説明

インペラの製造方法

【課題】インペラの製造方法において、短時間で容易に圧縮応力を抽入する。
【解決手段】回転軸となるシャフトが嵌合される嵌合孔を有するインペラの製造方法であって、嵌合孔に差し込んだ冶具10によって嵌合孔の内部からインペラを押圧することにより、インペラに対して、圧縮応力が作用する強化領域を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インペラの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、コンプレッサやタービンにおいては、流体に対して仕事を行うインペラが備えられている。
このインペラは、通常、回転軸となるシャフトに嵌合され、シャフトと共に回転駆動する。
より詳細には、インペラは、シャフトが嵌合するための嵌合孔を備えており、この嵌合孔にシャフトが嵌合されることによってシャフトと連結されている。
【0003】
このようなインペラは、高速回転されることとなり、回転中に作用する遠心力によって大きな引張応力が作用することとなる。
この引張応力が過剰に大きくなった場合には、インペラが破壊に至ることが知られている。このため、インペラの回転数は、回転時においてインペラに作用する引張応力に依存してその上限が設定されることとなる。
【0004】
これに対して、例えば特許文献1では、インペラに対して予め圧縮応力を抽入しておき、インペラの回転中において作用する引張応力を小さくし、実質的なインペラの強度を向上させる方法が提案されている。
【0005】
インペラにおいて回転中に最も大きな引張応力が作用する領域は、インペラの最大外形の根元領域である。
そして、特許文献1においては、インペラを装置に組み込まれた際の実用最大回転数の120%程度で回転させ、上述の最大外形の根元領域に大きな引張応力を意図的に作用させることによって、当該根元領域に圧縮応力を抽入する方法が提案されている。
【0006】
より詳細に説明すると、最大外形の根元領域に大きな引張応力が作用すると、当該根元領域が塑性域まで変形し、その後インペラの回転を停止してインペラが元の形状に復元しようとする力によって当該塑性域が圧縮されて圧縮応力が抽入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−193996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1にて示された方法では、インペラを実用最大回転数よりも高速に回転させる必要があることから、大掛かりな装置が必要となる。
例えば、具体的には、このような装置としては、一般的にスピン試験装置が用いられるが、スピン試験装置を用いる場合には、インペラの破損等に対して十分な安全を確保すべく、床部に大きな穴を形成し、この穴の内部でインペラを回転させている。このため、容易に持ち運びができない大掛かりな装置となる。
【0009】
このような大掛かりなスピン試験装置は、多くの箇所に設置することができない。このため、圧縮応力が抽入されたインペラを用いた製品を製造する場合には、例えば、スピン試験装置が設置された工場等でインペラに対して圧縮応力を抽入した後に、現地に輸送することとなり、製品の製造期間の長期化及び製造コストの増加を招く原因となる。
【0010】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、インペラの製造方法において、短時間で容易に圧縮応力を抽入することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0012】
第1の発明は、回転軸となるシャフトが嵌合される嵌合孔を有するインペラの製造方法であって、上記嵌合孔に差し込んだ冶具によって上記嵌合孔の内部から上記インペラを押圧することにより、上記インペラに対して、圧縮応力が作用する強化領域を形成するという構成を採用する。
【0013】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記インペラの最大外形部分の根元領域に上記強化領域を形成するという構成を採用する。
【0014】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記嵌合孔よりも大径の部位を有する上記冶具を上記嵌合孔に圧入することにより、上記嵌合孔の内部から上記インペラを押圧するという構成を採用する。
【0015】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記インペラが、コンプレッサインペラであるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、嵌合孔に差し込んだ冶具によって嵌合孔の内部からインペラを押圧することによってインペラに対して圧縮応力が抽入される。
このため、本発明によれば、インペラを回転させることなく、インペラに対して圧縮応力を抽入することができる。
したがって、本発明によれば、従来のようにインペラに対して圧縮応力を抽入するために、インペラを高速回転させる必要がなく、スピン試験装置等の大掛かりな装置を用いる必要がない。
そして、本発明においては、嵌合孔に差し込む冶具によってインペラに対して圧縮応力が抽入されるため、上述のスピン試験装置等の大掛かりな装置に比べれば、遥かに簡易にインペラに対して圧縮応力を抽入することができる。例えば、本発明によれば、インペラが組み込まれる装置の組立て現場において、インペラに対して圧縮応力を抽入することができる。
