説明

アンテナ装置、及び、通信装置

【課題】高い生産効率を実現しながら、良好な接続性を維持した送受信回路の配置位置によって制限されることなく、結合用電極を自由に配置することが可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】ベース材4を介して、一方の面にグランド2が形成され、他方の面に信号が伝送される信号線3が形成されたプリント基板と、略平面状の導体からなり、対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極8と、プリント基板に形成された信号線3と結合用電極8とを、プリント基板の厚み方向に所定距離離間させて、電気的に接続する電極柱7とを備え、信号線3の一端には、信号の送受信処理を行う送受信装置と電気的に接続可能な接続用端子部9が形成されており、プリント基板のうち、少なくとも接続用端子部9が形成された端子形成部1aが可撓性を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向する一対の電極間での電磁界結合により情報通信を行うアンテナ装置、及び、このアンテナ装置が組み込まれた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータや小型携帯端末等の電子機器間で、音楽、画像等のデータを、ケーブルやメディアを介さずに無線伝送にて行うシステムが開発されている。このような無線伝送システムには、数cmの近距離で最大560Mbps程度の高速転送が可能なものがある。このような高速転送可能な伝送システムの中で、Transferjet(登録商標)は、通信距離が短いが盗聴される可能性が低く、伝送速度が速いという利点がある。
【0003】
Transferjet(登録商標)では、超近距離を隔てて対応する高周波結合器の電磁界結合によりなしえるもので、その信号品質が高周波結合器の性能に依存する。例えば、特許文献1に記載された高周波結合器は、一方の面にグランドを形成したプリント基板と、プリント基板のもう一方の面に形成したマイクロストリップ構造のスタブと、結合用電極と、この結合用電極とスタブを接続する金属線からなる。また、特許文献1に記載された通信装置では、高周波結合器を構成するプリント基板上に、送受信回路も形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−311816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された通信装置のように、表面実装により組み立てられる送受信回路と3次元的に構成された高周波結合器を同一プリント基板上に配置するのは、実装プロセスの観点から、工程が複雑で取り扱いにも注意を要するなど生産効率が悪くなってしまうという問題がある。また、特許文献1に記載された通信装置において、高周波結合器を別に作成し、送受信回路の配置位置によって制限されることなく結合用電極をより自由に配置して、送受信回路に接続する場合には、高周波結合器を送受信回路に接続するために、プリント基板以外に接続用のケーブル等の接続手段が新たに必要となり、部品や工程が増加してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、高い生産効率を実現しながら、送受信処理を行う送受信回路と良好な接続性を維持するとともに送受信回路の配置位置によって制限されることなく、結合用電極を自由に配置することが可能なアンテナ装置を提供することを目的とする。また、本発明は、このアンテナ装置が組み込まれた通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するための手段として、本発明に係るアンテナ装置は、対向する一対の電極間での電磁界結合により情報通信を行うアンテナ装置において、誘電体を介して、一方の面の導電層にグランド層が形成され、他方の面の導電層に信号が伝送される信号線が形成されたプリント基板と、略平面状の導体からなり、対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極と、上記プリント基板に形成された信号線と上記結合用電極とを、上記プリント基板の厚み方向に所定距離離間させて、電気的に接続する電極柱とを備え、上記信号線の一端には、信号の送受信処理を行う送受信装置と電気的に接続可能な接続用端子部が形成されており、上記プリント基板のうち、少なくとも上記接続用端子部が形成された端子形成部が