説明

ウイルス性の多角体複合体と使用の方法

【課題】 従来技術の難点の少なくとも1つを打破するか、改善する、または、有用な代替手段を提供すること。
【解決手段】
サイポウイルスとバキュロウイルスは、ウイルス粒子が多角体と呼ばれるマイクロサイズのタンパク質結晶に封入されているため、根絶するのが難しい事でよく知られている。多角体の顕著な安定性は、バクテリアの胞子のように、これらの昆虫ウイルスが長年土の中に感染力を有したままで残っていることを意味する。1900年代前半以来、これらのユニークな生体内のタンパク質結晶は広範囲に性状解析されてきたが、その原子構造は未解明のままであった。ここでは、昆虫細胞から精製された5-12ミクロンの大きさのタンパク質結晶で、遺伝子組換え型と野生型(感染性を有する)のカイコサイポウイルス由来のタンパク質結晶である多角体の2Åの解析能での結晶構造の解析結果を説明する。これら多角体は、エックス線によるタンパク質の結晶構造解析に使用された結晶の中で、最も小さい結晶である。多角体はウイルスがコードする多角体タンパク質であるポリヘドリンタンパク質の3量体で作られていて、ヌクレオチドを含むことが分かった。これらの構成ブロックの形はいくつかのウイルス粒子を構成するキャプシッドの3量体の名残であるが、ポリヘドリンは新規な折りたたみ構造を持ち、生体内で20面体の外殻ではなく、むしろ3次元の立方体の結晶を構築するように進化してきた。ポリヘドリン3量体は、非共有結合の相互作用によって多角体内で広範囲に架橋されており、それはちょうど抗原と抗体の複合体形成と同様の絶妙な分子補完性を持っている。このようにして得られた非常に安定した密封された結晶は、外部環境からウイルス粒子を保護する。その構造は、多角体が細胞培養系、マイクロアレイ、および生物農薬といった分野で、生物工学的に応用できる強固で多様なナノ粒子の開発の基礎となることを示唆している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的分子を多角体もしくはその一部分へ導入する方法に関するものである。また、本発明は標的分子を多角体もしくはその一部分へ導入することによって形成された複合体、および本発明の方法に役に立つポリヘドリンタンパク質変異体に関するものである。また、本発明は、タンパク質の安定化のための、特に細胞培養、バイオセンサ、マイクロアレイおよびアッセイ(分析評価)のための、方法、複合体およびポリヘドリンタンパク質変異体の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
明細書を通しての先行技術に関する議論は、このような従来技術は広く知られているとか、この分野における通常の一般常識の一部であるといったことから書き始めることを考慮していません。
支持体表面の分子および特に機能分子の安定性保持は、分析診断法、例えば、生体分子のハイスループット解析と機能的同定において重要である場合がある。しかしながら、支持体表面に機能タンパク質、生体分子、およびバイオセンサを安定して固定して保存するための技術は、最適化されていない。
DNAチップに関しては、補足分子の設計と検出システムの開発は、比較的簡単である。DNAまたはオリゴヌクレオチドは、蛍光色素でタグ付けをされた相補的なmRNA配列に特異的に結合する。しかしながら、タンパク質のためのアレイを設計することは、より複雑であり、別の考察を必要とする。タンパク質は元のコンフォメーションを維持し、さらに活性部位が包み込まれるのではなく、むしろ露出した状態でチップの表面に固定されなければならない。したがって、タンパク質チップの組み立てには、より多くのステップと、より複雑なタンパク質化学が関わっている。以下は、有用なタンパク質チップ構築の際に考えられる問題のいくつかである:
1) 二次、三次構造とそれゆえの生物活性を保有する多様な種類のタンパク質の固定。
2) 興味があるタンパク質の補足因子の識別と同定。
3) 感度と適当な範囲の操作の両方を確保した、タンパク結合強度測定法。そして、
4)タンパク質のチップと分析による検出タンパク質の抽出。
多くの予防薬と治療薬は、輸送と保管の間に外部環境からそれらを保護するために特別な条件を必要とする。このことは、薬剤のコストを上昇させており、よくある具体例、例えば長距離輸送の間に低温を保つことが容易でない遠隔かつ不便な地域といったいくつかの地域において、有効性を減少させている。
さらに、薬剤から最大限の効果を達成するために、ナノデバイスを含んだ、新しい製剤処方、医薬品添加物、および輸送装置が、継続して必要とされている。例えば、予防薬と治療薬の徐放及び組織/器官特異的放出は、薬効を強化して供給することができ、生物学的利用能を増進して、薬物投与量を抑えることができる。薬剤を完全に管理する多能で安全な手段とともに、部位特異的及び投与量特異的正確性が必要である。
【0003】
[細胞質多角体病ウイルス]
昆虫ウイルスの感染は、多角体と呼ばれる大きなタンパク質結晶(封入体)の大量生産をもたらし、多くのウイルス粒子が多角体内に封入される。昆虫ウイルスであるサイポウイルス(細胞質多角体病ウイルス、CPV)は、レオウイルス科に分類され、10本の二本鎖RNAからなる分節されたゲノムに持つ。ビリオンは、直径50- 70nmで12個の突起を持つ20面体のタンパク質でできた殻からできている。多角体は、昆虫から昆虫へのウイルス粒子伝達の主要なベクターであり、外部環境下でのビリオンの長期間の残存を許容するので、昆虫の1世代から次世代の間のウイルス生存の主要な因子である。
