説明

かぎ針

【課題】かぎ針のフック部から糸外しが安定して行われ、むらのない良好な仕上がりの刺繍ができるかぎ針を提供する。
【解決手段】かぎ針10の針幹部10aの先端部が針幹部10aの厚さを漸減した肉薄幹部であり、肉薄幹部の先端に円錐状突起部12が設けられ、円錐状突起部12にフック先端部14を設けてフック部13が形成され、フック部13の糸が引っ掛かり保持する底部11を略U字状とし、底部11から円錐状突起部12とフック先端部14とにかけてフック先端部14の外側端14a方向に傾斜した傾斜面16を形成したかぎ針である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主にサガラ刺繍(環縫)に用いられるかぎ針に関し、詳しくはサガラ刺繍におけるかぎ針からの糸外しが安定し、むらのない仕上がりが可能なかぎ針に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のかぎ針には、製本用の綴じ機や編機等に使用されるものがあり、図3(a),(b)は製本用の綴じ機に使用されるかぎ針であり、針本体1の頭部には円錐状先端部2が形成され、この円錐状先端部2に狭幅部3を介して舌片部4がU字状に折り返されて突出し、針本体1と舌片部4とによるかぎ目5が形成されて糸を引っ掛けるフック部が形成されている。このかぎ目5の巾は糸の巾に略相当するが、糸の流れを保証するためにかぎ目5の巾が僅かに広めに設定されている。フック部に引っ掛かった糸はU形ループを形成して保持され、糸のU形ループの横巾は狭幅部3を設けることにより狭くすることができる。U形ループの横巾が広い場合は糸を引き抜く際の摩擦が大きくなり、糸が切れるおそれがあるが、U形ループの横巾を狭くすることにより、引き抜く際の摩擦を軽減することが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
次に、サガラ刺繍に使用される従来のかぎ針について、図4(a)〜(c)を参照し説明する。この種のかぎ針は、かぎ針本体6の先端部にフック部7が形成され、フック部7は針幹部6aの先端を細幅幹部6bとし円錐状突起部8が設けられ、円錐状突起部8に折り返されたフック先端部9が設けられ、糸が引っ掛かるかぎ目6cが形成されている。フック先端部9は、図4(c)に示すように、糸Sが掛け渡される糸掛溝6dがフック部7の両側部に形成され、6b′が細幅幹部6b側であり、9′がフック先端部側である。また、かぎ針6を生地から引き抜く際、かぎ針6のフック先端部9を生地に引っ掛けないようにするためには、針幹部6aの外側端からフック先端部9のかぎ目6c側側端までの巾Dを十分広く形成する必要がある。この巾Dが狭い場合、かぎ目6cの巾が広がるもののかぎ針6を生地から引く抜く際、フック先端部9が生地に引っ掛かるおそれがあり、生地荒れ等が発生するし、巾Dを広くすれば、かぎ目6c及び糸掛溝6dの巾が狭くなり糸外しが不安定になるといった問題が発生する。
【0004】
因みに、サガラ刺繍(環縫)には、チェーンステッチとループステッチとがあり、チェーンステッチは、図6の工程順(1)〜(10)に示したように、前後のループを鎖状に平面的に繋いでいく縫い目である。工程順(1)は、糸Sをかぎ針6のフック部7に引っ掛けて生地Cから引き抜き、かぎ針6を上死点まで上昇させる。続いて、工程順(2)〜(5)では、ルーパーlの回転を停止させた後、ルーパーlを時計回りに回転させる過程で、かぎ針6を降下させて生地Sに通過させルーパーlの針挿入孔laに挿入し、その降下過程でフック部7に引っ掛かった糸Sを外し、かぎ針6を降下させる。工程順(6)〜(10)の過程で、ルーパーlの時計回りの回転により、かぎ針6の針幹部に糸Sを巻き付け、かぎ針6を上昇させることによって、糸Sをかぎ針6のフック部7に引っ掛け、かぎ針6をループ内を上死点まで通過させてループPを形成し、ルーパーlを反時計回りに回転させて初期位置に戻し、生地Cを矢印Y方向に移動させることによって、ループP内をかぎ針6に引っ掛かって糸Sが通過し、再び同様の動作を繰り返すことにより、新たなループが形成されてチェーンループが形成される。
【0005】
