説明

アーク溶接方法およびアーク溶接システム

【課題】 幅の均一なビードを形成できるアーク溶接方法およびアーク溶接システムを提供すること。
【解決手段】 消耗電極15と母材Wとの間にアークa1を発生させつつ消耗電極15から母材Wへ溶滴151を移行させる溶滴移行期間T1と、母材Wに形成された溶融池を冷却する冷却期間T2とを繰り返すアーク溶接方法であって、各溶滴移行期間T1中に、ピーク値ipで電流を流すピーク期間Tpとピーク値ipよりも小さいベース値ibで電流を流すベース期間Tbとを含む単位パルス波形の電流を、消耗電極15から母材Wへ繰り返し流す工程と、各冷却期間T2中に、溶接進行方向に、消耗電極15を母材Wに対し母材Wに沿って移動させる工程と、各溶滴移行期間T1におけるピーク期間Tpの回数が設定数に達したとき、当該溶滴移行期間T1を終了する工程と、を備える。このような構成によれば、各溶滴移行期間T1に母材Wに形成される各溶接痕の大きさを均一にすることができる。したがって、幅の均一なきれいなビードを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接方法およびアーク溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶滴移行期間と冷却期間とを繰り返す溶接方法が知られている(たとえば特許文献1参照)。この溶接方法では、溶滴移行期間中に消耗電極から母材に溶滴を移行させる。溶滴移行期間中、消耗電極を保持する溶接トーチは母材に対し停止させる。これにより溶滴移行期間中に平面視にて円形状の溶融池が形成される。一方、冷却期間中は、消耗電極から母材に溶滴を移行しない程度のわずかな溶接電流を、消耗電極から母材に流す。また、冷却期間中に、母材のうち次の溶滴移行期間を開始する地点まで、上記溶接トーチを移動させる。冷却期間中に上記溶融池は凝固し溶接痕となる。以上のような溶滴移行期間と冷却期間とを繰り返す。これにより、円形状の溶接痕が一方向に連なったうろこ状のビードを形成する。
【0003】
従来の溶接方法においては、溶接ロボットもしくは溶接電源装置が、各溶滴移行期間の長さをある一定の長さとなるように制御している。このような方法では、各溶滴移行期間の長さは一定の長さとはなりにくく、ばらついてしまうことが多い。各溶滴移行期間の長さがばらつくと、円形状の溶接痕の大きさがばらついてしまう。そうすると、ビードの幅が不均一となり、ビードの外観の悪化を招いてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11―267839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、幅の均一なビードを形成できるアーク溶接方法およびアーク溶接システムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供されるアーク溶接方法は、消耗電極と母材との間にアークを発生させつつ上記消耗電極から上記母材へ溶滴を移行させる溶滴移行期間と、上記母材に形成された溶融池を冷却する冷却期間とを繰り返すアーク溶接方法であって、上記各溶滴移行期間中に、ピーク値で電流を流すピーク期間と上記ピーク値よりも小さいベース値で電流を流すベース期間とを含む単位パルス波形の電流を、消耗電極から母材へ繰り返し流す工程と、上記各冷却期間中に、溶接進行方向に、上記消耗電極を上記母材に対し上記母材に沿って移動させる工程と、上記各溶滴移行期間における上記ピーク期間の回数が設定数に達したとき、当該溶滴移行期間を終了する工程と、を備える。
【0007】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記繰り返し流す工程は、上記各溶滴移行期間中にパルス生成指示信号を繰り返し生成する工程と、上記パルス生成指示信号が生成されるごとに単位パルス波形を生成する工程と、を含み、上記溶滴移行期間を終了する工程は、上記パルス生成指示信号が生成された回数に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する工程を含む。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記溶滴移行期間を終了する工程は、上記消耗電極と上記母材との間に流れる電流の値に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する工程を含む。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記各溶滴移行期間における上記ピーク期間の回数が設定数を超えると、上記母材に沿って上記母材に対し上記消耗電極を相対移動させ始める工程を更に備える。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記繰り返し流す工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が第1値であるように流し、上記移動させる工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が上記第1値より小さい第2値であるように流し、上記第2値は5〜20Aである。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記繰り返し流す工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が第1値であるように流し、上記移動させる工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が上記第1値より小さい第2値であるように流し、上記第2値は0Aである。
【0012】
