説明

きのこの菌床栽培法および小型菌床製造装置

【課題】労力が低減され、生産効率が高く、しかも工業的に生産するに適したきのこの栽培方法と、その菌床製造装置の提供。
【解決手段】種菌を接種し、培養させてきのこ菌糸が蔓延した菌床塊を細分化した後、複数の型枠5を有する菌床成形器4の型枠内に充填押圧して細片状の小型菌床に成形し、得た小型菌床に1個の子実体を形成させるよう、小型菌床の上面はプラスチックフィルムなどの非通気性材料で覆い外気との接触を断ち、小型菌床の下面には通気性材料を敷いて外気との接触を促進しながら菌床を培養して完熟させる。菌床製造装置は、所定の形状の小型菌床を同時に複数成形する型枠が複数形成された菌床成形器4と、前記型枠内に成形された菌床を、菌床成形器から押し抜きするための複数の押型を有する菌床押出器からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、きのこ、特にシイタケの菌床栽培法およびそれに用いられる小型菌床製造装置に関するもので、より具体的には、きのこの栽培および選別出荷作業の効率を向上させることに関するもので、きのこ栽培技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
きのこの栽培は大別すると、原木を用いる原木栽培と、オガクズ等に栄養源を添加してなる培地を用いる菌床栽培がある。
【0003】
きのこの中でも、シイタケは、一般的に、ブナまたはナラなど広葉樹のオガクズに、米糠、トウモロコシ糠、フスマなどの栄養源を添加し、水分を調整してポリプロピレン製袋に詰めて殺菌して種菌を接種して、1〜2.5kg前後の円柱状または直方体状の菌床とし、この菌床を温度23℃前後で3〜4ヶ月培養し、その後、袋から取り出して、低温刺激や浸水操作を加えて、シイタケを数回発生させるという方法で、1菌床当り1回の発生で、1個当り重量20〜40gの子実体を4〜12個発生させている。
【0004】
この菌床栽培を、より具体的に示せば、特開平6−217639号公報(特許文献1)に示されているように、木粉、米糠、ふすまを8:1:1に混合した培地原料を、ポリプロピレン製袋に1kg充填し、高圧殺菌し、冷却後、シイタケ種菌を接種し、図2に示されるように通気性キャップ9を装填し、容器内で培養した後、容器から取り出してさらに培養し、完熟した人工榾を、図1に示されるように、多段式栽培棚(幅60×長さ240×高さ160cm、7段)に、一段当り52個(4×13個)配列し、設定された温度条件および散水条件下で5か月間栽培してシイタケを収穫する。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、基本的に、ビンや袋等の小型容器を用いて栽培する方法で、人手に頼る生産システムであって、大規模な生産に適するものではないため、より効率的な菌床栽培法が種々提案されてきている。
【0006】
そこで、特開平2−163005号公報(特許文献2)においては、大規模なきのこの栽培が可能で、しかも生産性を向上させることができる培養方法として、菌糸を無菌培養して蔓延させた培地をほぐし、平面状に盛り込み後、非無菌培養する方法が提案されている。
【0007】
また、特開平4−173021号公報(特許文献3)においては、年間を通して充分に採算ベースに合うように生産することが可能で、安定した良質のきのこ類を計画的に生産することができる培養方法として、種菌を接種した培地を殺菌処理後培養処理した培養基を壊砕して所定形状のブロックに成形して育成する方法が提案されている。
【0008】
さらに、前記特許文献3の第1図や第7図に示されるように、菌糸が蔓延した培地からは、子実体が多数発芽するために、通常、子実体の間引きが必要であるが、間引き作業には多大な手数と時間を要するため、それを軽減する培養方法が、特開平1−160431号公報(特許文献4)に示されている。
【0009】
この特許文献4は、菌糸を蔓延させた培養基を大きな塊とし、その周囲や内部に隙間を空けぬようにして大容量の栽培容器内に収容し、前記培養基の大きな塊の一部周囲表面部分に、シイタケ子実体が互いに重なり合わないだけの間隔を空けて複数の小孔を透設し、小孔を通してシイタケの子実体を外部に向けて発芽、生育させる方法を開示している。
【0010】
その方法によれば、小孔から栽培容器容器外部に向けて発芽、成育するきのこは、その子実体が互いに重なり合って互いにその成育や形状に悪影響を及ぼし合うことがなく、多大な手間と時間を要する子実体の間引き作業をほとんど行う必要がないとしている。
【0011】
上記したように、ビンや袋等の小型容器を用いる、人手に頼る生産システムを大規模な生産に適するものにする方法が提案されてきているが、特許文献2や3の方法では、従来の方法と同様に、子実体の間引き作業を必要とし、使用培地での収量効率を上げるためには、従来同様、数週間間隔で浸水作業を行い、子実体を4〜5回発生させて収穫する必要がありものであり、長期の栽培期間とそのための労力を必要とするものである。
