説明

アルデヒド類吸着壁紙

【課題】 空気中に揮発・滞留しているアルデヒド類を効率よく吸着することができる壁紙であって、アルデヒド類の吸着による黄変が目立たず、発泡が美麗で優れた意匠性を有するアルデヒド類吸着壁紙を提供する。
【解決手段】 裏打紙1の表面にアルデヒド類吸着層2と装飾層3とをこの順で有し、前記装飾層からの前記アルデヒド類吸着層の露出面積が10〜70%であり、前記アルデヒド類吸着層が、多孔質の無機粒子を該吸着層全重量の10〜80重量%の割合で含む。
多孔質の無機粒子は、平均粒子径が0.8〜20μm及び/又はアスペクト比が8以上であるものを用いることが好ましく、裏打紙の裏面に熱可塑性樹脂層を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に揮発・滞留しているアルデヒド類を効率よく吸着することができる壁紙であって、アルデヒド類の吸着による黄変が目立たず、優れた意匠性を有した装飾層を形成することができるアルデヒド類吸着壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材などから発生する揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound:以下「VOC」と記載することがある)による“シックハウス症候群”が社会問題になっており、厚生労働省により指定物質に対して室内濃度指針値が示されている。このような状況のなか、特にシックハウス症候群に影響度が大きいとされているホルムアルデヒドに代表されるアルデヒド類を捕捉・吸着する性能を付与させた様々な壁紙が商品化され、使用されている。
【0003】
壁紙の構成としては、表面に凹凸模様等の立体的な意匠を施すために、裏打紙に合成樹脂による装飾層を設けた樹脂壁紙が一般的である。
このような樹脂壁紙においてVOCであるアルデヒド類を吸着する方法として、従来、
(1)施工面(壁部に施工するボード、接着材、断熱材等)から室内へのアルデヒド類の放散を抑えるために、裏打紙の裏面にアルデヒド吸着層(アルデヒド吸着剤を含浸または塗布させた層)を設け、裏打紙の表面側に上記の装飾層を設ける(特開平10−296918号公報、特開平10−329274号公報)、
(2)空気中のアルデヒドを効率的に吸着するために、アルデヒド吸着層を、空気と直接接触する壁紙の最表面(最上層)に設ける(特開平11−48413号公報)、
(3)アルデヒド吸着剤を上記の装飾層中に混在させる(特開平10−100334号公報)、等が提案されている。
【0004】
しかし、(1)は、当然のことながら、アルデヒド吸着層は壁紙の最下層になるため、空気中のアルデヒド類の吸着ができないという問題があり、(2)は、アルデヒド類吸着剤として主に使用されている“アミン基をもつ有機化合物”が一般的にアルデヒド類と反応することで黄色に着色する性質があるため、壁紙の使用に伴なった高白色度の維持についての問題があり、(3)は、壁紙の装飾層として代表的な発泡性のポリ塩化ビニル系樹脂(以下、「PVC」とも言う)に、上記の吸着剤(アミン基をもつ有機化合物)を直接添加すると、発泡が阻害され、発泡セルが不均一になるなどの弊害があり、仕上り後の壁紙の外観に影響を与え、優れた意匠性を有する装飾層を得ることができないと言う問題があった。
【特許文献1】特開平10−296918号公報
【特許文献2】特開平10−329274号公報
【特許文献3】特開平11−048413号公報
【特許文献4】特開平10−100334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の諸点を考慮し、空気中に揮発・滞留しているアルデヒド類を効率よく吸着することができる壁紙であって、アルデヒド類の吸着による黄変が目立たず、発泡が良好で優れた意匠性を有したアルデヒド類吸着壁紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、種々検討を行ったところ、