昆虫がアルカリ可溶性の封入体(多角体)を摂取するときに感染は起こり、昆虫の腸の高いpHによって多角体が溶解され、ウイルス粒子が放出される。
CPVとバキュロウイルスのウイルス粒子は、ウイルス粒子を包埋することができる多角体と呼ばれるミクロサイズのタンパク質結晶を生産する(非特許文献1,2)。多角体は顕著な安定性を示し、それゆえに、包埋された昆虫ウイルスは長期間外部環境下で感染力を有したままで存在することができる。
ウイルス粒子は、多角体を形成する主要なウイルスタンパク質であるポリヘドリンタンパク質に結合するCPV封入タンパク質、VP3を通して多角体に包埋される。多角体内におけるウイルス粒子の安定性の向上は、安定性の改良とタンパク質におけるマイクロアレイアプリケーション使用の簡略化のために、多角体内に目的のタンパク質が封入されうるかどうかを調査しながら研究が進められてきた(特許文献1および非特許文献9)。このアプローチは、CPV感染の間、ビリオンの構造的な外殻タンパク質であるVP3の一部と融合された目的タンパク質を共発現することを伴った。その結果、これらのタンパク質の多角体結晶への導入が成功しており、タンパク質が脱水から保護されていて機能を失うことなく高温に対し安定であることが示された。VP3を使用することで多角体に導入されたタンパク質は、非膜および膜タンパク質であり、ポリメラーゼや、キナーゼやアクリルトランスフェラーゼなどの酵素です;リボソームタンパク質やリボソーム結合タンパク質などの構造タンパク質; 転写調節因子; そして、伸長因子。それに従って、高度な技法により、さまざまの範囲の異なったタイプの分子が機能の損失なしで多角体に組み入れることが可能であることが当業者において理解されている。
これらの独特なタンパク質結晶は1900年代前半に原子構造の決定が試みられてきたが(非特許文献5)、多角体を有効な診断法、治療法、また研究ツールへと応用する研究はとらえどころのないままであった。さらに、ウイルス粒子の構造タンパク質タグがなくても、タンパク質などの外因性の分子を多角体結晶に組み入れることができるという提案はなされてこなかった。ウイルス粒子によって通常通り分子が取り込まれる以外に、多角体には分子がとりこまれるかもしれないという提案はなされてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US20060155114
【特許文献2】米国特許第5,858,353号
【非特許文献】
【0005】
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【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的のひとつは、従来技術の難点の少なくとも1つを打破するか、改善する、または、有用な代替手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
多角体のタンパク質構造決定は、結晶サイズが小さく、また他の多くの要因によって妨げられてきた。 驚いたことに、遺伝子組換え型と感染性のある野生型カイコCPV多角体の2オングストロームの結晶構造解析は、いずれも昆虫細胞から精製された5-12ミクロンの結晶を使用することで同定されている。 これらは今まで新規にエックス線タンパク質構造決定に使用された中で最も小さい結晶である(非特許文献7)。
以前に認識されていなかった構造の多くの特徴が、明らかになった。これらの特徴のいくつかが多角体結晶内で標的分子の取り込みを容易にすることができることが、わかった。
多角体がウイルス性のポリヘドリンタンパク質の3量体で作られていて、ヌクレオチドを含むことがわかった。これらの構成要素の形はいくつかのウイルス外殻キャプシドの3量体の名残であるが、ポリヘドリンは新規な折りたたみ構造を持ち、生体内で20面体の外殻ではなく、むしろ3次元の立方体の結晶を構築するように進化してきた。ポリヘドリン3量体は、非共有結合性の相互作用によって多角体で広範囲に架橋処理されて、抗原と抗体からなる複合体のものと同様の絶妙の分子補完性で組み込まれている。得られた超-安定して密封された結晶は、環境損害からウイルス粒子を保護する。構造は、多角体がマイクロアレイ(非特許文献9)や生物農薬(非特許文献4)などの生物工学的応用(非特許文献8)のための強健で多能なナノ粒子の開発を含む多くの応用の基礎として機能できることを示す。
特異的に、サイポウイルス多角体の結晶構造が結晶構造の構築における中心的役割を担うポリヘドリンタンパク質の領域の識別を容易にしており、少なくともこれらの領域の部分を標的分子に付けることが、標的分子が多角体結晶、格子構造に組み込まれる、あるいは結晶表面に付着されるのに必要な配列が決定されることを明らかにした。
このように、本発明は、多角体またはその一部分に標的分子を取り込ませ複合体とすることによって、ある具体的態様において、標的分子の機能を保存する、長引かせるまたは保護する新規な複合体、それらの生産のための方法、およびそれら使用に関すものである。
