説明

アンテナ用形状保持ケーブル、その製造方法およびその製造治具

【課題】アンテナ形状精度を向上させるアンテナ用形状保持ケーブル、その製造方法およびその製造治具を提案する。
【解決手段】所定距離置いてかしめ端子を配置し、ケーブルにアンテナ展開位置での張力に対応する所定張力を与えた状態で端子をかしめて結合する。所定張力は解析による展開位置での当該アンテナ用形状保持ケーブルの張力に等しい張力あるいはこの張力に、かしめによる変形に対応する所定のバイアス張力を加えた張力である。製造治具にはケーブルの一端を固定して他端で張力を与えながらかしめ端子をかしめる工具が設けられている。
【効果】アンテナ鏡面形状精度を高くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は金属メッシュで形成された電波反射面を展開位置で所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブル、その製造方法およびその製造治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人工衛星に搭載される展開型大型アンテナ反射鏡は、打上げ時にロケットフェアリング内部に搭載する必要から小さく折り畳んで収納した状態で軌道上まで運び、軌道上で大きく展開する方式がとられている。この分野では、収納効率を上げるために展開後の形状を保持する部材のうち、張力しかかからない部材の多くでケーブル材料が利用されている。
【0003】
特開平11−181688号公報に記載されている展開型アンテナにおいては、軌道上で展開される展開構造によって電波反射面である折り畳み可能な金属メッシュを展開して保持するようにしてある。展開構造は、金属メッシュに反射鏡面としてのパラボラ曲面を与えるために多数の形状保持ケーブルによって構成されたケーブルネットワークをも保持している。ケーブルネットワークは、その金属メッシュに縫込まれ鏡面の形状に抑え込むために三角形状に張り巡らされた鏡面側ケーブルネットワーク、その鏡面側ケーブルネットワークを裏側から引っ張るタイケーブル、及びそのタイケーブルの他端を支え、鏡面側と同様に三角形状に張り巡らされた背面側ケーブルネットワークから構成されている。打上げ時には折り畳まれてロケットフェアリング内に収納され、軌道上で展開構造によって展開されて金属メッシュと形状保持ケーブルに所定の張力が掛かってアンテナとして必要な形状に形成される。
【0004】
このように宇宙用の展開型アンテナにおいては、アンテナ展開時に正確な電波反射面が維持されるように多数の形状保持ケーブルからなるケーブルネットワークが必要であった。この形状保持ケーブルを製造するために、先ずケーブルを規定張力で引っ張った状態で指定寸法にスケール等を利用して切断し、ケーブルの両端部には他の形状保持ケーブル等に結合するためのかしめ端子をかしめにより取り付けていた。かしめ端子はケーブル端部に結合されるかしめスリーブ部と、かしめスリーブ部につながって結合穴を持つ結合部とを持つものである。
【0005】
【特許文献1】特開平11−181688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようなアンテナ用形状保持ケーブルを製作するためには、作業者がケーブルを規定張力で引っ張った状態でもう一人の作業者がケーブル端部かしめ端子をかしめ、更にもう一人がその両端のかしめ端子間の寸法が規定値内であることを確認しながら製造することになり、非常に作業性が悪く、仕上がり寸法精度及びばらつきが大きくなってしまう。
【0007】
また、上記形状保持ケーブル同士を結合する際、通常のかしめ端子では結合穴の同軸が出ていないため、組み上げた後の結合位置精度が悪くアンテナ鏡面精度の向上が図れなかった。
【0008】
