説明

インサート成型用フィルム

【課題】 表面に易接着処理を施していないPETフィルム上に装飾用インキや金属蒸着膜を形成しても熱処理によって虹ムラの発生しないインサート成型用フィルムを提供する。
【解決手段】 ガラス転移温度が75〜95℃かつ水酸基価が20〜35mgKOH/gであるポリオールとポリイソシアネートを含有する熱硬化型樹脂組成物を,表面に易接着処理が施されていないPETフィルム上に,硬化膜厚が10nm未満となるように,塗布,硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインサート成型用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,プラスチックフィルムはその加工性,透明性等に加えて,軽量,安価といったことから,ガラスに変わり自動車業界,家電業界を始めとして種々の産業で使用されており,最近ではプラズマディスプレイ,液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイやタッチパネル,パーソナルコンピュータなどのディスプレイ用としても広く用いられている。プラスチックフィルムはガラスと比較して柔らかく,表面に傷が付き易い等の欠点を有している。この欠点を解消するために紫外線硬化型樹脂組成物等をプラスチックフィルムに塗工したハードコートフィルムが用いられている。
【0003】
ハードコートフィルムの中でも,基材樹脂と一体成型できるように柔軟性に優れた樹脂を使用したタイプ,いわゆるインサート成型用フィルムは,成型体に直接ハードコート層を形成する場合に比べて,膜厚の制御が容易となり,成型体毎にハードコート処理を行う必要がないため生産性を向上できる等の利点がある。
【0004】
また,ハードコート層を形成した面とは逆の面に装飾用印刷および/あるいは金属蒸着処理を施して意匠性を付与することも行われている。この際,プラスチックフィルム上にダイレクトに印刷層や金属層を形成することは困難なため,プライマーやアンカーコート剤と称される下塗り剤が用いられている。
【0005】
【特許文献1】特開2009−227837号公報
【特許文献2】特開2002−220487号公報
【特許文献3】特開2005−194363号公報
【特許文献4】特開2001−13303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,金属蒸着処理を施したフィルムを加熱成型する際にフィルム上で光干渉が起こり,虹ムラが出てしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる状況に鑑み検討されたもので,
ガラス転移温度が75〜95℃かつ水酸基価が20〜35mgKOH/gであるポリオールとポリイソシアネートを含有する熱硬化型樹脂組成物を,表面に易接着処理が施されていないPETフィルム上に,硬化膜厚が10nm未満となるように,塗布,硬化させてなることを特徴とするインサート成型用フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,密着性,耐ブロッキング性に優れたインサート成型用フィルムを得ることができ,さらにその硬化被膜上に装飾用印刷および/あるいは金属蒸着処理を施すことが可能で,虹ムラが発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下,本発明について詳細に説明する。本発明に用いるガラス転移温度(以下Tg)が75〜95℃かつ水酸基価(以下OH価)が20〜35mgKOH/gであるポリオールとしては,ポリエーテルポリオール,ポリエステルポリオール,アクリルポリオール,エポキシポリオール,カーボネートポリオール,カプロラクトンポリオールなどが挙げられる。
【0010】
市販品としてはVU−191(大日本インキ化学工業株式会社製,Tg94℃,OH価33mgKOH/g),Q195−45(三井化学株式会社製,Tg84℃,OH価27mgKOH/g),Q612(三井化学株式会社製,Tg79℃,OH価25mgKOH/g)等が挙げられる。
【0011】
ポリオールのガラス転移温度が75℃よりも低い場合,硬化被膜の硬度が不十分であるため,フィルム巻き取り時に擦れ傷やブロッキングが発生する。95℃よりも高い場合,硬化被膜が硬すぎて脆くなり,PETフィルムとの密着性が低下する。またポリオールの水酸基価が20mgKOH/gよりも低い場合,ポリイソシアネートとの反応性が悪く,硬化不良により十分な硬度が得られず,前記,ガラス転移温度が75℃よりも低い場合と同様,フィルム巻き取り時に擦れ傷やブロッキングが発生する。35mgKOH/gよりも高い場合,ポリイソシアネートとより密な架橋構造を形成し,硬化収縮により密着性が低下する。
【0012】
ポリイソシアネートとしては,特に限定されることなく,本発明に用いるポリイソシアネート化合物としては,具体的には,例えばジフェニルメタンジイソシアネート(MDI),トリレンジイソシアネート(TDI),ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート類のほか,ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI),リジンメチルエステルジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類,水添ジフェニルメタンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート,ノルボルナンジイソシアネート,水添トリレンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート類が挙げられる。
【0013】
市販品としてはDN−981(大日本インキ化学株式会社製)D−120N,Dー170N,D−177N(三井武田ケミカル株式会社製),コロネートHX(日本ポリウレタン工業株式会社製)等が挙げられる。
【0014】
この他に有機溶剤を添加することもできる。有機溶剤としては,例えば,ヘキサン,ヘプタン,シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系,トルエン,キシレンなどの芳香族炭化水素系,塩化メチレン,塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素系,メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノールなどのアルコール系,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,2−ペンタノン,イソホロンなどのケトン系,酢酸エチル,酢酸ブチルなどのエステル系,エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。
【0015】
その他,各種添加剤,例えば,反応促進剤,酸化防止剤,レベリング剤,消泡剤,無機充填剤,カップリング剤,防腐剤,可塑剤,流動調整剤,増粘剤,pH調整剤等などを配合材料としてもよい。
【0016】
本発明の熱硬化型樹脂組成物のPETフィルムへの塗布方法については特に制限はなく,公知の方法,例えばグラビアコート法,バーコート法,ナイフコート法,ロールコート法,ブレードコート法,ダイコート法,スプレーコート法,ディッピング法などを用いることができ,硬化皮膜の厚みを10nm未満とすることが好ましい。上限を超えると高温成型時に虹ムラが発生しやすくなる。
【0017】
本発明の熱硬化型樹脂組成物を表面に塗布,硬化させたインサート成型用フィルムに金属蒸着処理により被膜形成可能な金属薄膜としてはアルミニウム,錫,亜鉛,金,銀,白金,ニッケル,クロム,及びこれらの合金などが挙げられる。
【0018】
本発明の熱硬化型樹脂組成物を表面に塗布,硬化させたインサート成型用フィルムに印刷処理により被膜形成可能なインキとしては特に限定されることなく,例えば市販品としてはIPX−971,IPX−102,IPX−000(帝国インキ製造株式会社製),JT−25(株式会社セイコーアドバンス製)などが挙げられる。印刷の方法としては特に限定されることなく,スクリーン印刷,インクジェット印刷,オフセット印刷,グラビア印刷,ホットスタンプ印刷などが挙げられる。
【0019】
以下,本発明について実施例,比較例を挙げてより詳細に説明するが,具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。
【実施例1】
【0020】
アクリルポリオール(VU−191,大日本インキ化学工業株式会社製,固形分55%,Tg94℃,OH価33mgKOH/g)100重量部,脂肪族系イソシアネート化合物(DN−981,大日本インキ化学株式会社製,固形分75%)18重量部,溶媒としてMEK(メチルエチルケトン)を用い,固形分5%の熱硬化型樹脂組成物を得た。次いで,易接着処理を施していないPETフィルム(コスモシャインA4100,東洋紡績株式会社製,商品名)に硬化膜厚が5nmとなるようにバーコート法で塗工して熱風乾燥機で140℃,90秒の条件で乾燥してインサート成型用フィルムを得た。
【実施例2】
【0021】
実施例1において,硬化膜厚が2nmとなるように塗工した以外は同様に実施した。
【0022】
比較例1,2,3,4
実施例1において,硬化膜厚が80,40,20,10nmとなるように塗工した以外は同様に実施した。
【0023】