一の実施態様において、標的分子および少なくともポリヘドリンタンパク質の一部分からなる融合タンパク質が、融合タンパク質を含む多角体複合体を製造するのに必要なタンパク質と共発現させ、その融合タンパク質を含有した多角体複合体を作り出す。
別の実施態様において、標的分子および少なくともポリヘドリンタンパク質の一部分からなる融合タンパク質が多角体に加えられ、その結果として、融合タンパク質は多角体に組み込まれる。
本発明におけるCPV多角体の結晶構造の使用は、これまで認識あるいは想定されなかった利点を与える。
【0008】
それに従って、第1の局面では、本発明は、(a)改変された多角体もしくはその一部、または(b)多角体もしくはその一部からなる複合体の設計および/または製造における細胞多角体病ウイルス(CPV)多角体結晶構造の解析情報(co-ordinates)の使用を提供する。
【0009】
第2の局面では、本発明は、標的分子の機能を保存、延長、保護する方法に以下のステップを含む方法を提供する。
(i)多角体タンパク質であるポリヘドリンタンパク質の重要な領域を特定するのに細胞質多角体病ウイルス(CPV)の多角体の結晶構造の分析情報を用いる、および
(ii)融合分子が多角体またはその一部分に封入されるように、標的分子と少なくともその重要な領域からなる融合分子を調製する。
一の実施態様において、重要な領域は、多角体結晶構造の構築に寄与する。望ましくは、その重要な領域はポリヘドリンタンパク質かそれと機能的な同等物のN-末端H1へリックスを含む。特に都合のよい実施態様においては、その重要な領域は配列番号6(SEQ ID No6)、またはそれと同等の機能を持つ配列からなる。
【0010】
第3の局面では、本発明は以下のステップを含む改変した多角体またはその一部分を調製する方法を提供する。
(a)重要な領域を特定するのに、細胞質多角体病ウイルスの多角体結晶構造の解析情報(co-ordinates)を用いる、
(b)標的分子とその重要な領域からなる融合分子が、多角体結晶またはその一部分に封入されるように、該融合分子を調製する、
(c)融合分子を多角体に封入する。
一の実施態様において、融合分子は、多角体と連結することによって、多角体に封入される。他の実施態様において、融合分子は、多角体と融合分子を共発現することによって、多角体に封入される。
第4の局面では、本発明は、上記の本発明の方法によって調製され改変した多角体を提供する。
【0011】
第5の局面では、本発明は、標的分子と多角体ンタンパク質またはその一部分を融合した融合分子と、多角体またはその一部分とを含む複合体を提供する。
一の実施態様において、複合体はカプセル化されたウイルス粒子を含んでいない複合体である。
望ましくは、ポリヘドリンタンパク質が、多角体のタンパク質のN末にあるα−へリックス1(H1へリックス)またはそれと同等の機能を持つものである。最も望ましくは、多角体のタンパク質は、配列番号6(SEQ ID No6)、もしくはそれと同等の機能を持つ配列を含んでいる。
他の実施態様において、複合体は多角体またはその一部分と2個の融合分子を含んでおり、その中で1個の融合分子はCPVのVP3外殻タンパク質の少なくとも一部を含んでいて、そして、もう一方の融合分子はポリヘドリンタンパク質のN-末端H1へリックスの少なくとも一部を含んでいる。
【0012】
第6の局面では、本発明は、上記の本発明の改変した多角体またはその一部分、または上記の本発明の複合体の、活性な表面を製造し、その活性な表面上の標的分子の機能を保存、延長、保護することへの使用を提供する。
一の実施態様において、改変した多角体またはその一部分、または複合体またはその一部分が活性な表面上に乾燥されている。望ましくは、活性な表面は細胞を培養する培地中で使用されているか、培地と接触している。より望ましくは、標的分子あるいは同等の機能を持つ分子は活性な表面から培地中に徐放され、培地にそれらの分子を補充する必要がない。
他の実施態様において、活性な表面が分析評価に用いられる。望ましくは、分析評価は、マイクロアッセイである。
【0013】
望ましくは、改変した多角体またはその一部分、または複合体またはその一部分に取り込まれている標的分子は、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、ヌクレオチド、核酸、脂質、脂質タンパク質、薬剤(drug)、サイトカイン、抗原、抗体、抗体断片、蛍光分子、色素、pH感受性分子、毒素、毒、生物活性物質、ケモカインおよびマイトジェンからなる群から選ばれる。より望ましくは、標的分子が増殖因子であることであり、最も望ましくは線維芽細胞増殖因子であることである。特に望ましい実施態様において、標的分子は線維芽細胞増殖因子-2か線維芽細胞増殖因子-7から選択される。
【0014】
第7の局面では、本発明は、上記の本発明の改変した多角体またはその一部分、または上記の本発明の複合体またはその一部を含む細胞培養系または細胞培養の構成成分(component)を提供する。ある実施態様において、細胞培養系は、細胞培養プレート、ローラーボトル、発酵培養系またはバイオリアクタといった細胞培養に適したいかなる容器も含むことができる。
【0015】
第8の局面では、本発明は、上記の本発明の改変した多角体またはその一部分、または上記の本発明の複合体またはその一部を含むか、または接触する培地を用いて、細胞を接触させることからなる細胞を培養する方法を提供する。