まず、アルデヒド類吸着剤を配合したアルデヒド類吸着層を壁紙の最上層ではなく、裏打紙の表面上に設け、該アルデヒド類吸着層上に設けた装飾層から、この吸着層を部分的に露出させることで、空気中のアルデヒド類を捕捉・吸着させるという新たな手法に着目した。
【0007】
次に、この着眼点の下、さらに検討を重ねた結果、
アルデヒド類吸着層に、多孔質の無機粒子を特定の割合で配合することで、アルデヒド類吸着剤がこの無機粒子と結合し、好適なアルデヒド類吸着機能を得ることができ、特に平均粒子径が0.8〜20μmの無機粒子を配合することで、該吸着剤が裏打紙に浸透することを効果的に防止できるため、該吸着剤の少ない使用量に拘わらず高いアルデヒド類吸着能を得られる。
さらに、アスペクト比が8以上の無機粒子を用いることで、上記の露出部を設けるにも拘わらず、オープンタイム(壁紙の裏面に塗布した糊が乾燥せず、施工が可能な時間)をより長く確保できることをみいだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、裏打紙の表面にアルデヒド類吸着層と装飾層とをこの順で有し、前記装飾層からの前記アルデヒド類吸着層の露出面積が10〜70%であり、前記アルデヒド類吸着層が多孔質の無機粒子を該吸着層全重量の10〜80重量%の割合で含むことを特徴とするアルデヒド類吸着壁紙を要旨とする。
このとき前記無機粒子には、平均粒子径が0.8〜20μmのものが好ましく、また無機粒子のアスペクト比が8以上であるものを用いることが好ましく、さらに、裏打紙の裏面に熱可塑性樹脂層を設けてもよい。
【0009】
本発明の裏打紙としては、従来から壁紙用裏打紙の材料として使用されている針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の製紙用パルプや、古紙パルプ等から選ばれる少なくとも一種以上を適宜混合したものが挙げられる。
これらのパルプには、寸法安定性を向上させるために、アクリル繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維や、ガラス繊維等の無機繊維を混合することもできる。
【0010】
このような材料からなる裏打紙は、長網抄紙機等を用い、従来の壁紙用裏打紙と同様の製紙法により得ることができ、例えば、坪量75〜150g/m2の(厚さ90〜200μm)程度の壁紙用裏打紙が好ましく使用される。
【0011】
本発明では、上記のような裏打紙の表面にアルデヒド類吸着層と装飾層とをこの順で有し、前記装飾層からの前記アルデヒド類吸着層の露出面積が、アルデヒド類の吸着性能面や壁紙の意匠性などの観点から、10〜70%であることが重要である。
アルデヒド吸着性能をコントロールする条件としては、アルデヒド類吸着層の露出面積、アルデヒド類吸着剤の種類及びその配合量、アルデヒド類吸着層の塗工量、などがあるが、このうちアルデヒド類吸着層の露出面積が10%に満たない場合は、空気中のアルデヒド類を十分に吸着することが困難となり、70%を超えると、仕上り後の装飾層の触感や高級感に欠けるうえ、アルデヒド類の吸着量に伴う吸着剤の黄変が目立つため、本発明では上記の露出面積とするものであり、より好ましい露出面積としては20〜50%であり、この範囲であれば、通常の壁紙とほぼ同等の装飾層を形成することができる。また、アルデヒド類吸着剤の種類及びその配合量、アルデヒド類吸着層の塗工量に関しては、アルデヒド類吸着層の露出面積に応じて、充分にアルデヒド吸着性能を発揮できるように適宜決定すれば良い。
【0012】
アルデヒド類吸着層は、バインダーにアルデヒド類吸着作用のある物質(以下、単に「アルデヒド類吸着剤」とも言う)、その他添加剤などを加えて混合した塗工液を、裏打紙の表面上に塗布することにより設けられる。
このアルデヒド類吸着層は、アルデヒド類吸着剤を含有してさえいればアルデヒド吸着性能を発揮できるものと考えられるが、その吸着性能は、裏打紙表面上に存在するアルデヒド類吸着剤が多いほど高くなる。
【0013】