、可撓性を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る通信装置は、対向する位置に配置された他の通信装置の電極間での電磁界結合により情報通信を行う通信装置において、誘電体を介して、一方の面の導電層にグランド層が形成され、他方の面の導電層に信号が伝送される信号線が形成されたプリント基板と、略平面状の導体からなり、対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極と、上記プリント基板に形成された信号線と上記結合用電極とを、上記プリント基板の厚み方向に所定距離離間させて、電気的に接続する電極柱と、上記信号線の一端に形成された接続用端子を介して電気的に接続され、信号の送受信処理を行う送受信処理部とを備え、上記プリント基板のうち、少なくとも上記接続用端子部が形成された端子形成部が、可撓性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、電極柱により信号線と結合用電極とが電気的に接続され、プリント基板のうち、少なくとも接続用端子部が形成された端子形成部が可撓性を有するので、高い生産効率を実現しながら、送受信処理を行う送受信回路と良好な接続性を維持するとともに送受信回路の配置位置によって制限されることなく、結合用電極を自由に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用されたアンテナ装置が組み込まれる通信システムの構成を示す図である。
【図2】本発明が適用されたアンテナ装置である第1の実施形態に係る高周波結合器の構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る高周波結合器の端子構造を示す図である。
【図4】高周波結合器を送受信回路にコネクタを介して接続した配置を表す簡略図である。
【図5】高周波結合器を送受信回路にコネクタを介して接続した他の配置を表す簡略図である。
【図6】高周波結合器を送受信回路に導電性接着剤により接続した配置を表す簡略図である。
【図7】第1の実施形態に係る高周波結合器の他の端子構造を示す図である。
【図8】高周波結合器を送受信回路に導電性接着剤により接続した別の配置を表す簡略図である。
【図9】高周波結合器間での通信状態を示す斜視図である。
【図10】高周波結合器間の結合強度の解析結果を示す周波数特性図である。
【図11】本発明が適用されたアンテナ装置である第2の実施形態に係る高周波結合器の構成を示す図である。
【図12】第2の実施形態に係る高周波結合器間の結合強度の解析結果を示す周波数特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0012】
<通信システム>
本発明が適用されたアンテナ装置は、対向する一対の電極間での電磁界結合により情報通信を行う装置であって、例えば図1に示すような、560Mbps程度の高速転送を可能とする通信システム100に組み込まれて使用されるものである。
【0013】
通信システム100は、2つのデータ通信を行う通信装置101、105から構成される。ここで、通信装置101は、電極103を有する高周波結合器102と、送受信回路104とを備える。また、通信装置105は、電極107を有する高周波結合器106と、送受信回路108とを備える。
【0014】
図1に示すように通信装置101、105のそれぞれが備える高周波結合器102、106を向かい合わせて配置すると、2つの電極103、107が1つのコンデンサとして動作し、全体としてバンドパスフィルタのように動作することによって、2つの高周波結合器102、106の間で、例えば560Mbps程度の高速転送を実現するための4〜5GHz帯域の高周波信号を効率よく伝達することができる。
【0015】
ここで、高周波結合器102、106がそれぞれ持つ送受信用の電極103、107は、例えば3cm程度離間して対向して配置され、電界結合が可能である。
【0016】
通信システム100において、例えば、高周波結合器102に接続された送受信回路部104は、上位アプリケーションから送信要求が生じると、送信データに基づいて高周波送信信号を生成し、電極103から電極107へ信号を伝搬する。そして、受信側の高周波結合器106に接続された送受信回路部108は、受信した高周波信号を復調及び復号処理して、再現したデータを上位アプリケーションへ渡す。
【0017】