本発明の第2の側面によって提供されるアーク溶接システムは、消耗電極から母材にパルス電流を流す溶滴移行期間と、上記母材に形成された溶融池を冷却する冷却期間と、を交互に繰り返す出力回路を備え、上記パルス電流の波形は、ピーク値で電流を流すピーク期間と上記ピーク値よりも小さいベース値で電流を流すベース期間とを含む単位パルス波形を繰り返す形状である、アーク溶接システムであって、設定数を記憶する設定数記憶部と、上記各溶滴移行期間における上記ピーク期間の回数が上記設定数に達すると、終了指示信号を送る終了判断回路と、を備え、上記出力回路は、上記終了指示信号を受けたときに上記各溶滴移行期間を終了する。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記出力回路は、上記各溶滴移行期間中にパルス生成指示信号を繰り返し生成する信号生成回路と、上記パルス生成指示信号を受けるごとに、上記単位パルス波形を生成する電流波形生成回路と、を含み、上記終了判断回路は、上記パルス生成指示信号が生成された回数に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する計測回路を含む。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記終了判断回路は、上記消耗電極と上記母材との間に流れる電流を検出する電流検出回路と、上記電流検出回路に検出された電流の値に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する計測回路と、を含む。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記消耗電極を保持する溶接ロボットと、上記溶接ロボットに動作制御信号を送る動作制御回路と、を更に備え、上記動作制御回路は、上記終了指示信号を受けると、上記動作制御信号として、上記母材に沿って上記母材に対して上記消耗電極を相対移動させる信号を送る。
【0016】
このような構成によれば、各溶滴移行期間に母材に形成される各溶接痕の大きさを均一にすることができる。したがって、幅の均一なきれいなビードを形成することができる。
【0017】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるアーク溶接システムの構成を示す図である。
【図2】図1に示すアーク溶接システムの内部構成を示す図である。
【図3】図2の電流波形生成回路の一例を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1実施形態にかかる溶接方法における信号等のタイミングチャートである。
【図5】図4に示すタイミングチャートを詳細に示す図である。
【図6】(a)は本発明の第1実施形態にかかる溶接方法の溶滴移行期間中のアーク等の状態を示す図である。(b)は本発明の第1実施形態にかかる溶接方法の冷却期間の開始時のアーク等の状態を示す図である。(c)は本発明の第1実施形態にかかる溶接方法の冷却期間の終了時のアーク等の状態を示す図である。(d)は本発明の第1実施形態にかかる溶接方法の溶滴移行期間の再開時のアーク等の状態を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態にかかる溶接方法によって形成されるビードの形状を示す平面図である。
【図8】本発明の第2実施形態にかかるアーク溶接システムの内部構成を示す図である。
【図9】本発明の第3実施形態にかかるアーク溶接システムの内部構成を示す図である。
【図10】本発明の第3実施形態にかかる溶接方法における信号等のタイミングチャートである。
【図11】図10に示すタイミングチャートを詳細に示す図である。
【図12】本発明の第4実施形態にかかるアーク溶接システムの内部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態にかかるアーク溶接システムの構成を示す図である。
【0021】
同図に示すアーク溶接システムA1は、溶接ロボット1と、ロボット制御装置2と、溶接電源装置3とを備える。溶接ロボット1は、母材Wに対してアーク溶接を自動で行うものである。溶接ロボット1は、ベース部材11と、複数のアーム12と、複数のモータ13と、溶接トーチ14と、ワイヤ送給装置16と、コイルライナ19とを含む。
【0022】
ベース部材11は、フロア等の適当な箇所に固定される。各アーム12は、ベース部材11に軸を介して連結されている。溶接トーチ14は、消耗電極15(溶接ワイヤ)を母材Wの近傍の所定の位置に導くものである。溶接トーチ14には、シールドガスノズル(図示略)が設けられている。シールドガスノズルは、アルゴンなどのシールドガスを供給するためのものである。モータ13は、移動機構であり、ロボット制御装置2により回転駆動する。この回転駆動により、各アーム12の移動が制御され、溶接トーチ14が上下前後左右に自在に移動できる。
【0023】
モータ13には、エンコーダ(図示略)が設けられている。エンコーダの出力は、ロボット制御装置2に送られる。ワイヤ送給装置16は、溶接ロボット1における上部に設けられている。ワイヤ送給装置16は、溶接トーチ14に消耗電極15を送り出すためのものである。ワイヤ送給装置16は、送給機構161(モータWM)と、ワイヤリール(図示略)と、ワイヤプッシュ装置(図示略)とを含む。送給機構161を駆動源として、上記ワイヤプッシュ装置が、上記ワイヤリールに巻かれた消耗電極15を溶接トーチ14へと送り出す。
【0024】
コイルライナ19は、その一端がワイヤ送給装置16に、その他端が溶接トーチ14に、それぞれ接続されている。コイルライナ19は、チューブ状を呈し、その内部には消耗電極15が挿通されている。コイルライナ19は、ワイヤ送給装置16から送り出された消耗電極15を、溶接トーチ14に導くものである。送り出された消耗電極15は、溶接トーチ14から突出する。
【0025】
図2は、図1に示したアーク溶接システムA1の内部構成を示す図である。
【0026】
ロボット制御装置2は、動作制御回路21と、ティーチペンダント23とを含む。ロボット制御装置2は、溶接ロボット1の動作を制御するためのものである。
【0027】
