995)9月6日
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)