【0012】
また、特許文献4に記載の方法は、子実体の発生を小孔に限定することにより、子実体の間引き作業を省略することを可能にするものであるが、小孔での子実体の発生を制御できるものではないため、きのこの収量は偶然に支配されるうえ、収量効率を上げるには、上記した従来方法に頼らざるを得ないのである。
【0013】
発明者は、かかる現状に鑑み、培地重量を少なく、培地の厚さを可能な限り薄くすることによって、初回の発生で最大収量が得られ、菌床きのこ栽培の稼働率の向上に寄与できるとともに、工業製品のように一定規格のきのこを生産でき、しかも規格外品のロスの低減が可能な、きのこの栽培方法を、先に特願2000−82059号(特許文献5)で提案した。
【特許文献1】特開平 6−217639号公報(実施例、図1、図2)
【特許文献2】特開平 2−163005号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【特許文献3】特開平 4−173021号公報(特許請求の範囲、発明の目的)
【特許文献4】特開平 1−160431号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【特許文献5】特願2000−82059号(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
先に提案したきのこの栽培方法は、種菌を接種し、培養させてきのこ菌糸が蔓延した菌床塊を、分割成形して細片状の菌床とし、当該菌床に1個の子実体を形成させて、育成培養することを特徴とするもので、以下のような優れた効果を奏するものである。
【0015】
きのこ菌糸が蔓延した菌床塊を分割成形して細片状の菌床とし、特に子実体が1個形成するに適した重量及び/又は厚さに分割成形したので、一定の大きさのきのこを安定的に得ることができる。
【0016】
特に、従来の菌床栽培が、3〜4ヶ月の培養と、その後4〜6ヶ月間に4〜5回浸水発生作業を繰返し行い、培地重量の約40%にあたる子実体収量を回収していたのに対し、初回の発生だけで約34%の子実体収量を回収できるとともに、栽培期間の大幅な短縮を可能とする。
【0017】
また、菌糸の蔓延した菌糸塊を、板状の菌床主体に成形することによって、平面状に、しかも多層に、菌床を配列することが可能となるので、機械による処理が可能で、人手をかけずにきのこの大量生産を可能とするものである。
【0018】
さらに、板状の菌床主体からは、実質的に1個の子実体がその表面から成育するだけであるため、従来の栽培法で必要とされ、また多大な労力を掛けていた間引き作業を不要とする上、成育するきのこは、大きさの揃ったMクラスの規格品が主体となり、高品質のものが得られ、規格品外のものの発生も少なく、製品選別の手間を大幅に割愛することのできるものである。
【0019】
その際、菌床主体の四週と底面を、子実体の形成を阻害する材料、プラスチックフィルムやシート、或いは木質板などで被覆することによって、1個の子実体を、その表面から確実に発生させることが可能で、しかも保温、保湿効果も向上させることができるものである。
【0020】
発明者は、上記のような優れた効果を奏する、先に発明者が提案した、きのこの菌床栽培法に関して、より優れたもの、言い換えれば、より効率的なきのこの菌床栽培法を開発し、提供すべく検討を行ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記の目的を達成するため、この発明の請求項1に記載の発明は、
種菌を接種し、培養させてきのこ菌糸が蔓延した菌床塊を、細分化した後、細片状の小型菌床に成形し、
当該小型菌床に1個の子実体を形成させて、育成培養すること
を特徴とするきのこの菌床栽培法である。
【0022】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載のきのこの菌床栽培法において、
前記成形が、
細分化した菌床塊を、複数の型枠を有する菌床成形器の型枠内に充填することにより行われること
を特徴とするものである。
【0023】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載のきのこの菌床栽培法において、
前記小型菌床が、
子実体が1個形成するに適した、重量及び/又は厚さに成形されたものであること
を特徴とするものである。
【0024】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法において、
前記小型菌床が、
板状であって、その上面の表面積が30〜70cmの範囲にあること
を特徴とするものである。
【0025】
また、この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法において、
前記小型菌床が、
板状であって、その厚さが1.5〜3.5cmの範囲にあること
