説明

アナログ電子時計

【課題】 複数の指針を所定位置まで早送りする場合に、容易な制御で短時間に複数の指針の早送り運針を完了することのできるアナログ電子時計を提供する。
【解決手段】 各指針を個別に運針させる場合に最も短い時間で移動できる各指針の移動方向、駆動速度および移動量をそれぞれ求める第1の算出手段(S2〜S7)と、第1の算出手段により算出された各指針の駆動速度のうち最も遅い最遅駆動速度を抽出する最遅速度抽出手段(S8〜S11)と、移動方向が正方向、移動量が180度の回転移動量より大きいと算出された指針を特定指針として抽出し、最遅駆動速度が当該特定指針の逆方向最速駆動速度以下か否かを判別する判別手段(S15,S16)と、この判別手段により以下と判別された場合に、当該特定指針の移動方向を逆方向と修正する第2の算出手段(S17,S18)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の指針を複数のステップモータで駆動するアナログ電子時計に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の指針を複数のステップモータ(ステッピングモータとも言う)で駆動するアナログ電子時計において、例えば、日本の時刻表示から世界各都市の時刻表示へ表示内容を変更したり、現在時刻の表示からアラームセット時刻の表示へと表示内容を変更する場合に、複数の指針を共に早送りする制御が行われる。
【0003】
また、本発明に関連する従来技術として、特許文献1には、アナログ電子時計において分針と時針とを別モータで駆動するとともに、分針と時針とを適宜な条件で正転方向に回転したり逆転方向に回転させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−093784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
指針を運針する2極ステップモータは、駆動パルスの波形パターンを変更することによって回転方向を正転方向としたり逆転方向としたり制御するため、正転方向の最速駆動速度と、逆転方向の最速駆動速度とが異なっていて、正転方向の最速駆動速度が逆転方向の最速駆動速度より速くなっている。
【0006】
また、複数のステップモータを共に高速駆動する場合には、各々の最速駆動速度でそれぞれ駆動するよりも、複数のステップモータを同一周期で駆動する方がタイミング制御を容易にできるという利点がある。
【0007】
この発明の目的は、複数のステップモータにより複数の指針を所定位置まで早送りする場合に、容易な制御で短時間に複数の指針の早送り運針を完了することのできるアナログ電子時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
複数の指針と、
これら複数の指針をそれぞれ運針する正方向と逆方向との両方に回転可能な複数のステップモータと、
前記複数の指針の各々について、各指針の移動開始位置、各指針の移動終了位置、正方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の正方向最速駆動速度、および、逆方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の逆方向最速駆動速度から、各指針を個別に運針させる場合に、前記移動開始位置から前記移動終了位置まで最も短い時間で移動できる各指針の移動方向、駆動速度および移動量をそれぞれ求める第1の算出手段と、
この第1の算出手段により算出された各指針の前記駆動速度のうち最も遅い最遅駆動速度を抽出する最遅速度抽出手段と、
前記第1の算出手段により前記移動方向が正方向、前記移動量が180度の回転移動量より大きいと算出された指針を特定指針として抽出し、前記最遅駆動速度が当該特定指針の逆方向最速駆動速度以下か否かを判別する判別手段と、
この判別手段により以下と判別された場合に、当該特定指針の移動方向を逆方向と修正し、当該指針を前記移動開始位置から前記移動終了位置まで逆方向に移動させる移動量を求めなおす第2の算出手段と、
前記第1の算出手段で求められ、且つ、前記第2の算出手段により一部修正され求めなおされた各指針の移動方向および移動量に応じて、前記複数のステップモータを前記最遅駆動速度で駆動して、前記複数の指針を各指針の前記移動終了位置まで移動させる移動制御手段と、
