インジェクタ噴射タイミング補正・診断方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置
【課題】噴射タイミングのずれを確実に検出、診断可能とする。
【解決手段】インジェクタ2−1〜2−nが無噴射状態において、エンジン3の運転条件に基づいて定まるインジェクタ2−1〜2−nの通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて通電開始タイミングのずれ量を算出し、その算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、実際の燃料噴射の際に、エンジン3の運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、差分通電時間開始タイミング学習値により補正し、より正確な燃料噴射を可能としてなるものである。
【解決手段】インジェクタ2−1〜2−nが無噴射状態において、エンジン3の運転条件に基づいて定まるインジェクタ2−1〜2−nの通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて通電開始タイミングのずれ量を算出し、その算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、実際の燃料噴射の際に、エンジン3の運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、差分通電時間開始タイミング学習値により補正し、より正確な燃料噴射を可能としてなるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射制御装置におけるインジェクタの劣化等に起因する噴射タイミングのずれを補正、診断する方法に係り、特に、補正精度の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料噴射制御においては、インジェクタ(燃料噴射弁)の特性のばらつきや劣化等による実燃料噴射量と目標燃料噴射量とのずれを補正するための燃料噴射量補正技術が従来から種々提案されている。
例えば、噴射量の学習処理を行うよう構成された燃料噴射制御装置によるパイロット噴射制御おいて、学習のための噴射を実施した場合と、学習のための噴射を実施しなかった場合のエンジン回転数の変動量を検出し、検出された回転数変動量を基にインジェクタにおいて実際に噴射されたであろう燃料噴射量(実燃料噴射量)を演算算出し、実燃料噴射量と指令燃料噴射量との差を補正量として、燃料噴射量の補正を行い、実燃料噴射量が指令燃料噴射量に一致するようにしたものなどが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
ところで、実燃料噴射量を直接計測することは実際には困難であるため、上述のようにエンジンの回転数変動量に基づいて実燃料噴射量を算出する手法は、比較的簡易に実燃料噴射量を得ることができることから、従前から用いられている手法である。
このような回転変動量を求める手法としては、例えば、車両がいわゆるオーバーラン(無噴射状態)において、微小噴射量の噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動を、エンジン回転数の周波数成分の変化として検出し、その周波数成分の変化から実噴射量を推定する手法もあり、かかる手法に基づいた燃料噴射量の補正も行われている。
【0004】
上述のようなエンジンの回転変動量を抽出して噴射量補正を行う従来の手法においては、インジェクタの噴射量のずれ、すなわち、換言すれば、通電時間のずれが生ずることで、噴射タイミングも同様にずれが生じているとして、通電時間のずれの補正と共に、噴射タイミングの補正も行われる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−36788号公報(第7−11頁、図1−図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際には、個々のインジェクタの特性ばらつき等に起因して、単位時間当たりの噴射量である噴射率が異なることがあり、そのため、本来、ほぼ同一であるとの前提であった回転変動量が異なってしまうため、噴射タイミングにずれが生じているか否か正確に把握できない場合があるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、噴射タイミングのずれを確実に検出、診断し、補正することのできるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法は、
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能としてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
内燃機関の動作制御を実行する電子制御ユニットが設けられ、前記電子制御ユニットにより燃料噴射制御が実行されるよう構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能に構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、噴射タイミング、換言すれば、通電開始タイミングが本来のタイミングからずれているか否かを把握できると共に、そのずれ量を従来に比してより正確に把握することができ、噴射タイミングのずれの診断の精度向上と共に、噴射タイミングの学習値の精度向上を図ることができ、その結果、燃焼効率の更なる向上、排気ガスの更なる低減、抑圧がなされるという効果を奏するものである。
また、噴射タイミングの学習値の精度向上により、パイロット噴射とメイン噴射のインターバルの短縮の要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置において前提とされる従来の燃料噴射量補正制御の概略を説明するための模式図である。
【図3】図1に示されたコモンレール式燃料噴射制御装置を構成する電子制御ユニットにおける本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理実行のために電子制御ユニットが有する機能を機能ブロックにより模式的に示した模式図である。
【図4】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体手順の前半部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【図5】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体手順の中盤部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【図6】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体手順の後半部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【図7】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理における噴射タイミングの変更手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図8】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理のより具体的な処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図9】噴射タイミングの違いによる回転変動量の概略の変化特性を示す特性線図である。
【図10】基準となる噴射タイミングに対する噴射タイミングのずれを表す相対角度と回転変動量との関係を示した特性線図である。
【図11】本発明の実施の形態における補正通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順を模式的に表した模式図である。
【図12】電子制御ユニットにより実行される補正通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図12を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法が適用される燃料噴射制御装置の一構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における燃料噴射制御装置は、いわゆるコモンレール式燃料噴射制御装置であり、かかるコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料を内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下「エンジン」と称する)3の気筒へ噴射供給する複数のインジェクタ(燃料噴射弁)2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述するインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種の燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0012】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0013】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
インジェクタ2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。かかる本発明の実施の形態におけるインジェクタ2−1〜2−nは、例えば、従来から用いられているいわゆる電磁弁タイプのものなどが好適である。
【0014】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、インジェクタ2−1〜2−nを通電駆動するための回路(図示せず)や、調量弁6等を通電駆動するための回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数、アクセル開度、外気温度、大気圧、ブースト圧などの各種の検出信号が、エンジン3の動作制御や燃料噴射制御に供するために入力されるようになっている。
【0015】
また、本発明の実施の形態における燃料噴射制御装置においては、エンジン3の吸気マニホールド21と排気マニホールド22との間には、過給機23が設けられており、吸気に対する加圧を可能としている。
さらに、排気管22aの途中の適宜の位置には、排気シャッターバルブ24が設けられており、その開閉によりいわゆる排気ブレーキを作用させることが可能となっている。
なお、上述の過給機23の動作制御や排気シャッターバルブ24を開閉するための電磁アクチュエータ(図示せず)の動作制御も、先の電子制御ユニット4により実行されるようになっている。
【0016】
次に、電子制御ユニット4によって実行される本発明の実施の形態の燃料噴射量補正制御処理の第1の実施例について、図2乃至図4を参照しつつ説明する。
まず、本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、次述するような燃料噴射量補正制御が電子制御ユニット4により実行されるよう構成されてなるものであることを前提としている。
本発明の実施の形態において前提とされる燃料噴射量補正制御は、従来装置においても行われているもので、インジェクタ2−1〜2−nの劣化や故障等に起因して、特に、パイロット噴射における燃料噴射量の本来の燃料噴射量からずれを補正するものである。
【0017】
すなわち、かかる燃料噴射量補正制御について概説すれば、この燃料噴射量補正制御においては、まず、エンジン3がオーバーラン状態(無噴射状態)にある場合に、レール圧に応じた微小噴射量が設定され、その微小噴射量で数十回程度の微小噴射が実行され、その際に生ずるエンジン回転数の変動の周波数成分が平均値として抽出される。なお、かかる処理は、各インジェクタ2−1〜2−n毎に行われるものとなっている。
次いで、その変動周波数成分を基に、その時に実際に噴射されたであろう燃料量の推定値(推定噴射量)が算出される。
【0018】
そして、初回に算出された推定噴射量が、レール圧毎に定められた所定の閾値を上回る場合には、推定噴射量が所定の閾値に向かって下降してゆき所定の閾値にほぼ収束するように、微小噴射における微小噴射量が減じられつつ推定噴射量の取得が繰り返される一方、初回に算出された推定噴射量が、レール圧毎に定められた所定の閾値を下回る場合には、推定噴射量が所定の閾値に向かって上昇してゆき所定の閾値にほぼ収束するように、微小噴射における微小噴射量が増加されつつ推定噴射量の取得が繰り返され、所定の閾値に収束した際の推定噴射量を得るに要した通電時間ETと、基準通電時間との差ΔETが、差分通電時間学習値として通電時間学習値マップに記憶される。
【0019】
ここで、基準通電時間は、インジェクタ2−1〜2−nの各々の使用開始時点における通電時間である。換言すれば、基準通電時間は、インジェクタ2−1〜2−nの使用開始直前に実測された通電時間であり、インジェクタ2−1〜2−n毎に、レール圧と燃料噴射量とに対応する通電時間がマップ化(以下、便宜的に「基準通電時間マップ」と称する)されて、電子制御ユニット4に予め記憶されているものである。
【0020】
しかして、差分通電時間学習値ΔETが取得された際の燃料噴射量での噴射の際には、基準通電時間が差分通電時間学習値ΔETによって補正された時間が通電時間として用いられ、燃料噴射量と通電時間のずれを補正可能としたものである。なお、以下、説明の便宜上、基準通電時間を差分通電時間学習値ΔETによって補正して求められた通電時間を、「通電時間学習値」と称することとする。
【0021】
図2には、上述の燃料噴射量補正制御を模式的に表した模式図が示されており、以下、同図について説明する。