を特徴とするものである。
【0026】
また、この発明の請求項6に記載の発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法において、
前記菌床は
その質量が100g以下のものであること
を特徴とするものである。
【0027】
また、この発明の請求項7に記載の発明は、
請求項1又は2に記載のきのこの菌床栽培法において、
前記細片状の小型菌床は、
培養し完熟させる際に、当該小型菌床における子実体形成面の外気との接触を抑制すること
を特徴とするものである。
【0028】
また、この発明の請求項8に記載の発明は、
請求項7に記載のきのこの菌床栽培法において、
前記外気との接触の抑制は、
子実体形成面を非通気性材料で被覆することにより行うこと
を特徴とするものである。
【0029】
また、この発明の請求項9に記載の発明は、
請求項1に記載のきのこの菌床栽培法において、
前記細片状の小型菌床は、
培養し完熟させる際に、当該菌床における子実体非形成面の外気との接触を促進すること
を特徴とするものである。
【0030】
また、この発明の請求項10に記載の発明は、
請求項9に記載のきのこの菌床栽培法において、
前記外気との接触の促進が、
子実体非形成面を通気性材料で被覆することにより行うこと
を特徴とするものである。
【0031】
また、この発明の請求項11に記載の発明は、
請求項1〜10のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法において、
前記細片状の小型菌床は、
その底面及び側面が、子実体の形成を阻害する材料で被覆されていること
を特徴とするものである。
【0032】
また、この発明の請求項12に記載の発明は、
細分化された菌床を、所定の形状の小型菌床を同時に複数成形することが可能な、型枠が複数形成されてなる菌床成形器と、
前記型枠内に成形された菌床を、菌床成形器から押し抜きするための、成形器の型枠に対応する複数の押型を有する菌床押出器からなること
を特徴とする小型菌床製造装置である。
【発明の効果】
【0033】
この発明のきのこの菌床栽培法は、きのこ菌糸が蔓延した菌床塊を、細分化した後、細片状の小型菌床、特に子実体が1個形成するに適した重量及び/又は厚さの小型菌床に成形したので、小型菌床の作成が容易と成り、一定の大きさのきのこを安定的に得ることがより効率的にできるようになった。
【0034】
さらに、細分化した菌床塊を、複数の型枠を有する菌床成形器の型枠内に充填することに、より細片状の小型菌床とすることができ、菌床の作成がさらに容易となり、一定の大きさのきのこを安定的に得ることがより効率的にできるようになった。
【0035】
この発明においても、先の提案の発明と同様に、従来の菌床栽培の、3〜4ヶ月の培養と、その後の4〜6ヶ月間に4〜5回浸水発生作業の繰返しにより、培地重量の約40%に当たる子実体収量を回収していたのに対し、初回の発生だけで約34%の子実体収量を回収でき、栽培期間の大幅な短縮を可能とするものである。
【0036】
また、菌糸の蔓延した菌糸塊を、板状の菌床主体に成形することによって、平面状に、しかも多層に、菌床を配列することが可能となり、また、菌床の成形や栽培、さらには収穫などの機械化が可能で、人手を掛けずにきのこの大量生産を可能とするものである。
【0037】
さらに、板状の菌床主体からは、実質的に1個の子実体がその表面から成育するだけであるため、従来の栽培法で必要とされ、また多大な労力を掛けていた間引き作業を不要とする上、成育するきのこは、大きさの揃ったMクラスの規格品が主体となり、高品質のものが得られ、規格品外のものの発生も少なく、製品選別の手間を大幅に割愛することのできるものである。
【0038】
その際、細片状の小型菌床を培養して完熟させる際に、小型菌床における子実体形成面の外気との接触を、非通気性材料で被覆することにより抑制したり、あるいは子実体非形成面の外気との接触を、通気性材料で被覆することにより促進することや、子実体形成時に、小型菌床主体の四週と底面を、子実体の形成を阻害する材料、プラスチックフィルムやシート、あるいは木質板などで被覆することによって、1個の子実体を、その表面、特に上面から、より確実に発生させることを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、この発明にかかるきのこの栽培方法について、具体的に説明するに、この発明においては、菌糸が蔓延した塊状の菌床を細分化した後、成形して細片状の小型菌床とし、特に、子実体が1個形成するに適した重量及び/又は厚さに分割成形して、子実体を発生させる点を除けば、従来のきのこの栽培法が本質的に適用されるものである。
【0040】
すなわち、再成形前の菌床塊は、例えば、以下の方法によって得られる。
【0041】
広葉樹オガクズの木質原料に、市販のきのこ栽培用栄養源を重量比で4:1〜3:1の割合で混合し、水分を60〜65%に調整した後、容量800ccのきのこ培養ビン(ポリプロピレン製)に約500g詰め込み、高圧殺菌する。