【0016】
第9の局面では、本発明は、上記の本発明の改変した多角体またはその一部分、または上記の本発明の複合体またはその一部で構成する分析法を提供する。望ましくは、その分析法はマイクロアレイアッセイである。
【0017】
第10の局面では、本発明は、上記の本発明の改変した多角体またはその一部分、または上記の本発明の複合体またはその一部で構成するバイオセンサを提供する。望ましくは、その分析法はマイクロアレイアッセイである。望ましくは、バイオセンサはpHセンサである。
生物分子の固定は、バイオチップとバイオセンサを含む多くの生物工学的手法の主要な手順である。固体の土台に生物分子を据えつけるために、異なるアプローチが開発されてきた(非特許文献34〜37参照)。
バイオ認識バイオセンサは、免疫化学、酵素・非酵素の受容体、およびDNAバイオセンサに分類されるかもしれない。免疫センサは、抗体が構造的に異なったさまざまな化合物と結合を生成できるので、非常に敏感で、選択的であり、用途が広い。一般的に、酵素のバイオセンサは、異なったクラスの化合物による特異酵素の選択的阻害に基づいており、定量化に頻繁に使用されるパラメータとしての標的分子の存在下で、固定化酵素の活性を減少させる。認識要素として機能するのに適した様々な酵素があり、そして、それらの触媒活性あるいは基質特異性は遺伝子工学的手法によって頻繁に改変できる。膜の中で特異的受容体を統合して、変換装置とそれを結合することによって、自然な受容体に基づくバイオセンサを構築することができる。これらの自然な受容体は、非触媒、または、非免疫原性起源のタンパク質であり、細胞膜を固定し、特異的にある一定の化合物を結合することができる。これらのバイオセンサの制限の1つは、バイオセンサ反応が固体支持プラットホーム上に起こって、これらの固体支持において安定性を高めるか、または生物活性分子の機能性を保存する必要があるということである。
本発明の多角体バイオセンサとバイオアッセイの利点は、その安定性及び/または支持プラットホームにおける活性標的分子の保持にある。これは、結合か相互作用を検出しながら、その時生物学的であるか環境のサンプルに分子で支持体表面、付くか、または相互作用するのに制限された多角体で埋め込まれた標的分子を含む複合体にかかわるであろう。
【0018】
生物学的分子(ポリペプチドや、ポリヌクレオチドや、多糖類等のもの)または環境分子(殺虫剤や、生物戦争兵器や、食品汚染物質等のもの)の同定、分析、およびモニターは、研究と産業応用にとって、ますます重要になった。慣習上、分子検出システムは、分子−分子結合受容体の間の分子特異結合に基づいている。そのようなシステムは、複雑な多成分系の検出システム(ELISAサンドイッチ分析などの)か、電気化学検出システムを通常必要とするか、または分子と受容体の両方が検出分子でラベルされることを必要とする。
分子との結合や相互作用を検出する1つの方法は、結合したり遊離したりする分子結合因子で標識されたレポーターを用いた固相法を用い、その固体表面は分子の存在に依存している。典型的な固相サンドイッチタイプアッセイでは、例えば、測定されるべき分子は2つ以上の結合部位がある分子で、固体表面(多角体の標的分子)で運ばれた受容体と、そして、レポーター標識第二受容体の両方に分子結合することができる。分子の存在は固体表面に結合したレポーターの存在に基づいて検出される。
第11の局面では、本発明は、上記の本発明の改変した多角体またはその一部分、または上記の本発明の複合体またはその一部で構成する生物農薬を提供する。生物農薬実施態様にとっては、標的分子は宿主昆虫にとって有害である。特に望ましい実施態様において、標的分子はバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来の毒素である。
3つの戦略が、殺虫剤として昆虫ウイルスの効力を向上させるために使用された。
(a) 宿主の寿命を延ばすウイルス・ゲノムからの遺伝子の不活化もしくは削除(例えば、特許文献2)
(b) Black et alの「バキュロウイルス殺虫剤の商業化」および非特許文献2に示された、生理学的または開発上の過程を制限緩和するために宿主の遺伝子の不適当な発現を刺激するウイルスの使用
(c) 自然宿主の捕食者の毒液といった殺虫性毒素を発現するための昆虫ウイルスの設計。
以上のような潜在的に存在する欠点は、有効となるウイルス複製にかかわる生産的な感染の設立を要求することを含んでいる。
対照的に、本発明による殺虫剤毒素を封入した多角体複合体は、ウイルス複製の開始なしで宿主昆虫を殺すのに十分かもしれない。
【0019】
本発明において、「標的分子」という用語は、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、ヌクレオチド、核酸、脂質、脂質タンパク質、薬剤(drug)、サイトカイン、抗体、抗体断片、蛍光分子、色素、pH感受性分子または生物活性分子、成長因子、ケモカインまたは有糸分裂促進物質(mitogen)を含んではいるが、それに限定されない。
本発明において、「複合体」という用語は、共有結合または非共有結合により、イオン結合または非イオン結合により、またはファンデルワールス力により2以上の剤(agents)の結合を含んではいるが、それに限定されない。
