説明

インプリント装置およびインプリント方法、それを用いた物品の製造方法

【課題】インプリント処理時の重ね合わせ精度の向上に有利なインプリント装置を提供する。
【解決手段】このインプリント装置は、基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、基板上に硬化した樹脂のパターンを形成する。このインプリント装置は、型に外力または変位を与え、型に形成されているパターン部の形状を補正する型変形機構と、パターンを形成すべき基板上のパターン形成領域に予め存在する基板側パターンに温度分布を形成し、基板側パターンの形状を補正する基板変形機構と、基板変形機構により基板側パターンの形状を補正(S106)させた後に、基板側パターン上に塗布された樹脂とパターン部とを押し付けた状態(S108)にて、型変形機構によりパターン部の形状を補正(S109)させることで、パターン部の形状と基板側パターンの形状とを合わせる制御を実行する制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置およびインプリント方法、ならびにそれを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加え、基板上の未硬化樹脂を型(モールド)で成形し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。この技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上に数ナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。例えば、インプリント技術の1つとして、光硬化法がある。この光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板(ウエハ)上のインプリント領域であるショットに紫外線硬化樹脂(インプリント材、光硬化性樹脂)を塗布する。次に、この樹脂(未硬化樹脂)を型により成形する。そして、紫外線を照射して樹脂を硬化させたうえで引き離すことにより、樹脂のパターンが基板上に形成される。
【0003】
ここで、インプリント処理が施される基板は、一連のデバイス製造工程において、例えばスパッタリングなどの成膜工程での加熱処理を経ることで、基板全体が拡大または縮小し、平面内で直交する2軸方向でパターンの形状(サイズ)が変化する場合がある。したがって、インプリント装置では、型と基板上の樹脂とを押し付けるに際し、基板上に形成されているパターンの形状と型に形成されているパターン部の形状とを合わせる必要がある。このような形状補正(倍率補正)は、従来の露光装置であれば、基板の倍率に合わせて投影光学系の縮小倍率を変更したり、基板ステージの走査速度を変更したりすることで露光処理時の各ショットサイズを変化させて対応可能である。しかしながら、インプリント装置では、投影光学系がなく、また型と基板上の樹脂とが直接接触するため、このような補正を実施することが難しい。そこで、インプリント装置では、型の側面から外力を与えたり、型を加熱して膨張させたりすることで、型を物理的に変形させる形状補正機構(倍率補正機構)を採用している。
【0004】
例えば、このインプリント装置を32nmハーフピッチ程度の半導体デバイスの製造工程に適用する場合を考える。このとき、ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)によれば、重ね合わせ精度は、6.4nmとなる。したがって、これに対応するためには、形状補正も数nm以下の精度で実施する必要がある。その一方で、インプリント装置に用いられる型(パターン部)も、以下のような原因で歪曲が発生する可能性がある。例えば、型は、製作時にはパターン面が上向きであるのに対し、使用時(押し付け時)にはパターン面が下向きとなる。したがって、使用時には重力の影響などによりパターン部が変形する可能性がある。また、パターン部は、一般に電子ビームなどを用いる描画装置により形成されるが、この形成の際にも、描画装置の光学系の歪曲収差などに起因して歪曲が生じる可能性がある。さらに、パターン部が歪曲なしで製作できたとしても、予め基板上に形成されていたパターンに歪曲が生じていれば、重ね合わせ精度に影響が出る。そこで、このような型の歪曲(変形)に対して、型の形状ではなく、基板の形状を補正することで、重ね合わせ精度を改善させるものがある。