説明

イネ等の育苗用マット

【課題】
育苗床の調製作業の負担を軽減することのできる育苗用マットを提供すること。
【解決手段】
天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維からなるマット基材に、保水材、樹脂被覆された肥料粒子、および樹脂被覆された農薬成分含有粒子が担持されてなる苗の育苗用マット;イネ苗の育苗用マットであり、該樹脂被覆された肥料粒子が窒素成分を含有する被覆肥料、好ましくは被覆尿素であり、該窒素成分の量がイネ苗を本田移植後の生育期間中に必要な窒素成分量である育苗用マット;および、該農薬成分含有粒子が、いもち病の防除に有効な農薬成分、イネミズゾウムシもしくはウンカ類の防除に有効な農薬成分、またはカメムシ類の防除に有効な農薬成分を含有する農薬成分含有粒子である育苗用マット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本田に移植する前のイネ苗等を育苗する為の育苗用マットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業就労人口の減少と高齢化が進む状況の中、移植機械の発達と並行して、育苗箱を用いたイネ等の育苗技術が発達してきた。しかしながら、育苗箱による育苗においては、育苗容器への培土の充填、種籾の播種、育苗期間中に必要となる肥料や殺菌剤の混合、播種後の育苗箱への潅水など、付随する多くの作業が必要となっている。その為、育苗自体を各農家が行わず、専門の育苗センターに委託するケースも増えている。
これらの育苗センターでは、専用の育苗箱用施肥播種装置(例えば、特許文献1に記載の装置)を用いて、育苗床を調製する一連の作業を行っている。
しかしながら、育苗センターに委託していない農家においては、煩雑な育苗床の調製作業は大きな負担となっている。
物理的に溶出速度を低下させた緩行性肥料の出現により、育苗期間中のみならず、本田での生育に必要な量の肥料等を育苗床に混ぜ込み、移植時のイネ苗と伴に本田に移すことにより、本田における施肥の回数を少なくさせることも試みられるようになった。しかし、一方では苗箱に多量の肥料を均一かつ正確に施用する必要があり、作業が煩雑である。自動的に床土を詰め、播種、施肥、施薬、覆土を行う装置も実用化されているが、施肥・施薬量の調整が煩雑であり、使用開始時には施肥・施薬量の過不足が生じやすい。特に肥料の過不足では肥効不足や、過剰害が発生し易い。このように育苗床の調整作業の内容は複雑化している。
【0003】
【特許文献1】特開平11−127696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
育苗床の調製作業の負担を軽減することのできる育苗用マットを提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維からなるマット基材に、保水材、樹脂被覆された肥料粒子、および樹脂被覆された農薬成分含有粒子が担持されてなる育苗用マットを使用することにより、これまでのような培土を用いた育苗床に比較して、育苗床の調整作業が簡便になることを見出して本発明を完成させた。
更に該育苗用マットを用いることにより、必要となる単位面積あたりの肥料及び農薬を正確に供給することができ、育苗期間中及び本田での肥効、薬効の過剰や不足を防止することができることを見出した。
【0006】
本発明は即ち、
[発明1]
イネ苗の育苗用マットであり、天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維からなるマット基材に、保水材、樹脂被覆された肥料粒子、および樹脂被覆された農薬成分含有粒子が担持されてなるイネ苗の育苗用マット;
[発明2]
樹脂被覆された肥料粒子が窒素成分を含有する樹脂被覆された肥料粒子であり、該窒素成分の量がイネ苗を本田移植後の生育期間中に必要な窒素成分量である、発明1記載の育苗用マット;
[発明3]
樹脂被覆された肥料粒子が被覆尿素である、発明2に記載の育苗用マット;
[発明4]
樹脂被覆された農薬成分含有粒子が、いもち病の防除に有効な農薬成分、または、イネミズゾウムシもしくはウンカ類の防除に有効な農薬成分を含有する樹脂被覆された農薬成分含有粒子である、発明1〜3のいずれかに記載の育苗用マット;
[発明5]
樹脂被覆された農薬成分含有粒子が、カメムシ類の防除に有効な農薬成分を含有する樹脂被覆された農薬成分含有粒子である、発明1〜3のいずれかに記載の育苗用マット;