本発明において、「含む(comprise)」、「含むこと(comprising)」という用語、および同様のものは、「含まれるが限定されない」という意味において、「それらに限られた」と対照的に「それらを含めて」という意味に解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】緻密な3量体は多角体の構成要素である。a. 組換え型(左)と感染性(右)の多角体の走査電子顕微鏡写真。両方の結晶は、密に包埋された103Å単位格子(図2と3)で作られるが、感染性多角体表面のくぼみは、少なくとも300単位格子のブロックと置き換えるウイルス粒子のためである。b. ポリヘドリンは左手の形をしている(挿入図)。人差し指(H1、青色)、親指(H4、オレンジ色)、こぶし(S1-S2、シアン色とS3、赤色)、およびクランプ(H3、緑色)は多角体構築に寄与している。c.とd. 2つの直交した視点から、多角体3量体は、黄色い表面に示される結合ヌクレオチドで示される、よりきちんとした制限されたヌクレオチドが示されている状態でポリヘドリン)の組織にすべて貢献する。挿入図は、 サブユニットの1つが強調されている状態での3量体を表す。
【図2】多角体は、H1へリックスのしっかりとした骨格の周りに造られる。a. 4つのポリヘドリン3量体は、中央の四面体のクラスター(青色の手)を形成するためにそれぞれの格子ポイントの多角体の周りで集合する。次に、これらのクラスターが、体中心立方体結晶を形成するために、しっかりと包み込まれる。b.c. 3量体が3方向の軸に沿って包み込まれた結晶の図解分子モデル。1個のI23単位格子の8つの3量体がbに強調して示される。多角体で3量体をクロスリンクする2つの非共有結合性相互作用が、菱形(人差し指とこぶしの相互作用)と円形(人差し指と人差し指の相互作用)として示される。
【図3】多角体は、ヌクレオチドを含む濃くて密封されたマイクロ結晶である。a. 単位格子の連続したタンパク質基質は、茶色の表面と灰色の球体として表される。濃いパッキングは、細長い溶媒チャンネルと中心腔(赤い表面)だけをH1へリックス(青色のシリンダ)によってブロックされた状態にする。これらのブロックは、ウイルス粒子の存在によって中断された格子に沿って繰り返される。b. 溶媒チャンネルと中心の空洞は網がけで示される。チャンネル内に位置するATPとGTPの分子、ならびに中心の空洞に結合するCTP分子は棒として表される。H1とH3へリックスは青色と緑色の円筒としてそれぞれ示されている。
【図4】考えられるウイルス粒子放出機構(a) SlとS3の間に認められるチロシンクラスターはpHが10.5以上であると負の電荷を帯びチロシンクラスター内でのチロシン残基間での結合が消失する。一方、(b)クランプの塩橋(残基K69-E82-K99-D81-D78)もpH 10.5以上で消失する。挿入図で丸をつけたこれらの領域は、多角体の封入に際して重要であり、そして、我々はそれらの分裂が幼虫のアルカリ性の中腸での結晶の溶解とウイルス粒子の放出につながることを提案する。
【図5】多角体はへリックスH1 よって架橋処理された3量体の構成ブロックでできている。a. ポリヘドリン3量体の3つのサブユニットの表面の描写。サブユニットのうちの二つは、接触界面を明示するために、縦棒によって示された軸の周りを+/-120度回転している。これらのインタフェースは、回転したサブユニットにおいて赤で色づけされ、極性、疎水性相互作用にかかわる残基の中央のポリヘドリン分子において、それぞれ青とオレンジ色とで色づけけされている。b. ポリヘドリン分子のへリックスH1は青色で強調されている。5つの異なった3量体がH1によって架橋結合される。
【図6】中心にある空洞。結晶構造の3方の軸に沿って示される中心にある空洞。His76とPhe201の側鎖は、分子球体で棒として表される。隣接する空洞間の関係を妨げるへリックスH4が、オレンジのシリンダとして示される。棒として示された、空洞で捕らえられたCTP分子は、へリックスH3(緑色のシリンダ)のN-末端に結合する。明らかにするために、6個の手前のCTPが省略され、炭素原子は、タンパク質では黄色、CTP分子ではシアンで示される。
【図7】H1ヘリクスとEGFP融合タンパク質の多角体への取り込み7A EGFPのH1ヘリクス由来の取り込み7B EGFPのH1ヘリクス由来の取り込み
【図8】ポリヘドリンタンパク質を用いたH1/EGFPの共発現による多角体でのH1/EGFP封入。
【図9】多角体とともに培養(Incubation)することによる多角体のH1/EGFP融合分子のカプセル化。
【図10】H1/EGFPとVP3/EGFPが固定されている多角体からの緑色蛍光。
【図11】H1-EGFPの結晶化。1.5M硫酸アンモニウム、15%のグリセロール、0.1Mトリス-HCl pH8.5
【図12】H1/FGF-2多角体は上皮細胞の成長を促進する。 H1/FGF-2多角体とともに培養されたときに、ウシ胎仔血清がない状態での欠乏したNIH3T3細胞が成長促進を示した棒グラフ(中央のグラフ)であり、コントロール多角体とともに培養されたときには示さなかった(左のグラフ、負のコントロール実験)。この分析評価における同等活性を有する組換え型FGF-2を安定した置き換えをすることができるH1/FGF-2多角体機能(右のグラフ、正のコントロール実験)。
