説明

インジェクタ駆動方法及び駆動装置

【課題】インジェクタのソレノイドコイルの抵抗値の変化の影響を受けることなく燃料の噴射量を制御することができるインジェクタ駆動方法を提供する。
【解決手段】エンジンの吸入空気量に対して演算した燃料の噴射量を与える噴射時間を基本駆動時間として演算し、駆動開始タイミングでインジェクタに電源電圧を印加してインジェクタの駆動を開始する。インジェクタに流れる駆動電流の波形からインジェクタの開弁が開始されるタイミングを開弁タイミングとして推定し、駆動開始タイミングから開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測する。吸入空気量に対して演算された噴射量とインジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように、開弁時間に応じて基本駆動時間を補正してインジェクタの実駆動時間を演算し、駆動開始タイミングからの経過時間が実駆動時間に達したときにインジェクタの駆動を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに燃料を供給するインジェクタ(電磁式燃料噴射弁)を駆動するインジェクタ駆動方法及び該駆動方法を実施するために用いる駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されているように、インジェクタは、噴射口を先端に有し、内部に燃料通路を有して、該燃料通路内に燃料が所定の圧力で供給されるインジェクタボディと、インジェクタボディ内にあって噴射口を開閉する弁と、励磁された際に弁を開位置側に駆動するソレノイドと、弁を閉位置側に付勢する復帰バネとを備えていて、ソレノイドコイルに電流を流すことにより弁を開位置に変位させて噴射口を開き、ソレノイドコイルが非励磁にされたときに復帰バネの付勢力により弁を閉位置に復帰させて噴射口を閉じるようにしている。
【0003】
この種のインジェクタにおいて、燃料通路内に供給される燃料の圧力が一定である場合には、弁が開位置にあるときに弁と噴射口との間に形成された隙間から噴射される燃料の量が、弁を開位置に保つ時間に比例することから、燃料を計量することなく、弁を開位置に保つ時間を噴射時間として、この噴射時間から間接的に燃料の噴射量を計量している。
【0004】
しかしながらインジェクタにおいては、弁が開く際及び閉じる際に、弁が開位置と閉位置との間を変位する過渡状態が必ず存在する。この過渡状態では、弁と噴射口との間の隙間が連続的に変化するため、弁が開位置にある時に噴射時間と噴射量との間に成立する関係は成立しない。そこで従来は、特許文献1に示されているように、弁が開く際の過渡状態において洩れ出る燃料量と、弁が閉じる際の過渡状態において洩れ出る燃料量との和を弁の開状態における噴射時間で置き換えて管理していた。
【0005】
即ち、単位通電時間当たりの噴射量をAとして、ソレノイドコイルに電源電圧を印加する時間(駆動時間)Tと噴射量Qとの間の関係を、Q=A・Tで表し、弁が開位置にある状態での噴射時間を有効噴射時間Tinj、弁が開く際及び閉じる際の過渡状態において噴射口から洩れ出る燃料量の和を弁の開状態における噴射時間に換算した時間を無効噴射時間T0として、インジェクタの駆動時間TdをTd=Tinj+T0とするようにしていた。
【0006】
インジェクタに印加する電源電圧をE、通電回路の抵抗をR、ソレノイドのインダクタンスをL、通電開始からの経過時間をtとした場合、インジェクタのソレノイドコイルに流れる駆動電流Iinjは、次の式で表すことができる。
Iinj=(E/R)[1−exp{−(R/L)t}] …(1)
【0007】
(1)式から明らかなようにインジェクタのソレノイドコイルに流れる電流は、電源電圧Eが高いほど大きくなり、回路抵抗Rが小さいほど大きくなる。またインダクタンスLが大きければ大きいほど経過時間tに対する電流の増加割合が小さくなる。
【0008】
一方、弁を動かす力(ソレノイドの起磁力)は、電流Iinj とソレノイドの巻数Nとの積N・Iinj(起磁力)に比例するので、経過時間tに対して電流Iinjの値が変化すれば、弁を動かす力が変化し、これにより弁が閉状態から開状態に変化するまでの時間topenが変化するため、弁が閉状態から開状態に移行する過程で洩れ出る燃料の量が変化してしまう。
【0009】
経過時間tに対して電流Iinjが変化する大きな要因としては、回路抵抗Rや、電源電圧Eの変化が挙げられる。回路抵抗Rを変化させる要因としては、ソレノイド自身の発熱のほか、エンジンや燃料からの受熱がある。また電源電圧Eが変化する要因としては、バッテリの起電力の変化や、バッテリの充放電の際のバッテリ内部抵抗の変化に起因する電圧変化がある。
【0010】
従来技術では、インジェクタの駆動回路を定電流回路として、回路抵抗Rや電源電圧Eの変動に対してインジェクタの駆動電流Iinjを変化させないようにしていた。しかしながら、最近では、自動車に比べて安価な小形の二輪車、オフロード車(ATV)、芝刈り機、農機などのエンジンにも燃料噴射装置が搭載されるようになっているため、燃料噴射装置のコストを引き下げることが必要とされるようになり、定電圧回路にかかるコストが問題にされるようになってきた。
【0011】
そこで、インジェクタ駆動回路を単なる半導体スイッチ回路により構成して、電流制御を行わない、いわゆるサチュレート式駆動回路が用いられるようになった。サチュレート式駆動回路では、以下の2点の改良がなされた。
【0012】
第1の改良は、駆動電流Iinjの変動が噴射量のばらつきの大きな要因とならないようにするために、インジェクタのソレノイドコイルの巻き数を多くすることによりそのインダクタンスを大きくして、駆動電流が小さい場合でも所望の起磁力が得られるようにしたことと、ソレノイドコイルの抵抗値Rsolを大きくして(高抵抗タイプのインジェクタを用いて)駆動電流Iinjを低く抑え、これによりソレノイド自身の発熱を抑制して、回路抵抗Rの変動要因を小さくしたことである。この改良により、インジェクタからの発熱が少なくなったため、インジェクタの外形寸法を小さくすることが可能になり、小排気量のエンジンの細い吸気管にインジェクタを取り付けることが容易になった。
【0013】
第2の改良は、インジェクタの駆動時間を決定する前に電源電圧Eを測定して、測定した電源電圧Eに応じて無効噴射時間T0を変化させることにより、電源電圧Eの変動による噴射量の変動を補正するようにしたことである。
【0014】
上記2点の改良により、安価なインジェクタ駆動回路で必要な噴射量精度を確保できるようになったため、近年では、高抵抗タイプのインジェクタとサチュレート式のインジェクタ駆動回路とを用いた燃料噴射装置が主流となっている。