[発明6]
発明1〜5に記載の育苗用マットを用いたイネの育苗方法;
である。
【0007】
本発明における育苗用マットを構成するマット基材は、天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維を用いて製造される。使用する天然繊維としては、パルプ、綿、麻、絹、羊毛等が例示でき、これらの繊維はいずれも自然環境の中で分解されるので好ましい。また天然繊維とともに使用される化学繊維としては、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン等の繊維が例示される。
マット基材は、天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維を原料にして例えば以下の方法により製造することができる。(a)天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維を、特開平7−241136、特開平09−59812等に記載の形状の立体編みし、立体編地のマット基材とする;(b)天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維を平面編み(開き目編み、閉じ目編み、一重たて編み等のたて編み、平編み、ゴム編み、パール編み、タック編み、レース編み等のよこ編み)し、得られる平面編地を縦または横方向に積層させて、各シート間を結合剤で接合させるか、シートの積層方向に糸を通す等により接合して、マット基材とする;(c)天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維をランダムな方向に積層し、各繊維間を天然樹脂や合成樹脂等により網目状に固定化させて、マット基材とする。
尚、ここで使用される結合剤は、天然高分子、合成樹脂、天然および合成ゴム等が挙げられる。天然高分子としては、デンプン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ソーダ、グアーガム、キサンタンガム、ビーンガム、カラギーナン、グルテンなどが挙げられる。合成樹脂としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、アクリル系樹脂、フェノール樹脂、ポリウレア樹脂、ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン共重合体樹脂などが挙げられる。天然および合成ゴムとしては、天然ゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴムなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独、もしくは2種類以上混合して用いることができる。これらのうち好ましいものはデンプン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ等の水溶性高分子である。
【0008】
本田への移植後に、マット基材がイネの生長を妨げることが無いように、マット基材は本発明の育苗用マットの10重量%以下とする。また、本発明におけるマット基材は、移植機械による移植時に力で容易にイネ苗毎に分離できるように、マット基材の平面方向への引っ張り強度が、乾燥時/湿潤時=5以上となるようなものが好ましい。
マットの大きさは運搬、機械移植に適した大きさであれば特に限定されないが、現在広く用いられているイネの育苗箱の内側寸法が縦横28cm×58cm、深さ2.5cmであることから(以下、本大きさの育苗箱を「通常のイネ育苗箱」と記す)、同寸のものが便利である。一方、近年、縦方向に長いマット(長尺マット)を用いて育苗を行い、機械移植する方法が開示されている。その際、苗の田植えには従来の田植え機をそのまま、もしくは最小限の改造により用いるために、横幅を28cmとし、目的に応じた任意の長さ(例えば6m)とすることも出来る。
本発明の育苗用マットは、育苗マット単独にて育苗されるイネ苗が根を張るに十分な厚みを有していることが好ましく、具体的には10〜30mmの厚みである。即ち、育苗マットを形成するマット基材も同様の厚みを有す。本育苗マットを通常のイネ育苗箱に用いる場合には、10〜25mmの厚みのものが好ましい。
【0009】
