説明

アンテナ

【課題】広帯域において動作可能でありながら、その一部の帯域への干渉を回避したアンテナを実現する。
【解決手段】アンテナ1は、誘電体基板10と放射素子11と給電線12と地板13とを備えている。給電線12は、折返部が滑らかな曲線を描くように折り返された幅が不均一な帯状導体であり、誘電体基板10を介して互いに重なり合う給電線12と地板13とによって、BRF(Band Reject Filter)として機能するマイクロストリップラインが構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)に使用されるマイクロ波帯(3.1GHz以上10.6GHz以下)など広い動作帯域を有するアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、UWBに使用されるマイクロ波帯など広い動作帯域を有する広帯域アンテナに関する需要が高まっている。ところが、このマイクロ波帯は、他の無線通信規格、例えば、無線LAN(IEEE802.11a)に使用される5GHz帯を含む。したがって、このような広帯域アンテナには、マイクロ波帯をカバーする広帯域性に加えて、他の無線通信規格に使用される帯域に対して干渉しない低干渉性が強く求められる。
【0003】
このような要求を満たすアンテナとしては、例えば、特許文献1に記載のパッチアンテナが知られている。特許文献1に記載のパッチアンテナにおいては、放射素子にスタブを形成したり、地板に段差(ステップ)を形成したりすることによって、広帯域化が図られている。また、放射素子にスリットを形成することによって、無線LANへの干渉を低減している。
【0004】
UWBシステムの無線局用のBRF(Band Reject Filter)としては、特許文献2に記載のものが知られている。特許文献2に記載のBRFは、特定の帯域(干渉を回避すべき帯域)における反射係数を高めるべく、マイクロストリップラインの幅を不均一にしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−535372(公表日:2008年 8月28日)
【特許文献2】特開2010− 50653(公開日:2010年 3月 4日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のパッチアンテナにおいては、干渉を回避すべき帯域に応じたスリットを設計する必要があるが、この設計が困難であるという問題があった。具体的には、干渉を回避すべき帯域に対応する波長の半分程度の長さを有するスリットを設ければよいという指針が示されているものの、スリットを折り曲げると期待どおりの反射係数が得られず、期待どおりの反射係数を得るためには試作を繰り返さなければならないという問題があった。一方、干渉を回避すべき帯域に対応する波長の半分程度の長さを有する直線的なスリットを設けようとすると、放射素子の大型化を招来してしまうという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載のBRFは、マイクロストリップラインを折り返しても期待どおり反射係数が得られるという好ましい性質を有しているものの、これをアンテナと一体化する方法は知られていなかった。また、アンテナとフィルタとを一体化した場合に、干渉を回避すべき帯域外においてアンテナ単体の場合と同程度の特性を維持する設計手法は知られていなかった。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、広帯域において動作可能でありながら、その一部の帯域への干渉を回避したアンテナであって、従来よりも設計が容易で小型のアンテナを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るアンテナは、誘電体基板と、上記誘電体基板の一方の主面に形成された放射素子及び給電線と、上記誘電体基板の他方の主面に形成された地板とを備えたアンテナであって、上記給電線は、折返部が滑らかな曲線を描くように折り返された幅が不均一な帯状導体であり、上記誘電体基板を介して互いに重なり合う上記給電線と上記地板とによって、BRF(Band Reject Filter)として機能するマイクロストリップラインが構成されている、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、上記給電線と上記地板とによって構成されるマイクロストリップラインがBRF(Band Reject Filter)として機能するので、広帯域において動作可能でありながら、その一部の帯域への干渉を回避したアンテナを実現することができる。この際、上記マイクロストリップラインは、上記地板の上に構成されているので、干渉を回避するためにアンテナの大型化を招来する虞はない。また、干渉を回避することができる帯域は、上記給電線の各部の幅によって決まり、上記給電線の折り返し方よって大きく変動することはないので、設計の自由度が高い。
【0011】
