説明

アコヤガイ種苗の生産方法

【課題】真珠養殖の根幹をなすアコヤガイ種苗の生残率を高めて効率的に、且つ環境に優しいアコヤガイ種苗の生産方法を提供する。
【解決手段】アコヤガイ種苗の生産方法は、真珠養殖において母貝として使用するアコヤガイの飼料として、アコヤガイの至適飼育温度と同等の至適飼育温度で増殖する高温耐性微細藻類を餌料として使用する。なお、高温耐性微細藻類の具体例としては、Isochrysis sp.(Tahiti株)等を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アコヤガイ種苗の生産方法に関し、特に、真珠養殖において母貝等として使用されるアコヤガイの生産を効率的に進めるアコヤガイ種苗の生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真珠の養殖においては、母貝やピース貝として使用するアコヤガイ種苗の生産は、その真珠養殖全体の根幹となる重要な工程である。そして、このアコヤガイ種苗生産において、アコヤガイが幼生である時期には、PavlovaやChaetocerosなどの微細藻類を飼料として使用するのが一般的である。
【0003】
ただ、前記微細藻類の至適飼育温度(20〜25℃)は、アコヤガイの幼生の至適飼育温度(25〜28℃)より低い。そのため、飼育温度を前記微細藻類の至適温度に合わせると、アコヤガイの幼生が低体温となって、アコヤガイ幼生の増殖が著しく低下する。反対に、飼育温度をアコヤガイの幼生の至適飼育温度に合わせると、飼料が死滅して水質が悪化するので、アコヤガイの幼生の増殖が著しく低下する。このような理由から、一般的には、アコヤガイの幼生の至適飼育温度に合わせて飼育しているが、水質の悪化によるアコヤガイの幼生の生残率の低下という問題は解決していない。
【0004】
このような問題を解決するために、特定の藻類を添加してこの藻類の光合成作用によって水質の改善を図りアコヤガイ種苗の生残性を向上させるという研究(特許文献1を参照。)もすでになされている。しかし、前記藻類の添加によっても、生残率の向上や水質の改善は十分ではなかった。
【特許文献1】特開昭61−212234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、真珠養殖の根幹をなすアコヤガイ種苗の生残率を高めて効率的に、且つ環境に優しいアコヤガイ種苗の生産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のアコヤガイ種苗の生産方法は、真珠養殖において母貝として使用するアコヤガイの飼料として、アコヤガイの飼育温度と同等又はそれ以上の海水温度で増殖する高温耐性微細藻類を餌料として使用することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明のアコヤガイ種苗の生産方法は、アコヤガイ種苗を高い生残率で効率的に、且つ水質の汚染を軽減しながら生産することができるため、この生産方法を利用することによって、より効率的、且つ環境に優しく真珠を養殖することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明のアコヤガイ種苗の生産方法は、真珠養殖において母貝として使用するアコヤガイの飼料として、高温耐性微細藻類を餌料として使用することを除けば、従来からあるアコヤガイ種苗の生産方法と同様にして実施することができる。
【0009】
ここで、高温耐性微細藻類とは、その至適飼育温度が、アコヤガイ幼生の至適飼育温度と同等の海水温度、具体的には25〜28℃で増殖する微細藻類のことであり、具体的には、Isochrysis sp.(Tahiti株)、Chaetoceros ceratosporumなどが挙げられる。なお、この2種の藻類については、独立行政法人 水産総合研究センター 養殖研究所等から入手することができる。
【0010】
また、アコヤガイ種苗の生産は、飼育環境、特に温度や飼料密度を制御しやすいことから、陸上に静置した水槽やタンクの中で行うのが好ましく、同様の理由により高温耐性微細藻類の飼育も水槽やタンクの中で行うのが好ましい。
【0011】
なお、この発明のアコヤガイ種苗の生産方法には、例えば、スキムミルク、ビタミン、高温耐性ではない通常の藻類を加える、抗生物質を投与する等の公知の様々な工夫を加えてもよい。
【実施例1】
【0012】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明するが、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても以下の実施例によって制限されるものではない。
【0013】
(1)高温耐性微細藻類の培養
高温耐性微細藻類であるIsochrysis sp.(Tahiti株)の培養は、以下に示すように、静置培養、中間培養、大量培養の3段階に分けて行った。
【0014】
(1a)静置培養
静置培養は、海水1LあたりNaNO3:100 mg, Na2HPO4・12H2O: 14 mg, Na2SiO3・9H2O: 150 mg, クレワット32: 50 mg, を含む溶液をオートクレブしたのち、thiamine: 100 mg, biotin: 10 mg, ビタミンB12: 0.2 mgを加えた培地を使用して、800 lux, 28 ℃の環境で10日間行った。
【0015】
(1b)中間培養
中間培養は、静置培養と同じ培地を使用して、2000 lux, 28 ℃の環境において6日間行った。その結果5Lの培養液を得た。
【0016】
(1c)大量培養
大量培養は、海水1 Lあたり、NaNO3:50 mg, Na2HPO4・12H2O: 7 mg, クレワット32: 30 mg, を含む溶液をオートクレブしたのち、thiamine: 100 mg, biotin: 10 mg, ビタミンB12: 0.2 mgを加えた培地を含む100Lに中間培養で得た5 Lの培養液を混ぜ、4000〜8000 lux, 28 ℃の環境において6日間行った。その結果、最終的にIsochrysis sp.(Tahiti株)を含む100Lの培養液を得た。
【0017】
(2)アコヤガイの人工授精
生殖巣の発達した日本産アコヤガイの雄と雌を選別し、それぞれから精子と卵を取り出し、フィルターにより濾過し25℃に維持された海水中に拡散させた。なお、放散後、卵に関しては、1 N アンモニア水を海水1Lあたりに1 mL加え、30分放置することより卵核胞の崩壊を誘導し、受精可能な状態とした。また、精子に関しては同様の割合でアンモニア水を加え、5分間放置することにより受精可能な状態とした。以上のようにして受精能を獲得した卵と精子を海水ごと混合することにより受精を開始させた。30分後、20μmのナイロンメッシュ上に受精卵を集め、海水で十分洗浄したのち、1トン水槽に移し発生を開始させた。
【0018】
(3)Isochrysis sp.(Tahiti株)を用いた幼生飼育
受精後1日目において受精卵はD型幼生にまで発育し、水槽内を活発に遊泳し始めるので、この時点からIsochrysis sp.(Tahiti株)を餌として投与した。ここで、養殖する際の水温、アコヤガイの品種によっても変わってくるものの、投与する餌の量は厳密に制御しなければならない。具体的には、本実施例の場合、投与する餌の量を日を追って順次増加しながら飼育した。なお、付着段階までには受精後30日程度を要するが、この間の水温は25〜28℃に維持し、数日ごとに海水の入れ換えを行った。
【0019】
その結果、受精から14日目までの生残率は、90%であった。なお、生残率は、14日目の生存個体数÷正常に発生した個体数×100により計算した。これと同様の方法により、通常の飼料であるPavlova、Chaetoceros等を使用した場合の生残率が45%程度であることを考えると、この発明のアコヤガイ種苗の生産方法によりアコヤガイの生残率は十分に高いと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温耐性微細藻類を餌料として投与することを特徴とするアコヤガイ種苗の生産方法。
【請求項2】
高温耐性微細藻類が、Isochrysis sp.(Tahiti株)であることを特徴とする請求項1に記載のアコヤガイ種苗の生産方法。

【公開番号】特開2007−110902(P2007−110902A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284574(P2005−284574)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(505356354)
【Fターム(参考)】