説明

アミノ酸鉄錯体

【課題】本発明は、上記の問題点を解決し、動植物への栄養補給剤として有用な、新規アミノ酸鉄錯体とその極めて簡便な製造方法を提供するものである。
【解決手段】式(I)で示される新規なアミノ酸鉄錯体。
【化5】
Fe・A・X (I)
(式中、Aは塩基性アミノ酸を、Xは3個の1価陰イオンまたは1.5個の2価陰イオンまたは1個の3価陰イオンを示す)
本鉄錯体は、動植物への栄養補給剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、式(I)で示される新規なアミノ酸鉄錯体に関する。
【化2】
Fe・A・X (I)
(式中、Aは塩基性アミノ酸を、Xは3個の1価陰イオンまたは1.5個の2価陰イオンまたは1個の3価陰イオンを示す)
さらに詳しくは、1モルの塩化第二鉄と3モルのL−リジンまたはL−アルギニンを反応させることにより得られるL−リジン鉄錯体またはL−アルギニン鉄錯体に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄とリジンまたはアルギニンとの錯体は種々知られているが、そのうちの多くが2価の鉄を中心原子とする錯体であり、3価の鉄との錯体は僅かである。Indian J. Chem., Sect. A (1976), 14A(3), 211-12には、フェリシアン化カリウムとリジンまたはアルギニンとの反応による、配位子としてこれらのアミノ酸の他にシアノ基を有するアミノ酸鉄錯体の製法が記載されている。3価の鉄とリジンとの錯体に付いては本文献が唯一である。また、Indian J. Chem., Sect. A (1985), 24A(9), 797-9には配位子としてアルギニンとフタルイミドを有する3価の鉄の錯体が開示されている。この他、J. Coord. Chem. (1981), 11(2), 125-31、Inorg. Chim. Acta (1981), 54(4), L187-L190およびInorg. Chim. Acta (1982), 66(2), 49-56にはアルギニンを配位子とする3価の鉄の多核錯体が記載されている。3価の鉄を中心原子とする錯体に付いては以上が知られている全てであり、本明細書記載の式(I)
【化3】
Fe・A・X (I)
(式中、Aは塩基性アミノ酸を、Xは3個の1価陰イオンまたは1.5個の2価陰イオンまたは1個の3価陰イオンを示す)
で示される錯体、或いは、1モルの塩化第二鉄と3モルのL−リジンまたはL−アルギニンを反応させることにより得られるL−リジン鉄錯体またはL−アルギニン鉄錯体は知られていない。従ってこの物質は新規物質であると認められる。
【0003】
L−リジン鉄錯体またはL−アルギニン鉄錯体は、生体にとって重要な物質であるL−リジンまたはL−アルギニンと鉄を同時に付与できるという点において、例えば動植物への栄養補給剤として有用であると考えられる。鉄を補給することにより、動物では貧血の改善、植物では葉色の改善などの効果が期待できる。しかしながら、従来知られているL−リジン鉄錯体またはL−アルギニン鉄錯体は、青酸根、過塩素酸根あるいはホスホン酸根等、生体にとって不用あるいは好ましからざる成分を含むもので、動植物への栄養補給剤として用いるには不適当なものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を解決し、動植物への栄養補給剤として有用な、新規アミノ酸鉄錯体とその極めて簡便な製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、L−リジンあるいはL−アルギニンに代表される塩基性アミノ酸と塩化第二鉄に代表される3価の鉄塩とを水中で反応させることにより、本発明のアミノ酸鉄錯体が容易に形成されることを見いだし、本発明を完成させるに至ったものである。即ち、本発明は、式(I)で示される新規なアミノ酸鉄錯体に関する。
【化4】
Fe・A・X (I)
(式中、Aは塩基性アミノ酸を、Xは3個の1価陰イオンまたは1.5個の2価陰イオンまたは1個の3価陰イオンを示す)
さらに詳しくは、1モルの塩化第二鉄と3モルのL−リジンまたはL−アルギニンを反応させることにより得られるL−リジン鉄錯体またはL−アルギニン鉄錯体に関する。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明で用いるアミノ酸はL−リジンあるいはL−アルギニンに代表される塩基性アミノ酸である。3価の鉄塩は対イオンが生体にとって無害なものであればその種類は限定されないが、例えば塩化第二鉄、硫酸第二鉄あるいは燐酸第二鉄が好適に用いられる。反応溶媒としては、原料の溶解度の点から、水が好適に用いられる。