本発明に係るアンテナにおいて、上記給電線は、その幅の最大値がW[mm]であり、かつ、その中心軸が半径R[mm]の円弧を描くように折り返されており、比R/Wが2.5以上である、ことが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、干渉を回避すべき帯域以外の周波数におけるS11を、比R/Wが2.5以下のときのS11よりも小さくすることができる。
【0013】
本発明に係るアンテナにおいて、上記比R/Wが3.0以上である、ことが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、干渉を回避すべき帯域以外の周波数におけるS11を−5dBよりも小さくすることができる。
【0015】
本発明に係るアンテナにおいて、上記比R/Wが3.5以上である、ことが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、干渉を回避すべき帯域以外の周波数におけるS11を−10dBよりも小さくすることができる。
【0017】
本発明に係るアンテナにおいて、上記放射素子は、矩形状の矩形部と半楕円状の半楕円部とからなる釣鐘型に成形されており、上記矩形部の幅wに対する上記矩形部の高さhの比h/wが0.5以上0.75以下である、ことが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、干渉を回避すべき帯域以外の周波数におけるVSWRを3.5以下に抑えることができる。
【0019】
本発明に係るアンテナにおいて、上記放射素子は、矩形状の矩形部と半楕円状の半楕円部とからなる釣鐘型に成形されており、上記半楕円部の短軸bに対する上記半楕円の長軸aの比b/aが0.5以上1.0以下である、ことが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、干渉を回避すべき帯域以外の周波数におけるVSWRを3.5以下に抑えることができる。
【0021】
本発明に係るアンテナは、上記放射素子と上記給電線との間に介在する矩形状の整合部を更に備えており、上記整合部の高さhに対する上記整合部の幅w’の比w’/hが2である、ことが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、干渉を回避すべき帯域以外の周波数におけるVSWRを4以下に抑えることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るアンテナにおいては、誘電体基板を介して互いに重なり合う給電線と地板とによって、BRF(Band Reject Filter)として機能するマイクロストリップラインが構成されている。したがって、広帯域において動作可能でありながら、その一部の帯域への干渉を回避したアンテナであって、従来よりも干渉を回避する構造の設計が容易で小型のアンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るアンテナの構造を示す図である。(a)は、アンテナを上面から見た平面図、(b)は、アンテナを下面から見た平面図、(c)は、アンテナの断面図である。
【図2】図1に示すアンテナが備えている給電線の構造を示す図である。(a)は、給電線を上面から見た平面図であり、(b)は、給電線の直線部の拡大図であり、(c)は、給電線の折返部の拡大図である。
【図3】図1に示すアンテナが備えている給電線と地板とにより構成されるマイクロストリップラインの線素に等価な等価回路を示す回路図である。
【図4】図1に示すアンテナのVSWR値の周波数特性を示すグラフである。(a)は、給電線として幅が均一で直線的な帯状導体を用いた場合のVSWR特性を示し、(b)は、給電線として幅が不均一で折り返された帯状導体(図2に示すもの)を用いた場合のVSWR特性を示す。なお、点線は理論値(計算値)に対応し、実線は、実測値(測定値)に対応する。
【図5】R=4mmのとき、R=5mmのとき、及び、R=6mmのときの|S11|の周波数特性を示すグラフである。
【図6】Rを給電線の幅Wの最大値で除したものをR/Wとし、1GHz以上5GHz以下、及び、6GHz以上11GHz以下の帯域における|S11|の最大値をRを変えながらプロットしたグラフである。
【図7】Zakharov-Shabat方程式(3)及び(4)をRunge-Kutta法を用いて解くことにより得たq(x)から算出した|S11|の周波数特性と(点線)、及び、実測した|S11|の周波数特性(実線)とを示すグラフである。
【図8】図1に示すアンテナが備えている放射素子の構造を示す平面図である。
【図9】図8に示す放射素子の第1矩形部の形状によって、VSWR値の周波数特性がどのように変化するかを示したグラフである。
【図10】図8に示す放射素子の半楕円部の形状によって、VSWR値の周波数特性がどのように変化するかを示したグラフである。
【図11】図8に示す放射素子の第2矩形部の形状によって、VSWR値の周波数特性がどのように変化するかを示したグラフである。