同図において、「オーバーラン較正」と表記されると共に符号M2−1が付された箇所は、先に説明した、微小噴射から始まり、所定の閾値に収束せしめられた推定噴射量を得るに要した通電時間ETが算出されるまでの一連の処理を模式的に表している。
また、図2において、符号M2−2が付された部分は、基準通電時間マップを模式的に表したものである。かかる基準通電時間マップは、インジェクタ2−1〜2−nの使用開始直前に実測された通電時間(基準通電時間)が記憶されたものであり、インジェクタ2−1〜2−n毎に、レール圧と燃料噴射量とに対応する基準通電時間がマップ化されたものである。
この基準通電時間マップから読み出される基準通電時間と上述の通電時間ETは、減算処理(図2の符号M2−3が付された箇所)により差分ΔETが求められるようになっている。
【0022】
そして、上述のようにして得られた差分ΔETの内、所定の制限範囲(符号M2−4参照)にあるもののみが符号M2−5が付された通常時間学習値マップに差分通電時間学習値ΔETとして書き込まれるようになっている。
学習値が取得された以後は、該当する目標レール圧、燃料噴射量における通電時間は、基準通電時間を学習値で補正したもの、すなわち、基準通電時間と差分通電時間学習値ΔETとの加算結果とされ(図2の符号M2−6参照)、インジェクタ2−1〜2−nの劣化等による通電時間、燃料噴射量のずれが補正されるようになっている。
【0023】
なお、差分通電時間学習値ΔET自体は、正負双方を採り得るので、差分通電時間学習値ΔET自体が正の値の場合には、基準通電時間+差分通電時間学習値ΔETは実際に加算処理となるが、差分通電時間学習値ΔET自体が負の値の場合、基準通電時間+差分通電時間学習値ΔETは実際には減算処理となる。
【0024】
次に、本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理について概括すれば、かかるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理は、先に説明した燃料噴射量補正処理における複数回の微小噴射によりエンジン3の回転変動量を得、その回転変動量を基に通電時間のずれを学習する手法を、通電開始タイミングのずれの学習に流用したものである。
すなわち、エンジン3がオーバーラン状態(無噴射状態)にある場合に、燃料噴射量一定の状態で、レール圧、燃料噴射量等に応じて定まる通電開始タイミングを基準として、通電開始タイミングを進角側と遅角側に、それぞれ所定タイミングづつ複数回ずらしてそれぞれ複数回の微小噴射を行い、それぞれの微小噴射時におけるエンジン3の回転変動量を抽出する。そして、その抽出された回転変動量の大きさ、変化量、変化の仕方などから、通電開始タイミングが本来あるべきタイミングから進角側、遅角側のいずれへ、どの程度ずれているかを求め、通電開始タイミングの補正を行うものである。
【0025】
図3には、電子制御ユニット4において実行される本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の概略が、機能ブロックにより模式的に示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
まず、オーバーラン状態における燃料噴射に際して、レール圧に応じて、先に説明した燃料噴射補正処理における学習処理により得られた差分通電時間学習値を反映した通電時間学習値が求められると共に、この通電時間学習値には、過給圧の影響を考慮した補正が施される(図3の符号M3−1参照)。なお、通電時間学習値は、先に燃料噴射量補正処理で述べたように、基準通電時間を差分通電時間学習値ΔETによって補正して求められた通電時間である。
なお、前提として、先に図2を参照しつつ説明した燃料噴射補正処理は、このインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理に先だって実行されているものとする。
【0026】
上述のように過給圧の大きさに応じた補正が施された通電時間学習値で微小噴射が複数回行われるが(図3の符号M3−2参照)、複数回の微小噴射を行う度毎に、通電開始タイミングが所定量ずつ変更されるようになっている。すなわち、エンジン3の運転条件、例えば、目標レール圧、燃料噴射量等に応じて定まる通電開始タイミングを基準として、例えば、所定通電開始タイミングβだけずらして通電開始タイミングが設定され、所定回数nの微小噴射が行われる。次いで、基準となる通電開始タイミングから、通電開始タイミング2βずらして通電開始タイミングが設定されて、同様に所定回数nの微小噴射が行われる。以下同様にして、通電開始タイミングが予め定められた回数変更されて、それぞれ所定回数nの微小噴射が行われるようになっている。
この通電開始タイミングの変更は、先の基準となる通電開始タイミングを中心にして、その進角側と遅角側の双方で予め定めた範囲で行われるものとなっている。
【0027】
そして、各微小噴射毎に生ずるエンジン3の回転変動量が算出され(図3の符号M3−3参照)、さらに、通電開始タイミングの変更に伴う回転変動量の変化量が算出される(図3の符号3−4参照)。この変化量は、レール圧毎に異なるものであり、レール圧毎に算出された目標となる変化量(図3の符号M3−5参照)と比較され、その比較結果に応じて、インジェクタの劣化による噴射タイミング(通電開始タイミング)のずれ量が算出される(図3の符号M3−6参照)。さらに、このようにして算出された噴射タイミングのずれ量が、正常とされる範囲のものであるか否か診断され(図3の符号M3−6)、正常と診断された場合には、検出された噴射タイミングのずれ量を考慮して、本来の噴射タイミングが計算し直され(図3の符号M3−7)、噴射タイミング学習値(通電開始タイミング学習値)の計算に供されることとなる。
【0028】
ここで、本発明の実施の形態における噴射タイミング学習処理について説明すれば、基本的に、通電時間学習処理と同様である。すなわち、上述のようにして検出された噴射タイミングのずれ量、換言すれば、通電開始タイミングのずれ量は、後述するように許容範囲を超えたものではないと判定された場合には、差分通電開始タイミング学習値として、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に予め確保された通電開始タイミング学習値マップに記憶される。なお、差分通電開始タイミング学習値は、レール圧毎に取得されるものであるので、記憶の際には、対応するレール圧をパラメータとして記憶されるものとなっている。
【0029】
そして、実際の噴射の際には、レール圧等の運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングが、エンジン回転数に対応して通電開始タイミング学習値マップから読み出される差分通電開始タイミング学習値で補正され、通電開始タイミング学習値とされる。この通電開始タイミング学習値は、最終的な通電開始タイミングとされて噴射の実行に供されることとなる。
なお、差分通電開始タイミング学習値自体は、正負双方の値を採り得るので、差分通電開始タイミング学習値が正の値の場合(遅角側にずれている場合)には、上述の通電開始タイミングの補正は加算処理となるが、差分通電開始タイミング学習値が負の値の場合(進角側にずれている場合)には、上述の通電開始タイミングの補正は減算処理となる。
【0030】
次に、電子制御ユニット4により実行される本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体的な手順について、図4乃至図6を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初にエンジン3の動作状況を表す種々の動作情報の入力が行われる(図4のステップS102参照)。
すなわち、図示されないセンサ等により検出されたエンジン回転数Neやアクセル開度Acc等がエンジン動作情報として電子制御ユニット4に適宜入力されることとなる。
【0031】
次いで、上述のエンジン動作情報を基に、燃料噴射制御に必要な目標燃料噴射量Qtgt等の演算が行われ(図4のステップS104参照)、さらに、エンジン3の動作状態が無噴射状態(オーバーラン状態)にあるか否かが判定される(図4のステップS106参照)。
ステップS106において、無噴射状態であると判定された場合(YESの場合)には、後述するステップS108の処理へ進む一方、無噴射状態ではないと判定された場合(NOの場合)には、インジェクタ噴射タイミング補正・診断を行うに適した状態ではないとして、通常の噴射制御が実行され(図4のステップS126参照)、その後、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0032】
一方、ステップS108においては、インジェクタ噴射タイミング補正・診断を行うために無噴射状態に加えてさらに必要とされる所定の付加条件が成立しているか否かが判定され、付加条件が成立していると判定された場合(YESの場合)には、後述するステップS110の処理へ進む一方、付加条件が成立していないと判定された場合(NOの場合)には、インジェクタ噴射タイミング補正・診断を行うに適した状態ではないとして、他に必要とされる制御が実行され(図4のステップS128参照)、その後、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
ここで、ステップS128で行われる他の制御とは、例えば、空燃比を検出するラムダセンサの故障診断など、無噴射状態で実行されるようになっている制御処理である。
なお、付加条件は、個々の車両の具体的な条件に応じて適宜選択されるべきものであり、特定の条件に限定されるものではない。
【0033】
ステップS110においては、通常制御の場合同様に演算処理によって目標レール圧が確定され、次いで、当該目標レール圧が得られるようレール圧制御が実行されることとなる(図4のステップS112参照)。
次いで、インジェクタ噴射タイミング補正・診断の対象とされるべきシリンダ(学習シリンダ)の特定が行われる(図4のステップS114参照)。
【0034】
すなわち、ステップS116以降の処理によって行われるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理は、各シリンダについて順次行われるものとなっており、ステップS116以降の処理がいずれのシリンダを対象するものであるかが、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に随時記憶されるようになっている。ステップS114においては、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に記憶されている直近の処理対象となったシリンダを基に、次の処理対象とされるべきシリンダの特定が行われることとなる。
【0035】
次いで、この時点の目標レール圧、燃料噴射量に応じた基準通電時間が基準通電時間マップ(図2の符号M2−2参照)から読み出されることとなる(図4のステップS116参照)。
ステップS116に続いて、学習値を用いた通電時間演算が行われる(図4のステップS118参照)。すなわち、通電時間は、ステップS112で確定された目標レール圧、及び、燃料噴射量に対応する差分通電時間学習値ΔETが、通電時間学習マップ(図2の符号M2−5参照)から読み出され、基準通電時間に加算されて算出される。
【0036】
そして、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され(図4のステップS120参照)、排気ブレーキ動作中と判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS122の処理へ進む一方、排気ブレーキ動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、後述するステップS124の処理へ進むこととなる。
ステップS122においては、先のステップS118において演算算出された通電時間が、排気ブレーキが動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正される。なお、所定の補正式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。なお、排気ブレーキが動作中であること、過給圧の大きさを考慮した通電時間の具体的な補正方法としては、例えば、排気ブレーキ動作中であることに応じた係数や、過給圧の大きさに応じた係数を、それぞれ設定し、これらの係数をステップS118において演算算出された通電時間に乗じたり、また、加算する等、種々採り得るが、いずれの方法を採るかは、車両の具体的な条件等を考慮して、試験やシミュレーション結果等に基づいて適切な方法を選定するのが好適である。
【0037】
また一方、ステップS124においては、先のステップS118において演算算出された通電時間が、排気ブレーキが非動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正される。なお、所定の補正式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。なお、具体的な補正方法は、上述のステップS122で例示したと同様に考えることができる。
【0038】
しかして、上述のステップS122、又は、ステップS124のいずれかの処理が実行されることで、トータル通電時間、すなわち、排気ブレーキの動作の有無等に応じた最終的な通電時間が確定されることとなる(図5のステップS130参照)。
そして、運転条件に基づく通電開始タイミングが、所定の演算式により演算算出されることとなる(図5のステップS132参照)。ここで、運転条件とは、具体的には、エンジン回転数、目標レール圧、燃料噴射量等である。
このステップS132で算出される通電開始タイミングは、排気ブレーキの有無等を考慮しない標準的な動作条件の下における、いわば標準値とも言えるものである。
かかる標準値に相当する通電開始タイミングを基準にして、詳細は後述するが、インジェクタ噴射タイミング補正・診断のために、通電開始タイミングが遅角側、又は、進角側に所定タイミングだけずらされる。
【0039】