従ってこの発明の目的は、アンテナ反射面を宇宙空間において精度良く張架し、アンテナ形状精度を向上させる、上述の課題を改善したアンテナ用形状保持ケーブル、その製造方法およびその製造治具を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のアンテナ用形状保持ケーブルの製造方法は、金属メッシュで形成された電波反射面を展開位置で所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブルであって、ケーブルの両端に、ケーブルがかしめられるかしめ部と、他の部材に結合するための結合穴を持つ結合部とを有する第1および第2のかしめ端子が固着されたアンテナ用形状保持ケーブルを製造するために、ケーブルの第1端に第1のかしめ端子を固着する工程と、第1のかしめ端子を結合穴を利用して固定する工程と、ケーブルの第2端を上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を貫通させて延長させる工程と、上記第2のかしめ端子を、上記第1のかしめ端子に対して上記結合穴間が所定の距離となるように配置する工程と、上記ケーブルの第2端を介して上記ケーブルに所定の張力を加えて伸長させる工程と、上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を伸長した上記ケーブルに対してかしめて固着する工程と、第1かしめ端子および上記第2かしめ端子の固定を外し、上記ケーブルの張力を除去する工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
上記所定の張力が、展開位置での当該アンテナ用形状保持ケーブルの張力に等しい張力であってもよい。
【0011】
上記所定の張力が、展開位置での当該アンテナ用形状保持ケーブルの張力に等しい張力に、かしめによる変形に対応する所定のオフセット張力を加えた張力であってもよい。
【0012】
上記バイアス張力が、次の工程(1)から(8)を備えた方法により求めた張力であってもよい。
(1) ケーブルの第1端に第1のかしめ端子を固着する工程と、
(2) 第1の端子を結合穴を利用して固定する工程と、
(3) ケーブルの第2端を上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を貫通させて延長させる工程と、
(4) 上記第2のかしめ端子を、上記第1のかしめ端子に対して上記結合穴間が所定の距離となるように配置する工程と、
(5) 上記ケーブルの第2端を介して上記ケーブルに展開位置における上記ケーブルの張力に対応する所定の張力を上記ケーブルに加えて伸長させる工程と、
(6) 上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を伸長した上記ケーブルに対してかしめて固着する工程と、
(7) 上記第2かしめ端子をかしめた上記ケーブルの張力を測定する工程と、
(8) 上記所定の張力と上記測定した張力との張力の差を上記バイアス張力として求める工程。
【0013】
上記ケーブルの張力を除去する工程の後、上記ケーブルを上記第2端および上記第2のかしめ端子の間で切断する工程を備えていてもよい。
【0014】
また、この発明によるアンテナ用形状保持ケーブルは、金属メッシュで形成された電波反射面を展開位置で所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブルであって、ケーブルの両端に、ケーブルがかしめられるかしめ部と、他の部材に結合するための結合穴を持つ結合部とを有する第1および第2のかしめ端子が固着されたアンテナ用形状保持ケーブルにおいて、上記第1および第2のかしめ端子の結合穴間の長さ寸法が、上記展開位置における当該アンテナ用形状保持ケーブルに作用する張力による伸びに対応した長さ寸法だけ短いことを特徴とするものである。
【0015】
更に、この発明によるアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具は、金属メッシュで形成された電波反射面を展開位置で所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブルであって、ケーブルの両端に、ケーブルがかしめられるかしめ部と、他の部材に結合するための結合穴を持つ結合部とを有する第1および第2のかしめ端子が固着されたアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具において、ベースと、上記ベース上に設けられ、上記第1のかしめ端子をかしめて上記ケーブルの一端を結合した状態で当該かしめ端子の結合穴と係合するかしめ端子固定部と、上記ベースに上記ケーブルの伸縮方向に移動可能に設けられ、上記ケーブルに展開位置における上記ケーブルの張力に対応する所定の張力を与える張力印加手段と、上記ベース上に設けられ、上記第2のかしめ端子を上記ケーブルに嵌合させた状態で、上記ケーブルの上記第2のかしめ端子の結合穴の位置を上記展開位置における上記アンテナ用形状保持ケーブルの長さ寸法に対応する所定の位置に保持するかしめ端子保持手段と、上記ケーブルに上記所定の張力が与えられ、上記第2のかしめ端子が上記所定の位置に保持された状態で、上記第2のかしめ端子を上記ケーブルに対してかしめるためのかしめ手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0016】