ループステッチは、ループを一つ一つ単独で倒立した立体的な縫い目(タオル目)になっており、図7の工程順(1)〜(10)に説明する。工程順(1)は、かぎ針6が上死点に達し、生地CにはループPが形成され、生地が移動した状態を示している。工程順(2)〜(5)は、かぎ針6が上死点から降下して生地Cに差し込まれ、停止したルーパーlの針挿入孔laに挿入され、このかぎ針6が降下する過程で、ルーパーlを時計回りに回転させることにより糸Sがかぎ針6の針幹部に巻き付けられる。続いて、工程順(6)〜(10)に示すように、ルーパーlを時計回りに回転させながらかぎ針6を上昇させることによって、糸Sがフック部7に引っ掛かり、かぎ針6を生地Cを通過させて上死点まで上昇させることによりループPが生地Cに形成される。この過程で、ルーパーlは回転を停止し、反時計回りに回転して初期位置に戻し、生地Sは矢印Y方向に移動してフック部7からループPを引き抜き、同様の動作を繰り返してループステッチが形成される。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−162290号公報(明細書全文,全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7から明らかなように、ループステッチでは、かぎ針のフック部から一定のタイミングで糸が抜けないと、ループの大きさやループの倒立の角度にばらつきが生じ、綺麗な刺繍柄にならない。従って、仕上がりの良好な刺繍にするには、かぎ針のフック部から糸外しが一定のタイミングで安定して行われる必要がある。また、フック部からの糸外しは、図5(a)に示したように、フック部7に糸Sを引っ掛けて引き出し、かぎ針6が上死点まで上昇した後、かぎ針6が降下する過程で行われる。しかし、図5(b)に示すように、従来、かぎ針6が上死点から僅かに下がった時点で糸Sが緩み、かぎ針6の先端部が縒られた糸Sの縒り目(糸Sa,Sb)の間に差し込まれてかぎ針6が貫通することがあった。殊に、縫い目の間隔の狭いループステッチでは、かぎ針9の先端部に糸Sが引っ掛かる確率が高く、このような引っ掛かりがあると、糸が切れない場合、チェーンステッチの縫い目が生地に形成され、仕上がりの悪い刺繍となるおそれがあった。
【0008】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、かぎ針のフック部から糸外しが安定して行われ、むらのない良好な仕上がりの刺繍ができるかぎ針を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を達成したものであり、請求項1の発明は、かぎ針において、かぎ針の針幹部の先端部を該針幹部の厚さを漸減した肉薄幹部とし、該肉薄幹部の先端に円錐状突起部を設け、かつ該円錐状突起部にフック先端部を設けて前記針幹部の先端にフック部を形成し、該フック部の糸が引っ掛かり保持する底部を略U字形状とし、該底部から前記円錐状突起部と前記フック先端部とにかけて前記フック先端部の外側端方向に傾斜した傾斜面を設けたことを特徴とするかぎ針である。
【0010】
また、請求項2の発明は、前記傾斜面が、前記フック先端部の最先端部方向に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のかぎ針である。
【0011】
また、請求項3の発明は、前記傾斜面が、平面又は曲面であることを特徴とする請求項1又は2に記載のかぎ針である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明では、かぎ針において、かぎ針の針幹部の先端部を該針幹部の厚さを漸減した肉薄幹部とし、該肉薄幹部の先端に円錐状突起部を設け、かつ該円錐状突起部にフック先端部を設けて前記針幹部の先端にフック部を形成し、該フック部の糸が引っ掛かり保持する底部を略U字形状とし、該底部から前記円錐状突起部と前記フック先端部とにかけて前記フック先端部の外側端方向に傾斜した傾斜面を設けたことを特徴とするものであるのであり、かぎ針のフック部に引っ掛かけた糸を外す際に、糸が傾斜面に沿って移動し針中心軸よりフック先端部の外側端方向に片寄った位置に引き出され、円錐状突起部の先端は針中心軸に沿って降下するが、糸はその針中心軸に沿った円錐状突起部の先端直下を避けるように引き出され、かぎ針を降下させても円錐状突起部の先端が糸を貫通することがなく、糸の引っ掛かりによるチェーンが生地に形成されることがなく、仕上がりの良好な刺繍となる利点がある。また、かぎ針のフック部から一定のタイミングで糸が抜け、生地に形成されたループの大きさやループの倒立の角度が一定になり、綺麗な仕上がりの刺繍となる利点がある。
【0013】
また、請求項2の発明では、前記傾斜面が、前記フック先端部の最先端部方向に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のかぎ針であるので、フック部に引っ掛かった糸がフック先端部の外側端方向に移動し易く、かぎ針のフック部からの糸外しが一層安定する利点がある。