次いで、再び、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され(図5のステップS134参照)、排気ブレーキ動作中であると判定された場合(YESの場合)には、ステップS132において算出された通電開始タイミングが、排気ブレーキ動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正され、補正後の通電開始タイミングは、エキブレ有り過給圧補正通電開始タイミングとされる(図5のステップS136参照)。なお、所定の補正式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。
【0040】
一方、ステップS134において、排気ブレーキは動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS132において算出された通電開始タイミングが、排気ブレーキが非動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正され、補正後の通電開始タイミングは、エキブレ無し過給圧補正通電開始タイミングとされる(図5のステップS138参照)。
このように、通電開始タイミングの補正を行うのは、過給圧の大きさが同じであっても、排気ブレーキの動作の有無によって、筒内圧が異なり、それによって生ずる着火のタイミングずれを抑制するためである。なお、概略の傾向としては、排気ブレーキ動作中の場合(エキブレ有り)、排気ブレーキが非動作中に比べて筒内圧が上昇する傾向となる。
【0041】
上述のようにしてステップS136又はS138の処理が実行されることにより、最終的な通電開始タイミングが確定され(図5のステップS140参照)、この確定された通電開始タイミングで、かつ、先のステップS130で確定された通電時間で、先にステップS114で特定されたシリンダ対して微小噴射が行われることとなる(図5のステップS142参照)。
【0042】
次いで、次述するステップS152乃至ステップS156の一連の処理と、ステップS144乃至ステップS150の一連の処理が、いわゆる時分割処理により、それぞれ並列的に実行されることとなる。
まず、ステップS152においては、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され、排気ブレーキ動作中と判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS154の処理へ進む一方、排気ブレーキ動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、後述するステップS156の処理へ進むこととなる。
【0043】
ステップS154においては、規定噴射回数の算出が行われる。
規定噴射回数は、通常、過給圧の大きさに基づいて所定の規定噴射回数演算式により算出されるが、このステップS154においては、排気ブレーキが動作中であることを加味できるよう修正された規定回数演算式により、排気ブレーキが動作中であることを考慮した規定噴射回数が算出される。
また、ステップS156においては、排気ブレーキが非動作中であることを加味できるよう修正された規定回数演算式により、排気ブレーキが非動作中であることを考慮した規定噴射回数が算出される。
【0044】
なお、一般的傾向として、過給圧が低い場合には、エンジン3の燃焼状態の安定性が悪いため、微小噴射量の噴射回数を多くして、取得される回転変動周波数成分の信頼性を高める必要がある。一方、過給圧が高い場合には、エンジン3の燃焼状態は安定するため、微小噴射量の噴射回数は比較的少なくて済み、信頼性のある回転変動周波数成分を得ることができる。
【0045】
一方、ステップS144においては、微小噴射の実行によるエンジン回転数変動読み取りが行われる。すなわち、エンジン3の回転数の変動量(回転変動量)の読み取りは、電子制御ユニット4にエンジン回転数信号が入力されることで行われる。
次いで、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され(図5のステップS146参照)、排気ブレーキ動作中であると判定された場合(YESの場合)には、ステップS148の処理へ進み、先にステップS144で得られたエンジン回転変動量を基に、先に述べたように電子制御ユニット4におけるソフトウェア処理による帯域フィルタを通過せしめることで、回転変動量に対応した周波数成分(回転変動周波数成分)が演算算出されるが、このステップS148では、その際、少なくとも、排気ブレーキが動作中であること、過給圧の大きさ、及び、ギアの設定を考慮して補正されて算出されることとなる。
【0046】
また、ステップS146において、排気ブレーキ動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS150の処理へ進み、先にステップS144で得られたエンジン回転変動量を基に、先に述べたように電子制御ユニット4におけるソフトウェア処理による帯域フィルタを通過せしめることで、回転変動量に対応した周波数成分(回転変動周波数成分)が演算算出されるが、このステップS150においては、少なくとも、排気ブレーキが非動作中であること、過給圧の大きさ、及び、ギアの設定を考慮して補正されて算出されることとなる。
なお、排気ブレーキ動作の有無、過給圧の大きさ、及び、ギアの設定を考慮した回転変動周波数成分の具体的な補正方法は、車両の具体的な諸条件を考慮して、試験やシミュレーション結果等に基づいて適切な方法を選定するのが好適である。
【0047】
しかして、ステップS154又はステップS156のいずれかと、ステップS148又はステップS150のいずれかが実行された後は、噴射回数がステップS154又はS156で算出された規定回数に達したか否かが判定され(図5のステップS158参照)、規定回数に達していないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS116(図4参照)の処理へ戻り、同様な処理が繰り返されることとなる一方、噴射回数がステップS154又はS156で算出された規定回数に達したと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS160(図6参照)の処理へ進むこととなる。
【0048】
ステップS160においては、先のステップS148又はステップS150における演算結果に基づいて、エンジン3の回転変動量に対応した周波数成分が確定される。
次いで、通電開始タイミングの変更(図5のステップS140参照)が規定回数実施されたか否かが判定され(図6のステップS162参照)、規定回数実施されたと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS164の処理へ進む一方、未だ規定回数に達していないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS116(図4参照)の処理へ戻ることとなる。
なお、このステップS162における通電開始タイミング変更の回数を定める規定回数は、先のステップS158における規定回数とは、基本的に別個に定められるものである。
【0049】
ステップS164においては、先に、各噴射毎に求められたそれぞれの回転変動量に対応する周波数成分の相互比較、換言すれば、個々の噴射の際の回転変動量の相互比較が行われる。次いで、その比較結果に基づいて通電開始タイミングのずれ量が求められると共に、その値が正常とされる範囲にあるか否かの診断がなされ、正常と判定された場合には、そのずれ量が学習値として、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に記憶され、一連の処理が一旦終了し、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる(図6のステップS166参照)。
【0050】
次に、通電開始タイミング変更のより具体的な処理手順について、図7を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初に、その時点におけるエンジン3の運転条件に基づく通電開始タイミングαが所定の通電開始タイミング演算式により演算算出され、決定される(図7のステップS202参照)。ここで、エンジン3の運転条件は、具体的には、エンジン回転数、レール圧、噴射量等である。なお、所定の通電開始タイミング演算式は、個々の車両の具体的な条件を考慮しつつ、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。したがって、運転条件として、上述のエンジン回転数、レール圧等のいずれをどのように組み合わせて用いるかは特定のものに限定されるものではなく、試験やシミュレーション結果等によって定まる個々の演算式毎に具体的に異なるものとなる。
【0051】
次いで、通電開始タイミングの移動方向が決定される(図7のステップS204参照)。通電開始タイミングの移動は、先に説明したように、運転条件に基づいて算出された通電開始タイミングαを中心に、進角側と遅角側にそれぞれ行うもので、いずれを始めとしても良いものである。
ステップS204において、通電開始タイミングの移動方向が決定された後は、タイミング移動量が算出される(図7のステップS206参照)。
タイミング移動量は、タイミング移動を繰り返す度毎に所定タイミングβを積算して求めるものとなっている。すなわち、タイミング移動量をΔTとすると、ΔT=ΔT+βとして求められる。なお、ΔTの初期値は零である。
【0052】
次いで、通電開始タイミングが確定されることとなる(図7のステップS206参照)。
すなわち、通電開始タイミング移動時における通電開始タイミングをTとすると、通電開始タイミングの移動方向が進角側の場合、通電開始タイミングTは、T=α−ΔTとされる。一方、通電開始タイミングの移動方向が遅角側の場合、通電開始タイミングTは、T=α+ΔTとされる。
【0053】
次いで、上述のようにして確定された通電開始タイミングで、複数回の微小噴射が行われることとなる(図7のステップS208参照)。なお、噴射回数は、先に説明したように過給圧の大きさと、排気ブレーキの有無に応じて所定の演算式により算出されるものとなっている(図5のステップS152〜S156参照)。
上述のようにして微小噴射が行われた後は、微小噴射によって生ずるエンジン3のエンジン回転数の回転変動量に対応する周波数成分の抽出がなされる(図7のステップS210参照)。なお、回転変動量に対応する周波数成分の抽出は、先に説明したように排気ブレーキの有無を考慮して行われるものとなっている(図5のステップS148、S150参照)。
【0054】
次いで、上述した通電開始タイミングの移動が予め定められた変更回数Nsだけ行われたか否かが判定され(図7のステップS212参照)、所定変更回数Ns行われたと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS214の処理へ進む一方、未だ所定変更回数Nsに達していないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS206の処理へ戻り、以後の一連の処理が繰り返されることとなる。
【0055】
ステップS214においては、タイミング移動が、先に説明したように、進角側と遅角側のそれぞれについて行われた否かが判定され、未だ、いずれか一方が完了していないと判定された場合(NOの場合)には、通電開始タイミング移動方向が、未だ、通電開始タイミング移動が完了していない側に設定され(図7のステップS216参照)、先のステップS206の処理へ戻ることとなる。
一方、ステップS214において、通電開始タイミング移動が進角側と遅角側の双方向へ既に行われたと判定された場合(YESの場合)には、後述する通電開始タイミングのずれ量の演算、診断等の処理へ進むこととなる。
【0056】
次に、通電開始タイミングのずれ量の算出、診断のより具体的な処理手順について、図8乃至図10を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、先の通電開始タイミングの進角側及び遅角側への移動により抽出された回転変動量に対応した周波数成分を基に、回転変動量とその変化量が確定される(図8のステップS302参照)。
【0057】
次いで、上述のように確定された回転変動量が増加しているか否かが判定され(図8のステップS304参照)、増加していると判定された場合(YESの場合)には、通電開始タイミングが遅角側へずれていると判定される(図8のステップS306参照)。
一方、ステップS304において、回転変動量が増加してないと判定された場合(NOの場合)には、回転変動量が減少しているとして、通電開始タイミングが進角側へずれていると判定される(図8のステップS310参照)。
【0058】
ここで、通電開始タイミングのずれと回転変動量の関係について、図9及び図10を参照しつつ説明する。
噴射タイミング(通電開始タイミング)と回転変動量との大凡の相関関係は、図9に示されたように、運転条件によって定まる本来の通電開始タイミングにおいて回転変動量は最大となり、本来の通電開始タイミングから進角側、遅角側それぞれにずれるにしたがって回転変動量が低下してゆく傾向にある。具体的な噴射タイミングに対する回転変動量の大きさは、エンジン回転数毎に異なるため、後述する回転変動量に基づく通電開始タイミングのずれ量の算出、診断は、エンジン回転数毎の基準値を基に行う必要がある。
【0059】
図10には、基準となる通電開始タイミングαに対して、先に説明したように通電開始タイミングβを、いわば移動単位として複数回移動させた場合の回転変動量の変化を概略的に示した特性線図が示されている。
この図10は、特に、通電開始タイミングを進角側に移動した場合の例である。例えば、基準となる通電開始タイミングαから、通電開始タイミングを進角側にβだけ移動させると、回転変動量は、通電開始タイミングαにおける回転変動量からの変化量Δだけ小さくなる(図10参照)。そして、変化量Δの大きさは、通電開始タイミングを進角側に移動させるにしたがい大きくなる。