を備えていることを特徴とするアナログ電子時計である。
【0009】
請求項2記載の発明は、
複数の指針と、
これら複数の指針をそれぞれ運針する正方向と逆方向との両方に回転可能な複数のステップモータと、
前記複数の指針の各々について、各指針の移動開始位置、各指針の移動終了位置、正方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の正方向最速駆動速度、および、逆方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の逆方向最速駆動速度から、各指針を個別に運針させる場合に、前記移動開始位置から前記移動終了位置まで最も短い時間で移動できる各指針の移動方向を求める第1の算出手段と、
前記複数の指針を共に運針させる場合の同時駆動速度を決定する駆動速度決定手段と、
前記第1の算出手段により移動方向が正方向と求められ、且つ、前記移動開始位置から前記移動終了位置までの正方向の移動量が180度の回転移動量より大きい指針を特定指針として抽出し、前記同時駆動速度が当該特定指針の逆方向最速駆動速度以下か否かを判別する判別手段と、
この判別手段により以下と判別された場合に、当該特定指針の移動方向を逆方向と求めなおす第2の算出手段と、
前記第1の算出手段で求められ、且つ、前記第2の算出手段により一部求めなおされた各指針の移動方向に応じて、前記複数のステップモータを前記同時駆動速度でそれぞれ駆動して、前記複数の指針を各指針の前記移動終了位置まで移動させる移動制御手段と、
を備えていることを特徴とするアナログ電子時計である。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のアナログ電子時計において、
前記複数の指針と対応させて各指針の前記正方向最速駆動速度および前記逆方向最速駆動速度をそれぞれ記憶した第1記憶部を備え、
前記第1の算出手段は、
前記第1記憶部から前記正方向最速駆動速度および前記逆方向最速駆動速度の情報を取得することを特徴としている。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のアナログ電子時計において、
前記複数の指針と対応させて各指針を1周させる駆動ステップ数を記憶した第2記憶部を備え、
前記判別手段は、
前記第2記憶部の駆動ステップ数の情報に基づいて前記移動量が180度の回転移動量より大きいか否かを特定することを特徴としている。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のアナログ電子時計において、
前記複数の指針には、時針、分針、秒針が含まれ、
前記複数のステップモータには、前記時針、前記分針、前記秒針をそれぞれ独立的に運針する3つのステップモータを含んでいる
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従うと、複数の指針を早送りして移動開始位置から移動終了位置まで移動させるのに、判別手段と第2の算出手段により移動方向の修正がなされるので、簡単な制御でより短時間に早送りを遂行できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態のアナログ電子時計を示す正面図である。
【図2】図1のアナログ電子時計の全体構成を示すブロック図である。
【図3】ROMに記憶される駆動速度データおよび一周ステップ数データの一例を示すデータチャートである。
【図4】指針早送り処理で算出および修正される各指針の移動方向、駆動速度、移動量の各パラメータを示す図表であり、(a)は初期の算出で得られた各パラメータの一例、(b)は修正処理を経て最終的に決定された各パラメータの一例である。
【図5】分針について正転の方が早く移動できる移動範囲と逆転の方が早く移動できる移動範囲とを示した説明図である。
【図6】制御部のCPUにより実行される指針早送り処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態のアナログ電子時計を示す正面図、図2は、この実施形態のアナログ電子時計の全体構成を示すブロック図である。
【0017】