特許文献1は、インプリント装置と同様に1対1の転写を行うX線露光装置に適用され、基板全体を加熱し、熱変形した基板をチャックにより保持することで、基板の形状を一括して補正する倍率補正装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3394158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように、従来の倍率補正機構より型を物理的に変形させるだけでは、数nm以下の重ね合わせ精度を達成する上で必要となる、弓形、樽形、または糸巻形などに代表される高次の変形成分を形状補正するのは難しい。また、特許文献1に示す倍率補正装置のように、基板全体の形状を一括して補正することも、より高次の変形成分には対応しきれない。そこで、高次の変形成分に対しても、微調整が可能で、さらには高スループットを実現できるような形状補正が望まれる。
【0007】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、インプリント処理時の重ね合わせ精度の向上に有利なインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、型に外力または変位を与え、型に形成されているパターン部の形状を補正する型変形機構と、パターンを形成すべき基板上のパターン形成領域に予め存在する基板側パターンに温度分布を形成し、基板側パターンの形状を補正する基板変形機構と、基板変形機構により基板側パターンの形状を補正させた後に、基板側パターン上に塗布された樹脂とパターン部とを押し付けた状態にて、型変形機構によりパターン部の形状を補正させることで、パターン部の形状と基板側パターンの形状とを合わせる制御を実行する制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インプリント処理時の重ね合わせ精度の向上に有利なインプリント装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るインプリント装置の構成を示す図である。
【図2】一実施形態に係るインプリント処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】補正前および補正後の基板側パターンの形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。
【0012】
まず、本発明の一実施形態に係るインプリント装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係るインプリント装置1の構成を示す概略図である。このインプリント装置1は、物品としての半導体デバイスなどのデバイスの製造に使用され、被処理基板であるウエハ上(基板上)の未硬化樹脂をモールド(型)で成形し、ウエハ上に樹脂のパターンを形成する装置である。なお、ここでは光硬化法を採用したインプリント装置とする。また、以下の図においては、ウエハ上の樹脂に対して紫外線を照射する照明系の光軸に平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内に互いに直交するX軸およびY軸を取っている。インプリント装置1は、まず、光照射部2と、モールド保持機構3と、ウエハステージ4と、塗布部5と、ウエハ加熱機構6と、制御部7とを備える。
【0013】
光照射部2は、インプリント処理の際に、モールド8に対して紫外線9を照射する。この光照射部2は、不図示であるが、光源と、この光源から照射された紫外線9をインプリントに適切な光に調整するための光学素子とを含む。なお、本実施形態では光硬化法を採用するために光照射部2を設置しているが、例えば熱硬化法を採用する場合には、光照射部2に換えて、熱硬化性樹脂を硬化させるための熱源部を設置することとなる。
【0014】
モールド8は、外周形状が矩形であり、ウエハ11に対する面に3次元状に形成されたパターン部(例えば、回路パターンなどの転写すべき凹凸パターン)8aを含む。また、モールド8の材質は、石英など紫外線9を透過させることが可能な材料である。さらに、モールド8は、紫外線9が照射される面に、モールド8の変形を容易とするためのキャビティ(凹部)8bを有する形状としてもよい。このキャビティ8bは、円形の平面形状を有し、厚み(深さ)は、モールド8の大きさや材質により適宜設定される。また、後述するモールド保持機構3内の開口領域17に、この開口領域17の一部とキャビティ8bとで囲まれる空間12を密閉空間とする光透過部材13を設置し、不図示の圧力調整装置により空間12内の圧力を制御する構成もあり得る。例えば、モールド8とウエハ11上の樹脂14との押し付けに際し、圧力調整装置により空間12内の圧力をその外部よりも高く設定することで、パターン部8aは、ウエハ11に向かい凸形に撓み、樹脂14に対してパターン部8aの中心部から接触する。これにより、パターン部8aと樹脂14との間に気体(空気)が閉じ込められるのを抑え、パターン部8aの凹凸部に樹脂14を隅々まで充填させることができる。