このような変化量Δの変化の傾向は、通電開始タイミングを遅角側へ移動させた場合も基本的に同様である。
【0060】
大凡の傾向としては、実際の通電開始タイミングが、基準となる通電開始タイミングとほぼ同一である場合には、上述のように通電開始タイミングを進角側、遅角側のそれぞれに移動させた場合の回転変動量の変化傾向、換言すれば、変化量Δの変化の傾向は、進角側、遅角側のそれぞれでほぼ同様となる。
これに対して、例えば、実際の通電開始タイミングが進角側へずれている場合には、通電開始タイミングを進角側へ移動させるにしたがい、回転変動量は低下してゆく一方、通電開始タイミングを遅角側へ移動させた場合には、最初、回転変動量は増加傾向を示し、その後、低下してゆくこととなる。これは、通電開始タイミングの移動に伴い、一旦、基準となる通電開始タイミングとなり、その後、基準となる通電開始タイミングから遅角側へ移ってゆくこととなるためである。
【0061】
この傾向は、実際の通電開始タイミングが遅角側にある場合もほぼ同様である。すなわち、通電開始タイミングを遅角側へ移動させるにしたがい、回転変動量は低下してゆく一方、通電開始タイミングを進角側へ移動させた場合には、最初、回転変動量は増加傾向を示し、その後、低下してゆくこととなる。
ここで、再度、図8の説明に戻れば、先のステップS306の実行後は、ステップS308の処理へ進む一方、先のステップS310の実行後は、ステップS312の処理へ進むこととなる。
【0062】
ステップS308においては、上述のように通電開始タイミングが遅角側にずれているとの判定結果に応じて、そのずれ量が演算算出される。
ずれ量の算出は、先に説明したように回転変動量の大きさとその変化の仕方が、通電開始タイミングの変化と一定の相関関係があることに基づいて、予め試験やシミュレーション結果等に基づいて定められた演算式が用いて行われる。この場合、演算式は、例えば、検出された回転変動量(図7のステップS210参照)や、その変化量などをパラメータとしてずれ量が算出されるようになっているものである。
【0063】
一方、ステップS312においては、上述のように通電開始タイミングが進角側にずれているとの判定結果に応じて、そのずれ量が演算算出される。
ずれ量の算出は、ステップS308で述べたと同様、予め試験やシミュレーション結果等に基づいて定められた演算式が用いて行われる。この場合、演算式は、例えば、検出された回転変動量(図7のステップS210参照)や、その変化量などをパラメータとしてずれ量が算出されるようになっているものである。
上述のようにステップS308又はS312のいずれかの実行により通電開始タイミングのずれ量が算出され後は、算出されたずれ量に対するフィルタ処理が行われる(図8のステップS314参照)。すなわち、算出されたずれ量を、所定の桁数の値とするための処理が施され、通電開始タイミングの学習値の対象とされる値(差分通電開始タイミング学習値)が確定されることとなる(図8のステップS316参照)。
【0064】
次いで、確定された差分通電開始タイミング学習値が、所定の目標値(リミット)を超えているか否かが判定される(図8のステップS318、及び、図3の符号M3−6参照)。
ここで、判定の目標値は、先に図3で説明したようにレール圧を基に所定の演算式により算出されるものとなっている。
回転変動量は、先に述べたようにエンジン回転数毎に異なるものであるので、上述の目標値も、本来は、エンジン回転数を基に算出すべきものであるが、本発明の実施の形態においては、試験やシミュレーション結果等に基づいて設定された目標値算出演算式を用いて、レール圧を基に目標値が算出されるものとなっている(図3の符号M3−5参照)。レール圧を基に目標値を算出するのは、大凡、レール圧の増大に伴いエンジン回転数が増加する傾向にあることに基づくものである。
【0065】
しかして、先のステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値が、所定の目標値(リミット)を超えていると判定された場合(YESの場合)には、検出された通電開始タイミングのずれが許容範囲を超えており、異常であると判定されて、一連のサブルーチン処理が一旦終了されることとなる(図8のステップS318、及び、ステップS320参照)。
【0066】
一方、先のステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値が、所定の目標値(リミット)を超えていないと判定された場合(NOの場合)には、検出された通電開始タイミングのずれが許容範囲にあり、正常であると判定されて、一連のサブルーチン処理が一旦終了されることとなる(図8のステップS318、及び、ステップS322参照)。
なお、通電開始タイミングのずれが異常であると判定された場合(図8のステップS320参照)、ステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値は破棄され、学習値として用いられない。一方、通電開始タイミングのずれが正常であると判定された場合(図8のステップS322参照)、ステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値は、電子制御ユニット4に確保された差分通電開始タイミング学習値記憶領域に記憶されることとなる。
【0067】
次に、通電開始タイミング学習値が、燃料噴射の際の通電開始タイミングの設定に如何に反映されるか、その一つの方法について図11及び図12を参照しつつ説明する。
まず、図11には、電子制御ユニット4において実行される通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順を模式的に表した模式図が示されており、以下、同図について説明する。
本発明の実施の例において、”通電開始タイミング学習値”は、レール圧等の運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、エンジン回転数に対応して通電開始タイミング学習値マップから読み出される差分通電開始タイミング学習値で補正したものである。
また、差分通電開始タイミング学習値は、レール圧等の運転条件により定まる通電開始タイミング(便宜的に「基準通電開始タイミング」と称する)に対する、実際の通電開始タイミングのずれ量であり、先に述べたように通電開始タイミングを移動させることによって生ずるエンジン3の回転変動量に基づいて得られたものである。
【0068】
本発明の実施の形態においては、かかる通電開始タイミング学習値を、更に実レール圧、指示噴射量(目標噴射量)に応じて以下に説明するように補正し、最終的に通電に供される補正通電開始タイミングの設定を行っている。
通電開始タイミング学習値は、先に説明したように各気筒(シリンダ)毎で、且つ、レール圧毎に取得されるものであるので、これに対応して、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域には、各通電開始タイミング学習値を、実際の燃料噴射の際の通電開始タイミングにどの程度反映させるかを定める相関マップが、通電開始タイミング学習値の数と同一数設けられるものとなっている。図11においては、レール圧毎の通電開始タイミング学習値がN個、換言すれば、N個のレール圧に対して、それぞれ通電開始タイミング学習値が取得されている場合、これに対応して、N個の相関マップA〜Nが設けられた例が示されている。
【0069】
相関マップA〜Nは、それぞれ実レール圧と指示噴射量を入力パラメータとして、2つの入力の組合せに対して、通電開始タイミング学習値を、実際の通電開始タイミングの設定に用いる割合を定めた補正係数(相関係数)が読み出し可能に設定されてなるものである。
実レール圧と指示噴射量とから相関係数が読み出されると、それぞれ対応する通電開始タイミング学習値と乗算がなされ、各乗算結果の和が求められるものとなっている(図11参照)。
【0070】
例えば、理解を容易とするため、2つのレール圧(例えば、30Mpaと50Mpa)に対して通電開始タイミング学習値が用意されている場合を例に採り説明すれば、この場合、2つのレール圧に対応して相関マップは2つとなる。
例えば、レール圧30Mpaに対する通電開始タイミング学習値がA、その相関マップAから読み出された相関係数が0.45、レール圧50Mpaに対する通電開始タイミング学習値がB、その相関マップBから読み出された相関係数が0.65であるとすると、この場合、0.45×A+0.65×Bと演算が行われることとなる。
【0071】
上述のようにして得られた、通電開始タイミング学習値と相関係数の各乗算結果の和は、予め定めた制限値を超える乗算結果の和を排除するための補正リミット(図11参照)を介して最終的な通電開始タイミング(補正通電開始タイミング)としてインジェクタ2−1〜2−nの通電駆動に供されるようになっている。
なお、上述のような通電タイミングの補正と共に、先に述べた燃料噴射量補正制御により得られた通電時間学習値についても、同様に実レール圧、指示噴射量(目標噴射量)に応じて補正し、最終的に通電に供される通電時間(補正通電時間)が設定されるものとなっている。
【0072】
図12には、電子制御ユニット4における上述の通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順がサブルーチンフローチャートに示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
なお、この一連の処理は、本来は、通電時間学習値を用いた通電補正時間の算出にも適用されて同様に並行して実行されるものであるが、理解を容易とするため、補正通電開始タイミングの算出処理についてのみ説明することとする。
【0073】
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初に、実レール圧、指示噴射量、対象とされるインジェクタ2−1〜2−n、及び、対象とされる気筒に関する情報等の読み込みが行われる(図12のステップS402参照)。
これらの情報は、例えば、図示されないメインルーチンにおいて実行される燃料噴射制御処理によって、電子制御ユニット4の所定の記憶領域に、逐次、更新、記憶されているものであり、このステップS402においては、かかる記憶領域からの情報読み込みを行えば足りるものである。
【0074】
次いで、ステップS402で特定された通電開始タイミング学習値の補正処理の対象となる気筒について、各レール圧毎の通電開始タイミング学習値の読み込みがなされる(図12のステップS404参照)。
そして、実レール圧、指示噴射量に応じた各相関係数の算出が行われる(図12のステップS406参照)。すなわち、上述の通電開始タイミング学習値に対応して設けられている各相関マップから、実レール圧、指示噴射量に応じた相関関数がそれぞれ読み出される(図11参照)。
【0075】
次いで、各通電開始タイミング学習値と対応する各相関係数を用いて最終的な通電開始タイミング、換言すれば、補正通電開始タイミングの算出が行われることとなる(図14のステップS408参照)。すなわち、先に図11において例を挙げて説明したように、例えば、2つのレール圧について通電開始タイミング学習値A、Bが取得されており、それに対応して相関マップから読み出された相関係数が、通電開始タイミング学習値Aに対して0.45、通電開始タイミング学習値Bに対して0.65であるとすると補正通電開始タイミングは、0.45×A+0.65×Bと算出され、対象となるインジェクタの通電駆動に供されることとなる。
【0076】
なお、説明を省略したが、実際には、補正通電開始タイミングの算出と基本的に同様な処理手順により、通電時間学習値を用いて補正通電時間が算出されるものとなっている。
このようにしてインジェクタの通電駆動に供される通電開始タイミング、及び、通電時間時間が共に補正されることで、より的確な補正通電開始タイミング、補正通電時間で燃料噴射が行われることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
インジェクタの劣化等による噴射特性のばらつきに影響されることなく適切な燃料噴射量が所望される燃料噴射制御装置に適する。
【符号の説明】
【0078】
1…コモンレール
2−1〜2−n…インジェクタ
3…エンジン
4…電子制御ユニット
23…過給機
24…排気シャッターバルブ
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射制御装置におけるインジェクタの劣化等に起因する噴射タイミングのずれを補正、診断する方法に係り、特に、補正精度の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料噴射制御においては、インジェクタ(燃料噴射弁)の特性のばらつきや劣化等による実燃料噴射量と目標燃料噴射量とのずれを補正するための燃料噴射量補正技術が従来から種々提案されている。
例えば、噴射量の学習処理を行うよう構成された燃料噴射制御装置によるパイロット噴射制御おいて、学習のための噴射を実施した場合と、学習のための噴射を実施しなかった場合のエンジン回転数の変動量を検出し、検出された回転数変動量を基にインジェクタにおいて実際に噴射されたであろう燃料噴射量(実燃料噴射量)を演算算出し、実燃料噴射量と指令燃料噴射量との差を補正量として、燃料噴射量の補正を行い、実燃料噴射量が指令燃料噴射量に一致するようにしたものなどが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
ところで、実燃料噴射量を直接計測することは実際には困難であるため、上述のようにエンジンの回転数変動量に基づいて実燃料噴射量を算出する手法は、比較的簡易に実燃料噴射量を得ることができることから、従前から用いられている手法である。
このような回転変動量を求める手法としては、例えば、車両がいわゆるオーバーラン(無噴射状態)において、微小噴射量の噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動を、エンジン回転数の周波数成分の変化として検出し、その周波数成分の変化から実噴射量を推定する手法もあり、かかる手法に基づいた燃料噴射量の補正も行われている。
【0004】
