説明

めねじ加工方法および仕上げ用切削タップ

【課題】焼入れ等の硬化熱処理が施される部材に対してめねじを高い精度で効率良く安価に形成できるようにする。
【解決手段】目的とするめねじ30よりも径寸法が小さい下ねじ36を切削加工した後に硬化熱処理を施し、その後に仕上げ用切削タップ10の進み側フランク42が下ねじ36の進み側フランク40に当接するようにリード合わせを行い、その下ねじ36に沿ってリード送りしてめねじ30を切削加工する。これにより、硬化熱処理によって生じる熱歪や伸縮等による変形に拘らず、高い寸法精度でめねじ30を形成できる。また、硬化熱処理前に下ねじ36が設けられるため、仕上げ用切削タップ10によって切削除去する仕上げ代は小さく、硬化熱処理によって45HRC程度まで硬化しても、切削速度等の加工条件の制約が緩和されて効率よくめねじ30を切削加工できるようになり、工具の耐久性向上と相まって製造コストが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はめねじ加工方法に係り、特に、焼入れ等の硬化熱処理が施される部材に対してめねじを高い精度で効率良く安価に形成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
めねじを形成する加工工具として、切削タップやねじ切りフライスが広く用いられている。特許文献1は、切削タップの一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−220245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばSCM(JISに規定のクロムモリブデン鋼)のように焼入れ等の硬化熱処理が施される部材にめねじを形成する場合、硬化熱処理の前にめねじを設けると、熱処理の際の伸縮や熱歪等による変形によってめねじの寸法精度が損なわれる。熱処理後にめねじを切削加工しようとすると、例えば40HRC(ロックウェルC硬さ)程度以上に硬化している場合、工具の耐久性が悪いとともに切削速度が制約され、製造コストが高くなるという問題があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、焼入れ等の硬化熱処理が施される部材に対してめねじを高い精度で効率良く安価に形成できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、硬化熱処理される所定の部材にめねじを形成するねじ加工方法であって、(a) 前記部材に前記硬化熱処理を施す前に、目的とするめねじよりも径寸法が小さい下ねじを切削加工する下ねじ加工工程と、(b) その下ねじが設けられた前記部材に前記硬化熱処理を施す熱処理工程と、(c) 前記めねじを切削加工する切れ刃が設けられたおねじ部を有する仕上げ用切削タップを用いて、前記硬化熱処理が施された前記部材の前記下ねじの開口端縁の進み側フランクに、そのおねじ部の先端の進み側フランクが当接するようにリード合わせを行い、その下ねじに沿ってリード送りして前記めねじを切削加工する仕上げ加工工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のめねじ加工方法において、前記仕上げ用切削タップの前記おねじ部のうち先端側へ向かうに従って径寸法が徐々に小さくなる食付き部の先端の径寸法Dtop は、前記めねじの内径の基準寸法D1 およびそのおねじ部の外径の基準寸法dを用いて、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められていることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第2発明のめねじ加工方法において、前記仕上げ用切削タップは、前記食付き部の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山の少なくとも一部が除去されていることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、めねじを切削加工する切れ刃が設けられたおねじ部を有し、目的とするめねじよりも径寸法が小さい下ねじに沿ってリード送りされることによりそのめねじを切削加工する仕上げ用切削タップであって、前記おねじ部のうち先端側へ向かうに従って径寸法が徐々に小さくなる食付き部の先端の径寸法Dtop は、前記めねじの内径の基準寸法D1 およびそのおねじ部の外径の基準寸法dを用いて、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められていることを特徴とする。
【0010】