【図13】H1/FGF-7多角体は角化細胞の成長を促進する。 H1/FGF-7多角体を用いた人間の表皮角質細胞(NHEK細胞)の成長促進を示す棒グラフ(中央のグラフ)は、ウシ胎仔血清サプリメントを使用することで到達したのと同様のレベルを示した(右のグラフ、正のコントロール実験)。コントロール多角体を用いた培養(Incubation)は、成長を促進しない(左のグラフ、負のコントロール実験)。
【図14】乾燥後に多角体に固定化されたH1/FGF-2の安定性。 Thermanoxカバーガラスに、改変されていない多角体、H1/FGF-2多角体、およびrFGF-2が滴下された。完全な乾燥後に、カバーガラスは8 wellのプレートに置かれ、1 wellあたり1×104の細胞の密度でATDC5細胞が播種された。2日間培養(Incubation)後、細胞の増殖へのこれらの処理の効果が調査された。NP:標準的な多角体、F2P:スポットされた粉末のH1/FGF-2多角体、 dF2:スポットされた粉末のrFGF-2、F2:rFGF-2。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の態様について、図面の番号を参照しながら説明する。
ウイルス粒子は多角体と呼ばれるミクロサイズのタンパク質結晶に包埋されているため、CPVとバキュロウイルスは根絶するのが難しいことで有名である(非特許文献1,2)。多角体の顕著な安定性は、バクテリアの胞子のように、これらの昆虫ウイルスが長年土の中に感染力を有したままで残っていることを意味する。多角体の環境下での持続性は、カイコの収繭において重大な損失の原因ではあるが、また、化学殺虫剤の生物学的代替手段で病害虫に対して利用されてきた(非特許文献3,4)。1900年代前半以来これらのユニークな生体内のタンパク質結晶は広く特徴付けられてきた(非特許文献5)が、その原子構造は未解明のまま残されていた(非特許文献6)。
CPVsは、独特の20面体のサブウイルス粒子を有し、感染細胞の細胞質内で、内部の分節二本鎖RNAテンプレートからウイルス性のmRNAを転写する小さい'複写マシン'として機能するReoviridae科に属するウイルスに分類される(非特許文献10)。CPVは、レオウイルス科の中で、ウイルス粒子がそれのそれぞれが数千のCPV粒子を含む多角体によって保護されることが知られている唯一のものである(非特許文献1,2,6,11,12)。
細胞外環境下において、多角体に封入されたウイルス粒子は、脱水、冷凍及び酵素の劣化に耐える(非特許文献6)。さらに、我々は多角体が、高濃度の尿素、酸、および界面活性剤への浸漬を含むほとんどのタンパク質特性を奪う変性処理に耐性があり、まだ、その整った結晶の組織を維持している事を発見した(表1:多角体の安定性)。対照的に、10.5より高いpH条件下で多角体は容易に溶解する(非特許文献19)。生体内結晶におけるこれらの顕著な安定性の分子基礎と、アルカリ性の昆虫幼虫中腸での分解がどのようにして始められるのかは、知られていない。
我々は、低X線background micromesh mounts(非特許文献13)を使用した凍結保護物質の薄層で固定する多角体分析方法を開発し、Swiss Light SourceにおいてX06SA ' beamlineでMD2回折計を使用することで単結晶回折を観測できた。昆虫細胞から精製された300以上のマイクロ結晶が、2Åの分解能でのCPV多角体の原子構造を決定するために試された。我々の知る限り、これは機能的な細胞内結晶の原子構造の最初の報告である(非特許文献14)。
ミクロサイズの多角体は、関連生物学的アセンブリであり、単一分子かオリゴマーよりむしろ3−二次元の結晶としてこのようなポリヘドリンタンパク質機能である。典型的な2ミクロンの結晶(図1a.)は、各末端に沿った200体の中心立方体単位格子を持っていて、約1万のウイルス粒子が含まれる。多角体の単位格子は103Åで、直径720Åの20面体の CPV粒子よりはるかに小さい。典型的電子顕微鏡検査は、ウイルス粒子が多角体内で一様に分配されて、少なくとも300の単位格子に代わって格子の穴を塞ぐ事を明らかにした。
【0022】
【表1】

水に懸濁した多角体をマイクロメッシュ上にマウントし、50%の湿度の中で乾燥させ、水和あるいは凍結防止剤なしで液体窒素中で凍結させた。
【0023】
原子構造は、CPV粒子のあるなしにかかわらず多角体について同定され、そしてまたウイルス粒子がCPV チュレットタンパク質の多角体標的配列で融解するタンパク分解酵素(a protein kinase)に置き換えられた多角体についても同定された。著しい違いは全く観測されず、洗練された構造は本質的には同じであった。これらの観測は、結晶の格子の総合的なオーダーを中断せずに、きわだって分子量の異なった分子でさえも多角体に安定して組み入れることができることを示す。
感染性、組換え型、そして、リン酸化酵素含有の多角体から得られたポリヘドリンの構造は、2007年1月9日にアクセスコード2OH5、2OH6、および2OH7としてRCSB Protein Data Bankに登録された。
