説明

アレルゲン不活化繊維および該繊維の製造方法、並びに該繊維を用いた繊維製品

【課題】 アレルゲンに対して優れた不活化効果を有する繊維、及び該繊維の製造方法、並びに該繊維を含む繊維製品を提供すること。
【解決手段】 カルボキシル基および/またはその塩を有する架橋繊維表面に、Agおよび/またはCuが繊維全体の質量の2.5質量%以上固着されてなることを特徴とするアレルゲン不活化繊維である。この繊維は、架橋繊維のカルボキシル基の少なくとも一部にAgイオンおよび/またはCuイオンを結合させた後、アルカリ処理によって、Agおよび/またはCuを繊維表面にナノサイズレベルの超微粒子状に析出固着させることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉やダニ等のアレルゲンの活性を弱体化または消滅させることのできる繊維材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
花粉やダニ等のアレルゲンは、喘息やアトピー性皮膚炎の他、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりといった鼻に関するトラブル、目のかゆみ、充血、涙といった目に関するトラブル等、数々のアレルギー症状を引き起こすため、周囲の環境から如何にアレルゲンを除去するかという検討が様々な方向からなされている。
【0003】
その中には、空気清浄機やエアコン中のフィルタを構成する繊維にアレルゲン不活化性能を与えて、生活環境あるいは職場環境内のアレルゲンを不活化させようとする試みがある。このようなアレルゲン不活化繊維は、フィルタのみならず、カーテンやカーペット、あるいは衣類等にも利用できるため適用範囲が広い。
【0004】
特許文献1には、ジルコニウム塩をアレルゲン不活化化合物として用いる抗アレルゲン繊維が開示されている。しかし、この発明では、繊維に不活化化合物を付着させるに当たり、単に、不織布等の繊維製品をジルコニウム塩溶液に浸漬するだけであり、得られる繊維製品を一度洗濯してしまえば、もはや抗アレルゲン性は失われてしまう。
【0005】
特許文献2には、カオリンやタルク等を用いてアレルゲンを吸着する発明が記載されているが、この発明においても、カオリン等のスラリーに不織布を浸漬してアレルゲン吸着物質を付着させているだけなので、洗濯に対する耐久性はない。
【特許文献1】特開2001−214367号公報
【特許文献2】特開2002−167332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、アレルゲンを不活化する能力に優れ、しかも、このアレルゲン不活化効果が洗濯等でも失効せず、長期に亘って高いレベルで持続することのできる繊維および該繊維の製造方法、並びに該繊維を含む繊維製品を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することのできた本発明は、カルボキシル基および/またはその塩を有する架橋繊維表面に、Agおよび/またはCuが繊維全体の質量の2.5質量%以上固着されてなることを特徴とするアレルゲン不活化繊維である。
【0008】
上記架橋繊維は、アクリロニトリル由来のユニットを70質量%以上含有するアクリロニトリル系繊維に対し、ヒドラジンによる架橋処理、加水分解処理後に、Agおよび/またはCu含有化合物との接触処理がなされ、さらにアルカリ処理が施されたものであることが好ましい。このとき、加水分解処理後の架橋繊維の表面のカルボキシル基が0.23mmol/g以上であると、その後の処理により、AgやCuの固着量を、アレルゲンを不活化させることができるレベルにまで高めることができる。
【0009】
アレルゲン不活化繊維においては、上記カルボキシル基の少なくとも一部が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩のいずれか1種以上になっていると、その吸湿作用によって一層アレルゲン不活化の効果が高まるため、好ましい。
【0010】
本発明のアレルゲン不活化繊維を製造する方法は、Agおよび/またはCu含有化合物との接触処理により上記架橋繊維のカルボキシル基の少なくとも一部にAgイオンおよび/またはCuイオンを結合させた後、アルカリ処理によりAgおよび/またはCuを繊維表面に析出固着させるところに特徴を有している。
【0011】
