説明

インスリンの検出装置

【課題】インスリンを、短時間かつ簡便な操作で高感度に検出するための検出装置および検出方法を提供すること。
【解決手段】検出装置は、基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体(例えばカーボンナノチューブ)を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタと、前記電界効果トランジスタに結合された抗インスリン抗体と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリンを検出する装置に関し、特に、抗原抗体反応を電気的に検知してインスリンを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリンは、脊椎動物の膵臓ランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるペプチドホルモンである。インスリンの分泌は主に血中のグルコース濃度により支配されているが、他にもアミノ酸やグルカゴン、迷走神経刺激剤、スルホニル尿素などが分泌促進因子として知られている。インスリンは糖代謝の調節に重要な役割を果たしているため、糖尿病や肥満などの病態生理を解明する上で、インスリンの血中濃度を測定することは非常に重要である。また、糖尿病の治療薬を開発する際にも、インスリンの血中濃度を測定することは必須である。
【0003】
従来、インスリンの測定方法として、酵素免疫測定法(ELISA法)や化学発光(蛍光)免疫測定法などの光学的変化に基づく方法が知られている。
【0004】
上記の免疫測定法では、プレートに固定された第一の抗インスリン抗体に検体中のインスリンを結合させ、第二の抗インスリン抗体(第一の抗インスリン抗体とはインスリンの異なる部位を認識する)を第一の抗体に結合したインスリンに結合させる。このとき、第二の抗インスリン抗体を酵素(酵素免疫測定法)や蛍光物質(蛍光免疫測定法)などで標識しておくことで、インスリンの量を光学的に測定することができる(例えば、非特許文献1〜5参照)。
【0005】
一方、電界効果トランジスタ(以下「FET」と略記する)は、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極の3端子を有し、ソース電極およびドレイン電極に接続されるチャネルに流れる電流がゲート電極に印加される電圧により生じる電界によって制御される半導体素子である。チャネルが超微細繊維体、例えばカーボンナノチューブ(以下「CNT」と略記する)で構成されたカーボンナノチューブ電界効果トランジスタ(以下「CNT−FET」と略記する)なども知られている。
【0006】
CNT−FETの一例として、図26(A)および図26(B)に示されるものが知られている(例えば、非特許文献6参照)。
【0007】
図26(A)に示されるCNT−FETにおいては、基板2の第一の面に形成された絶縁膜1上に、ソース電極3およびドレイン電極4、ならびにこれらの電極を接続するチャネル(CNT)6が配置され、第二の面上にシリコン基板2と電気的に接続されているゲート電極5が配置されている。このようなFETは、ゲート電極の配置に基づいて、バックゲート型電界効果トランジスタ(以下「バックゲート型FET」と略記する)と称されることがある。
【0008】
図26(B)に示されるFETにおいては、基板2の第一の面に形成された絶縁膜1上に、ソース電極3、ドレイン電極4およびゲート電極5が配置されている。このようなFETは、ゲート電極の配置に基づいて、サイドゲート型電界効果トランジスタ(以下「サイドゲート型FET」と略記する)と称されることがある。
【0009】
また、CNT−FETの電気特性を利用したセンサの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。これらのセンサは、チャネルとなるCNTの電気特性がCNTに結合された分子認識部位の状態変化に依存して変化することを利用しており、例えば、その分子認識部位と被検出物質の反応を、反応により誘起されるCNTの電気特性の変化を介してCNT−FETのソース電極とドレイン電極との間の電流(以下「ソース−ドレイン電流」という)または電圧(以下「ソース−ドレイン電圧」という)の変化として検出する。
【特許文献1】国際公開第2004/104568号パンフレット
【非特許文献1】K Tokuyama and M Suzuki, "Intravenous Glucose Tolerance Test-Derived Glucose Effectiveness in Endurance-Trained Rats", Metabolism 47 (1998) 190-194.
【非特許文献2】Y Minokoshi, M S Haque and T Shimazu, "Microinjection of LeptinInto the Ventromedial Hypothalamus Increases Glucose Uptake in Peripheral Tissues in Rats", Diabetes 48 (1999) 287-291.
【非特許文献3】MS Haque, Y Minokoshi, M Hamai, M Iwai, M Horiuchi and T Shimazu, "Role of the Sympathetic Nervous System and Insulin in Enhancing Glucose Uptake in Peripheral Tissues After Intrahypothalamic Injection of Leptinin Rats" Diabetes 48 (1999) 1706-1712.
【非特許文献4】Y Morimoto, M Sakata, A Ohno, T Maegawaamd S Tajima, "Effects of Byakko-ka-ninjin-to, Bofu-tsusho-san and Gorei-san on Blood Glucose Level, Water Intake and Urine Volume in KKA Mice", YAKUGAKU ZASSHI 122 (2002) 163-168.
【非特許文献5】T Sugimoto, W Ogawa, M Kasuga, Y Yokoyama, "Chronic effects of AJ-9677 on energy expenditure and energy source utilization in rats", European Journal of Pharmacology 519 (2005) 135-145.
