説明

アミン化合物の酸化方法及びイミン化合物の製造方法

【課題】アミン化合物を酸素の存在下に触媒を使用して酸化する酸化方法並びに該酸化方法によりアミン化合物を酸化してイミン化合物とするイミンの製造方法を提供する。
【解決手段】アミン化合物を酸素の存在下、触媒を使用して酸化する方法であり、触媒がフェノール化合物、芳香族カルボン酸、芳香族o−ヒドロキシカルボン酸、3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸から選択される化合物を配位子とする少なくとも1種のバナジウム錯体の少なくとも1種であるアミン化合物の酸化方法とする。該酸化方法によりイミン化合物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン化合物を触媒の存在下に酸素にて酸化する酸化方法及び該酸化反応によるイミン化合物の製造方法に関するものである。本発明は医薬色素染料等の原料や中間体の製造に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
イミン化合物の製造方法は公知であり、最もよく知られたイミンの製造方法は、アルデヒド化合物と第1級アミンとの反応によるものであるが、その他の製造方法も公知である(例えば特許文献1、2)。特許文献1に開示されたイミン化合物の製造方法は、カルボニル化合物に活性炭の存在下にアンモニアを反応させることを特徴とするものであり、特許文献2に開示された発明は、金を含む触媒と、酸又はアンモニウム塩の存在下に、アルキン化合物にアミン化合物を反応させることを特徴とするものである。
【0003】
上記のイミン化合物の製造方法は、いずれも酸化反応によるものではない。アミン化合物を酸化すると褐色タール状の複雑な組成の物質が生成することは一般に知られており、アミン化合物を酸素により酸化してイミン化合物を選択的に効率よく製造する方法は知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平7−228562号公報
【特許文献2】特開2004−091389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アミン化合物を酸素の存在下に触媒を使用して酸化する酸化方法並びに該酸化方法によりアミン化合物を酸化してイミン化合物とするイミンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアミン化合物の酸化方法は、アミン化合物を酸素の存在下、触媒を使用して酸化する方法であり、前記触媒が少なくとも1種のバナジウム錯体であり、前記バナジウム錯体を構成する配位子が、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基から選択される少なくとも1種を置換基として有する芳香族化合物又は複素芳香族化合物であることを特徴とする。
【0007】
上記の方法によれば、アミン化合物について、特定の酸化反応、とりわけイミン化反応を起こさせることができる。
【0008】
上述のアミン化合物の酸化方法においては、前記配位子が、芳香族o−ヒドロキシカルボン酸、3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸から選択される化合物であることが好ましい。
【0009】
上記構成の酸化方法によれば、より高い収率でアミン化合物の酸化反応によるイミン化合物の製造を行うことができる。
【0010】
上述のアミン化合物の酸化方法においては、前記酸素が加圧されていることが好ましい。
【0011】
酸素加圧下に、特定のバナジウム錯体を触媒とすることにより、より効果的にアミン化合物について、特定の酸化反応を起こさせることができる。
【0012】
別の本発明はアミン化合物を酸素の存在下、触媒を使用してイミン化合物とする方法であり、前記触媒が少なくとも1種のバナジウム錯体であり、前記バナジウム錯体を構成する配位子が、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基から選択される少なくとも1種を置換基として有する芳香族化合物又は複素芳香族化合物であることを特徴とする。
【0013】
上記構成の製造方法によれば、酸化反応により、効果的にイミン化合物を製造することができる。
【0014】
上記のイミン化合物の製造方法においては、前記アミン化合物がベンジルアミン化合物であることが好ましい。
【0015】
ベンジルアミン化合物を出発物質とするイミン化合物の製造方法によれば、特に高い収率でイミン化合物を合成することができる。
【0016】
上述のイミン化合物の製造方法においては、前記酸素が加圧されていることが好ましい。
【0017】
酸素の加圧下で反応を行わせるイミン化合物の製造方法によれば、高収率で効果的にイミン化合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において触媒として使用する化合物は、芳香族化合物ないしピリジンなどの複素芳香族化合物を配位子とするバナジウム錯体であり、該芳香族化合物ないし複素芳香族化合物は、水酸基(フェノール基)、カルボキシル基、チオール基(メルカプト基)、アミノ基から選択される少なくとも1種を環の置換基として有する化合物である。
【0019】
水酸基(フェノール基)を有する芳香族化合物としては、フェノール、ナフトール、並びにこれらの芳香環に別の置換基を有する化合物等を例示することができる。該別の置換基としては、アルキル基、メトキシ基などのアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン基を例示することができる。
【0020】
