説明

アンテナ装置

【課題】簡易な構成で電磁波の放射方向を90度以上の広範囲に変更できるアンテナ装置を提供する。
【解決手段】電磁波を伝播し端面から電磁波を電磁波の伝播方向に空中に放射する中空誘電体線路12と、中空誘電体線路12の中空部に挿入され中空誘電体線路12の周壁面からの電磁波の漏れ量を増大する電磁波漏れ量増大手段とを含み、電磁波漏れ量増大手段は表面形状が中空誘電体線路12を伝播する電波の伝播方向に周期的に変化する周期的構造体13である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に適用可能なアンテナ装置に係り、特に、簡易な構造であっても電磁波の放射方向を90度以上の広範囲に変更できるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放送局の番組制作で使用されるワイヤレスカメラシステムのカメラと受信装置間の映像信号の授受、無線LANによるデータの授受等大容量の無線伝送を行う場合、情報伝送量の大きいミリ波帯が適用される。
【0003】
ミリ波帯無線伝送システムに搭載されるアンテナは、使用環境によって送信アンテナと受信アンテナの相対的位置が大きく変化する場合、使用環境に応じて電磁波の放射方向を広範囲に変更できるものであることが望ましい。
【0004】
また、アンテナをミリ波帯無線伝送装置自体に取り付けるためには、スペースが限られている場合が一般的であるので、アンテナは小型かつ簡易な構成であることも必要である。
【0005】
小型かつ簡易な構成のミリ波帯用のアンテナとしては、表面波アンテナまたは漏れ波アンテナ等がある。代表的な表面波アンテナとしては、誘電体棒で構成される誘電体ロッドアンテナを挙げることができ、代表的な漏れ波アンテナとしては、周期構造を有する誘電体線路で構成される誘電体漏れ波アンテナを挙げることができる。
【0006】
誘電体ロッドアンテナは、誘電体ロッドアンテナの端部から誘電体ロッドアンテナの電波の伝播方向に電波を放射し、漏れ波アンテナは誘電体線路の電波の伝播方向と異なる方向に電波を放射する。
【0007】
そして、電波の放射方向を変更できる誘電体ロッドアンテナ装置および漏れ波アンテナ装置が既に提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0008】
特許文献1に示されている従来の誘電体ロッドアンテナ装置は、図6に示すように、誘電体ロッドアンテナ191に沿って反射部材192を設置することにより、電波の放射方向を誘電体ロッドアンテナ191の軸に対して約15度傾けることが可能となる。
【0009】
また、特許文献2に示されている従来の漏れ波アンテナ装置は、図7に示すように、地板導体201と誘電体基板202とがスペーサ203を介して平行に配置された伝播路を備える。
【0010】
誘電体基板202の上面には複数の金属ストリップ204が所定間隔ごとに設置されている。さらに、誘電体基板202の上方には所定間隔を隔てて電波の伝播方向と直角に金属板205が配置されているが、金属板205は電波の伝播方向と垂直な面内において所定角度内で回転可能である。
【0011】
電波は金属板205から金属ストリップ204の方向に向かって伝播し、金属ストリップ204から漏洩して空中に放射される。
【0012】
そして、金属板205の傾きを変更することにより、電波の放射方向を制御することが可能となる。
【特許文献1】特開平06−244628号公報([0007]、図1)
【特許文献2】特開2003−338706号公報([0031]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
多量の情報を安定に伝送するためには受信電力と雑音電力の比(C/N比)を大きくすることが必要となる。そして、C/N比を大きくする方法の1つとして、受信アンテナの方向に放射される送信電力をできる限り大きくすることが考えられる。
【0014】
従って、ワイヤレスカメラシステムに適用するアンテナにあっては、使用環境によって送信アンテナと受信アンテナの相対位置が変化するので、電波放射方向を広範囲に変更できることが必要となる。
【0015】
ワイヤレスカメラを屋内で使用するときには見通しを確保するためには受信アンテナをワイヤレスカメラの上方に設置し、屋外で使用するときには受信アンテナをワイヤレスカメラに対して水平に設置する場合が多いことを考慮すると、使用環境に応じて電波放射方向を90度以上変更できることが望ましい。
【0016】
しかしながら、特許文献1に開示された誘電体ロッドアンテナには電波放射方向を15度以上変更することが困難であるという課題があった。
【0017】
さらに、特許文献2に開示された誘電体漏れ波アンテナには使用環境に応じて電波放射方向を変更できるものの、やはり、変更範囲が限られているという課題があった。
【0018】
表面波アンテナと漏れ波アンテナの両方を使用して電波放射範囲を拡大することも可能であるが、それぞれのアンテナに電波を供給する給電回路を切り換え可能な構成とする必要があり、構造が複雑化することは回避できない。
