説明

アスベスト含有粉塵の飛散防止方法、アスベスト含有建材の解体処理方法、アスベスト含有廃材の無害化処理方法及びアスベスト含有建材の廃材処理システム

【課題】アスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止でき、また、容易にかつ安全にアスベスト含有建材を剥離、捕集し、それを無害化することが可能な、アスベスト含有建材の廃材処理システムを提案すること。
【解決手段】解体箇所のアスベスト含有建材にベントナイト懸濁液を噴霧する噴霧工程と、前記ベントナイト懸濁液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程と、前記剥離されたアスベスト含有建材をポンプで吸引して捕集する捕集工程を含むアスベスト含有建材の解体処理方法で得られたアスベスト含有建材の廃材を、密閉式の輸送車により解体現場から焼成処理施設まで搬送し、該焼成処理施設で搬送したアスベスト含有建材の廃材にパーライトダストを混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、搬送したアスベスト含有建材を無害化するアスベスト含有建材の廃材処理システムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有物の処理方法に関するもので、詳しくは、アスベスト含有粉塵の飛散防止方法、この飛散防止方法を利用したアスベスト含有建材の解体処理方法、解体処理されたアスベスト含有建材等のアスベスト含有廃材の無害化処理方法、及び前記各処理方法を含むアスベスト含有建材の廃材処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスベストを使用した建材には、大別して、壁への吹き付け等により形成された少量のセメントモルタルを含むアスベスト建材と、アスベストを強度改善の目的で一定量添加して、セメント等でボード状に固めたアスベスト建材の2種類がある。これら(特に前者)は、特に健康への被害が出やすいとされ、解体処理をすることが緊急に必要になっている。しかし、これらアスベストを使用した建材の解体処理にあたって、その作業員の健康が損なわれたり、事後的に一般市民の健康が損なわれることがあってはならない。そのため、飛散防止や無害化についてアスベスト含有物の処理方法が種々提案され、また実行されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アスベスト等を剥離除去する際に、これらの粉塵が飛散しないようにするため、保水剤と増粘剤とを含む薬液をアスベスト等の処理対象物に塗布し、その後所定の時間養生させた後、該処理対象物を剥離除去する技術が提案されている。そして、上記保水剤としては、デンプン系、セルロース系、ヒアルロン酸系等、或いはパーライト、マイカ等が挙げられている。また、上記増粘剤としては、カルボキシルメチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ヒドロキシプロピルセルロース系の増粘剤、アルカリ膨潤型増粘剤、ポリビニルアルコール等が挙げられている。また、前記保水剤と増粘剤に、更に浸透剤、発泡剤、硬化剤を加えることも提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、アスベスト含有物と都市ゴミ焼却灰の混合物を、600℃から1700℃の温度範囲で加熱して反応焼結させ、アスベストを無害化焼結体とすると共に、該アスベストの無害化焼結体を、吸着材、タイル、レンガ、セメント充填材等の建築材料として再利用する技術が開示されている。
【0005】
更に、特許文献3には、石綿(アスベスト)、ゴム粉を含むフェノール樹脂等からなる産業廃棄物に、ガラス粉と粘土を所定の割合で混練し、適温(1000〜1300℃)で焼結或いは溶融させて、石綿(アスベスト)を無害化すると共に、建材用レンガ、タイル、陶器等を製造する技術が開示されている。
【0006】
他方、火山岩である真珠岩、黒曜石等を焼成し、発泡させたパーライトが、種々の分野で利用されている。セメントに混ぜて使う軽量骨材が代表的な用途であるが、そのほかにも、LPGタンクの保冷材、濾過助材、保水を目的にした土壌改良材などとして使われ、近年、その需要が増大している。そして、このパーライトの製造工程において、多くのパーライトダスト(真珠岩ダスト、黒曜石ダスト)が発生するが、その大部分が廃棄処分されているのが現状であり、該パーライトダストの有効な利用方法の開発が望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−323614号公報
【特許文献2】特開平9−206726号公報