そこで本発明では、アルデヒド類吸着剤の裏打紙への浸透を防止し、裏打紙の表面により多くの吸着剤を保持させるために、このアルデヒド類吸着層として、アルデヒド類吸着剤と共に、多孔質の無機粒子を併用したものとする。
この多孔質の無機粒子が、アルデヒド類吸着剤と物理的に結合してアルデヒド類吸着剤が裏打紙内部へ浸透するのを防止し、裏打紙表面上にアルデヒド類吸着剤を保持することができる。この結果、該吸着剤を少量使用するにも拘わらず、高いアルデヒド類吸着能を確保することができる。
本発明におけるアルデヒド類吸着剤と多孔質無機粒子との併用によるアルデヒド類吸着層は、極めて高いアルデヒド類吸着能を有することができる。
【0014】
本発明では、多孔質の無機粒子をアルデヒド類吸着層全重量の10〜80重量%、好ましくは30〜60重量%の割合で含有させることが重要である。
無機粒子の含有量が、10重量%に満たないと、アルデヒド類吸着剤が多孔質の無機粒子と十分に結合できず、裏打紙に浸透する分が増えてしまい、80重量%を超えるとこの効果が飽和するのみならず、塗工液中におけるアルデヒド類吸着剤や他の添加剤との均一な混合作業が難しくなると共に、アルデヒド類吸着層が欠落しやすくなり、その上に設けられる装飾層の接着性にも問題となるために好ましくない。
【0015】
さらに、本発明では、多孔質の無機粒子として、平均粒子径が0.8〜20μmのものを用いることが好ましく、より好ましくは1〜10μmのものを用いる。
このような平均粒子径を持つ無機粒子であれば、無機粒子添加によるアルデヒド類吸着剤の裏打紙への浸透がより一層防止され、アルデヒド類吸着剤の少量使用にも拘わらず、高いアルデヒド類吸着能を得るという本発明の目的を効果的に達成することができる。
多孔質の無機粒子の平均粒子径が0.8μmに満たないと、アルデヒド類吸着剤と結合しても裏打紙の繊維間を通り抜け、裏打紙の表面上に残り難い虞がある。20μmを超えると、アルデヒド類吸着層の表面が荒れてしまい、特にアルデヒド類吸着層の厚みを20μm以下程度に薄くした場合にアルデヒド類吸着層の表面の平滑性が著しく低くなるため、装飾層の形成に不都合が生じる虞がある。
【0016】
さらに、本発明においては、多孔質の無機粒子として、アスペクト比が8以上のものを用いることが適している。
本発明のアルデヒド類吸着壁紙は、従来の裏打紙の表面全面が装飾層で覆われた壁紙等と異なり、裏打紙の表面が部分的に露出する形態となっている。その結果、裏打紙の透湿性、通気性が比較的高くなり、壁紙施工時に壁紙の裏面に塗布した糊が乾燥しやすく、オープンタイムを長く確保できない虞がある。そこで、アルデヒド類吸着層に含まれる多孔質の無機粒子として、水蒸気及び空気バリア性の向上に効果のある、平板状や鱗片状の無機粒子を用いることが好ましい。この平板状や鱗片状の無機粒子としては、アスペクト比が8以上のものが好ましく、このような無機粒子を用いることによって、オープンタイムを長く確保できる。アスペクト比が8に満たない場合、空気バリア性向上の効果が低く、満足なオープンタイムが得られない虞がある。
【0017】
多孔質の無機粒子としては、具体的には、カオリン、焼成カオリン、タルク、クレー、サチンホワイト、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、ゼオライト、セピオライト、シリカ、などが挙げられ、いずれかを単独であるいは適宜の組み合わせによる2種以上を混合して使用することができる。また、多孔質の無機粒子の平均粒子径やアスペクト比は、天然鉱物等のフィラーを、例えば、ホモミキサーのような高剪断が掛けられる分散機で粒子を分散することにより調整することも可能である。
【0018】
アルデヒド類吸着作用のある物質(アルデヒド類吸着剤)としては、アルデヒド類と物理的・化学的に反応して無害・無臭の状態に変化させる機能を有する物質であればいかなるものでも使用可能であるが、中でも、アミン基をもつ有機化合物が、入手の容易性、取り扱い性等の面から好ましい。