なお、本発明が適用されるアンテナ装置は、上述した4〜5GHz帯域の高周波信号を伝達するものに限定されず、他の周波数帯の信号伝達にも適用可能であるが、以下の具体例では、4〜5GHz帯域の高周波信号を伝達対象として説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
このような通信システム100に組み込まれるアンテナ装置として、図2(A)に示すような第1の実施形態に係る高周波結合器110について説明する。
【0019】
すなわち、高周波結合器110は、フレキシブルプリント基板1と、結合用電極8と、フレキシブルプリント基板1上に形成された信号線3と結合用電極8とを電気的に接続する電極柱7とを備える。
【0020】
フレキシブルプリント基板1は、誘電体として機能するベース材4の両面に銅箔を配した可撓性を有する両面プリント基板で、一方の面の導電層をグランド2とし、もう一方の面の導線層にパターニング処理により信号線3が形成されたものである。
【0021】
フレキシブルプリント基板1のベース材4は、導電層よりも誘電性が優位な物質であり、例えば、25〜125μm厚の可撓性を有する誘電性材料で、特に、ポリイミド、液晶ポリマー、テフロン(登録商標)等の低誘電率で、誘電損失の小さい材料からなるものが好ましい。
【0022】
結合用電極8は、略平面状の導体からなり、対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となるものである。このような結合用電極8は、上述したように略平面状の導体で、円形、四角形、多角形等の形状とすることができ、材料としては銅、黄銅、ステンレス等の剛性を有する良導体を用いることが好ましい。
【0023】
電極柱7は、フレキシブルプリント基板1の厚み方向Hに所定距離離間させて、フレキシブルプリント基板1に形成された信号線3と、結合用電極8とを電気的に接続する。このような電極柱7は、結合用電極8と同様な剛性を有する良導体で、結合用電極8と信号線3とそれぞれ半田等の導電性を有する接合材で接合される。
【0024】
このような接続材による電気的信頼性、機械的強度を向上させるために、信号線3のライン幅を被接合部分で電極柱7の径よりも広げて導電性材料で十分な接合強度が得られるようにすることが好ましく、更に接合された部分の周りを有機接着剤等で補強する等の処置を施すようにすることも好ましい。
【0025】
電極柱7は、結合用電極8と別々に作製して接続しても、結合用電極8の一部を加工して結合用電極8と一体物として作製してもよい。また、図2(A)中で示される高周波結合器110において、電極柱7は一本としているが、結合用電極8を支える役割も担うので強度を向上させるために複数本としてもよい。また、電極柱7は結合用電極8の中心付近に接合するが、複数本で用いる場合も結合用電極8の中心付近に接合することが好ましい。例えば、図2(B)に示すように、電極柱を複数本、具体的には2本用いるとき、電極柱71、72と信号線3との接続状態を考慮すると、信号線3の線幅が狭く線幅内に収まらない場合があるが、この場合は信号線3のうち、接合部3bの線幅を部分的に広くして接合する。
【0026】
以上のような構成からなる高周波結合器110において、フレキシブルプリント基板1上に形成された信号線3の構成について具体的に説明する。信号線3は、その一端には、信号の送受信処理を行う送受信回路部と電気的に接続可能な接続用端子部9が、フレキシブルプリント基板1の端子形成部1aに形成されており、他端が、スルーホール5によりグランド2と短絡処理されている。例えば、信号線3は、スルーホール5に設けた導電性メッキ膜あるいは導電性ペースト等によりベース材4を貫通してグランド2に接合されることで、短絡処理がなされる。なお、グランド2との接続は電気的に短絡するためのものであり、貫通バンプ等の導電性の柱により信号線3とグランド2とを接続してもよい。
【0027】
また、図2中に示す高周波結合器110では、通信感度を高めるため、信号線3のうち、スルーホール5により短絡処理されている端部から電極柱7との接続点までの距離が、通信周波数の略4分の1波長の整数倍離れるようにした共振ライン3aとして機能する。
【0028】
このように、共振ライン3aは、他の高周波結合器が備える結合用電極と、当該高周波結合器110の結合用電極8との結合効率を上げるために用いるもので、上述したようにグランド2に接続することでショートスタブとなり、この部分では電圧が0となるため、この部分からライン上で通信周波数の略4分の1波長の距離に電極柱7が接続されると、その接続点で電圧が最大となり結合効率が良好となる。このようにして、共振ライン3aは、高周波結合器間の結合効率を上げる役割を担う。
