説明

きのこの液体種菌培養装置及びきのこの液体種菌の培養方法

【課題】製造工程におけるタンク内外の空気の供給及び排気を良好に行うことができるきのこの液体種菌培養装置及びきのこの液体種菌の培養方法を提供する。
【解決手段】液体種菌培養装置は、培養タンク1と、培養タンク1内の培養液の爆気を行うエアレーション装置2とを備え、エアレーション装置2は、培養液中に空気を送り込む送気管3と、培養タンク1内の空気を排気する排気管4と、送気管3と排気管4とを培養タンク1の外部でバイパスする開閉バルブ22付きのバイパス管5とを備える。送気管3には、種菌接種時に空気の流入を阻止する第1バルブ10と、加熱殺菌時に培養液の逆流を阻止する第2バルブ12と、流入空気を清浄化するフィルタ11とを備える。排気管4には、着脱自在に設置される圧力計16と、圧力計16を挟んでその両側に配置され圧力計の取り外し時に閉鎖する第3バルブ17及び第4バルブ18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を培地基材とした種菌(液体種菌)を培養するためのきのこの液体種菌培養装置及びきのこの液体種菌の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
えのきだけ、ぶなしめじ、まいたけ、なめこ、エリンギ等のきのこの人工栽培では、種菌が使用される。種菌とは、きのこの二次菌糸をおがくずやチップを基材とした固体培地又は液体培地で培養して、取り扱いを容易にしたものであって、植物で例えると種のようなものである。この種菌を培地に接種し、きのこ(子実体)の製造工程(培養工程、発生工程、育成工程)を経ることにより、きのこを収穫することができる。
【0003】
種菌の製造には、固体培養と液体培養の2種類の方法があるが、固体培養が一般的である。しかしながら、固体培養は、液体培養よりも操作が煩雑であり、時間もかかる。したがって、その分、培養のためのスペースも狭められてしまう。また、培養瓶を用いて種菌を培養するから、多数本の培養瓶を用意する必要があり、培養瓶の取り扱いが煩雑になる
【0004】
また、固体培養の場合、実際に培地に種菌を接種してきのこを栽培してみないと種菌の良否を確かめることができないため、種菌に問題があった場合に栽培ロスが発生するし、種菌を回復させる場合も回復までに時間がかかるという問題がある。
【0005】
そこで、液体培養が注目されており、例えば、きのこの液体種菌の製造方法が特許文献1に開示されている。このきのこの液体種菌の培養方法の工程を模式的に表したものを図7に示す。なお、図7中の白丸は、バルブを開いている状態を示し、黒丸はバルブを閉じている状態を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−51639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加熱殺菌工程において、加熱によって培養タンク内の空気が膨張するため、その空気を培養タンク外へ排気しなければならないが、特許文献1によると、図7中上段の(A)に示すように、加熱殺菌工程においてバルブ(52)を開いて排気を行った場合(破線矢印は排気の流れを示す)、冷却工程において空気が流入してきた際に、バルブ(52)側の管にはフィルタが設けられていないため、一緒に雑菌も侵入してしまう。また、図7中下段の(B)に示すように、加熱殺菌工程においてバルブ(45)及び(48)開いて殺菌を行った場合(破線矢印は排気の流れを示す)は、冷却工程に流入する空気はフィルタ(44)を通るため、培養タンク内が汚染されないですむ。しかしながら、加熱殺菌時には培養タンク内の圧力が高まるため、培養液が培養タンク外へ逆流してしまう(実線の矢印は液体の逆流を示す)。また、特許文献1によると、圧力計(54)を取り外せないため、加熱殺菌時に圧力計が破損しやすい。
【0008】