【図12】図1に示すアンテナのXY平面内での放射パターンを示すグラフである。(a)は、4GHzにおける放射パターンを示し、(b)は、5.5GHzにおける放射パターンを示し、(c)は、8GHzにおける放射パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態に係るアンテナについて、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0026】
なお、本実施形態に係るアンテナは、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)に使用されるマイクロ波帯(3.1GHz以上10.6GHz以下)から、無線LAN(IEEE802.11a)に使用される5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)を除いた帯域を動作帯域とするものである。ただし、本発明は、第1の帯域から第2の帯域を除いた帯域で動作するアンテナ一般に適用できるものであって、第1の帯域と第2の帯域との組み合わせは、上述したマイクロ波帯と5GHz帯との組み合わせに限定されるものではない。
【0027】
また、以下の説明では、板状部材を構成する6つの面のうち、最大の面積をもつ2つの面を「主面」と記載し、主面を除く4つの面を「端面」と記載する。また、2つの主面を互いに区別する必要があるときには、一方の主面を「上面」と記載し、他方の主面を「下面」と記載する。なお、「上面」及び「下面」との記載は、2つの主面を互いに区別するためのものであり、板状部材の配置を限定するものではない。
【0028】
〔アンテナの構造〕
本実施形態に係るアンテナ1の構造について、図1を参照して説明する。図1(a)は、アンテナ1を上面から見た平面図であり、図1(b)は、アンテナ1を下面から見た平面図であり、図1(c)は、A−A’断面(図1(a)参照)におけるアンテナ1の断面図である。
【0029】
アンテナ1は、図1(a)〜図1(c)に示すように、誘電体基板10と、誘電体基板10の一方の主面(以下「上面」と記載)に形成された放射素子11及び給電線12と、誘電体基板10の他方の主面(以下「下面」と記載)に形成された地板13とを備えている。アンテナ1は、給電線12の端点12b、及び、地板13の端辺13aに設けられた給電点から高周波電流の供給を受け、モノポールアンテナとして機能する。
【0030】
誘電体基板10は、矩形状の主面を有する板状の誘電体である。本実施形態においては、主面の長辺の長さWZを100mm、主面の短辺の長さWYを60mm、厚みを1.27mm、誘電率を10.2としている。なお、以下の説明においては、図1(a)〜図1(c)に示すとおり、誘電体基板10の厚み方向をX軸方向、誘電体基板10の主面の短辺方向をY軸方向、誘電体基板10の主面の長辺方向をZ軸方向とする。
【0031】
放射素子11は、誘電体基板10の上面のZ軸正方向側を占めるWa×WY(本実施形態においてはWa=20mm)の矩形領域内に形成された、釣鐘状の導体箔である。一方、給電線12は、誘電体基板10の上面のZ軸負方向側を占める(Wb+Wc)×WY(本実施形態においてはWb=5mm、Wc=75mm)の領域内に形成された、幅が不均一な帯状の導体箔である。放射素子11と給電線12とは、一枚の導体箔として一体成形されている。
【0032】
地板13は、誘電体基板10の下面のZ軸負方向側を占める(Wb+Wc)×WYの矩形領域全体を覆う矩形状の導体箔である。すなわち、地板13は、給電線12と重なり合い、かつ、放射素子11とは重なり合わない。上述した給電線12は、地板13と誘電体基板10を介して重なり合うことにより、地板13と共にマイクロストリップラインを構成する。
【0033】
放射素子11は、UWBに使用されるマイクロ波帯(3.1GHz以上10.6GHz以下)において動作するよう設計されている。一方、給電線12(より正確には、給電線12のうち、誘電体基板10の上面のZ軸負方向側を占めるWc×WYの領域内に形成された部分)と地板13とにより構成されるマイクロストリップラインは、無線LAN(IEEE802.11a)に使用される5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)を選択的に反射するBRF(Band Reject Filter)として機能するように設計されている。このため、アンテナ1は、マイクロ波帯(3.1GHz以上10.6GHz以下)から5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)を除いた帯域で動作する。
【0034】
〔給電線の構造及び機能〕
給電線12の構造について、図2を参照して説明する。図2(a)は、給電線12を上面から見た平面図であり、図2(b)は、給電線12の直線部の拡大図であり、図2(c)は、給電線12の折返部の拡大図である。なお、図2(a)に示されているのは、給電線12のうち、BRFとして機能させる部分、すなわち、誘電体基板10の上面のZ軸負方向側を占めるWc×WYの領域内に形成された部分であり、その全長は227mmである。
【0035】