【0029】
なお、図2に示す高周波結合器110では、信号線3の共振ライン3a側の端部をスルーホール5を介したショートスタブとしているが、開放端としたオープンスタブとしてもよい。但し、このオープンスタブの場合も共振ライン3aと電極柱7の接合部で電圧が最大となるように、共振ライン3aの長さを、上述したように調整する必要がある。また、図2に示す高周波結合器110では、スルーホール5を介してショートスタブされた共振ライン3aがフレキシブルプリント基板1上に1つ形成されているが、複数用いるようにしてもよく、これによりより強い共振を起こすことができる。
【0030】
また、信号線3のライン形状は、必ずしも直線状にする必要はなく曲率を持たせた曲線状としたり、図2に示されるように折り曲げて用いることもできる。
【0031】
接続用端子部9は、上述したように、信号線3の一方の端部に形成されており、可撓性を有するフレキシブルプリント基板1上の端子形成部1aに形成されているので、高周波結合器110に接続される送受信回路の基板との接続が容易となる。
【0032】
ここで、接続用端子部9の端子形状は、送受信回路部との接続方法に合わせて設計される。接続用端子部9の端子形状は、良好な接続性を実現する観点から、例えば図3に示すような、コネクタによる接続に対応した端子構造が好ましい。
【0033】
図3(A)に示す具体例に係る接続用端子部29は、GSG(グランド/シグナル/グランド)配置のコネクタに対応したもので、グランドと信号線を同一平面に配置するため、コネクタとの電気的嵌合用に信号端子50とグランド端子51と、補強板20を設けている。
【0034】
信号端子50は、フレキシブルプリント基板21の片面に構成された信号線23の端部に、線幅をコネクタ接続用に調整することで形成される。
【0035】
グランド端子51は、フレキシブルプリント基板21の一方の面に形成されたグランド22から、スルーホール25の内側に形成された導電性材料を介して、電気的に接続されている。
【0036】
補強板20は、接続用端子部29に機械的強度を持たせるためにグランド22に接着されたもので、コネクタへの抜き差しを容易にするとともに、嵌合の安定性、信頼性を保つことができる。補強板20の材料としては、一般に硬質の樹脂、セラミクス等が用いられる。
【0037】
以上のような構成からなる接続用端子部29は、コネクタピンとの良好な接続性を実現するため、信号端子50とグランド端子51の線幅を一定にすると、接続用端子部29で特性インピーダンスが信号線23と大きく異なり、インピーダンスミスマッチにより高周波結合器の結合効率を著しく低下してしまう場合がある。このような場合には、図3(B)に示すように、必要に応じて、信号端子50直下のグランド22に切欠き27を適切な割合で設けることで、接続用端子部29の特性インピーダンスを調整し高周波結合器の効率低下を防ぐことができる。このようにして作製された高周波結合器110は、送受信回路部に配置されたコネクタを介して送受信回路部と接続される。具体的な接続例を図4、及び、図5に示す。
【0038】
図4は、高周波結合器110と、コネクタ111を介して高周波結合器110と接続された送受信回路基板112とが同一方向を向いて配置される場合を示している。また、図5は、高周波結合器110と、コネクタ111を介して高周波結合器110と接続された送受信回路基板112とが、背中合わせに配置される場合を示している。これら2つの配置から明らかなように、高周波結合器110は、可撓性を有するフレキシブルプリント基板1を用いて構成されているため、自由に折り曲げて使うことができ、設置場所に対する自由度が極めて高い。
【0039】
このように、本発明が適用された高周波結合器110は、電極柱7により、フレキシブルプリント基板1の一方の面に形成された信号線3と、結合用電極8とが電気的に接続され、接続用端子部9が可撓性を有するフレキシブルプリント基板1に形成されているので、高い生産効率を実現しながら、送受信処理を行う送受信回路と良好な接続性を維持するとともに送受信回路の配置位置によって制限されることなく、結合用電極を自由に配置することができる。
【0040】