上記かしめ手段が、上記端子保持手段に固定できるかしめ工具であってもよい。
【0017】
上記端子保持手段が、上記第2のかしめ端子の上記結合穴に挿入される結合ピンと、上記第2のかしめ端子の上記かしめ部を受け入れて位置決めする位置決め部とを備えたものでもよい。
【0018】
上記かしめ端子固定部が、上記アンテナ用形状保持ケーブルの張力を測定する張力測定手段を備えたものでもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は、この発明のアンテナ用形状保持ケーブルを利用した宇宙用展開型大型アンテナ反射鏡1の例を示すものであり、アンテナ反射鏡1は、トラスなどで組まれた伸縮式あるいは折り畳み式の放射状に展開可能な展開構造2を備えている。展開構造2には反射鏡面を構成する折り畳み可能な金属メッシュ3と共に金属メッシュ3を所定のアンテナ形状に保持するための多数の形状保持ケーブル4で構成されたケーブルネットワーク5が結合されている。展開構造2が収縮あるいは展開したときには、ケーブルネットワーク5も金属メッシュ3と共に折り畳まれあるいは展開される。
【0020】
ケーブルネットワーク5は、アンテナ反射鏡1の電波反射面である金属メッシュ3の鏡面形状を所望の例えばパラボラ鏡面に保持するためのものであって、三角形状に張り巡らされた鏡面側ケーブルネットワーク6と、鏡面側ケーブルネットワーク6を裏側から引っ張るタイケーブル7と、タイケーブル7の他端を支え、鏡面側と同様に三角形状に張り巡らされた背面側ケーブルネットワーク8とで構成されている。
【0021】
このような展開型アンテナ反射鏡1は、打上げ時にはロケットフェアリング内に収納され、軌道上で展開構造2によって展開されて金属メッシュ3とケーブルネットワーク5の形状保持ケーブル4に所定の張力が掛かって必要な形状に形成される。
【0022】
図2には、ケーブルネットワーク5に使用される形状保持ケーブル4の概要を示し、図において、ポリイミド系繊維で構成したケーブル9の一端には、この一端が挿入されてケーブル9に対してかしめられるかしめ部10と、かしめ部10に連続していて、結合穴11を持つ結合部12とを有する第1のかしめ端子13が固着されている。かしめ端子13の結合穴11は、金属メッシュ3あるいは展開構造2等の中継端子14等の他の部材に固着されたピン15等(図3参照)に結合するためのものである。ケーブル9の他端にも第1のかしめ端子13と同様の第2のかしめ端子16がかしめにより固着されている。
【0023】
図3にはケーブルネットワーク5の各形状保持ケーブル4間の結合部の一例を示し、この部分は図1のEで示す円で囲んだ部分に相当するものである(形状保持ケーブル4は2本だけ示し、他は省略してある)。形状保持ケーブル4はそのいずれか一端のかしめ端子13あるいは16が中継端子14のピン15に嵌められ、中継端子14に支持された三角形の金属メッシュ3の頂点を支持している。
【0024】
図2に示すアンテナ用形状保持ケーブル4には、アンテナの展開位置である張力が掛かった状態での長さ寸法に極めて高い精度が要求される。このようなアンテナ用形状保持ケーブル4は、ケーブル9の両端に、ケーブル9がかしめられるかしめ部10と、他の部材に結合するための結合穴11を持つ結合部12とを有する第1および第2のかしめ端子13,16が固着されたアンテナ用形状保持ケーブル4であって、第1および第2のかしめ端子13、16の結合穴11間の長さ寸法が、展開位置における当該アンテナ用形状保持ケーブル4に作用する張力による伸びに対応した長さ寸法だけ短くされている。
【0025】
このようなアンテナ用形状保持ケーブル4は図4および5に示す製造治具20を用いて製造することができる。即ち、図4に示すアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具20は、金属メッシュ3で形成された電波反射面を展開位置で図1に示すような所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブル4を製造するために用いる製造治具である。