このアミン基をもつ有機化合物としては、例えば、尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、5−ヒドロキシプロピレン尿素、5−メトキシプロピレン尿素、5−メチルプロピレン尿素、パラバン酸(グリオキザールモノウレイン)、4,5−ジメトキシプロピレン尿素、ヒドラジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ジシアンジアミド、2−ヒドラゾベンゾチアゾール、もしくはその誘導体、等のアミン類、アミド類、イミド類、などが挙げられ、中でも、尿素系及びヒドラジン系の有機化合物が、アルデヒド類吸着性能上、好ましい。
【0019】
多孔質の無機粒子およびアルデヒド類吸着剤は、カゼイン、澱粉、あるいは、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、メラミン樹脂等の合成樹脂からなるバインダー成分と共に使用される。
上記のバインダー成分は、水または有機溶剤等の溶媒に分散させた、例えばエマルジョンタイプ等の状態のものを好ましく使用でき、この樹脂固形分は、塗工条件等により適宜選択すればよい。
【0020】
このようなアルデヒド類吸着層中における、バインダー成分と、多孔質の無機粒子と、アルデヒド類吸着剤との割合は、本発明の目的とするアルデヒド類吸着機能を好適に発現できる範囲で適宜変更すればよいが、裏打ち紙に塗工されたアルデヒド類吸着層全重量中、多孔質の無機粒子が上記の10〜80重量%、好ましくは30〜60重量%、アルデヒド類吸着剤が10〜50重量%、好ましくは25〜45重量%、樹脂固形分が10〜80重量%、好ましくは15〜45重量%が適している。
【0021】
バインダー成分が少なすぎると、アルデヒド類吸着剤や無機粒子に対する接着強度が低化し、特に壁紙として使用中に無機粒子および該粒子に物理結合しているアルデヒド類吸着剤の剥落が生じ、多すぎると、相対的に無機粒子やアルデヒド類吸着剤の割合が少なくなりすぎて、アルデヒド類吸着能が低化する。
アルデヒド類吸着剤が少なすぎると、空気中のアルデヒド類を吸着する効果が充分に得られず、多すぎても、アルデヒド類の吸着効果が飽和するばかりでなく、無機粒子と結合しないアルデヒド類吸着剤が多くなり、裏打紙内部へ浸透する事態が発生することとなるため、効率的ではない。
【0022】
また、アルデヒド類吸着層中には、バインダー成分と、多孔質の無機粒子と、アルデヒド類吸着剤、の他に本発明の目的とする効果を損なわない範囲で、着色剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、などの添加剤を用いても良い。
【0023】
以上のようなバインダー成分、多孔質の無機粒子、アルデヒド類吸着剤、その他の添加剤からなるアルデヒド類吸着層は、これらを配合して塗料化し、この塗料を適宜の手段により裏打紙に塗工するなどして設けられる。
この塗料化する際の方法は、何ら制限されるものではないが、本発明では、アルデヒド類吸着性能を良好に発現させるために該吸着剤と物理的に結合する無機粒子を、アルデヒド類吸着層中に均一に分散させることが重要である。
このためには、例えば、予めアルデヒド類吸着剤と無機粒子のみをブレンダー、ヘンシェルミキサー、ディスパー、ディゾルバー、等の装置で混合して、両者を十分に結合させておき、これを他の添加剤とともに所定量のバインダー成分を含むエマルジョン等に加え、上記と同様の装置で混合する方法であってもよいし、あるいは、所定量のバインダー成分を含むエマルジョン等に、所定量の無機粒子、アルデヒド類吸着剤、他の添加剤を同時に加え、上記のような装置で一気に混合する方法であってもよい。
【0024】
このようなアルデヒド類吸着層の塗工量は、乾燥状態で3〜15g/m2程度が好ましい。
塗工量が3g/m2未満では、塗工ムラが生じるばかりでなく、充分な吸着性能が得られず、15g/m2より多いと、塗工層の厚みが大きくなり、壁紙として巻取り等を行う際に不都合が生じる。
【0025】