動作制御回路21は、図示しないマイクロコンピュータおよびメモリを有している。このメモリには、溶接ロボット1の各種の動作が設定された作業プログラムが記憶されている。動作制御回路21は、ロボット移動速度VRを設定する。ロボット移動速度VRは、母材Wの面内方向における、母材Wに対する溶接トーチ14の速度である。動作制御回路21は、上記作業プログラム、上記エンコーダからの座標情報、およびロボット移動速度VR等に基づき、溶接ロボット1に対して動作制御信号Msを送る。溶接ロボット1は動作制御信号Msを受け、各モータ13を回転駆動させる。各モータ13の回転駆動により、溶接トーチ14が、母材Wにおける所定の溶接開始位置に移動したり、母材Wの面内方向に沿って移動したりする。動作制御回路21は、溶滴移行開始信号Ssを送る。
【0028】
ティーチペンダント23は、動作制御回路21に接続されている。ティーチペンダント23は、溶接を実行する際のパラメータ等をアーク溶接システムA1のユーザが設定するためのものである。
【0029】
溶接電源装置3は、出力回路31と、電流値記憶部33と、終了判断回路34と、設定数記憶部35と、送給制御回路38とを含む。溶接電源装置3は、消耗電極15と母材Wとの間に、溶接電圧Vwを印加しつつ溶接電流Iwを流すための装置であるとともに、消耗電極15の送給を行うための装置である。
【0030】
電流値記憶部33は第2値ir2を記憶する。設定数記憶部35は設定数Nbを記憶する。第2値ir2および設定数Nbの各値は、たとえば、ティーチペンダント23から入力され動作制御回路21を経由して、各記憶部に記憶される。
【0031】
出力回路31は、電源回路311と、電流検出回路312と、電流誤差計算回路EIと、電流切替回路313と、電流制御回路314と、電流波形生成回路315と、信号生成回路316と、電圧検出回路317と、電圧誤差計算回路EVと、電圧制御回路318とを有する。出力回路31は、消耗電極15と母材Wとの間に指示された値で溶接電圧Vwを印加し、もしくは、消耗電極15から母材Wに指示された値で溶接電流Iwを流すためのものである。
【0032】
電源回路311は、たとえば3相200V等の商用電源を入力として、インバータ制御、サイリスタ位相制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwを出力する。
【0033】
電流検出回路312は、消耗電極15と母材Wとの間に流れる溶接電流Iwの値を検出するためのものである。電流検出回路312は、溶接電流Iwの値に対応する電流検出信号Idを送る。電流誤差計算回路EIは、実際に流れている溶接電流Iwの値と、設定された溶接電流の値との差ΔIwを計算するためのものである。電流誤差計算回路EIは、電流検出信号Idと、設定された溶接電流の値に対応する後述の電流設定信号Irとを受け、差ΔIwに対応する電流誤差信号Eiを電源回路311に送る。なお、電流誤差計算回路EIは、電流誤差信号Eiとして、差ΔIwを増幅した値に対応するものを送ってもよい。
【0034】
電圧検出回路317は、消耗電極15と母材Wとの間に印加される溶接電圧Vwの値を検出するためのものである。電圧検出回路317は、溶接電圧Vwの値に対応する電圧検出信号Vdを送る。本実施形態においては、電圧検出回路317は、溶接電圧Vwの時間平均値に対応する電圧検出信号Vdを送る。電圧制御回路318は、消耗電極15と母材Wと間に印加する溶接電圧Vwの値を設定するためのものである。電圧制御回路318は、図示しない記憶部に記憶された設定電圧値に基づき、溶接電圧Vwの値を指示するための電圧設定信号Vrを送る。電圧誤差計算回路EVは、実際に印加されている溶接電圧Vwの値と、設定された溶接電圧の値との差ΔVwを計算するためのものである。電圧誤差計算回路EVは、電圧検出信号Vdと設定された溶接電圧の値に対応する電圧設定信号Vrとを受け、差ΔVwに対応する電圧誤差信号Evを送る。なお、電圧誤差計算回路EVは、電圧誤差信号Evとして、差ΔVwを増幅した値に対応するものを送ってもよい。
【0035】
信号生成回路316は、パルス生成指示信号Psを繰り返し発生させるためのものである。本実施形態においては、信号生成回路316は電圧周波数変換回路である。そのため、信号生成回路316は、電圧誤差信号Evを受け、差ΔVwを差ΔVwに比例する周波数(1/Tf)に変換し、期間Tfごとに短期間のあいだHighレベルに変化するパルス生成指示信号Psを送る。なお、周波数(1/Tf)が差ΔVwに比例するため、期間Tfは一定の値ではなく多少ばらつく。
【0036】
電流波形生成回路315は、後述の溶滴移行期間T1における溶接電流Iwの波形を生成するためのものである。具体的には、電流波形生成回路315は、パルス生成指示信号Psを受けるごとに、単位パルス波形(図5(c)の期間Tfにおける溶接電流Iwの波形)を生成する。電流波形生成回路315は、生成した波形の電流に対応する電流設定信号Ir1を送る。
【0037】
図3は、電流波形生成回路315の一例を示すブロック図である。なお、同図に示す電流波形生成回路315のブロック図は、図5(c)に示す単位パルス波形を生成するためのものであり、単位パルス波形が図5(c)に示すものと異なれば、電流波形生成回路315のブロック図も図3とは異なるものとなる。
【0038】
同図に示すように、電流波形生成回路315は、タイマ回路TMと、切替回路SWと、電流制御回路IPR,IBRと、増加期間記憶部TUと、ピーク期間記憶部TPと、減少期間記憶部TDと、ピーク電流記憶部IPと、ベース電流記憶部IBとを有する。
【0039】
増加期間記憶部TUは増加期間Tuを記憶し、ピーク期間記憶部TPはピーク期間Tpを記憶し、減少期間記憶部TDは減少期間Tdを記憶し、ピーク電流記憶部IPはピーク電流値ipを記憶し、ベース電流記憶部IBはベース電流値ibを記憶する。
【0040】
タイマ回路TMは、パルス生成指示信号Psを受け、期間信号tssを送る。期間信号tssは、パルス生成指示信号PsがHighレベルに変化した時点から、予め設定した期間Ts(図5(c)参照)のあいだHighレベルになる。電流制御回路IPRは、期間信号tssを受け、電流設定信号iprを送る。電流制御回路IPRは、増加期間記憶部TUと、ピーク期間記憶部TPと、減少期間記憶部TDと、ピーク電流記憶部IPと接続している。電流制御回路IPRは、期間信号tssがHighレベルとなった時刻(図5ではta(1))から、溶接電流Iwが、図5に示す期間Tsにおける波形となるための電流設定信号iprを、生成する。電流制御回路IBRは、ベース電流記憶部IBに接続している。電流制御回路IBRは、溶接電流Iwがベース電流値ibとなるための電流設定信号ibrを生成する。