【0015】
モールド保持機構3は、まず、真空吸着力や静電力によりモールド8を引き付けて保持するモールドチャック15と、このモールドチャック15を保持し、モールド8(モールドチャック15)を移動させるモールド駆動機構16とを有する。モールドチャック15およびモールド駆動機構16は、光照射部2の光源から照射された紫外線9がウエハ11に向けて照射されるように、中心部(内側)に開口領域17を有する。さらに、モールド保持機構3は、モールドチャック15におけるモールド8の保持側に、モールド8の側面に外力または変位を与えることによりモールド8(パターン部8a)の形状を補正する倍率補正機構(型変形機構)18を有する。この倍率補正機構18は、モールド8の形状を変形させることで、ウエハ11上に予め形成されている基板側パターンの形状に対してモールド8に形成されているパターン部8aの形状を合わせることができる。
【0016】
モールド駆動機構16は、モールド8とウエハ11上の樹脂14との押し付け、または引き離しを選択的に行うようにモールド8をZ軸方向に移動させる。このモールド駆動機構16に採用可能なアクチュエータとしては、例えばリニアモータまたはエアシリンダがある。また、モールド8の高精度な位置決めに対応するために、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向だけでなく、X軸方向やY軸方向、またはθ(Z軸周りの回転)方向の位置調整機能や、モールド8の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。なお、インプリント装置1における押し付けおよび引き離し動作は、上述のようにモールド8をZ軸方向に移動させることで実現してもよいが、ウエハステージ4をZ軸方向に移動させることで実現してもよく、または、その双方を相対的に移動させてもよい。
【0017】
ウエハ11は、例えば、単結晶シリコン基板やSOI(Silicon on Insulator)基板であり、この被処理面には、モールド8に形成されたパターン部8aにより成形される紫外線硬化樹脂(以下「樹脂」という)14が塗布される。
【0018】
ウエハステージ4は、ウエハ11を保持し、モールド8とウエハ11上の樹脂14との押し付けに際し、モールド8と樹脂14との位置合わせを実施する。このウエハステージ4は、ウエハ11を、吸着力により保持するウエハチャック(基板保持部)19と、このウエハチャック19を機械的手段により保持し、XY平面内で移動可能とするステージ駆動機構20とを有する。特に、本実施形態のウエハチャック19は、不図示であるが、ウエハ11の裏面を複数の領域で吸着保持可能とする複数の吸着部を備える。これらの吸着部は、それぞれ上記とは別の圧力調整装置に接続されている。この圧力調整装置は、ウエハ11と吸着部との間の圧力を減圧するよう調整し吸着力を発生させることでウエハ11をチャック面上に保持しつつ、さらに、各吸着部にてそれぞれ独立して圧力値(吸着力)を変更可能とする。なお、吸着部の分割数(設置数)は、特に限定するものではなく、任意の数でよい。また、ウエハチャック19は、その表面上にモールド8をアライメントする際に利用する基準マーク21を有する。ステージ駆動機構20は、アクチュエータとして、例えばリニアモータを採用し得る。ステージ駆動機構20も、X軸およびY軸の各方向に対して、粗動駆動系や微動駆動系などの複数の駆動系から構成されていてもよい。さらに、Z軸方向の位置調整のための駆動系や、ウエハ11のθ方向の位置調整機能、またはウエハ11の傾きを補正するためのチルト機能などを有する構成もあり得る。
【0019】
塗布部5は、ウエハ11上に樹脂(未硬化樹脂)14を塗布する。ここで、この樹脂14は、紫外線9を受光することにより硬化する性質を有する光硬化性樹脂(インプリント材)であり、半導体デバイス製造工程などの各種条件により適宜選択される。また、塗布部5の吐出ノズルから吐出される樹脂14の量も、ウエハ11上に形成される樹脂14の所望の厚さや、形成されるパターンの密度などにより適宜決定される。
【0020】