本発明には、上記アレルゲン不活化繊維を含み、綿状、不織布状、織物状、紙状もしくは編物状であるアレルゲン不活化繊維製品も包含される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアレルゲン不活化繊維は、花粉やダニといったアレルゲンに対する優れたアレルゲン不活化効果を発揮する。また、この効果を発現するAgおよび/またはCuは、超微粒子状(40万倍の透過型顕微鏡でも粒子として確認できない程度のナノサイズ)で繊維に固着していると考えられるが、この固着状態は強固であり、洗濯等でもアレルゲン不活化効果は低減せず、半永久的にアレルゲンを不活化させる。また本発明の製造方法によれば、上記アレルゲン不活化繊維を工業的に生産することができる。
【0013】
そして、本発明のアレルゲン不活化繊維は、単独もしくは他の任意の繊維材と混紡もしくは混繊して、綿状、不織布状、織物状、紙状または編物状に加工されて繊維製品とすることができ、この繊維製品は、優れたアレルゲン不活化効果を長期に亘って発揮するので、空調や空気清浄機のフィルタの他に、マスクや衣類等の着用品、カーテン、カーペット、ソファ、壁紙等の内装品、シーツ、毛布、各種カバー類等の寝具類等、種々の繊維製品に適用することができ、アレルギー症状の発生を抑制することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るアレルゲン不活化繊維は、カルボキシル基および/またはその塩を有する架橋繊維表面に、Agおよび/またはCuが繊維全体の質量の2.5質量%(金属として)以上固着されているところに特徴を有している。本発明では、主に繊維表面に多量のAgおよび/またはCuを固着させることができたため、従来抗菌性はあっても抗アレルゲン性はないと考えられてきたAgやCuによってアレルゲンを不活化させることができた。花粉やダニの糖タンパク質のうち、糖鎖よりもタンパク質部分がエピトープである可能性が高くなっているが、本発明のアレルゲン不活化繊維のAgおよび/またはCuが、タンパク質のアレルゲン的働きを停止させるか、タンパク質そのものを破壊するのではないかと考えられ、これにより、本発明のアレルゲン不活化繊維は優れたアレルゲン不活化効果を発揮すると考えられる。
【0015】
上記効果は、Agおよび/またはCuの固着量が繊維全体の質量の2.5質量%以上でないと有効に発現しない。Agおよび/またはCuの量が2.5質量%未満の場合、例えば、簡便なダニチェック法では有効との結果が得られても、本格的な酵素免疫測定法を行ったときには、アレルゲン不活化効果が発現しないことが確認されている。金属量は繊維全体の質量の3質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、コスト的な点と、アレルゲン不活化効果が飽和する点で、これらの金属の固着量は繊維全体の質量の10質量%以下が好ましい。より好ましい金属量の上限は8質量%で、さらに好ましい上限は6質量%である。ただし、アレルゲン不活化繊維ではない繊維と混合(混紡、混繊を含む)する場合には、最終繊維製品形態において上記金属量とする必要があるので、Agおよび/またはCu量は10質量%を超えるものであってもよい。なお、本発明における架橋繊維の「表面」とは、繊維径の3分の1から表面までのことを言う。
【0016】
本発明に係るアレルゲン不活化繊維の基本骨格となる繊維としては、この繊維を構成する重合体が(以下、単に繊維ということがある)、分子中にカルボキシル基および/またはその塩を有し、かつ、架橋構造を有するものであれば制限なく使用できるが、生産性や骨格繊維としての強度特性、量産性、コストなどを考慮して最も好ましいのは、任意の方法で架橋構造を与えたアクリル系繊維、中でも、アクリロニトリル系繊維やアクリル酸エステル系繊維を部分加水分解することによってカルボキシル基を導入した繊維である。
【0017】
該繊維に架橋構造を付与するのは、カルボキシル基が導入された状態で繊維として適度な強度を確保しつつ、水に溶解することがなく、しかも、当該繊維に、後述する方法でAgおよび/またはCuを固着させる際に、物理的、化学的に劣化しない特性を与えるためであり、共有結合による架橋、イオン架橋、キレート架橋などが全て包含される。架橋構造を導入する方法についても特に制限されないが、繊維状に加工することの必要上、常法により紡糸・延伸等の工程を経て繊維状に加工した後に架橋構造を導入することが望ましい。
【0018】