【非特許文献6】松本和彦, 「カーボンナノチューブSET/FETのセンサー応用」, 電気学会電子材料研究会資料, Vol.EFM-03, No.35-44, 2003.12.19, p.47-50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の通り、インスリンの濃度を測定することは、糖尿病の病態生理の解明や糖尿病の治療薬の開発にとって重要である。そこで、本発明者は、インスリンの濃度を光学的変化ではなく、電気的変化に基づいて検出することを検討した。
【0011】
本発明者は、抗インスリン抗体を結合させたFETを用いて、FETの電気特性(ソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧)の変化から抗原抗体反応を検出することを検討した。
【0012】
さらに、本発明者は、検出装置のFETを特定の構造とすることにより、検出感度を上げること、およびセンサとしての構造自由度を上げることを検討した。従来のFETでは、ソース−ドレイン電流を制御するため、チャネルの電気特性を制御するゲート電極をチャネルの近傍に配置する必要があった。
【0013】
すなわち、従来のバックゲート型FETにおいては、基板をバックゲート電極として作用させることで、ゲート電極を基板上に形成した絶縁膜のみを隔ててチャネルに近接させていた。そのため、ゲート電極を基板と電気的に接触させる必要があると考えられてきた。すなわち、ゲート電極を、電気伝導性を有する基板に電気的に直接接触させ配置させて、できるだけゲート電極の電位変化によるチャネル近傍の電界変化、すなわちソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧への作用を高めることが必要であると考えられていた。
【0014】
また、従来のサイドゲート型FETにおいては、ゲート電極によりソース−ドレイン電流を制御するため、ゲート電極をチャネルに近づけて配置させることが必要であると考えられていた。すなわち、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板面と同一の面に配置されたゲート電極を、ナノメートルレベルにまでチャネルに接近させて、できるだけソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧への作用を高めることが必要であると考えられていた。
【0015】
本発明者は、支持基板に形成された絶縁膜上に、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが形成されたFETにおいて、支持基板に自由電子の移動による分極が生じるようにゲート電極を配置するという、新しい原理(ソース−ドレイン電流の制御原理)に基づくFETを開発することを検討した。そして本発明者は、FETの性能の向上、およびFETの検出装置への適用を検討するなかで、FETのゲート電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板の裏面に配置された場合に、その基板裏面に絶縁膜が形成されていても、ソース−ドレイン電流を制御することができることを見出した。さらに本発明者は、FETのゲート電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板表面と同一の表面に配置された場合に、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルからある程度離されて配置されても、ソース−ドレイン電流を制御することができることを見出した。さらに本発明者は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板とは分離されるが、電気的に接続されている別個の基板に配置されたゲート電極が、ソース−ドレイン電流を制御することができることを見出した。
【0016】
そして、これらの新しい制御原理に基づくFETに、抗インスリン抗体を結合させることによって、インスリンを検出することを検討した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明の第一は以下に示す検出装置に関する。
[1]基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタ;および前記電界効果トランジスタに結合された抗インスリン抗体を含むインスリンの検出装置。
[2]前記抗体は、前記電界効果トランジスタの基板、ゲート電極または超微細繊維体に結合されている、[1]に記載の検出装置。
[3]前記抗体は、二価性架橋試薬を介して前記電界効果トランジスタに結合されている、[1]または[2]に記載の検出装置。
[4]前記抗体の固定化濃度は、0.5ng/ml〜5μg/mlである、[1]〜[3]のいずれかに記載の検出装置。
[5]前記超微細繊維体はカーボンナノチューブである、[1]〜[4]のいずれかに記載の検出装置。
[6]前記ゲート電極は、前記基板に自由電子の移動による分極を生じさせる、[1]〜[5]のいずれかに記載の検出装置。
[7]前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜、および前記支持基板の第二の面に形成された第二の絶縁膜を有し;前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され;前記ゲート電極は、前記第二の絶縁膜上に配置されており;かつ前記抗体は、前記第二の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、[1]〜[6]のいずれかに記載の検出装置。
[8]前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し;前記ソース電極、ドレイン電極、チャネルおよびゲート電極は、前記第一の絶縁膜上に配置され;かつ前記抗体は、前記第一の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、[1]〜[6]のいずれかに記載の検出装置。
[9]前記ゲート電極と前記超微細繊維体との間隔が10μm以上である、[8]に記載の検出装置。
[10]前記電界効果トランジスタは、前記基板に電気的に接続されている第二の基板をさらに含み;前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し;前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され;前記ゲート電極は、前記第二の基板の第一の面上に配置されており;かつ前記抗体は、前記第二の基板の第一の面またはゲート電極に結合されている、[1]〜[6]のいずれかに記載の検出装置。
【0018】
本発明の第二は、以下に示すインスリンを検出する方法に関する。
[11][1]〜[10]のいずれかに記載の検出装置に含まれる抗体に、インスリンを含むサンプルを接触させるステップ;および前記接触後の電界効果トランジスタのソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧を測定するステップ、を含むインスリンを検出する方法。
[12]前記インスリンを含むサンプルは、血液またはその処理物である、[11]に記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検出装置は、FETの電気特性(ソース−ドレイン電流やソース−ドレイン電圧など)の変化から抗原抗体反応を検出することにより、インスリンを高感度かつ簡便に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