【特許文献1】特開平7−103020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、自動車に比べて安価な車両や、農機具等を駆動するエンジンにも燃料噴射装置が適用されるようになっているが、最近、これらの機器を駆動するエンジンに対しても厳しい排気ガス規制がかかるようになったため、従来の噴射量精度では満足できなくなってきた。
【0016】
そこでインジェクタ駆動回路として定電流回路を用いて、噴射量精度を向上させることが考えられるが、現在のインジェクタの主流は高抵抗インジェクタであるため、定電流回路からなるインジェクタ駆動回路を用いても燃料噴射装置の噴射量精度を向上させることはできない。その理由は下記の通りである。
a.高抵抗インジェクタは、ソレノイドコイルの抵抗値Rsolが高いため、電源電圧Eが低下したときに所望の定電流を確保することができない。
b.定電流回路は、駆動開始時からいきなり定電流を流すことができるわけではなく、駆動開始後電流が定電流値に達するまでの間は電流を制御することができない。高抵抗インジェクタは、ソレノイドコイルのインダクタンスが大きく、駆動開始後、駆動電流が定電流値に達する以前に弁が開位置に達するように設計されているため、駆動開始時に電流値を制御できない定電流回路を用いても、開弁時に噴射口から漏れ出る燃料のばらつきを抑制することができない。
【0017】
本発明の目的は、電源電圧の変動や通電回路の回路抵抗の変動に対してインジェクタ駆動時間を的確に補正して、燃料噴射量精度を向上させることができるようにしたインジェクタ駆動方法及びこの駆動方法を実施するために用いるインジェクタ駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、エンジンに燃料を供給するインジェクタを駆動するインジェクタ駆動方法を対象とする。本発明においては、エンジンの吸入空気量に対して演算した燃料の噴射量を与える有効噴射時間を基本駆動時間として演算し、エンジンのクランク角位置がインジェクタの駆動を開始する位置として適した位置に一致するタイミングを駆動開始タイミングとして該駆動開始タイミングでインジェクタに電源電圧を印加することによりインジェクタの駆動を開始するとともに、該駆動開始タイミングからの経過時間の計測を開始する。インジェクタの駆動を開始した後、インジェクタに流れる駆動電流の波形からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定し、駆動開始タイミングから開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として、吸入空気量に対して演算された噴射量とインジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように(開弁時間が長い場合ほどインジェクタを駆動する時間を長くし、開弁時間が短い場合ほどインジェクタを駆動する時間を短くするように)、開弁時間に応じて基本駆動時間に補正演算を施してインジェクタの実駆動時間を演算し、駆動開始タイミングからの経過時間が実駆動時間に達したときにインジェクタの駆動を終了する。
【0019】
インジェクタに流れる駆動電流の波形からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして求めて、駆動開始タイミングから開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測すると、この開弁時間には、電源電圧と、ソレノイドコイルの抵抗値とが反映されている。
【0020】
上記開弁時間が長いということは、ソレノイドコイルの抵抗値が大きいか、または電源電圧が低いことを意味し、逆に上記開弁時間が短いということは、ソレノイドコイルの抵抗値が小さいか、または電源電圧が高いことを意味する。
【0021】
従って、インジェクタから噴射される燃料の量と演算された噴射量との差を零に近づけるべく、上記開弁時間が長い場合ほどインジェクタを駆動する時間を長くし、開弁時間が短い場合ほどインジェクタを駆動する時間を短くするように、開弁時間に応じて基本駆動時間に補正演算を施すことにより実駆動時間を演算して、駆動開始タイミングからの経過時間が演算された実駆動時間に達したときにインジェクタの駆動を終了するようにすると、ソレノイドコイルの抵抗値の変化及び(または)電源電圧の変動によりインジェクタの開弁が完了するまでの時間が変動したときに、その変動分を補償する分だけインジェクタを駆動する時間を補正して、インジェクタから実際に噴射される燃料の量と吸入空気量に対して演算された噴射量との間の誤差を少なくすることができるため、噴射量精度を高めることができる。
【0022】
上記のインジェクタ駆動方法を実施するために用いるインジェクタ駆動装置は、インジェクタを駆動するためにインジェクタに印加する電源電圧を発生するインジェクタ駆動用電源と、エンジンのクランク角を検出するクランク角検出手段と、エンジンの吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量に対して所定の空燃比の混合気を得るために必要な燃料噴射量を与える燃料の噴射時間を基本駆動時間として演算する基本駆動時間演算手段と、クランク角検出手段により検出されるクランク角情報を用いて検出したインジェクタ駆動開始タイミングで駆動指令信号を発生させる駆動指令信号発生手段と、駆動指令信号が発生している間電源電圧をインジェクタのソレノイドコイル印加するインジェクタ駆動回路と、インジェクタに流れる駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、駆動電流検出手段により検出された駆動電流を微分する駆動電流微分手段と、駆動電流微分手段により得られる駆動電流の微分値からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定する開弁タイミング推定手段と、駆動指令信号が発生したタイミングから開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測する開弁時間計測手段と、有効噴射時間を補正してインジェクタの実駆動時間を求めるために用いる補正値を開弁時間に対して演算する補正値演算手段と、演算された補正値を用いて有効噴射時間を補正することによりインジェクタの実駆動時間を演算する実駆動時間演算手段と、インジェクタ駆動開始タイミングからの経過時間が前記実駆動時間に一致したときに噴射指令信号を消滅させる噴射指令信号消滅手段とを備えた構成とすることができる。この場合、補正値演算手段は、吸入空気量に対して演算された噴射量とインジェクタから実際に噴射される燃料との差を零に近づけるべく、開弁時間が長い場合ほど前記実駆動時間を長くし、開弁時間が短い場合ほど実駆動時間を短くするように補正値を演算する。
