説明

しいたけ菌床の栽培方法

【課題】
しいたけ菌床栽培は菌床表面にきのこの発芽育成が可能である原基が形成されるまで培養を行うため、培養期間にかなり長い時間を要し、栽培施設の回転効率を悪化させている。
【解決手段】
本発明しいたけ菌床の栽培方法は、固形培地に菌糸を蔓延させた種菌を接種する菌床栽培において、菌糸の原基のもとが形成されるステージから原基が成熟するステージまでを含んだ、原基が形成されるステージの気菌糸の組織を取り出し、該原基の形成されるステージの気菌糸の組織を未接種状態の培地に接種し、上記接種した種菌部分からきのこを発芽、生育させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しいたけ菌床の栽培工程において、原基の形成されるステージの気菌糸の組織を取り出し、これを未接種の培地に接種することで、栽培期間を短縮させると共に、栽培培地の任意の位置に、任意の大きさできのこを発生させることのできるしいたけ菌床の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
しいたけ菌床栽培においては、オガコ等の粒状あるいは粉状物を主体とした原料を使用している種菌を栽培培地に接種する場合、種菌全体を粒状あるいは粉状に崩して培地上面に振り掛け、その後該種菌の菌糸が一次蔓延し、その一次蔓延した菌床表面付近の組織に原基が形成され、以後発芽、幼子実体の形成、きのこの成熟という工程を経て生育されている。
この生育工程にあっては、未接種の培地に、例えば原基の形成されるステージの気菌糸の組織を取り出して、これを接種させるという方法は採られていない。
これは、従来きのこの生育には、栄養菌糸体の潜入菌糸が栄養分を吸収蓄積し、きのこの生育に充分な状態となってから、次に基菌糸部分に原基形成及び発芽が促され、全体が関連し合いながら段階を踏んで進むという考え方が一般的であるからと推察される。
例えば、非特許文献1には、「きのこ菌は培地に菌糸を伸長させ、培地の分解腐朽及び栄養分の吸収を行う。これを一般的に「栄養菌糸体」と言い、栄養菌糸体は生長の過程で潜入菌糸(主に栄養分の吸収蓄積に関与)と気菌糸(主に子実体形成に関与)に生理機能が分化すると考えられている。(きのこ学:古川久彦編集:84頁)」
非特許文献2には、「栄養菌糸体から子実体が発生する条件は、しいたけなどの担子菌の場合、菌叢(菌糸の集合体)の内部で子実体形成に対する準備が完了し、さらに子実体形成が可能な環境条件に置かれたとき、子実体発生が始まると考えられる。(きのこ学:古川久彦編集:89頁)」
と記載されている如くである。
そして上記従来の方法によっては、これらはすべて培養途中から発生にかけて、菌床表面付近の組織に目的に合った原基が形成されるまで熟成させるために、培養期間にかなり長い時間を要し、栽培施設の回転効率を悪化させている。さらに、原基の発生が自然発生的であるため、形成される原基の数が調整できず、必要個数以上の発芽が避けられず、不要な芽を掻き取る所謂芽掻き作業が必要となり、作業的に大変は労力を要するなどの問題点があった。
【非特許文献1】「きのこ学」古川久彦編集84頁
【非特許文献2】「きのこ学」古川久彦編集89頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記実情に鑑みなされたもので、本発明者が試行錯誤を重ねた結果、
未接種の培地に原基の形成されるステージの気菌糸の組織を取り出して接種させる手段を用いたところ、当該培地に接種された原基の形成されるステージの気菌糸の組織が根づき、順調にきのこの成長が促されることを見いだし、その結果、きのこの培養期間が短縮されると共に、栽培培地の任意の位置に、任意の大きさできのこを発生させることのできるしいたけ菌床の栽培方法を開発したものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、請求項1記載のしいたけ菌床の栽培方法は、固形培地に菌糸を蔓延させた種菌を接種する菌床栽培を対象とする。
例えば、栽培培地の接種に用いる種菌が、オガコ等の粒状あるいは粉状物を主体とした原料を使用している場合が該当し、又、寒天等のゾル又はゲル状の培地も含む。一方、栄養分を含んだ液体にエアーレーションしてきのこ菌糸を増殖させる液体培地を用いる種菌は該当しない。
【0005】
そして、菌糸の一次蔓延以降の原基のもとが形成されるステージから原基の成熟するステージまでを含んだ原基が形成されるステージの組織を取り出す。