1.本発明の検出装置
本発明の検出装置は、電界効果トランジスタ(FET)と、前記FETに結合された抗インスリン抗体を含む。
【0021】
1−1.電界効果トランジスタについて
検出装置に含まれるFETは、基板と、基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極と、ソース電極およびドレイン電極を電気的に接続するチャネルと、チャネルを流れる電流を制御するゲート電極と、を含む。
【0022】
1−1−1.基板について
FETは、基板を有し、基板上にはソース電極およびドレイン電極ならびにチャネルが配置されている。基板の構造および材質は、ゲート電極(後述)に電圧を印加することにより、基板に自由電子の移動による分極(後述)が生じるのであれば特に限定されない。通常、基板は、半導体または金属からなる支持基板と;支持基板と、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルとを電気的に絶縁する絶縁膜と;を有する。図1に基板の例が示される。図1(A)は、支持基板200および第一の絶縁膜202を含む基板である。図1(B)は、支持基板200、第一の絶縁膜202および第二の絶縁膜204を含む基板である。
【0023】
支持基板は、半導体または金属であることが好ましい。半導体は、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウムなどの14族元素、砒化ガリウム、リン化インジウムなどのIII−V化合物、テルル化亜鉛などのII−VI化合物などである。金属は、特に限定されないが、例えばアルミニウムやニッケルなどである。支持基板の厚さは、特に限定されないが、0.1〜1.0mmであることが好ましく、0.3〜0.5mmが特に好ましい。
【0024】
支持基板の第一の面(ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された面)に形成された第一の絶縁膜の材質は、特に限定されないが、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムや酸化チタンなどの無機化合物、およびアクリル樹脂やポリイミドなどの有機化合物が挙げられる。第一の絶縁膜の表面には、水酸基、アミノ基またはカルボキシル基などの官能基が導入されていてもよい。
【0025】
第一の絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、10〜1000nmが好ましく、20〜500nmが特に好ましい。第一の絶縁膜が薄すぎると、トンネル電流が流れてしまう可能性がある。一方、第一の絶縁膜が厚すぎると、ゲート電極を用いてソース−ドレイン電流を制御することが困難になる可能性がある。
【0026】
支持基板の第二の面(第一の面の裏面)に、第二の絶縁膜が形成されていてもよい。第二の絶縁膜の材質は、第一の絶縁膜の材質の例と同様である。第二の絶縁膜の厚さも、第一の絶縁膜と同様に10nm以上が好ましく、20nm以上が特に好ましいが、特に限定されるわけではない。一方、バックゲート型FET(後述)または分離ゲート型FET(後述)である場合、第二の絶縁膜の厚さは、特に限定されないが、第一の絶縁膜と同様に、1000nm以下が好ましく、500nm以下が特に好ましい。
【0027】
支持基板の絶縁膜に被覆される面(第一の面または第二の面)は、平滑であることが好ましい。すなわち、支持基板と絶縁膜との界面は平滑であることが好ましい。支持基板の表面が平滑であると、その表面を被覆する絶縁膜の信頼性が高まるためである。支持基板の絶縁膜に被覆される面は、特に限定されないが、研磨されている方が好ましい。支持基板の表面の平滑度は、表面粗さ測定機などにより確認することができる。
【0028】
1−1−2.チャネルについて
チャネルは、半導体性を示す超微細繊維体を含むことが好ましい。超微細繊維体とは、電気伝導性を示す、直径が数nmの繊維体である。超微細繊維体の例には、カーボンナノチューブ(CNT)、DNA、導電性高分子、シリコン繊維、シリコンウイスカー、グラフェンなどが含まれる。この中ではCNTが好ましい。チャネルに含まれる超微細繊維体の数は、1本でも複数本でもよい。超微細繊維体の数は、AFMによって確認されうる。また、超微細繊維体と基板との間には空隙があってもよい。
【0029】
超微細繊維体がCNTである場合、CNTは、単層CNTまたは多層CNTのいずれでもよいが、単層CNTが好ましい。また、CNTには欠陥が導入されていてもよい。「欠陥」とは、CNTを構成する炭素五員環または六員環が開環している状態を意味する。欠陥が導入されたCNTは、かろうじて繋がっているような構造をしていると推測されるが、実際の構造は明らかでない。CNTに欠陥を導入する方法は、特に限定されないが、例えばCNTを焼鈍しすればよい。
【0030】
超微細繊維体は、損傷を防ぐために絶縁性保護膜によって保護されていてもよい。絶縁性保護膜で超微細繊維体を被覆することにより、FET全体を超音波洗浄したり、強酸や強塩基を用いて洗浄したりすることが可能となる。さらに、絶縁性保護膜を設けることによって超微細繊維体の損傷が防止されるので、FETの寿命を著しく延ばすことができる。絶縁性保護膜は、例えば、絶縁性接着剤により形成される膜やパッシベーション膜などである。絶縁性保護膜が酸化シリコン膜の場合、絶縁性保護膜に抗体を容易に結合させることができる。
【0031】
1−1−3.ソース電極およびドレイン電極について
ソース電極およびドレイン電極は、基板の第一の絶縁膜上に配置される。ソース電極およびドレイン電極の材質は、例えば、金や白金、チタンなどの金属である。ソース電極およびドレイン電極は、二種以上の金属で多層構造にされていてもよい。例えば、チタンの層に金の層を重ねてもよい。ソース電極およびドレイン電極は、これらの金属を第一の絶縁膜上に蒸着することにより形成される。金属を蒸着するときは、リソグラフィを用いてパターンを転写しておくことが好ましい。
【0032】
ソース電極とドレイン電極との間隔は、特に限定されないが、通常は2〜10μm程度である。この間隔は、超微細繊維体による電極間の接続を容易にするために、さらに縮めてもよい。
【0033】
1−1−4.ゲート電極について
ゲート電極は、電圧を印加されることで、ソース電極およびドレイン電極が配置されている基板に自由電子の移動による分極を生じさせる。「自由電子の移動による分極」とは、自由電子が基板内を移動することにより、プラスの電荷に偏った領域およびマイナスの電荷に偏った領域がそれぞれ基板内に形成されることをいう。半導体または金属から成る支持基板と絶縁膜とから成る基板の場合、自由電子の移動による分極は、電気伝導性を有する支持基板において生じる。基板が分極しているか否かは、基板両面の電位差の測定などによって確認されうる。
【0034】
ゲート電極の大きさは、特に限定されず、超微細繊維体素子(ソース電極、ドレイン電極およびチャネルとなる超微細繊維体からなる)の大きさに応じて決定すればよい。ゲート電極の大きさが超微細繊維体素子に対して小さすぎると、ゲート電極がソース−ドレイン電流を制御することが困難になる場合がある。例えば、ソース電極とドレイン電極との間の距離が2〜10μmである場合、ゲート電極の大きさは、およそ0.1mm×0.1mm以上であればよい。
【0035】
基板を分極させるように配置されたゲート電極は、(A)バックゲート電極、(B)サイドゲート電極、および(C)分離ゲート電極の態様に分類される。
【0036】
(A)バックゲート電極について