【特許文献3】特開平8−187482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、先ず上記特許文献1に記載されている技術を用いても、塗布した薬液が自然乾燥により乾燥すると、保水効果が低下してアスベスト含有粉塵が再び飛散する憂いがあった。また、硬化処理する場合には、硬化時間を考慮する必要がある。更に、この技術は、単に粘性を高め保水する、或いは硬化させることによりアスベスト含有粉塵の飛散を防止する技術であるため、処理物(硬化物等)の後処理の容易性までは考慮されていない。そのため、例えば、この技術では、壁や天井から剥離されたアスベスト含有建材を、ポンプ吸引等によって捕集することはできず、専ら袋詰め作業となるため、その袋詰め作業は人力に頼らざるを得ず、時間がかかると共に、処理物を処理する際に発塵して、再び作業員の健康を損ねる憂いがあった。
【0009】
そこで、本発明の第1の課題は、解体処理等の処理時から処理後までアスベスト含有粉塵の飛散を効果的かつ持続的に防止でき、また、飛散防止処理したものの処理についても考慮し、容易にかつ安全に飛散防止処理したアスベスト含有建材を剥離、捕集することが可能な、アスベスト含有粉塵の飛散防止方法、またアスベスト含有建材の解体処理方法を提案することにある。
【0010】
また、上記特許文献2及び3に記載されている処理方法は、アスベストの無害化処理及びその資源としての再利用を図る点で有効であると思われるが、その無害化処理に際して、都市ゴミ焼却灰、ガラス粉、粘土等の特定物質をアスベスト含有物に混合することとしており、その処理の際、またその処理を始めるまでは、アスベスト含有粉塵の飛散の可能性があり、実施の形態によっては、作業員等の安全が十分に確保されない場合があった。また、特許文献2のように、都市ゴミ焼却灰を用いる場合は、重金属の含有や一定の品質の確保といったことを考慮する必要もあり、都市ゴミ焼却灰の管理も大変となる。更に、特許文献3の処理方法では、前処理をするなど、工程が複雑である。
【0011】
そこで、本発明の第2の課題は、アスベスト含有物の廃材(アスベスト含有廃材)を無害化し、レンガ等の再生産に有効利用して、産業廃棄物処理場等を使わずに簡便に焼成処理することを可能とすると共に、無害化処理の際、またその処理前においても、アスベスト含有粉塵の飛散を確実に防止し、作業員等の安全を確保できる、アスベスト含有廃材の無害化処理方法、またアスベスト含有建材の廃材処理システムを提案することにある。
【0012】
更に、本発明の第3の課題は、従来においては、その大部分が廃棄処分されていたパーライトダストの有効処理を兼ねて、アスベストを容易に無害化することを可能とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法、またアスベスト含有建材の廃材処理システムを提案することにある。
【0013】
更に、本発明の第4の課題は、アスベスト含有建材を安全かつ簡便に解体処理すると共に、解体処理したアスベスト含有建材の廃材を安全かつ簡便に無害化処理する解体から無害化までの、アスベスト含有建材の廃材処理システムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した第1の課題は、請求項1、請求項3に記載のアスベスト含有粉塵の飛散防止方法、アスベスト含有建材の解体処理方法によって解決された。
即ち、アスベスト含有物にチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させ、アスベスト含有粉塵が飛散しないようにする、アスベスト含有粉塵の飛散防止方法(請求項1)、また、解体箇所のアスベスト含有建材にチクソトロピー性を有する無機材液を噴霧する噴霧工程と、前記チクソトロピー性を有する無機材液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程とを含む、アスベスト含有建材の解体処理方法(請求項3)によって解決された。
【0015】
また、上記した第2の課題は、請求項6、請求項10に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法、アスベスト含有建材の廃材処理システムによって解決された。
即ち、チクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有廃材に、アルカリ分を含みシリカに富むガラス質物を混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、前記アスベスト含有廃材を無害化する、アスベスト含有廃材の無害化処理方法(請求項6)、また、アスベスト含有建材にチクソトロピー性を有する無機材液を噴霧する噴霧工程と、前記チクソトロピー性を有する無機材液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程とを含むアスベスト含有建材の解体処理方法で得られたチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有建材の廃材を、密閉式の輸送車或いはアジテータ付輸送車により解体現場から焼成処理施設まで搬送し、該焼成処理施設で搬送したアスベスト含有建材にアルカリ分を含みシリカに富むガラス質物を混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、搬送したアスベスト含有建材の廃材を無害化する、アスベスト含有建材の廃材処理システム(請求項10)によって解決された。