【0042】
ついで、シイタケ種菌を接種して温度23℃、湿度70〜80%、暗条件下で90日間培養すると、シイタケ菌糸が菌床表面に蔓延するので、これを菌床塊とする。
【0043】
かくして得られた菌床塊は、これを細分化し、得た菌床塊を細片状の小型菌床に、特に、子実体が1個形成するに適した重量及び/又は厚さの細片に成形して小型菌床とし、この小型菌床を用いて子実体を発生させるもので、具体的には、以下に詳述するような板状の複数の小型菌床に成形するものである。
【0044】
成形して細分化させた菌床の大きさは、きのこの種類、培地の材質、栄養源の種類と添加量などにより変化するもので、1個の、より正確には実質的に1個のきのこ子実体を生育させるためには、上面の表面積が、少なくとも30〜70cm前後、厚さが1.5〜3.5cm前後で、その質量が100g以下の板状のものであることが好ましい。
【0045】
前記質量の決定は、あらかじめビンあるいは袋に充填した菌床培地で、たとえば、シイタケ菌を培養し、しかる後に菌床塊を掻き出して細分化し、子実体の発生を可能にする最小の培地重量を計算で求めることで行なうことができる。また、小型菌床の形状は、方形、矩形あるいは円盤状などであってもよく、格段の制限はない。
【0046】
なお、板状の小型菌床の成形には、後述する、所定の形状の小型菌床を同時に複数成形することが可能な、型枠が複数形成されてなる菌床成形器と、この型枠内に成形された菌床を、菌床成形器から押し抜きするための、成形器の型枠に対応する複数の押型を有する菌床押出器から小型菌床製造装置を用いると、小型菌床の調製が容易になるとともに、成形の自動化も可能となる。
【0047】
この板状の小型菌床は、従来の方法と同様に、保湿のためシートなどで被覆し、温度23℃で2〜3週間培養して完熟させることができるが、1個の子実体を、その表面、特に上面から、より確実に発生させるために、小型菌床における子実体形成面の外気との接触を、プラスチックフィルムやシートなどの非通気性材料で被覆することにより抑制し、また、子実体非形成面の外気との接触を、布や不織布などの通気性材料で被覆することにより促進することが好ましい。
【0048】
完熟した小型菌床からの子実体形成は、通常、湿度90%、照度500luxというようなの条件下に行われる。その際、子実体形成時に、小型菌床の4周と底面は、子実体の形成を阻害する材料、プラスチックフィルムやシート、あるいは木質板などで被覆し、子実体の発生を、その上面から発生することを確実にするのが好ましい。
【0049】
なお、1kg〜2kgの円柱状、あるいは2.5kgの直方体状の公知の菌床を用いてシイタケを栽培した場合、子実体は、通常、菌床の側面から発生し、その発生個数は不確定である。しかしながら、この発明の方法によれば、子実体は、主として、板状の菌床主体の上面から1個発生させることができるのである。
【0050】
その際、菌床塊を再成形せず、最初から菌床を小型の平板状に形成し、この菌床に種菌を接種して培養すると、シイタケでは少なくとも40日以上の長期の培養基間を要することから、菌床上面の乾燥などに起因して、子実体の発生は極めて困難となる。
【0051】
小型菌床製造装置を用いる小型菌床の成形は、図1〜3に示されているとおりで、図2に基づいて、小型菌床製造装置を用いた小型菌床の成形方法を、以下に説明する。
【0052】
プラスチック製の袋やガラス瓶などの培養容器1内で、培地に種菌を接種して培養して得られた、菌糸が表面に蔓延した菌床塊2を瓶1から取り出して、図1に示すように、細分化し、菌床粉粒体3とする。
ついで、細分化された菌床粉粒体3を、図2に示す菌床成形器4に複数設けられた、所定の形状の小型菌床を同時に複数成形することが可能な型枠5内に、充填する。
菌床成形器4の型枠5内に充填された菌床粉粒体3は、図3に示すように、前記各型枠5に対応するようにそれぞれ設けられた複数の押型6を有する菌床押出器7を使用し、圧縮されて成形すると同時に押し抜きし、複数の小型菌床8を同時に成形する。
【0053】
なお、図4は、図3で示された複数成形された小型菌床8の正面図で、図4aは、小型菌床8が、子実体発生のために、直接、発生台9上に置かれていることを示す。また、図4bは、1個の子実体を、その上面からより確実に発生させるために、子実体形成面とする上面をプラスチックフィルムなどの非通気性材料10で被覆し、外気と接触するのを抑制し、さらに、子実体非形成面の下面に不織布などの通気性材料11を設けて、外気との接触を促進することを示しており、図4bのような状態で、小型菌床8を培養し完熟させると、子実体の上面からの発生を確実にすることができる。
【0054】
この発明において、子実体は、板状の菌床に、1個の、より正確には実質的に1個発生させるもので、菌床を大きくして複数の子実体を発生させると、この発明の目的とする効果が得られない。なお、実質的に1個の発生とは、多数の菌床の中には、2個又はそれ以上の子実体を発生させるものがあるが、全体的にみて1個のみ発生したものが大多数で、あるいは平均すると殆ど1個であるという状態を示すものである。