上述のようなエンジンの回転変動量を抽出して噴射量補正を行う従来の手法においては、インジェクタの噴射量のずれ、すなわち、換言すれば、通電時間のずれが生ずることで、噴射タイミングも同様にずれが生じているとして、通電時間のずれの補正と共に、噴射タイミングの補正も行われる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−36788号公報(第7−11頁、図1−図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際には、個々のインジェクタの特性ばらつき等に起因して、単位時間当たりの噴射量である噴射率が異なることがあり、そのため、本来、ほぼ同一であるとの前提であった回転変動量が異なってしまうため、噴射タイミングにずれが生じているか否か正確に把握できない場合があるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、噴射タイミングのずれを確実に検出、診断し、補正することのできるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法は、
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能としてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
内燃機関の動作制御を実行する電子制御ユニットが設けられ、前記電子制御ユニットにより燃料噴射制御が実行されるよう構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能に構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、噴射タイミング、換言すれば、通電開始タイミングが本来のタイミングからずれているか否かを把握できると共に、そのずれ量を従来に比してより正確に把握することができ、噴射タイミングのずれの診断の精度向上と共に、噴射タイミングの学習値の精度向上を図ることができ、その結果、燃焼効率の更なる向上、排気ガスの更なる低減、抑圧がなされるという効果を奏するものである。
また、噴射タイミングの学習値の精度向上により、パイロット噴射とメイン噴射のインターバルの短縮の要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置において前提とされる従来の燃料噴射量補正制御の概略を説明するための模式図である。
【図3】図1に示されたコモンレール式燃料噴射制御装置を構成する電子制御ユニットにおける本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理実行のために電子制御ユニットが有する機能を機能ブロックにより模式的に示した模式図である。
【図4】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体手順の前半部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【図5】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体手順の中盤部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【図6】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体手順の後半部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【図7】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理における噴射タイミングの変更手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図8】電子制御ユニットにより実行されるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理のより具体的な処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図9】噴射タイミングの違いによる回転変動量の概略の変化特性を示す特性線図である。
【図10】基準となる噴射タイミングに対する噴射タイミングのずれを表す相対角度と回転変動量との関係を示した特性線図である。
【図11】本発明の実施の形態における補正通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順を模式的に表した模式図である。
【図12】電子制御ユニットにより実行される補正通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図12を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法が適用される燃料噴射制御装置の一構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における燃料噴射制御装置は、いわゆるコモンレール式燃料噴射制御装置であり、かかるコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料を内燃機関としてのディーゼルエンジン(以下「エンジン」と称する)3の気筒へ噴射供給する複数のインジェクタ(燃料噴射弁)2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述するインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種の燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
【0012】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
【0013】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
インジェクタ2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。かかる本発明の実施の形態におけるインジェクタ2−1〜2−nは、例えば、従来から用いられているいわゆる電磁弁タイプのものなどが好適である。
【0014】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、インジェクタ2−1〜2−nを通電駆動するための回路(図示せず)や、調量弁6等を通電駆動するための回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数、アクセル開度、外気温度、大気圧、ブースト圧などの各種の検出信号が、エンジン3の動作制御や燃料噴射制御に供するために入力されるようになっている。
【0015】
また、本発明の実施の形態における燃料噴射制御装置においては、エンジン3の吸気マニホールド21と排気マニホールド22との間には、過給機23が設けられており、吸気に対する加圧を可能としている。
さらに、排気管22aの途中の適宜の位置には、排気シャッターバルブ24が設けられており、その開閉によりいわゆる排気ブレーキを作用させることが可能となっている。
なお、上述の過給機23の動作制御や排気シャッターバルブ24を開閉するための電磁アクチュエータ(図示せず)の動作制御も、先の電子制御ユニット4により実行されるようになっている。
【0016】
次に、電子制御ユニット4によって実行される本発明の実施の形態の燃料噴射量補正制御処理の第1の実施例について、図2乃至図4を参照しつつ説明する。
まず、本発明の実施の形態におけるコモンレール式燃料噴射制御装置は、次述するような燃料噴射量補正制御が電子制御ユニット4により実行されるよう構成されてなるものであることを前提としている。
本発明の実施の形態において前提とされる燃料噴射量補正制御は、従来装置においても行われているもので、インジェクタ2−1〜2−nの劣化や故障等に起因して、特に、パイロット噴射における燃料噴射量の本来の燃料噴射量からずれを補正するものである。
【0017】
すなわち、かかる燃料噴射量補正制御について概説すれば、この燃料噴射量補正制御においては、まず、エンジン3がオーバーラン状態(無噴射状態)にある場合に、レール圧に応じた微小噴射量が設定され、その微小噴射量で数十回程度の微小噴射が実行され、その際に生ずるエンジン回転数の変動の周波数成分が平均値として抽出される。なお、かかる処理は、各インジェクタ2−1〜2−n毎に行われるものとなっている。
次いで、その変動周波数成分を基に、その時に実際に噴射されたであろう燃料量の推定値(推定噴射量)が算出される。
【0018】
そして、初回に算出された推定噴射量が、レール圧毎に定められた所定の閾値を上回る場合には、推定噴射量が所定の閾値に向かって下降してゆき所定の閾値にほぼ収束するように、微小噴射における微小噴射量が減じられつつ推定噴射量の取得が繰り返される一方、初回に算出された推定噴射量が、レール圧毎に定められた所定の閾値を下回る場合には、推定噴射量が所定の閾値に向かって上昇してゆき所定の閾値にほぼ収束するように、微小噴射における微小噴射量が増加されつつ推定噴射量の取得が繰り返され、所定の閾値に収束した際の推定噴射量を得るに要した通電時間ETと、基準通電時間との差ΔETが、差分通電時間学習値として通電時間学習値マップに記憶される。
【0019】
ここで、基準通電時間は、インジェクタ2−1〜2−nの各々の使用開始時点における通電時間である。換言すれば、基準通電時間は、インジェクタ2−1〜2−nの使用開始直前に実測された通電時間であり、インジェクタ2−1〜2−n毎に、レール圧と燃料噴射量とに対応する通電時間がマップ化(以下、便宜的に「基準通電時間マップ」と称する)されて、電子制御ユニット4に予め記憶されているものである。
【0020】
しかして、差分通電時間学習値ΔETが取得された際の燃料噴射量での噴射の際には、基準通電時間が差分通電時間学習値ΔETによって補正された時間が通電時間として用いられ、燃料噴射量と通電時間のずれを補正可能としたものである。なお、以下、説明の便宜上、基準通電時間を差分通電時間学習値ΔETによって補正して求められた通電時間を、「通電時間学習値」と称することとする。
【0021】
図2には、上述の燃料噴射量補正制御を模式的に表した模式図が示されており、以下、同図について説明する。
同図において、「オーバーラン較正」と表記されると共に符号M2−1が付された箇所は、先に説明した、微小噴射から始まり、所定の閾値に収束せしめられた推定噴射量を得るに要した通電時間ETが算出されるまでの一連の処理を模式的に表している。
また、図2において、符号M2−2が付された部分は、基準通電時間マップを模式的に表したものである。かかる基準通電時間マップは、インジェクタ2−1〜2−nの使用開始直前に実測された通電時間(基準通電時間)が記憶されたものであり、インジェクタ2−1〜2−n毎に、レール圧と燃料噴射量とに対応する基準通電時間がマップ化されたものである。
この基準通電時間マップから読み出される基準通電時間と上述の通電時間ETは、減算処理(図2の符号M2−3が付された箇所)により差分ΔETが求められるようになっている。
【0022】
そして、上述のようにして得られた差分ΔETの内、所定の制限範囲(符号M2−4参照)にあるもののみが符号M2−5が付された通常時間学習値マップに差分通電時間学習値ΔETとして書き込まれるようになっている。
学習値が取得された以後は、該当する目標レール圧、燃料噴射量における通電時間は、基準通電時間を学習値で補正したもの、すなわち、基準通電時間と差分通電時間学習値ΔETとの加算結果とされ(図2の符号M2−6参照)、インジェクタ2−1〜2−nの劣化等による通電時間、燃料噴射量のずれが補正されるようになっている。
【0023】
なお、差分通電時間学習値ΔET自体は、正負双方を採り得るので、差分通電時間学習値ΔET自体が正の値の場合には、基準通電時間+差分通電時間学習値ΔETは実際に加算処理となるが、差分通電時間学習値ΔET自体が負の値の場合、基準通電時間+差分通電時間学習値ΔETは実際には減算処理となる。
【0024】
次に、本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理について概括すれば、かかるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理は、先に説明した燃料噴射量補正処理における複数回の微小噴射によりエンジン3の回転変動量を得、その回転変動量を基に通電時間のずれを学習する手法を、通電開始タイミングのずれの学習に流用したものである。
すなわち、エンジン3がオーバーラン状態(無噴射状態)にある場合に、燃料噴射量一定の状態で、レール圧、燃料噴射量等に応じて定まる通電開始タイミングを基準として、通電開始タイミングを進角側と遅角側に、それぞれ所定タイミングづつ複数回ずらしてそれぞれ複数回の微小噴射を行い、それぞれの微小噴射時におけるエンジン3の回転変動量を抽出する。そして、その抽出された回転変動量の大きさ、変化量、変化の仕方などから、通電開始タイミングが本来あるべきタイミングから進角側、遅角側のいずれへ、どの程度ずれているかを求め、通電開始タイミングの補正を行うものである。
【0025】
図3には、電子制御ユニット4において実行される本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の概略が、機能ブロックにより模式的に示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
まず、オーバーラン状態における燃料噴射に際して、レール圧に応じて、先に説明した燃料噴射補正処理における学習処理により得られた差分通電時間学習値を反映した通電時間学習値が求められると共に、この通電時間学習値には、過給圧の影響を考慮した補正が施される(図3の符号M3−1参照)。なお、通電時間学習値は、先に燃料噴射量補正処理で述べたように、基準通電時間を差分通電時間学習値ΔETによって補正して求められた通電時間である。