そこで、本発明は、製造工程におけるタンク内外の空気の供給及び排気を良好に行うことができるきのこの液体種菌培養装置及びきのこの液体種菌の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、培養液を収容して種菌を培養するための培養タンクと、培養タンク内の培養液に空気を供給して爆気を行うためのエアレーション装置とを備え、エアレーション装置は、流入口から取り入れた空気をタンク下部の噴出口から培養タンク内の培養液中に送り込む送気管と、培養タンク内の培養液に供給された空気を培養タンク上部の排気管口より培養タンク外へ排気する排気管と、送気管と排気管とを培養タンクの外部でバイパスする開閉バルブ付きのバイパス管とを備え、送気管には、培養タンク内への種菌接種時に培養タンクへの空気の流入を阻止するよう流入口側に開閉自在に設けられた第1バルブと、第1バルブよりも下流側でかつバイパス管の分岐部よりも下流側において、培養液の加熱殺菌時に培養タンク内の培養液が逆流するのを阻止するように開閉自在に設けられた第2バルブと、第1バルブとその下流側の前記バイパス管の分岐部との間に介在され流入口から流入する空気を清浄化するフィルタとを備え、排気管には、バイパス管の分岐部よりも下流側に着脱自在に設置される圧力計と、圧力計を挟んでその両側に配置され圧力計の取り外し時に閉鎖する第3バルブ及び第4バルブとを備えたことを特徴とするきのこの液体種菌培養装置である。
【0010】
このようなきのこの液体種菌培養装置を使用して、培養液の加熱殺菌前に行う加熱殺菌準備工程と、高温雰囲気下で培養タンク内の培養液を加熱殺菌する加熱殺菌工程と、培養液の冷却を行う冷却工程と、培養液に種菌を接種する種菌接種工程と、種菌の培養を行う種菌培養工程とを順次行うことにより、きのこの液体種菌を培養することができる。
【0011】
すなわち、加熱殺菌準備工程において、培養タンク内に培養液を収容すると共に、排気管の取付口に着脱自在に固定された圧力計を取外して、取付口に蓋を閉める。加熱殺菌前に圧力計を取外しておくことにより、熱による圧力計の破損を未然に防げる。また、圧力計の取付口には蓋を閉めることにより、取付口からの汚染空気の流入を防止できる。
【0012】
加熱殺菌工程において、第1バルブ及び開閉バルブを開くと共に、第2バルブ、第3バルブ及び第4バルブを閉じ、培養タンク内の膨張した空気を排気管から、バイパス管及び送気管を通って、送気管の流入口より排出することができる。加熱に伴う培養タンク内の空気の膨張によって、培養タンク内の圧力が高くなり過ぎるのを防ぐことができる。また、閉状態の第2バルブにより、高圧状態となった培養タンク内から培養液が培養タンク外へ逆流するのを阻止することができる。
【0013】
冷却工程において、第3バルブおよび第4バルブを閉じて排気管を閉鎖した状態で、蓋を取外して取付口に圧力計を取り付けると共に、第1バルブ及び開閉バルブを開き、第2バルブ、第3バルブ及び第4バルブを閉じた状態のままで、冷却による培養タンク内の空気の凝縮に伴う培養タンク内への空気の流入を、送気管の流入口から、送気管、フィルタ、バイパス管及び排気管を通って、培養タンク内に開口する排気管口から行う。圧力計を取り付ける際、第3バルブ及び第4バルブは閉じられているため、蓋を取外した際の取付口からの空気の流入による汚染を最小限に抑えることができる。また、空気流入の際には、送気管にはフィルタが設けられているので、流入口から流れ込む空気を清浄化できる。したがって、培養タンク内の汚染を防ぐことができる。また、培養タンクの外周にウォータージャケットを設け、冷却工程においてウォータージャケット内に水を循環させるようにしてもよい。自然冷却に比べて格段に冷却時間を短縮化できる。
【0014】
種菌接種工程において、培養タンクの培養液中に種菌を接種する。閉状態の第1バルブにより、種菌接種時において、培養タンクへの空気の流入を阻止することができる。
【0015】
種菌培養工程において、第1バルブ、第2バルブ、第3バルブ及び第4バルブを開くと共に開閉バルブを閉じて、空気を流入口から送気管を通して噴出口から送り込むことにより培養液のエアレーションを行うと共に、培養タンク内の空気を排気管口から取り入れ、排気管を通して排気口から排気する。
【0016】
また、培養タンク内に収容される培養液を攪拌する攪拌装置を設けるのが好ましい。攪拌装置は、攪拌羽根と、攪拌羽根の羽根軸に連結される駆動モータとを備え、羽根軸の上端はタンク外へ露出され、駆動モータを羽根軸に着脱自在に設ける構成とするのがよい。駆動モータを着脱自在とすることにより、加熱殺菌時における駆動モータの破損を防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、培養タンク内に空気の供給及び排気を行うためのエアレーション装置の所定位置に複数のバルブを設け、各工程に応じてバルブの開閉させることにより、培養タンク内の空気の供給及び排気を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態のきのこの液体種菌培養装置の平面図