第5発明は、第4発明の仕上げ用切削タップにおいて、前記食付き部の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山の少なくとも一部が除去されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明のめねじ加工方法においては、目的とするめねじよりも径寸法が小さい下ねじを切削加工した後に硬化熱処理を施し、その後に仕上げ用切削タップのおねじ部の先端の進み側フランクが下ねじの開口端縁の進み側フランクに当接するようにリード合わせを行い、その下ねじに沿って仕上げ用切削タップをリード送りしてめねじを切削加工するため、硬化熱処理による変形に拘らず高い寸法精度でめねじを形成することができる。また、硬化熱処理前に下ねじが設けられているため、仕上げ用切削タップによって切削除去する仕上げ代は小さく、硬化熱処理により例えば40HRC程度以上に硬化する場合でも、切削速度等の加工条件の制約が緩和されて効率よくめねじを切削加工できるようになり、工具(仕上げ用切削タップ)の耐久性向上と相まって製造コストが低減される。
【0012】
第2発明は、仕上げ用切削タップの食付き部の先端の径寸法Dtop が、めねじの内径の基準寸法D1 およびおねじ部の外径の基準寸法dを用いて、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop の関係を満足する範囲内で定められるため、下ねじの進み側フランクとの当接範囲が十分に確保され、リード合わせを適切に行うことができるとともに、下ねじのねじ山の欠損等による不良品の発生が抑制される。d−D1 は基準山形のひっかかり高さに相当し、そのひっかかり高さの30%以上の範囲で当接させられることになる。
【0013】
上記食付き部の先端の径寸法Dtop はまた、Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められ、ひっかかり高さの60%以下の範囲で当接させられるため、仕上げ切削の際に食付き部の先端の切れ刃に過大な負荷が作用して欠損等を生じることが防止されるとともに、食付き部による食付き性能や芯出し性能が適切に得られて仕上げ切削を適切に行うことができる。
【0014】
第3発明では、仕上げ用切削タップの食付き部の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山の少なくとも一部が除去されているため、例えばNC制御などで仕上げ用切削タップのおねじ部の先端の進み側フランクを下ねじの開口端縁の進み側フランクに当接させて自動的にリード合わせを行う場合に、その半端山が下ねじの進み側フランクに当接して誤ったリード合わせが行われ、リードずれによって山痩せ等のめねじ不良が発生することが抑制される。
【0015】
第4発明は、第1発明のめねじ加工方法の仕上げ加工工程で好適に用いられる仕上げ用切削タップに関するもので、おねじ部の食付き部の先端の径寸法Dtop が、第2発明と同様にD1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められているため、そのおねじ部の先端の進み側フランクを下ねじの開口端縁の進み側フランクに当接させて適切にリード合わせを行うことができるなど、第2発明と同様の作用効果が得られる。
【0016】
第5発明は、第3発明と同様に食付き部の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山の少なくとも一部が除去されているため、第3発明と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のめねじ加工方法に好適に用いられる仕上げ用切削タップの一例を示す図で、(a) は軸心と直角方向から見た正面図、(b) はタップ先端側から見て拡大して示した底面図、(c) は軸方向に連なる4枚の切れ刃の形状を比較して示す拡大図である。
【図2】めねじを加工する際の手順を説明するブロック線図である。
【図3】図2の手順に従って加工される下穴、下ねじ、およびめねじを示す断面図である。
【図4】図2の仕上げ加工工程で、図1の仕上げ用切削タップを下ねじに対してリード合わせして仕上げ切削加工を行う際の手順を説明する図である。
【図5】本発明の他の実施例を説明する図で、何れも軸方向に連なる切れ刃の形状を示す図である。
【図6】従来の切削タップを用いて図2の仕上げ加工工程を行った場合に、リードずれが生じて二重ねじと呼ばれるめねじ不良が発生する場合を説明する図で、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前記下ねじ加工工程では、例えば目的とするめねじの内径寸法で下穴を加工した後、目的とするめねじよりも有効径および谷径が所定寸法だけ小さい下ねじを切削加工するが、所定寸法は、仕上げ加工工程で正規の寸法のめねじを切削加工できるとともに、その仕上げ加工工程の際の削り代(仕上げ代)ができるだけ少なくなるように、めねじを形成する部材の材質や硬化熱処理によって生じる歪や伸縮等による変形の大きさ、めねじの径寸法等を考慮して適宜設定され、例えば0.1〜0.2mm程度の範囲内、或いは目的とするめねじの谷径Dの0.5〜1.0%程度の範囲内の寸法が定められる。この下ねじの切削加工は、例えば仕上げ加工と同様に切削タップを用いて行うこともできるが、めねじの径寸法が比較的大きい場合など、ねじ切りフライスを用いて行うことも可能である。