なお、前提として、先に図2を参照しつつ説明した燃料噴射補正処理は、このインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理に先だって実行されているものとする。
【0026】
上述のように過給圧の大きさに応じた補正が施された通電時間学習値で微小噴射が複数回行われるが(図3の符号M3−2参照)、複数回の微小噴射を行う度毎に、通電開始タイミングが所定量ずつ変更されるようになっている。すなわち、エンジン3の運転条件、例えば、目標レール圧、燃料噴射量等に応じて定まる通電開始タイミングを基準として、例えば、所定通電開始タイミングβだけずらして通電開始タイミングが設定され、所定回数nの微小噴射が行われる。次いで、基準となる通電開始タイミングから、通電開始タイミング2βずらして通電開始タイミングが設定されて、同様に所定回数nの微小噴射が行われる。以下同様にして、通電開始タイミングが予め定められた回数変更されて、それぞれ所定回数nの微小噴射が行われるようになっている。
この通電開始タイミングの変更は、先の基準となる通電開始タイミングを中心にして、その進角側と遅角側の双方で予め定めた範囲で行われるものとなっている。
【0027】
そして、各微小噴射毎に生ずるエンジン3の回転変動量が算出され(図3の符号M3−3参照)、さらに、通電開始タイミングの変更に伴う回転変動量の変化量が算出される(図3の符号3−4参照)。この変化量は、レール圧毎に異なるものであり、レール圧毎に算出された目標となる変化量(図3の符号M3−5参照)と比較され、その比較結果に応じて、インジェクタの劣化による噴射タイミング(通電開始タイミング)のずれ量が算出される(図3の符号M3−6参照)。さらに、このようにして算出された噴射タイミングのずれ量が、正常とされる範囲のものであるか否か診断され(図3の符号M3−6)、正常と診断された場合には、検出された噴射タイミングのずれ量を考慮して、本来の噴射タイミングが計算し直され(図3の符号M3−7)、噴射タイミング学習値(通電開始タイミング学習値)の計算に供されることとなる。
【0028】
ここで、本発明の実施の形態における噴射タイミング学習処理について説明すれば、基本的に、通電時間学習処理と同様である。すなわち、上述のようにして検出された噴射タイミングのずれ量、換言すれば、通電開始タイミングのずれ量は、後述するように許容範囲を超えたものではないと判定された場合には、差分通電開始タイミング学習値として、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に予め確保された通電開始タイミング学習値マップに記憶される。なお、差分通電開始タイミング学習値は、レール圧毎に取得されるものであるので、記憶の際には、対応するレール圧をパラメータとして記憶されるものとなっている。
【0029】
そして、実際の噴射の際には、レール圧等の運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングが、エンジン回転数に対応して通電開始タイミング学習値マップから読み出される差分通電開始タイミング学習値で補正され、通電開始タイミング学習値とされる。この通電開始タイミング学習値は、最終的な通電開始タイミングとされて噴射の実行に供されることとなる。
なお、差分通電開始タイミング学習値自体は、正負双方の値を採り得るので、差分通電開始タイミング学習値が正の値の場合(遅角側にずれている場合)には、上述の通電開始タイミングの補正は加算処理となるが、差分通電開始タイミング学習値が負の値の場合(進角側にずれている場合)には、上述の通電開始タイミングの補正は減算処理となる。
【0030】
次に、電子制御ユニット4により実行される本発明の実施の形態におけるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理の全体的な手順について、図4乃至図6を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初にエンジン3の動作状況を表す種々の動作情報の入力が行われる(図4のステップS102参照)。
すなわち、図示されないセンサ等により検出されたエンジン回転数Neやアクセル開度Acc等がエンジン動作情報として電子制御ユニット4に適宜入力されることとなる。
【0031】
次いで、上述のエンジン動作情報を基に、燃料噴射制御に必要な目標燃料噴射量Qtgt等の演算が行われ(図4のステップS104参照)、さらに、エンジン3の動作状態が無噴射状態(オーバーラン状態)にあるか否かが判定される(図4のステップS106参照)。
ステップS106において、無噴射状態であると判定された場合(YESの場合)には、後述するステップS108の処理へ進む一方、無噴射状態ではないと判定された場合(NOの場合)には、インジェクタ噴射タイミング補正・診断を行うに適した状態ではないとして、通常の噴射制御が実行され(図4のステップS126参照)、その後、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0032】
一方、ステップS108においては、インジェクタ噴射タイミング補正・診断を行うために無噴射状態に加えてさらに必要とされる所定の付加条件が成立しているか否かが判定され、付加条件が成立していると判定された場合(YESの場合)には、後述するステップS110の処理へ進む一方、付加条件が成立していないと判定された場合(NOの場合)には、インジェクタ噴射タイミング補正・診断を行うに適した状態ではないとして、他に必要とされる制御が実行され(図4のステップS128参照)、その後、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
ここで、ステップS128で行われる他の制御とは、例えば、空燃比を検出するラムダセンサの故障診断など、無噴射状態で実行されるようになっている制御処理である。
なお、付加条件は、個々の車両の具体的な条件に応じて適宜選択されるべきものであり、特定の条件に限定されるものではない。
【0033】
ステップS110においては、通常制御の場合同様に演算処理によって目標レール圧が確定され、次いで、当該目標レール圧が得られるようレール圧制御が実行されることとなる(図4のステップS112参照)。
次いで、インジェクタ噴射タイミング補正・診断の対象とされるべきシリンダ(学習シリンダ)の特定が行われる(図4のステップS114参照)。
【0034】
すなわち、ステップS116以降の処理によって行われるインジェクタ噴射タイミング補正・診断処理は、各シリンダについて順次行われるものとなっており、ステップS116以降の処理がいずれのシリンダを対象するものであるかが、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に随時記憶されるようになっている。ステップS114においては、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に記憶されている直近の処理対象となったシリンダを基に、次の処理対象とされるべきシリンダの特定が行われることとなる。
【0035】
次いで、この時点の目標レール圧、燃料噴射量に応じた基準通電時間が基準通電時間マップ(図2の符号M2−2参照)から読み出されることとなる(図4のステップS116参照)。
ステップS116に続いて、学習値を用いた通電時間演算が行われる(図4のステップS118参照)。すなわち、通電時間は、ステップS112で確定された目標レール圧、及び、燃料噴射量に対応する差分通電時間学習値ΔETが、通電時間学習マップ(図2の符号M2−5参照)から読み出され、基準通電時間に加算されて算出される。
【0036】
そして、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され(図4のステップS120参照)、排気ブレーキ動作中と判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS122の処理へ進む一方、排気ブレーキ動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、後述するステップS124の処理へ進むこととなる。
ステップS122においては、先のステップS118において演算算出された通電時間が、排気ブレーキが動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正される。なお、所定の補正式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。なお、排気ブレーキが動作中であること、過給圧の大きさを考慮した通電時間の具体的な補正方法としては、例えば、排気ブレーキ動作中であることに応じた係数や、過給圧の大きさに応じた係数を、それぞれ設定し、これらの係数をステップS118において演算算出された通電時間に乗じたり、また、加算する等、種々採り得るが、いずれの方法を採るかは、車両の具体的な条件等を考慮して、試験やシミュレーション結果等に基づいて適切な方法を選定するのが好適である。
【0037】
また一方、ステップS124においては、先のステップS118において演算算出された通電時間が、排気ブレーキが非動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正される。なお、所定の補正式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。なお、具体的な補正方法は、上述のステップS122で例示したと同様に考えることができる。
【0038】
しかして、上述のステップS122、又は、ステップS124のいずれかの処理が実行されることで、トータル通電時間、すなわち、排気ブレーキの動作の有無等に応じた最終的な通電時間が確定されることとなる(図5のステップS130参照)。
そして、運転条件に基づく通電開始タイミングが、所定の演算式により演算算出されることとなる(図5のステップS132参照)。ここで、運転条件とは、具体的には、エンジン回転数、目標レール圧、燃料噴射量等である。
このステップS132で算出される通電開始タイミングは、排気ブレーキの有無等を考慮しない標準的な動作条件の下における、いわば標準値とも言えるものである。
かかる標準値に相当する通電開始タイミングを基準にして、詳細は後述するが、インジェクタ噴射タイミング補正・診断のために、通電開始タイミングが遅角側、又は、進角側に所定タイミングだけずらされる。
【0039】
次いで、再び、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され(図5のステップS134参照)、排気ブレーキ動作中であると判定された場合(YESの場合)には、ステップS132において算出された通電開始タイミングが、排気ブレーキ動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正され、補正後の通電開始タイミングは、エキブレ有り過給圧補正通電開始タイミングとされる(図5のステップS136参照)。なお、所定の補正式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。
【0040】
一方、ステップS134において、排気ブレーキは動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS132において算出された通電開始タイミングが、排気ブレーキが非動作中であること、及び、過給圧の大きさを考慮して所定の補正式により補正され、補正後の通電開始タイミングは、エキブレ無し過給圧補正通電開始タイミングとされる(図5のステップS138参照)。
このように、通電開始タイミングの補正を行うのは、過給圧の大きさが同じであっても、排気ブレーキの動作の有無によって、筒内圧が異なり、それによって生ずる着火のタイミングずれを抑制するためである。なお、概略の傾向としては、排気ブレーキ動作中の場合(エキブレ有り)、排気ブレーキが非動作中に比べて筒内圧が上昇する傾向となる。
【0041】
上述のようにしてステップS136又はS138の処理が実行されることにより、最終的な通電開始タイミングが確定され(図5のステップS140参照)、この確定された通電開始タイミングで、かつ、先のステップS130で確定された通電時間で、先にステップS114で特定されたシリンダ対して微小噴射が行われることとなる(図5のステップS142参照)。
【0042】
次いで、次述するステップS152乃至ステップS156の一連の処理と、ステップS144乃至ステップS150の一連の処理が、いわゆる時分割処理により、それぞれ並列的に実行されることとなる。
まず、ステップS152においては、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され、排気ブレーキ動作中と判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS154の処理へ進む一方、排気ブレーキ動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、後述するステップS156の処理へ進むこととなる。
【0043】
ステップS154においては、規定噴射回数の算出が行われる。
規定噴射回数は、通常、過給圧の大きさに基づいて所定の規定噴射回数演算式により算出されるが、このステップS154においては、排気ブレーキが動作中であることを加味できるよう修正された規定回数演算式により、排気ブレーキが動作中であることを考慮した規定噴射回数が算出される。
また、ステップS156においては、排気ブレーキが非動作中であることを加味できるよう修正された規定回数演算式により、排気ブレーキが非動作中であることを考慮した規定噴射回数が算出される。
【0044】
なお、一般的傾向として、過給圧が低い場合には、エンジン3の燃焼状態の安定性が悪いため、微小噴射量の噴射回数を多くして、取得される回転変動周波数成分の信頼性を高める必要がある。一方、過給圧が高い場合には、エンジン3の燃焼状態は安定するため、微小噴射量の噴射回数は比較的少なくて済み、信頼性のある回転変動周波数成分を得ることができる。