【図2】本実施形態のきのこの液体種菌培養装置の一部透視側面図
【図3】圧力計又は蓋の取付状態を示す図であって、(a)は蓋の取付状態を斜視図、(b)は圧力計の取付状態を示す斜視図
【図4】圧力計又は蓋の取付状態を示す図であって、(a)は蓋の取付状態を断面図、(b)は圧力計の取付状態を示す断面図
【図5】駆動モータと攪拌羽根の軸との連結状態を示す図
【図6】本実施形態のきのこの液体種菌の培養方法の工程を示す図
【図7】従来のきのこの液体種菌の培養方法の工程を示す図
【図8】本実施形態のきのこの液体種菌培養装置の洗浄台装置を示す斜視図
【図9】本実施形態のきのこの液体種菌培養装置の洗浄台装置を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を説明する。図1は本実施形態のきのこの液体種菌培養装置の平面図、図2は本実施形態のきのこの液体種菌培養装置の一部透視側面図、図3は圧力計又は蓋の取付状態を示す図であって、(a)は蓋の取付状態を斜視図、(b)は圧力計の取付状態を示す斜視図、図4は圧力計又は蓋の取付状態を示す図であって、(a)は蓋の取付状態を断面図、(b)は圧力計の取付状態を示す断面図、図5は駆動モータと攪拌羽根の軸との連結状態を示す図である。
【0020】
図1及び図2に示すように、本実施形態におけるきのこの液体種菌培養装置は、培養液を収容して種菌を培養するための培養タンク1と、培養タンク1内の培養液中に空気を供給して爆気を行うためのエアレーション装置2とを備える。
【0021】
エアレーション装置2は、空気を培養タンク1内の培養液中に送り込む送気管3と、培養タンク1内に供給された空気を培養タンク1外へ排気する排気管4と、送気管3と排気管4とを培養タンク1の外部でバイパスするバイパス管5とからなり、これらは複数の金属製のパイプが連結することにより構成される。
【0022】
送気管3は、培養タンク1内外を連通して設けられ、流入口6が培養タンク1外に開口し、噴出口7が培養タンク1内の下部で培養液中に開口可能とされ、バイパス管5への分岐部は培養タンク1外に配置される。送気管3は、流入口6から分岐部までの上流側送気管3aと、分岐部から噴出口7までの下流側送気管3bとからなる。
【0023】
送気管3の噴出口7は、送気管3を構成するパイプの先端開口でもよいが、パイプの先端部分を折曲させ、その折曲部の側面に複数の穴を設ける構成とされる。これらの複数の穴(噴出口7)から空気が噴出し、培養タンク1内に収容される培養液のエアレーションを効率よく行うことができる。
【0024】
上流側送気管3aには、第1バルブ10及びフィルタ11が設けられる。第1バルブ10は、培養タンク1内への種菌接種時に、培養タンク1への空気の流入を阻止するよう流入口6側に開閉自在に設けられる。フィルタ11は、第1バルブ10とその下流側のバイパス管5への分岐部との間に介在され、流入口6から流入する空気を清浄化する。
【0025】
下流側送気管3bには、培養タンク1外に第2バルブ12が設けられる。第2バルブ12は、培養液の加熱殺菌時に培養タンク内の培養液が逆流するのを阻止するように開閉自在に設けられる。
【0026】
排気管4は、培養タンク1内外を連通して設けられ、排気管口14が培養タンク1内に開口し、排気口15が培養タンク1外に開口し、バイパス管5への分岐部は培養タンク1外に配置される。排気管口14は、培養タンク1の上部に位置し、培養液中に浸漬しない。培養タンク1内の空気を排気管口14から取り入れ、排気口15から培養タンク1外へ排気することができる。排気管4は、排気管口14から分岐部までの上流側排気管4aと、分岐部から排気口15までの下流側排気管4bとからなる。
【0027】
下流側排気管4bには、培養タンク1内の圧力を計測する圧力計16が着脱自在に設けられると共に、圧力計16を挟んでその両側に第3バルブ17及び第4バルブ18が配置される。なお、第4バルブ18が下流側(排気口15に近い側)に設けられる。第3バルブ17及び第4バルブ18は、圧力計16の取り外し時に下流側排気管4bを閉鎖して、圧力計16の取付口20から外気が流入するのを阻止する。
【0028】