【0016】
更に、上記した第3の課題は、請求項7、請求項10に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法、アスベスト含有建材の廃材処理システムによって解決された。
即ち、チクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有廃材に、パーライトダストを混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、前記アスベスト含有廃材を無害化する、アスベスト含有廃材の無害化処理方法(請求項7)、また、アスベスト含有建材にチクソトロピー性を有する無機材液を噴霧する噴霧工程と、前記チクソトロピー性を有する無機材液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程とを含むアスベスト含有建材の解体処理方法で得られたチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有建材を、密閉式の輸送車或いはアジテータ付輸送車により解体現場から焼成処理施設まで搬送し、該焼成処理施設で搬送したアスベスト含有建材にパーライトダストを混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、搬送したアスベスト含有建材を無害化する、アスベスト含有建材の廃材処理システム(請求項10)によって解決された。
【0017】
更に、上記した第4の課題は、請求項10に記載のアスベスト含有建材の廃材処理システムによって解決された。
即ち、アスベスト含有建材にチクソトロピー性を有する無機材液を噴霧する噴霧工程と、前記チクソトロピー性を有する無機材液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程とを含むアスベスト含有建材の解体処理方法で得られたチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有建材の廃材を、密閉式の輸送車(バキューム車等)或いはアジテータ付輸送車(生コン車等)により解体現場から焼成処理施設まで搬送し、該焼成処理施設で搬送したアスベスト含有建材の廃材にアルカリ分を含みシリカに富むガラス質物を混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、搬送したアスベスト含有建材の廃材を無害化する、アスベスト含有建材の廃材処理システム(請求項10)によって解決された。
【発明の効果】
【0018】
上記した請求項1、請求項3に記載のアスベスト含有粉塵の飛散防止方法、或いはアスベスト含有建材の解体処理方法によれば、アスベスト含有物に浸透、或いは噴霧される無機材液がチクソトロピー性を有するものであるため、その液を浸透させたアスベスト含有物を静的に保持することにより含まれるアスベスト等をゲル状態で固定でき、アスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止することができる。また、ゲル状態の液に剪断力を加えることによりその液をゾル化して流動化できるため、時間が経過しても無機材液を浸透させたアスベスト含有物(アスベスト含有建材)を箆(へら)などを使って容易に剥離することができ、また、ポンプで吸引することにより効率的にそれを捕集することができる。従って、従来のようなチクソトロピー性を有しない単なる粘着質の薬液を用いた場合には必要であった、剥離したアスベスト含有物(アスベスト含有建材)の袋詰め等の作業がなくなり、アスベスト含有物(アスベスト含有建材)の処理を格段に効率化でき、作業員の安全も確保することができる。
【0019】
また、上記した請求項6、請求項10に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法、或いはアスベスト含有建材の廃材処理システムによれば、チクソトロピー性を有する無機材液を浸透させた状態でアスベストの輸送、保管、更には無害化処理のための特定物質の混合、焼成等の作業が成されるため、各作業時におけるアスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止でき、それに従事する作業員の安全が確保される。また、無害化処理にあたって、アスベストにアルカリ分を含みシリカに富むガラス質物を混合することとしたため、焼成することにより、有害なアスベスト(クリソタイル等)を確実に無害なフォルステライト、或いはエンスタタイトに変えることができ、無害化処理を容易かつ確実に達成することができる。更には、無機物を用いて処理するため、焼成処理時等において新たに有害物が発生したり、処理液や混合材の取り扱いで作業者の安全を懸念する必要もない。