この実施形態のアナログ電子時計1は、第1〜第5ステップモータ21〜25により5つの指針2〜6を駆動して、時刻やストップウォッチの計測時間の表示など種々の表示を行うもので、例えば腕時計の本体となるものである。複数の指針2〜6は、文字板10の中央に回転軸を有する時針2、分針3、秒針4と、文字板10の9時の方向に設けられた小窓14内で回転する1/10秒針(ストップウォッチの計測時に1/10秒単位の計測時間をカウントする針)と、文字板10の3時の方向に設けられた小窓11内で回転する24時針(24時間で一周する針)6とからなる。
【0018】
このアナログ電子時計1は、図2に示すように、CPUが搭載されて時計の全体的な制御を行う制御部80と、制御部80に作業用のメモリ領域を提供するRAM81と、制御部80のCPUが実行する制御プログラムや制御データが記憶されるROM82と、図1の操作ボタンBT1〜BT4の操作信号を入力するスイッチ部90と、制御部80に指定されたタイミング信号を供給するための発振回路88および分周・割込信号発生回路89と、上述した第1〜第5ステップモータ21〜25および指針2〜6と、第1〜第5ステップモータ21〜25の回転運動を指針2〜6にそれぞれ伝達する輪列機構31〜35と、制御部80からの制御信号に基づいて第1〜第5ステップモータ21〜25にそれぞれ駆動パルスを出力する駆動回路83〜87等を備えている。
【0019】
第1〜第5ステップモータ21〜25は、モータ自体の構成、対応する指針2〜6の回転に必要な回転トルクの違いなどから、最も早く回転駆動できる駆動速度(pps:1秒間当たりの駆動ステップ数)が異なってくる。また、第1〜第5ステップモータ21〜25は、駆動パルスの出力パターンによって回転方向の制御を行うため正転方向と逆転方向の最速の駆動速度も異なってくる。
【0020】
また、第1〜第5ステップモータ21〜25の1ステップの回転は、輪列機構31〜35により回転角度が適宜変更されて指針2〜6に伝達されるので、これら輪列機構31〜35により、各指針2〜6の1ステップの回転角度は異なってくる。従って、各指針2〜6を一周させるのに必要な第1〜第5ステップモータ21〜25の駆動ステップ数も同一ではない。
【0021】
分周・割込信号発生回路89は、発振回路88の一定周波数の信号を分周して指定の周波数信号を生成する分周器を有し、この分周器の信号を割込信号として制御部80に供給するものである。分周器は制御部80からの制御信号によって分周比を変更することが可能に構成され、それにより割込信号の周波数を制御部80から制御することが可能になっている。この割込信号は、例えば、指針2〜6の早送り時に第1〜第5ステップモータ21〜25の駆動タイミングを発生させるときにも使用される。
【0022】
ROM82には、制御プログラムとして、現在時刻の計時を行うとともに計時データに同期させて、第1〜第5ステップモータ21〜25のうち必要なモータを駆動して指針2〜6により現在時刻を表示させる時刻表示プログラムや、スイッチ部90からの入力信号に基づいて種々の時計機能を発動させたり時計の動作モードを切り換える操作入力処理プログラム、並びに、指針2〜6を指定の位置まで早送りする指針早送り処理プログラムなどが記憶されている。上記の種々の時計機能には、例えばストップウォッチ機能、アラーム時刻設定機能、世界時刻表示機能などが含まれる。
【0023】
また、ROM82には、制御データとして、指針駆動速度データ82aと、一周ステップ数データ82bとが記憶されている。
【0024】
図3には、ROM82に記憶される指針駆動速度データ82aおよび一周ステップ数データ82bの一例を表わしたデータチャートを示す。
【0025】
指針駆動速度データ82aには、図3の一部分に示すように、指針2〜6(図3では第1指針〜第5指針と記す)にそれぞれ対応させて、各指針2〜6を正転方向に最も早く駆動できる速度として設定された正最速駆動速度(正方向最速駆動速度)と、各指針2〜6を逆転方向に最も早く駆動できる速度として設定された逆最速駆動速度(逆方向最速駆動速度)とがそれぞれ登録されている。
【0026】
正最速駆動速度とは、指針2〜6を正転方向に安定的に回転駆動でき、且つ、駆動タイミングを比較的容易に得ることのできる範囲で、最も早い駆動速度であり、設計段階において予め設定されたものである。また、逆最速駆動速度とは、指針2〜6を逆転方向に安定的に回転駆動でき、且つ、駆動タイミングを比較的容易に得ることのできる範囲で、最も早い駆動速度であり、それぞれ設計段階において予め設定されたものである。一つの指針について設定された正最速駆動速度と逆最速駆動速度とでは、正最速駆動速度の方が高速な値となる。