【0041】
切替回路SWは、期間信号tssと、電流設定信号ipr,ibrとを受け、電流設定信号Ir1を送る。期間信号tssがHighレベルのあいだは、切替回路SWは電流設定信号Ir1として、電流設定信号iprを電流切替回路313に送る。一方、期間信号tssがLowレベルのあいだは、切替回路SWは電流設定信号Ir1として、電流設定信号ibrを電流切替回路313に送る。以上のように、電流波形生成回路315は図5(c)に示す単位パルス波形を生成し、電流設定信号Ir1を送る。
【0042】
図2に示す電流制御回路314は、後述の冷却期間T2における、消耗電極15と母材Wとの間に流れる溶接電流Iwの値を設定するためのものである。電流制御回路314は、溶接電流Iwを第2値ir2で流すための電流設定信号Ir2を送る。
【0043】
電流切替回路313は、出力回路31の電源特性(定電圧特性もしくは定電流特性)を切り替えるものである。出力回路31の電源特性が定電圧特性である場合、溶接電圧Vwの値が設定された値となるように、出力回路31の出力が制御される。一方、出力回路31の電源特性が定電流特性である場合、溶接電流Iwの値が設定された値となるように、出力回路31の出力が制御される。より具体的にはつぎのとおりである。電流切替回路313は、電流設定信号Ir1,Ir2と、後述の溶滴移行開始信号Ssと、後述の終了指示信号Esと、を受ける。電流切替回路313が溶滴移行開始信号Ssを受けると、電流切替回路313におけるスイッチは図2のa側に接続される。この場合、出力回路31の電源特性は定電圧特性である。すなわち、電流切替回路313は、電流設定信号Ir1を電流設定信号Irとして電流誤差計算回路EIに送り、溶接電圧Vwが電圧制御回路318によって設定された値となる。一方、電流切替回路313が終了指示信号Esを受けると、電流切替回路313におけるスイッチは図2のb側に接続される。この場合、出力回路31の電源特性は定電流特性である。すなわち、電流切替回路313は、電流設定信号Ir2を電流設定信号Irとして電流誤差回路EIに送り、溶接電流Iwが電流制御回路314によって設定された値となる。
【0044】
終了判断回路34は、溶滴移行期間T1を終了するか否かを判断するためのものである。終了判断回路34は、計測回路341と比較回路342とを有する。計測回路341は、各溶滴移行期間T1におけるピーク期間Tpの回数Ns(すなわち、各溶滴移行期間T1における溶接電流Iwの単位パルス波形の数)を計測するためのものである。本実施形態においては、計測回路341は、ピーク期間Tpの回数Nsを、パルス生成指示信号Psが生成された回数に基づき計測する。比較回路342は、各溶滴移行期間T1におけるピーク期間Tpの回数Nsが、設定数記憶部35に記憶された設定数Nbに達すると、終了指示信号Esを出力回路31(本実施形態では電流切替回路313)と動作制御回路21とに送る。
【0045】
送給制御回路38は、溶接トーチ14から消耗電極15を送り出す速度(送給速度Fw)を制御するためのものである。送給制御回路38は、送給速度Fwを指示するための送給速度制御信号Fcを送給機構161に送る。
【0046】
次に、図4、図5をさらに用いて、アーク溶接システムA1を用いたアーク溶接方法について説明する。図4は、アーク溶接システムA1を用いたアーク溶接方法における各信号等のタイミングチャートである。同図(a)はロボット移動速度VRの変化状態を示し、(b)は電流切替回路313におけるスイッチSwの接続状態(電源特性の変化状態)を示し、(c)は溶接電流Iwの変化状態を示し、(d)は溶接電圧Vwの変化状態を示し、(e)は送給速度Fwの変化状態を示し、(f)は溶滴移行開始信号Ssの変化状態を示し、(g)は終了指示信号Esの変化状態を示し、(h)はパルス生成指示信号Psの変化状態を示す。同図(b)にてHighレベルは、電流切替回路313のスイッチSwがa側に接続していることを示し、Lowレベルは、スイッチSwがb側に接続していることを示す。
【0047】
アーク溶接システムA1を用いたアーク溶接方法においては、溶滴移行期間T1と冷却期間T2とを交互に繰り返す。溶滴移行期間T1は、たとえば0.1〜0.5秒である。冷却期間T2は、たとえば0.1〜0.5秒である。図5は、図4の溶滴移行期間T1における各信号等の変化状態を詳細に示すタイミングチャートである。
【0048】
<溶滴移行期間T1(時刻ta(1)〜時刻ta(n+1))>
溶滴移行期間T1は、消耗電極15と母材Wとの間にアークa1を発生させつつ消耗電極15から母材Wへ溶滴151を移行させるための期間である。図4(a)、図5(a)に示す時刻ta(1)において、動作制御回路21は、ロボット移動速度VRを速度v1とするための動作制御信号Msを溶接ロボット1に送る。これにより、消耗電極15を保持する溶接トーチ14の、母材Wに対する速度VRはv1となる。本実施形態ではv1=0である。そのため、溶滴移行期間T1中、溶接トーチ14は、母材Wの面内方向において母材Wに対し停止している。同図(f)に示すように、時刻ta(1)において、動作制御回路21は溶滴移行開始信号Ssを、送給制御回路38と、出力回路31の電流切替回路313と、終了判断回路34の計測回路341と、に送る。送給制御回路38は溶滴移行開始信号Ssを受けると、送給速度Fwを速度fw1とするための送給速度制御信号Fcを送給機構161に送る。これにより、図5(e)に示すように、消耗電極15が、送給速度Fwを速度fw1で送給され始める。送給速度Fwは、溶接トーチ14から母材Wに向かう方向が正である。速度fw1は、たとえば、100〜300cm/minである。同図(h)に示すように、時刻ta(1)において、パルス生成指示信号PsがHighレベルに変化する。これにより、電流波形生成回路315は、単位パルス波形の溶接電流Iwを流すための電流設定信号Ir1を電流切替回路313に送る。また、同図(b)に示すように、電流切替回路313が溶滴移行開始信号Ssを受けると、電流切替回路313におけるスイッチSwはa側に接続する。そのため、時刻ta(1)から、同図(c)に示す単位パルス波形を有する溶接電流Iwが流れる。