【0045】
一方、ステップS144においては、微小噴射の実行によるエンジン回転数変動読み取りが行われる。すなわち、エンジン3の回転数の変動量(回転変動量)の読み取りは、電子制御ユニット4にエンジン回転数信号が入力されることで行われる。
次いで、排気ブレーキが動作状態にあるか否かが判定され(図5のステップS146参照)、排気ブレーキ動作中であると判定された場合(YESの場合)には、ステップS148の処理へ進み、先にステップS144で得られたエンジン回転変動量を基に、先に述べたように電子制御ユニット4におけるソフトウェア処理による帯域フィルタを通過せしめることで、回転変動量に対応した周波数成分(回転変動周波数成分)が演算算出されるが、このステップS148では、その際、少なくとも、排気ブレーキが動作中であること、過給圧の大きさ、及び、ギアの設定を考慮して補正されて算出されることとなる。
【0046】
また、ステップS146において、排気ブレーキ動作中ではないと判定された場合(NOの場合)には、ステップS150の処理へ進み、先にステップS144で得られたエンジン回転変動量を基に、先に述べたように電子制御ユニット4におけるソフトウェア処理による帯域フィルタを通過せしめることで、回転変動量に対応した周波数成分(回転変動周波数成分)が演算算出されるが、このステップS150においては、少なくとも、排気ブレーキが非動作中であること、過給圧の大きさ、及び、ギアの設定を考慮して補正されて算出されることとなる。
なお、排気ブレーキ動作の有無、過給圧の大きさ、及び、ギアの設定を考慮した回転変動周波数成分の具体的な補正方法は、車両の具体的な諸条件を考慮して、試験やシミュレーション結果等に基づいて適切な方法を選定するのが好適である。
【0047】
しかして、ステップS154又はステップS156のいずれかと、ステップS148又はステップS150のいずれかが実行された後は、噴射回数がステップS154又はS156で算出された規定回数に達したか否かが判定され(図5のステップS158参照)、規定回数に達していないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS116(図4参照)の処理へ戻り、同様な処理が繰り返されることとなる一方、噴射回数がステップS154又はS156で算出された規定回数に達したと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS160(図6参照)の処理へ進むこととなる。
【0048】
ステップS160においては、先のステップS148又はステップS150における演算結果に基づいて、エンジン3の回転変動量に対応した周波数成分が確定される。
次いで、通電開始タイミングの変更(図5のステップS140参照)が規定回数実施されたか否かが判定され(図6のステップS162参照)、規定回数実施されたと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS164の処理へ進む一方、未だ規定回数に達していないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS116(図4参照)の処理へ戻ることとなる。
なお、このステップS162における通電開始タイミング変更の回数を定める規定回数は、先のステップS158における規定回数とは、基本的に別個に定められるものである。
【0049】
ステップS164においては、先に、各噴射毎に求められたそれぞれの回転変動量に対応する周波数成分の相互比較、換言すれば、個々の噴射の際の回転変動量の相互比較が行われる。次いで、その比較結果に基づいて通電開始タイミングのずれ量が求められると共に、その値が正常とされる範囲にあるか否かの診断がなされ、正常と判定された場合には、そのずれ量が学習値として、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に記憶され、一連の処理が一旦終了し、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる(図6のステップS166参照)。
【0050】
次に、通電開始タイミング変更のより具体的な処理手順について、図7を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初に、その時点におけるエンジン3の運転条件に基づく通電開始タイミングαが所定の通電開始タイミング演算式により演算算出され、決定される(図7のステップS202参照)。ここで、エンジン3の運転条件は、具体的には、エンジン回転数、レール圧、噴射量等である。なお、所定の通電開始タイミング演算式は、個々の車両の具体的な条件を考慮しつつ、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められたものである。したがって、運転条件として、上述のエンジン回転数、レール圧等のいずれをどのように組み合わせて用いるかは特定のものに限定されるものではなく、試験やシミュレーション結果等によって定まる個々の演算式毎に具体的に異なるものとなる。
【0051】
次いで、通電開始タイミングの移動方向が決定される(図7のステップS204参照)。通電開始タイミングの移動は、先に説明したように、運転条件に基づいて算出された通電開始タイミングαを中心に、進角側と遅角側にそれぞれ行うもので、いずれを始めとしても良いものである。
ステップS204において、通電開始タイミングの移動方向が決定された後は、タイミング移動量が算出される(図7のステップS206参照)。
タイミング移動量は、タイミング移動を繰り返す度毎に所定タイミングβを積算して求めるものとなっている。すなわち、タイミング移動量をΔTとすると、ΔT=ΔT+βとして求められる。なお、ΔTの初期値は零である。
【0052】
次いで、通電開始タイミングが確定されることとなる(図7のステップS206参照)。
すなわち、通電開始タイミング移動時における通電開始タイミングをTとすると、通電開始タイミングの移動方向が進角側の場合、通電開始タイミングTは、T=α−ΔTとされる。一方、通電開始タイミングの移動方向が遅角側の場合、通電開始タイミングTは、T=α+ΔTとされる。
【0053】
次いで、上述のようにして確定された通電開始タイミングで、複数回の微小噴射が行われることとなる(図7のステップS208参照)。なお、噴射回数は、先に説明したように過給圧の大きさと、排気ブレーキの有無に応じて所定の演算式により算出されるものとなっている(図5のステップS152〜S156参照)。
上述のようにして微小噴射が行われた後は、微小噴射によって生ずるエンジン3のエンジン回転数の回転変動量に対応する周波数成分の抽出がなされる(図7のステップS210参照)。なお、回転変動量に対応する周波数成分の抽出は、先に説明したように排気ブレーキの有無を考慮して行われるものとなっている(図5のステップS148、S150参照)。
【0054】
次いで、上述した通電開始タイミングの移動が予め定められた変更回数Nsだけ行われたか否かが判定され(図7のステップS212参照)、所定変更回数Ns行われたと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS214の処理へ進む一方、未だ所定変更回数Nsに達していないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS206の処理へ戻り、以後の一連の処理が繰り返されることとなる。
【0055】
ステップS214においては、タイミング移動が、先に説明したように、進角側と遅角側のそれぞれについて行われた否かが判定され、未だ、いずれか一方が完了していないと判定された場合(NOの場合)には、通電開始タイミング移動方向が、未だ、通電開始タイミング移動が完了していない側に設定され(図7のステップS216参照)、先のステップS206の処理へ戻ることとなる。
一方、ステップS214において、通電開始タイミング移動が進角側と遅角側の双方向へ既に行われたと判定された場合(YESの場合)には、後述する通電開始タイミングのずれ量の演算、診断等の処理へ進むこととなる。
【0056】
次に、通電開始タイミングのずれ量の算出、診断のより具体的な処理手順について、図8乃至図10を参照しつつ説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、先の通電開始タイミングの進角側及び遅角側への移動により抽出された回転変動量に対応した周波数成分を基に、回転変動量とその変化量が確定される(図8のステップS302参照)。
【0057】
次いで、上述のように確定された回転変動量が増加しているか否かが判定され(図8のステップS304参照)、増加していると判定された場合(YESの場合)には、通電開始タイミングが遅角側へずれていると判定される(図8のステップS306参照)。
一方、ステップS304において、回転変動量が増加してないと判定された場合(NOの場合)には、回転変動量が減少しているとして、通電開始タイミングが進角側へずれていると判定される(図8のステップS310参照)。
【0058】
ここで、通電開始タイミングのずれと回転変動量の関係について、図9及び図10を参照しつつ説明する。
噴射タイミング(通電開始タイミング)と回転変動量との大凡の相関関係は、図9に示されたように、運転条件によって定まる本来の通電開始タイミングにおいて回転変動量は最大となり、本来の通電開始タイミングから進角側、遅角側それぞれにずれるにしたがって回転変動量が低下してゆく傾向にある。具体的な噴射タイミングに対する回転変動量の大きさは、エンジン回転数毎に異なるため、後述する回転変動量に基づく通電開始タイミングのずれ量の算出、診断は、エンジン回転数毎の基準値を基に行う必要がある。
【0059】
図10には、基準となる通電開始タイミングαに対して、先に説明したように通電開始タイミングβを、いわば移動単位として複数回移動させた場合の回転変動量の変化を概略的に示した特性線図が示されている。
この図10は、特に、通電開始タイミングを進角側に移動した場合の例である。例えば、基準となる通電開始タイミングαから、通電開始タイミングを進角側にβだけ移動させると、回転変動量は、通電開始タイミングαにおける回転変動量からの変化量Δだけ小さくなる(図10参照)。そして、変化量Δの大きさは、通電開始タイミングを進角側に移動させるにしたがい大きくなる。
このような変化量Δの変化の傾向は、通電開始タイミングを遅角側へ移動させた場合も基本的に同様である。
【0060】
大凡の傾向としては、実際の通電開始タイミングが、基準となる通電開始タイミングとほぼ同一である場合には、上述のように通電開始タイミングを進角側、遅角側のそれぞれに移動させた場合の回転変動量の変化傾向、換言すれば、変化量Δの変化の傾向は、進角側、遅角側のそれぞれでほぼ同様となる。
これに対して、例えば、実際の通電開始タイミングが進角側へずれている場合には、通電開始タイミングを進角側へ移動させるにしたがい、回転変動量は低下してゆく一方、通電開始タイミングを遅角側へ移動させた場合には、最初、回転変動量は増加傾向を示し、その後、低下してゆくこととなる。これは、通電開始タイミングの移動に伴い、一旦、基準となる通電開始タイミングとなり、その後、基準となる通電開始タイミングから遅角側へ移ってゆくこととなるためである。
【0061】
この傾向は、実際の通電開始タイミングが遅角側にある場合もほぼ同様である。すなわち、通電開始タイミングを遅角側へ移動させるにしたがい、回転変動量は低下してゆく一方、通電開始タイミングを進角側へ移動させた場合には、最初、回転変動量は増加傾向を示し、その後、低下してゆくこととなる。
ここで、再度、図8の説明に戻れば、先のステップS306の実行後は、ステップS308の処理へ進む一方、先のステップS310の実行後は、ステップS312の処理へ進むこととなる。
【0062】
ステップS308においては、上述のように通電開始タイミングが遅角側にずれているとの判定結果に応じて、そのずれ量が演算算出される。
ずれ量の算出は、先に説明したように回転変動量の大きさとその変化の仕方が、通電開始タイミングの変化と一定の相関関係があることに基づいて、予め試験やシミュレーション結果等に基づいて定められた演算式が用いて行われる。この場合、演算式は、例えば、検出された回転変動量(図7のステップS210参照)や、その変化量などをパラメータとしてずれ量が算出されるようになっているものである。
【0063】
一方、ステップS312においては、上述のように通電開始タイミングが進角側にずれているとの判定結果に応じて、そのずれ量が演算算出される。
ずれ量の算出は、ステップS308で述べたと同様、予め試験やシミュレーション結果等に基づいて定められた演算式が用いて行われる。この場合、演算式は、例えば、検出された回転変動量(図7のステップS210参照)や、その変化量などをパラメータとしてずれ量が算出されるようになっているものである。
上述のようにステップS308又はS312のいずれかの実行により通電開始タイミングのずれ量が算出され後は、算出されたずれ量に対するフィルタ処理が行われる(図8のステップS314参照)。すなわち、算出されたずれ量を、所定の桁数の値とするための処理が施され、通電開始タイミングの学習値の対象とされる値(差分通電開始タイミング学習値)が確定されることとなる(図8のステップS316参照)。
【0064】
次いで、確定された差分通電開始タイミング学習値が、所定の目標値(リミット)を超えているか否かが判定される(図8のステップS318、及び、図3の符号M3−6参照)。
ここで、判定の目標値は、先に図3で説明したようにレール圧を基に所定の演算式により算出されるものとなっている。
回転変動量は、先に述べたようにエンジン回転数毎に異なるものであるので、上述の目標値も、本来は、エンジン回転数を基に算出すべきものであるが、本発明の実施の形態においては、試験やシミュレーション結果等に基づいて設定された目標値算出演算式を用いて、レール圧を基に目標値が算出されるものとなっている(図3の符号M3−5参照)。レール圧を基に目標値を算出するのは、大凡、レール圧の増大に伴いエンジン回転数が増加する傾向にあることに基づくものである。
【0065】