【0020】
更に、上記した請求項7、請求項10に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法、或いはアスベスト含有建材の廃材処理システムによれば、従来においてはその多くが廃棄処分されていたパーライトダストを有効に利用かつ処理できると共に、パーライトダストはSiO2やアルカリ成分を多く含むため、更に効率的にアスベストをフォルステライト、或いはエンスタタイトに変えることができ、アスベストをより容易かつ確実に無害化することが可能となる。
【0021】
更に、上記した請求項10に記載のアスベスト含有建材の廃材処理システムによれば、アスベスト含有建材を安全かつ簡便に解体処理することができ、解体処理したアスベスト含有建材の廃材を安全に解体現場から焼成処理施設まで搬送でき、かつ焼成処理施設でアスベスト含有建材の廃材を安全かつ簡便に無害化処理することができる、解体から無害化までの一連の処理システムとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、上記した本発明に係る種々のアスベスト含有物の処理方法を、詳細に説明する。
【0023】
先ず、本発明は、アスベスト含有物にチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させ、作業時にアスベストを含有した粉塵が飛散しないようにする、アスベスト含有粉塵の飛散防止方法である。
【0024】
ここで、本発明において言うアスベスト含有物としては、建築物へのアスベスト吹付材、アスベストを強度改善、耐火付与等の目的で所定量添加した石綿スレート、石綿セメント板、屋根瓦、樹脂製水道管、更には、アスベストを圧送性改善の目的で含有したアスベスト含有ロックウールなどが挙げられる。また、チクソトロピー性とは、剪断力が加わったときには、その溶液中の懸濁粒子の結合構造が破壊され、粘度が下がって流動化(ゾル化)し、静止状態になったときには、時間の経過と共に構造を回復し、粘度が上がって固形化(ゲル化)する性質を言う。
【0025】
上記のようなチクソトロピー性を有する無機材液としては、ベントナイト、セピオライト、アタパルジャイト等の無機材料の懸濁液が挙げられるが、中でもベントナイトの懸濁液が好ましい。
これは、ベントナイトの主成分は、モンモリロナイトやサポナイトと言う層状の珪酸塩鉱物であり、このモンモリロナイトやサポナイトは、0.1〜1ミクロン程度の極めて薄い薄片状物質であり、分散液中で幾層にも重なり合った状態で安定している。そして、層間に陽イオンを取り込む性質があり、側部はマイナスに、端部はプラスに帯電している。これ故、静止状態の分散液中では、静電気結合してゲル化している。一方、剪断力を加えると、上記静電気結合は容易に破壊され、ゾル化する。即ち、顕著なチクソトロピー性を有している。また、ベントナイトは、化粧品や食品の添加物等としても使用されているように、人体にとって極めて安全な物質である。更には、安価で汎用品であるため入手し易いと言う利点もある。このようなことから、ベントナイトの懸濁液が好ましい。
【0026】
本発明においては、上記したチクソトロピー性を有する無機材液、好ましくはベントナイト懸濁液をアスベスト含有物に浸透させることとしたため、該液を浸透させたアスベスト含有物を静止状態に保持することにより、ゲル状態でアスベストを固定することができ、その飛散を効果的に防止することができる。一方、ゲル状態の液に剪断力を加えることによりゾル化して流動化できるので、例えば箆(へら)などを使って該液を浸透させたアスベスト含有物を容易に剥離することができ、また、ポンプで吸引することにより効率的にそれを捕集することもできる。そのため、アスベスト含有物の処理作業を格段に効率化でき、作業員の安全性も確保することができる。なお、浸透は自然浸透により行われるが、より浸透力を向上させたい場合には、対象とするアスベスト含有物の解体あるいは剥離作業中に、該アスベスト含有物の新しい破断面に集中的にベントナイト懸濁液を噴霧すればよい。
【0027】
また、本発明は、解体箇所のアスベスト含有建材にチクソトロピー性を有する無機材液を噴霧する噴霧工程と、前記チクソトロピー性を有する無機材液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程とを含む、アスベスト含有建材の解体処理方法である。
【0028】
ここで、本発明において言うアスベスト含有建材としては、種々の内装材や外装材があり、例えば建築物へのアスベスト吹付材、アスベストを強度改善、耐火付与等の目的で所定量添加した石綿スレート、石綿セメント板等が挙げられる。中でも、アスベスト吹付材は、その解体剥離時にアスベスト含有粉塵の飛散が特に懸念されるため、本発明に係る解体処理方法の好適な対象となる。また、上記噴霧工程と剥離工程に加え、剥離されたアスベスト含有建材をポンプで吸引して捕集する捕集工程を更に含むものとすることは、好ましい実施の形態である。また、上記チクソトロピー性を有する無機材液として、ベントナイト懸濁液が好ましいことは、上述したアスベスト含有粉塵の飛散防止方法の場合と同様である。