【0023】
上記のように、開弁時間には、電源電圧とインジェクタのソレノイドコイルの抵抗値とが反映されているため、この開弁時間の長短に応じてインジェクタの駆動時間を補正するようにすれば、無効噴射時間を演算しなくてもインジェクタの駆動時間を的確に補正することができるが、電源電圧に対して無効噴射時間を演算して、有効噴射時間と無効噴射時間との和の時間を基本駆動時間とし、この基本駆動時間を開弁時間に応じて補正するようにすることもできる。
【0024】
このように構成する場合には、エンジンの吸入空気量に対して演算した燃料の噴射量を与える有効噴射時間とインジェクタに印加する電源電圧に対して演算した無効噴射時間とを加算して基本駆動時間を演算し、エンジンのクランク角位置がインジェクタの駆動を開始する位置として適した位置に一致するタイミングを駆動開始タイミングとして該駆動開始タイミングでインジェクタに電源電圧を印加することによりインジェクタの駆動を開始するとともに、該駆動開始タイミングからの経過時間の計測を開始する。インジェクタの駆動を開始した後、インジェクタに流れる駆動電流の波形からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定し、駆動開始タイミングから開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測して、吸入空気量に対して演算された噴射量とインジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように、開弁時間に応じて基本駆動時間に補正演算を施して実駆動時間を演算し、駆動開始タイミングからの経過時間が実駆動時間に達したときにインジェクタの駆動を終了する。
【0025】
上記のインジェクタ駆動方法を実施するために用いるインジェクタ駆動装置は、インジェクタを駆動するためにインジェクタに印加する電源電圧を発生するインジェクタ駆動用電源と、エンジンのクランク角を検出するクランク角検出手段と、エンジンの吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量に対して所定の空燃比の混合気を得るために必要な燃料噴射量に相当する燃料の噴射時間を有効噴射時間として演算する有効噴射時間演算手段と、電源電圧検出手段により検出された電源電圧に応じて無効噴射時間を演算する無効噴射時間演算手段と、有効噴射時間に前記無効噴射時間を加算して前記インジェクタの基本駆動時間を演算する基本駆動時間演算手段と、クランク角検出手段により検出されるクランク角情報を用いて検出したインジェクタ駆動開始タイミングで駆動指令信号を発生させる駆動指令信号発生手段と、駆動指令信号が発生している間電源電圧をインジェクタのソレノイドコイル印加するインジェクタ駆動回路と、インジェクタに流れる駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、駆動電流検出手段により検出された駆動電流を微分する駆動電流微分手段と、駆動電流微分手段により得られる駆動電流の微分値からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定する開弁タイミング推定手段と、駆動指令信号が発生したタイミングから前記開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測する開弁時間計測手段と、基本駆動時間を補正して実駆動時間を求めるために用いる補正値を開弁時間に対して演算する補正値演算手段と、補正値を用いて前記基本駆動時間を補正することにより実駆動時間を演算する実駆動時間演算手段と、インジェクタ駆動開始タイミングからの経過時間が実駆動時間に一致したときに前記噴射指令信号を消滅させる噴射指令信号消滅手段とを備えた構成とすることができる。この場合も、補正値演算手段は、吸入空気量に対して演算された噴射量とインジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように補正値を演算する。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、インジェクタの駆動を開始した後、インジェクタに流れる駆動電流の波形からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして求めて、インジェクタの駆動開始タイミングから開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測し、この開弁時間に、電源電圧及びソレノイドコイルの抵抗値が反映されていることを利用して、インジェクタから実際に噴射される燃料の量と、吸入空気量に対して演算された噴射量との差を零に近づけるべく、開弁時間に応じて基本駆動時間に補正演算を施すことにより実駆動時間を演算して、駆動開始タイミングからの経過時間が演算された実駆動時間に達したときにインジェクタの駆動を終了するようにしたので、ソレノイドコイルの抵抗値の変化及び(または)電源電圧の変動によりインジェクタの開弁が完了するまでの時間が変動したときに、その変動分を補償する分だけインジェクタを駆動する時間を補正して、インジェクタから実際に噴射される燃料の量と演算された噴射量との間の誤差を少なくすることができ、噴射量精度を高めることができる。
【0027】
特に、請求項1及び3に記載された発明よれば、電源電圧を検出する過程と無効噴射時間を演算する過程とを省略することができるため、駆動時間を補正するための処理に要する時間を短くして制御の応答性を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に係わるインジェクタ駆動装置のハードウェアの構成例を示したもので、同図において、1は、エンジンの吸気管やシリンダヘッドに取りつけられて、吸気管内やシリンダ内に燃料を噴射するインジェクタである。インジェクタ1は、周知の電磁式燃料噴射弁で、噴射口を先端に有し、内部に燃料通路を有して、該燃料通路内に燃料が所定の圧力で供給されるインジェクタボディと、このインジェクタボディ内で噴射口を開閉する弁と、励磁された際に弁を開位置側に駆動するソレノイドと、弁を閉位置側に付勢する復帰バネとを備えていて、ソレノイドのコイル(ソレノイドコイル)100に電流を流すことにより弁を開位置に変位させて噴射口を開き、ソレノイドコイルが非励磁にされたときに復帰バネの付勢力により弁を閉位置に復帰させて噴射口を閉じるように構成されている。図1において、Lsol及びRsolはそれぞれ、ソレノイドコイルのインダクタンス及び抵抗分である。
【0029】