【0026】
アンテナ用形状保持ケーブルの製造治具20は、ベース21と、ベース21上に取付られ、アンテナ用形状保持ケーブル4の第1のかしめ端子13の結合穴11に挿入されるピン22を備えていて、ケーブル9の一端を第1のかしめ端子13を介して固定することができるかしめ端子固定部23を備えている。かしめ端子固定部23は、ベース21に固定された基台24と、基台24上に支持され、後に説明するようにアンテナ用形状保持ケーブル4の製造過程でケーブル張力を測定する張力測定装置25とを備えている。図示の例では張力測定装置25はロードセルであり、ケーブル9の端部がロードセルである張力測定装置25を介してかしめ端子固定部23の基台24に結合されているとも言うことができる。
【0027】
なお、図6に示すように、かしめ端子固定部23は、基台24上に張力測定装置25を設けずに、基台24に直接ピン22を設けてケーブル9の一端を固定するようにしたかしめ端子固定部と、図示のような張力測定装置25にケーブルを固定するようにしたかしめ端子固定部とを交換できるように構成して、これらを必要に応じて選択的に用いることもできる。
【0028】
ベース21にはまた、ベース21上でケーブルの伸縮方向に移動可能に設けられ、ケーブル9の展開位置における張力に対応する所定の張力をケーブル9与える張力印加手段26を備えている。図示の例では、張力印加手段26は、ベース上に設けたガイドレール27に沿って案内されて、図示してないネジジャッキ機構により移動させ得る基台28と、基台28上に設けられたロードセル等の張力測定装置29とを備えている。張力印加手段26の張力測定装置29にはケーブル9の延長端部30が結合金具31によって結合され、ケーブル9に張力を与えると共に張力を測定することができるようにしてある。
【0029】
ベース21上には更に、アンテナ用形状保持ケーブル4の第2のかしめ端子16のかしめ部10をケーブル9に沿って移動できるように緩く嵌合させた状態で、ケーブル9の第2のかしめ端子16の結合穴11の位置を展開位置(即ち展開時張力が掛かった状態)におけるアンテナ用形状保持ケーブル4の長さ寸法に対応する所定の位置に保持するかしめ端子保持手段32が設けられている。
【0030】
図示の例では、かしめ端子保持手段32はベース21上のガイドレール27に沿って案内されて移動できるように支持された基台33を備えており、基台33はアーム34を介して接続されたねじジャッキ機構35によってケーブル9の延びている方向に移動できるようにしてある。かしめ端子保持手段32はまた基台33の立ち上がり部分の頂面に立てたリーマーピン等のピン36をも備えている。このピン36は第2のかしめ端子16の結合部12の結合穴11に嵌合して第2のかしめ端子16を保持するものである。ピン36に保持された第2のかしめ端子16の向きを正確に位置決めするために、基台33の頂面にはピン36に対して整列し、第2のかしめ端子16を受け入れる溝37が設けられている。このように、かしめ端子保持手段32は、第2のかしめ端子16の結合穴11に挿入される結合ピン36と、第2のかしめ端子16のかしめ部10を受け入れて位置決めする位置決め部である溝37とを備えていると言うことができる。
【0031】
アンテナ用形状保持ケーブルの製造治具20は、更にケーブル9に所定の張力が与えられ、第2のかしめ端子16が所定の位置に保持された状態で、第2のかしめ端子16をケーブル9に対してかしめるためのかしめ手段38を備えている。かしめ手段38は、図7に示すように、顎部39とハンドル40とを持った市販のかしめ工具とすることができ、端子保持手段32の基台33の前面に植え付けた2本のピン41に、顎部39に設けた2つの位置決め穴を挿入して固定できるようにされている。このような位置決めを利用すれば、かしめの品質が一様になり、完成したアンテナ用形状保持ケーブル4の長さを正確にすることができる。
【0032】