繊維素材としてアクリロニトリル系重合体を使用し、これにヒドラジン等による架橋構造を導入すると共に、加水分解によってカルボキシル基を導入したものは、繊維特性が良好であるばかりでなく、繊維表面のAgおよび/またはCuの固着量を容易に高めることができ(詳細は後述する)、耐熱性も良好でコスト的にも廉価に得ることができるので、実用性の高いものとして推奨される。アクリロニトリル系重合体中のアクリロニトリル由来のユニット量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。アクリロニトリルユニットが多いほど、加水分解処理によるカルボキシル基導入量を増大させることができ、ひいては、Agおよび/またはCuの付着量を増大させることができるからである。アクリロニトリルユニットの好ましい上限は100質量%、より好ましくは95質量%である。なお、アクリロニトリルユニットが架橋したユニットや加水分解を受けた後のユニットも、「アクリロニトリル由来のユニット」に含まれるものとする。また、アクリロニトリルの共重合相手としては、アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、酢酸ビニル等が挙げられる。アクリロニトリル系重合体は、公知の方法によって重合すればよい。また、繊維化に際しても、N、N−ジメチルホルムアミドや、ロダンソーダ水溶液等を用いる公知の湿式紡糸法等を採用すればよい。
【0019】
繊維化後に架橋構造を導入する。架橋導入には、水加ヒドラジンを0.1〜2質量%含む水溶液中に、80〜95℃で30〜180分程度、繊維を浸漬する方法が好ましい。
【0020】
架橋後は、加水分解を行う。架橋構造導入反応と加水分解反応は同時に行っても構わない。上記架橋アクリル系繊維を酸またはアルカリで加水分解すると、架橋アクリル繊維分子中のニトリル基や酸エステル基が加水分解され、酸で処理した場合はH型のカルボキシル基が生成し、アルカリで処理した場合はアルカリ金属塩型のカルボキシル基が生成する。加水分解を進めるにつれて生成するカルボキシル基の量は増大するが、次工程でAgやCuの固着量を高めるには、加水分解処理後のカルボキシル基としての生成量で0.23mmol/g以上とすることが好ましい。Agの付着量を2.5質量%以上にするには、カルボキシル基量を0.23mmol/g以上にすればよいためである。なお、Cuの場合は、0.79mmol/g以上にすることが好ましい。カルボキシル基量が過大になると、AgやCuを繊維表面に集中させにくくなるため好ましくなく、この点でカルボキシル基量を2mmol/g以下(より好ましくは1mmol/g以下)とすることが望ましい。
【0021】
加水分解に用いることのできる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等が挙げられ、アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物、アンモニア等が挙げられる。加水分解処理は、酸またはアルカリの1〜10質量%水溶液中に、80〜95℃で30〜180分程度、繊維を浸漬する方法が好ましい。架橋構造導入反応と加水分解反応を同時に行うには、水加ヒドラジンと、NaOH等のアルカリを上記好適濃度で有する水溶液を用いて、80〜95℃で30〜180分、繊維を処理すればよい。なお、この処理後は、繊維を水洗することが好ましい。
【0022】
次に、カルボキシル基および/またはその塩を含有し、架橋構造が導入された繊維をAgイオン水溶液(またはCuイオン水溶液)で処理することにより、繊維分子中のカルボキシル基にAgイオン(Cuイオン)を結合させる。Agイオン導入には、例えば、硝酸銀等のAgイオン源を0.01〜2質量%(Agとして)程度含む水溶液に、20〜95℃で、10〜60分程度、繊維を浸漬すればよく、Cuイオン導入には、例えば、硫酸銅、硝酸銅等のCuイオン源を0.01〜2質量%(Cuとして)程度含む水溶液に、20〜95℃で、10〜60分程度、繊維を浸漬すればよい。なお、この処理の後も、繊維を水洗することが望ましい。
【0023】
このとき、カルボキシル基に均一にAgイオン(またはCuイオン)を結合させるには、加水分解によって生成したカルボキシル基の10mol%以上を、Agイオン(またはCuイオン)と結合させることが好ましい。また、廃水中に金属イオンが残存することは望ましくないので、Agおよび/またはCuの当量が全カルボキシル基量の80mol%以下(より好ましくは60mol%以下、さらに好ましくは40mol%以下)になるようにAgおよび/またはCuイオン源を水溶液中に存在させて、Agおよび/またはCuのほぼ全量をカルボキシル基に結合させることが好ましい。処理浴のpHを7以上にする、浴温を上げる、浸漬時間を長くする、といった方法により、金属の結合量を増大させることができるので、適宜これらの手段を組み合わせればよい。