インジェクタ1のソレノイドコイル100の一端は、図示しないインジェクタ駆動用電源のプラス側の出力端子に接続され、他端はインジェクタ駆動用のスイッチ回路2を構成するMOSFET F1のドレインに接続されている。MOSFETのソースはシャント抵抗器3を通して接地され、インジェクタ駆動用電源から与えられる電源電圧Eが、インジェクタ駆動用スイッチ2とシャント抵抗器3とを通してインジェクタのソレノイドコイル100に印加されている。この例では、MOSFETからなるスイッチ回路により、インジェクタ駆動回路が構成されている。
【0030】
シャント抵抗器3の両端には、インジェクタに流れる駆動電流Iinjに比例した電流検出信号Viが得られる。この電流検出信号Viは、演算増幅器OP1からなるボルテージホロワ回路4を通して、微分回路5に入力されている。微分回路5は演算増幅器OP2と、抵抗器R1ないしR3と、コンデンサC1とからなり、この微分回路から得られるインジェクタの駆動電流の微分値がマイクロプロセッサ6の入力ポートPinに入力されている。
【0031】
インジェクタ駆動用電源の出力端子間には、互いに直列接続された抵抗器R4及びR5のからなる抵抗分圧回路により構成された電源電圧検出回路7が接続され、この検出回路から得られる電圧検出信号Veは、マイクロプロセッサ6のA/D変換入力端子ADCに入力されている。またMOSFET F1のゲートと接地間に抵抗器R6が接続され、該MOSFETのゲートとマイクロプロセッサの出力ポートPoutとの間が抵抗器R7を通して接続されている。マイクロプロセッサ6は、出力ポートPoutから抵抗器R7を通してMOSFETに駆動指令信号Sinjを与える。
【0032】
8はエンジンに取りつけられた信号発生器内に設けられた信号コイルで、この信号コイルは、エンジンのクランク角位置が、第1のクランク角位置及び第2のクランク角位置に一致したときにそれぞれ極性が異なる第1及び第2のパルス信号Vs1及びVs2を発生する。本実施形態では、第1のクランク角位置が燃料の噴射を開始するクランク角位置よりも十分に進んだ位置に設定され、第2のクランク角位置が燃料の噴射を開始するクランク角位置(エンジンの吸気行程が開始されるクランク角位置の直前の位置)に等しく設定されている。信号コイル8が発生するパルス信号Vs1及びVs2はそれぞれインターフェース回路9及び10を通してマイクロプロセッサ6の入力ポートA1及びA2に入力されている。
【0033】
図示してないが、マイクロプロセッサ6には、エンジンの吸気管内圧力、スロットル開度、吸気温度、冷却水温度、大気圧など、燃料の噴射量を演算する際に用いる各種の制御条件を検出するセンサの出力が入力されている。
【0034】
本実施形態に係わるインジェクタ駆動方法においては、エンジンの吸入空気量に対して演算した燃料の噴射量を与える有効噴射時間とインジェクタ1に印加する電源電圧に対して演算した無効噴射時間とを加算して基本駆動時間を演算し、エンジンのクランク角位置がインジェクタの駆動を開始する位置として適した位置に一致するタイミングを駆動開始タイミングとして該駆動開始タイミングでインジェクタに電源電圧を印加することによりインジェクタの駆動を開始するとともに、該駆動開始タイミングからの経過時間の計測を開始する。インジェクタ1の駆動を開始した後、インジェクタに流れる駆動電流の波形からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定する。
【0035】
後記するように、インジェクタの開弁が開始される際には、インジェクタの駆動電流の増加割合が小さくなって、極大値を示し、インジェクタの開弁が完了したときには、インジェクタの駆動電流が極小値を示す。従って、駆動電流の微分値から、駆動電流の増加割合が小さくなる点、駆動電流が極大値を示す点または、極小値を示す点を検出することにより、インジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを検出することができる。
【0036】
上記のようにして開弁タイミングが推定されたときに、計測されている経過時間を読み取って、駆動開始タイミングから推定された開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として求める。そして、吸入空気量に対して演算された噴射量とインジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように、開弁時間に応じて基本駆動時間に補正演算を施して実駆動時間を演算し、駆動開始タイミングからの経過時間が実駆動時間に達したときにインジェクタの駆動を終了する。
【0037】
エンジンのクランク角位置がインジェクタ1の駆動を開始する位置として適した位置に一致するタイミングを駆動開始タイミングt1として、この駆動開始タイミングt1で駆動指令信号Sinjを発生させてインジェクタ駆動用スイッチ2をオン状態にすることによりインジェクタに電源電圧を印加すると、図4に示すように、インジェクタ1のソレノイドコイルに駆動電流Iinjが流れ、この駆動電流は、(1)式に従って増加していく。駆動電流Iinjが増加していくと、ソレノイドの起磁力が増加し、インジェクタの弁に働く力が増加していく。時刻t2においてインジェクタの弁に働く力が、弁を閉位置側に付勢している復帰バネの付勢力を超えると弁が動き始める。弁は、パーミアンスが大きくなる方向に力を受けるため、弁が動くことでますます磁路抵抗が減少する。これにより、ソレノイドコイルに鎖交する有効磁束が増加するので、弁を動かす力が大きくなっていく。
【0038】
一方弁が磁路抵抗を減少させる方向に動くことで、ソレノイドコイルに鎖交する磁束が増えるため、ソレノイドコイルのインダクタンスの働きで磁束の増加を妨げる方向の電圧が誘起する。これにより、駆動電流Iinjの増加が妨げられるため、駆動電流は、図4のZ部に示すように、増加割り合いが小さくなっていき、時刻t3で極大値を迎えた後減少していく。時刻t4で弁が開位置に到達すると、弁が磁路抵抗を減少させることがなくなるので、駆動電流の増加を妨げる方向の誘起電圧が減少する。そのため、駆動電流Iinjは弁が開位置に到達した時刻t4において極小値を示した後再び増加していき、やがて飽和する。
【0039】
上記のように、インジェクタの駆動電流Iinjは、図4のZ部に示すように、弁が動き始めてから開位置に到達する過程で減少していき、弁が開位置に達した後再び増加に転じる波形を示すため、駆動電流の増加割合が減少し始めるタイミングt2または、駆動電流の波形が極大値を示すタイミングt3を開弁が開始されるタイミングと推定することができ、極小値を示すタイミングt4を、開弁が完了するタイミングとして推定することができる。
【0040】