【0055】
この発明は、種々のきのこに応用可能なものであるが、シイタケの栽培に特に有効なもので、シイタケの品種としては、菌床用の品種であれば特に制限されるものではなく、具体的には早世用のシイタケ種菌を用いることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を掲げて、この発明にかかるきのこの菌床栽培法を、さらに具体的に説明するが、この発明は、この例示に限定されるものではない。
【0057】
<参考例1>
ナラのオガクズを150gと、シイタケ栽培用栄養源デルトップ(森産業株式会社製)50gに、水道水0.3リットル(300g)を加えて混合し、容積800cc広口培養ビンに充填して培地を作製した。
【0058】
得た培地を温度121℃、90分加圧滅菌したのち冷却し、シイタケ種菌XR18(森産業株式会社製)を接種し、暗所にて温度23〜25℃、湿度60〜80%の条件で90日間培養した。
【0059】
シイタケ菌糸が菌床に蔓延するまで培養した後、シイタケ菌糸の蔓延した菌床塊を掻き出し、一定の上面積(直径8.5cm:面積57cm)で厚さの異なる円盤状の菌床に成形した。
【0060】
菌床の水分を維持するため、ビニールシートで被覆し、温度23〜25℃、湿度60〜80%の条件で2週間熟成させた。その後、温度17℃、湿度80〜90%、照度500luxの条件に移行させると、1週間で子実体原基が形成された。シートを取外し、子実体を生育させた。その結果を表1に示した。
【0061】
表1から明らかなように、培地の高さが低いほど、子実体の発生個数、収量ともに少なかったが、収率は高く、しかも収穫までの平均日数は短く、経済的に有利であることがわかった。なお、得られた子実体の大きさ(菌傘の直径)は4〜6cmであった。
【0062】
【表1】

【0063】
<参考例2>
つぎに、培地の高さを3cmとし、上部の表面積を変えて、実施例1と同様にシイタケを栽培し、その結果を表2に示した。
【0064】
表2から明らかなように、表面積が小さいほど収量(重量、発生個数)は少なかったが、一定の規格(重量、大きさ)のシイタケが発生することがわかった。
【0065】
また、菌床の厚さは1.5〜3.5cm以下、上部面積は30〜70cmとすることにより、さらに、菌床の重量を100g以下とすることにより、実質的に1菌床当たり子実体を1個だけ発生させ、その子実体も所望の大きさに形成させることができることを明らかにしている。
【0066】
【表2】

【0067】
<実施例1>
広葉樹のオガクズと、シイタケ栽培用栄養源デルトップ(森産業株式会社製)を重量比で4:1に混合し、水道水を加えて水分を60〜65%に調整し、容積800cc広口培養ビンに充填して殺菌した。
【0068】
シイタケ種菌XR18(森産業株式会社製)を接種し、暗所にて温度23〜25℃、湿度60〜80%の条件で90日間培養した。
【0069】
シイタケ菌糸が菌床に蔓延するまで培養した後、シイタケ菌糸の蔓延した菌床塊を、非無菌的に掻き出して細分化し、直径8.0〜8.5cmの園芸用ポットに厚さが2cmになるように充填し、円盤状の小型菌床に成形した。
【0070】
上面を平らにし、直径8.0〜8.5cmの円形ビニールシートを密着させたものと、密着させないものを用意し、温度23〜25℃、湿度60〜80%の条件で1週間熟成させた。
その後、温度17℃、湿度80〜90%、照度500luxの条件に移行させると、1週間で子実体原基が形成された。シートを密着させたものはシートを取外し、シートを用いなかったものはそのまま、子実体を生育させた。その結果を表3に示した。
【0071】
【表3】

【0072】
表3で明らかなように、熟成中に、菌床の表面をビニールシートで被覆した場合は、子実体の発生は全て上面からで、子実体の形状も良好で、採取の作業性も良好であった。
一方、菌床の表面をビニールシートで被覆しなかった場合、子実体は、生育を阻害するポットの側壁が存在するにもかかわらず、菌床の側面などから発生し、上面からの発生は著しく少なく、形状も悪く、採取の作業性を低下させるものであった。なお、得られた子実体の大きさ(菌傘の直径)は4〜6cmであった。
【0073】
<実施例2>
小型菌床の調製を、図1〜4で示される、小型菌床製造装置を用いる調製方法で行った以外は、実施例1と同様にして、子実体を形成させた。
なお、菌床の熟成中、上面にビニールシートを設け、下面と発生台間には、不織布を設けなかった場合と、上面にビニールシートを設け、下面と発生台間には、不織布を設けた場合の比較も行った。その結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4から明らかなように、熟成中に、小型菌床の下面と台上間に不織布を設け、小型菌床の下面を外気と接触をすることにより、小型菌床の上面から、子実体が発生する確率が著しく上昇した。なお、小型菌床の側面は、図4に示されるように、外気と自由に接触する状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