なお、高周波結合器110において、上述したように自由に折り曲げて使うことができ、設置場所に対する自由度を高めることを実現するには、信号線が実装されるプリント基板のうち、少なくとも接続用端子部9が形成された端子形成部1aが、可撓性を有する基板上に形成されていればよい。例えば、リジットフレキシブル基板のように、エポキシ樹脂などの硬質な材料とフレキシブルな材料とを複合した基板を用いて、リジット基板上に電極柱などを実装して、フレキシブル基板上に接続端子部を実装するようにしてもよい。このようにリジットフレキシブル基板も用いることができるが、高周波結合器110は、プリント基板として、全て可撓性を有するフレキシブルプリント基板1を用いることで、部材を共通化して製造工程を簡略化することができる点で特に好ましい。
【0041】
また、高周波結合器110では、上述したように接続用端子部9をコネクタ接続用の端子構造とする以外にも、例えば異方性導電フィルム(ACF)、異方性導電ペースト(ACP)等の導電性ペーストを用いた手法により接合することができる。特に、このような導電性ペーストを用いた場合は、端子の剛性を確保する必要がないので補強板20を省いて薄型化を図ることができる点で好ましい。
【0042】
このような導電性ペーストを用いた接合方法では、一般に接合面を対向させて接続するため、上述した図4に示した配置と同様に、送受信回路基板112と高周波結合器110を同一方向を向いて配置させる場合は、図6に示すように、送受信回路基板112の実装面112aと反対の底面112bを接合部113として接続する必要がある。
【0043】
また、送受信回路基板112側で、その実装面と反対の面に接続用端子を実装できない、あるいは高周波結合器110の配置の問題から接合部113を、送受信回路基板112の実装面112aにしたい場合は、図7に示すような接続用端子部39を用いることで、端子面の表裏切り替えを行なうことができる。
【0044】
接続用端子部39は、次のような端子構造を有する。すなわち、接続用端子部39は、図7(A)及び、図7(B)に示すように、信号端子60とグランド端子61をグランド32をパターニングすることで作製し、信号端子60はスルーホール35内の導体により、グランド32に対向する面に形成された信号線33と繋がっている。接続用端子部39においても、高周波結合器110の結合効率をあげるためには特性インピーダンスを合わせるのが好ましく、信号端子60とグランド端子61の間隔は、この特性インピーダンスを考慮して決める。特に、接続用端子部39は、コプレナー構造の端子構造であり、端子間の間隔が狭くなるので特性インピーダンスの整合が困難な場合は、信号線33と同一面にグランド32とスルーホールにより接合されるグランド端子を設けて特性インピーダンスを調整することができる。また、端子間の間隔が信号端子60及びグランド端子61の端子幅に比べて狭すぎる場合は、ACF等での接続では接着材の埋設部分が少なくなり十分な接続強度を確保できなくなるので、信号端子60及びグランド端子61を二股構造等にして、接着材の埋設部分を増すようにすることが好ましい。
【0045】
このような端子構造を有する接続用端子部39は、図8に示すように、送受信回路基板112の実装面112aに用意される接続部113と対向した接続を可能とし、コネクタを用いた場合と同様な配置をなすことができる。
【0046】
次に、第1の実施形態に係る高周波結合器110の性能を調べるために、アンソフト社製の3次元電磁界シミュレータHFSSを用いて通信特性の解析を行なった。
【0047】
解析モデルは、図2(A)の構成の高周波結合器110として、具体的な条件は、次のようなものを用いた。すなわち、フレキシブルプリント基板1は、ベース材4に50μmの液晶ポリマーを用いた両面銅箔基板、結合用電極8は直径10mmの薄銅板、電極柱7は直径0.4mm、高さ2.4mmの鉄製柱を想定している。なお、接続用端子部9は0.5mmピッチの低背コネクタに嵌合する構造としている。
【0048】
このように構成された2つの高周波結合器110a、110bを、図9に示すように対向させて、一方の高周波結合器110aの端子に入力信号を加え、他方の高周波結合器110bの端子で信号を受けた場合の結合強度を解析した。ここで、結合強度は、Sパラメータの透過特性S21を用いて評価した。
【0049】
図10は、図9の対向する高周波結合器の結合用電極間の対向距離を、それぞれ15mm、100mmとした場合の結合強度S21の周波数特性を示したものである。
【0050】
例えば、TransferJet(登録商標)の通信では4.48GHzを中心とした周波数が用いられるが、この周波数帯において、対向距離15mmの結合状態ではS21が−18dBから−20dBであり通信周波数近傍での平坦な周波数特性が得られている。また、対向距離100mmの非結合状態では、S21が−42dBであり通信遮断性が得られている。