次に、チクソトロピー性を有する無機材液として、ベントナイト懸濁液を使用した場合を例に、本発明のアスベスト含有建材の解体処理方法を詳述する。
【0029】
先ず、ベントナイト懸濁液を調整する場合は、ハンドミキサーなどを用いてベントナイトを水に懸濁させる。使用するベントナイトとしては、噴霧器の目詰まりを防止する意味で、例えばクニミネ工業社製のクニピア(商品名)、スメクトン(商品名)などの不純物の少ないタイプのベントナイト製品を好ましいものとして挙げることができ、このようなべントナイトを、濃度2〜10%、好ましくは約3〜5%で、pH8.5から10.0程度の懸濁液に調整する。この調整したベントナイト懸濁液を、タンクローリ、ドラム缶等を使ってアスベスト含有建材の解体処理現場にまで輸送し、解体箇所のアスベスト含有建材に噴霧する。ベントナイト懸濁液の噴霧は、例えば手動噴霧器、自動噴霧器などの装置を用いて行えばよい。噴霧するベントナイト懸濁液の量は、特には限定されないが、アスベスト含有建材がかなり湿った状態になるまで噴霧する必要があり、一般的には、アスベスト含有建材に対して、体積比で最大1対1程度となる量噴霧することが好ましい。
【0030】
上記噴霧工程において、従来行われているように、アスベスト含有建材に粘着質の薬液を噴霧した場合には、数種類の薬液を使い分け、養生する必要があったが、本発明のようにチクソトロピー性を有するベントナイト懸濁液を噴霧した場合には、ゾル化して粘性が低いので、容易にアスベスト含有建材の内部にまで浸透し、そこで速やかにゲル化するので、該ベントナイト懸濁液が余り垂れないと共に、含まれるアスベスト等をそのベントナイト懸濁液のゲルの中に固定することができ、次工程における剥離工程での剥離作業の際に、アスベスト含有粉塵の飛散を効率的に防止することができる。
【0031】
即ち、続く剥離工程では、ベントナイト懸濁液が浸透し、含まれるアスベスト等を固定した状態にあるアスベスト含有建材を、例えば箆(へら)などを使って剥離し、床に落とす。この際、内部のアスベスト等も、上記したようにベントナイト懸濁液により固定されているため、この剥離工程でアスベスト含有粉塵が飛散することはなく、仮に飛散したとしても、浮遊することはなく直ちに床に落下する。但し、アスベスト含有建材が厚い場合や、噴霧してからの時間によっては、次の剥離作業前に、必要に応じてベントナイト懸濁液を噴霧することが好ましく、このように、噴霧作業と剥離作業は、必要に応じて交互に行うこととする。解体剥離されて床に落ちたアスベスト含有建材は、ベントナイト懸濁液のチクソトロピー性により、再び湿潤で粘性のあるゲル状態になって固定化される。そのため、床に落ちたアスベスト含有建材が、風等の影響により再び床から舞い上がることはなく、この時点においても、アスベスト含有粉塵の飛散は効果的に防止される。また、万が一飛散して乾燥した場合でも、微細なベントナイト粒子がアスベスト粒子を取り囲んで固定しているので、アスベスト粒子そのものが飛散することはなく安全である。
【0032】
続く捕集工程では、剥離されて床に落ちたアスベスト含有建材を、撤去、搬送するために捕集する。本発明では、この捕集工程においては、剥離されて床に落ちたアスベスト含有建材の各片は浸透させたベントナイト懸濁液のチクソトロピー性により、剪断力を加えることにより容易にゾル化して流動化するため、例えば、湿式の吸引ポンプ等を使用し、吸引により捕集することが可能であり、また、このような形態の捕集工程とすることが効率的であり、また作業員の安全を確実に確保できるために好ましい。特に、浚渫用のバキューム車等を使用すると、効率よく捕集できると共に、その後のアスベスト含有建材の搬送がそのまま可能となるために好ましい。
【0033】
以上の記載から明らかなように、本発明においては、アスベスト含有建材の解体処理に際して、チクソトロピー性を有する無機材液、好ましくはベントナイト懸濁液を利用することに最大の特徴があり、これにより、先ず、噴霧工程においては、ベントナイト懸濁液等の無機材液は、容易にアスベスト含有建材の内部にまで浸透し、そこで速やかにゲル化するので、該液が余り垂れないと共に、アスベストをその無機材液のゲルの中に固定するため、アスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止することができる。また、剥離工程においては、無機材液は、剪断力を加えることによりゾル化して流動化できるので、例えば箆(へら)などを使って該液を浸透させたアスベスト含有建材を容易に剥離することができると共に、該液は、保水性が強く、アスベスト含有建材を濡れた状態に維持するため、アスベスト含有粉塵が分離して飛散することを効果的に防止でき、仮に飛散したとしても、水分で重くなっているので、大気中に浮遊することはなく直ちに床に落下する。また、捕集工程においては、擬似流動体として、効率的に剥離したアスベスト含有建材を捕集することができる。即ち、無機材液のチクソトロピー性により、剪断力を加えることにより容易にゾル化して流動化するため、アスベスト含有建材を擬似流動体としてポンプで吸引捕集することが可能となり、従来技術によるように、飛散しないように粘稠化或いは硬化させたアスベスト含有建材を、人手にて袋詰めする作業を無くすことができ、解体処理作業を格段に効率化でき、作業員の安全性も確保することができる。