【0049】
図5(c)に示すように、単位パルス波形の溶接電流Iwが流れる期間Tfは、増加期間Tuとピーク期間Tpと減少期間Tdとベース期間Tbとから構成されている。増加期間Tuにおいて、溶接電流Iwはピーク電流値ipにまで増加する。ピーク期間Tpの間、溶接電流Iwはピーク電流値ipで流れる。減少期間Tdにおいて、溶接電流Iwはピーク電流値ipからベース電流値ibにまで減少する。ベース期間Tbの間、溶接電流Iwはベース電流値ibで流れる。本実施形態においては、溶接電圧Vwの時間平均値が予め設定された電圧値vr1となるように、ベース期間Tbの長さが調整される。これにより、アークa1の長さが適正値に保たれる。そして、溶接電流Iwが、絶対値の時間平均値が第1値ir1で流れることとなる。また、ピーク期間Tpにおいて、消耗電極15の先端にて成長した溶滴151が電磁的ピンチ力の影響を受ける。そして、溶滴151がピーク期間Tpもしくは減少期間Td中に、消耗電極15から離脱し、母材Wに落下する。このように、期間Tfの間に一個の溶滴151が母材Wへ移行する。
【0050】
図5(h)に示すように、時刻ta(2)において、再び、パルス生成指示信号PsがHighレベルに変化する。これにより、電流波形生成回路315は、単位パルス波形の溶接電流Iwを流すための電流設定信号Ir1を電流切替回路313に送る。また、同図(b)に示すように、電流切替回路313におけるスイッチSwはa側に接続している。そのため、時刻ta(2)から、同図(c)に示す単位パルス波形を有する溶接電流Iwが流れる。同様にして、時刻ta(3),ta(4)・・・ta(n)(nは整数)から、単位パルス波形を有する溶接電流Iwが流れる。すなわち、溶滴移行期間T1においては、単位パルス波形を複数回繰り返す形状のパルス電流が流れる。図6(a)に示すように、溶滴移行期間T1では、溶滴が母材Wへ移行し母材Wに溶融池881が形成される。
【0051】
溶滴移行期間T1中、パルス生成指示信号Psは終了判断回路34における計測回路341に送られる。また、上述のように、溶滴移行期間T1の開始時である時刻ta(1)において、溶滴移行開始信号Ssが計測回路341に送られる。計測回路341は、溶滴開始信号Ssを受けた時刻以降にパルス生成指示信号Psを受けた回数を計測する。これにより、計測回路341は、各溶滴移行期間T1におけるピーク期間Tpの回数Nsを計測する。そして、比較回路342は、回数Nsが設定数Nbに達すると、終了指示信号Esを出力回路31における電流切替回路313と送給制御回路38と動作制御回路21とに送る。本実施形態においては、比較回路342は、回数Nsが設定数Nbに達したと判断した時刻(時刻ta(n))から、期間Tf後の時刻(時刻ta(n+1))に、終了指示信号Esを送っている。比較回路342が終了指示信号Esを送る時刻は時刻ta(n+1)である必要はなく、時刻ta(n+1)より前であってもよい。たとえば、比較回路342が終了指示信号Esを送る時刻は、回数Nsが設定数Nbに達したと判断した時刻(時刻ta(n))から期間Ts後の時刻であってもよい。設定数Nbはたとえば15〜18である。
【0052】
<冷却期間T2>
冷却期間T2は、母材Wに形成された溶融池881を冷却するための期間である。時刻ta(n+1)にて電流切替回路313が終了指示信号Esを受けると、図4(b)、図5(b)に示すように、電流切替回路313におけるスイッチSwはb側に接続する。これにより、溶滴移行期間T1が終了し冷却期間T2が開始する。同図(c)に示すように、電流切替回路313におけるスイッチSwがb側に接続すると、時刻ta(n+1)から溶接電流Iwは絶対値の時間平均値が第2値ir2で流れる。本実施形態では第2値ir2は直流である。第2値ir2は、第1値ir1より小さい。第2値は、消耗電極15から母材Wに溶滴が移行しない程度の極めて小さい値であり、たとえば5〜20Aである。本実施形態では冷却期間T2においてアークa1が発生している状態を継続している。そのため、次の溶滴移行期間T1を開始する際にアークa1を再発生させる必要がない。一方、図4(a)、図5(a)に示すように、時刻ta(n+1)において動作制御回路21は、終了指示信号Esを受けると、ロボット移動速度VRを速度v2とするための動作制御信号Msを溶接ロボット1に送る。これにより、消耗電極15を保持する溶接トーチ14は、母材Wの面内方向において、図6(b)、図7の溶接進行方向Drに沿って、母材Wに対し速度v2で移動し始める。速度v2は速度v1より大きい。速度v2は、たとえば、50〜150cm/minである。各冷却期間T2における溶接進行方向Drは互いに共通である。図4(e)に示すように、送給制御回路38は終了指示信号Esを受けると、送給速度Fwを速度fw2とするための送給速度制御信号Fcを送給機構161に送る。これにより、消耗電極15が、溶接トーチ14から母材Wに向かって速度fw2で送給され始める。速度fw2は、速度fw1より小さく、たとえば、70cm/minである。図6(c)に示すように、冷却期間T2にて、溶融池881は冷却されることにより固化し、平面視で円形状の溶接痕882が形成される(図7参照)。そして、溶接トーチ14が母材Wの所定の位置に到達すると、同図(d)に示すように再び溶滴移行期間T1を開始する。
【0053】
以上のように、溶滴移行期間T1と冷却期間T2とを繰り返すことにより溶接を行う。これにより、図7に示すように、円形状の複数の溶接痕882が溶接進行方向Drに沿って連なるうろこ状のビードが形成される。
【0054】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0055】
本実施形態においては、各溶滴移行期間T1におけるピーク期間Tpの回数Ns(溶接電流Iwの単位パルス波形の数)が設定数Nbに達したときに、当該溶滴移行期間T1を終了している。一つの単位パルス波形の溶接電流Iwが流れる期間Tfのあいだに、一つの溶滴151が消耗電極15から母材Wへと移行する。よって、各溶滴移行期間T1にて移行する溶滴151の数を均一にすることができる。また、各期間Tfにて移行する溶滴151の体積は略同一である。よって、各溶滴移行期間T1に母材Wに形成される各溶接痕882の大きさを均一にすることができる。したがって、本実施形態によれば、幅の均一なきれいなビードを形成することができる。