給電線12は、図2(b)〜図2(c)に示すように、幅が不均一な帯状導体であり、図2(a)に示すように、折返部が滑らかな曲線を描くように折り返されている。給電線12の幅を不均一にしているのは、給電線12と地板13とにより構成されるマイクロストリップラインを、5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)を選択的に反射するBRFとして機能させ、かつ小面積化させるためである。一方、折返し構造(メアンダ構造)を採用しているのは、給電線12を、Wc×WY=75mm×60mmのスペースの中に配置するためである。なお、227mmは、1GHzにおける導波モードの2波長分に相当し、給電線12と地板13とにより構成されるマイクロストリップラインをBRFとして機能させるうえで、十分であると考えられている長さである。また、給電線12の幅W(z)は、最大で2mmである。
【0036】
給電線12の形状は、以下のように表現することができる。すなわち、図2(a)に示すように、給電線12は、(1)放射素子11に接続されたZ軸負方向に伸びる直線部12cと、(2)直線部12cの放射素子11側と反対側の端点に接続された四分円状の折返部12dと、(3)折返部12dの直線部12c側と反対側の端点に接続されたY軸負方向に伸びる直線部12eと、(4)直線部12eの折返部12d側と反対側の端点に接続された半円状の折返部12fと、(5)折返部12fの直線部12e側と反対側の端点に接続されたY軸正方向に伸びる直線部12gと、(6)直線部12gの折返部12f側と反対側の端点に接続された半円状の折返部12hと、(7)折返部12hの直線部12g側と反対側の端点に接続されたY軸負方向に伸びる直線部12iと、(8)直線部12iの折返部12h側と反対側の端点に接続された半円状の折返部12jと、(9)折返部12jの直線部12i側と反対側の端点に接続されたY軸正方向に伸びる直線部12kと、(10)直線部12kの折返部12j側と反対側の端点に接続された半円状の折返部12lと、(11)折返部12lの直線部12k側と反対側の端点に接続されたY軸負方向に伸びる直線部12mと、(12)直線部12mの折返部12l側と反対側の端点に接続された四分円状の折返部12nと、(13)折返部12nの直線部12m側と反対側の端点に接続されたZ軸負方向に伸びる直線部12oと、により構成されている。
【0037】
ここで、注目すべきは、給電線12を構成する各折返部が、滑らかな曲線を描くように折り返されている点、より具体的に言えば、円弧(四分円又は半円)を描くように折り返されている点である。このため、給電線12の各折返部に角が生じることがない。したがって、角に集中した高次モードの電流が発生し、この高次モードに起因する放射によって、特性が劣化することが少ない。なお、各折返部において給電線12が描く円弧の半径Rの設定については、参照する図面を代えて後述する。
【0038】
次に、給電線12の設計方法、すなわち、幅W(z)の決定方法、及び、折り返しパターンの決定方法について説明する。ここでは、給電線12の中心軸が描く曲線の弧長パラメータをzとし、その曲線上の点P(z)における給電線12の幅(その曲線の接線に直交する方向の幅)をW(z)とする(図2(b)及び図2(c)参照)。給電線12の設計方法は以下の4つのステップにより構成される。ステップ1〜2は、幅W(z)の決定方法であり、ステップ3〜4は、折り返しパターンの決定方法である。
【0039】
ステップ1:所望の反射係数r(ω)(反射係数の周波数依存性)が得られるように給電線12上の各点におけるインピーダンスZ(z)を決める。
【0040】
ステップ2:給電線12上の各点におけるインピーダンスZ(z)がステップ1にて決めた値になるよう給電線12の幅W(z)を決める。
【0041】
ステップ3:多重反射を軽減するように給電線12の端部を構成する直線部12oの長さを決める。
【0042】
ステップ4:折返部の半径R(図2(c)参照)、及び、折り返し回数Nを決める。
【0043】
ここで、ステップ4を実施する前にステップ3を実施しているのは、以下の理由による。すなわち、直線部を短くして折返部を給電点に接近させた場合、外部装置(例えば同軸ケーブル)と給電線12との境界で生じるインビーダンス不整合に起因する反射と折返部における反射とが重畳した多重反射が起こる。そこで、給電線12の端部を構成する直線部12oの長さを予め確保して多重反射の発生を抑え込んだ上で、給電線12の残りの部分の折り返し構造を設計する。
【0044】
ステップ1におけるインピーダンスZ(z)の決定方法について、図3を参照して説明する。図3は、給電線12と地板13とにより構成されるマイクロストリップラインの線素に等価な等価回路を示す回路図である。同図において、zは、給電線12の中心軸(曲線)の弧長パラメータを表し、L(z)は、給電線12上の点P(z)における単位長さあたりのインダクタンスを表し、C(z)は、給電線12上の点P(z)における単位長さあたりのキャパシタンスを表す。
【0045】
時間項exp(−jωt)をもつ電圧V及び電流Iに対する電信方程式は、(1)式及び(2)式により与えられる。
【0046】
【数1】