【0007】
錯体の形成は、例えば1モルの塩化第二鉄水溶液と3モルのリジン水溶液を撹拌混合する事によって行われる。反応温度は、原料および生成物が分解しない範囲で有れば任意であるが、室温付近が最も簡便である。また、それぞれの水溶液の濃度も任意である。
【0008】
反応後、目的とするアミノ酸鉄錯体を単離する方法としては、溶剤晶析が好適に用いられる。具体的には反応溶液を、例えばエタノール中に撹拌しつつ注入することにより沈殿を得、これを濾取、乾燥することにより、目的とするアミノ酸鉄錯体を粉末として得ることができる。溶剤晶析以外の方法としては、通常の方法で噴霧乾燥を行っても該アミノ酸鉄錯体を粉末として得ることができる。
【0009】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0010】
<実施例1:L−リジン鉄錯体の製造>
塩化第二鉄・6水和物5.41g(20mmol)を水30mlに溶解した。この溶液に、撹拌下、L−リジン50%水溶液17.74g(L−リジンとして60mmol)を室温にて加え、さらに10分間撹拌した。反応溶液を無水エタノール300mlに、撹拌下、注ぎ入れることにより、懸濁液を得、これを室温でさらに15分間撹拌した後、沈殿を濾取した。減圧下に40℃で一夜乾燥することにより、目的とするL−リジン鉄錯体を褐色の粉末として得た。収量11.04g。各成分の含量は、鉄:8.23%(ICP発光分析装置:日本ジャーレル・アッシュICAP−750V)、リジン:66.31%(アミノ酸分析機:日立L−8500)、塩素:16.14%(燃焼後電位差滴定により測定。電位差滴定装置:京都電子AT−118)であった。(理論値(Fe・(Lys)・Cl・3.4HOとして)は、鉄:8.44%、リジン:66.24%、塩素:16.07%)
得られた鉄錯体のIRチャートを図1に示す。
【0011】
<実施例2:L−アルギニン鉄錯体の製造>
塩化第二鉄・6水和物5.41g(20mmol)を水20mlに溶解した。この溶液に、撹拌下、L−アルギニン10.45g(60mmol)の水60ml溶液を室温にて加え、さらに10分間撹拌した。反応溶液を無水エタノール400mlに、撹拌下、注ぎ入れることにより、懸濁液を得、これを室温でさらに15分間撹拌した後、沈殿を濾取した。減圧下に40℃で一夜乾燥することにより、目的とするL−アルギニン鉄錯体を褐色の粉末として得た。収量3.03g。
【0012】
<試験例:芝草の葉色改善効果の確認>
川砂を入れた10cm径のポットに芝草(ベントグラス)を播種し、基礎肥料としてハイポネックス(2,000倍希釈)を加えた水耕液を添加した。710〜720ルックスの人工照明下、25℃で2週間育苗した後、窒素量が同じ(51ppm)になるように調整した表1に示した各検体の水溶液を同じ環境下で1日おきに噴霧した。6週間後、それぞれの葉を刈り取り、水稲用葉色カラースケール(富士平工業)で葉色の検定を行った。
【表1】

表1に示した結果から、本発明のアミノ酸鉄錯体の有用性が確認された。
【0013】
【発明の効果】
本発明によれば、生体にとって不用あるいは好ましからざる成分を含まない、動植物への栄養補給剤として有用な、新規アミノ酸鉄錯体とその極めて簡便な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のL−リジン鉄錯体のIRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示されるアミノ酸鉄錯体。
【化1】

(式中、Aは塩基性アミノ酸を、Xは3個の1価陰イオンまたは1.5個の2価陰イオンまたは1個の3価陰イオンを示す)
【請求項2】
式(I)において、AがL−リジンまたはL−アルギニンであり、Xが3個の塩素原子である請求項1記載のアミノ酸鉄錯体。
【請求項3】
1モルの塩化第二鉄と3モルのL−リジンまたはL−アルギニンを水溶液中で反応させることを特徴とするL−リジン鉄錯体またはL−アルギニン鉄錯体の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−76883(P2006−76883A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−292231(P2002−292231)
【出願日】平成14年10月4日(2002.10.4)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】