この発明によるアンテナ用形状保持ケーブルの製造に当たっては、先ず製造すべきものよりも充分に長いケーブル9の第1端に第1のかしめ端子13をかしめにより固着し、第1のかしめ端子13を結合穴11を利用してアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具20のかしめ端子固定部23のピン22嵌合させて固定する。ケーブル9の第2端を第2のかしめ端子16のかしめスリーブ部10を摺動できるように貫通させて、かしめスリーブ部10から延びた延長端部30が形成されるように延長させる。
【0033】
ケーブル9に嵌めた第2のかしめ端子16を端子保持手段32のピン36に嵌合させて、このかしめ端子16の結合穴11と、かしめ端子固定部23に固定された第1のかしめ端子13の結合穴11との間が所定の距離となるように配置する。この所定の距離とは、アンテナの展開位置でその形状保持ケーブル4が張力下で採ることになる距離であり、予めコンピュータ解析などによって求めておくことができる。この距離の測定は例えば距離による電気抵抗の変化を利用して抵抗を測定するスライダックなどを用いて精密に約1/100mm程度の精度で行う。
【0034】
ケーブル9の第2端は第2のかしめ端子16を通り抜けてさらに延びて延長端部30となっているが、この延長端部30は張力印加手段26の張力測定装置29の結合金具31に連結され、張力印加手段26を図示してないねじジャッキ機構で駆動してケーブル9に所定の張力を与える。この張力は張力測定装置29によって測定し、ケーブル張力がアンテナ展開位置における当該ケーブル4の張力と等しい張力である。この張力により、ケーブル9には所定の張力が加えられて所定の長さだけ伸長される。
【0035】
このように、端子保持手段32によって保持された第2のかしめ端子16は、展開位置における張力によって伸長されたケーブル9に対して展開位置における端子間距離に対応する位置に正確に配置されることになる。この位置で第2のかしめ端子16のかしめスリーブ部10をかしめ手段38によってかしめて結合する。
【0036】
その後、張力の印加を止め、かしめ端子保持手段32を移動させてケーブル張力を除去し、ケーブル9の余分な延長端部30を除去するなどの処理をすればアンテナ用形状保持ケーブルが完成する。
【0037】
このような方法によってケーブル9の長さと張力を正確に設定してかしめた場合でも、かしめることによりケーブル9に若干の張力変化を生ずる。この張力変化は、かしめによりケーブル9の張力が第2のかしめ端子16に掛かり、図5に示す状態から図6に示すようにδだけ変形し、その分かしめ端子13および16を含むアンテナ用形状保持ケーブル4の結合穴11間の距離が伸びることに起因するのが主な原因である(なお、図5および6は理解の容易のためにデフォルメしてδを誇張して描いてある。)。また、かしめによるケーブル9の塑性変形によってもわずかな張力の減少が起こる場合もあるとも考えられる。このような張力変化の量は、小さなものではあるが、アンテナの鏡面精度に影響を及ぼすので、この発明では、次のようにして、張力変動量を低減させている。
【0038】
かしめの際、一般には、図8に張力変動計測値の分布を示すように、予め解析によって求めた所定ケーブル長および伸び率に対する所望の張力値よりも、張力が下がる方向に変化する。図8において、横軸はアンテナ用形状保持ケーブル4に掛かる張力Tを表し、縦軸はこの張力Tの特定の値が何回測定されたかの計測回数を表すものである。
【0039】
先ず、コンピュータ解析により、かしめ端子13および16の変形を考慮せずに得た解析張力T0(即ち展開位置での当該アンテナ用形状保持ケーブルの張力に等しい目標張力)を、図5に示すようにケーブル9の第2端の延長端部30を介してケーブル9に所定の張力としてケーブル9に加える。この状態で第2のかしめ端子16をかしめ手段38によってかしめ、張力印加手段26による張力を除去すると、図6のように第2のかしめ端子16が変形してケーブル9の張力が下がる。このかしめ後の張力低下は、かしめ端子固定部23のロードセル25によって測定できるものであり、図8には横軸上の解析張力T0よりも図で左側に実効張力T1として表されている。解析張力T0と実効張力T1との差がかしめ後張力変動量ΔT1である。
【0040】
このように、ケーブル9に与える張力として解析張力T0を用いて製造されたアンテナ用形状保持ケーブル4は、完成後に所定距離離れたピン間に張られたときには目標張力T0よりもかしめ後張力変動量ΔT1だけ小さな実効張力T1にしかならず、その分だけアンテナ鏡面の精度が悪くなるのである。
【0041】