ウエハ加熱機構(基板変形機構)6は、ウエハステージ4上に載置されたウエハ11の形状、具体的には、インプリント装置1に搬入されたウエハ11上に予め形成されているパターン(基板側パターン)の形状を補正するために、ウエハ11を加熱する。このウエハ加熱機構6としては、例えば、図1に示すように、光照射部2と同様にモールド8を透過してウエハ11に向けて光を照射することでウエハ11を加熱する加熱用光源を採用し得る。この加熱用光源が照射する光は、赤外線など、ウエハ11に吸収され、光硬化性を有する樹脂が感光(硬化)しない特定の波長帯域に波長が存在する光である。また、この場合のウエハ加熱機構6は、加熱用光源に加えて、不図示であるが、加熱用光源から照射された光をインプリントに適切な光に調整するための複数の光学素子を含み得る。この加熱用光源を用いる他に、ウエハ加熱機構6としては、例えば、ウエハチャック19などに直接ウエハ11を加熱するヒータを設置する構成もあり得る。
【0021】
制御部7は、インプリント装置1の各構成要素の動作および調整などを制御し得る。制御部7は、例えばコンピュータなどで構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、プログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。本実施形態の制御部7は、少なくともウエハ加熱機構6の動作を制御する。なお、制御部7は、インプリント装置1の他の部分と一体で(共通の筐体内に)構成してもよいし、インプリント装置1の他の部分とは別体で(別の筐体内に)構成してもよい。
【0022】
また、インプリント装置1は、開口領域17内にアライメント計測系22を備える。このアライメント計測系22は、例えばウエハアライメントとして、ウエハ11上に形成されたアライメントマークと、モールド8に形成されたアライメントマークとのX軸およびY軸の各方向への位置ずれを計測する。また、インプリント装置1は、ウエハステージ4を載置するベース定盤24と、モールド保持機構3を固定するブリッジ定盤25と、ベース定盤24から延設され、ブリッジ定盤25を支持するための支柱26とを備える。さらに、インプリント装置1は、共に不図示であるが、モールド8を装置外部からモールド保持機構3へ搬送するモールド搬送機構と、ウエハ11を装置外部からウエハステージ4へ搬送する基板搬送機構とを備える。
【0023】
次に、インプリント装置1によるインプリント処理について説明する。図2は、インプリント装置1にて、複数枚のウエハ11に対して同一のモールド8を用い、ウエハ11上に存在する複数の基板側パターンをパターン形成領域(ショット)としてインプリント処理する際の動作シーケンスを示すフローチャートである。まず、制御部7は、動作シーケンスを開始すると、モールド搬送機構により、モールド8をモールドチャック15に搭載させる(ステップS100)。次に、制御部7は、アライメント計測系22により、ウエハステージ4上の基準マーク21を参照して、モールド8に形成されているパターン部8aの形状を計測させる(ステップS101)。次に、制御部7は、基板搬送機構により、今回のインプリント処理の処理対象となるウエハ11をウエハチャック19に載置させる(ステップS102)。次に、制御部7は、アライメント計測系22により、ウエハ11上に存在する基板側パターンの形状を計測させる(ステップS103)。次に、制御部7は、ウエハステージ4により、被処理面となるウエハ11上の基板側パターン面を塗布部5の塗布位置まで移動させた後に、塗布工程として、塗布部5により樹脂14を塗布させる(ステップS104)。その後、制御部7は、ウエハステージ4により、樹脂14が塗布されたウエハ11を、モールド8との押し付け位置まで移動させる。次に、制御部7は、ウエハチャック19に設置された複数の吸着部のうち、被処理対象である樹脂14が塗布された基板側パターンの反対側の裏面付近に配置されている吸着部の吸着圧を停止または低下させることで部分的に吸着を解放させる(ステップS105)。次に、制御部7は、基板補正工程として、ステップS101およびS103にて得られた両パターン形状の計測結果に基づいて、ウエハ加熱機構6によりウエハ11を加熱し、基板側パターンに温度分布を与える。これにより、制御部7は、基板側パターンの形状を所望の形状に熱的に補正させる(ステップS106)。
【0024】