【0024】
次に、アルカリ処理を行う。理由は明確ではないが、pH10以上の強アルカリ処理を行うと、繊維内部のAgやCuが繊維表面に移動して来るからである。これらの表面に移動してきたAgやCuは、ナノサイズの超微粒子として析出して、繊維に固着していると考えられ、その結果、半永久的に優れたアレルゲン不活化効果を発揮するものと考えられる。一部のAgやCuは−COOAgや−COO−Cu−OOC−として存在しているとも考えられる。ESCAによる繊維表面の測定結果では、少なくとも酸化銀とは異なるピークも示すことを確認している。
【0025】
この強アルカリ処理は、pH10以上、より好ましくはpH11以上で行う。よって、NaOHやKOH等の強アルカリの水溶液を用いることが好ましい。温度は40〜95℃、時間は5分〜5時間程度が好ましい。温度が高いほど、pHが高いほど、時間が長いほど、繊維内部から繊維表面に移動してくるAgやCuの量が多くなるが、処理条件が過酷になり過ぎると、AgやCuが繊維表面から浴中へと移動してしまって繊維表面に固着するAg・Cu量が少なくなるため、上記範囲で行うのが好ましい。
【0026】
アレルゲン不活化繊維のAgまたはCuの含有量は、該繊維を硝酸、硫酸、過塩素酸の混合液(濃度は分解状態に応じて調整する)で湿式分解した後、原子吸光法(島津製作所製:原子吸光分光度計AA−6800)によって測定された値から算出する。例えば繊維中のAgおよび/またはCuの含有量の測定は、該繊維を混合液(98質量%硫酸1:60質量%硝酸3〜5:60質量%過塩素酸1〜2;なお比率は質量比)を用いて湿式分解した後に、原子吸光法によって測定・算出することができる。
【0027】
また、アレルゲン不活化繊維のAgまたはCuの分布状態は、SEMにEDXが組み込まれた詳細な元素分析が可能な装置(例えば、日立製作所製のSEMEDX−III タイプN等)を用いて、繊維断面における繊維表面から繊維径の3分の1までのAgまたはCu量の含有比率を測定することにより把握できる。
【0028】
上記の強アルカリ処理を行うと、繊維中にはカルボキシル基の塩も形成される。繊維に含有させたAgおよび/またはCuによるアレルゲン不活化効果は、アレルゲンがAgおよび/またはCuに接触しなければ生じないが、繊維中に含まれるカルボキシル基の少なくとも一部をカルボキシル基の塩として存在させることで、カルボキシル基の塩の有する吸湿・保湿性によって、空気中の水分を取り込んでアレルゲンを不活化する反応場を形成し易くするため、好ましい実施態様である。この効果は、アルカリ金属の塩の場合だけでなく、アルカリ土類金属もしくはアンモニアの塩であっても発現するが、特にナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩として存在するものは、少ない金属塩の置換量で繊維に高い吸湿・保湿性を与えることができるので好ましい。
【0029】
本発明のアレルゲン不活化繊維は上記の様な特徴を有しているが、その外観形状については様々な形態を取ることができる。例えば紡績糸、ヤーン(ラップヤーンを含む)、フィラメント、不織布、織物、編物、シート状、マット状、綿状、紙状、積層体など任意の繊維製品として使用できる。また、上記アレルゲン不活化効果を有する本発明の架橋繊維は、単独で使用し得る他、必要に応じて他の天然繊維や合成繊維、半合成繊維などと混合(混紡、混繊を含む)して上記繊維製品とすることも勿論可能である。
【0030】
尚、アレルゲン不活化繊維と他の繊維を混合して使用する場合、繊維製品のアレルゲン不活化効果を発現させるため、全繊維成分中、Agおよび/またはCuの量が2.5質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上になるように、調整することが好ましい。なお、上限は特に限定されないが、コスト的な点と、アレルゲン不活化効果が飽和する点で、Aおよび/またはCuの量は、繊維全体の質量中、10質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
具体的な繊維製品としては、アレルゲンとの接触環境の観点から、エアーフィルタ、寝具、家具および内装材料、玩具、マスク、着衣、布製身回り品が例示されるが、これらに限らず、あらゆる繊維製品に本発明のアレルゲン不活化繊維を構成素材として繊維製品を提供することが可能である。
【0032】