【0047】
【数2】

【0048】
電信方程式(1)及び(2)から、Zakharov-Shabat方程式(3)及び(4)が導出される。
【0049】
【数3】

【0050】
【数4】

【0051】
なお、Zakharov-Shabat方程式(3)及び(4)の導出に際しては、変数変換(5)及び(6)を用いた。
【0052】
【数5】

【0053】
【数6】

【0054】
反射係数r(ω)を(7)式のように定義すると、その逆フーリエ変換R(x)は(8)式のように与えられる。r(ω)は、上半平面に極をもたない点に留意されたい。
【0055】
【数7】

【0056】
【数8】

【0057】
Zakharov-Shabat方程式(3)及び(4)の解q(x)と、Gel'fand-Levitan-Marchenko型の積分方程式(9)及び(10)の解A2(x,y)との間には、(11)式により示される関係がある。したがって、Zakharov-Shabat方程式(3)及び(4)の解q(x)を得るためには、積分方程式(9)及び(10)を解き、その解A2(x,y)から(11)式に従ってq(x)を求めればよい。
【0058】
【数9】

【0059】
【数10】

【0060】
【数11】

【0061】
インピーダンスZ(x)は、q(x)から(12)式に従って求めることができる。
【0062】
【数12】

【0063】
給電線12と地板13とにより構成されるマイクロストリップラインがBRFとして機能することは、図4から確認することができる。図4(a)は、給電線12として幅が均一で直線的な帯状導体を用いた場合のVSWR値の周波数特性を示すグラフであり、図4(b)は、給電線12として図2(a)に示す幅が不均一で折り返された帯状導体を用いた場合のVSWR値の周波数特性を示すグラフである。
【0064】
給電線12として幅が均一で直線的な帯状導体を用いた場合、図4(a)に示すように、マイクロ波帯(3.1GHz以上10.6GHz以下)全域に亘ってVSWR値が3.5以下になるのに対して、給電線として幅が不均一で折り返された帯状導体を用いた場合、図4(b)に示すように、5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)においてVSWR値が跳ね上がる。すなわち、給電線12と地板13とにより構成されるマイクロストリップラインが、5GHz帯を反射するBRFとして機能していることが確かめられる。
【0065】
次に、上述したステップ4において、各折返部にて給電線12が描く円弧の半径Rの設定方法について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、R=4mmのとき、R=5mmのとき、及び、R=6mmのときの|S11|の周波数特性を示すグラフである。図6は、Rを給電線12の幅W(z)の最大値で除したものをR/Wとし、1GHz以上5GHz以下、及び、6GHz以上11GHz以下の帯域における|S11|の最大値をRを変えながらプロットしたものである。
【0066】
R/Wを2.5よりも小さくすると、5GHz帯以外の帯域でも|S11|maxが−5dB以上の高い値に張り付いてしまうのに対し、R/Wを2.5以上にすると、R/Wが大きくなるのに従って|S11|maxが次第に低下することが図6から分かる。すなわち、5GHz帯以外の帯域で良好なアンテナ特性を得るためには、少なくともR/Wを2.5以上にすることが好ましい。例えば、R=4mm(R/W=2)とした場合、5GHz帯以外にも|S11|>5dBとなるピークが点在していることが図5からも見て取れる。
【0067】
なお、R/Wが大きくなるのに従って|S11|maxが次第に低下するのは、給電線12を構成する直線部間の結合が次第に弱くなると共に、折返部で生じる想定外の反射(設計時に想定されていない反射)が軽減されるので、設計どおり5GHz帯でのみ選択的な反射が生じるようになるためであると考えられる。
【0068】