よって、本発明によれば、インペラに対して圧縮応力を抽入するにあたり、その都度、スピン試験装置等の大掛かりな装置を用いる必要がないため、短時間で容易に圧縮応力を抽入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態であるインペラの製造方法を用いて強化領域が形成されるラジアルインペラの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態であるインペラの製造方法で用いられる冶具の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係るインペラの製造方法の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、本実施形態のインペラの製造方法によって、圧縮応力が抽入された強化領域Rを有するラジアルインペラ1(インペラ)の断面図である。
【0020】
本実施形態においてラジアルインペラ1は、コンプレッサに搭載されるコンプレッサインペラであって、例えばアルミニウムによって形成されている。
このラジアルインペラ1は、図1に示す回転軸Lを中心として回転駆動されることによって、回転軸L方向から取込まれた流体を圧縮して半径方向に吐出するものである。
【0021】
そして、図1に示すように、ラジアルインペラ1は、ベース部2と、コンプレッサ翼3と、嵌合孔4とを備えている。
【0022】
ベース部2は、コンプレッサ翼3が設置される土台となる部分であり、回転軸Lを中心とする回転対称体形状を有している。
より詳細には、ベース部2は、先端が回転軸Lに向けて窄まり、周面が回転軸Lに向けて凹む湾曲形状を有している。
そして、ベース部2は、嵌合孔4に嵌合される不図示のシャフトの回転によって回転軸Lを中心として回転する。
【0023】
コンプレッサ翼3は、ベース部2の周面に対して複数設置されており、回転軸Lを中心として配列されている。
これらのコンプレッサ翼3は、ベース部2の回転によって回転軸Lを中心として回転され、回転軸L方向のリーディングエッジ側から流れ込んだ流体を叩いて圧縮した後、トレーディングエッジ側から圧縮した流体を吐出する。
【0024】
嵌合孔4は、ラジアルインペラ1を不図示のシャフトに対して嵌合するための孔であり、図1に示すようにベース部2に対して設けられている。
この嵌合孔4は、回転軸Lに重ねて設けられており、回転軸Lに沿ってベース部2を貫通して設けられている。
【0025】
このようなラジアルインペラ1が回転駆動されると、ラジアルインペラ1は遠心力によって外側に膨らみ、回転軸となるシャフト(すなわち嵌合孔4)に最も近い根元領域に対して強い引張応力が作用する。
【0026】
ここで、何も対策を施していない場合には、ラジアルインペラ1を回転駆動させると、ベース部2の最も張り出した部分である最大外形の根元領域に最も大きな引張応力が作用する。
【0027】
これに対して、ラジアルインペラ1の上記最大外形の根元領域に対して、圧縮応力が抽入された強化領域Rが形成されている。
強化領域Rは、ラジアルインペラ1に対して遠心力が作用していない場合(すなわちラジアルインペラ1が停止している場合)に圧縮応力が作用している領域である。
【0028】
このような強化領域Rを有するラジアルインペラ1を回転駆動した場合には、遠心力によって発生する引張応力の一部が、強化領域Rの圧縮応力と相殺されて、実際に強化領域Rに作用する引張応力が低減する。
つまり、ラジアルインペラ1が回転駆動した際の強化領域Rの強度が実質的に増加することとなる。
【0029】
このため、ラジアルインペラ1の許容最大回転数を増加させ、ラジアルインペラ1が搭載される装置の性能が向上することとなる。
【0030】
そして、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法(インペラの製造方法)では、図2に示す冶具10を用いて上記強化領域Rを形成する。
この冶具10は、図2に示すように、挿入部11と固定部12とを備えている。
【0031】
挿入部11は、また強化領域Rが形成されていないラジアルインペラ1の嵌合孔4に対して挿入されるものであり、嵌合孔4の径よりも僅かに小さい径を有する先端部11aと、嵌合孔4の径よりも僅かに大きい径を有する根元部11bとから構成されている。
【0032】
先端部11aは、挿入部11を嵌合孔4に抜差しする際の案内として機能する部位である。
根元部11bは、嵌合孔4の内部からラジアルインペラ1を押圧することにより、ラジアルインペラ1に対して強化領域Rを形成する部位である。この根元部11bは、挿入部11を嵌合孔4に対して完全に差し込んだ際に、強化領域Rを形成すべき領域(最大外形の根元領域)まで到達する長さを有している。
【0033】
固定部12は、冶具10の挿入部11を嵌合孔4に対して圧入するための装置に固定される部位である。なお、冶具10を圧入する装置としては、例えば、油圧装置を用いることができる。
【0034】
そして冶具10を嵌合孔4に差し込むことによって、挿入部11の根元部11bが嵌合孔4を押し広げながらラジアルインペラ1を押圧する。この結果、根元部11bによって押圧された領域が塑性変形され、冶具10を引き抜いた際に圧縮応力が抽入されて強化領域Rとなる。
【0035】
以上のような本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法によれば、嵌合孔4に差し込んだ冶具10によって嵌合孔4の内部からラジアルインペラ1を押圧することによってラジアルインペラ1に対して圧縮応力が抽入される。
このため、本発明によれば、インペラを回転させることなく、インペラに対して圧縮応力を抽入することができる。