エアーフィルタとしては、空気清浄機、エアコン、掃除機等のフィルタが挙げられ、一般家庭用、工場用、オフィスビル用等、いずれも使用可能である。寝具としては、布団、布団綿、枕、毛布、タオルケット、マットレス、シーツ等およびこれらのカバー類が挙げられる。また、ソファー、椅子、ベッド等の家具およびこれらのカバー(テーブルクロス等も含む)や、座布団、カーペット、カーテン、壁材、パーティション等の内装材料にも適用可能である。また、車、電車、船舶、飛行機等の内装材料に用いることもできる。
【0033】
玩具としては、ぬいぐるみ等の繊維製玩具が例示される。マスクとしては、一般市販品、医療用マスクが例示される。着衣としては、例えば、キャップ、ガウン、エプロン、ズボン、手術着、白衣、シューズ、シューズカバーなどの各種布製品が挙げられ、布製身回り品としては、例えば、ハンカチ、タオル、ネクタイ、めがね拭き、雑巾、布巾、包帯、ガーゼ、手袋等が挙げられる。
【0034】
上記以外の繊維製品としては服地、下着、裏地、シャツ、ブラウス、トレーニングパンツ、作業服、タオル地、スカーフ、靴下、ストッキング、セーター、履物、サポーターなどの衣料製品などが挙げられる。その他にも、モップなどの日用品が挙げられる。
【0035】
本発明の対象となるアレルゲンは、特に限定されないが、ダニや花粉等が挙げられる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、下記実施例は上記要件から選択した例示的構成であって、適宜上記記載に基づいて構成を変更しても、本発明の効果を得ることができる。したがって本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、実施例で採用した評価法は下記の通りである。
【0037】
[カルボキシル基測定方法]
開繊した試料1gを1mol/Lの塩酸水溶液50mlに浸漬、攪拌し、pH2.5以下とした後、取出してイオン交換水で水洗する。これにより、アルカリ中和されていたカルボン酸塩基がカルボキシル基に戻る。次いで脱水し、105℃の熱風乾燥機(ヤマト科学製DK400型)で乾燥させた後、裁断する。試料0.2gを精秤し[W1(g)]、ビーカーに入れる。次いで蒸留水100ml、0.1mol/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液15ml、塩化ナトリウム0.4gをビーカーに入れて15分以上攪拌した後、ろ過し、得られたろ過液を0.1mol/Lの塩酸水溶液で滴定[X1(ml)]し(尚、指示薬にフェノールフタレインを用いる)、下記式からカルボキシル基量[Y(mmol/g)]を算出する。
カルボキシル基量[Y(mmol/g)]=(0.1×15−0.1×X1)/W1
【0038】
[アレルゲン]
ヤケヒョウヒダニ(ホームサービス株式会社から購入)と、スギ花粉(和光純薬工業株式会社から購入)を用いた。
【0039】
[酵素免疫測定法]
上記アレルゲンを乳鉢ですり潰し、pH7.4のリン酸緩衝溶液に入れ、25℃で24時間アレルゲンを抽出する。ヤケヒョウヒダニの場合のアレルゲン濃度は169ng/mlとなり、スギ花粉では109ng/mlとなった。それぞれのアレルゲン溶液中に、該溶液10mlに対し繊維試料が0.5gとなるように(浴比1/20)加え、25℃で24時間放置し、放置後のアレルゲン濃度を測定した。なお、アレルゲン濃度は、ヤケヒョウヒダニの場合は、Der p検出キット(LDCアレルギー研究所製)で、スギ花粉の場合は、Cry j検出キット(LDCアレルギー研究所製)で、それぞれ定量した。
【0040】
実施例1
アクリロニトリル90質量%と酢酸ビニル10質量%とからなるアクリロニトリル系共重合体(30℃のジメチルホルムアミド中での極限粘度[n]=1.2)10質量部を、48質量%ロダンソーダ水溶液90質量部に溶解した紡糸原液を使用し、常法に従って紡糸、延伸(全延伸倍率:10倍)した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥および湿熱処理を施して原料繊維(単繊維繊度5.5dtex、繊維長51mm)を得た。
【0041】
この得られた原料繊維を、水加ヒドラジンを0.4質量%と、NaOHを2質量%含む水溶液中に90℃で150分間浸漬し、架橋構造導入処理と加水分解処理を同時に行い、Na型カルボキシル基を有する架橋繊維を得た。得られた架橋繊維のカルボキシル基量を前記した方法で定量したところ、1mmol/gであった。この架橋繊維を純水で洗浄した。次に、水を硝酸でpH7に調整した浴に、硝酸銀濃度が0.8質量%(Ag量としては、繊維に対して5.0質量%)となるように硝酸銀を添加してから、架橋繊維を加え、25℃で60分間、浸漬した。全繊維質量に対し5.0質量%のAgを含有するAg含有繊維が得られた。