【0034】
続いて、本発明は、チクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有廃材に、アルカリ分を含みシリカに富むガラス質物を混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、前記アスベスト含有廃材を無害化する、アスベスト含有廃材の無害化処理方法である。
【0035】
ここで、本発明において言うアスベスト含有廃材とは、前記アスベスト含有物やアスベスト含有建材の廃材である。また、上記アルカリ分を含みシリカに富むガラス質物としては、パーライトダスト、シラス、ガラス等が挙げられるが、中でもパーライトダストを用いることが、成分変動が少なく安定して入手でき、しかも廃棄物の有効利用と言う観点から好ましい。パーライトダストは、パーライト(真珠岩や黒曜石の発泡粒)を製造する際に発生する。また、チクソトロピー性を有する無機材液として、ベントナイト懸濁液が好ましいことは、上述したアスベスト含有粉塵の飛散防止方法、及び上述したアスベスト含有建材の解体処理方法の場合と同様である。
【0036】
本発明においては、アスベスト含有廃材の無害化処理のための焼成温度を低減することを目的の一つとして、上記アルカリ分を含みシリカに富むガラス質物が混合される。即ち、アスベスト(石綿)は、火成岩や蛇紋岩を構成する鉱物である蛇紋石や角閃石の特殊なものである。更に詳しく述べると、蛇紋石系のアスベスト(クリソタイル)は、フォルステライトが熱水変質してできた物質の針状結晶である。しかし、加熱により、脱水反応が起こって結晶水が奪われ、アスベストは無害なフォルステライトに戻る。フォルステライトは、シリカ(SiO2 )分のポテンシャルが高いと、容易に輝石のエンスタタイトに変わる。その際、アルカリはフラックスとして機能し、上記反応を円滑にする。そこで、アスベストの無害化処理にあたって、パーライトダストのようなSiO2含有量とアルカリ分の多い物質を混合して焼成すると、より低温で効率的にアスベストを無害化できる。
【0037】
上記アスベスト含有廃材に混合するガラス質物中には、アルカリ分が5wt%程度含まれていることが好ましく、また、シリカ分が70wt%程度含まれていることが好ましい。ガラス質物のアスベスト含有廃材への混合割合は、ガラス質物の種類によって異なり、一概に規定できるものではないが、基準として、アスベストを無害化するには、アスベスト含有廃材中のアスベストに対して20wt%程度のシリカ分が必要である。前記パーライトダストを用いる場合は、概してアスベスト含有廃材中のアスベストに対し、5分の1程度の重量比で混合することが好ましい。なお、前記アスベスト含有廃材と前記ガラス質物との混合は、粉砕後に窯業用のニーダー等の混合装置を用いて行えばよい。
【0038】
また、本発明においては、上記パーライトダスト等のガラス質物をアスベスト含有廃材に混合する際、チクソトロピー性を有する無機材液、好ましくはベントナイト懸濁液を浸透させた状態で成されるため、該混合作業時におけるアスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止でき、それに従事する作業員の安全を確保できる。また、ベントナイト懸濁液は、パーライトダスト等のガラス質物とアスベスト含有廃材の適切な分散を維持する機能をも果たす。
【0039】
また、表1は、パーライトダスト、ベントナイト、アスベストの代表的な化学組成を示したものである。表1から分るように、ベントナイトもパーライトダストも、SiO2の含有量が非常に多い物質である。従って、チクソトロピー性を有する無機材液として、ベントナイト懸濁液を浸透させたアスベスト含有廃材を無害化処理する場合には そのベントナイトも、この無害化処理において、パーライトダストと同様に有効に利用されることとなる。
【表1】

【0040】
また、上記アスベスト含有廃材を焼成する設備としては、内熱キルン、外熱キルン、煉瓦炉、電気炉等が挙げられる。これらの焼成設備に前記アスベスト含有廃材とガラス質物との混合物を投入するにあたっても、チクソトロピー性を有する無機材液、好ましくはベントナイト懸濁液を浸透させた状態で成されるため、アスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止できると共に、ポンプ圧送等による混合設備からの輸送と焼成設備への投入が可能となり、効率的かつ安全に無害化処理をすることができる。この焼成設備での焼成は、1000〜1300℃で行うのが好ましい。これは、1000℃以下では、無害化できないアスベストが残る憂いがあり、また1300℃を超えると熱エネルギーを浪費することになるために好ましくない。