この発明は、きのこの菌床栽培法および小型菌床製造装置に関するもので、特にシイタケの菌床栽培に適したものであるから、きのこ、特にシイタケの栽培産業に、利用される可能性の非常に高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】小型菌床調製における、菌床塊を細分化する工程図である。
【図2】小型菌床調製における、菌床粉粒体を菌床成形器の型枠内に充填する工程図である。
【図3】小型菌床調製における、菌床成形器の型枠内で成形された小型菌床を取り出す工程図である。
【図4】小型菌床の熟成中の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 培養容器
2 菌床塊
3 菌床粉粒体
4 菌床成形器
5 型枠
6 押型
7 菌床押出器
8 小型菌床
9 発生台
10 非通気性材料
11 通気性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種菌を接種し、培養させてきのこ菌糸が蔓延した菌床塊を、細分化した後、細片状の小型菌床に成形し、
当該小型菌床に1個の子実体を形成させて、育成培養すること
を特徴とするきのこの菌床栽培法。
【請求項2】
前記成形が、
細分化した菌床塊を、複数の型枠を有する菌床成形器の型枠内に充填することにより行われること
を特徴とする請求項1に記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項3】
前記小型菌床が、
子実体が1個形成するに適した、重量及び/又は厚さに成形されたものであること
を特徴とする請求項1又は2に記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項4】
前記小型菌床が、
板状であって、その上面の表面積が30〜70cmの範囲にあること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項5】
前記小型菌床が、
板状であって、その厚さが1.5〜3.5cmの範囲にあること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項6】
前記菌床は
その質量が100g以下のものであること
を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項7】
前記細片状の小型菌床は、
培養し完熟させる際に、当該小型菌床における子実体形成面の外気との接触を抑制すること
を特徴とする請求項1又は2に記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項8】
前記外気との接触の抑制は、
子実体形成面を非通気性材料で被覆することにより行うこと
を特徴とする請求項7に記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項9】
また、この発明の請求項9に記載の発明は、
前記細片状の小型菌床は、
培養し完熟させる際に、当該菌床における子実体非形成面の外気との接触を促進すること
を特徴とする請求項1に記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項10】
前記外気との接触の促進が、
子実体非形成面を通気性材料で被覆することにより行うこと
を特徴とする請求項9に記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項11】
前記細片状の小型菌床は、
その底面及び側面が、子実体の形成を阻害する材料で被覆されていること
を特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のきのこの菌床栽培法。
【請求項12】
細分化された菌床を、所定の形状の小型菌床を同時に複数成形することが可能な、型枠が複数形成されてなる菌床成形器と、
前記型枠内に成形された菌床を、菌床成形器から押し抜きするための、成形器の型枠に対応する複数の押型を有する菌床押出器からなること
を特徴とする小型菌床製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−262742(P2006−262742A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83134(P2005−83134)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(596111690)財団法人日本きのこ研究所 (3)
【Fターム(参考)】