【0019】
硬化熱処理工程は、熱処理によって硬化させる焼入れなどであり、一般には熱歪によって下ねじのピッチや径寸法等のめねじ精度が悪化する。めねじが形成される部材の材質は、このように焼入れ等の熱処理によって硬化させることができる種々の金属材料が可能である。
【0020】
仕上げ加工工程では、仕上げ用切削タップのおねじ部の先端の進み側フランクを下ねじの開口端縁の進み側フランクに当接させてリード合わせを行い、その下ねじに沿ってリード送りしてめねじを切削加工するが、そのリード合わせは例えば作業者が手作業で行うことができるが、NC制御などで仕上げ用切削タップを軸方向へ前進させ、下ねじの進み側フランクに当接して停止した位置を基準にして、自動的にリード合わせが行われるようにすることもできる。その場合は、当接によって下ねじを損傷しないように、ホルダに対し仕上げ用切削タップが所定寸法だけ相対変位できる所定の遊びを有する状態で保持することが望ましい。
【0021】
第2発明、第4発明では、食付き部の先端の径寸法Dtop がD1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められるが、食付き部先端の径寸法Dtop がD1 +(d−D1 )×0.3より小さいと、下ねじの進み側フランクとの当接範囲が小さくなるため、その当接によるリード合わせを適切に行うことができなかったり、当接時に下ねじのねじ山が欠損したりして不良品が発生し易くなる。NC制御により自動的にリード合わせする場合、Dtop ≒D1 +(d−D1 )×0.353では不良品の発生率が0%であったのに対し、Dtop ≒D1 +(d−D1 )×0.2では不良品の発生率が0.8%であった。
【0022】
また、食付き部先端の径寸法Dtop がD1 +(d−D1 )×0.6より大きいと、仕上げ切削の際に食付き部の先端の切れ刃に過大な負荷が作用して欠損等を生じ易くなるとともに、食付き部による食付き性能や芯出し性能が悪化してめねじ精度が損なわれる。本発明者等の実験によれば、Dtop ≒D1 +(d−D1 )×0.353ではタップの欠損発生率が0%であったのに対し、Dtop ≒D1 +(d−D1 )×0.8の場合には、タップ食付き部の切れ刃が欠損することがあった。
【0023】
第1発明の実施に際しては、作業者が手作業でリード合わせを行うことも可能で、その場合には、食付き部先端の径寸法Dtop が、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められる必要はなく、例えば従来の切削タップと同様にDtop <D1 であっても良い。
【0024】
第3発明では、食付き部の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山の少なくとも一部が除去されているが、第1発明の実施に際して作業者が手作業でリード合わせを行う場合には、食付き部の先端の半端山がそのまま残っていても差し支えない。また、食付き部の進み側フランクが残っていない半端山のみ除去したり、フランク角度と同じ角度で面取りをする方法でも良い。
【0025】
第4発明、第5発明の仕上げ用切削タップは、第1発明のめねじ加工方法の実施に際して、NC制御などで仕上げ用切削タップを下ねじの進み側フランクに当接させて自動的にリード合わせを行って仕上げ切削加工を行う場合に好適に用いられるが、作業者が手作業でリード合わせを行う場合に用いることも可能である。
【0026】
仕上げ用切削タップの食付き部の軸方向長さは、切削抵抗を分散する上で1.5山以上が望ましいとともに、削り代が小さいため3山程度以下で十分である。その食付き部の勾配(テーパ角の1/2)は、食付き部の所定の軸方向長さを確保しつつ所定の食付き性能を得る上で5°〜18°程度の範囲内が適当で、10°〜15°程度の範囲内が望ましい。食付き部は、少なくともおねじ部の外径がタップの先端側へ向かうに従って小さくなるように構成され、外径のみが小径とされても良いし、有効径および谷径を含むねじ山全体が小径とされても良い。また、この食付き部のねじ山の頂は、タップの軸心と平行であることが望ましい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である仕上げ用切削タップ10を説明する図で、(a) は軸心Oと直角方向から見た正面図、(b) は先端側(図1(a) における左側)から見て拡大して示した底面図、(c) は軸方向に連なる切れ刃形状を示す図(すくい面の裏側から見た形状)である。この仕上げ用切削タップ10は、シャンク12およびおねじ部14を同軸上に一体に備えているとともに、そのおねじ部14を軸方向に分断するように複数(本実施例では4本)の溝26が設けられることにより、その溝26に沿って4枚の切れ刃28a〜28dが形成されている。おねじ部14は、加工すべきめねじ30(図3(c) 参照)に対応する寸法で設けられているとともに、径寸法が略一定の完全山部16と、タップ先端側へ向かうに従って径寸法が徐々に小さくなる食付き部18とを備えており、4枚の切れ刃28a〜28dは、それぞれそれ等の食付き部18および完全山部16に跨がって設けられている。上記溝26は、本実施例では軸心Oと平行な直溝であるが、ねじれ溝を採用することもできる。