バックゲート電極は、基板の第二の絶縁膜上に配置されている。この電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルに対して基板の裏面に配置されているので、バックゲート電極と称される。バックゲート電極は、(a)第二の絶縁膜に直接接触して配置されていてもよく、(b)第二の絶縁膜から物理的に離されて配置されていてもよい。(a)の態様の例が図2に示される。
【0037】
図2において、本発明のバックゲート型FET100は、支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208、超微細繊維体(チャネル)210およびバックゲート電極212を有する。バックゲート電極212は、ソース電極206、ドレイン電極208および超微細繊維体210が配置されている第一の絶縁膜202上ではなく、第二の絶縁膜204上に配置されている。
【0038】
バックゲート電極は、第二の絶縁膜の一部にだけ配置されていても、第二の絶縁膜の全面に配置されていてもよい。基板の第二の面の全面にゲート電極が設けられていれば、抗体を第二の絶縁膜の全面に結合させることができる。
【0039】
従来のバックゲート型FETは、バックゲート電極でソース−ドレイン電流を制御するために、バックゲート電極を支持基板(半導体または金属からなる)に直接接触させて配置することによって、相互作用を得ていた。一方、本発明者は、バックゲート電極と支持基板とを直接接触させる必要は必ずしもないことを見出した。つまり、バックゲート電極と支持基板との間に絶縁膜を設けても、ソース−ドレイン電流を制御することができることがわかった。ゲート電極に電圧が印加されると、支持基板(半導体または金属からなる)において、支持基板内の自由電子の存在に起因する分極が起こり、その分極によってソース−ドレイン電流が制御されるからであると考えられる。自由電子の移動による分極には、容量結合による要因も含まれるが、他の要因も排除しない。
【0040】
(B)サイドゲート電極について
サイドゲート電極は、基板の第一の絶縁膜上に配置されている。この電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された面と同一の面に配置されているので、サイドゲート電極と称される。サイドゲート電極は、(a)第一の絶縁膜に直接接触して配置されていてもよく、(b)第一の絶縁膜から物理的に離されて配置されていてもよい。(a)の態様の例が図3に示される。
【0041】
図3において、本発明のサイドゲート型FET140は、支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208、超微細繊維体(チャネル)210およびサイドゲート電極214を有する。サイドゲート電極214は、ソース電極206、ドレイン電極208および超微細繊維体210が配置されている第一の絶縁膜202上に配置されている。
【0042】
基板の同一面上に配置されたサイドゲート電極と超微細繊維体との間隔は、特に制限されないが、本発明のサイドゲート型FETでは10μm以上、さらに100μm以上、さらに1mm以上とすることができる。上限も特に制限されないが、数cm以下である。「サイドゲート電極と超微細繊維体との間隔」とは、互いの最短間隔を意味する。
【0043】
従来のサイドゲート型FETは、ゲート電極でソース−ドレイン電流を制御するために、サイドゲート電極とソース電極、ドレイン電極およびチャネルとの間で直接の相互作用を得る必要があると考えられていた。したがって、従来のサイドゲート型FETでは、サイドゲート電極とチャネルとの間隔を、できるだけ短くしていた(長くても1μm程度)。
【0044】
一方、本発明者は、サイドゲート電極を、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルに接近させる必要が必ずしもないことを見出した。サイドゲート電極ならびにソース電極、ドレイン電極およびチャネルが同一の絶縁膜上に設けられている場合、サイドゲート電極に電圧が印加されると、その絶縁膜の下の支持基板(半導体または金属からなる)において、支持基板内の自由電子の存在に起因する分極が起こり、その分極によってソース−ドレイン電流が制御されるからであると考えられる。分極には、容量結合による要因も含まれるが、他の要因も排除しない。
【0045】
検出装置において、サイドゲート電極には、抗体が結合され、さらに試料溶液を滴下されることがある。本発明の検出装置のサイドゲート型FETでは、サイドゲート電極と、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルとの間隔を広げることができるので、チャネルに含まれる超微細繊維体が試料溶液によって汚染されるのが防止されうる。
【0046】
(C)分離ゲート電極について
分離ゲート電極は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置された基板とは分離されているが、電気的に接続されている第二の基板上に配置されている。第二の基板は、半導体または金属からなる支持基板と、支持基板の少なくとも一方の面に形成された絶縁膜とを有する基板、または絶縁体からなる基板でありうるが、好ましくは前者の基板である。
【0047】
ゲート電極が配置されている第二の基板は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置されている基板とは分離されている。ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置されている基板とゲート電極が配置されている第二の基板との間隔は、特に限定されず、3mm以上、さらには10mm以上、さらには15mm以上とすることができ、それ以上にすることもできる。
【0048】
前記の通り、ゲート電極が配置されている第二の基板は、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルが配置されている基板と電気的に接続されている。「電気的に接続されている」とは、例えば、(a)基板および第二の基板が、同一の導電性基板に載置されている、または(b)基板および第二の基板が、それぞれ異なる導電性基板に載置され、かつそれぞれの導電性基板が導電性部材により接続されていることを意味する。(a)の態様において、導電性基板は、特に限定されないが、金薄膜を蒸着されたガラス基板や真鍮などの材料からなる基板などである。(b)の態様において、導電性部材は、特に限定されないが、例えば銅線などの導電性ワイヤなどである。(a)の態様の例が図4に示され、(b)の態様の例が図5に示される。
【0049】
図4において、本発明の分離ゲート型FET160は、支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208、超微細繊維体(チャネル)210、第二の支持基板216、第三の絶縁膜218、第四の絶縁膜220、分離ゲート電極222および導電性基板224を有する。支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208および超微細繊維体210を有する素子部を超微細繊維体素子部240といい、第二の支持基板216、第三の絶縁膜218、第四の絶縁膜220および分離ゲート電極222を有する素子部をゲート素子部260という。分離ゲート電極222は、ソース電極206、ドレイン電極208および超微細繊維体210が配置されている超微細繊維体素子部240上ではなく、ゲート素子部260上に配置されている。
【0050】