きのこの成長を各段階(ステージ)で分類し、培地への接種、一次蔓延、原基のもとの形成開始、原基成熟、発芽、幼子実体の形成、きのこの成熟の各段階に分類した場合、本発明の対象となるのは、原基のもとが形成されるステージから原基の成熟するステージまでを指し、単に菌糸が一次蔓延した段階や、幼子実体の形成段階のものを含まない。
何故なら、後述する如く、原基形成が開始される前の単に菌糸が一次蔓延した段階では、気菌糸の原基形成が速まることがなく、一方幼子実体の形成付近では子実体の組織自体を接種するおそれがあり、生理的に調整がとれない等の問題を生じるからである。
又、発芽にあっては、発芽した個体の周辺には、上記原基が形成されるステージの気菌糸が存在することが多く、従って本発明における原基が形成されるステージには、発芽した個体の周辺をも含む意味である。
【0006】
組織を取り出すとは、代表的には原基のもとが形成されるステージから原基の成熟するステージまでに培養されたものの一部を、例えば、表面及び表面付近で原基の形成され易い箇所から切り出して切片としたもの指す。しかしこれに限定されることはなく、例えば、切り出しによらず、むしり取り等で分割したもの、又は、深さ20mm以下程度の小さな容器に培養してそこから取り出したもの等を含む。
【0007】
一方、目的とする培地を用意し、この培地は通常の未接種の状態の培地を指し、これに上記該原基の形成されるステージの気菌糸の組織を接種する。
接種とは、具体的には、培地表面に載置、埋め込み等したものをいい、未接種の培地に原基の形成されるステージの気菌糸の組織が根づくことを指す。
【0008】
上記接種した種菌部分に原基が成熟し、その後刺激を与えて発芽を促し、以後幼子実体が形成され、進んできのこが成熟される。
このとき、種菌部分とは、当該接種された個体から原基が生じる場合以外に、その個体の周辺から原基が生じる場合をも含む意味である。即ち、原則的には接種した種菌から潜入菌糸が伸長すると同時に、気菌糸としての原基形成が行われるが、しかし、接種した種菌が乾燥等している場合等には、その部位を避けて、その周辺に気菌糸が伸長して原基が形成され、発芽する場合がある。そこで、その個体周辺に原基形成、発芽がある場合を含める意味で種菌部分と表現したものである。
【発明の効果】
【0009】
上記原基の形成されるステージの気菌糸の組織が培地に接種されると、該原基の形成されるステージの気菌糸の組織から培地内部に潜入菌糸が伸長し、栄養分の吸収が促される。即ち、接種された組織を源として、潜入菌糸の機能が開始され、培地内から栄養分の吸収蓄積が始まる。
一方、気菌糸としての原基は、接種当初は栄養分の吸収が十分でないことから、原基から発芽へと向かう生育は若干抑制された状態となるが、その原基組織が消滅等することはなく、その組織及び機能が維持される。
そして、上記潜入菌糸の伸長に伴って原基の形成されるステージの気菌糸の組織に栄養分が供給されると、その栄養分の吸収に従って気菌糸としての原基が熟成され、徐々に発芽、幼子実体の形成へと向かう。
この結果、従来の培地接種後の菌糸の一次蔓延から原基形成までに要する期間が短縮され、栽培効率の改善が促される。
【0010】
又、発育するきのこの位置は、原基の形成されるステージの気菌糸の組織が接種された位置となり、培地内で適当間隔を保ちながら均等に分散された位置とすることが可能となる。
即ち、本発明によれば、上述の如く、接種された組織から潜入菌糸の伸長や気菌糸としての子実体の形成が促され、従来の如き一次蔓延した菌糸から予期しない位置に数を問うことなく原基及び発芽が生じてしまうことがない。自然発生的生育は抑制され、本発明による接種された組織からの生育が優先される。
この結果、例えば角形培地に数個のきのこを分散させて生育させる場合には、相互に適当間隔を保って接種すれば均等に分散された位置を保つことができ、数個のきのこの発生位置が重なって相互にぶつかってしまい、変形したきのこになるのを避けることができる。
又、発育するきのこの位置を、適当間隔を保ちながら培地内の任意の位置に設定できるので、従来必要とされた芽掻き作業が不要となり、大幅な労力の軽減となる。
【0011】
さらに、接種された菌組織と、その菌組織が潜入する培地の体積との関係から、成熟されるきのこの大きさを適宜に設定することが可能となる。
例えば、接種された菌組織の数が少なく、且つ、それを支持する培地の体積が大きい場合には相対的に大きなきのこの成熟が可能となり、逆に菌組織の数が多く、培地の体積が小であれば、小さなきのことなる。その結果、接種された菌組織に対し、培地の体積を調整すれば、適宜な大きさのきのこを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