本発明における保水材は、ポリアクリル酸、メタクリル酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸等の高分子電解質のアルカリ金属塩、それらとアクリルアミドや2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等との共重合体およびその架橋体を主成分とする合成樹脂、ならびに特開平11−60737等に記載の天然樹脂を原料とする固体であり、通常、粉状あるいは粒状である。本発明の育苗用マットに簡便に担持させることのできる粒状形状の保水材が好ましい。
該保水材は、イネ苗の育苗に必要な水分を保持する為に使用されるが、全育苗期間中において必要とされる全水分を意味するものではなく、育苗床に潅水が行われる間隔に応じて、適宜必要とされる水分量は変化する。通常、求められる水分保持容量としては、28×58cmの単位面積あたり、500〜3000mlであることが好ましく、500〜2000mlであることが更に好ましい。
【0010】
本発明における樹脂被覆された肥料粒子としては、例えば主成分として窒素成分を含有する被覆肥料粒子、具体的には被覆尿素、被覆化成肥料が挙げられる。樹脂被覆された肥料粒子中に、更に含まれていてもよい肥料成分としては、リン酸、カリウム、珪酸、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄等のイネが要求する元素をあげることができる。上記の肥料成分を含有する肥料の原料としては、例えば、尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸カリウム、石炭窒素、ホルムアルデヒド加工尿素肥料(UF)、アセトアルデヒド加工尿素肥料(CDU)、イソブチルアルデヒド加工尿素肥料(IBDU)、グアニール尿素(GU)等の窒素質肥料、過リン酸石炭、重過リン酸石炭、苦土過リン酸、リン酸アンモニウム、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安等のリン酸質肥料、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウム、硝酸カリウム、珪酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、生石炭、消石炭、炭酸カルシウム、硫酸マンガン、硫酸苦土マンガン、鉱さいマンガン、ホウ酸、ホウ酸塩、鉄鋼スラグをあげることができる。
【0011】
この被覆肥料粒子は、肥効成分の溶出速度を初期溶出抑制期間と主溶出期間とに区分して設計されたものであり、育苗期間では苗の肥料吸収速度が小さいので、全量基肥法を実施する際には育苗期間に溶出される肥料成分は施肥量の10重量%以下に制御されていることが好ましく、当該期間におけるより好ましい溶出量は0.5〜7重量%、更に好ましくは1〜5重量%である。初期の溶出抑制期間は育苗期間と等しいか、やや長く設定される。
本発明における樹脂被覆された肥料粒子は、1種類であることに限られず、必要に応じて複数種類の樹脂被覆された肥料粒子を用いることも可能である。
このような被覆肥料粒子を製造するための被覆材としては、特開昭63−147888号、特開平2−275792号、特開平4−202078号、特開平4−202079号、特開平5−201787号、特開平6−56567号、特開平6−87684号、特開平6−191980号、特開平6−191981号、特開平6−87684号等に開示された各種の被覆材から適宜選択して使用できる。肥料粒子を被覆材で被覆する方法には格別の限定はなく、例えば特開平5−212262号に開示された、高分子物質の溶剤溶液を、攪拌装置自身の運動により攪拌されており、かつ高分子物質の溶剤に対する溶解温度以下に保持されている粒状物質に添加し、溶剤を除去する方法、あるいは、特開昭50−99858号に開示された、噴流状態の肥料粒子にポリオレフィン溶液を噴霧すると同時に5m/sec以上の熱風で乾燥する方法を利用することができる。
本発明における樹脂被覆された肥料粒子は、通常1〜5mm、好ましくは2〜4mmの範囲である。
【0012】