【0027】
一周ステップ数データ82bは、図3の一部分に示すように、指針2〜6にそれぞれ対応させて、各指針2〜6を一周させるのに必要な第1〜第3ステップモータ21〜25の駆動ステップ数がそれぞれ登録されたものである。特に制限されるものではないが、この実施形態では、時針2と分針3は360ステップで一周し、秒針4、1/10秒針5および24時針6は60ステップで一周するというデータ内容になっている。
【0028】
次に、上記構成のアナログ電子時計1の指針早送り処理について説明する。
【0029】
先ず、該要を説明する。指針早送り処理は、複数の指針2〜6を、任意の移動開始位置から任意の移動終了位置まで早送りによって移動させる処理である。移動開始位置と移動終了位置は、別の制御処理によって与えられ、例えば、現在時刻の表示を行っている状態からアラームセット時刻を表示させるために指針早送り処理が開始されたとすれば、早送りを開始する現在時刻の表示位置が移動開始位置となり、ユーザにより設定されているアラームセット時刻の表示位置が移動終了位置となる。指針早送り処理は、様々な制御処理において呼び出されて実行される処理であり、呼び出し元の制御処理によって、その移動開始位置と移動終了位置とは様々な位置に設定される。
【0030】
指針早送り処理においては、複数の指針2〜6(全てでなくても良い)を早送りする場合に、対応するステップモータ(第1〜第5ステップモータ21〜25のうち対応するもの)を、全て同じ駆動速度でステップ駆動させる。但し、各指針2〜6は、設定されている正最速駆動速度より速く正転方向に駆動したり、設定されている逆最速駆動速度より速く逆転方向に駆動することはできない。そのため、同時に早送りする各指針2〜6の中で一番遅い最速駆動速度に合わせて、各指針2〜6の駆動を行う。
【0031】
各指針2〜6の駆動タイミングは、制御部80が分周・割込信号発生回路89へ分周比の設定を行い、分周・割込信号発生回路89に指定の駆動速度に合致した周期の割込信号を発生させることで制御する。そして、制御部80が、この割込信号の入力に基づいて各駆動回路83〜87へ駆動用の制御信号を出力することで、複数の指針2〜8を同じ駆動速度でほぼ同時にステップ駆動させる。このように、複数の指針2〜6を同一の駆動速度で駆動することでタイミング制御が容易なものとなる。
【0032】
図4には、指針早送り処理で算出および修正される各指針2〜6の移動方向、駆動速度、移動量の各パラメータの一例を表わした図表を示す。同図(a)は、初期の算出で得られる各パラメータを示す図表であり、(b)は修正して得られた各パラメータを示す図表である。また、図5には、分針3について正転の方が早く移動できる移動範囲と逆転の方が早く移動できる移動範囲とを表わした説明図を示す。
【0033】
指針早送り処理では、上記のような駆動制御を行うために、制御部80は、各指針2〜6の移動方向、移動量、駆動速度の各パラメータを、各指針2〜6の早送り駆動が短時間で終了するように、それぞれ決定する。
【0034】
そのため、先ず、制御部80は、各指針2〜6を個別に駆動するものとして、最も短い時間で移動開始位置から移動終了位置まで移動させることのできる各指針2〜6の移動方向、駆動速度および移動量を求める。
【0035】
図5に示すように、例えば分針3では、正最速駆動速度が64pps、逆最速駆動速度が32ppsであるので、0ステップを移動開始位置として“0−240”ステップの移動範囲U1に含まれる移動終了位置へ移動する場合には、正最速駆動速度で正転方向に駆動した方が早く移動でき、“240−360”ステップの移動範囲U2に含まれる移動終了位置へ移動する場合には逆最速駆動速度で逆転方向に駆動した方が早く移動させることができる。従って、例えば、分針3の移動開始位置が0ステップの位置で、移動終了位置が190ステップの位置であるとすれば、図4(a)の「第2指針」の行に示すように、最短時間で移動できる移動方向は正転方向、駆動速度は正最速駆動速度A2、移動量は190ステップとなる。
【0036】
このように、複数の指針2〜6の各々について、指定された各指針の移動開始位置、各指針の移動終了位置、並びに、ROM82の指針駆動速度データ82a、および一周ステップ数データ82bとから、個別に駆動した場合にそれぞれ最短時間で移動できる移動方向、駆動速度、移動量を求める。それにより、例えば、図4(a)の図表に示すような各パラメータが求められる。図4(a)の例では、時針2、分針3、秒針4、24時針6の移動方向が正転方向として求められ、1/10秒針5が逆転方向として求められている。