多角体は、N末端にあるαへリックスにできるしっかりとした足場に結合した28kDa のポリヘドリンタンパク質の3量体の構成要素からできている。ポリヘドリンの折り重なりは、親指と人差し指を外に広げた左手の形をしている。人差し指はN-端末αへリックス(H1)であり、コンパクトな3層βサンドイッチ・コアにより形成されるこぶしから伸びる。このサンドイッチは6(S1)と3個(S2)の反平行ストランド(図1b.)について二個のベータシートをつけで作られる。S1-S2サンドイッチ(IBADGF-CHE)の位相はストランドAとIの間の交換は目新しいが、多くのウイルス性の外殻タンパク質(BIDG-CHE)において認められる正準なゼリーの役割に類似している。3番目の層(S3)は、タンパク質のC-終末部によって形成され、短いαへリックスによって先行されるβヘアピンから成る。S3は図1b.に示された方向で、S1上の深い溝を形成するS1の凹面上表面に対して封入する。中央のサンドイッチは、小指として図IBに表されたS1-S2の上で、H3へリックスを有する追加へリックスとクランプのような突出を形成する隣接している輪によって側面攻撃される。親指は、3方向の軸の横に位置する両親媒性ヘリックス(H4)である。 H1へリックス、S1/S3溝、クランプ、およびH4へリックスは、多角体の、より高い組織にすべてかかわる。
ポリヘドリン3量体は、H4へリックスのバンドルと3個のクランプによってサンドイッチドメインが結合される中央のバーレルで構成される(図1c.-d.)。それらは主によりきちんとした3量体インタフェースに埋められるポリヘドリン分子の総表面の25%(3800Å2)以上との疎水性相互作用で形成される(図5)。3量体には3倍の結晶学的対称性があるので、1個のポリヘドリン分子が結晶の非対称ユニットを構成する。ポリヘドリンには、同じく中央のβサンドイッチとブルータング・ウイルスのVP7(非特許文献15)、レオウイルスのMuI(非特許文献16)またはbirnavirusのVP2(非特許文献17)などの二本鎖のRNAウイルスの外殻タンパク質総合的な3量体の形状がある。しかしながら、よりきちんとするところの第4の配置はこれらのウイルス性の外殻タンパク質と異なっており、そして、ポリヘドリン3量体は20面体シェルよりむしろ立方体心立方格子に組織化される。
多角体の組織の次のレベルは、I23単位格子のセンターの4つの3量体の四面体のクラスターである。この四面体のクラスターの12個全てのポリヘドリン分子は、親指がセルの中央から外を指差した方向をしめしており、クランプ領域の間で相互作用によって支配的に結びつけられる(図2a.)。これらの2個の四面体のクラスターがミクロサイズの立方体の多角体を形成するために各軸に沿って数百回繰り返される結晶の単位格子を構成する。四面体のクラスターは本質的にはH1へリックスによって調停された非共有結合性相互作用によって多角体でしっかり架橋処理される(図2b.- c.)。まず、第一に四面体のクラスターからはみ出るH1へリックスが、周囲のクラスターの3量体のS1/S3溝にドッキングする(図2人差し指とこぶしの相互作用)。これらは、多角体を安定させる最も広範囲で緻密な結晶連結である。第二に、結晶モデルの1対の周りのH1へリックスの束は、四面体のクラスターの間の遠距離相互作用で結晶をさらに強化する(図2人差し指-人差し指の相互作用)。
【0024】
多角体の安定性は、3量体を接続して、溶媒からのポリヘドリン表面の70%以上を保護する相互作用の大規模なネットワークによるものである。多角体では、各ポリヘドリンは、同じI23対称を有するいかなる他のタンパク質結晶より、他の18個の分子に連結する(平均は7.7である)。これらの相互作用のいくつかは、彼らの絶妙の化学物質と形の相補性において抗原抗体複合体と比較可能である(非特許文献18)(表面の相補性(非特許文献19)は、多角体0.70であり、免疫複合物0.64-0.68である)。特に、H1へリックスは表面の4分の3が隣接している4つの隣接する3量体との密接に接触ことにかかわることを媒介する結晶連結の範囲から、明白な多角体の構造で中心的役割を果たす(図5)。
ポリヘドリン分子の濃い封入は、また、タンパク質結晶として報告される中で最も少ない溶媒容量(19%)の1つをもたらす。結晶構造は、単位格子間の狭いチャンネルによって影響を受けており、さらに四面体のクラスターの中央で密閉された空洞によっても影響を受けている(図3)。軸のチャンネルは、狭く、H1へリックスによって妨げられ、そして、H4へリックスによって結晶の3方向の軸に沿った空洞の拡大は妨げられている(図6)。その結果、多角体は外部の環境から封入されたウイルス粒子を保護するための密封されたマトリクスを形成している。多角体は最も少ない溶媒容量しか持たないタンパク質結晶であり、Protein Data Bank(ヌクレオチドを19%、タンパク質を22%を含む)で観測されている例外的に濃いタンパク質結晶である。結晶中のポリヘドリンの密な充填は狭い溝と中心空洞を持っている。中心空洞は、それぞれの格子ポイントで見つけられていて、12個のCTP分子を含んでいる。 その空洞は12個のポリヘドリン分子のクランプ領域によって裏打ちされている。外径は28.4Å(距離Gly74-Gly74)、内径は18.2Å(距離His76-His76)である。His76は空洞の中で内側に向いている唯一のアミノ酸残基であり、隣接する残基はすべてが安定ループ69-78の形成の安定化にかかわっている。