更に、R/Wを3.0以上にすれば、5GHz帯以外の帯域における|S11|を−5dBよりも小さくすることができ、R/Wを3.5以上にすれば、5GHz帯以外の帯域における|S11|を−10dBよりも小さくすることができることが図6から分かる。すなわち、5GHz帯以外の帯域でより良好なアンテナ特性を得るためには、R/Wが3.0以上であることが好ましく、R/Wが3.5以上であることがより好ましい。
【0069】
最後に、Zakharov-Shabat方程式(3)及び(4)を用いた設計の有効性を、図7により確認する。図7において、点線は、Zakharov-Shabat方程式(3)及び(4)をRunge-Kutta法を用いて解くことにより得たq(x)から算出した|S11|を示し、実線は、実測した|S11|を示す。計算値(点線)と測定値(実線)との間の良好な一致が図7から見て取れる。
【0070】
〔放射素子の構造及び機能〕
放射素子11の構造について、図8を参照して説明する。図8は、放射素子11を上面から見た平面図である。
【0071】
放射素子11は、図8に示すように、第1矩形部11aと、半楕円部11bと、第2矩形部11cとにより構成される。
【0072】
第1矩形部11aは、幅2a(本実施形態においては2a=15mm)、高さh(本実施形態においてはh=10mm)の矩形状の導体箔である。半楕円部11bは、長軸半径a(本実施形態においてはa=7.5mm)、短軸半径b(本実施形態においてはb=7.5mm)の楕円を長軸で2等分して得られる半楕円状の導体箔であり、その長軸が第1矩形部11の幅2aの端辺に接続されている。放射素子11と給電線12との間に介在する第2矩形部11cは、放射素子11と給電線12との間のインピーダンス整合を図るためのものであり、本実施形態においては、第2矩形部11cとして幅W’(本実施形態においてはW’=4mm)、高さh’(本実施形態においてはh’=2mm)の矩形状の導体箔を用いている。
【0073】
図9は、第1矩形部11aの形状によって、VSWR値の周波数特性がどのように変化するかを示したグラフである。ここでは、第1矩形部11aの形状を規定するパラメータとして、比h/aを取っている。
【0074】
図9によれば、1.0≦h/a≦1.5のときに、マイクロ波帯(3.1GHz以上10.8GHz以下)全域に亘ってVSWR値を3.5以下に抑え得ることが分かる。なお、第1矩形部11aの幅をw(=2a)とすれば、上記範囲は、0.5≦h/w≦0.75と言い換えることができる。
【0075】
図10は、半楕円部11bの形状によって、VSWR値の周波数特性がどのように変化するかを示したグラフである。ここでは、半楕円部11bの形状を規定するパラメータとして、比b/aを取っている。
【0076】
図10によれば、0.5≦b/a≦1.0のときに、マイクロ波帯(3.1GHz以上10.8GHz以下)全域に亘ってVSWR値を3.5以下に抑え得ることが分かる。
【0077】
図11は、第2矩形部11cの形状によって、VSWR値の周波数特性がどのように変化するかを示したグラフである。ここでは、第2矩形部の形状を規定するパラメータとして、比w’/h’を取っている。
【0078】
図11によれば、w’/h’≒2としたときに、マイクロ波帯(3.1GHz以上10.6GHz以下)全域に亘ってVSWR値を4.0以下に抑え得ることが分かる。
【0079】
なお、図9〜図11に示すVSWR値の測定に際しては、給電線12として幅が均一で直線的な帯状導体を用いている。ただし、給電線12として図2(a)に示す幅が不均一で折り返された帯状導体を用いる場合であっても、5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)以外の帯域におけるVSWR値は、概ね、図9〜図11に示したものと一致する。
【0080】
〔アンテナの指向性〕