【0028】
図1の(c) は、上記切れ刃28a〜28dの軸方向における変化形状(ねじ山の断面形状に相当)を示した図で、食付き部18は、一定の谷径、有効径、および外径で設けられたねじ山の外周部分を所定の勾配φでテーパ状に除去し、外径のみを徐々に小径としたものである。図1(c) の点線部分は、食付き部18を形成するために切除された部分である。
【0029】
本実施例の仕上げ用切削タップ10は、図2に示すめねじ加工方法に従ってめねじ30を形成する際に、最後の仕上げ加工で好適に用いられるものである。図2のめねじ加工方法について具体的に説明すると、先ず、加工すべきめねじ30の内径の基準寸法D1 よりも所定寸法αだけ大きい寸法でドリル等により下穴34を切削加工する。本実施例はM18×1.5のめねじ30をISOの6H級(旧JIS2級)相当の精度で加工する場合で、内径の基準寸法D1 =16.376mmで、例えば16.5mmの径寸法で下穴34を切削加工する。図3の(a) は、この下穴加工で所定の部材32に下穴34が設けられた状態である。次に、加工すべきめねじ30の谷径の基準寸法Dや有効径の基準寸法D2 よりもそれぞれ所定寸法Δsだけ小さい寸法で、上記下穴34の内周面に下ねじ36を切削加工する。目的とするめねじ30の谷径の基準寸法D=18.000mmで、有効径の基準寸法D2 =17.026mmであり、本実施例では硬化熱処理による歪等の変形を考慮して所定寸法Δs≒0.14mmに設定されている。したがって、18.000−0.14=17.86mm程度の谷径、および17.026−0.14=16.886mm程度の有効径で、上記下ねじ36が形成される。図3の(b) は下ねじ36が形成された状態で、本実施例ではねじ切りフライスによって形成される。ねじ切りフライスは、軸心まわりに回転駆動されつつ下穴34の中心線まわりに公転させられるとともにリード送りされることによってめねじ(下ねじ36)を切削加工するものであるため、その公転半径を変更することにより上記所定寸法Δsに応じて谷径および有効径を任意に調整できる。
【0030】
次に、上記下ねじ36が設けられた部材32に焼入れ処理を施し、その後、本実施例の仕上げ用切削タップ10を用いて仕上げ切削加工を行う。部材32は、本実施例ではJISに規定のSCM材で、焼入れ処理の前の硬さは22HRC程度であるが、焼入れ処理後の硬さは45HRC程度になる。本実施例では、予め下ねじ36が設けられているため、45HRC程度の高硬度の部材32に対しても、仕上げ用切削タップ10を用いて適切にめねじ30を仕上げ切削加工することができる。この仕上げ切削加工は、仕上げ用切削タップ10をNC制御式の立形マシニングセンタに取り付けて行われ、図3の(c) に示すように目的とする寸法のめねじ30が形成される。仕上げ用切削タップ10のおねじ部14の外径の基準寸法dは、加工すべきめねじ30の谷径の基準寸法Dと等しく、有効径の基準寸法d2 は、加工すべきめねじ30の有効径の基準寸法D2 と等しい。おねじ部14の外径は基準寸法d(=18.000mm)よりも所定寸法βだけ大きく、本実施例では約18.10〜18.13mmの範囲内の径寸法であり、有効径は基準寸法d2 (=17.026)よりも所定寸法γだけ大きく、本実施例では17.086〜17.106mmの範囲内の径寸法である。また、おねじ部14の谷径は、基準寸法d1 (=16.376mm)よりも所定寸法δだけ小さく、本実施例では約16.240mmとされており、めねじ30の内径は前記下穴34の径寸法(D1 +α)のままである。
【0031】
ここで、このように予め下ねじ36が設けられた部材32に対して、その下ねじ36に合わせてめねじ30を仕上げ切削加工する際には、図4に示すように下ねじ36に対して仕上げ用切削タップ10のリードを合わせてタップ立てを行う必要がある。すなわち、図4の(b) に示すように、下ねじ36の開口端縁の進み側フランク40に、仕上げ用切削タップ10のおねじ部14の先端の進み側フランク42が当接するようにリード合わせを行い、その位置を基準にして前記所定寸法Δsに応じて補正し、下ねじ36に沿って仕上げ用切削タップ10をリード送りしてめねじ30を切削加工する。図4において、下ねじ36の近傍に示す点線は、目的とするめねじ30を表しており、その下ねじ36のフランクおよび谷部の表層部分が仕上げ用切削タップ10によって切削除去されることにより、図4の(d) に示すように目的とする径寸法のめねじ30が得られる。
【0032】