図5において、本発明の分離ゲート型FET162は、支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208、超微細繊維体(チャネル)210、第二の支持基板216、第三の絶縁膜218、第四の絶縁膜220、分離ゲート電極222、第一の導電性基板226、第二の導電性基板228および導電性部材230を有する。支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208および超微細繊維体210を有する素子部を超微細繊維体素子部242といい、第二の支持基板216、第三の絶縁膜218、第四の絶縁膜220および分離ゲート電極222を有する素子部をゲート素子部262という。分離ゲート電極222は、ソース電極206、ドレイン電極208および超微細繊維体210が配置されている超微細繊維体素子部242上ではなく、ゲート素子部262上に配置されている。
【0051】
分離ゲート型FETでは、ソース電極、ドレイン電極およびチャネルを配置された基板を、ゲート電極が配置された第二の基板から分離することができるため、構造上の自由度が高い。したがって、分離ゲート型FETを利用する検出装置は、実用性の高い装置となりうる。
【0052】
1−2.抗インスリン抗体について
前述の通り、本発明の検出装置は、電界効果トランジスタ(FET)に結合された抗インスリン抗体を含む。抗インスリン抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。例えば、ラットインスリンを検出する場合には、モルモット抗ラットインスリン抗体を選択すればよい。
【0053】
1−2−1.抗体が結合するFETの部位について
本発明の検出装置において、抗インスリン抗体はFETに結合されていればよい。その結合部位は特に制限されないが、基板やゲート電極、チャネルに含まれる超微細繊維体(超微細繊維体を保護する膜を含む)などが含まれる。以下、抗インスリン抗体をFETに結合させる例を、図面を参照して説明する。
【0054】
図6〜図10には、バックゲート型FETに抗インスリン抗体を結合させた例が示される。図6〜図10において、インスリンを含みうる試料溶液400を提供される本発明のバックゲート型FET102〜126は、支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208、超微細繊維体(チャネル)210およびバックゲート電極212を有し、抗インスリン抗体300が結合されている。
【0055】
図6には、超微細繊維体210に抗インスリン抗体300を結合させた例が示される。この例では、抗インスリン抗体300がチャネルである超微細繊維体210に直接結合されているので、検出感度の向上が見込める。
【0056】
図7には、抗インスリン抗体300を、絶縁性保護膜232を介して超微細繊維体210に結合させた例が示される。この例では、試料溶液400がチャネルである超微細繊維体210と接触することがないので、ノイズが低減される。
【0057】
図8には、基板の第二の絶縁膜204に抗インスリン抗体300を結合させた例が示される。この例では、超微細繊維体210を損傷させることなく第二の絶縁膜204を洗浄することができるので、再利用することが容易である。また、第二の絶縁膜204全体に抗インスリン抗体300を結合させることもできるので、比較的多くの抗インスリン抗体300を結合させることができる。図8(A)では抗インスリン抗体300を第二の絶縁膜204の全面に結合しており、バックゲート電極212が第二の絶縁膜204に固定されていない場合に有用である。一方、図8(B)および図8(C)では抗インスリン抗体300が第二の絶縁膜204の一部に結合しており、バックゲート電極212が第二の絶縁膜204に固定されている場合に有用である。図8(D)では、第二の絶縁膜204に、複数のバックゲート電極212a,212bが配置され、かつ複数種の抗インスリン抗体300a,300bが第二の絶縁膜204に結合されている。
【0058】
図9には、基板の第二の面上に凹部を形成し、この凹部の底に位置する第二の絶縁膜204に抗インスリン抗体300を結合させた例が示される。凹部の側壁234の材質は、特に限定されないが、例えば、酸化シリコンである。この例では、凹部の容積を調整することにより、一定量の試料溶液を提供することができる。また、添加された試料溶液が散逸されにくく、抗インスリン抗体が結合された部位に安定して保持されうる。図9(A)および図9(B)は、バックゲート電極212を凹部の蓋として機能させる例を示す図である。図9(C)は、バックゲート電極212を凹部の側壁234上に配置させた例を示す図である。図9(D)は、バックゲート電極212を凹部の側壁234側面に配置させた例を示す図である。図9(E)は、バックゲート電極212を凹部外の第二の絶縁膜204上に配置させた例を示す図である。
【0059】
図10には、抗インスリン抗体300をバックゲート電極212に結合させた例が示される。この例では、超微細繊維体210を損傷させることなくバックゲート電極212を洗浄することができるので、再利用することが容易である。図10(A)は、バックゲート電極212が一つ配置されている場合に、抗インスリン抗体300をバックゲート電極212に結合させた例を示す図である。図10(B)は、バックゲート電極212が複数配置されている場合に、複数種の抗インスリン抗体300a,300bをそれぞれ異なるバックゲート電極212a,212bに結合させた例を示す図である。
【0060】
図11〜図15には、サイドゲート型FETに抗インスリン抗体を結合させた例が示される。図11〜図15において、インスリンを含みうる試料溶液400を提供される本発明のサイドゲート型FET142〜154は、支持基板200、第一の絶縁膜202、ソース電極206、ドレイン電極208、超微細繊維体(チャネル)210およびサイドゲート電極214を有し、抗インスリン抗体300が結合されている。
【0061】
図11には、抗インスリン抗体300を超微細繊維体210に結合させた例が示される。この例では、抗インスリン抗体300がチャネルである超微細繊維体210に直接結合しているため、検出感度が向上しうる。
【0062】
図12には、抗インスリン抗体300を絶縁性保護膜232を介して超微細繊維体210に結合させた例が示される。この例では、試料溶液400がチャネルである超微細繊維体210、ソース電極206、ドレイン電極208およびサイドゲート電極214を保護する絶縁性保護膜232と直接接触することがないので、検出感度が向上しうる。図12(A)には、抗インスリン抗体300を、超微細繊維体210を保護する絶縁性保護膜232を介して超微細繊維体210に結合させた例を示す図である。図12(B)には、抗インスリン抗体300を、超微細繊維体210、ソース電極206、ドレイン電極208およびサイドゲート電極214を保護する絶縁性保護膜232を介して超微細繊維体210に結合させた例を示す図である。
【0063】
図13には、サイドゲート電極214が第一の絶縁膜202と接触するように配置されている場合に、抗インスリン抗体300を第一の絶縁膜202に結合させた例が示される。試料溶液400は、サイドゲート電極214に接触しても(図13(A))しなくても(図13(B))よい。
【0064】
図14には、基板の第二の面上に凹部を形成し、この凹部の底に位置する第二の絶縁膜204に抗インスリン抗体300を結合させた例が示される。凹部の側壁234の材質は、特に限定されないが、例えば酸化シリコンである。この例では、抗インスリン抗体300が結合されている部位(すなわち凹部内)に試料溶液400を的確に位置させることができる。
【0065】
図15には抗インスリン抗体300をサイドゲート電極214に結合させた例が示される。
【0066】