【0037】
続いて、制御部80は、上記のように求められた各指針の駆動速度のうち最も遅い最遅駆動速度を、複数の指針2〜6を共に早送りするための駆動速度(同時駆動速度)として抽出する。図4(a)の例では、駆動速度「A1,A2,A3,B4,A5」の中で最も遅いのは、1/10秒針5の逆最速駆動速度B4(48pps)である。従って、この駆動速度B4を複数の指針2〜6を共に駆動するための最遅駆動速度として抽出する。
【0038】
なお、この最遅駆動速度の抽出の手順は、図4(a)の各パラメータを全て求めた後に、各駆動速度を比較して抽出するようにしても良いし、図4(a)の駆動速度が1つずつ求められるごとに、求められた駆動速度を比較していき、最終的に上記の最遅駆動速度を求めるようにしても良い。
【0039】
次に、制御部80は、最遅駆動速度で駆動する場合に、逆転方向と正転方向とを入れ替えた方が運針時間が短くなる指針がないか判別する。図5の180−240ステップの範囲に示したように、180°以上の回転量であっても正転方向に移動させたほうが短時間に移動できる範囲が生じるのは、正最速駆動速度の方が逆最速駆動速度より速いためである。しかしながら、複数の指針2〜6を共に早送り駆動させる場合には、上記の最遅駆動速度で指針2〜6を駆動することになる。そのため、指針2〜6によっては、逆転方向としても正転方向としても共に最遅駆動速度で駆動することが可能であり、且つ、移動方向を正転方向から逆転方向へ変更した方が、短時間に運針が終了するものが含まれている可能性がある。従って、これを判別する。
【0040】
この実施形態では、移動方向を逆転させて方が良い指針として、移動量が180°の回転移動量を超えていて、且つ、逆最速駆動速度が最遅駆動速度よりも速い値に設定されている指針を判別対象とする。
【0041】
図4(a)の例では、移動量が180°の回転移動を超えているものは、時針2について設定されている「200」ステップと、分針3について設定されている「190」ステップとである。また、時針2の逆最速駆動速度B1は96ppsであり、分針3の逆最速駆動速度B2は32ppsである。従って、最遅駆動速度B4(48pps)より速い値に設定されているのは、時針2である。従って、制御部80は、これを判別して、図4(a)→図4(b)に示すように、時針2の移動方向を逆転方向へ、移動量を160ステップへと修正する。
【0042】
そして、上記のように各指針2〜6の移動方向、駆動速度、移動量の各パラメータを求めたら、第1〜第5ステップモータ21〜25を最遅駆動速度B4で、設定された移動方向へ、設定された移動量だけ運針する。それにより短い時間での早送り処理が実現される。
【0043】
例えば、図4(a)の修正前のパラメータに従って、各指針2〜6を最遅駆動速度B4で運針した場合、時針2の200ステップの移動に一番時間がかかり、早送りの運針時間は4.17秒となる。一方、図4(b)の修正後のパラメータに従って、各指針2〜6を最遅駆動速度B4で運針した場合には、分針3の190ステップの移動に一番時間がかかる、早送り運針時間は3.96秒に短縮される。
【0044】
続いて、上記の指針早送り処理を実現する制御手順の一例について、図6のフローチャートに基づいて説明する。
【0045】
図6は、制御部80のCPUにより実行される指針早送り処理のフローチャートである。このフローチャートにおいて、αは処理対象の指針の番号“1〜N”、Nは処理対象の指針の総数、Z〜Zは各指針の一周ステップ数、A〜Aは各指針の正最速駆動速度、B〜Bは各指針の逆最速駆動速度、Cは最終的に最遅駆動速度が書き込まれる変数、β〜βは各指針の移動開始位置から移動終了位置までの正転方向に見た移動量(ステップ数)を示している。
【0046】
指針早送り処理が開始されると、先ず、制御部80のCPUは、複数の指針2〜6のうち処理対象となる各指針(第1〜第Nの指針)について現在位置(移動開始位置)から移動位置(移動終了位置)まで正転方向に見た移動量β〜βを算出する(ステップS1)。なお、複数の指針2〜6のうち、早送り運針する必要のない指針は処理対象から除外する。
【0047】