本発明における育苗マットが担持する樹脂被覆された肥料粒子の量は、イネの苗が本田に移植後収穫までに必要とする施肥窒素量と、樹脂被覆された肥料粒子が含有する窒素成分の量と、水田10a(1000m2)の面積に移植する苗を育苗するために必要な育苗マットの面積から計算される。10a当りの施肥窒素量は栽培される品種及び地域により異なる。これらの施肥窒素量は各県の農業試験場の試験成績、施肥基準から知ることが出来るが、本発明のマットでは施肥された肥料成分の利用効率が向上するために、基準値より2割少ない窒素量で十分である。近年広く栽培されている品種「コシヒカリ」を、関東以西の、山間部を除く一般的な圃場条件で栽培する場合には、窒素成分として4〜6kg/10aとなるよう樹脂被覆された肥料粒子を担持すれば良い。窒素成分の含有量が41%である樹脂被覆された粒状尿素を用いる場合には、28cm×58cmの面積当たり390〜730gの樹脂被覆された肥料粒子を担持した育苗マットとすれば良い。
【0013】
本発明における樹脂被覆された農薬成分含有粒子に使用される農薬成分は、(A)殺菌性化合物、(B)殺虫性化合物、(C)植物成長調節化合物等の農薬成分を挙げることができ、浸透移行性を有する従来の農薬製剤で使用できるものならすべて使用できる。
(A)殺菌性化合物としては、例えば、アシベンゾラルSメチル、アゾキシストロビン、IBP、イソプロチオラン、イプロジオン、オリサストロビン、カスガマイシン、カルプロパミド、ジクロシメット、シメコナゾール、チウラム、チオファネートメチル、チフルザミド、トリシクラゾール、トリフルミゾール、バリダマイシンA、ヒドロキシイソキサゾール、ピロキロン、フラメトピル、フェノキサニル、プロシミドン、プロベナゾール、ベノミル、メタスルホカルブ等が挙げられ、2種類以上併用してもよい。
(B)殺虫性化合物としては、例えば、アセタミプリド、アセフェート、エチルチオメトン、カルタップ、カルプロパミド、カルボスルファン、クロチアニジン、ジノテフラン、ダイアジノン、チアクロプリド、チアメトキサム、チオシクラム、NAC、ニテンピラム、ピメトロジン、ピリダフェンチオン、バミドチオン、フィプロニル、フラチオカルブ、プロパホス、プロポキスル、ベンフラカルブ、ベンスルタップ、ベンダイオカルブ等が挙げられ、2種類以上併用してもよい。(C)植物成長調節化合物としては、ウニコナゾールP、パクロブトラゾール等が挙げられ、2種類以上併用してもよい。
【0014】
本発明における樹脂被覆された農薬成分含有粒子において、好ましくは農薬成分がいもち病の防除、またはイネミズゾウムシもしくはウンカ類の防除に有効な農薬成分であることが好ましい。更に好ましくはいもち病の防除に有効な農薬成分およびイネミズゾウムシもしくはウンカ類の防除に有効な農薬成分を含有していることが好ましい。
イモチ病の防除に有効な農薬成分としては、アシベンゾラルSメチル、アゾキシストロビン、イソプロチオラン、IBP、オリサストロビン、カスガマイシン、カルプロパミド、ジクロシメット、トリシクラゾール、ピロキロン、フェノキサニル、プロベナゾール、ベノミル、メトミノストロビン等が挙げられ、好ましくはアシベンゾラルSメチル、アゾキシストロビン、イソプロチオラン、オリサストロビン、カルプロパミド、ジクロシメット、トリシクラゾール、ピロキロン、フェノキサニル、プロベナゾール、ベノミル、メトミノストロビン等が挙げられる。
イネミズゾウムシもしくはウンカ類の防除に有効な農薬成分としては、アセタミプリド、アセフェート、エチルチオメトン、カルタップ、カルボスルファン、クロチアニジン、ジノテフラン、ダイアジノン、チアクロプリド、チアメトキサム、NAC、ニテンピラム、ピメトロジン、バミドチオン、フィプロニル、フラチオカルブ、プロポキスル、ベンフラカルブ、ベンスルタップ、ベンダイオカルブが挙げられ、好ましくはアセタミプリド、カルタップ、カルボスルファン、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラム、ピメトロジン、フィプロニル、ベンフラカルブが挙げられる。
【0015】
近年、イネの穂を吸汁加害し、斑点米を生成するカメムシが大きな問題となっている。すなわち、出穂期のイネ玄米をカメムシが吸汁すると、この時の傷が収穫された米粒では黒色、もしくは褐色の吸汁痕となる。吸汁痕を有する米粒が一定割合以上含まれる米は斑点米として米の等級が下がるため、収穫物の経済的価値が低下する。イネの穂を加害するカメムシの種類は多いが、特にホソハリカメムシ、クモヘリカメムシ、アカヒゲホソミドリカスミカメ、アカスジカスミカメ等が代表的な加害害虫である。一般に、これらのカメムシを総称して“斑点米カメムシ類”と言う場合がある。