最後に、アンテナ1の放射パターン(放射利得の方向依存性)について、図12を参照して説明する。図12(a)は、4GHzにおけるXY平面内での放射パターンを示すグラフであり、図12(b)は、5.5GHzにおけるXY平面内での放射パターンを示すグラフであり、図12(c)は、8GHzにおけるXY平面内での放射パターンを示すグラフである。図12(a)〜図12(c)を比較すると、5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)に属する5.5GHzにおいて放射が抑制されていることが見て取れる。また、その他の帯域においては、指向性の弱い良好な放射パターンが実現されていることが分かる。
【0081】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係るアンテナは、広帯域において動作可能でありながら、その一部の帯域への干渉を回避したアンテナとして利用することができる。例えば、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)に使用されるマイクロ波帯(3.1GHz以上10.6GHz以下)において動作可能でありながら、無線LAN(IEEE802.11a)に使用される5GHz帯(5.15GHz以上5.85GHz以下)への干渉を回避したアンテナとして利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 アンテナ
10 誘電体基板
11 放射素子
11a,11b 放射素子の端点
12 給電線
12a 端辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、上記誘電体基板の一方の主面に形成された放射素子及び給電線と、上記誘電体基板の他方の主面に形成された地板とを備えたアンテナであって、
上記給電線は、折返部が滑らかな曲線を描くように折り返された幅が不均一な帯状導体であり、上記誘電体基板を介して互いに重なり合う上記給電線と上記地板とによって、BRF(Band RejectFilter)として機能するマイクロストリップラインが構成されている、ことを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
上記給電線は、その幅の最大値がW[mm]であり、かつ、その中心軸が半径R[mm]の円弧を描くように折り返されており、
比R/Wが2.5以上である、ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
上記比R/Wが3.0以上である、ことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ。
【請求項4】
上記比R/Wが3.5以上である、ことを特徴とする請求項3に記載のアンテナ。
【請求項5】
上記放射素子は、矩形状の矩形部と半楕円状の半楕円部とからなる釣鐘型に成形されており、上記矩形部の幅wに対する上記矩形部の高さhの比h/wが0.5以上0.75以下である、ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項6】
上記放射素子は、矩形状の矩形部と半楕円状の半楕円部とからなる釣鐘型に成形されており、上記半楕円部の短軸bに対する上記半楕円の長軸aの比b/aが0.5以上1.0以下である、ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項7】
上記放射素子と上記給電線との間に介在する矩形状の整合部を更に備えており、上記整合部の高さh’に対する上記整合部の幅w’の比w’/h’が2である、ことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−12952(P2013−12952A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144846(P2011−144846)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 社団法人 電子情報通信学会、刊行物名 電子情報通信学会2011年総合大会プログラム、該当頁数 101頁、発行日 平成23年2月28日
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】