従って、この発明によれば、アンテナ用形状保持ケーブル4の製造時にケーブルに加える所定の張力として、解析張力T0にかしめ後張力変動量ΔT1に対応するバイアス張力ΔT2をあらかじめ加えた合計の張力である設定張力T2を用いる。即ち、かしめ時にケーブル9に与える所定の張力を、アンテナ展開位置での当該アンテナ用形状保持ケーブル4の張力(解析張力T0)に等しい張力に、かしめによる変形に対応する所定のバイアス張力ΔT2を加えた張力である設定張力T2とする。これにより、かしめによる第2のかしめ端子16の変形によってケーブル張力Tにかしめ後張力変動量ΔT3(かしめ後張力変動量ΔT1あるいはバイアス張力ΔT2にほぼ等しい)があっても、ケーブル張力Tは設定張力T2からかしめ後張力変動量ΔT3だけ小さくなって、目標値である解析張力T0に極めて近い張力となる。後の説明から明らかなとおり、かしめ後張力変動量ΔT1、バイアス張力ΔT2およびかしめ後張力変動量ΔT3は、厳密には互いに等しい大きさではないが極めて近い値である。
【0042】
ケーブル9にかしめ後の張力Tの変動量を予測して予め附加する張力であるという意味で変動予測量でもあるバイアス張力ΔT2を得るためには、事前に統計的に有意な回数だけデータを取得し、その平均値を用いることが有効である。データ取得は先に説明したアンテナ用形状保持ケーブルの製造方法と同様の方法で製造し、そのケーブルの所定長さでの張力を測定することにより行う。
【0043】
即ち、アンテナ用形状保持ケーブルの製造治具20の端子固定部23のロードセルである張力測定装置25(端子固定部23が取り外しできて張力測定装置と交換可能になっている場合には交換した張力測定装置)に、ケーブル9の第1端に第1のかしめ端子13を固着して、第1のかしめ端子13を結合穴11を利用してピン22に固定する。ケーブル9の第2端側の延長端部30を第2のかしめ端子16のかしめスリーブ部10を貫通させて延長させ、第2のかしめ端子16を端子保持手段32上に取り付けて、第1のかしめ端子13に対して結合穴11間が所定の距離となるように配置する。ケーブル9の延長端部30を張力印加手段26に接続して、アンテナ展開位置におけるケーブル9の張力に対応する所定の張力である解析張力(目標値)T0をケーブル9に加えて伸長させ、その状態で、第2のかしめ端子16のかしめスリーブ部10を伸長したケーブル9に対してかしめて固着する。端子保持手段32の位置はそのまま維持して、ケーブル9に張力印加手段26によって加えていた解析張力T0を除去し、第1のかしめ端子13が端子固定部23に結合され、第2かしめ端子16が端子保持手段32に結合されたアンテナ用形状保持ケーブル4の実効張力T1を測定する。このようにして測定して得た実効張力T1と、目標値である解析張力T0との差T0−T1がかしめ後張力変動量ΔT1である。
【0044】
このようにして求めたかしめ後張力変動量ΔT1は、ケーブル長さ、ケーブル伸び率およびケーブル張力のパラメータによって左右されるため、必要なケーブルの条件毎にデータを取得する必要がある。これらのパラメータについて、変動の感度を確認したうえで、それぞれの範囲を設定し、各範囲の中心値で詳細なデータを取得する。
【0045】
測定値は、例えば図9のようになる。ケーブルの長さ、張力、伸び率に応じて、かしめ後張力変動量ΔT1を打ち消すためのバイアス張力ΔT2を設定する。
【0046】
また、図10に、ケーブル長に応じた変動量のグラフを示す。グループG1〜G4毎に、ケーブル長に応じた張力変動量の変化範囲(最小値〜最大値)に基づいて、その変動量の中心値am1〜am3が得られる。このam1〜am3は、同一グループ内での長さの中心値xm1〜xm3に対応する、バイアス張力ΔT2として用いられる。例えば、グループ2については、バイアス設定値がam2となる。
但し、実際には、ケーブル伸び率、ケーブル長さ、張力の3つのパラメータによって変化量が決まるため、各パラメータ毎に取得したデータに基づいて、各パラメータの最小値と最大値を範囲とするグループを設定し、その中央値に対応した変動量を打ち消す値を、バイアス張力ΔT2として設定するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明のアンテナ用形状保持ケーブルを用いた展開型アンテナの一例を示す斜視図である。
【図2】この発明のアンテナ用形状保持ケーブルを示す斜視図である。
【図3】この発明のアンテナ用形状保持ケーブルの結合部を示す斜視図である。