先ず、栽培培地の接種に用いる種菌を準備する。種菌形体は特に問わないが、通常使用されているボトル状のものよりも表面積の割合が大きく原基形成部分を多く確保できる角型が好ましく、さらに種菌培地原料にオガコ等の粒状あるいは粉状物を主体とした素材を使用して、種菌表面及び表面付近の組織に原基が形成された状態、あるいは菌糸の一次蔓延以降であって原基の形成途中の状態とし、種菌表面及び表面付近の組織を分離しやすいものとする。この分離とは、「切り取り」や「むしり取り」等表面付近の組織を分け離すことのできる手段を広く含む。
【0013】
具体的には、上記種菌は、培養容器にポリプロピレン製袋にフィルターが装着された栽培袋を使用し、横20cm縦12cm高さ17cm重量約2700gの角型培地を成型し、常法により殺菌、冷却、接種を行った。種菌は北研600号(菌床栽培用品種として品種登録)を使用した。培養は当初20℃±1℃で65日間管理を行った。
【0014】
一方、栽培培地はきのこ栽培用広口ビンに培地を750cc充填し、常法により殺菌、冷却を行った。
【0015】
そして、65日間の培養を行った種菌の表面及び表面付近の組織を崩さずに2cm法切り取り、種菌表面部分を上にして埋め込むように栽培用広口ビン口元中央部に接種を行った。
【0016】
接種後、栽培用広口ビンを20℃±1℃で45日間管理を行い、その後15℃の環境で発芽刺激を与えると共に生育管理を行った。
【0017】
その結果、種菌接種部分から、発芽刺激から3日後に発芽した。さらに12日後には、傘が10〜12cm程度に開いて、きのこの生育が確認された。
即ち、栽培用広口ビンの栽培期間は、20℃±1℃で位管理した45日間と、上記発芽刺激後の3日間及びその後の12日間を総計して、管理栽培開始後60日間できのこの収穫がされたことになる。この結果、接種から収穫までの期間が115日程度を要する通常の栽培方法に比較して、約55日間短縮されたことになる。
【0018】
上記の如く、先ず、一次蔓延後又は原基形成した後の種菌表面及び表面付近から切片を分離し、その切片を栽培に供する培地に接種する。すると、その接種された栽培培地に接種した切片から新たにしいたけ菌が蔓延する。その時点では接種された培地表面部分には原基がまだ形成されていない状態であるが、接種した種菌(上記切片)部分には原基の形成熟成が先行して促され、上記新たに蔓延したしいたけ菌が培地から栄養分を吸収し、その結果、きのこの発芽、生育が短期間で推移するものとなる。
即ち、種菌におけるしいたけの原基及び原基形成の途中の組織は、新たな培地に接種した場合、菌糸を伸長させて新たな培地の栄養分や水分を吸収すると同時に、予め準備されていた原基及び原基形成の途中の組織は平行して原基の熟成が進められ、新たな培地に原基が準備されるのを待たずに、短い培養期間で任意の位置からきのこを発生させることができることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、以上のように構成されているので、袋栽培などの大型菌床において特定の位置から目的とした数量を計画的に収穫することが可能であるとともに、従来困難であるとされてきたしいたけビン栽培の可能性を見出すなど、幅広い応用が期待でき、収益性、品質向上に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の栽培方法を示す模式的斜視図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形培地に菌糸を蔓延させた種菌を接種する菌床栽培において、
菌糸の原基のもとが形成されるステージから原基が成熟するステージまでを含んだ、原基が形成されるステージの気菌糸の組織を取り出し、
該原基の形成されるステージの気菌糸の組織を未接種状態の培地に接種し、
上記接種した種菌部分からきのこを発芽、生育させることを特徴とするしいたけ菌床の栽培方法。




【図1】
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【公開番号】特開2007−82539(P2007−82539A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224748(P2006−224748)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000242024)株式会社北研 (17)
【Fターム(参考)】