駆動電流の増加割合が減少し始めるタイミングt2は、駆動電流の微分値が設定された所定の基準値以下になったか否かを判定することにより求めることができ、駆動電流が極大値を示すタイミングt3は、駆動電流Iinjが増加していく過程でその微分値が零になったか否かを判定することにより求めることができる。また駆動電流の波形が極小値を示すタイミングt4は、駆動電流の微分値が正から負に変化した後零になったか否かを判定することにより求めることができる。
【0041】
本発明においては、インジェクタに流れる駆動電流Iinjの波形からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして求めて、駆動開始タイミングから開弁タイミングまでの経過時間(図4のT12,T13またはT14)を開弁時間として計測する。
【0042】
上記開弁時間が長いということは、ソレノイドコイルの抵抗値Rsolが大きいか、または電源電圧が低いことを意味し、逆に上記開弁時間が短いということは、ソレノイドコイルの抵抗値Rsolが小さいか、または電源電圧が高いことを意味する。即ち、上記開弁時間には、電源電圧及びソレノイドコイルの抵抗値が反映されている。
【0043】
従って,上記開弁時間が長い場合ほどインジェクタを駆動する時間を長くし、開弁時間が短い場合ほどインジェクタを駆動する時間を短くするように、開弁時間に応じて基本駆動時間に補正演算を施して実駆動時間を演算し、駆動開始タイミングからの経過時間が演算された実駆動時間に達したときにインジェクタの駆動を終了するようにすると、回路抵抗の変動または電源電圧の変動によりインジェクタの開弁が完了するまでの時間が変動したときに、その変動分だけインジェクタを駆動する時間を変化させて、インジェクタの弁が開位置にある状態での噴射時間が演算された噴射時間からずれるのを防ぐことができるため、回路抵抗の変動や電源電圧の変動により、燃料の噴射量が演算された噴射量からずれるのを防いで、噴射量精度を高めることができる。
【0044】
マイクロプロセッサ6は、微分回路5から得られるインジェクタの駆動電流の微分値と、電源電圧検出回路7の出力信号と、信号コイル8の出力と、各種センサの出力とを入力として、図示しないROMに記憶された所定のプログラムを実行することにより、インジェクタ駆動装置を構成するために必要な各種の機能実現手段を構成する。
【0045】
図2は、マイクロプロセッサにより構成される機能実現手段を含むインジェクタ駆動装置の構成を示したブロック図である。同図において、10はエンジンであり、インジェクタ1は、エンジン10の吸気管内に燃料を噴射するように取りつけられている。本発明は、任意の気筒数を有する2サイクルエンジンまたは4サイクルエンジンに適用することができるが、本実施形態では、説明を簡単にするために、エンジン10が単気筒の2サイクルエンジンであるとする。
【0046】
図2において、11はインジェクタ1を駆動するためにインジェクタに印加する電源電圧を発生するインジェクタ駆動用電源である。インジェクタ駆動用電源11としては、バッテリや、機関により駆動される交流発電機内の発電コイルと、該発電コイルの出力を整流する整流回路とにより構成されるもの等、直流電圧を出力するものを用いることができる。
【0047】
また12はエンジンのクランク角を検出するクランク角検出手段、13はエンジンの吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段、14は電源電圧検出手段、15及び16はそれぞれ有効噴射時間演算手段及び無効噴射時間演算手段、17は基本駆動時間演算手段である。
【0048】
クランク角検出手段12は、信号コイル8が発生する第1及び第2のパルス信号Vs1及びVs2をそれぞれ認識したときに、エンジンのクランク角位置が第1のクランク角位置及び第2のクランク角位置にあることを検出する。
【0049】
また吸入空気量検出手段13は、適宜の方法によりエンジンの吸入空気量を検出する手段である。吸入空気量を検出する方法としては、エアフローメータを用いる方法(マス・フロー方式)、エンジンの回転速度と吸気管内圧力とから吸入空気量を推定する方式(スピードデンシティ方式)、及びスロットル開度とエンジンの回転速度とから吸入空気量を推定する方式(スロットル・スピード方式)が知られているが、本発明においては、これらいずれの方法によってもよい。
【0050】
電源電圧検出手段14は、電源電圧検出回路7出力を読み込んで、インジェクタに印加される電源電圧を検出する手段であり、有効噴射時間演算手段15は、吸入空気量検出手段13により検出された吸入空気量に対して所定の空燃比の混合気を得るために必要な燃料噴射量に相当する燃料の噴射時間を有効噴射時間Tinjとして演算する手段である。
【0051】
また無効噴射時間演算手段16は、電源電圧検出手段14により検出された電源電圧に応じて無効噴射時間T0を演算する手段であり、基本駆動時間演算手段17は、有効噴射時間Tinjに無効噴射時間T0を加算してインジェクタの基本駆動時間Tを演算する手段である。
【0052】
有効噴射時間Tinjは、弁が開位置にある状態で所定量の燃料を噴射させるために必要な噴射時間であり、無効噴射時間T0は、インジェクタの弁が開く際及び閉じる際の過渡状態において噴射口から洩れ出る燃料量の和を弁の開状態における噴射時間に換算した時間である。無効噴射時間T0は、インジェクタに印加される電源電圧が高い場合ほど短くなる。
【0053】
また図2において、18は駆動開始タイミング検出手段、19は駆動指令信号発生手段、20はインジェクタ駆動回路である。駆動開始タイミング検出手段18は、クランク角検出手段12により検出されるクランク角情報を用いてインジェクタ駆動開始タイミングを検出する手段である。
【0054】
本実施形態の駆動開始タイミング検出手段18は、信号コイル8がエンジンの吸気行程が開始されるクランク角位置の直前に設定された第2のクランク角位置で第2のパルス信号Vs2を発生するタイミングをインジェクタ駆動開始タイミングとして検出する。
【0055】
駆動指令信号発生手段19は、駆動開始タイミング検出手段18が検出した駆動開始タイミングでポートPoutから駆動指令信号Sinjを発生する手段であり、この駆動指令信号Sinjは、MOSFET F1のゲートに印加される。
【0056】
インジェクタ駆動回路20は、駆動指令信号Sinjが発生している間電源電圧Eをインジェクタ1のソレノイドコイルに印加する回路で、前述のように、このインジェクタ駆動回路は、MOSFETからなるスイッチ回路2により構成されている。
【0057】
また、図2において、21は駆動電流検出手段、22は駆動電流微分手段、23は開弁タイミング推定手段、24は駆動開始タイミング検出手段18が駆動開始タイミングを検出したときに時間の計測を開始するタイマ手段、25は、開弁時間計測手段、26は補正値演算手段、27は実駆動時間演算手段、28は噴射指令信号消滅手段である。