【0051】
この周波数特性から明らかなように、第1の実施形態に係る高周波結合器110は、100mm程度離れた状態で混信することがないようにしつつ、15mm程度の近距離で電磁界結合を利用した情報通信が可能である。
【0052】
<第2の実施形態>
次に、本発明が適用されたアンテナ装置の他の実施形態として、図11に示すような第2の実施形態に係る高周波結合器120の構成について説明する。
【0053】
高周波結合器120は、上述した第1の実施形態に係る高周波結合器110と同様に、フレキシブルプリント基板1と、結合用電極8と、フレキシブルプリント基板1上に形成された信号線3と結合用電極8とを電気的に接続する電極柱7とを備える。これに加えて、高周波結合器120は、結合用電極8を保持する固定部材として上部基板16を備える。
【0054】
ここで、第1の実施形態に係る高周波結合器110では、結合用電極8が細い電極柱7を介して保持されるために強度が弱く、完成品を移動させる際に注意が必要であったのに対して、本実施形態に係る高周波結合器120は、上部基板16により結合用電極8が強固に保持されるので、結合用電極8の物理的な強度を高めて、衝撃や加圧などによる変形を防止することができる。すなわち、高周波結合器120の移動にかかわる取扱が容易となる。
【0055】
なお、本実施形態に係る高周波結合器120は、上部基板16を有する以外は、上述した第1の実施形態に係る高周波結合器110が備える構成と同様なので、図11中において同様の符号を付し、各要素についての説明を省略するものとする。
【0056】
このような構成からなる高周波結合器120では、上部基板16により結合用電極8が保持されるので、結合用電極8と信号線3とが例えば、次のような接続方法によって接続される。
【0057】
すなわち、高周波結合器120では、結合用電極8を、上部基板16の片面、すなわち、図11に示す上面16aにメッキ処理等を施すことにより形成する。続いて、高周波結合器120では、結合用電極8の中心を上部基板16と共に貫通穴あけ処理によりスルーホール7aを形成する。このスルーホール7aが、信号線3の所定の位置に合わさるようにして、上部基板16のもう一方の面、すなわち図11の下面16bをフレキシブルプリント基板1に接着させる。そして、このスルーホール7aを介したメッキ処理あるいは導電性ペースト等により形成された電極柱7が、結合用電極8と信号線3を電気的に接続する。
【0058】
なお、上記の接続方法は、電気的接続方法の一例であって、例えばメッキ処理されたスルーホール7aを有する上部基板16のスルーホール部に、結合用電極8と接続された針状の電極柱7を挿入しハンダあるいは導電性ペーストにより信号線3と接続するなどの方法を用いるようにしてもよい。また、図11に示す高周波結合器120では、結合用電極8が上部基板16の上面16aに直接形成しているが、片面に銅箔などの導電層が形成されたフレキシブル基板の導電層に結合用電極8を形成して上面16aに貼り付ける構造としてもよいし、上述した図2に示すように、導電性金属薄板を結合用電極8として上面16aに貼り付ける構造としてもよい。すなわち、高周波結合器120では、結合用電極8と信号線3と、誘電体基板である上部基板16を挟んで所定距離離間させた状態で電気的に接続できれば、いずれの接続方法を用いてもよい。
【0059】
上部基板16の材料としては、特に比誘電率の低い材料を用いることが好ましい。例えば、図12は、上部基板16の比誘電率を1.5、2.0に設定して、それ以外の条件は図11で得られた結果と同様にして、解析した場合の結合強度S21の周波数特性を表したものである。この解析結果から、上部基板16の比誘電率を高くすると、波長短縮効果により、結合強度がピークを示す周波数が低周波側にシフトするとともに結合強度S21が小さくなることがわかる。ピーク周波数は共振ライン3aや他の寸法を変更することで、4.48GHz付近となるように調整可能であるが、上部基板16の比誘電率が高い場合の結合強度S21のレベルを、上部基板16の比誘電率が低い場合のレベルと同等まで高めることはできない。
【0060】
この結果から明らかなように、上部基板16には、できるだけ比誘電率の低い材料を用いるのが好ましく、例えば比誘電率が有効数字1桁で2台のテフロン、液晶ポリマー等が候補と挙げられるが、特に結合強度を向上させたい場合は、低誘電材料であるフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリイミド等を発泡させて作製する比誘電率が有効数字1桁で1台の多孔質材料を用いるのが好ましい。