【0041】
以上の記載から明らかなように、本発明においては、アスベスト含有廃材の無害化処理に際して、チクソチクソトロピー性を有する無機材液、好ましくはベントナイト懸濁液を浸透させた状態でその無害化処理が成されるため、その作業時、またその無害化処理の前における輸送、保管時におけるアスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止でき、それに従事する作業員の安全を確保することができる。また、無害化処理にあたって、アスベスト含有廃材にアルカリ分を含みシリカに富むガラス質物、好ましくはパーライトダストを混合することとしたため、焼成することにより、有害なアスベスト(クリソタイル等)を確実に無害なフォルステライト、或いはエンスタタイトに変えることができ、無害化処理を容易かつ確実に達成することできる。なお、無害化とは人体に対する無害化を言う。
【0042】
また、本発明は、アスベスト含有建材にチクソトロピー性を有する無機材液を噴霧する噴霧工程と、前記チクソトロピー性を有する無機材液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程とを含む上述した本発明に係るアスベスト含有建材の解体処理方法で得られたチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有建材を、密閉式の輸送車或いはアジテータ付輸送車により解体現場から焼成処理施設まで搬送し、搬送したアスベスト含有建材にアルカリ分を含みシリカに富むガラス質物を混合した混合物を、該焼成処理施設で1000〜1300℃で焼成する上述した本発明に係るアスベスト含有廃材の無害化処理方法により無害化する、アスベスト含有建材の廃材処理システムである。
【0043】
ここで、焼成処理施設とは、部分溶融を利用した焼成プロセスを実施し得る施設であり、例えばセメント工場、軽量骨材工場、煉瓦工場、セラミック工場、パーライト工場などが挙げられる。また、上記密閉式の輸送車としては、密閉式のコンテナ車、バキューム車等が挙げられる。アジテータ付輸送車としては生コン車が挙げられる。また、上記チクソトロピー性を有する無機材液として、ベントナイト懸濁液が好ましいこと、上記噴霧工程と剥離工程に加え、剥離されたアスベスト含有建材をポンプで吸引して捕集する捕集工程を更に含むことが好ましいこと、更には、上記アルカリ分を含みシリカに富むガラス質物として、パーライトダストが好ましいことは、上述したアスベスト含有建材の解体処理方法、及び上述したアスベスト含有廃材の無害化処理方法の場合と同様である。
図1に、本発明に係るアスベスト含有建材の廃材処理システムの好適なフローを示す。
【0044】
本発明においては、解体処理をすることが緊急に必要になっているアスベスト含有建材を、アスベスト含有粉塵を飛散させることなく安全に解体処理することができ、該解体処理したアスベスト含有建材を、その解体処理現場から焼成処理施設まで輸送車、好ましくは密閉式のコンテナ車、バキューム車、アジテータ付きの生コン車のいずれかで搬送し、該焼成処理施設でアスベスト含有建材を、アスベスト含有粉塵を飛散させることなく安全に無害化処理するものである。このアスベスト含有建材の廃材処理システムによっては、チクソトロピー性を有する無機材液、好ましくはベントナイト懸濁液を浸透させた状態でアスベスト含有建材の解体、輸送、焼成処理施設での無害化処理等の一連の作業が成されるため、一貫してアスベスト含有粉塵の飛散を効果的に防止でき、作業員の安全を確実に確保することができる。また、アスベスト含有建材中のアスベストの針状結晶は本発明に係る処理システムによって消失し、無害な珪酸化合物に変わるので、得られた焼成物は、煉瓦や、人工骨材や、人工岩石の素材として、解体剥離したアスベスト含有建材の廃材等を有効利用することができる。従って、産業廃棄物処理場に埋め立て処理する必要もなく、アスベスト含有建材の廃材の処理費用を低減できると言う効果もある。
【0045】
以上、本発明に係る各種のアスベスト含有物の処理方法について説明したが、本発明は、既述のアスベスト含有物の処理方法に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲内において、更に種々の変形、変更を加えたアスベスト含有物の処理方法とすることができることは当然である。
【実施例】
【0046】
−実施例1−
アスベスト吹き付け建材に類似した製品であるロックウール吹き付け建材で飛散防止効果や解体施工性を確認した。工場内の支柱に吹付けられた吹付けロックウールの解体処理を、2m2 にわたって実施した。