【0058】
駆動電流検出手段21は、インジェクタ1のソレノイドコイルを通して流れる駆動電流を検出する手段で、本実施形態では、シャント抵抗器3により駆動電流検出手段21が構成されている。
【0059】
駆動電流微分手段22は、駆動電流検出手段21により検出された駆動電流を微分する手段で、この例では、微分回路5により駆動電流微分手段22が構成されている。開弁タイミング推定手段23は、駆動電流の波形からインジェクタの弁が開位置に向けて動き始めるタイミング(開弁が開始されるタイミング)または、インジェクタの弁の開動作(開弁)が完了するタイミングを開弁タイミングとして検出する手段である。本実施形態の開弁タイミング推定手段23は、駆動電流微分手段22により得られる駆動電流の微分値からインジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定するように構成される。
【0060】
開弁時間計測手段25は、駆動指令信号が発生したタイミングから開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測する手段で、開弁タイミングが求められたときにタイマ手段24の計測値を読み込むことにより、開弁時間を計測する。
【0061】
補正値演算手段26は、基本駆動時間を補正して実駆動時間を求めるために用いる補正値を開弁時間に対して演算する手段で、開弁時間と補正値との間の関係を与える補正値演算用マップを開弁時間に対して検索して、必要に応じて補間演算を施すことにより、補正値を演算する。補正値演算手段26は、有効噴射時間演算手段15により吸入空気量に対して演算された噴射量とインジェクタ1から実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるべく、開弁時間が長い場合ほど実駆動時間を長くし、開弁時間が短い場合ほど実駆動時間を短くするように補正値を演算する。補正値は、基本駆動時間に加減算する値でもよく、基本駆動時間に乗じる値(補正係数)でもよい。
【0062】
補正値演算用マップは、例えば、ソレノイドコイルの抵抗値の種々の値に対して開弁時間を測定すると共に、各開弁時間に対して噴射量の偏差を測定して、この噴射量の偏差を零にするために必要な駆動時間の補正値を求めることにより作成することができる。
【0063】
実駆動時間演算手段27は、上記補正値を用いて基本駆動時間を補正することにより実駆動時間を演算する手段で、補正値を基本駆動時間に加算若しくは減算するか、または基本駆動時間に乗じることにより実駆動時間を演算する。
【0064】
噴射指令信号消滅手段28は、インジェクタ駆動開始タイミングからの経過時間(タイマ手段24の計数値)が上記実駆動時間に一致したときに噴射指令信号を消滅させる手段である。
【0065】
図5は、図2に示したインジェクタ駆動装置を構成するためにマイクロプロセッサに実行させるインジェクタ駆動制御処理のアルゴリズムを示したもので、この処理は、信号コイル8が駆動開始タイミングよりも十分前のタイミングで第1のパルス信号Vs1を発生したときに開始される。図2の処理が開始されると、先ずステップS1において、混合気の空燃比を所定の値にするために吸気管内に供給する燃料の量を、機関の吸入空気量、機関の回転速度、機関温度(冷却水温度)、吸気温度、大気圧などの各種の制御条件に対して決定する。吸気管内に供給する燃料量を決定する際には、先ず混合気の空燃比を所定の値にするために必要な燃料量を基準燃料量として吸入空気量に対して演算し、各種の制御条件に対してマップ演算により求めた補正係数を基準燃料量に乗じることにより、実際に供給する燃料量を演算する。
【0066】
ステップS1においてエンジンに供給すべき燃料量を決定した後、ステップS2でインジェクタ駆動時間を決定する。このインジェクタ駆動時間を決定する際には、先ず供給すべき燃料量をインジェクタの弁が開位置にある状態での噴射時間に変換し、この噴射時間を有効噴射時間Tinjとする。またインジェクタ駆動用電源から与えられる電源電圧に対して無効噴射時間T0を演算し、この無効噴射時間T0を有効噴射時間Tinjに加算することにより、インジェクタ駆動時間Tdを演算する。このインジェクタ駆動時間Tdを基本駆動時間とする。
【0067】
次いでステップS3に移行して、現在のタイミングが駆動開始タイミングであるか否か(信号コイルが第2のパルス信号を発生したか否か)を判定する。ステップS3で現在のタイミングが駆動開始タイミングであると判定されたとき(信号コイルが第2のパルス信号を発生したとき)にステップS4でインジェクタに電源電圧を印加して、インジェクタの駆動を開始する。またこのときタイマを起動して駆動開始タイミングからの経過時間の計測を開始する。
【0068】
インジェクタの駆動を開始した後、ステップS5において、微分回路5から得られる駆動電流の微分値が基準値以下であるか否か(駆動電流の増加割合が基準値まで減少したか否か)を判定する。駆動電流の微分値が基準値以下になったと判定されたときに(図4の時刻t2において)インジェクタの駆動開始タイミングから現在までの経過時間(T12)を開弁時間として、この開弁時間に対してインジェクタの実際の駆動時間を算出するために基本駆動時間に加減算する駆動補正時間を補正値として演算し、この補正値を基本駆動時間に加算するか、または基本駆動時間から減算することにより実駆動時間を演算する。
【0069】
そして、ステップS7において、現在のタイミングが駆動終了タイミングであるか否かを判定し、駆動終了タイミングであると判定されたときに(駆動開始タイミングからの経過時間が実駆動時間に達したときに)ステップS8で駆動指令信号Sinjを消滅させてMOSFET F1をオフ状態にすることにより、インジェクタに印加していた電源電圧を除去してインジェクタの駆動を終了する。
【0070】
図5に示したアルゴリズムによる場合には、ステップS1及びS2により、有効噴射時間演算手段15,無効噴射時間演算手段16及び基本駆動時間演算手段17が構成され、ステップS3により、駆動開始タイミング検出手段18が構成される。またステップS4により駆動指令信号発生手段19が構成され、ステップS5により開弁タイミング推定手段23が構成される。更に、ステップ6により開弁時間計測手段25、補正値演算手段26及び実駆動時間演算手段27が構成され、ステップS7及びS8により噴射指令信号消滅手段28が構成される。
【0071】
また図1に示された信号コイル8によりクランク角検出手段12が、電源電圧検出回路7により電源電圧検出手段14が、インジェクタ駆動用スイッチ2によりインジェクタ駆動回路20が、シャント抵抗器3とボルテージホロワ回路4とにより駆動電流検出手段21が、微分回路5により駆動電流微分手段22がそれぞれ構成されている。