図16〜図21には、分離ゲート型FETに抗インスリン抗体を結合させた例が示される。図16〜図21において、インスリンを含みうる試料溶液400を提供される本発明の分離ゲート型FET164〜170は、支持基板200、第一の絶縁膜202、第二の絶縁膜204、ソース電極206、ドレイン電極208および超微細繊維体210を有する超微細繊維体素子部244〜250と、第二の支持基板216、第三の絶縁膜218、第四の絶縁膜220および分離ゲート電極222を有するゲート素子部264〜280とを有し、抗インスリン抗体300が結合されている。
【0067】
図16は、分離ゲート電極222が第二の基板の第三の絶縁膜218と接触せずに配置されている場合に、抗インスリン抗体300を第三の絶縁膜218に結合させた例を示す図である。
【0068】
図17は、分離ゲート電極222が第二の基板の第三の絶縁膜218と接触するように配置されている場合に、抗インスリン抗体300を第三の絶縁膜218に結合させた例を示すゲート素子部266〜270の図である。試料溶液400は、分離ゲート電極222に接触していても(図17(A))しなくても(図17(B))よい。図17(C)は、分離ゲート電極222a,222bが複数配置されている場合に、複数種の抗インスリン抗体300a,300bをそれぞれ第三の絶縁膜218に結合させた例を示す図である。
【0069】
図18は、抗インスリン抗体300を分離ゲート電極222に結合させた例を示すゲート素子部272,274の図である。図18(A)は、分離ゲート電極222が一つ配置されている場合に、抗インスリン抗体300を分離ゲート電極222に結合させた例を示す図である。図18(B)は、分離ゲート電極222a,222bが複数配置されている場合に、複数種の抗インスリン抗体300a,300bをそれぞれ異なる分離ゲート電極222a,222bに結合させた例を示す図である。
【0070】
図19は、ゲート素子部276a,276bが複数ある場合に、複数種の抗インスリン抗体300a,300bをそれぞれ異なる分離ゲート電極222a,222bに結合させた例を示す図である。
【0071】
図20は、超微細繊維体素子部248およびゲート素子部278が、導電性基板224を挟むように配置され、かつゲート素子部278上に分離ゲート電極222a,222bが複数配置されている場合に、複数種の抗インスリン抗体300a,300bをそれぞれ第三の絶縁膜218に結合させた例を示す図である。この例では、ゲート素子部278を超微細繊維体素子部248から取り外すことを容易に行うことができる。したがって、一の超微細繊維体素子部248に対して、複数のゲート素子部278を付け替えることが可能である。
【0072】
図21は、超微細繊維体素子部250およびゲート素子部280が、導電性部材230によって電気的に接続され、かつゲート素子部280上に分離ゲート電極222a,222bが複数配置されている場合に、複数種の抗インスリン抗体300a,300bをそれぞれ第三の絶縁膜218に結合させた例を示す図である。
【0073】
1−2−2.抗体を結合させる方法について
抗体をFETに結合させる方法は、特に制限されないが、例えば二価性架橋試薬を介して結合させる方法がある。二価性架橋試薬とは、二の官能基を有し、一の官能基はFETとの結合に、別の一の官能基が抗体との結合に用いられる化合物である。二価性架橋試薬は、たとえば二つの官能基、およびそれを結ぶ親水性ポリマー鎖(ポリエチレングリコール鎖など)または疎水鎖(アルキル鎖など)などを有する。二つの官能基の例には、アミノ基と結合する官能基と、チオール基結合する官能基の組み合わせが含まれる。
【0074】
例えば、二価性架橋試薬を介して抗体を絶縁膜に結合する場合は、以下の手順で行えばよい。まず、抗体と二価性架橋試薬とを反応させた後、透析などにより未反応の二価性架橋試薬を除去して、抗体−二価性架橋試薬複合体を得る。次に、シラン化カップリング剤で処理した基板の絶縁膜と、前記抗体−二価性架橋試薬複合体を反応させて結合させる。または、シラン化カップリング剤で処理した基板絶縁膜と二価性架橋試薬を反応させ、さらに抗体を反応させて結合させる。
【0075】
抗体を結合させる方法は、二価性架橋試薬を介する方法に限定される訳ではなく、例えば、プロテインAやプロテインG、プロテインA/G、プロテインLなどのレクチンを用いる方法なども用いられる。
【0076】
1−2−3.抗体結合濃度について
FETに抗インスリン抗体を結合させるときに用いる抗体溶液の濃度は、適切な結果を得られる範囲内であれば特に限定されない。例えば、A(濃い)〜E(薄い)の5段階の濃度の抗インスリン抗体溶液を用いて抗インスリン抗体をFETに結合し、得られた各FETについて抗原抗体反応を検出する予備実験を行った結果、A〜Cの濃度の抗体溶液により抗インスリン抗体を結合したFETはほぼ同様に抗原抗体反応を検出できた場合、抗インスリン抗体をFETに結合させる際に用いる抗体溶液の濃度はA〜Cのいずれかであればよいが、経費削減の観点からCの濃度の抗体溶液を用いることが好ましい。
【0077】
1−3.電気特性を測定する部材について
本発明の検出装置は、抗原抗体反応により引き起こされるFETの電気特性の変化を観察することにより、抗原であるインスリンの検出または濃度の測定をすることができる。FETの電気特性の例には、ソース−ドレイン電流とゲート電圧の関係;およびソース−ドレイン電流とソース−ドレイン電圧の関係が含まれる。したがって本発明の検出装置は、FETの電気信号を測定する部材、好ましくはFETのソース−ドレイン電流またはソースドレイン電圧を測定する部材を有することが好ましい。FETのソース−ドレイン電流を測定する部材には、通常の半導体パラメータアナライザを適宜に適用することができる。これらの部材により、ダイナミックレンジにおける電気的特性の変化を観察すればよい。
【0078】
2.本発明のインスリンの検出方法
本発明のインスリンの検出装置は、FETに結合された抗インスリン抗体と、被検出物質であるインスリンとが抗原抗体反応を起こすことにより生じるソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧の変化を観察することにより、インスリンを検出する。
【0079】
本発明のインスリンの検出方法は、前述の検出装置を用いてインスリンを検出する方法であって、前述の検出装置に結合された抗インスリン抗体に、インスリンを含むサンプルを接触させるステップと、電界効果トランジスタ(FET)の電気信号(ソース−ドレイン電流やソース−ドレイン電圧を含む)を測定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0080】
以下において、検出手順の概略例を示す。この概略例では、インスリンを含む溶液をサンプルとする場合について説明する。
【0081】
(1)検出装置に含まれるFETの抗インスリン抗体が結合された部位に、サンプルを提供する。例えば、抗インスリン抗体がFETの基板の第二の面に結合されている場合、サンプルをマイクロピペットなどを用いて基板の第二の面に滴下すればよい。サンプルにインスリンが含まれていれば、抗原抗体反応が生じる。
【0082】
(2)提供されたサンプルに含まれる溶媒は、ソース−ドレイン電流に影響を与えるため、検出時にノイズを発生させることがある。このノイズを低減させるために、必要に応じてサンプルを蒸散させる、またはサンプルを冷却する。
【0083】
(3)ソース電極およびドレイン電極ならびにゲート電極を通電させ、ソース−ドレイン電流やソース−ドレイン電圧などを測定して、I−V特性(ソース−ドレイン電流とソース−ドレイン電圧との関係)またはI−Vg特性(ソース−ドレイン電流とゲート電圧との関係)を求める。
【0084】
以上の手順により、抗原抗体反応により生じるソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧の変化を測定して、インスリンを検出することができる。あらかじめインスリンの濃度と電気信号との関係を求めて検量線を取得していれば、サンプル内のインスリンの濃度を測定することもできる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例を参照してさらに説明する。なお、本発明の範囲は、本実施例により限定して解釈されない。