【0056】
一般に、電圧周波数変換回路たる信号生成回路316が送るパルス生成指示信号Psの周期である期間Tfは、一定の値ではなく多少ばらつく。そのため、タイマ回路を用いて溶滴移行期間T1を一定の長さとなるように制御した場合、各溶滴移行期間T1における回数Nsが各溶滴移行期間T1ごとに、ばらつくおそれがある。各溶滴移行期間T1における回数Nsがばらつくと、各溶滴移行期間T1にて移行する溶滴151の数がばらつく。そうすると、各溶滴移行期間T1に母材Wに形成される各溶接痕882の大きさがばらつくため、幅の均一なきれいなビードを形成することができない。これに対し、本実施形態によると、上述のように、各溶滴移行期間T1におけるピーク期間Tpの回数Nsを計測することにより、当該溶滴移行期間T1を終了する。そのため、各溶滴移行期間T1における回数Nsがばらつくことがない。各溶滴移行期間T1における回数Nsがばらつかないと、上述のように、各溶滴移行期間T1に母材Wに形成される各溶接痕882の大きさを均一にすることができる。したがって、本実施形態は、幅の均一なきれいなビードを形成するのに適する。
【0057】
次に、図8を用いて本発明の第2実施形態について説明する。
【0058】
図8は、本実施形態にかかるアーク溶接システムの内部構成を示す図である。
【0059】
同図に示すアーク溶接システムA2は、溶接ロボット1と、ロボット制御装置2と、溶接電源装置3とを備える。アーク溶接システムA2は、上述のアーク溶接システムA1に対し、計測回路341が回数Nsを計測する方法が異なり、その他の点は同様である。計測回路341が、ピーク期間Tpの回数Nsをパルス生成指示信号Psが生成された回数に基づき計測するのではなく、回数Nsを電流検出回路312に検出された溶接電流Iwの値に基づき計測する。そのため、本実施形態においては、計測回路341に電流検出回路312から電流検出信号Idが送られる。計測回路341は、たとえば、溶接電流Iwの値があるしきい値を超えた回数を回数Nsとして採用する。
【0060】
本実施形態によれば、第1実施形態で述べたのと同様の理由により、幅の均一なきれいなビードを形成することができる。
【0061】
次に、図9〜図11を用いて本発明の第3実施形態について説明する。
【0062】
図9は、本実施形態にかかるアーク溶接システムの内部構成を示す図である。図10は、本実施形態にかかる溶接方法における信号等のタイミングチャートである。図11は、図10の溶滴移行期間期間T1における各信号等の変化状態を詳細に示すタイミングチャートである。
【0063】
本実施形態は、図10、図11に示すように、冷却期間T2中にアークa1を消弧させた状態で溶接トーチ14を母材Wに対し移動する点において、第1実施形態と異なる。図9に示すアーク溶接システムA3は、溶接ロボット1と、ロボット制御装置2と、溶接電源装置3とを備える。アーク溶接システムA3における溶接ロボット1およびロボット制御装置2は、第1実施形態にかかるアーク溶接システムA1と同様であるから説明を省略する。溶接電源装置3は、出力回路31と、電流値記憶部37と、終了判断回路34と、設定数記憶部35と、送給制御回路38とを含む。溶接電源装置3の各構成は、出力回路31と電流値記憶部37とを除き、第1実施形態における構成とほぼ同様であるから、説明を省略する。
【0064】
電流値記憶部37は第3値ir3を記憶する。第3値ir3の値は、たとえば、ティーチペンダント23から入力され動作制御回路21を経由して、記憶部に記憶される。
【0065】
出力回路31は、電源回路311と、電流検出回路312と、電流誤差計算回路EIと、電流切替回路313と、電流制御回路319と、電流波形生成回路315と、信号生成回路316と、電圧検出回路317と、電圧誤差計算回路EVと、電圧制御回路318とを有する。出力回路31の各構成は、電流制御回路319を除き、第1実施形態における構成と略同様であるから、説明を省略する。電流制御回路319は、後述のアーク発生期間T0に流す溶接電流Iwの値を設定するためのものである。電流制御回路319は、溶接電流Iwを第3値ir3で流すための電流設定信号Ir3を、電流切替回路313に送る。
【0066】
次に、図10、図11をさらに用いて、アーク溶接システムA3を用いたアーク溶接方法について説明する。本実施形態にかかる方法においては、アーク発生期間T0と溶滴移行期間T1と冷却期間T2とを繰り返す。
【0067】
<アーク発生期間T0(時刻tg1〜時刻ta(1))>
[時刻tg1〜時刻tg2]
時刻tg1にアーク発生期間T0が開始する。図11(e)に示すように、時刻tg1において、送給制御回路38は、送給速度制御信号Fcとして送給速度Fwを値fw3(スローダウン送給速度)とするものを、溶接ロボット1の送給機構161に送る。これにより、送給速度Fwを値fw3として消耗電極15が溶接トーチ14から送給される。なお、値fw3は、たとえば、100〜300cm/minである。時刻tg1においては、消耗電極15と母材Wとが離間しているため、同図(c)に示すように、時刻tg1からある程度の期間(本実施形態では時刻tg1〜時刻tg2)のあいだは消耗電極15と母材Wとの間に溶接電流Iwが流れない。一方、同図(d)に示すように、時刻tg1から時刻tg2において、消耗電極15と母材Wとの間には溶接電圧Vwとして、たとえば、80V程度の無負荷電圧V0が印加される。電流制御回路319は、電流設定信号Ir3を電流切替回路313に送る。時刻tg1〜時刻ta(1)のあいだ、電流切替回路313のスイッチはb側に接続している。そのため、時刻tg1〜時刻ta(1)のあいだ、電流誤差計算回路EIには、電流切替回路313から、電流設定信号Irとして電流設定信号Ir3が送られる。
【0068】
なお、同図(a)に示すように、アーク発生期間T0においては、ロボット移動速度VRは0であり、溶接トーチ14は母材Wに沿って移動していない。
【0069】