【0072】
図2の吸入空気量検出手段13は図5に示した処理とは別の処理により構成される。
【0073】
上記の実施形態では、吸入空気量に対して燃料噴射量を演算して、この噴射量を噴射時間に変換するようにしているが、インジェクタに与えられる燃料の圧力が一定で、既知である場合には、吸入空気量に対して混合気の空燃比を所定の値にするために必要な基本噴射時間を直接演算して、この基本噴射時間を各種の条件に対して補正することにより有効噴射時間を演算するようにすることもできる。
【0074】
上記の実施形態では、インジェクタに印加する電源電圧に対して無効噴射時間T0を演算して、この無効噴射時間を有効噴射時間Tinjに加算することにより基本駆動時間Tdを演算し、この基本駆動時間を開弁時間に対して補正するようにしているが、開弁時間には、ソレノイドコイルの抵抗値だけでなく、電源電圧も反映されているので、無効噴射時間を演算することなく、有効噴射時間Tinjを基本駆動時間とし、この基本駆動時間を電源電圧とソレノイドコイルの抵抗値との双方に対して補正するための補正値を開弁時間に対して演算して、該補正値を用いて基本駆動時間を補正することにより、実駆動時間を求めるようにしてもよい。
【0075】
このように構成する場合のインジェクタ駆動装置の構成を図3に示した。図3に示された基本駆動時間演算手段17は、吸入空気量に対して混合気の空燃比を所定の値にするために必要な有効噴射時間を基本駆動時間として演算する。補正値演算手段26は、有効噴射時間を電源電圧とソレノイドコイルの抵抗値との双方に対して補正する演算に用いる補正値を演算する。実駆動時間演算手段27は、有効噴射時間(基本駆動時間)を補正値を用いて補正することにより、実駆動時間を演算する。その他の点は図3に示した例と同様である。
【0076】
図3のように構成した場合には、電源電圧検出手段及び無効噴射時間演算手段が不要になるため、図2に例に比べて駆動装置の構成を簡単にすることができる上に、実駆動時間を演算するための処理と簡単にして応答性を向上させることができる。
【0077】
上記の説明では、エンジンが単気筒であるとしたが、2気筒以上の多気筒エンジンに取りつけられるインジェクタを駆動する場合にも本発明を適用できるのはもちろんである。各気筒に対してクランク角位置を検出するための信号を発生させるようにしておく。
【0078】
また上記の説明では、エンジンが2サイクル機関であるとしたが、4サイクルエンジンにも本発明の適用することができるのはもちろんである。4サイクルエンジンに適用する場合には、エンジンの吸気行程(噴射開始位置)を検出するための手段、例えば、カム軸の回転に同期して、各気筒の吸気行程の上死点前の適当な位置でパルス信号を発生するセンサを設けておく。
【0079】
上記の説明では、高抵抗タイプのインジェクタを用いると共に、インジェクタ駆動回路としてサチュレート式の回路(単なるスイッチ回路)を用いているが、従来型の低抵抗タイプのインジェクタと定電流回路からなるインジェクタ駆動回路とを用いる場合であっても、インジェクタの駆動電流が定電流に達する前に開弁が完了する場合には、本発明を適用して、開弁時間に応じてインジェクタの実駆動時間を補正するすることが可能である。従って、本発明は高抵抗タイプのインジェクタとサチュレート式のインジェクタ駆動回路とを用いる場合に限定されない。
【0080】
図5に示した例では、エンジンに供給すべき、燃料量の決定からインジェクタの駆動終了までを連続した処理で行わせるようにしているが、点火装置の制御などの他の制御を平行して行わせるために、例えば図5のステップS1及びS2を独立した駆動時間決定処理とし、ステップS3ないしS8をインジェクタ駆動処理として、それぞれの処理を微小時間間隔で繰り返し実行させるようにしてもよい。このように構成する場合、インジェクタ駆動処理のステップS3,S5及びS7において「No」の判定がされたときには、「Yes」の判定を待つことなく、該インジェクタ駆動処理から抜けるようにしておく。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【図2】本発明に係わるインジェクタ駆動装置の第1の実施形態の構成を示したブロック図である。
【図3】本発明に係わるインジェクタ駆動装置の第2の実施形態の構成を示したブロック図である。
【図4】インジェクタの駆動時に流れる駆動電流の時間的変化の一例を示したグラフである。
【図5】図2に示したインジェクタ駆動装置を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1 インジェクタ
2 インジェクタ駆動用スイッチ
3 シャント抵抗器
5 微分回路
6 マイクロプロセッサ
7 電源電圧検出回路
10 エンジン
11 インジェクタ駆動用電源
13 吸入空気量検出手段
14 電源電圧検出手段
15 有効噴射時間演算手段
16 無効噴射時間演算手段
17 基本駆動時間演算手段
18 駆動開始タイミング検出手段
19 駆動指令信号発生手段
20 インジェクタ駆動回路
21 駆動電流検出手段
22 駆動電流微分手段
23 開弁タイミング推定手段
24 タイマ手段
25 開弁時間計測手段
26 補正値演算手段
27 実駆動時間演算手段
28 噴射指令信号消滅手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに燃料を供給するインジェクタを駆動するインジェクタ駆動方法であって、
前記エンジンの吸入空気量に対して演算した燃料の噴射量を与える有効噴射時間を基本駆動時間として演算し、
前記エンジンのクランク角位置が前記インジェクタの駆動を開始する位置として適した位置に一致するタイミングを駆動開始タイミングとして該駆動開始タイミングで前記インジェクタに電源電圧を印加することにより前記インジェクタの駆動を開始するとともに、該駆動開始タイミングからの経過時間の計測を開始し、
前記インジェクタに流れる駆動電流の波形から前記インジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定し、
前記駆動開始タイミングから前記開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として、前記吸入空気量に対して演算された噴射量と前記インジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように、前記開弁時間に応じて前記基本駆動時間に補正演算を施して前記インジェクタの実駆動時間を演算し、
前記駆動開始タイミングからの経過時間が前記実駆動時間に達したときに前記インジェクタの駆動を終了すること、