ここで、ステップS106において、制御部7が、基板側パターンに与える温度分布を決定する方法については、例えば以下の2通りがある。第1の方法は、予めウエハ11上の基板側パターンの形状を計測しておき、この基板側パターンの実際の形状と所望の形状との差分に基づいて補正に必要な温度分布を算出する方法である。一方、第2の方法は、まず、インプリント装置1にて、実際に基板側パターン上の樹脂14とモールド8とを押し付けることで、基板側パターン上に樹脂14のパターンを形成(転写)する。この樹脂14のパターンが形成された基板側パターンを、別途準備された重ね合わせ検査装置により計測させ、この計測結果をフィードバックすることで補正に必要な温度分布を算出する方法である。なお、図2に示す流れの例では、ステップS102でのウエハ11の載置後に、ステップS105でのウエハチャック19による解放と、ステップS106での基板側パターンの形状補正とを実施するものとしている。これに対して、例えば、予め基板側パターンの形状を計測し、ウエハ11上の各ショットに対応する各基板側パターンに温度分布を与えた後に、ウエハ11をウエハチャック19へ載置させる方法もあり得る。この場合、ステップS105から後述のウエハ11の再吸着(ステップS107)までの動作シーケンスは省略される。
【0025】
図3は、ウエハ11上に存在する複数の基板側パターン30の形状を示す概略平面図であり、特に、図3(a)では、温度分布を与える前の形状を示し、図3(b)では、温度分布を与えた後の形状を示している。また、図3(a)に示す例では、基板側パターン30は、台形成分を持って変形しているものとする。このような変形成分を有する形状の基板側パターン30に対して、ウエハ11の全体で一様な温度勾配となる温度分布を与えても、基板側パターン30ごとの形状を適切に補正することは難しい。これに対して、ウエハ加熱機構6は、ウエハ11上に存在する基板側パターン30のそれぞれに対応した温度分布を与えるので、図3(b)に示すように全ての基板側パターン30の形状を適切に補正することができる。
【0026】
なお、ウエハチャック19上に載置(搬入)されるウエハ11上の基板側パターンの変形成分は、図3(a)に示すように全て同じ台形成分であるとは限られず、実際には基板側パターンごとに異なる変形成分を持つ場合もある。この場合、制御部7は、ウエハ11をウエハチャック19に載置する前に計測した基板側パターンの形状に基づいて導出された変形成分を、全ての基板側パターンに共通する変形成分と、基板側パターンごとにそれぞれ独立した変形成分とに分けて認識する。次に、制御部7は、まず、共通する変形成分を補正するための温度分布を、ウエハ11をウエハチャック19へ搭載する前に、ウエハ加熱機構6により基板側パターンに与えることで形状を補正させる。一方、制御部7は、独立した変形成分を補正するための温度分布を、ウエハ11をウエハチャック19へ搭載した後である例えばステップS106にて、ウエハ加熱機構6により基板側パターンに与えることで形状を補正させる。このように、基板側パターンの変形成分により、熱的に補正するタイミングを異ならせることで、例えばステップS106にて与える温度分布の入熱量を可能な限り小さくすることができるので、インプリント装置1によるスループットの低下を抑えることができる。また、図2に示す流れの例では、塗布工程であるステップS104は、基板側パターンを熱的に補正するステップS106の前に実施されるものとしているが、ステップS106の後に実施されるものとしてもよい。この場合、ウエハ加熱機構6としての加熱用光源は、上記のように赤外線などではなく、紫外線硬化樹脂を硬化させる紫外線を照射するものであってもよい。したがって、例えば、ウエハ11を熱変形させ得る波長の光と、樹脂14を硬化させ得る波長の光と合わせることで、ウエハ加熱機構6の加熱用光源を、光照射部2の光源と併用させることができる。これにより、インプリント装置1の構成を簡略化させることができ、低コスト化を可能にする。
【0027】
図2に戻り、次に、制御部7は、ステップS105にて吸着を解放していたウエハチャック19の吸着部に対し、ウエハ11を再吸着させる(ステップS107)。ここで、このステップS107にてウエハチャック19がウエハ11を吸着保持することにより、ウエハ加熱機構6による加熱を停止させても、基板側パターンの補正後の形状を維持することができる。しかしながら、ウエハチャック19が、ウエハ11の基板側パターンが形成されている表面とは反対の裏面を吸着し続けていても、加熱の停止によりウエハ11の温度が次第に環境温度に戻るため、基板側パターンも再度変形してしまうこともあり得る。そこで、ステップS106における基板側パターンの形状補正では、制御部7は、ウエハ11が初期温度に戻ることにより生じ得る変形をも考慮した上で、ウエハ加熱機構6により基板側パターンを加熱させることが望ましい。次に、制御部7は、押型工程として、モールド駆動機構16を動作させ、モールド8と基板側パターン上に塗布された樹脂14とを押し付ける(ステップS108)。