【0014】
また、請求項3の発明では、前記傾斜面が、平面又は曲面であることを特徴とする請求項1又は2に記載のかぎ針であるので、フック部に引っ掛かった糸が傾斜面に沿ってフック先端部の外側端方向に移動し、針中心軸線上を避けるように糸が引き出され、かぎ針が降下した時にかぎ針の先端が糸に引っ掛かるのを防止することができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のかぎ針の実施の形態について図面を参照し説明する。先ず、図1(a)〜(c)は本発明のかぎ針の一実施形態を示し、(a)はその正面図、(b)はその側面図、(c)はそのZ−Z矢視断面図である。図2(a)は本実施形態のかぎ針が糸を引き出した状態を示し、(b)はかぎ針が僅かに降下した状態を示す説明図である。本実施形態は、従来のかぎ針が糸保持部に糸掛溝が形成されていたのに対し、糸掛溝を設けることなく、かぎ針の糸保持部に対応する部分に糸が移動し易いように傾斜面を形成したものであり、以下、本実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本実施形態のかぎ針は、図1(a)〜(c)に示すように、かぎ針10が針幹部10aとその先端部にフック部13とからなり、針幹部10aの先端部を針幹部10aの厚さを漸減した肉薄幹部10bとし、肉薄幹部10bの先端に円錐状突起部12を設け、円錐状突起部12に肉薄幹部10b方向に折り返してかぎ目15を形成するフック先端部14が設けられ、フック部13が針幹部10aの先端部に形成されている。糸Sはフック部13のかぎ目15に引っ掛かり、糸Sが保持されるフック部13の底部11は略U字形状を呈している。フック部13の糸保持部には、従来のかぎ針のように、フック部に糸掛溝を設けることなく、図1(c)に示すように、底部11から円錐状突起部12とフック先端部14とにかけてフック先端部14の外側端14a方向に傾斜した傾斜面16が形成されている。
【0017】
傾斜面16は、底部11近傍から円錐状突起部12の側面12aとフック先端部14の側面14bとにかけてフック先端部14の外側端14a方向に傾斜した面であり、傾斜面16は、円錐状突起部12とフック先端部14とのそれぞれの両側面に形成されている。このような傾斜面16をフック部13の両面に形成することによって、フック部13に引っ掛かけた糸は、図1(c)に矢印で示したように、フック先端部14の外側端14a方向に移動して針中心軸Laから片寄らせることが可能である。さらに、傾斜面16は、図1(a)は傾斜面16の傾きを補助線Lbで示したように、傾斜面16を針中心軸Laに対して針幹部10aの上端部側方向に傾斜している。このように、傾斜面16は、フック先端部14の最先端部方向に傾斜した傾きが与えられることによって、フック部13に引っ掛かけた糸をフック先端部14の外側端14a方向に一層片寄らせることができる。即ち、かぎ針10で引き出される糸は、針中心軸Laから離れて位置に引き出される。
【0018】
本実施形態では、かぎ針10のフック部13に引っ掛けた糸Sの糸外しが、図2(a)に示したように、かぎ針10のフック部13に糸Sを引っ掛けてルーパーlの糸引き出し孔lbから引き出され、かぎ針10を上死点まで上昇した状態では、従来のように、かぎ針10のフック部13には糸掛溝が設けられていないので、図2(b)に示したように、かぎ針10を降下させることによって、糸Sはフック部13の傾斜面16に沿ってフック先端部14の外側端14a側に片寄って撓み、糸Sが針中心軸Laの線上を避けるように存在することになり、かぎ針10を降下してもかぎ針10の先端が糸Sを貫通することなく、円錐状突起部12の先端がルーパーlの針挿入孔laに挿入される。なお、糸引き出し孔lbはルーパーlの中心より端に設けられおり、糸Sは針中心軸La線上を避けるように、糸引き出し孔lbからフック部13に斜めに引き出されているので、かぎ針10を降下させても糸Sに引っ掛けることがなく、仕上がりの良好な刺繍が可能である。
【0019】
なお、本実施形態では、傾斜面16がフック先端部14の外側端14a方向に傾斜を与えることで、糸をフック先端部14の外側端14a方向に片寄らせることができるし、さらに、傾斜面16をフック先端部14の最先端部方向への傾斜を加えることによって、糸を一層フック先端部14の外側端14a方向に円滑に移動させて針中心軸Laより片寄らせることができる。無論、傾斜面16は平面であってもよいし、曲面を形成してもよい。傾斜面16が曲面であっても、フック部13に引っ掛かった糸を曲面に沿って針中心軸Laから遠ざけることができ、かぎ針10を降下させた際にかぎ針10の先端部が針中心軸Laより片寄った位置に糸Sが引き出されており、かぎ針10の先端部が糸Sを貫通することなく、仕上がりの良好な刺繍が可能である。