しかして、先のステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値が、所定の目標値(リミット)を超えていると判定された場合(YESの場合)には、検出された通電開始タイミングのずれが許容範囲を超えており、異常であると判定されて、一連のサブルーチン処理が一旦終了されることとなる(図8のステップS318、及び、ステップS320参照)。
【0066】
一方、先のステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値が、所定の目標値(リミット)を超えていないと判定された場合(NOの場合)には、検出された通電開始タイミングのずれが許容範囲にあり、正常であると判定されて、一連のサブルーチン処理が一旦終了されることとなる(図8のステップS318、及び、ステップS322参照)。
なお、通電開始タイミングのずれが異常であると判定された場合(図8のステップS320参照)、ステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値は破棄され、学習値として用いられない。一方、通電開始タイミングのずれが正常であると判定された場合(図8のステップS322参照)、ステップS316において確定された差分通電開始タイミング学習値は、電子制御ユニット4に確保された差分通電開始タイミング学習値記憶領域に記憶されることとなる。
【0067】
次に、通電開始タイミング学習値が、燃料噴射の際の通電開始タイミングの設定に如何に反映されるか、その一つの方法について図11及び図12を参照しつつ説明する。
まず、図11には、電子制御ユニット4において実行される通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順を模式的に表した模式図が示されており、以下、同図について説明する。
本発明の実施の例において、”通電開始タイミング学習値”は、レール圧等の運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、エンジン回転数に対応して通電開始タイミング学習値マップから読み出される差分通電開始タイミング学習値で補正したものである。
また、差分通電開始タイミング学習値は、レール圧等の運転条件により定まる通電開始タイミング(便宜的に「基準通電開始タイミング」と称する)に対する、実際の通電開始タイミングのずれ量であり、先に述べたように通電開始タイミングを移動させることによって生ずるエンジン3の回転変動量に基づいて得られたものである。
【0068】
本発明の実施の形態においては、かかる通電開始タイミング学習値を、更に実レール圧、指示噴射量(目標噴射量)に応じて以下に説明するように補正し、最終的に通電に供される補正通電開始タイミングの設定を行っている。
通電開始タイミング学習値は、先に説明したように各気筒(シリンダ)毎で、且つ、レール圧毎に取得されるものであるので、これに対応して、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域には、各通電開始タイミング学習値を、実際の燃料噴射の際の通電開始タイミングにどの程度反映させるかを定める相関マップが、通電開始タイミング学習値の数と同一数設けられるものとなっている。図11においては、レール圧毎の通電開始タイミング学習値がN個、換言すれば、N個のレール圧に対して、それぞれ通電開始タイミング学習値が取得されている場合、これに対応して、N個の相関マップA〜Nが設けられた例が示されている。
【0069】
相関マップA〜Nは、それぞれ実レール圧と指示噴射量を入力パラメータとして、2つの入力の組合せに対して、通電開始タイミング学習値を、実際の通電開始タイミングの設定に用いる割合を定めた補正係数(相関係数)が読み出し可能に設定されてなるものである。
実レール圧と指示噴射量とから相関係数が読み出されると、それぞれ対応する通電開始タイミング学習値と乗算がなされ、各乗算結果の和が求められるものとなっている(図11参照)。
【0070】
例えば、理解を容易とするため、2つのレール圧(例えば、30Mpaと50Mpa)に対して通電開始タイミング学習値が用意されている場合を例に採り説明すれば、この場合、2つのレール圧に対応して相関マップは2つとなる。
例えば、レール圧30Mpaに対する通電開始タイミング学習値がA、その相関マップAから読み出された相関係数が0.45、レール圧50Mpaに対する通電開始タイミング学習値がB、その相関マップBから読み出された相関係数が0.65であるとすると、この場合、0.45×A+0.65×Bと演算が行われることとなる。
【0071】
上述のようにして得られた、通電開始タイミング学習値と相関係数の各乗算結果の和は、予め定めた制限値を超える乗算結果の和を排除するための補正リミット(図11参照)を介して最終的な通電開始タイミング(補正通電開始タイミング)としてインジェクタ2−1〜2−nの通電駆動に供されるようになっている。
なお、上述のような通電タイミングの補正と共に、先に述べた燃料噴射量補正制御により得られた通電時間学習値についても、同様に実レール圧、指示噴射量(目標噴射量)に応じて補正し、最終的に通電に供される通電時間(補正通電時間)が設定されるものとなっている。
【0072】
図12には、電子制御ユニット4における上述の通電開始タイミング学習値を用いた補正通電開始タイミングの算出処理手順がサブルーチンフローチャートに示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
なお、この一連の処理は、本来は、通電時間学習値を用いた通電補正時間の算出にも適用されて同様に並行して実行されるものであるが、理解を容易とするため、補正通電開始タイミングの算出処理についてのみ説明することとする。
【0073】
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初に、実レール圧、指示噴射量、対象とされるインジェクタ2−1〜2−n、及び、対象とされる気筒に関する情報等の読み込みが行われる(図12のステップS402参照)。
これらの情報は、例えば、図示されないメインルーチンにおいて実行される燃料噴射制御処理によって、電子制御ユニット4の所定の記憶領域に、逐次、更新、記憶されているものであり、このステップS402においては、かかる記憶領域からの情報読み込みを行えば足りるものである。
【0074】
次いで、ステップS402で特定された通電開始タイミング学習値の補正処理の対象となる気筒について、各レール圧毎の通電開始タイミング学習値の読み込みがなされる(図12のステップS404参照)。
そして、実レール圧、指示噴射量に応じた各相関係数の算出が行われる(図12のステップS406参照)。すなわち、上述の通電開始タイミング学習値に対応して設けられている各相関マップから、実レール圧、指示噴射量に応じた相関関数がそれぞれ読み出される(図11参照)。
【0075】
次いで、各通電開始タイミング学習値と対応する各相関係数を用いて最終的な通電開始タイミング、換言すれば、補正通電開始タイミングの算出が行われることとなる(図14のステップS408参照)。すなわち、先に図11において例を挙げて説明したように、例えば、2つのレール圧について通電開始タイミング学習値A、Bが取得されており、それに対応して相関マップから読み出された相関係数が、通電開始タイミング学習値Aに対して0.45、通電開始タイミング学習値Bに対して0.65であるとすると補正通電開始タイミングは、0.45×A+0.65×Bと算出され、対象となるインジェクタの通電駆動に供されることとなる。
【0076】
なお、説明を省略したが、実際には、補正通電開始タイミングの算出と基本的に同様な処理手順により、通電時間学習値を用いて補正通電時間が算出されるものとなっている。
このようにしてインジェクタの通電駆動に供される通電開始タイミング、及び、通電時間時間が共に補正されることで、より的確な補正通電開始タイミング、補正通電時間で燃料噴射が行われることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
インジェクタの劣化等による噴射特性のばらつきに影響されることなく適切な燃料噴射量が所望される燃料噴射制御装置に適する。
【符号の説明】
【0078】
1…コモンレール
2−1〜2−n…インジェクタ
3…エンジン
4…電子制御ユニット
23…過給機
24…排気シャッターバルブ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能としたことを特徴とするインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法。
【請求項2】
前記算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えた場合、通電開始タイミングが異常であると判定する一方、前記算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えない場合には、通電開始タイミングは正常であると判定することを特徴とする請求項1記載のインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法。
【請求項3】
通電開始タイミングのずれ量が正常か否かの判定のための所定基準値は、レール圧毎に設定されてなることを特徴とする請求項2記載のインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法。
【請求項4】
内燃機関の動作制御を実行する電子制御ユニットが設けられ、前記電子制御ユニットにより燃料噴射制御が実行されるよう構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能としてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項5】
電子制御ユニットは、算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えた場合、通電開始タイミングが異常であると判定する一方、前記算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えない場合には、通電開始タイミングは正常であると判定するよう構成されてなることを特徴とする請求項4記載のコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項6】
通電開始タイミングのずれ量が正常か否かの判定のための所定基準値は、レール圧毎に設定されてなることを特徴とする請求項5記載のコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項1】
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能としたことを特徴とするインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法。
【請求項2】
前記算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えた場合、通電開始タイミングが異常であると判定する一方、前記算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えない場合には、通電開始タイミングは正常であると判定することを特徴とする請求項1記載のインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法。
【請求項3】
通電開始タイミングのずれ量が正常か否かの判定のための所定基準値は、レール圧毎に設定されてなることを特徴とする請求項2記載のインジェクタ噴射タイミング補正・診断方法。
【請求項4】
内燃機関の動作制御を実行する電子制御ユニットが設けられ、前記電子制御ユニットにより燃料噴射制御が実行されるよう構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
燃料噴射弁が無噴射状態において、エンジンの運転条件に基づいて定まる前記燃料噴射弁の通電開始タイミングを中心に、進角側及び遅角側の双方向に所定範囲内で、前記通電開始タイミングを一定時間づつずらし、通電開始タイミングをずらす毎に、微小噴射量の燃料噴射である微小噴射を複数回行い、その際生ずるエンジン回転数の変動量に基づいて前記通電開始タイミングのずれ量を算出し、前記算出されたずれ量が所定基準値を超えない場合に、そのずれ量を差分通電時開始タイミング学習値として記憶し、以後、燃料噴射の際に、エンジンの運転条件に基づいて定まる通電開始タイミングを、前記差分通電時間開始タイミング学習値により補正することで、燃料噴射における前記燃料噴射弁の通電開始タイミングのずれを補正可能としてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項5】
電子制御ユニットは、算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えた場合、通電開始タイミングが異常であると判定する一方、前記算出された通電開始タイミングのずれ量が所定基準値を超えない場合には、通電開始タイミングは正常であると判定するよう構成されてなることを特徴とする請求項4記載のコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項6】
通電開始タイミングのずれ量が正常か否かの判定のための所定基準値は、レール圧毎に設定されてなることを特徴とする請求項5記載のコモンレール式燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−241677(P2012−241677A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115303(P2011−115303)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
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