次に、制御部80のCPUは、初期設定として、演算対象の指針の番号αに“1”をセットし、最遅駆動速度変数Cにマックス値をセットする(ステップS2)。
【0048】
続いて、制御部80のCPUは、番号αの指針について、単独運針の場合に移動量βαが正転方向の移動の方が短時間で行える範囲を超えているか、次式(1)により判別する(ステップS3)。
βα > Zα ×Aα /(Aα + Bα) ・・・ (1)
【0049】
その結果、この範囲を超えていないと判別されれば、“No”側に移行して、番号αの指針に対応する移動方向として正転方向をセットし(ステップS4)、その移動量として正転方向の移動量βαをセットする(ステップS5)。
【0050】
一方、上記の範囲を超えていると判別されれば、“Yes”側に移行して、番号αの指針に対応する移動方向として逆転方向をセットし(ステップS6)、次いで、逆転方向の移動量“Zα−βα”を求めて、これを番号αの指針に対応する移動量としてセットする(ステップS7)。
【0051】
また、ステップS4で移動方向が正転方向にセットされたら、この番号αの指針の駆動速度は正最速駆動速度Aαと求められるので、最遅駆動速度変数Cの値とこの駆動速度Aαとを比較して(ステップS8)、変数Cの値の方が大きければ、変数Cに駆動速度Aαの値を代入する(ステップS9)。
【0052】
逆に、ステップS6で移動方向が逆転方向にセットされたら、この番号αの指針の駆動速度は逆最速駆動速度Bαと求められるので、最遅駆動速度変数Cの値とこの駆動速度Bαとを比較して(ステップS10)、変数Cの値の方が大きければ、変数Cに駆動速度Bαの値を代入する(ステップS11)。
【0053】
その後、処理対象の指針の番号αを“1”加算する更新をして(ステップS12)、処理対象の指針の総数を超えていないか判別する(ステップS13)。そして、超えていなければ、ステップS3に戻って上記のループ処理(ステップS3〜S13)を繰り返すし、超えていれば“No”側へ移行してこのループ処理(ステップS3〜S13)を抜ける。上記ループ処理中のステップS3〜S10の処理により第1の算出手段が、ステップS8〜S11の処理により最遅駆動速度抽出手段および駆動速度決定手段が構成される。
【0054】
つまり、上記のステップS3〜S13のループ処理が、算出対象となる指針の番号αを更新しながら、処理対象の指針の総数Nの回数実行されることで、個別運針の場合に最短運針時間となる各指針の移動方向、移動量が求められてRAM81に記憶される。また、そのときの駆動速度(Aα又はBα)が求められて、最遅駆動速度変数Cの値と比較されて適宜変数Cの値が更新される。それにより、最遅駆動速度変数Cに上述した最遅駆動速度が代入された状態となる。
【0055】
ステップS13の判別処理で“No”側へ移行したら、先ず、処理対象の指針の番号αを“1”減算して総数Nの値に戻す(ステップS14)。そして、各指針について移動方向を逆転させたほうが短時間とすることのできる所定条件を満たしているか判別し、移動方向と移動量とを修正するためのループ処理(ステップS15〜S20)に移行する。
【0056】
すなわち、このループ処理に移行すると、先ず、番号αの指針に対応して記憶されている移動方向が正転方向であり、移動量が180°の回転移動量より大きいか否かを、次式(2)(3)により判別する(ステップS15)。この指針が特定指針となる。
Zα/2 <βα ・・・ (2)
βα <Zα ×Aα /(Aα + Bα) ・・・ (3)
なお、ここでは、このような演算を行わずに、RAM81に記憶されている各指針の移動方向と移動量とを参照して上記の判別を行うようにしても良い。
【0057】
ステップS15の判別の結果、条件を満たしていれば、さらに、この番号αの指針の逆最速駆動速度Bαが、最遅駆動速度変数Cの値以上であるか判別する(ステップS16)。上記ステップS15,S16の処理により判別手段が構成される。
【0058】
その結果、ステップS15,S16の条件を満たしていれば、移動方向を逆転させた方が運針が短時間に完了することを表わしているので、先ず、番号αの指針に対応してRAM81に記憶されている移動方向を逆転方向にセットしなおし(ステップS17)、さらに、逆転方向とした場合の移動量“Zα−βα”を求めて、これを番号αの指針に対応してRAM81に記憶されている移動量にセットし直す(ステップS18)。これらステップS17,S18の処理により第2の算出手段が構成される。