【0028】
次に、制御部7は、型補正工程として、ステップS101およびS103にて得られた両パターン形状の計測結果と、ステップS106での熱的補正時の補正量とに基づいて、倍率補正機構18により、モールド8に対して変形量を与える(ステップS109)。これにより、制御部7は、モールド8の形状を所望の形状に機械的に補正させる。図2に示す流れの例では、このように、ステップS109でのモールド8(パターン部8a)の形状の機械的補正と、上記ステップS106での基板側パターンの形状の熱的補正とを組み合わせることで、両パターンの形状を合わせるものとしている。ここで、モールド8やウエハ11の材料として一般的に用いられる単結晶シリコンや石英などのポアソン比は、0.1〜0.2程度である。すなわち、このようなポアソン比が正となる物質は、ある軸方向に圧縮する変形をさせると、その軸に直交する方向には、膨張する変形が生じる。したがって、倍率補正機構18によるモールド8の形状の機械的補正のみでは、倍率成分(偏倍成分)の補正には有効であるが、部分的に等方的な変形となる台形成分の補正などを行うことが難しい。一方、上記単結晶シリコンや石英などの物質は、熱を与えられることで等方的な変形をする。したがって、ウエハ加熱機構6による基板側パターンの形状の熱的補正のみでは、X軸およびY軸の等倍変形などには有効であるが、例えばX軸方向のみの変形などの偏倍成分に対する補正を行うことが難しい。このように、モールド8の形状の機械的補正と、基板側パターンの形状の熱的補正とのどちらか一方の補正のみでは、補正することが難しい変形成分がある。これに対して、本実施形態では、上記のとおり、これら両方の補正を組み合わせることで、より高次な(複雑な)形状の補正を実施することができる。この高次な形状としては、上記台形成分の他に、例えば弓形、樽形、または糸巻形などの変形成分を有する形状などがある。なお、制御部7は、モールド8に与える変形量を算出するに際し、基板側パターン上の樹脂14とパターン部8aとを押しつけた状態にて、アライメント計測系22により基板側パターンの形状とパターン部8aの形状とを計測させてもよい。この場合、制御部7は、計測された両パターンの形状に基づいて、基板側パターンの形状とパターン部8aの形状とのずれ量を算出し、このずれ量を参照して実時間でモールド8に与える変形量にフィードバックさせる。これにより、さらに重ね合わせ精度を向上させることができる。
【0029】
さらに、図2に示す流れの例では、このステップS109でのモールド8の形状の機械的補正と、ステップS106での基板側パターンの形状の熱的補正との間に、ステップS108として押型工程を実施するものとしている。これにより、ステップS108からS109に移行する際のウエハ11の温度は、初期温度に戻り、定常状態にあると考えられる。ここで、例えば、押型工程を実施した後に、ステップS105からステップS107までの工程を実施すると、ステップS109にてモールド8の形状を補正する際には、ウエハ11の温度が定常状態になるまで一旦待機させる必要がある。すなわち、この場合、インプリント装置1としてスループットが低下する可能性がある。また、押型工程を実施した後では、モールド8とウエハ11とが樹脂14を介して接触しているため、基板側パターンに与えられた熱は、熱伝導によりモールド8へと伝わり、結果的にモールド8とウエハ11とが共に再変形する可能性もある。このような再変形が生じると、基板側パターンの形状の熱的補正時には、モールド8とウエハ11との線膨脹係数の差分のみの効果しか得られないこととなり、また必要となる熱量が多くなるため効率の点で望ましくない。これに対して、本実施形態では、上記のとおり、モールド8の形状の機械的補正と基板側パターンの形状の熱的補正との間に押型工程を実施することで、スループットへの影響やモールド8およびウエハ11の再変形を抑止することができる。
【0030】
次に、制御部7は、ステップS109でのモールド8の形状補正後、アライメント計測系22により、基板側パターンとモールド8に形成されているパターン部8aとのアライメント処理を実行する(ステップS110)。次に、制御部7は、ステップS110でのアライメント結果に基づいて、アライメント精度が許容範囲内にあるかどうかの判定を実行する(ステップS111)。ここで、制御部7は、アライメント精度が許容範囲内にないと判定した場合には(NO)、ステップS109に戻り、再びモールド8の形状補正を実施させる。一方、制御部7は、アライメント精度が許容範囲内にあると判定した場合には(YES)、次のステップS112へ移行する。次に、制御部7は、硬化工程として、光照射部2により紫外線9を照射させることで樹脂14を硬化させる(ステップS112)。次に、制御部7は、離型工程として、モールド駆動機構16を動作させ、モールド8と基板側パターン上の硬化した樹脂14とを引き離す(ステップS113)。