また、裏打紙上にアルデヒド類吸着層を設ける塗工方法としては、例えば、ナイフコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター等の一般的な塗工方法が採用できるが、中でも、塗布量の調節が行いやすいなどの理由により、エアーナイフ法が好ましい。
裏打紙への塗工は、裏打紙の抄紙装置に組み込まれているオンマシーンコーティング方式や、裏打紙の抄紙工程後に、各種コーターによるオフマシーンコーティング方式に何れであってもよい。
【0026】
本発明の壁紙では、裏打紙の表面上に形成されたアルデヒド類吸着層上に、更に該吸着層を部分的に露出させるように装飾層が形成される。
この装飾層は、通常の樹脂製壁紙における装飾層と同様のものであって、塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂などからなる装飾層であり、これら合成樹脂に、可塑剤、安定剤、着色剤、充填材、難燃剤、防カビ剤、発泡剤、熱膨張性マイクロカプセル等を必要に応じて適宜の量で添加した樹脂材料を原料として形成される。
【0027】
また、装飾層は、単層であってもよいし、複数層であってもよく、複数層とする場合は、各層は完全に重なる必要はなく、最終的に壁紙の最表面から見たアルデヒド類吸着層の露出面積が10〜70%であればよい。
また、これらの層は、非発泡の層でも、発泡した層であってもよいし、非発泡層と発泡層との組み合わせであってもよく、ケミカルエンボスやメカニカルエンボスによる凹凸意匠が施されていてもよい。
【0028】
発泡層とする場合、発泡剤としては、使用する合成樹脂の種類にもよるが、例えば塩化ビニル系樹脂を使用する場合には、ADCA(アゾジカルボンアミド)等のアゾ化合物、OBSH(4,4’−オキシビス(ベンズスルホニルヒドラジド))等のヒドラジン誘導体などのような熱分解性発泡剤や、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系等の熱可塑性高分子材料製の殻内に低沸点炭化水素を内包した熱膨張性マイクロカプセルが挙げられる。なお、発泡剤のみを使用する場合と、発泡剤と共に、部分的に発泡抑制剤を併用してケミカルエンボスによる凹凸意匠を設けた装飾層としてもよい。
【0029】
また、通常の樹脂製壁紙のように、装飾層の表面に、印刷インキでの印刷模様を施してもよいし、あるいは必要に応じて、その表面に艶消し、艶出し、防汚性付与、表面強度アップ等のために種々の表面化粧を施すこともできる。
【0030】
このような装飾層の厚みは、通常の樹脂製壁紙における装飾層と同程度とし、例えば、乾燥状態で0.1〜2.0mm程度であればよい。
厚みが0.1mm未満では、美麗な装飾層を形成することが困難であり、2.0mmより厚いと、壁紙として取扱にくいものとなってしまう。
【0031】
装飾層の形成は、この装飾層からのアルデヒド類吸着層の露出面積が上記範囲となるのであれば、形成(塗工)方法において何ら制限されるものではなく、例えば、ナイフコーター、コンマコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアプリンター、ロータリースクリーンプリンター等の手段にて、裏打紙の表面上のアルデヒド類吸着層の上に、該吸着層を部分的に露出させるように装飾意匠性を考慮して塗工すればよい。
【0032】
このように、本発明の壁紙は、裏打紙の表面に、多孔質の無機粒子を上記割合で含むアルデヒド類吸着層を設け、この吸着層上に装飾層を吸着層が部分的に露出するように設けることで、アルデヒド類吸着剤の少ない使用量にも拘わらず、吸着剤は裏打紙に殆ど浸透しないため、空気中のアルデヒド類を効果的に吸着することができる。
また、空気中のアルデヒド類を吸着しても、黄変する吸着剤は装飾層に部分的に覆われており、装飾層にアルデヒド類吸着剤を含んでいないので、黄変が目立たず、装飾層における初期の色彩が良好に維持できる。
したがって、アルデヒド類吸着剤は壁紙の最表層である装飾層に含まれていないため、装飾層の発泡に関する弊害がなく、美麗な装飾層を形成することができる。