本発明における樹脂被覆された農薬成分含有粒子において、好ましくは農薬成分がカメムシ類、即ち斑点米カメムシ類の防除に有効な農薬成分であることも好ましい。
カメムシ類の防除に有効な農薬成分としては、アセタミプリド、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラムが挙げられる。
【0016】
本発明における樹脂被覆された農薬成分含有粒子は、1種類であることに限られず、必要に応じて複数種類の樹脂被覆された農薬成分含有粒子を用いることも可能である。
尚、上記の殺菌性化合物、殺虫性化合物及び植物成長調節化合物を一緒に併用することも可能である。本発明の育苗用マットにおいて、複数の農薬成分を含有する被覆粒子を用いる場合、対象植物に対して薬効が異なり、最適の処方を個別に選択できる。混合すると農薬有効成分が分解する恐れがあるならば、農薬成分をそれぞれ別箇の被覆粒子に担持させてもよい。本発明における樹脂被覆された農薬成分含有粒子以外に、上記の農薬成分を含有する被覆されていない粒子を、マット基材に担持させてもよい。
農薬成分の量としては、通常のイネ育苗箱に投入される農薬量、もしくは、一定面積の圃場に定植する苗を育苗するのに必要な通常のイネ育苗箱の数、および、一定面積の圃場に投入される農薬量より計算できる。一般に、内形28cmx58cmの育苗箱で育苗されたイネの苗を10a当たり20〜25箱用いる。従って、育苗シート3.2〜4m2当たり、通常は10〜300g、好ましくは20〜250gである。10g以上であると薬効が植物に効果的に作用し、300g以下であると経済的に有利である。
【0017】
本発明における樹脂被覆された農薬成分含有粒子は、農薬成分を含有する粒子を被覆材で覆ったもので、育苗期間中、イネ苗に薬害を与えず、本田移植後の生育期間中には薬効を長期に持続するように成分溶出が調整されたものである。
使用できる被覆材としては、従来の緩効性肥料粒子の被覆剤として使用されているものなら全て適用でき、具体的には(1)フェノール樹脂及びタルクの混合物、(2)硫黄、パラフィンワックス及びけいそう土の混合物、硫黄、パラフィンワックスおよびタルクの混合物、(3)オレフィン樹脂、オレフィン樹脂および界面活性剤の混合物、オレフィン樹脂およびタルクの混合物、(4)松やに、パラフィンワックス、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびタルクの混合物、(5)大豆油とシクロペンタジエンの共重合物等が挙げられ、水に対して不溶〜難溶性の有機物質であれば使用可能である。より具体的には、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレン非共役ジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリロニトリルーブタジエンゴム等の合成ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸塩共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等の熱可塑・熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0018】
樹脂被覆された農薬成分含有粒子は、農薬成分を含有する粒子を押し出し造粒法、被覆造粒法及び吸着法等で粒剤化した後、上記の被覆材を該粒子の表面に被覆して製造するが、被覆材で被覆する方法には格別の限定はなく、例えば特開平5−906、特開平06−9304、特開平9−143005、特開2004−189752等に開示された方法を利用することができる。
被覆材で被覆する前の農薬含有粒子を造粒する方法を次に説明する。押し出し造粒法は、クレー、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウムなどの無機質担体に農薬成分、バインダーおよび分散剤を、水を加えて混練した後、一定の大きさのスクリーンを通して押し出し造粒する。乾燥後、一定の大きさにふるい分けする。被覆造粒法は、粒状ケイ石、粒状炭酸カルシウムなどの担体に、液状の農薬成分(または固状の農薬成分に適当な溶剤を加えて液状としたもの)と分散剤などの補助剤を加える。そしてこれらを混合しながらホワ