【0031】
次に、制御部7は、引き続き、同一ウエハ11上にて樹脂14のパターンを形成すべきショットがあるかどうかを判定する(ステップS114)。ここで、制御部7は、パターンを形成すべきショットがあると判定した場合には(YES)、ステップS103に戻る。一方、制御部7は、パターンを形成すべきショットがないと判定した場合には(NO)、次のステップS115に移行する。次に、制御部7は、基板搬送機構により、ウエハチャック19上に載置されているインプリント処理済みのウエハ11を回収させる(ステップS115)。次に、制御部7は、引き続き、同様のインプリント処理を実施すべきウエハがあるかどうかを判定する(ステップS116)。ここで、制御部7は、インプリント処理を実施すべきウエハがあると判定した場合には(YES)、ステップS102に戻る。一方、制御部7は、インプリント処理を実施すべきウエハがないと判定した場合には(NO)、次のステップS117に移行する。そして、制御部7は、モールド搬送機構により、モールドチャック15に保持されているモールド8を回収させ(ステップS117)、全ステップを終了する。このように、樹脂14のパターンが形成される基板側パターンと、モールド8のパターン部8aとの形状に変形が生じていても、本実施形態のインプリント装置1では、これらを上記のように形状補正することで、両パターンの形状を精度良く合わせることができる。したがって、基板側パターンに対し、その表面上に形成される樹脂14のパターンは、精度良く重ね合わされることとなる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、インプリント処理時の重ね合わせ精度の向上に有利なインプリント装置1を提供することができる。
【0033】
(物品の製造方法)
物品としてのデバイス(半導体集積回路素子、液晶表示素子等)の製造方法は、上述したインプリント装置を用いて基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板)にパターンを形成する工程を含む。さらに、該製造方法は、パターンを形成された基板をエッチングする工程を含み得る。なお、パターンドメディア(記録媒体)や光学素子などの他の物品を製造する場合には、該製造方法は、エッチングの代わりにパターンを形成された基板を加工する他の処理を含み得る。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 インプリント装置
6 ウエハ加熱機構
7 制御部
8 モールド
8a パターン部
11 ウエハ
14 樹脂
18 倍率補正機構
30 基板側パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、前記基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント装置であって、
前記型に外力または変位を与え、前記型に形成されているパターン部の形状を補正する型変形機構と、
前記パターンを形成すべき前記基板上のパターン形成領域に予め存在する基板側パターンに温度分布を形成し、前記基板側パターンの形状を補正する基板変形機構と、
前記基板変形機構により前記基板側パターンの形状を補正させた後に、前記基板側パターン上に塗布された前記樹脂と前記パターン部とを押し付けた状態にて、前記型変形機構により前記パターン部の形状を補正させることで、前記パターン部の形状と前記基板側パターンの形状とを合わせる制御を実行する制御部と、
を備えることを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記基板側パターンは、前記基板上の複数の前記パターン形成領域にそれぞれ存在し、
前記制御部は、前記基板変形機構による前記基板側パターンの形状の補正を、それぞれの前記基板側パターンごとに実施させることを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記基板側パターンが形成されている表面とは反対側の前記基板の裏面を、それぞれ異なる領域で吸着保持する複数の吸着部を有する基板保持部を備え、