【0086】
本実施例では、モルモット抗ラットインスリン抗体を結合した本発明の検出装置を用いて、ラットインスリン標準品を検出した例を示す。
【0087】
(1)抗体の調製
モルモット抗ラットインスリン抗体(株式会社森永生科学研究所)をpH7.6のリン酸緩衝液で希釈して、500μg/mlの希釈液500μlを得た。得られた希釈液に、二価性架橋試薬(Sulfosuccinimidyl 4[N-maleimidomethyl]-cyclohhexane-1-carboxylate(Sulfo−SMCC))を添加して、二価性架橋試薬の終濃度を抗体濃度の10倍モル濃度とした。得られた溶液を、1時間室温で振とうさせ、二価性架橋試薬と抗体とを反応させた。反応後、透析用リン酸緩衝液(100mMリン酸ナトリウム、pH6.0)で一晩透析した。
【0088】
(2)サンプルの調製
本実施例では、ラットインスリン標準品を検出対象とした。0.5%BSAを含むPBSでラットインスリン標準品(株式会社森永生科学研究所)の希釈系列(0,10,50,100,250,500fg/ml)を作製して、各種濃度の標準サンプルを得た。また、インスリンを枯渇させたラット血清でラットインスリン標準品の希釈系列(0,25,50,250fg/ml)を作製して、各種濃度の血清サンプルを得た。
【0089】
(3)検出装置
本実施例では、(1)で調製した抗体を図8(A)に示されるバックゲート型のCNT−FETに結合させた。バックゲート型のCNT−FETは、支持基板は厚さ550μmのシリコン基板、第一の絶縁膜および第二の絶縁膜は厚さ300nmの酸化シリコン膜、基板の面積は1cm(1cm×1cm)、超微細繊維体は単層CNT、ソース電極とドレイン電極の間隔は5μmとし、ゲート電極は第二の絶縁膜に接触させた。
【0090】
まず、CNT−FETの基板の第二の面(チャネルがない側の面)に、NaOH水溶液(2M:50μl)を滴下し、45℃で2分間処理した。処理面を純水で洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。シランカップリング剤(S810)3μlを滴下し、45℃で15分間処理し、さらに200℃で30分間処理した。1mMテトラヒドロホウ酸ナトリウム水溶液(還元剤)を滴下し、45℃で15分間処理した。処理後の基板を蓋付きのケースに入れた後、(1)で得た抗インスリン抗体溶液(50μl)を滴下して、室温で1時間静置して抗体を結合させた。予備実験として0.5ng/ml,5ng/ml,50ng/ml,5μg/mlの濃度の溶液で抗インスリン抗体を結合させたところ、いずれの濃度の溶液を用いても検出装置のダイナミックレンジおよび感度はほぼ同様であった。したがって、本実施例では、50ng/mlの抗インスリン抗体溶液を使用して抗インスリン抗体を結合させた。0.5%BSAを含むPBSで第二の面をブロッキングした後、PBSで洗浄して、本実施例で使用する検出装置とした。
【0091】
(4)検出
(2)で得られた各サンプル(50μl)を、モルモット抗ラットインスリン抗体を結合させた基板の第二の面に重層して、室温で15分間反応させた。その後、基板の第二の面をPBSで3回洗浄し、窒素ガスで水分を除去した。乾燥後、I−Vg特性(ソース−ドレイン電流とゲート電圧との関係)を室温にて半導体パラメータアナライザ(Agilent 4155C)を用いて測定した。測定時のゲート電圧は−20〜+20Vとした。
【0092】
(5)結果
図22は、標準サンプルにおけるI−Vg特性の測定結果を示すグラフである。各濃度のサンプルについて、ソース電圧を−1Vかつドレイン電圧を0VにしたものをID.1とし、ソース電圧を+1Vかつドレイン電圧を0VにしたものをID.2とする。図22に示されるように、I−Vg曲線はラットインスリン標準品の濃度に依存して右方向にシフトしていることがわかる。
【0093】
図23は、標準サンプルの濃度を横軸に、図22のID.2の曲線についてソース−ドレイン電流が1×10−6Aになるゲート電圧の値を縦軸にプロットしたグラフである。図23に示されるように、ラットインスリン標準品の濃度が10〜250fg/mlの範囲ではゲート電圧が直線状に上昇しており、検量線が得られることがわかる。したがって、本発明のインスリン検出装置は、この検量線を使用してサンプルに含まれるインスリンの濃度を測定できることがわかる。
【0094】
図24は、血清サンプルにおけるI−Vg特性の測定結果を示すグラフである。図24に示されるように、I−Vg曲線は、標準サンプルと同様にラットインスリン標準品の濃度に依存して右方向にシフトしていることがわかる。したがって、本発明のインスリン検出装置は、インスリンの血中濃度も測定できることがわかる。
【0095】
図25は、比較例として、モルモット抗ラットインスリン抗体の代わりにインスリンに結合しないモルモット抗体を結合させた検出装置に標準サンプルを提供した場合のI−Vg特性の測定結果を示すグラフである。図25に示されるように、標準サンプルおよび血清サンプルで見られたI−Vg曲線のシフトは観察されなかった。このことから、図22〜図23に示される結果は、ラットインスリンとモルモット抗ラットインスリン抗体との抗原抗体反応によるものであることが示唆される。
【0096】
これらの結果から、本実施例のインスリン検出装置の検出下限は、10〜数10fg/mlであることがわかった。本実施例の検出装置は、検出下限が数pg/mlであるサンドイッチELISA法を用いた従来のインスリン測定キットに比べて、約100倍高感度であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の検出装置は、短時間で簡単な操作でインスリンの濃度を測定することができるので、糖代謝異常を示す疾患(糖尿病、低血糖)の診断などで用いられる医療機器などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の検出装置に含まれるCNT−FETの基板の構造を示す図であり、(A)は片面が絶縁膜で覆われた基板の断面図、(B)は両面が絶縁膜で覆われた基板の断面図である。
【図2】本発明の検出装置に含まれるバックゲート型FETの一例を示す模式図である。
【図3】本発明の検出装置に含まれるサイドゲート型FETの一例を示す模式図である。
【図4】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETの一例を示す模式図である。
【図5】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETの一例を示す模式図である。
【図6】本発明の検出装置に含まれるバックゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を超微細繊維体に結合させた例を示す模式図である。
【図7】本発明の検出装置に含まれるバックゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を絶縁性保護膜に結合させた例を示す模式図である。
【図8】本発明の検出装置に含まれるバックゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を第二の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図9】本発明の検出装置に含まれるバックゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を第二の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図10】本発明の検出装置に含まれるバックゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート電極に結合させた例を示す模式図である。