【0019】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたものであって、簡易な構成で電磁波の放射方向を90度以上の広範囲に変更できるアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の発明に係るアンテナ装置は、電磁波を伝播し、端面から前記電磁波を空中に放射する中空誘電体線路と、前記中空誘電体線路の中空部に挿入され前記中空誘電体線路の周壁面からの前記電磁波の漏れ量を増大する電磁波漏れ量増大手段とを含む構成を有している。
【0021】
この構成により、簡易な構成で電磁波の放射方向を広範囲に変更できることとなる。
【0022】
第2の発明に係るアンテナ装置は、前記電磁波漏れ量増大手段が、前記中空誘電体線路を伝播する前記電磁波の伝播方向に周期的に変化する周期的構造体である構成を有している。
【0023】
この構成により、周期的構造体を中空誘電体線路に挿入しない場合と挿入した場合とで電磁波の放射方向を90度以上変更できることとなる。
【0024】
なお、前記中空誘電体線路は、誘電体製の中空円柱または中空角柱であってもよい。
【0025】
また、前記中空誘電体線路は、2枚の誘電体製の平板を対向配置した中空伝送路であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、中空電装線路と、電波漏れ量増大手段とを設けることにより、簡易な構成で電磁波の放射方向を90度以上の広範囲に変更できるという効果を有するアンテナ装置を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係るアンテナ装置の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、実施形態においては、電磁波はミリ波帯の電波とする。
(第1の実施形態)
本発明に係るアンテナ装置の第1の実施形態を図1および図2に示す。
【0028】
即ち、本発明に係るアンテナ装置の第1の実施形態は、電磁波を伝播し端面から電磁波を電磁波を空中に放射する中空誘電体線路12と、中空誘電体線路12の中空部に挿入され中空誘電体線路12の周壁面からの電磁波の漏れ量を増大する電磁波漏れ量増大手段とを含む。
【0029】
そして、中空誘電体線路12は、図1(a)の斜視図および図1(b)の断面図に示すように、円筒形であり、中空誘電体線路12の一端12Dは導波管11に接続されている。
【0030】
なお、中空誘電体線路12の一端12Dは、テーパ状に形成されており、反射波の発生を抑制するように構成されている。また、中空誘電体線路12の他端12Uは空中に開口している。
【0031】
電磁波漏れ量増大手段は、図2の斜視図(a)および側面図(b)に示すように、表面形状が中空誘電体線路12を伝播する電波の伝播方向に周期的に変化する周期的構造体13である。
【0032】
図2は、周期的構造体13が表面に周期的にコルゲートが形成された誘電体製または金属製の円柱である場合を示しているが、表面に所定周期で金属リングまたは金属ストリップが貼付された誘電体製の円柱または角柱、もしくは周壁上に所定周期でスリットが形成された金属製または誘電体製の中空体であってもよい。
【0033】
あるいは、周期的構造体13は、伝播軸方向に誘電体と金属とを交互に配置した円柱であっても、誘電体円柱に周期的にコルゲートが形成された金属製円柱を埋め込んだものであっても、誘電体円柱に周期的に金属製円柱を埋め込んだものであってもよい。
【0034】
さらに、周期的構造体13は、挿入したときに中空誘電体線路12からの電波漏れ量を増大するものであればよく、周期的構造体13の外周は中空誘電体線路12の内周に接触しても接触しなくてもよい。
【0035】
なお、中空誘電体線路12および周期的構造体13の断面形状は円形に限られることはなく、角形であってもよい。
【0036】
次に、本発明に係るアンテナ装置の第1の実施形態の動作を説明する。
【0037】
導波管11を伝播してきた電波は、中空誘電体線路12の一端12Dを介して円筒形中空誘電体線路12に給電され、中空誘電体線路12の中空部を伝播する。
【0038】
中空誘電体線路12の中に周期的構造体13を挿入していない状態では、電波は中空誘電体線路12の中空部を伝播し、中空誘電体線路12の他端12Uから中空誘電体線路12の軸方向(Q)に放射される。
【0039】
なお、中空誘電体線路12の周壁からの電波の漏洩を完全に無とすることはできないが、中空誘電体線路12の直径を電波の波長に対して十分大きく選ぶことで漏洩量を低減することが可能となる。
【0040】
次に、中空誘電体線路12の中に周期的構造体13を図3に示すように矢印R方向に挿入すると、図4の斜視図(a)および断面図(b)に示す状態となる。
【0041】
導波管11から給電された電波は、周期的構造体13により摂動が与えられ、中空誘電体線路12の周壁からの電波の漏れ量が増大する。
【0042】
すると、中空誘電体線路12は漏れ波アンテナとして機能し、電波は中空誘電体線路12の周壁から中空誘電体線路12の軸方向(Q)とは異なる方向Q’に放射される。
【0043】
中空誘電体線路12が円筒形状である場合には、導波管11の励振モードがTE01モードあるいはTM01モードであれば、電波は中空誘電体線路12の軸方向(Q)に対して無指向に放射される。
【0044】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、中空誘電体線路に周期的構造体を挿入したときと中空誘電体線路から周期的構造体を引き抜いたときとで、電波の放射方向を90度以上の広い範囲で変更することができる。