【図4】この発明のアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具を示す斜視図である。
【図5】この発明のアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具のかしめ前の状態を示す概略側面図である。
【図6】この発明のアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具のかしめ後の状態を示す概略側面図である。
【図7】この発明のアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具のかしめ手段を示す斜視図である。
【図8】この発明におけるかしめ前後の張力変動量を示すグラフである。
【図9】この発明におけるケーブルの長さ、張力、伸び率に応じた、かしめ後張力変動量を打ち消すためのバイアス張力の設定の一例を示す表である。
【図10】この発明におけるケーブル長に応じた変動量のグラフである。
【符号の説明】
【0048】
4 アンテナ用形状保持ケーブル、9 ケーブル、10 かしめスリーブ部、11 結合穴、12 結合部、13 第1のかしめ端子、16 第2のかしめ端子、20 アンテナ用形状保持ケーブルの製造治具、21 ベース、23 かしめ端子固定部、24 張力測定手段、26 張力印加手段、32 端子保持手段、36 結合ピン、37 位置決め部、38 かしめ手段、T ケーブル張力、T0 解析張力、T1 実効張力、T2 設定張力、ΔT1 かしめ後張力変動量、ΔT2 バイアス張力、ΔT3 かしめ後張力変動量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属メッシュで形成された電波反射面を展開位置で所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブルであって、ケーブルの両端に、ケーブルがかしめられるかしめスリーブ部と、他の部材に結合するための結合穴を持つ結合部とを有する第1および第2のかしめ端子が固着されたアンテナ用形状保持ケーブルを製造するために、
ケーブルの第1端に第1のかしめ端子を固着する工程と、
第1のかしめ端子を結合穴を利用して固定する工程と、
ケーブルの第2端を上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を貫通させて延長させる工程と、
上記第2のかしめ端子を、上記第1のかしめ端子に対して上記結合穴間が所定の距離となるように配置する工程と、
上記ケーブルの第2端を介して上記ケーブルに所定の張力を加えて伸長させる工程と、
上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を伸長した上記ケーブルに対してかしめて固着する工程と、
第1かしめ端子および上記第2かしめ端子の固定を外し、上記ケーブルの張力を除去する工程と
を備えたことを特徴とするアンテナ用形状保持ケーブルの製造方法。
【請求項2】
上記所定の張力が、展開位置での当該アンテナ用形状保持ケーブルの張力に等しい張力であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ用形状保持ケーブルの製造方法。
【請求項3】
上記所定の張力が、展開位置での当該アンテナ用形状保持ケーブルの張力に等しい張力に、かしめによる変形に対応する所定のバイアス張力を加えた張力であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ用形状保持ケーブルの製造方法。
【請求項4】
上記バイアス張力が、次の工程(1)から(8)を備えた方法により求めた張力であることを特徴とする請求項3記載のアンテナ用形状保持ケーブルの製造方法。
(1) ケーブルの第1端に第1のかしめ端子を固着する工程と、
(2) 第1のかしめ端子を結合穴を利用して固定する工程と、
(3) ケーブルの第2端を上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を貫通させて延長させる工程と、
(4) 上記第2のかしめ端子を、上記第1のかしめ端子に対して上記結合穴間がアンテナ展開位置における所定の距離となるように配置する工程と、