カルボキシル基を置換基として有する芳香族化合物としては、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、並びにこれらの芳香環に別の置換基を有する化合物等を例示することができる。該別の置換基としては、アルキル基、メトキシ基などのアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン基を例示することができる。
【0021】
本発明において触媒として使用するバナジウム錯体の配位子としては、カルボキシル基と水酸基をo−位に有する芳香族化合物(芳香族o−ヒドロキシカルボン酸)ないし複素芳香族化合物が特に好ましい。係る芳香族o−ヒドロキシカルボン酸としては、o−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)及びその芳香環に別の置換基を有する化合物、1−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、2−ヒドロキシ−3−ナフタレンカルボン酸及びその芳香環に別の置換基を有する化合物、3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸等が例示される。該別の置換基としては、アルキル基、メトキシ基などのアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン基を例示することができる。
【0022】
本発明による酸化触媒は、バナジウム化合物と上記の配位子となる化合物を使用して公知の方法により調製することができる。例えば3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸を配位子とする4核性バナジウム錯体は、オキシ硫酸バナジウム(IV)水和物1当量と3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸1当量の水溶液に、10%炭酸水素ナトリウム水溶液を室温にて撹拌下に滴下して調製することができる(M. Nakai, et al., J. Inorganic Biochemistry, 98, (2004), 105-112)。
【0023】
本発明において触媒として使用する上記の錯体は、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルのような非プロトン性極性溶媒ならびにメタノールおよびエタノールのようなプロトン性極性溶媒には可溶である。
【0024】
また、本発明の酸化反応並びにイミン化合物の製造方法においては、溶媒として、ジメチルスルホキシド、N,N‐ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,2‐ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトンなどのような非プロトン性極性溶媒を用いることができ、これらの溶媒中では、本発明において使用する触媒は、均一性触媒として作用する。
【0025】
したがって、上記の酸化反応には、上記の溶媒を単独で、または混合溶媒として用いる
こともできるが、酸化反応における収率の観点からアセトニトリルの使用が特に好ましい。
【0026】
また、本発明による触媒は、炭素粉末、ゼオライト等の従来当該分野で用いられている
不活性多孔質担持体などに吸着させて使用することもできる。本発明による触媒は、回収して繰り返し使用することもできる。
【0027】
本発明のアミン化合物の酸化方法並びにイミン化合物の製造方法における「酸素の存在下」とは、反応容器内に酸素が含まれている状態であり、反応が進行する限りその濃度は限定されないが、反応容器内を酸素ガスにて置換することが好ましく、さらに酸素置換した容器を加圧することが好ましい。酸素を加圧する圧力は常圧より高ければよく、その圧力は限定されないが、2MPa以下であることが好ましく、酸化反応の収率の観点および安全性から1.5MPa以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明において、酸化反応の原料、イミン化合物の出発原料としては、ベンジルアミン並びにその核置換誘導体などのベンジルアミン化合物を使用することが好ましい。ベンジルアミンの核置換誘導体を構成する置換基としては、メチル基、エチル基などのアルキル基、メトキシ基などのアルコキシル基、塩素、臭素などのハロゲン基等を例示することができる。
【実施例】
【0029】
(錯体製造例)
オキシ硫酸バナジウム(IV)水和物0.25g(1.15mmol(3水和物として))および3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸(hpic)0.33g(2.37mmol)を含む水溶液10mlに、室温にて撹拌下に、炭酸水素ナトリウムの10重量%水溶液1.5mlを加え、3時間撹拌を継続した。反応終了後.析出物をろ取し、乾燥して緑色粉末として、錯体1((VO)(hpic))を0.33g(収率81%(3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸基準))得た。この錯体1の構造(4核体)は、公知である(Yano, Chemistry Letters, 2002, 916-917)。
【0030】
(実施例1〜4)