したがって、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法によれば、従来のようにラジアルインペラに対して圧縮応力を抽入するために、ラジアルインペラを高速回転させる必要がなく、スピン試験装置等の大掛かりな装置を用いる必要がない。
そして、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法においては、嵌合孔4に差し込む冶具10によってラジアルインペラに対して圧縮応力が抽入されるため、上述のスピン試験装置等の大掛かりな装置に比べれば、遥かに簡易にラジアルインペラに対して圧縮応力を抽入することができる。例えば、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法によれば、ラジアルインペラが組み込まれる装置の組立て現場において、ラジアルインペラに対して圧縮応力を抽入することができる。
よって、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法によれば、ラジアルインペラ1に対して圧縮応力を抽入するにあたり、その都度、スピン試験装置等の大掛かりな装置を用いる必要がないため、短時間で容易に圧縮応力を抽入することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法においては、ラジアルインペラ1の最大外形部分の根元領域に強化領域Rを形成した。
ラジアルインペラ1の最大外形部分の根元領域は、ラジアルインペラ1が回転駆動した際に遠心力による引張応力の影響を最も受けやすい領域である。そして、この根元領域を強化領域Rとすることにより、効率的にラジアルインペラ1の実質的な強度を向上させることができる。
【0037】
また、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法においては、嵌合孔4よりも大径の部位(根元部11b)を有する冶具10を嵌合孔4に圧入することにより、嵌合孔4の内部からラジアルインペラ1を押圧した。
つまり、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法においては、冶具10を嵌合孔4に圧入するのみで強化領域Rを形成することができ、容易に強化領域Rを形成することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法においては、強化領域Rが形成されるラジアルインペラ1がコンプレッサインペラであるとした。
このような本実施形態のラジアルインペラ1の製造方法によれば、短時間で容易に圧縮応力が抽入されたコンプレッサインペラを製造することができる。
【0039】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態においては、本発明におけるインペラがラジアルインペラである構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、軸流インペラの製造方法に適用することもできる。
【0041】
また、上記実施形態においては、本発明におけるインペラがコンプレッサインペラである構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、タービンインペラ等の他のインペラの製造方法に適用することもできる。
【0042】
また、上記実施形態においては、嵌合孔4よりも大径の部位(根元部11b)を有する冶具10を嵌合孔4に圧入することにより、嵌合孔4の内部からラジアルインペラ1を押圧した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、コレットを有する冶具を用いて嵌合孔4の内部からラジアルインペラ1を押圧するようにしても良い。
このような場合には、嵌合孔4に沿う任意の根元領域に任意の分布で強化領域を形成することが可能となる。

また、上記実施形態においては、ラジアルインペラ1の最大外形部分の根元領域のみを強化領域Rとする構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、嵌合孔4周りの全領域を強化領域Rとしても良い。
【符号の説明】
【0043】
1……ラジアルインペラ(インペラ)、2……ベース部、3……コンプレッサ翼、4……嵌合孔、10……冶具、L……回転軸、R……強化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸となるシャフトが嵌合される嵌合孔を有するインペラの製造方法であって、
前記嵌合孔に差し込んだ冶具によって前記嵌合孔の内部から前記インペラを押圧することにより、前記インペラに対して、圧縮応力が作用する強化領域を形成することを特徴とするインペラの製造方法。
【請求項2】
前記インペラの最大外形部分の根元領域に前記強化領域を形成することを特徴とする請求項1記載のインペラの製造方法。
【請求項3】
前記嵌合孔よりも大径の部位を有する前記冶具を前記嵌合孔に圧入することにより、前記嵌合孔の内部から前記インペラを押圧することを特徴とする請求項1または2記載のインペラの製造方法。
【請求項4】
前記インペラは、コンプレッサインペラであることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のインペラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−17713(P2012−17713A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156677(P2010−156677)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】