を特徴とするインジェクタ駆動方法。
【請求項2】
エンジンに燃料を供給するインジェクタを駆動するインジェクタ駆動方法であって、
前記エンジンの吸入空気量に対して演算した燃料の噴射量を与える有効噴射時間と前記インジェクタに印加する電源電圧に対して演算した無効噴射時間とを加算して基本駆動時間を演算し、
前記エンジンのクランク角位置が前記インジェクタの駆動を開始する位置として適した位置に一致するタイミングを駆動開始タイミングとして該駆動開始タイミングで前記インジェクタに電源電圧を印加することにより前記インジェクタの駆動を開始するとともに、該駆動開始タイミングからの経過時間の計測を開始し、
前記インジェクタに流れる駆動電流の波形から前記インジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定し、
前記駆動開始タイミングから前記開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測して、前記吸入空気量に対して演算された噴射量と前記インジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように、前記開弁時間に応じて前記基本駆動時間に補正演算を施して実駆動時間を演算し、
前記駆動開始タイミングからの経過時間が前記実駆動時間に達したときに前記インジェクタの駆動を終了すること、
を特徴とするインジェクタ駆動方法。
【請求項3】
エンジンに燃料を供給するインジェクタを駆動するインジェクタ駆動装置であって、
前記インジェクタを駆動するために前記インジェクタに印加する電源電圧を発生するインジェクタ駆動用電源と、
前記エンジンのクランク角を検出するクランク角検出手段と、
前記エンジンの吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、
前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量に対して所定の空燃比の混合気を得るために必要な燃料噴射量を与える燃料の噴射時間を基本駆動時間として演算する基本駆動時間演算手段と、
前記クランク角検出手段により検出されるクランク角情報を用いて検出したインジェクタ駆動開始タイミングで駆動指令信号を発生させる駆動指令信号発生手段と、
前記駆動指令信号が発生している間前記電源電圧を前記インジェクタのソレノイドコイルに印加するインジェクタ駆動回路と、
前記インジェクタに流れる駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、
前記駆動電流検出手段により検出された駆動電流を微分する駆動電流微分手段と、
前記駆動電流微分手段により得られる駆動電流の微分値から前記インジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定する開弁タイミング推定手段と、
前記駆動指令信号が発生したタイミングから前記開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測する開弁時間計測手段と、
前記有効噴射時間を補正して前記インジェクタの実駆動時間を求めるために用いる補正値を前記開弁時間に対して演算する補正値演算手段と、
前記補正値を用いて前記有効噴射時間を補正することにより前記インジェクタの実駆動時間を演算する実駆動時間演算手段と、
前記インジェクタ駆動開始タイミングからの経過時間が前記実駆動時間に一致したときに前記噴射指令信号を消滅させる噴射指令信号消滅手段と、
を具備し、
前記補正値演算手段は、前記吸入空気量に対して演算された噴射量と前記インジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように前記補正値を演算することを特徴とするインジェクタ駆動装置。
【請求項4】
エンジンに燃料を供給するインジェクタを駆動するインジェクタ駆動装置であって、
前記インジェクタを駆動するために前記インジェクタに印加する電源電圧を発生するインジェクタ駆動用電源と、
前記エンジンのクランク角を検出するクランク角検出手段と、
前記エンジンの吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段と、
前記電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、
前記吸入空気量検出手段により検出された吸入空気量に対して所定の空燃比の混合気を得るために必要な燃料噴射量に相当する燃料の噴射時間を有効噴射時間として演算する有効噴射時間演算手段と、
前記電源電圧検出手段により検出された電源電圧に応じて無効噴射時間を演算する無効噴射時間演算手段と、
前記有効噴射時間に前記無効噴射時間を加算して前記インジェクタの基本駆動時間を演算する基本駆動時間演算手段と、
前記クランク角検出手段により検出されるクランク角情報を用いて検出したインジェクタ駆動開始タイミングで駆動指令信号を発生させる駆動指令信号発生手段と、
前記駆動指令信号が発生している間前記電源電圧を前記インジェクタのソレノイドコイルに印加するインジェクタ駆動回路と、
前記インジェクタに流れる駆動電流を検出する駆動電流検出手段と、
前記駆動電流検出手段により検出された駆動電流を微分する駆動電流微分手段と、
前記駆動電流微分手段により得られる駆動電流の微分値から前記インジェクタの開弁が開始されるタイミングまたは開弁が完了するタイミングを開弁タイミングとして推定する開弁タイミング推定手段と、
前記駆動指令信号が発生したタイミングから前記開弁タイミングまでの経過時間を開弁時間として計測する開弁時間計測手段と、
前記基本駆動時間を補正して実駆動時間を求めるために用いる補正値を前記開弁時間に対して演算する補正値演算手段と、
前記補正値を用いて前記基本駆動時間を補正することにより実駆動時間を演算する実駆動時間演算手段と、
前記インジェクタ駆動開始タイミングからの経過時間が前記実駆動時間に一致したときに前記噴射指令信号を消滅させる噴射指令信号消滅手段と、
を具備し、
前記補正値演算手段は、前記吸入空気量に対して演算された噴射量と前記インジェクタから実際に噴射される燃料量との差を零に近づけるように前記補正値を演算することを特徴とするインジェクタ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−128206(P2008−128206A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317539(P2006−317539)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】