【0020】
さらにまた、本実施形態では、かぎ針のフック先端部の先端部の正面から見た横幅を、図4に示した従来のかぎ針よりも広くして、かぎ針を生地から抜く際、フック先端部の先端に生地の引っ掛かりが少なくなるように工夫されている。即ち、従来、フック先端部の外側端の横幅を広くすると、ステッチ幅が狭い場合、糸外しが困難になるが、本実施形態では、従来のかぎ針のように、糸保持部に糸掛溝が形成されておらず、フック部がフック先端部の外側端の横幅を針中心軸側の横幅より狭く、傾斜角度が比較的大きい角度の傾斜面となっており、フック部の糸保持部に引っ掛かった糸が傾斜面に沿ってフック先端部の外側端側に移動し易く、かぎ針を降下させた際にループ状の糸が立ち上がるようにフック先端部から外れるために、針中心軸側のフック先端部の先端部の幅を従来より広くすることが可能であり、糸外しが安定するし、かぎ針が生地に引っ掛かることがなく、刺繍の仕上がりが綺麗になる利点がある。
【0021】
また、本実施形態では、かぎ針の糸保持部に糸掛溝が形成されていないので、糸の自由度が高く、傾斜面の傾斜角度に応じて糸が円滑に移動して安定するように工夫されており、刺繍のステッチ(針目)の間隔に応じて傾斜面の傾斜角度を調整することも可能であるし、適宜、傾斜面に曲面を設けてかぎ針からの安定した糸外しができるようにすることも可能である。なお、傾斜面の傾斜角度とは、針中心軸方向に傾斜した針中心軸に対する角及び/又は針中心軸に対するフック部の外側端方向の直交線に対し、傾斜した傾斜角である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の活用例としては、サガラ刺繍に適したかぎ針として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は本発明の一実施形態を示す正面図であり、(b)はその側面図であり、(c)はそのZ−Z矢視断面図である。
【図2】(a)は本実施形態のかぎ針が糸を引き出した状態を示す説明図であり、(b)は本実施形態のかぎ針が僅かに降下した状態を示す説明図である。
【図3】(a)は従来のかぎ針の側面図であり、(b)はその側面図である。
【図4】(a)は従来の他のかぎ針の正面図であり、(b)はその側面図であり、(c)はそのかぎ針のX−X矢視断面図である。
【図5】(a)は従来のかぎ針の糸引き出し状態を示す斜視図であり、(b)はかぎ針が僅かに降下し糸の引っ掛かりを説明する説明図である。
【図6】チェーンステッチの説明図である。
【図7】ループステッチの説明図である。
【符号の説明】
【0024】
10 かぎ針
10a 針幹部
10b 肉薄幹部
11 底部
12 円錐状突起部
13 フック部
14 フック先端部
14a 外側端
14b 側面
15 かぎ目
16 傾斜面
l ルーパー
la 針挿入孔
lb 糸引き出し孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かぎ針において、かぎ針の針幹部の先端部を該針幹部の厚さを漸減した肉薄幹部とし、該肉薄幹部の先端に円錐状突起部を設け、かつ該円錐状突起部にフック先端部を設けて前記針幹部の先端にフック部を形成し、該フック部の糸が引っ掛かり保持する底部を略U字形状とし、該底部から前記円錐状突起部と前記フック先端部とにかけて前記フック先端部の外側端方向に傾斜した傾斜面を設けたことを特徴とするかぎ針。
【請求項2】
前記傾斜面が、前記フック先端部の最先端部方向に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のかぎ針。
【請求項3】
前記傾斜面が、平面又は曲面であることを特徴とする請求項1又は2に記載のかぎ針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−36316(P2008−36316A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217856(P2006−217856)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(000104021)オルガン針株式会社 (8)
【Fターム(参考)】