イトカーボンなどの吸油性の微粉末(吸油剤)を段階的に加えていく。こうして担体表面に、吸油剤に吸収された農薬成分、補助剤などをコーティングし、粒状に製剤する。必要により樹脂を加え、表面の薄膜に強度を付与する場合もある。吸着法は、吸油能を有する粒剤担体に、被覆法と同様に液状の農薬成分(または固状の農薬成分に適当な溶剤を加えて液状としたもの)を噴霧または投入しつつ混合し、均一に吸着させる。この吸着法にはベントナイト、軽石、焼成ケイソウ土、ゼオライトなどの天然の鉱物を砕いてふるい分けた粒状担体を用いるものと、あらかじめ押し出し造粒法などで農薬原体を含まない無成分基剤を造粒し、これに液体の原体を混合吸着させる方法がある。
【0019】
被覆前の農薬含有粒子と、被覆材との重量比は、粒子100に対して被覆材は通常0.05〜280であり、好ましくは0.5〜200である。また被覆層の膜厚は通常平均0.005〜1mm、好ましくは0.1〜0.5mmである。
本発明における樹脂被覆された農薬含有粒子は、通常0.5〜5mm、好ましくは1〜5mmの範囲である。
【0020】
本発明の育苗用マットは、上記のマット基材に、上記の保水材、樹脂被覆された肥料粒子、および、樹脂被覆された農薬成分含有粒子を担持させて、構成される。
マット基材に保水材を担持する方法としては、慣用の技術が使用できる。例えば、マット基材が繊維の平面編みシートの積層物で、保水材が粉状物である場合は、2枚の平面編みシート間に粉末状の保水材を挟持させる、マット基材に適当な溶媒に溶解させた保水材を吹き付ける等の方法を用いることもできる。また、保水材が樹脂被覆された肥料粒子や樹脂被覆された農薬成分含有粒子と同様の粒径の粒状である場合は、樹脂被覆された肥料粒子や樹脂被覆された農薬含有粒子と同様の方法によりマット基材に担持することができる。
【0021】
樹脂被覆された肥料粒子、樹脂被覆された農薬含有粒子は、以下に示す方法により、マット基材に担持させることができる。
【0022】
(a)マット基材が、天然繊維、または天然繊維と化学繊維との混合繊維の立体編地である場合
該立体編地の網目構造中に、樹脂被覆された肥料粒子および樹脂被覆された農薬含有粒子を物理的に押し込み、移送時等における粒子の脱落防止の為に、結合剤を吹き付けることにより固定化して、本発明の育苗用マットを構成する。
本目的に使用できる結合剤は、マット基材に関する記載における結合剤と同じものが使用できる。結合剤を吹き付ける際には、適当な溶媒(水、アルコール類等)に溶解して用いる。
【0023】
(b−1)マット基材が、天然繊維、または天然繊維と化学繊維との混合繊維の平面編地の上下方向の積層体である場合
複数の平面編地の間に、樹脂被覆された肥料粒子および樹脂被覆された農薬含有粒子をできる限り均等になるように挟み込む、。これを必要に応じて複数回繰り返し、所望の厚さとした後、上記の結合剤を吹き付けることにより、各シート間を接合するか、あるいはシートの積層方向に適当な間隔で糸を通すことにより一体化させて、本発明の育苗用マットとして構成する。
【0024】
(b−2)マット基材が、天然繊維、または天然繊維と化学繊維との混合繊維の平面編地の横方向の積層体である場合
図1に図示したように、複数の平面編地を用い、隣接する編地の一部を接合することにより、略ハニカム形状のシート状物を作成する。形成されたハニカム形状の空間部分に、樹脂被覆された肥料粒子および樹脂被覆された農薬含有粒子を挟み込む。該シート状物において、シート方向に対して並行(上記の複数の平面編地に対しては垂直)に平面編地を配置して、各ハニカム形状における底となるようにすることにより、該シート状物からの粒子の脱落を防止するのに好ましい。更に、上記の結合剤を吹き付けてもよい。複数の該シート状物を積層し、所望の厚さとして、本発明の育苗用マットとして構成する。
【0025】
(c)マット基材が、天然繊維、または天然繊維と化学繊維との混合繊維をランダムな方向に積層し、各繊維間を結合剤により網目状に固定化されたモノである場合
所望の深さを有する型枠に、天然繊維、または天然繊維と化学繊維との混合繊維、並びに樹脂被覆された肥料粒子および樹脂被覆された農薬含有粒子を、できる限り均等になるように詰め入れ、これに結合剤を吹き付けることにより、全体を一体化させて固定することにより、本発明の育苗用マットを構成する。
【0026】