【0061】
以上のように、第2の実施形態に係る高周波結合器120では、結合用電極8と信号線3とが、上部基板16を挟んで所定距離離間されて電気的に接続されるので、通信特性を保持しつつ、結合用電極8の物理的な強度を高めて、衝撃や加圧などによる変形を防止することができる。
【符号の説明】
【0062】
1、21 フレキシブルプリント基板、1a 端子形成部、2、22、32 グランド、3、23、33 信号線、3a 共振ライン、4 ベース材、5、7a、25、35 スルーホール、7 電極柱、8 結合用電極、9、29 接続用端子部、16 上部基板、16a 上面、16b 下面、20 補強板、50、60 信号端子、51、61 グランド端子、100 通信システム、101、105 通信装置、102、106、110、110a、110b、120 高周波結合器、103、107 電極、104、108 送受信回路、111 コネクタ、112 送受信回路基板、112a 実装面、112b 底面、113 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の電極間での電磁界結合により情報通信を行うアンテナ装置において、
誘電体を介して、一方の面の導電層にグランド層が形成され、他方の面の導電層に信号が伝送される信号線が形成されたプリント基板と、
略平面状の導体からなり、対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極と、
上記プリント基板に形成された信号線と上記結合用電極とを、上記プリント基板の厚み方向に所定距離離間させて、電気的に接続する電極柱とを備え、
上記信号線の一端には、信号の送受信処理を行う送受信装置と電気的に接続可能な接続用端子部が形成されており、
上記プリント基板のうち、少なくとも上記接続用端子部が形成された端子形成部が可撓性を有することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
上記プリント基板全面が可撓性を有することを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
上記結合用電極は、上記プリント基板の信号線が形成された面と、該プリント基板の厚み方向に誘電体からなる固定部材を挟んで、所定距離離間されていることを特徴とする請求項1又は2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
上記信号線は、上記接続用端子部が形成されていない方の端部が、上記電極柱との接続点を基準として通信周波数の略4分の1波長の整数倍離れた位置で開放又は上記グランド層と短絡処理されていることを特徴とする請求項1乃至3のうち何れか1項記載のアンテナ装置。
【請求項5】
上記接続用端子部の端子構造は、コネクタ接続用の端子構造であることを特徴とする請求項1乃至4のうち何れか1項記載のアンテナ装置。
【請求項6】
上記接続用端子部の端子構造は、異方性導電フィルム、又は、異方性導電ペースト接続用の端子構造であることを特徴とする請求項1乃至5のうち何れか1項記載のアンテナ装置。
【請求項7】
対向する位置に配置された他の通信装置の電極間での電磁界結合により情報通信を行う通信装置において、
誘電体を介して、一方の面の導電層にグランド層が形成され、他方の面の導電層に信号が伝送される信号線が形成されたプリント基板と、
略平面状の導体からなり、対向する位置に配置された他のアンテナ装置の電極と電磁界結合されて通信可能となる結合用電極と、
上記プリント基板に形成された信号線と上記結合用電極とを、上記プリント基板の厚み方向に所定距離離間させて、電気的に接続する電極柱と、
上記信号線の一端に形成された接続用端子部を介して電気的に接続され、信号の送受信処理を行う送受信処理部とを備え、
上記プリント基板のうち、少なくとも上記接続用端子部が形成された端子形成部が可撓性を有することを特徴とする通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−160294(P2011−160294A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21518(P2010−21518)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】