前記制御部は、前記複数の吸着部のうち、前記パターンを形成する処理対象である前記基板側パターンを含む領域に対する前記裏面を吸着保持する前記吸着部の吸着を解放した後に、前記基板変形機構により前記基板側パターンの形状を補正させ、吸着が解放されていた前記吸着部の吸着を実施させた後に、前記基板側パターン上に塗布された前記樹脂と前記パターン部とを押し付けさせることを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置。
【請求項4】
前記基板を載置および保持する基板保持部を備え、
前記制御部は、前記複数の基板側パターンの変形成分を導出して、該変形成分のうち、前記複数の基板側パターンに共通する変形成分と、前記複数の基板側パターンごとにそれぞれ独立した変形成分とを分けて認識し、
前記複数の基板側パターンに共通する変形成分を、前記基板を前記基板保持部に載置させる前に補正させ、
前記複数の基板側パターンごとにそれぞれ独立した変形成分を、前記基板変形機構による前記基板側パターンの補正の際に補正させる、
ことを特徴とする請求項2または3に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記基板を載置および保持する基板保持部を備え、
前記制御部は、前記基板を前記基板保持部に載置させる前に、前記基板側パターンの形状を計測させ、計測された前記基板側パターンの形状と、前記パターン部の形状との差分に基づいて、前記基板変形機構により前記基板側パターンに与える前記温度分布を算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記制御部は、一旦、前記基板側パターン上に塗布された前記樹脂と前記パターン部とを押し付けることで前記パターンを形成させ、該パターンが形成された前記基板側パターンの形状を計測した結果に基づいて、前記基板変形機構により前記基板側パターンに与える前記温度分布を算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記パターン部の形状と前記基板側パターンの形状との計測結果と、前記基板変形機構による前記基板側パターンの形状の補正に必要とされた補正量とに基づいて、前記型変形機構により前記モールドに与える変形量を算出することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記型に与える変形量を算出するに際し、前記基板側パターン上の前記樹脂と前記パターン部とを押しつけた状態で計測される、前記基板側パターンの形状と前記パターン部の形状とのずれ量を参照することを特徴とする請求項7に記載のインプリント装置。
【請求項9】
前記基板変形機構は、前記基板側パターンに光を照射させることで前記温度分布を形成する加熱用光源を含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項10】
前記樹脂は、特定の波長帯域の光を受光することで硬化する光硬化性樹脂であり、
前記加熱用光源は、前記光硬化性樹脂を硬化させるための前記光を照射する光源と併用されることを特徴とする請求項9に記載のインプリント装置。
【請求項11】
前記基板変形機構は、前記基板を載置および保持する基板保持部に設置され、前記基板を加熱することで前記基板側パターンに前記温度分布を形成するヒータであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項12】
基板上の未硬化樹脂を型により成形して硬化させて、前記基板上に硬化した樹脂のパターンを形成するインプリント方法であって、
前記パターンを形成すべき前記基板上のパターン形成領域に予め存在する基板側パターンに温度分布を形成することで、前記基板側パターンの形状を補正する基板補正工程と、
前記基板補正工程の後に、前記基板側パターン上に塗布された前記樹脂と、前記型に形成されているパターン部とを押し付ける押型工程と、
前記押型工程の後に、前記型に外力または変位を与えることで、前記パターン部の形状を補正する型補正工程と、
を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のインプリント装置、または請求項12に記載のインプリント方法を用いて基板上に樹脂のパターンを形成する工程と、
前記工程で前記パターンを形成された基板を加工する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−98291(P2013−98291A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238589(P2011−238589)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】