図3及び図4示すように、圧力計16は、ヘルールクランプ19によって、下流側排気管4bを形成するパイプの取付口20に着脱自在に設けられる。取付口20は、パイプから上方へ突出するように分岐して形成され、その開口が取付口20とされる。取付口20の先端はフランジ状に形成される。また、圧力計16の下端もフランジ状に形成される。取付口20のフランジ部20aと圧力計16のフランジ部16bとを重ね合わせ、その重ね合わせ部分をヘルール19aで囲い、クランプ19bで締め付けることにより固定する。また、取付口20には、取付口20を覆うことが可能な別部材の栓21が、ヘルールクランプ19によって着脱自在に取付可能とされる。栓21は、下部がフランジ状に形成され、そのフランジ部を取付口20のフランジ部に重ね合わせて、その重ね合わせ部分をヘルールクランプ19で締め付け固定することができる。
【0029】
バイパス管5は、送気管3の分岐部と、排気管4の分岐部とを連結する。バイパス管5には、バイパス管5を開閉する開閉バルブ22が設けられる。
【0030】
上述のバルブ10、12、17、18及び22としては、第1バルブ10及び第4バルブ18にはニードルバルブが使用され、第2バルブ12、第3バルブ17及び開閉バルブ22にはダイヤフラムバルブが使用されるが、これに限定されるものではない。
【0031】
培養タンク1は、ステンレス板を用いて有底の密閉可能な容器に形成されたものである。なお、ステンレス板以外の素材を使用することが可能であり、金属板に限らずプラスチック等の素材を使用することも可能である。培養タンク1の大きさは適宜設計可能であるが、本実施形態では、直径77cm、高さ130cmの培養タンク1を使用した。培養タンク1の上部には培養液投入口となる開口部(図示せず)と、その開口部を塞ぐ蓋24が設けられる。蓋24は、ネジ材25により開閉自在かつ密閉可能とされる。蓋24の中央部に、攪拌装置34を固定するための攪拌装置取付部26が設けられる。
【0032】
培養タンク1の上部には、前培養段階で調整された調整培養液を投入するための接種口27が設けられる。接種口27には、後述の種菌接種工程において、調整培養液の入った容器(三角フラスコ)28内の調節培養液と連通する注入管29が連結される。
【0033】
培養タンク1の下部には、培養タンク1内の培養液を排出するための排出口30が設けられる。培養タンク1の側面と上面には、培養タンク1内の培養液の様子を確認するための点検用窓31が設けられる。また、培養タンク1の下部にはキャスター32が設けられており、培養タンク1の移動を行いやすい。
【0034】
培養タンク1の外周を覆うように、冷却水の流通路となるウォータージャケット33が設けられる。ウォータージャケット33は、培養タンク1の外周壁のさらに外側周囲に第2の外壁が設けられて2重壁構造とされ、これらの間の空間に冷却水を流すことができる。ウォータジャケット33は、培養タンク1の側面ののぞき窓31及び培養タンク1の下部のキャスター32を避けながら、培養タンク1の側面の大部分を覆うように、C字状に設けられる。ウォータージャケット33は、下部の注入口33aから冷却水を注入し、余分な水が上部の排水口33bから流れ出る構造となっている。ウォータージャケット33内に冷却水を循環させることにより、冷却水と、培養タンク1内の培養液との間で熱交換が行われ、培養液を短時間で冷却することができる。
【0035】
培養タンク1内の培養液を攪拌する攪拌装置34が設けられる。攪拌装置34は、攪拌羽根35と、駆動モータ36とから構成される。攪拌羽根35の羽根部分は培養タンク1内部に配され、培養タンク1内に収容される培養液を攪拌できる。攪拌羽根35の羽根軸35aの上端部分が攪拌装置取付部26を挿通して培養タンク1外へ突出される。攪拌羽根35の羽根軸35aは攪拌装置取付部26に回転可能に固定される。さらに、図5に示すように攪拌羽根35の羽根軸35aを駆動モータ36の軸36aへ挿通し、互いの挿通孔35b、36bにネジ37及びナット38で固定することにより、攪拌羽根35の羽根軸35aと駆動モータ36とを着脱自在に固定される。この構成により、加熱殺菌時において、攪拌装置34の駆動モータ36を取り外すことができる。
【0036】
次に、液体種菌培養装置の洗浄台装置41について説明する。培養タンク1は繰り返し使用可能であるが、使用後は培養タンク1内を洗浄する必要がある。洗浄作業は、培養タンク1のネジ材25を外して蓋24を開け、開口部から水等の洗浄水を注入して培養タンク1の内面を洗い、培養タンク1下部の排出口30から排水することにより行う。この際、液体種菌培養装置は重いため、排出口30からの排水作業を行いづらい。
【0037】
そこで、図8及び図9に示すように、洗浄台装置41は、液体種菌培養装置1が載置される架台42と、架台42を傾斜させる傾斜手段43とから構成される。傾斜手段43によって架台42上の液体種菌培養装置1を傾斜させて、排出口からの排水作業を容易に行うことができる。