ベンジルアミン並びに(表1)に記載したp−位に置換基Xを有するベンジルアミン化合物を使用し、上記錯体製造例で得た錯体1を使用し、酸化反応を行った。反応はベンジルアミン化合物の0.25mol/Lアセトニトリル(MeCN)溶液に錯体1をベンジルアミン化合物に対して0.5mol%添加し、反応容器内を酸素に置換した後に1.0MPaに加圧し、100℃にて3時間行った。得られるイミン化合物の化学構造と反応式は化学式(化1)に示した。各ベンジルアミン化合物について酸化反応を行った結果得られたイミン化合物の収率を表1に示した。収率は反応終了後の溶液について目的のイミン化合物に特有のHNMRピークを測定して求めた。
【0031】
【化1】

【0032】
【表1】

【0033】
上記(表1)の結果によれば、3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸(hpic)を配位子とする4核体のバナジウム(IV)錯体を触媒とした場合、ベンジルアミン並びに置換基を有するベンジルアミン化合物から、酸化反応により効率的にイミン化合物が製造可能であることが分かる。
【0034】
(実施例5、6)
原料であるアミン化合物、及び反応温度と反応時間を変更した以外は実施例1〜4と同様にしてアミン化合物の酸化反応を行い、イミン化合物の製造を行った。原料アミン化合物と酸化反応により得られるイミン化合物を化学式(化2)、(化3)にて反応条件と共に示した。化学式(化2)、(化3)において使用したアミン化合物は、いずれもベンジルアミン化合物である。(化2)におけるイミン化合物の収率は60%、また(化3)におけるイミン化合物の収率は51%であった。これらの結果より、本発明において、アミン化合物として(表1)に示したベンジルアミンや置換基を有するベンジルアミン以外のベンジルアミン化合物を使用した場合においても、効果的に酸化反応によりイミン化合物を製造可能であることが分かる。
【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
(実施例7〜14)
バナジウム錯体を構成する配位子を変更して錯体を調製し、得られた錯体を使用して実施例1〜4と同様にしてベンジルアミンの酸化反応を行った。反応容器にバナジウム化合物としてVOSOを後に反応させるアミン化合物に対して2mol%となる量を入れ、該VOSOに対して2当量(又は1当量)となる配位子と6mLのアセトニトリルを加えた。これにより速やかに錯体が形成されるが、錯体を単離することなく反応を行った。即ち、該錯体の溶液にアミン化合物を0.25mol/Lとなるように加え、酸素雰囲気とした後に酸素の圧力を1.0MPaになるように調製し、100℃にて3時間反応させた。錯体の合成に使用した配位子と、得られたバナジウム錯体を使用した酸化反応により得られるイミン化合物(化学式(化1)記載)の収率を(表2)に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
(表2)の結果より、水酸基(フェノール基)、カルボキシル基、チオール基(メルカプト基)、アミノ基を有する芳香族化合物を配位子とするバナジウム錯体を触媒とし、酸素加圧下に酸化反応を行うと、効果的にイミン化合物が製造できることが分かる。これらの中でも、芳香族o−ヒドロキシカルボン酸であるサリチル酸(o−ヒドロキシ安息香酸)を配位子として使用した場合が、とりわけ高収率でイミン化合物が得られている。また、5位、6位をメトキシ基にて置換したサリチル酸を使用した錯体にても比較的良好な結果が得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化合物を酸素の存在下、触媒を使用して酸化する方法であり、前記触媒が少なくとも1種のバナジウム錯体であり、前記バナジウム錯体を構成する配位子が、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基から選択される少なくとも1種を置換基として有する芳香族化合物又は複素芳香族化合物であることを特徴とするアミン化合物の酸化方法。
【請求項2】
前記配位子が、芳香族o−ヒドロキシカルボン酸、3−ヒドロキシピリジン−2−カルボン酸から選択される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のアミン化合物の酸化方法。
【請求項3】
前記酸素が加圧されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアミン化合物の酸化方法。
【請求項4】
アミン化合物を酸素の存在下、触媒を使用してイミン化合物とする方法であり、前記触媒が少なくとも1種のバナジウム錯体であり、前記バナジウム錯体を構成する配位子が、水酸基、カルボキシル基、チオール基、アミノ基から選択される少なくとも1種を置換基として有する芳香族化合物又は複素芳香族化合物であることを特徴とするイミン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記アミン化合物がベンジルアミン化合物であることを特徴とする請求項4に記載のイミン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記酸素が加圧されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のイミン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−303158(P2008−303158A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150346(P2007−150346)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年12月7日 第33回有機典型元素化学討論会実行委員会発行の「第33回有機典型元素化学討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】