評価結果を表1に示す。
【表1】

【0024】
試験・評価方法
(1)耐傷付き性
ウェスによる表面摩擦試験(荷重50gf、ストローク幅30mm、10往復)後に傷の有無を目視観察により評価。○:傷0本、×:傷1本以上。
(2)密着性
JIS K 5600−5−6(1999年版)に基づく碁盤目試験に基づき,塗工面に10×10にマス目を作成し,セロハンテープを貼り,上方に引っ張り剥離状況を確認。剥がれなかったマス目を数え,100/100を○とした。
(3)耐ブロッキング性
塗膜にPETフィルムを被せ,その上に1kgの重りを乗せて熱風乾燥機で80℃,30分の条件で放置後,ブロッキングの有無を確認し,ブロッキング無しを○とした。
(4)アルミニウム蒸着密着性
塗膜上に蒸着装置によりアルミニウム薄膜を形成し,(2)と同様に密着性を確認。
(5)アルミニウム蒸着後,加熱試験
上記によりアルミニウムを蒸着した後,200℃×2分加熱し,虹ムラの発生を目視により確認した。○:虹ムラ発生無し,×:虹ムラ発生有り



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が75〜95℃かつ水酸基価が20〜35mgKOH/gであるポリオールとポリイソシアネートを含有する熱硬化型樹脂組成物を,表面に易接着処理が施されていないPETフィルム上に,硬化膜厚が10nm未満となるように,塗布,硬化させてなることを特徴とするインサート成型用フィルム。
【請求項2】
請求項1記載のフィルム上に装飾用印刷および/あるいは金属蒸着処理を施したインサート成型用フィルム。


【公開番号】特開2011−156662(P2011−156662A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17602(P2010−17602)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】