【0038】
架台42は、台座44と、液体種菌培養装置1の周囲を囲むように台座44から立設された柵45とから構成される。柵45は、液体種菌培養装置1を傾斜させた際にずれ落ちないようにその周囲を規制する。前面の柵45aは開閉自在に設けられ、前面の柵45aを開けて、液体種菌培養装置1を出し入れすることができる。
【0039】
傾斜手段43は、架台42の台座44を支持する支持部46と、シリンダー等の昇降手段47とから構成される。支持部46は、軸部46bで架台42の台座44の前方側面を回動自在に支持して、架台42を前傾可能とする。また、シリンダー47は、支持部46の後端と、架台42の柵45の後端とを上下に連結する。シリンダ−47を伸縮させて、架台42の柵45の後方を昇降させることにより、架台42を傾斜させたり、戻したりすることができる。
【0040】
[液体種菌の製造工程]
以下に、液体種菌を製造する工程について順を追って説明する。液体種菌は、前培養段階及び本培養段階を経て製造される。
【0041】
なお、本液体種菌培養装置に使用される培養液としては、これに限定されるものではないが、例えば、水に、栄養素として大豆粉、リン酸水素塩、硫酸塩及び糖類をよく混合してなる培養液である。より、具体的には、大豆粉としては、脱脂大豆粉末を用いる。脱脂大豆粉末の培養液中の含有量は、0.5〜7.5g/Lの範囲、より好ましくは1.5〜4g/Lの範囲にあることが好ましい。リン酸水素塩としては、リン酸二水素カリウムを用いる。リン酸二水素カリウムの培養液中の含有量は、0.05〜2.5g/Lの範囲、より好ましくは0.2〜2.5g/Lの範囲にあることが好ましい。硫酸塩としては、硫酸マグネシウム七水和物を用いる。硫酸マグネシウム七水和物の培養液中の含有量は、0.05〜2.5g/Lの範囲、より好ましくは0.2〜2.5g/Lの範囲にあることが好ましい。糖類としては、精製砂糖を用いる。精製砂糖は、3〜20g/Lの範囲、より好ましくは6〜19g/Lの範囲にあることが好ましい。
【0042】
1.前培養段階
まず、きのこの保存菌株を収納した試験管から菌株をシャーレの固体培地(一般的な寒天培地)に接種し、温室(インキュベータ20℃)で培養する。培地内に菌糸が蔓延した後、シャーレから5mm角ブロック程度の塊を2〜10個取り出し、これを500〜1000mlの上記培養液が入った三角フラスコ28に接種する。なお、培養液の入った三角フラスコ28は、事前にオートクレーブを使用した高圧殺菌により121℃で15分間〜20分間殺菌してある。
【0043】
次に、塊を接種した三角フラスコ28を、20℃〜25℃程度の室温に調整した室内で1日間静置培養する。静置培養した後、20℃〜25℃の環境下で6〜11日ほど振とう(回転)培養する。振とう(回転)培養には、振とう培養機を使用し、回転数100rpmで振とうしたが、振とう培養機の回転数は50〜150rpm程度で適宜調節すればよい。
【0044】
振とう培養が完了に近づくと、培養液中に菌糸が伸長してくる。この培養液を本培養に使用する場合は、ホモジナイザー又はマグネットスターラー等で菌糸体を細かくしてから使用するのがよい。なお、マグネットスターラーを用いた回転培養によれば、結果的に菌糸体は細かくなる。細かくすることで本培養の際の菌まわりが速くなるからである。以上の前培養段階は7〜14日程度で完了する。
【0045】
2.本培養段階
次に、本培養段階に移る。図6は本実施形態のきのこの液体種菌の培養方法の工程を示す図である。なお、なお、図6中の白丸は、バルブを開いている状態を示し、黒丸はバルブを閉じている状態を示す。
【0046】
本培養では、約360L(又は470L)の上記培養液が収容された液体種菌培養装置を使用する。本培養段階では、A.加熱殺菌準備工程と、B.加熱殺菌工程と、C.冷却工程と、D.種菌接種工程と、E.種菌培養工程とを順次行う。
【0047】
<A.加熱殺菌準備工程>
加熱殺菌準備工程は、加熱殺菌工程前に行っておく工程である。クランプ19bを緩めて、圧力計16を取り外す。そして、取付口20に、栓21をヘルールクランプ19で締め付け固定する。また、培養タンク1内の培養液を攪拌する攪拌装置34の駆動モータ36を取り外す。圧力計16及び攪拌装置34の駆動モータ36が、加熱殺菌工程における加熱や蒸気の内部侵入等によって故障するのを防ぐことができる。
【0048】
<B.加熱殺菌工程>