【0042】
このAg含有繊維を水洗した後、pH12、50℃に調整したNaOH水溶液の中に入れ、60分間浸漬処理した。得られた繊維を純水で洗浄した後、油剤を付与し、さらに脱水処理、乾燥処理を施し、Ag含有架橋アクリル系繊維1を得た。
【0043】
繊維1のAg含有量は、前記したように、繊維を湿式分解した後に原子吸光法(島津製作所製:原子吸光分光度計AA−6800)によって測定された値から算出した。また、繊維1について、日立製作所製のSEMEDX−III タイプNを用いて、断面における元素分析を行った結果を図1に示す。繊維表面から2〜3μm(繊維径5.5dtex=24μm)までのところに、AgおよびNaが集中していることが確認できた。さらに、上記繊維1のSEM画像を図2に示す。繊維表面と繊維内側との2層構造に分かれていることがわかる。
【0044】
上記繊維1のアレルゲンに対する不活化効果を調べた。その結果、ヤケヒョウヒダニの場合のアレルゲン減少率は89%、スギ花粉の場合のアレルゲン減少率は86%であり、いずれも高い数値であることが確認できた。
【0045】
実施例2
上記Ag含有架橋アクリル系繊維1と、日本エクスラン工業社製アクリル繊維「K8」(単繊維繊度5.5dtex、繊維長51mm)とを質量比1:1で混繊したものを繊維2とした。すなわち、繊維全体としてのAg含有量は2.5質量%である。この繊維2では、スギ花粉の場合のアレルゲン減少率は68%であることが確認できた。
【0046】
比較例1
実施例1と同様にして、実施例1の原料繊維からカルボキシル基量が1mmol/gのNa型カルボキシル基含有架橋繊維を製造し、硝酸銀の濃度を0.2質量%(Ag量としては、繊維に対して0.9質量%)となるように硝酸銀を添加した以外は実施例1と同様にして、0.9質量%のAgを含有する架橋アクリル系繊維3を得た。この繊維3では、ヤケヒョウヒダニではアレルゲン減少率は36%、スギ花粉の場合のアレルゲン減少率は4%であり、実施例に比べて低い数値であった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1で得られた本発明のアレルゲン不活化繊維の表面からの距離とAgおよびNa含有量の関係を示すグラフである。
【図2】実施例1で得られた本発明のアレルゲン不活化繊維の断面のSEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基および/またはその塩を有する架橋繊維の表面にAgおよび/またはCuが繊維全体の質量の2.5質量%以上固着されてなることを特徴とするアレルゲン不活化繊維。
【請求項2】
上記架橋繊維は、アクリロニトリル由来のユニットを70質量%以上含有するアクリロニトリル系繊維に対し、ヒドラジンによる架橋処理、加水分解処理後に、Agおよび/またはCu含有化合物との接触処理がなされ、さらにアルカリ処理が施されたものである請求項1に記載のアレルゲン不活化繊維。
【請求項3】
加水分解処理後の架橋繊維の表面のカルボキシル基は、0.23mmol/g以上である請求項2に記載のアレルゲン不活化繊維。
【請求項4】
アレルゲン不活化繊維においては、上記カルボキシル基の少なくとも一部が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩のいずれか1種以上になっている請求項1〜3のいずれかに記載のアレルゲン不活化繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアレルゲン不活化繊維を製造する方法であって、Agおよび/またはCu含有化合物との接触処理により上記架橋繊維のカルボキシル基の少なくとも一部にAgイオンおよび/またはCuイオンを結合させた後、アルカリ処理によりAgおよび/またはCuを繊維表面に析出固着させることを特徴とするアレルゲン不活化繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のアレルゲン不活化繊維を含み、綿状、不織布状、織物状、紙状もしくは編物状であることを特徴とするアレルゲン不活化繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−70748(P2007−70748A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256889(P2005−256889)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】