【図11】本発明の検出装置に含まれるサイドゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を超微細繊維体に結合させた例を示す模式図である。
【図12】本発明の検出装置に含まれるサイドゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を絶縁性保護膜に結合させた例を示す模式図である。
【図13】本発明の検出装置に含まれるサイドゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を第一の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図14】本発明の検出装置に含まれるサイドゲート型FETおいて、抗インスリン抗体を第二の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図15】本発明の検出装置に含まれるサイドゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート電極に結合させた例を示す模式図である。
【図16】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート素子部の第三の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図17】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート素子部の第三の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図18】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート素子部のゲート電極に結合させた例を示す模式図である。
【図19】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート素子部のゲート電極に結合させた例を示す模式図である。
【図20】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート素子部の第一の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図21】本発明の検出装置に含まれる分離ゲート型FETおいて、抗インスリン抗体をゲート素子部の第一の絶縁膜に結合させた例を示す模式図である。
【図22】本発明の検出装置を用いてPBSに溶解させたインスリン標準品を検出した時のI−Vg曲線を示すグラフである。
【図23】本発明の検出装置を用いてインスリン標準品を検出して得られた検量線を示すグラフである。
【図24】本発明の検出装置を用いて血清に溶解させたインスリン標準品を検出した時のI−Vg曲線を示すグラフである。
【図25】インスリンを認識しない抗体を結合させた検出装置を用いてインスリン標準品を検出しようとした時のI−Vg曲線を示すグラフである。
【図26】従来のCNT−FETを示す模式図であり、(A)は従来のバックゲート型FETを示す模式図、(B)は従来のサイドゲート型FETを示す模式図である。
【符号の説明】
【0099】
1 絶縁膜
2 基板
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート電極
6 CNT
100〜126 本発明のバックゲート型FET
140〜154 本発明のサイドゲート型FET
160〜170 本発明の分離ゲート型FET
200 支持基板
202 第一の絶縁膜
204 第二の絶縁膜
206 ソース電極
208 ドレイン電極
210 超微細繊維体
212 バックゲート電極
214 サイドゲート電極
216 第二の支持基板
218 第三の絶縁膜
220 第四の絶縁膜
222 分離ゲート電極
224 導電性基板
226 第一の導電性基板
228 第二の導電性基板
230 導電性部材
232 絶縁性保護膜
234 凹部側壁
240〜250 超微細繊維体素子部
260〜280 ゲート素子部
300 抗インスリン抗体
400 試料溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、前記基板上に配置されたソース電極およびドレイン電極、前記ソース電極とドレイン電極とを電気的に接続する超微細繊維体を含むチャネル、ならびに前記チャネルを流れる電流を制御するゲート電極を有する電界効果トランジスタ、および
前記電界効果トランジスタに結合された抗インスリン抗体を含むインスリンの検出装置。
【請求項2】
前記抗体は、前記電界効果トランジスタの基板、ゲート電極または超微細繊維体に結合されている、請求項1記載の検出装置。
【請求項3】
前記抗体は、二価性架橋試薬を介して前記電界効果トランジスタに結合されている、請求項1記載の検出装置。
【請求項4】
前記抗体の固定化濃度は、0.5ng/ml〜5μg/mlである、請求項1記載の検出装置。
【請求項5】
前記超微細繊維体はカーボンナノチューブである、請求項1記載の検出装置。
【請求項6】
前記ゲート電極は、前記基板に自由電子の移動による分極を生じさせる、請求項1記載の検出装置。
【請求項7】
前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜、および前記支持基板の第二の面に形成された第二の絶縁膜を有し、
前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され、
前記ゲート電極は、前記第二の絶縁膜上に配置されており、かつ
前記抗体は、前記第二の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、請求項1記載の検出装置。
【請求項8】
前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し、
前記ソース電極、ドレイン電極、チャネルおよびゲート電極は、前記第一の絶縁膜上に配置され、かつ
前記抗体は、前記第一の絶縁膜またはゲート電極に結合されている、請求項1記載の検出装置。
【請求項9】
前記ゲート電極と前記超微繊維体との間隔が10μm以上である、請求項8記載の検出装置。
【請求項10】
前記電界効果トランジスタは、前記基板に電気的に接続されている第二の基板をさらに含み、
前記基板は、半導体または金属からなる支持基板、および前記支持基板の第一の面に形成された第一の絶縁膜を有し、
前記ソース電極、ドレイン電極およびチャネルは、前記第一の絶縁膜上に配置され、
前記ゲート電極は、前記第二の基板の第一の面上に配置されており、かつ
前記抗体は、前記第二の基板の第一の面またはゲート電極に結合されている、請求項1記載の検出装置。
【請求項11】
請求項1に記載の検出装置に含まれる抗体に、インスリンを含むサンプルを接触させるステップ、および
前記接触後の電界効果トランジスタのソース−ドレイン電流またはソース−ドレイン電圧を測定するステップ、を含むインスリンを検出する方法。
【請求項12】
前記インスリンを含む試料は、血液またはその処理物である、請求項11記載のインスリンを検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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