仕上げ用切削タップ10のおねじ部14の先端の進み側フランク42を下ねじ36の開口端縁の進み側フランク40に当接させてリード合わせを行う上で、本実施例の仕上げ用切削タップ10は、食付き部18の先端の径寸法Dtop が、めねじ30の内径D1 およびおねじ部14の外径dを用いて、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められている。d−D1 は、基準山形のひっかかり高さに相当し、「0.3」、「0.6」は、食付き部18の先端が下ねじ36の進み側フランク40に重なる重なり率Rに相当する。本実施例ではDtop ≒16.95mmで、重なり率R≒0.353となる。また、食付き部18の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山44が、下ねじ36の内径(D1 +α)よりも小さい径寸法、本実施例ではめねじ30の内径の基準寸法D1 よりも小さい径寸法で除去され、その半端山44が下ねじ36の進み側フランク40に当接して誤ったリード合わせが行われることが防止される。半端山44は、下ねじ36の内径(D1 +α)以上の径寸法部分が進み側フランク42と異なるものを指している。
【0033】
一方、食付き部18の勾配φは、10°〜15°の範囲内で本実施例では約12°に設定されており、食付き部18の軸方向長さが約2.63mm(1.75山)とされている。これにより、所定の食付き性能や芯出し性能を確保しつつ、切削抵抗が複数の切れ刃28a〜28dに適切に分散されて耐久性が確保される。
【0034】
このように、本実施例のめねじ加工方法においては、目的とするめねじ30よりも径寸法が小さい下ねじ36を切削加工した後に硬化熱処理を施し、その後に仕上げ用切削タップ10のおねじ部14の先端の進み側フランク42が下ねじ36の開口端縁の進み側フランク40に当接するようにリード合わせを行い、その下ねじ36に沿って仕上げ用切削タップ10をリード送りしてめねじ30を切削加工するため、硬化熱処理によって生じる熱歪や伸縮等による変形に拘らず高い寸法精度でめねじ30を形成することができる。
【0035】
また、硬化熱処理前に下ねじ36が設けられているため、仕上げ用切削タップ10によって切削除去する仕上げ代は小さく、硬化熱処理によって45HRC程度まで硬化しても、切削速度等の加工条件の制約が緩和されて効率よくめねじ30を切削加工できるようになり、工具(仕上げ用切削タップ10)の耐久性向上と相まって製造コストが低減される。
【0036】
また、本実施例では、仕上げ用切削タップ10の食付き部18の先端の径寸法Dtop が、めねじ30の内径の基準寸法D1 およびタップおねじ部14の外径の基準寸法dを用いて、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop の関係を満足する範囲内で定められ、重なり率Rが0.3以上になるため、下ねじ36の開口端縁の進み側フランク40との当接範囲が十分に確保され、リード合わせを適切に行うことができるとともに、下ねじ36のねじ山の欠損等による不良品の発生が抑制される。
【0037】
上記食付き部18の先端の径寸法Dtop はまた、Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められ、重なり率Rが0.6以下でひっかかり高さの60%以下の範囲で当接させられるため、仕上げ切削の際に食付き部18の先端の切れ刃28a〜28dに過大な負荷が作用して欠損等を生じることが防止されるとともに、食付き部18による食付き性能や芯出し性能が適切に得られて仕上げ切削を適切に行うことができる。
【0038】
また、本実施例では、仕上げ用切削タップ10の食付き部18の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山44が除去されているため、NC制御で仕上げ用切削タップ10のおねじ部14の先端の進み側フランク42を下ねじ36の開口端縁の進み側フランク40に当接させて自動的にリード合わせを行う場合に、その半端山44が下ねじ36の進み側フランク40に当接して誤ったリード合わせが行われ、リードずれによって山痩せ等のめねじ不良が発生することが防止される。
【0039】
因に、前記部材32に直径が16.5mmで深さが13mmの下穴(止り穴)34を設けて、ねじ切りフライスにより前記下ねじ36を切削加工するとともに硬化熱処理(焼入れ)を行った後、本実施例の仕上げ用切削タップ10、食付き部18の先端径Dtop ≒D1 +(d−D1 )×0.2の比較品I、および食付き部18の先端径Dtop ≒D1 +(d−D1 )×0.8の比較品IIを用いて、以下の加工条件でタップ立てを行ったところ、本実施例の仕上げ用切削タップ10では不良品の発生率が0%で且つ切れ刃28a〜28dの欠損も皆無であった。これに対し、比較品Iの場合はめねじ30のねじ山の欠損等による不良品の発生率が0.8%であった。また、比較品IIの場合は食付き部18の切れ刃28a〜28dに欠損が認められた。
《加工条件》
切削速度:10m/min
送り速度:270mm/min
切削油:水溶性切削油
使用機械:立形マシニングセンタ
【0040】