さらに、本発明の壁紙は、装飾層が部分的にしか形成されておらず、アルデヒド類吸着層で薄く覆われた裏打紙が部分的に露出することになるため、より高い通気性および透湿性能を有する。従って、本発明の壁紙を、アルデヒド類の吸着性能を有する下地材(石膏ボードなど)に施工した場合には、この下地材自体の吸着性能をも生かすことができ、アルデヒド類吸着層における吸着性能との相乗的な効果を得ることができる。
【0033】
また、本発明の壁紙では、上記の裏打紙の裏面に、熱可塑性樹脂からなる層を設けてもよい。
本発明では、裏打紙の表面にアルデヒド類吸着層を設けており、このアルデヒド類吸着層は、無機粒子を含むため、塗料調整の際に分散剤などの界面活性成分を用いることがある。しかし、界面活性成分を含んだ塗料を裏打紙に塗工した場合、裏打紙のサイズ度が著しく低下する傾向があり、その結果、壁紙を壁面に貼着する際に、壁紙の裏面に塗布する施工糊の水分が裏打紙に浸透し易くなるため、施工糊が乾燥し易く、オープンタイムを十分に確保できない虞がある。これを回避するために、裏打紙の裏面に熱可塑性樹脂層を設けることで、裏打紙の裏面の水分に対するバリア性を向上させ、オープンタイムを充分に確保することが可能となる。
なお、オープンタイムの調整法としては、上記のように樹脂層を裏面に設けることの他に、施工糊を乾燥性の少ないものにする等の方法を採ることもできる。
【0034】
この熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、などが挙げられ、これらの熱可塑性樹脂は、いずれかを単独であるいは適宜の組み合わせによる2種以上を混合して使用することができる。
【0035】
このような熱可塑性樹脂を、溶媒や可塑剤などで塗料化し、さらに、サイズ剤、安定剤、着色剤、充填材、難燃剤、防カビ剤、等を必要に応じて適宜添加してもよい。
該塗料は、エマルジョンタイプ、溶剤タイプのいずれでもよい。
【0036】
このような熱可塑性樹脂層の塗工量は、乾燥状態で、0.5〜4.0g/m2程度が好ましい。
塗工量が0.5g/m2未満では、オープンタイムを調整するには不十分であり、4.0g/m2を超えると、オープンタイムを調整するには過剰の塗工量となり、また、壁紙全体の重量が増し壁紙自体の取扱性が低下する。
【0037】
熱可塑性樹脂層の裏打紙裏面への形成方法は、上記のような原料を、ドクターナイフコーター、コンマドクターコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、エアーナイフコーター等の公知のコーターにより塗工することが挙げられる。
【0038】
このように、本発明の壁紙は、裏打紙の裏面に熱可塑性樹脂からなる層を設けることで、アルデヒド類吸着層への界面活性成分の添加により裏打紙のサイズ度が著しく低下した場合においても、裏打紙への施工糊水分の染み込みを防ぐことができ、施工時において、充分なオープンタイムを保持したアルデヒド類吸着壁紙とすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のアルデヒド類吸着壁紙は、
(1)少ない吸着剤量にもかかわらず、高い吸着性能を確保することができ、
(2)アルデヒド類の吸着によるアルデヒド類吸着層の黄変が目立たず、
(3)発泡が阻害されずに美麗な装飾層を形成することができ、
(4)アルデヒド類の吸着性能を有する下地材(石膏ボードなど)の吸着性能との相乗的効果を得ることができる、
などの効果を有し、ホルムアルデヒドのようなVOCを低減させる壁紙として好適である。
【0040】
また、本発明のアルデヒド類吸着壁紙は、アルデヒド類吸着層に用いる無機粒子として、アスペクト比が8以上であるものを用いることにより、壁紙の表面が装飾層により部分的にしか覆われていなくとも、壁紙施工時における施工糊の水分の乾燥を効果的に防止することができ、施工時において、充分なオープンタイムを保持したアルデヒド類吸着壁紙とすることができる。
【0041】