[時刻tg2〜時刻tg3]
消耗電極15が溶接トーチ14から送給され母材Wに接近してゆき、時刻tg2において、消耗電極15と母材Wとが接触する。すると、図11(d)に示すように、消耗電極15と母材Wとの間に印加される溶接電圧Vwが急激に減少する。また、同図(c)に示すように、消耗電極15から母材Wへの溶接電流Iwの通電が開始する。上述のように、電流誤差計算回路EIには、電流切替回路313から、電流設定信号Irとして電流設定信号Ir3が送られる。そのため、溶接電流Iwの値は第3値ir3になるように、急激に増加する。
【0070】
[時刻tg3〜時刻tg4]
図11(c)に示すように、時刻tg3において、溶接電流Iwの値が第3値ir3に至る。そして、時刻tg3からしばらくの間は、溶接電流Iwは第3値ir3で流れる。時刻tg3からわずかな期間(本実施形態では時刻tg3〜時刻tg4)の間は、消耗電極15と母材Wとが接触した状態が継続される。消耗電極15と母材Wとが接触している間、消耗電極15のうち母材Wに近接する部分は、ジュール熱により溶融する。
【0071】
[時刻tg4〜時刻ta(1)]
時刻tg4において、消耗電極15のうち母材Wに近接する部分が溶融して、消耗電極15と母材Wとの間にアークa1が発生する。図11(d)に示すように、時刻tg4の近傍において、消耗電極15と母材Wとの間に印加される溶接電圧Vwが、急激に増加する。時刻tg4〜時刻ta(1)においては、溶接電流Iwを第3値ir3のまま流し続ける。消耗電極15と母材Wとの離間距離を適切な長さとするためである。
【0072】
<溶滴移行期間T1(時刻ta(1)〜時刻ta(n+1))>
時刻ta(1)から溶滴移行期間T1が開始する。図10(f)、図11(f)に示すように、時刻ta(1)において、動作制御回路21は溶滴移行開始信号Ssを、送給制御回路38と、出力回路31の電流切替回路313と、終了判断回路34の計測回路341と、に送る。この後は、第1実施形態の溶滴移行期間T1における工程と同様の工程が行われる。
【0073】
本実施形態においても、溶滴移行期間T1中、パルス生成指示信号Psは終了判断回路34における計測回路341に送られる。また、上述のように、溶滴移行期間T1の開始時である時刻ta(1)において、溶滴移行開始信号Ssが計測回路341に送られる。計測回路341は、溶滴移行開始信号Ssを受けた時刻以降にパルス生成指示信号Psを受けた回数を計測する。これにより、計測回路341は、各溶滴移行期間T1におけるピーク期間Tpの回数Nsを計測する。そして、比較回路342は、回数Nsが設定数Nbに達すると、終了指示信号Esを、電源回路311と電流切替回路313と送給制御回路38と動作制御回路21とに送る。
【0074】
<冷却期間T2>
冷却期間T2は、母材Wに形成された溶融池881を冷却するための期間である。図11(c)、図11(d)に示すように、時刻ta(n+1)にて電源回路311が終了指示信号Esを受けると、電源回路311は停止し、溶接電圧Vwおよび溶接電流Iwを0にする(溶接電流Iwを第2値ir2=0Aで流す)。このようにして、溶滴移行期間T1が終了し冷却期間T2が開始される。同図(e)に示すように、送給制御回路38は終了指示信号Esを受けると、送給速度Fwを0とするための送給速度制御信号Fcを送給機構161に送る。これにより、消耗電極15の送給が停止する。図10(a)、図11(a)に示すように、時刻ta(n+1)において動作制御回路21は、終了指示信号Esを受けると、ロボット移動速度VRを速度v2とするための動作制御信号Msを溶接ロボット1に送る。これにより、消耗電極15を保持する溶接トーチ14は、母材Wの面内方向において、溶接進行方向Dr(図6、図7参照)に沿って、母材Wに対し速度v2で移動し始める。冷却期間T2にて、溶融池881は冷却されることにより固化し、平面視で円形状の溶接痕882(図6、図7参照)が形成される。冷却期間T2を終えると、上述のアーク発生期間T0を開始しアークa1を再び発生させる。
【0075】
以上のように、本実施形態では、アーク発生期間T0と溶滴移行期間T1と冷却期間T2とを繰り返すことにより溶接を行う。
【0076】
本実施形態によれば、第1実施形態で述べたのと同様の理由により、幅の均一なきれいなビードを形成することができる。
【0077】
次に、図12を用いて本発明の第4実施形態について説明する。
【0078】
図12は、本実施形態にかかるアーク溶接システムの内部構成を示す図である。
【0079】
同図に示すアーク溶接システムA4は、溶接ロボット1と、ロボット制御装置2と、溶接電源装置3とを備える。アーク溶接システムA4は、上述のアーク溶接システムA3に対し、計測回路341が回数Nsを計測する方法が異なり、その他の点は同様である。計測回路341が、ピーク期間Tpの回数Nsをパルス生成指示信号Psが生成された回数に基づき計測するのではなく、回数Nsを電流検出回路312に検出された溶接電流Iwの値に基づき計測する。そのため、本実施形態においては、計測回路341に電流検出回路312から電流検出信号Idが送られる。計測回路341は、たとえば、溶接電流Iwの値があるしきい値を超えた回数を回数Nsとして採用する。
【0080】
本実施形態によれば、第3実施形態で述べたのと同様の理由により、幅の均一なきれいなビードを形成することができる。
【0081】
本発明の範囲は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。信号生成回路として上述の実施形態では電圧周波数変換回路を挙げたが、信号生成回路は、積分回路と比較回路とを組み合わせた回路などであってもよい。上述の実施形態では単位パルス波形が直流である例を述べたが、EN期間を有する交流であっても良い。
【符号の説明】
【0082】
A1〜A4 アーク溶接システム
1 溶接ロボット
11 ベース部材
12 アーム
13 モータ
14 溶接トーチ
15 消耗電極
151 溶滴
16 ワイヤ送給装置
161 送給機構
19 コイルライナ
2 ロボット制御装置
21 動作制御回路
23 ティーチペンダント
3 溶接電源装置
31 出力回路
311 電源回路
312 電流検出回路