【0059】
そして、処理対象の指針の番号αを“1”減算する更新をして(ステップS19)、“α=0”となったか、すなわち全ての指針について見直しの処理が完了したか判別する(ステップS20)。その結果、全ての指針について処理が終了していなければ、ステップS15に戻って上記のループ処理(ステップS15〜S20)を繰り返すし、終了していればこのループ処理を抜ける。
【0060】
つまり、ステップS15〜S20のループ処理が、処理対象の全ての指針について実行されることで、最遅駆動速度で運針する場合に、移動方向を逆転した方が早く運針が完了となる指針が判別されて、その移動方向と移動量とが修正されてRAM81に記憶される。
【0061】
そして、ステップS20の判別処理で“Yes”側へ移行したら、処理対象の各指針を実際に早送り運針する処理を行う(ステップS21:移動制御手段)。具体的には、第1〜第5ステップモータ21〜25のうち早送り運針の処理対象となっているものを、算出されたパラメータに従って、設定された移動方向へ、設定された移動量だけ、共に最遅駆動速度変数Cの速度値で駆動する。そして、この駆動が完了したら、この指針早送り処理を終了する。このステップS21の処理により、早送り運針の処理対象となっている各指針が移動開始位置から移動終了位置まで早送り運針される。
【0062】
以上のように、この実施形態のアナログ電子時計1によれば、先ず、個別に指針を早送りする場合に最短となる移動方向や駆動速度等が求められ、次に、これらの駆動速度の中で最も遅い最遅駆動速度で運針する場合に移動方向を逆転した方が最短となる指針を判別し、移動方向等の見直しを行うようになっている。そのため、この移動方向等の見直しにより早送りの運針効率が上がって、早送り運針処理の時間短縮および消費電力の減縮を図ることができる。
【0063】
また、ROM82に記憶された指針駆動速度データ82aと一周ステップ数データ82bによって、上記の移動方向の算出や修正処理を、制御部80の演算処理によって実現することが可能となる。
【0064】
また、上記のような移動方向の見直しによる運針効率の向上は、時針と分針とを独立的に駆動するアナログ電子時計において特に有効である。
【0065】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、図6のフローチャートでは、第1〜第5ステップモータ21〜25を算出された移動量だけ駆動することで、各指針を移動終了位置まで運針させる制御を行っているため、ステップS5,S7,S18で移動量を求めてRAM81に記憶させる処理を行っているが、例えば、各指針の位置をカウントしながら早送り運針を行って、各指針が移動終了位置まで移動したか否かを判別するように制御するのであれば、上記の移動量を求めてRAM81に記憶させる処理は省いても良い。
【0066】
また、上記実施の形態では、複数のステップモータ21〜25によって全ての指針2〜6がそれぞれ独立駆動される構成に本発明を適用した例を示したが、例えば、時針と分針が連動して1個のステップモータにより駆動される構成など、全ての指針が独立駆動される構成以外の構成にも本発明を同様に適用することができる。その場合、連動して駆動される複数の指針(例えば時針と分針)のうち1周するステップ数が大きい方の指針を処理対象の指針とし、他方の指針を処理対象の指針から除外して、上記実施形態と同様の処理を行うようにすれば良い。
【0067】
その他、指針の種類や数、各指針の正逆の最速駆動速度および一周ステップ数、ならびに、早送りの駆動タイミングの発生方法など、この実施形態で具体的に示した細部は発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 アナログ電子時計
2 時針
3 分針
4 秒針
5 1/10秒針
6 24時針
21〜25 第1〜第5ステップモータ
80 制御部
81 RAM
82 ROM
82a 指針駆動速度データ
82b 一周ステップ数データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の指針と、
これら複数の指針をそれぞれ運針する正方向と逆方向との両方に回転可能な複数のステップモータと、