本発明の育苗用マットは、乾燥した状態では非常に軽量であるが、吸湿することにより重量増加したり、更には樹脂被覆された肥料粒子や農薬粒子が劣化する。樹脂被覆された肥料粒子は、被覆内部へ水分が侵入することで肥料が溶解し、ついで溶解した肥料が外部に徐々に浸出することで溶出が制御されている。被覆内部へ水分が侵入して肥料が溶解する段階がほぼ初期溶出抑制期間に相当する。従って、保管時に樹脂被覆された肥料粒子内に水分が浸入すると、マットの使用時に初期溶出期間が設計より短くなるので好ましくない。肥料粒子内への水分侵入は温度と周囲の湿度条件に依存し、温度が高く、周囲の湿度が高いほど速まる。この為、本発明の育苗用マット保管時は非透水性のパッケージに包むか、低湿度条件下、低温条件下にて保管する。
【0027】
本発明の育苗用マットを使用して、育苗床を調製するには、育苗用容器または平らな適当な場所に本発明の育苗用マットを敷きつめ、催芽処理されたイネ種子を通常量、すなわち28cm×58cm当たり100〜300g均一に散布する。その後、覆土を行うか、特開平10−210868号報に記載されるような不織布で被覆する。その後、1〜2日間30〜32℃に保つことにより出芽させ、その後はおおむね20〜27℃に保ち、苗を育成する。約3週間で2.5葉の稚苗、約5週間で3.5葉の中苗が育成できる。
【0028】
イネ種子は、種モミ選別(消毒の後、塩水選により浮きモミを除去し、水洗の後乾燥する)、浸種(5日間浸水して、種モミの吸水を均一にする。その間、毎日水替え、水切りにより酸素補給を繰り返す)、催芽(酸素補給の後、32℃の湯温で10時間浸種して、ハト胸状態にする)等の工程を経た後に使用される。
【0029】
適当な間隔でイネ種子が埋め込まれた育苗用マットを用いた育苗床に、育苗期に必要な肥料等を含有する水を潅水することで、簡単に育苗を行うことが可能である。また、本発明の育苗用マットは、育苗用マット単独で育苗に必要な水分を保持することができる為、床土の使用も不要である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のイネ苗の育苗用マットは、イネが本田で育成する期間に必要な肥料および農薬を含有しており、育苗床の調製に要する作業が格段に軽減される。更に、育苗マット単独で育苗に必要な水分を保持することができる為、重い培土が不要で、移植機械にイネ苗をセットする作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の1実施形態である、マット基材が平面編地の上下方向の積層体である育苗マットの断面図を示す。
【図2】本発明の1実施形態である、マット基材が平面編地の横方向の積層体である育苗マットの概略図を示す。
【符号の説明】
【0032】
1 天然繊維、または天然繊維と化学繊維との混合繊維からなる平面編地
2 樹脂被覆された農薬成分含有粒子
3 樹脂被覆された肥料粒子
4 保水剤
5 固定用の糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維単独、又は天然繊維と化学繊維との混合繊維からなるマット基材に、保水材、樹脂被覆された肥料粒子、および樹脂被覆された農薬成分含有粒子が担持されてなる苗の育苗用マット。
【請求項2】
イネ苗の育苗用マットであり、樹脂被覆された肥料粒子が窒素成分を含有する樹脂被覆された肥料粒子であり、該窒素成分の量がイネ苗を本田移植後の生育期間中に必要な窒素成分量である、請求項1記載の育苗用マット。
【請求項3】
樹脂被覆された肥料粒子が被覆尿素である、請求項2に記載の育苗用マット。
【請求項4】
樹脂被覆された農薬成分含有粒子が、いもち病の防除に有効な農薬成分、または、イネミズゾウムシもしくはウンカ類の防除に有効な農薬成分を含有する樹脂被覆された農薬成分含有粒子である、請求項1〜3のいずれかに記載の育苗用マット。
【請求項5】
樹脂被覆された農薬成分含有粒子が、カメムシ類の防除に有効な農薬成分を含有する樹脂被覆された農薬成分含有粒子である、請求項1〜3のいずれかに記載の育苗用マット。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の育苗用マットを用いたイネの育苗方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−246708(P2006−246708A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63458(P2005−63458)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】