さらに、裏打紙の裏面に、熱可塑性樹脂からなる層を設けることにより、裏打紙への施工糊水分の染み込みを防ぐことができ、界面活性成分を含む塗料を塗工し、裏打紙のサイズ度が著しく低下した場合においても、施工時において、充分なオープンタイムを保持したアルデヒド類吸着壁紙とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
〔実施例1〜13、比較例1〜6〕
図1に示すように、坪量90g/m2の裏打紙1の表面に、バインダー、多孔質の無機粒子、アルデヒド類吸着剤をそれぞれ表1に示す割合でラボミキサーにて均一に攪拌分散して得られた組成物を、エアーナイフ式コーターにより塗工した後に乾燥し、アルデヒド類吸着層2を形成した。
次に、上記により得られたアルデヒド類吸着層2上に、表2に示す配合からなる装飾層3を、該装飾層3からアルデヒド類吸着層2が表1に示す割合で露出するように(乾燥時120g/m2となるように)ロータリースクリーンプリンターにて塗工し、140℃の温度で乾燥後、220℃の温度にて加熱発泡して、アルデヒド類吸着壁紙10を得た。
【0043】
実施例1〜13および比較例1〜6の各アルデヒド類吸着壁紙における(1)アルデヒド類濃度低減率、(2)施工可能時間(オープンタイム)を下記の評価方法で評価した。
結果を表1に併せて示す。
【0044】
(1)アルデヒド類濃度低減率:得られた壁紙10を8×8cmの大きさに裁断し、裏面・端部をアルミテープでシールしたものを、3リットル容量のテトラバックに入れ、約70ppmのアセトアルデヒドガスを注入し、密閉した。
上記テトラバック内の、上記ガスを入れた直後と24時間後の、アセトアルデヒド濃度を測定し、低減量を率として記載した。
(2)オープンタイムの評価基準:得られた壁紙10の裏面に、施工用接着剤(ヤヨイ化学工業社製 商品名“ルーアマイルド”の6割希釈<ルーアマイルド10に対して水6(重量比)を加えたもの>)を、壁紙用自動糊付け機を使用して約140g/m2となるよう塗布し、塗布面が内側になるように折り畳んだ。
30分毎に接着剤の乾燥具合を確認し、接着剤により裏打紙同士が接着し、それを剥がしたときに少なくとも一方の裏打紙の層間剥離が発生する、或いは接着剤が乾燥して施工できる状態でなくなるまでの時間を測定し、下記基準で評価した。
○;120分以上
△;90〜120分
×;90分未満
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表1中、
バインダー、無機粒子、アルデヒド類吸着剤の各配合量は、乾燥時での重量%を示す。
(使用原料)
バインダー:完全ケンカ型ポリビニルアルコール
無機粒子:珪酸アルミニウム
アルデヒド類吸着剤:(株)オーシカ製 商品名“ディアムッシュFC−7”
【0048】
表2中、
数字は、重量部を示す。
(使用原料)
DOP:フタル酸ジ−2−エチルヘキシル
ADCA:アゾジカルボンアミド
【0049】
この結果、実施例1〜13の壁紙は、いずれも比較例1,3〜6の壁紙よりも優れたアルデヒド濃度の低減率を示した。比較例2の壁紙では、アルデヒド濃度の低減率の結果は良好であったが、施工可能時間の結果が不充分であり、装飾層の外観も装飾意匠性に劣るものであった。実施例12に関しては、両評価とも良好であったが、装飾層の外観に多少無機物の凹凸がみられたと共に、装飾層とアルデヒド類吸着層との接着強度が多少低下していた。
また、各実施例、比較例において、アルデヒド類濃度低減率の評価方法と同様な方法にて、常時アセトアルデヒドガスを供給した状態で、アルデヒド類吸着剤の吸着力が飽和状態となるまでアセトアルデヒドガスを吸着させて、各試料のアルデヒド類吸着層と装飾層を含めた外観評価を実施したところ、各試料のアセトアルデヒド吸着層には黄変が発生したが、比較例2においては全体的に変色しているように感じた。実施例11も多少変色しているようであったが、壁紙としてまだ使用できる程度のものであった。その他のものは特に変色を感じない程度であった。
【0050】
〔比較例7〕