(第2の実施形態)
本発明に係るアンテナ装置の第2の実施形態を図5に示す。
【0045】
即ち、第2の実施形態のアンテナ装置は、中空誘電体線路12が、2枚の誘電体平板21および22が所定距離を隔てて対向配置された構成を有する中空伝送路である。
【0046】
そして、電波漏れ量増大手段は、誘電体平板21および22の間に挿入可能な両面に周期構造を有する周期的構造体23である。
【0047】
即ち、周期的構造体23は、図5に示す両面にコルゲートが形成された誘電体板または金属板であってもよいが、伝播軸方向に誘電体と金属とを交互に配置した平板であってもよく、両面に所定周期で金属ストリップが貼付された誘電体平板、もしくは、所定周期のスリットが形成された誘電体平板あるいは金属板であってもよい。
【0048】
また、周期的構造体23は、誘電体平板に周期的にコルゲートが形成された金属板を埋め込んだものであっても、誘電体平板に周期的に金属板を埋め込んだものであってもよい。
【0049】
次に、第2の実施形態の動作を説明する。
【0050】
周期的構造体23が中空伝送路に挿入されていない場合は、導波管24から給電された電波は中空伝送路を伝播し、中空伝送路の先端から中空伝送路の軸方向(Q)に放射される。
【0051】
周期的構造体23を中空伝送路に挿入した場合は、導波管24から給電され、中空伝送路を伝播する電波は、周期的構造体23により摂動を受け、中空伝送路の誘電体平板21および22から漏洩する。
【0052】
誘電体平板21および22から漏洩した電波は、中空伝送路の軸方向(Q)と相違する方向(Q’)に漏洩し、空中に放射される。
【0053】
以上説明したように、第2の実施形態によれば、中空伝送路に周期的構造体を挿入したときと中空伝送路から周期的構造体を引き抜いたときとで、電波の放射方向を90度以上の広い範囲で変更することができる。
【0054】
上記に説明したように、本発明に係るアンテナ装置にあっては、周期的構造体を中空誘電体線路の中空部に挿入したときには中空誘電体線路全体が周期構造体となるので、従来の漏れ波アンテナに比べて漏れ波定数が大きくなる。従って、中空誘電体線路および周期構造体の電波伝播方向の長さを短くしても、漏れ波による放射が十分得られるのでアンテナ装置の小型化が可能となるだけでなく、ビーム幅を広くすることが可能となる。
【0055】
さらに、本発明に係るアンテナ装置にあっては、導波管の励振モードや周期的構造体の周期を変更することで、放射パターンや放射方向を変更することが可能となる。
【0056】
上記の実施形態では、電磁波はミリ波帯の電波であるとしたが、ミリ波帯以外の電波であってもよい。
【0057】
従来のアンテナでは指向性を制御するためには移相器等が必要となり、特にミリ波帯の場合は構造が複雑となるだけでなく給電損失が増大することを回避できなかったが、本発明に係るアンテナ装置によれば、ミリ波帯の場合でも小型かつ簡易な構造で、かつ給電損失の少ないアンテナとなる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上のように、本発明に係るアンテナ装置は、簡易な構成で電磁波の放射方向を90度以上の広範囲に変更できるという効果を有し、アンテナとして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るアンテナ装置の第1の実施形態の斜視図および断面図
【図2】本発明に係るアンテナ装置の第1の実施形態の電波漏れ量増大手段の斜視図および側面図
【図3】本発明に係るアンテナ装置の第1の実施形態の中空誘電体線路と電波漏れ量増大手段の斜視図
【図4】本発明に係るアンテナ装置の第1の実施形態の動作を説明するための斜視図および断面図
【図5】本発明に係るアンテナ装置の第2の実施形態の斜視図
【図6】従来のアンテナ装置の斜視図
【図7】従来のアンテナ装置の斜視図
【符号の説明】
【0060】
11 導波管
12 中空誘電体線路
13 周期的構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を伝播し、端面から前記電磁波を空中に放射する中空誘電体線路と、
前記中空誘電体線路の中空部に挿入され、前記中空誘電体線路の周壁面からの前記電磁波の漏れ量を増大する電磁波漏れ量増大手段とを含むアンテナ装置。
【請求項2】
前記電磁波漏れ量増大手段が、前記中空誘電体線路を伝播する前記電磁波の伝播方向に周期的に変化する周期的構造体である請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記中空誘電体線路が、誘電体製の中空円柱または中空角柱である請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記中空誘電体線路が、2枚の誘電体製の平板を対向配置した中空伝送路である請求項2に記載のアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−96873(P2007−96873A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284689(P2005−284689)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】