加熱殺菌工程では、液体種菌培養装置が、従来からきのこの栽培で使用されている高圧加熱殺菌釜内に収容され、液体種菌培養装置ごと加熱殺菌される。本実施形態においては、120℃で約20分間殺菌するが、これに限定されるものではない。
【0049】
この際、第1バルブ10及び開閉バルブ22を開くと共に、第2バルブ12、第3バルブ17及び第4バルブ18を閉じた状態で高温下に配する。培養タンク1内の空気が膨張して培養タンク1内が高圧となるが、培養タンク1内の膨張した空気は、第2バルブ12、第3バルブ17及び第4バルブ18が閉じられているため、排気管4の排気管口14から上流側排気管4a、バイパス管5及び上流側送気管3aを通って、送気管3の流入口6より排出される。培養タンク1内の圧力が高くなり過ぎるのを防ぐことができる。また、高温の排気に伴って、上流側送気管3aに位置するフィルタ11の殺菌も行うことができる。
【0050】
<C.冷却工程>
次に、冷却工程に移る前の準備段階として、一時的に第1バルブを閉じて送気管3から培養タンク1内への空気の流入を阻止し、また、第3バルブ17、第4バルブ18を閉じて排気管4から空気の流入を阻止した状態で、加熱殺菌後の液体種菌培養装置を高圧加熱殺菌釜から出して培養室に移動する。
【0051】
そして、第3バルブ17及び第4バルブ18を閉じたままの状態で、クランプ19bを緩めて栓21を取り外した後、取付口20に圧力計16をヘルールクランプ19を用いて取り付ける。この際、第3バルブ17及び第4バルブ18は閉じられているため、栓21を取外した際に取付口20から培養タンク1内に汚染空気が流入するのを最小限に抑えることができる。
【0052】
さらに、流入口6に、清浄(無菌)空気を送り込む清浄エア供給ライン39を連結し、排気口15には排気ライン40を連結する。清浄エア供給ライン39は、空気を一次的に浄化するフィルタ等の浄化手段(図示せず)と、送風手段(図示せず)とを備えている。本実施形態において、送風手段は、コンプレッサーでのエア発生装置であり、高圧での送り込みが可能である。また、排気ライン40は、培養室外へ排気を行う。
【0053】
また、攪拌装置34の駆動モータ36を攪拌羽根35の軸に取り付けて、攪拌装置34を設置する。
【0054】
次に冷却工程に移り、第1バルブ10及び開閉バルブ22を開き、第2バルブ12、第3バルブ17及び第4バルブ18を閉じた状態とする。冷却工程では、ウォータージャケット33の下部の注入口33aから冷却水を注入し、余分な水を上部の排水口33bから排水させて、ウォータージャケット33内に冷却水を循環させる。冷却水と、培養タンク1内の培養液との間で熱交換が行われる。種菌を接種可能な20度前後にまで温度を下げるのに、従来の自然冷却では40時間近くかかっていたところを、約15時間で行うことができ、冷却時間を短縮できる。
【0055】
冷却時には、培養タンク1内の空気の凝縮が起きる。これに伴って培養タンク1内の圧力が下がるので、培養タンク1内へ空気を流入する必要がある。この空気の流入は、バルブが開いているパイプ、すなわち、送気管3の流入口6から上流側送気管3a、バイパス管及び上流側排気管4aを通って排気管4の排気管口から行われる。送気管3の流入口に接続された清浄エア供給ライン39より、培養タンク1内に強制的に空気が送り込まれ、培養タンク1内の圧力は約0.16MPaとなるように設定される。なお、空気流入の際には、上流側送気管3aにはフィルタ11が設けられているので、流入口6から流れ込む空気は浄化される。したがって、培養タンク1内の汚染を防ぐことができる。
【0056】
<D.種菌接種工程>
第1バルブを閉じて培養タンク1内への空気の流入を阻止した状態で、培養タンク1内に、前培養段階で種菌が接種され培養された調整培養液を接種する。前培養段階で使用した三角フラスコ28、1本分の調整培養液(600ml)を投入する。
【0057】
ここで、調整培養液の投入方法について説明する。三角フラスコ28内の調整培養液と連通した注入管29を、培養タンク1の上部の接種口27に連結する。三角フラスコ28には、清浄(無菌)エアを供給する清浄エア供給ライン41が接続されており、清浄エア供給ライン41は、空気を一次的に浄化するフィルタ等の浄化手段(図示せず)と、送風手段(図示せず)とを備えている。本実施形態において、送風手段は、コンプレッサーでのエア発生装置であり、高圧での送り込みが可能である。
【0058】