313 電流切替回路
314 電流制御回路
315 電流波形生成回路
316 信号生成回路
317 電圧検出回路
318 電圧制御回路
33 電流値記憶部
34 終了判断回路
341 計測回路
342 比較回路
35 設定数記憶部
37 電流値記憶部
38 送給制御回路
EI 電流誤差計算回路
Ei 電流誤差信号
EV 電圧誤差計算回路
Ev 電圧誤差信号
Es 終了指示信号
Fc 送給速度制御信号
Fw 送給速度
IB ベース電流記憶部
ib ベース電流値
IBR 電流制御回路
ibr 電流設定信号
Id 電流検出信号
IP ピーク電流記憶部
ip ピーク電流値
IPR 電流制御回路
ipr 電流設定信号
Ir,Ir1,Ir2 電流設定信号
ir1 第1値
ir2 第2値
Iw 溶接電流
T0 アーク発生期間
T1 溶滴移行期間
T2 冷却期間
TB ベース期間記憶部
TD 減少期間記憶部
Td 減少期間
TM タイマ回路
TP ピーク期間記憶部
Tp ピーク期間
tss 期間信号
Ts 期間
TU 増加期間記憶部
Tu 増加期間
Ms 動作制御信号
Nb 設定数
Ns 回数
Ps パルス生成指示信号
Ss 溶滴移行開始信号
SW 切替回路
Vd 電圧検出信号
VR ロボット移動速度
Vr 電圧設定信号
Vw 溶接電圧
W 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消耗電極と母材との間にアークを発生させつつ上記消耗電極から上記母材へ溶滴を移行させる溶滴移行期間と、上記母材に形成された溶融池を冷却する冷却期間とを繰り返すアーク溶接方法であって、
上記各溶滴移行期間中に、ピーク値で電流を流すピーク期間と上記ピーク値よりも小さいベース値で電流を流すベース期間とを含む単位パルス波形の電流を、上記消耗電極から上記母材へ繰り返し流す工程と、
上記各冷却期間中に、溶接進行方向に、上記消耗電極を上記母材に対し上記母材に沿って移動させる工程と、
上記各溶滴移行期間における上記ピーク期間の回数が設定数に達したとき、当該溶滴移行期間を終了する工程と、を備える、アーク溶接方法。
【請求項2】
上記繰り返し流す工程は、上記各溶滴移行期間中にパルス生成指示信号を繰り返し生成する工程と、上記パルス生成指示信号が生成されるごとに単位パルス波形を生成する工程と、を含み、
上記溶滴移行期間を終了する工程は、上記パルス生成指示信号が生成された回数に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する工程を含む、請求項1に記載のアーク溶接方法。
【請求項3】
上記溶滴移行期間を終了する工程は、上記消耗電極と上記母材との間に流れる電流の値に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する工程を含む、請求項1に記載のアーク溶接方法。
【請求項4】
上記各溶滴移行期間における上記ピーク期間の回数が設定数を超えると、上記母材に沿って上記母材に対し上記消耗電極を相対移動させ始める工程を更に備える、請求項1ないし3のいずれかに記載のアーク溶接方法。
【請求項5】
上記繰り返し流す工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が第1値であるように流し、上記移動させる工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が上記第1値より小さい第2値であるように流し、上記第2値は5〜20Aである、請求項1ないし4のいずれかに記載のアーク溶接方法。
【請求項6】
上記繰り返し流す工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が第1値であるように流し、上記移動させる工程においては、上記消耗電極から上記母材へ電流を、絶対値の時間平均値が上記第1値より小さい第2値であるように流し、上記第2値は0Aである、請求項1ないし4のいずれかに記載のアーク溶接方法。
【請求項7】
消耗電極から母材にパルス電流を流す溶滴移行期間と、上記母材に形成された溶融池を冷却する冷却期間と、を交互に繰り返す出力回路を備え、
上記パルス電流の波形は、ピーク値で電流を流すピーク期間と上記ピーク値よりも小さいベース値で電流を流すベース期間とを含む単位パルス波形を繰り返す形状である、アーク溶接システムであって、
設定数を記憶する設定数記憶部と、
上記各溶滴移行期間における上記ピーク期間の回数が上記設定数に達すると、終了指示信号を送る終了判断回路と、を備え、
上記出力回路は、上記終了指示信号を受けたときに上記各溶滴移行期間を終了する、アーク溶接システム。
【請求項8】
上記出力回路は、上記各溶滴移行期間中にパルス生成指示信号を繰り返し生成する信号生成回路と、上記パルス生成指示信号を受けるごとに、上記単位パルス波形を生成する電流波形生成回路と、を含み、
上記終了判断回路は、上記パルス生成指示信号が生成された回数に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する計測回路を含む、請求項7に記載のアーク溶接システム。
【請求項9】
上記終了判断回路は、上記消耗電極と上記母材との間に流れる電流を検出する電流検出回路と、上記電流検出回路に検出された電流の値に基づき、上記ピーク期間の回数を計測する計測回路と、を含む、請求項7に記載のアーク溶接システム。
【請求項10】
上記消耗電極を保持する溶接ロボットと、
上記溶接ロボットに動作制御信号を送る動作制御回路と、を更に備え、
上記動作制御回路は、上記終了指示信号を受けると、上記動作制御信号として、上記母材に沿って上記母材に対して上記消耗電極を相対移動させる信号を送る、請求項7ないし9のいずれかに記載のアーク溶接システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−143774(P2012−143774A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3014(P2011−3014)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】