解体処理にあたっては、ベントナイト懸濁液(ベントナイトの種類:クニピアF 濃度:3%、pH:10)を、携行噴霧器を用いて吹付けアスベストに対して体積比で1対1程度となる量噴霧し、箆(へら)を使って吹付けアスベストを剥離し、床に落ちた吹き付けロックウールを、湿式の吸引ポンプを使用して捕集することにより行なった。
作業は、防塵服、マスク、メガネ、足カバー、手袋を着用した作業員が実施した。作業員は1人ベントナイト懸濁液の噴霧と、箆(へら)を使っての剥離作業を並行して行い、吸引ポンプを使用して床に落ちたロックウール含有建材の捕集作業を行った。
(実施結果)
作業能率はきわめて高く、2m2 あたり10分程度で完了した。また、作業中、粉塵濃度は上がることはなく、現場はクリーンな状態が維持されていた。
【0047】
−実施例2−
上記実施例1で使用したベントナイト懸濁液を浸透させたアスベスト含有建材に、パーライトダストをアスベストに対して100wt%となる量添加し、攪拌器を用いて混合した。
得られた混合物を、電気炉を用いて温度1230℃で10分間焼成した。
(実施結果)
得られた焼成物は、X線解析によりアスベスト(クリソタイト)のピークを示さないことが確認された。また、混合、焼成作業中において、アスベスト含有粉塵の飛散は認められず、クリーンな状態が維持されていた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るアスベスト含有建材の廃材処理システムの好適なフローを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有物にチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させ、アスベスト含有粉塵が飛散しないようにすることを特徴とする、アスベスト含有粉塵の飛散防止方法。
【請求項2】
上記チクソトロピー性を有する無機材液が、ベントナイト懸濁液であることを特徴とする、請求項1に記載のアスベスト含有粉塵の飛散防止方法。
【請求項3】
解体箇所のアスベスト含有建材にチクソトロピー性を有する無機材液を噴霧する噴霧工程と、前記チクソトロピー性を有する無機材液が噴霧されたアスベスト含有建材を剥離する剥離工程とを含むことを特徴とする、アスベスト含有建材の解体処理方法。
【請求項4】
上記噴霧工程と剥離工程に加え、剥離されたアスベスト含有建材をポンプで吸引して捕集する捕集工程を更に含むことを特徴とする、請求項3に記載のアスベスト含有建材の解体処理方法。
【請求項5】
上記チクソトロピー性を有する無機材液が、ベントナイト懸濁液であることを特徴とする、請求項3又は4に記載のアスベスト含有建材の解体処理方法。
【請求項6】
チクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有廃材に、アルカリ分を含みシリカに富むガラス質物を混合した混合物を、1000〜1300℃で焼成し、前記アスベスト含有廃材を無害化することを特徴とする、アスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項7】
上記アルカリ分を含みシリカに富むガラス質物が、パーライトダストであることを特徴とする、請求項6に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項8】
上記混合物の処理が、焼成施設により行われることを特徴とする、請求項6又は7に記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項9】
上記チクソトロピー性を有する無機材液が、ベントナイト懸濁液であることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれかに記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法。
【請求項10】
上記請求項3乃至5のいずれかに記載のアスベスト含有建材の解体処理方法で得られたチクソトロピー性を有する無機材液を浸透させたアスベスト含有建材の廃材を、密閉式の輸送車或いはアジテータ付輸送車により解体現場から焼成処理施設まで搬送し、該搬送したアスベスト含有建材の廃材を焼成処理施設で上記請求項6乃至9のいずれかに記載のアスベスト含有廃材の無害化処理方法により無害化することを特徴とする、アスベスト含有建材の廃材処理システム。
【請求項11】
上記輸送車が、コンテナ車、バキューム車、生コン車のいずれかであることを特徴とする、請求項10に記載のアスベスト含有建材の廃材処理システム。

【図1】
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【公開番号】特開2007−303201(P2007−303201A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133790(P2006−133790)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】