そして、培養タンク1内の圧力を0.02MPaまで一旦低下させておき、清浄エア供給ライン41でエアを三角フラスコ28内に送り込むこと、及び第1バルブ10を閉じて培養タンク1への空気の流入を阻止していることにより、三角フラスコ28内の圧力を、培養タンク1内の圧力よりも高く設定する。この圧力差を利用して三角フラスコ28内の調整培養液を培養タンク1内に注入することができる。この際、調整培養液は一切外気に触れないので、雑菌が混入しないですむ。なお、従来は、クリーンブース内で接種作業を行い、さらに、培養液を培養タンク1内に注ぎ込む際、アルコールランプなどで雑菌混入の防止を図っていたが、雑菌の混入を完全に防止することはできなかった。しかしながら、本実施形態では培養タンク1と直接連結されているため雑菌の混入の心配が全くない。
【0059】
<E.種菌培養工程>
次に、培養を開始する。培養室の室温は22℃〜23℃程度である。種菌培養工程において、第1バルブ10、第2バルブ12、第3バルブ17及び第4バルブ18を開き、開閉バルブ22を閉じることにより、流入口6から送りこまれた空気を上流側送気管3a及び下流側送気管3bを通して噴出口7から送りこんで、培養タンク1内の培養液のエアレーションを行う。このように、培養時には培養タンク1内にエアを吹き込みながら行う。このエアレーションの際、フィルタ11を介してエアが導入されるので、雑菌が培養タンク1内に入り込まない。
【0060】
また、培養タンク1内の培養液に供給された空気は、排気管口14から、排気管4を通して排気口15より排気される。流入口6から流入される空気量と、排気口15から排出される空気量とを調節することにより、培養タンク1内の圧力は、0.02〜0.04MPaに設定される。
【0061】
また、培養時には攪拌装置34により培養液の攪拌を行う。攪拌羽根35の攪拌によって、種菌をエアレーションの空気に暴露させて成長を早めることができる。また、攪拌羽根35の攪拌により、培養液中の種菌の菌糸を細かく切断することができる。このように種菌を細かく断片化してコロニーの大型化を防ぐことにより、従来は概要時間が約6日間かかっていたところを、3〜4日間に短縮化することができる。また、種菌培養終了後に、きのこ(子実体)の製造工程において培地に接種する際に、液体種菌を搬送する管や、接種用のノズル等の目詰まりを防ぐことができる。
【0062】
培養タンク1内で培養に要する期間はえのき茸等では3日〜6日程度であり、シメジ、ナメコ等では4日〜8日である。培養タンク1内での培養の進み具合は、点検用窓31から培養タンク1内の培養液の状態を視認することによって容易に知ることができる。培養が進んでくると培養タンク1内の培養液中に菌糸体が延びてくるから、培養状態を判断できる。
【0063】
また、点検用窓31から培養タンク1内の培養液の状態を視認することによって、種菌が不良であったり、培養不良が生じていたりすることを的確に知ることができる。また、種菌の不良は培養時の臭いによっても簡単に知ることができる。このように種菌の良否を知ることができることは、不良な種菌が実際の栽培に使用されることを防止し、これによって栽培ロスが生じることを未然に防止することができる点で従来のおがくず種菌等を使用する場合にくらべて有利である。また、仮に、種菌が不良であった場合でも、培養液の調製から殺菌、調整培養液を接種する工程を再度行うことによって、短期間で回復させることができる点で、有利である。
【0064】
このように、上記工程を経ることにより、液体種菌を製造することができる。この液体種菌を培地に接種し、きのこ(子実体)の製造工程(培養工程、発生工程、育成工程)を経ることにより、きのこを収穫することができる。なお、きのこの栽培方法は、きのこの種類によって生育環境や栽培工程が異なるが、それぞれのきのこの分野において一般的な栽培方法を採用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 培養タンク
2 エアレーション装置
3 送気管
3a 上流側送気管
3b 下流側送気管
4 排気管
4a 上流側排気管
4b 下流側排気管
5 バイパス管
6 流入口
7 噴出口
9 送風手段
10 第1バルブ
11 フィルタ
12 第2バルブ
14 排気管口
15 排気口
16 圧力計
17 第3バルブ
18 第4バルブ
19 ヘルールクランプ
20 取付口
21 栓
22 開閉バルブ
24 蓋
27 接種口
33 ウォータージャケット
34 攪拌装置
41 洗浄台装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を収容して種菌を培養するための培養タンクと、該培養タンク内の培養液に空気を供給して爆気を行うためのエアレーション装置とを備え、