(5) 上記ケーブルの第2端を介して上記ケーブルに展開位置における上記ケーブルの張力に対応する所定の張力を上記ケーブルに加えて伸長させる工程と、
(6) 上記第2のかしめ端子のかしめスリーブ部を伸長した上記ケーブルに対してかしめて固着する工程と、
(7) 上記第2かしめ端子をかしめた上記ケーブルの張力を測定する工程と、
(8) 上記所定の張力と上記測定した張力との張力の差を上記バイアス張力として求める工程。
【請求項5】
上記ケーブルの張力を除去する工程の後、上記ケーブルを上記延長端部および上記第2のかしめ端子の間で切断する工程を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアンテナ用形状保持ケーブルの製造方法。
【請求項6】
金属メッシュで形成された電波反射面を展開位置で所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブルであって、ケーブルの両端に、ケーブルがかしめられるかしめスリーブ部と、他の部材に結合するための結合穴を持つ結合部とを有する第1および第2のかしめ端子が固着されたアンテナ用形状保持ケーブルにおいて、
上記第1および第2のかしめ端子の結合穴間の長さ寸法が、上記展開位置における当該アンテナ用形状保持ケーブルに作用する張力による伸びに対応した長さ寸法だけ短いことを特徴とするアンテナ用形状保持ケーブル。
【請求項7】
金属メッシュで形成された電波反射面を展開位置で所定のパラボラ形状に保持するために用いられるアンテナ用形状保持ケーブルであって、ケーブルの両端に、ケーブルがかしめられるかしめスリーブ部と、他の部材に結合するための結合穴を持つ結合部とを有する第1および第2のかしめ端子が固着されたアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具において、
ベースと、
上記ベース上に設けられ、上記第1のかしめ端子をかしめて上記ケーブルの一端を結合した状態で当該かしめ端子の結合穴と係合するかしめ端子固定部と、
上記ベースに上記ケーブルの伸縮方向に移動可能に設けられ、上記ケーブルに展開位置における上記ケーブルの張力に対応する所定の張力を与える張力印加手段と、
上記ベース上に設けられ、上記第2のかしめ端子を上記ケーブルに嵌合させた状態で、上記ケーブルの上記第2のかしめ端子の結合穴の位置を上記展開位置における上記アンテナ用形状保持ケーブルの長さ寸法に対応する所定の位置に保持するかしめ端子保持手段と、
上記ケーブルに上記所定の張力が与えられ、上記第2のかしめ端子が上記所定の位置に保持された状態で、上記第2のかしめ端子を上記ケーブルに対してかしめるためのかしめ手段と
を備えたことを特徴とするアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具。
【請求項8】
上記かしめ手段が、上記端子保持手段に固定できるかしめ工具であることを特徴とする請求項7記載のアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具。
【請求項9】
上記端子保持手段が、上記第2のかしめ端子の上記結合穴に挿入される結合ピンと、上記第2のかしめ端子の上記かしめスリーブ部を受け入れて位置決めする位置決め部とを備えたことを特徴とする請求項7あるいは8記載のアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具。
【請求項10】
上記かしめ端子固定部が、上記アンテナ用形状保持ケーブルの張力を測定する張力測定手段を備えたことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項記載のアンテナ用形状保持ケーブルの製造治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−199501(P2008−199501A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35096(P2007−35096)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人情報通信研究機構、「民間基盤技術研究促進制度/(超軽量衛星搭載用展開アンテナ設計技術の研究)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】