前記複数の指針の各々について、各指針の移動開始位置、各指針の移動終了位置、正方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の正方向最速駆動速度、および、逆方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の逆方向最速駆動速度から、各指針を個別に運針させる場合に、前記移動開始位置から前記移動終了位置まで最も短い時間で移動できる各指針の移動方向、駆動速度および移動量をそれぞれ求める第1の算出手段と、
この第1の算出手段により算出された各指針の前記駆動速度のうち最も遅い最遅駆動速度を抽出する最遅速度抽出手段と、
前記第1の算出手段により前記移動方向が正方向、前記移動量が180度の回転移動量より大きいと算出された指針を特定指針として抽出し、前記最遅駆動速度が当該特定指針の逆方向最速駆動速度以下か否かを判別する判別手段と、
この判別手段により以下と判別された場合に、当該特定指針の移動方向を逆方向と修正し、当該指針を前記移動開始位置から前記移動終了位置まで逆方向に移動させる移動量を求めなおす第2の算出手段と、
前記第1の算出手段で求められ、且つ、前記第2の算出手段により一部修正され求めなおされた各指針の移動方向および移動量に応じて、前記複数のステップモータを前記最遅駆動速度で駆動して、前記複数の指針を各指針の前記移動終了位置まで移動させる移動制御手段と、
を備えていることを特徴とするアナログ電子時計。
【請求項2】
複数の指針と、
これら複数の指針をそれぞれ運針する正方向と逆方向との両方に回転可能な複数のステップモータと、
前記複数の指針の各々について、各指針の移動開始位置、各指針の移動終了位置、正方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の正方向最速駆動速度、および、逆方向へ運針するのに最も早い駆動速度である各指針の逆方向最速駆動速度から、各指針を個別に運針させる場合に、前記移動開始位置から前記移動終了位置まで最も短い時間で移動できる各指針の移動方向を求める第1の算出手段と、
前記複数の指針を共に運針させる場合の同時駆動速度を決定する駆動速度決定手段と、
前記第1の算出手段により移動方向が正方向と求められ、且つ、前記移動開始位置から前記移動終了位置までの正方向の移動量が180度の回転移動量より大きい指針を特定指針として抽出し、前記同時駆動速度が当該特定指針の逆方向最速駆動速度以下か否かを判別する判別手段と、
この判別手段により以下と判別された場合に、当該特定指針の移動方向を逆方向と求めなおす第2の算出手段と、
前記第1の算出手段で求められ、且つ、前記第2の算出手段により一部求めなおされた各指針の移動方向に応じて、前記複数のステップモータを前記同時駆動速度でそれぞれ駆動して、前記複数の指針を各指針の前記移動終了位置まで移動させる移動制御手段と、
を備えていることを特徴とするアナログ電子時計。
【請求項3】
前記複数の指針と対応させて各指針の前記正方向最速駆動速度および前記逆方向最速駆動速度をそれぞれ記憶した第1記憶部を備え、
前記第1の算出手段は、
前記第1記憶部から前記正方向最速駆動速度および前記逆方向最速駆動速度の情報を取得することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアナログ電子時計。
【請求項4】
前記複数の指針と対応させて各指針を1周させる駆動ステップ数を記憶した第2記憶部を備え、
前記判別手段は、
前記第2記憶部の駆動ステップ数の情報に基づいて前記移動量が180度の回転移動量より大きいか否かを特定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアナログ電子時計。
【請求項5】
前記複数の指針には、時針、分針、秒針が含まれ、
前記複数のステップモータには、前記時針、前記分針、前記秒針をそれぞれ独立的に運針する3つのステップモータを含んでいる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアナログ電子時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−128026(P2011−128026A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287015(P2009−287015)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】