該エアレーション装置は、流入口から取り入れた空気をタンク下部の噴出口から培養タンク内の培養液中に送り込む送気管と、培養タンク内の培養液に供給された空気を培養タンク上部の排気管口より培養タンク外へ排気する排気管と、前記送気管と排気管とを培養タンクの外部でバイパスする開閉バルブ付きのバイパス管とを備え、
前記送気管には、前記培養タンク内への種菌接種時に培養タンクへの空気の流入を阻止するよう流入口側に開閉自在に設けられた第1バルブと、該第1バルブよりも下流側でかつ前記バイパス管の分岐部よりも下流側において、培養液の加熱殺菌時に培養タンク内の培養液が逆流するのを阻止するように開閉自在に設けられた第2バルブと、前記第1バルブとその下流側の前記バイパス管の分岐部との間に介在され流入口から流入する空気を清浄化するフィルタとを備え、
前記排気管には、前記バイパス管の分岐部よりも下流側に着脱自在に設置される圧力計と、該圧力計を挟んでその両側に配置され圧力計の取り外し時に閉鎖する第3バルブ及び第4バルブとを備えたことを特徴とするきのこの液体種菌培養装置。
【請求項2】
前記培養タンクの外周にウォータージャケットが設けられたことを特徴とする請求項1に記載のきのこの液体種菌培養装置。
【請求項3】
前記培養タンク内に収容される培養液を攪拌する攪拌装置が設けられ、該攪拌装置は、攪拌羽根と、該攪拌羽根の羽根軸に連結される駆動モータとを備え、前記羽根軸の上端はタンク外へ露出され、前記駆動モータは前記羽根軸に着脱自在に設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載のきのこの液体種菌培養装置。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれかに記載のきのこの液体種菌培養装置を使用して、培養液の加熱殺菌前に行う加熱殺菌準備工程と、高温雰囲気下で培養タンク内の培養液を加熱殺菌する加熱殺菌工程と、培養液の冷却を行う冷却工程と、培養液に種菌を接種する種菌接種工程と、種菌の培養を行う種菌培養工程とを順次行うきのこの液体種菌の培養方法であって、
前記加熱殺菌準備工程において、前記培養タンク内に培養液を収容し、前記排気管の取付口から前記圧力計を取外した後、該取付口を蓋により閉塞し、
前記加熱殺菌工程において、第1バルブ及び開閉バルブを開くと共に、第2バルブ、第3バルブ及び第4バルブを閉じ、培養タンク内の膨張した空気を排気管から、バイパス管及び送気管を通って、送気管の流入口より排出すると共に、閉状態の第2バルブにより培養タンク内の培養液が逆流するのを阻止し、
前記冷却工程において、第3バルブおよび第4バルブを閉じて排気管を閉鎖した状態で、前記蓋を取外して取付口に圧力計を取り付けると共に、第1バルブ及び開閉バルブを開き、第2バルブ、第3バルブ及び第4バルブを閉じた状態のままで、冷却による前記培養タンク内の空気の凝縮に伴う培養タンク内への空気の流入を、送気管の流入口から、送気管、フィルタ、バイパス管及び排気管を通って、培養タンク内に開口する排気管口から行い、
前記種菌接種工程において、第1バルブを閉じて培養タンクへの空気の流入を阻止した状態で前記培養タンク内に種菌を接種し、
前記種菌培養工程において、第1バルブ、第2バルブ、第3バルブ及び第4バルブを開くと共に開閉バルブを閉じて、流入口からの空気を送気管を通して噴出口から培養タンク内へ送り込むことにより培養液のエアレーションを行うと共に、培養タンク内の空気を排気管口から、排気管を通して排気口より排気することを特徴とするきのこの液体種菌の培養方法。
【請求項5】
前記冷却工程において、ウォータージャケット内に水を循環させることを特徴とする請求項4に記載のきのこの液体種菌の培養方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−172318(P2010−172318A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21465(P2009−21465)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(307033626)
【出願人】(598118341)
【出願人】(500149522)中野市農業協同組合 (13)
【出願人】(509076856)
【出願人】(502432268)
【Fターム(参考)】