アルデヒド類吸着層を裏打紙上に形成せずに、実施例8と同量のアルデヒド類吸着剤を装飾層3に混合する以外は、他の実施例と同様にして壁紙を作製し、この壁紙における(1)アルデヒド類濃度低減率を実施例1〜13、比較例1〜6と同様の基準で評価するとともに、(2)装飾層の発泡状況を下記方法にて評価した。
【0051】
(2)装飾層3の発泡状況:得られた壁紙10表面の発泡セルの状態及び発泡装飾層としての外観を肉眼で観察し、評価を行った。
【0052】
この結果、(1)については、比較例7のアルデヒド類吸着剤が装飾層3に混合されている壁紙であっても、実施例8の壁紙と比較すると劣るが実施例4と同程度の結果が得られた。(2)については、装飾層3の発泡は阻害されていて、他の実施例のような装飾層3を得ることができなかった。
【0053】
〔実施例14〕
裏打紙1の裏面に下記組成の熱可塑性合成樹脂を固形分換算で2.0g/m2塗工した以外は、実施例3と同様にして壁紙を作製し、この壁紙における(1)アルデヒド類濃度低減率、(2)施工可能時間(オープンタイム)を実施例1〜12、比較例1〜6と同様の基準で評価した。
【0054】
裏打紙1裏面の熱可塑性樹脂層の組成:完全ケンカ型ポリビニルアルコール(ユニチカ(株)製 商品名“ポバールV”を希釈し4%液としたもの)
【0055】
この結果、(1)については、実施例12の裏打紙1の裏面に熱可塑性合成樹脂層が設けられている壁紙であっても、実施例3の壁紙と同様の評価が得られ、(2)については、実施例12の壁紙では120分経過後も問題なく施工できる状態であり、実施例3の壁紙より優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によるアルデヒド類吸着壁紙は、少ない吸着剤量にもかかわらず、吸着剤は裏打紙に殆ど浸透しないため、空気中のアルデヒド類を効果的に吸着することができるうえ、アルデヒド類の吸着よる黄変が目立たず、しかも発泡が阻害されず美麗な装飾層を形成することができる。
さらに、本発明によるアルデヒド類吸着壁紙は、装飾層に露出部を設けてあるため、アルデヒド類の吸着性能を有する下地材(石膏ボードなど)の吸着性能との相乗的効果を得ることもできる。
従って、本発明によるアルデヒド類吸着壁紙は、一般家屋、オフィスビル、店舗用建物、商業施設、公共施設、その他各種の建築物において幅広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明によるアルデヒド類吸着壁紙の一実施態様を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
10 アルデヒド類吸着壁紙
1 裏打紙
2 アルデヒド類吸着層
3 装飾層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏打紙の表面にアルデヒド類吸着層と装飾層とをこの順で有し、
前記装飾層からの前記アルデヒド類吸着層の露出面積が10〜70%であり、
前記アルデヒド類吸着層が、多孔質の無機粒子を該吸着層全重量の10〜80重量%の割合で含むことを特徴とするアルデヒド類吸着壁紙。
【請求項2】
無機粒子の平均粒子径が0.8〜20μmであることを特徴とする請求項1に記載のアルデヒド類吸着壁紙。
【請求項3】
無機粒子のアスペクト比が8以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のアルデヒド類吸着壁紙。
【請求項4】
裏打紙の裏面に熱可塑性樹脂層を有することを特徴とする請求項1〜3に記載のアルデヒド類吸着壁紙。


【図1】
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【公開番号】特開2006−299455(P2006−299455A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122138(P2005−122138)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【出願人】(592175416)紀州製紙株式会社 (23)
【Fターム(参考)】