一方、図6に示すように食付き部の先端の径寸法Dtop がめねじ30の内径の基準寸法D1 よりも小さい従来の一般的な切削タップ100を用いて、前記下ねじ36に対してリード合わせを行ってめねじ30を仕上げ切削加工する場合、図6の(b) に示すように、食付き部の先端のねじ山の山頂部分に下ねじ36が当接することがあり、そこを基準にしてリード送りを行ってめねじ30を切削加工すると、図6の(c) に示すようにリードがずれた状態でめねじ30が切削加工され、図6の(d) に示すように山痩せや二重ねじと呼ばれるめねじ不良が発生する。図6の点線は目的とするめねじ30を表したものである。本実施例の仕上げ用切削タップ10によれば、このようなリードずれによるめねじ不良の発生が防止される。
【0041】
なお、上記実施例では一定の谷径、有効径、および外径で設けられたねじ山の外周部分を所定の勾配φでテーパ状に除去することによって食付き部18が設けられており、ねじ山の山頂がテーパ状に傾斜していたが、図5の(a) に示す仕上げ用切削タップ50のように、食付き部52におけるねじ山の山頂が軸心Oと平行になるようにしても良い。その場合は、ねじ山の山頂部分が、図6のように下ねじ36に当接してリードずれが生じることが防止される。
【0042】
また、図5の(b) に示す仕上げ用切削タップ60は、食付き部62のねじ山の谷径、有効径、および外径が何れもタップ先端側へ向かうに従って小径とされている場合、すなわちねじ山全体が小径とされている場合である。この場合も、図6のようにねじ山の山頂部分が下ねじ36に当接してリードずれが生じることが防止される。
【0043】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
10、50、60:仕上げ用切削タップ 14:おねじ部 18、52、62:食付き部 28a〜28d:切れ刃 30:めねじ 32:部材 36:下ねじ 40:下ねじの進み側フランク 42:タップの進み側フランク 44:半端山 Dtop :食付き部先端の径寸法 D1 :めねじの内径の基準寸法 d:おねじ部の外径の基準寸法 O:軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化熱処理される所定の部材にめねじを形成するねじ加工方法であって、
前記部材に前記硬化熱処理を施す前に、目的とするめねじよりも径寸法が小さい下ねじを切削加工する下ねじ加工工程と、
該下ねじが設けられた前記部材に前記硬化熱処理を施す熱処理工程と、
前記めねじを切削加工する切れ刃が設けられたおねじ部を有する仕上げ用切削タップを用いて、前記硬化熱処理が施された前記部材の前記下ねじの開口端縁の進み側フランクに、該おねじ部の先端の進み側フランクが当接するようにリード合わせを行い、該下ねじに沿ってリード送りして前記めねじを切削加工する仕上げ加工工程と、
を有することを特徴とするめねじ加工方法。
【請求項2】
前記仕上げ用切削タップの前記おねじ部のうち先端側へ向かうに従って径寸法が徐々に小さくなる食付き部の先端の径寸法Dtop は、前記めねじの内径の基準寸法D1 および該おねじ部の外径の基準寸法dを用いて、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められている
ことを特徴とする請求項1に記載のめねじ加工方法。
【請求項3】
前記仕上げ用切削タップは、前記食付き部の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山の少なくとも一部が除去されている
ことを特徴とする請求項2に記載のめねじ加工方法。
【請求項4】
めねじを切削加工する切れ刃が設けられたおねじ部を有し、目的とするめねじよりも径寸法が小さい下ねじに沿ってリード送りされることにより該めねじを切削加工する仕上げ用切削タップであって、
前記おねじ部のうち先端側へ向かうに従って径寸法が徐々に小さくなる食付き部の先端の径寸法Dtop は、前記めねじの内径の基準寸法D1 および該おねじ部の外径の基準寸法dを用いて、D1 +(d−D1 )×0.3≦Dtop ≦D1 +(d−D1 )×0.6の関係を満足する範囲内で定められている
ことを特徴とする仕上げ用切削タップ。
【請求項5】
前記食付き部の先端に位置して一部が欠けた状態となる半端山の少なくとも一部が除去されている
ことを特徴とする請求項4に記載の仕上げ用切削タップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35351(P2012−35351A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175728(P2010−175728)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(595054589)大信精機株式会社 (5)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】