結晶モデルの3方向に伸びる軸に沿った空洞の拡大は、へリックスH4と特にPhe201によって妨げられている。これらの拡大の最も小さい直径(9Å)は残りのTyr71とArg98-Asp96によって決定されている。
興味深いことに、我々は組換え型と感染性の両方の多角体でヌクレオチドを見つけた。これらのヌクレオチドは、質量分析によりATP、GTPおよびCTPであると決定した。
積み重ねられたATPとGTP分子は4個の四面体のクラスター間のインタフェース限られており、CTP分子は中心空洞につながる12の対称に関連するクランプ領域のそれぞれに相互作用する(図1c.-d.、3b.、および図6)。対称軸の近くのこれらの2つのヌクレオチド結合部位で見つけられた特異性相互作用は、ヌクレオチドが結晶の間に結合することを示しており、細胞質における多角体の形成を始めることに役割を果たしているのかもしれない。
一旦多角体が形成されると、ヌクレオチドは、結晶の中に埋め込まれ、水中で3年間保存された後でも結晶の中で観測された。
これらの配位子はこれまで説明されておらず、多角体が薬品や蛍光プローブなどの他の小分子を運ぶために修飾されうることを示す。既存のウイルス様のナノ粒子(非特許文献8)とは異なり、これらのナノコンテナはそれらの大きさと強さ故に扱いやすく、それらは、本文章と目新しいマイクロアレイ(非特許文献9)あるいは有望なバイオ殺虫剤(非特許文献4)に示されているように、さまざまなものを収容する。
これらのナノコンテナの別の魅力的な特徴は、アルカリ性のpHで載せている物質を放出できる可能性です。それらがpH2においてさえ安定であるにもかかわらず、多角体は食物と一緒に摂取された後に幼虫のアルカリ性の中腸でウイルス粒子を放出するpH10.5を超えると容易に溶ける。低-高のpH間の安定性の違いは、水素結合と塩橋の損失が結晶の溶解を説明するために十分でないことを示唆する。
代わりに、理論にとらわれず、我々はウイルス放出メカニズムを提案する。すなわち、これはチロシン(pKa〜10.1)クラスターのチロシン残基の「脱プロトン化」がS3の部分的な開裂につながり、さらにS1/S3の溝の消失をもたらす。この溝はそもそもH1へリックスの結合で重要な役割を持つが、S3の部分的な開裂、さらにS1/S3の溝の消失は結晶を不安定化させる(図4)。また、我々は、高いpHにおける塩橋による結合の切断が、内部の3量体とヌクレオチド結合の相互作用の損失により、クランプを不安定にすることを示す(図4)。
ポリヘドリンはユニークな細胞内結晶を形成しており、どんな近い構造類似体も持っていない。しかしながら、核多角体ウイルス(NPV、バキュロウイルス科)の多角体はCPV多角体として同様の寸法で体心立方格子に集合する(非特許文献20,21)。また、このタンパク質はCPV多角体の足場を形成するH1へリックスと比べて長いN末端へリックスを有すると予測される(非特許文献21)。したがって、多角体の構造は、レオウイルス科とバキュロウイルス属において、それらのウイルスのライフサイクルにおける進化過程と構造がかなり異なるにもかかわらず、共有されるかもしれない。
【0025】
細胞培養系は、薬学、生物医学研究、および薬理学に広く使用され、さまざまな細胞増殖因子を含む特別で高価な培地を必要とする。これらの細胞増殖因子は、培養下での細胞の成長と分化を予想するのに必要なタンパク分子であるサイトカインだ。ほとんどのタンパク分子がそうであるように、サイトカインは比較的不安定であるので、頻繁に細胞培地を補給しなければならない。この理由のために、安定して固定された増殖因子を含む代わりうる持続的な細胞培養系は、潜在的に重要なアプリケーションを有する。安定して固定された増殖因子は、サイトカインの持続放出と、胚幹(ES)細胞と誘導分化幹(iPS)細胞を含む多くの幹細胞を使用することによる再生医工学と再生医療の役に立つと考えることができる。
【0026】
一の実施の態様において、本発明は、細胞培養系への標的分子の安定した持続的な放出のために、多角体における標的分子の封入を意図している。当業者は、標的分子が、他の生存、成長、増殖、形質転換、分化、または走化性に制限されずに構成する細胞内で、生理反応を引き出すことの役に立つどんな分子も封入できることを理解しているだろう。また、当業者は、培養系における細胞からタンパク質の発現を促進する分子がまた多角体に組み入れられ、細胞培養系で使用できることを理解しているだろう。これらの標的分子は、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、ヌクレオチド、核酸、脂質、リポタンパク質、薬物、サイトカイン、抗原、抗体、抗体フラグメント、蛍光分子、染料、pH感受性分子である毒素、毒液、および生物活性分子、成長因子であるケモカインもしくは有糸分裂促進物質を、含むが、それに限定されない。
【0027】
当業者は、細胞培養プレートや、ローラーボトルや、発酵培養システムやバイオリアクタなどの細胞を培養するために適合させたいかなる容器にも限定されず、いかなる種類の培養系も封入に使用できることを理解しているであろう。また、当業者にとって、標的分子を封入する改変された多角体は、多くの方法論によって細胞培養系に導入されうることは明らかであり、培地の中に標的分子を含む他の付加の改変された多角体を封入する多くの方法論によって細胞培養系に導入されるか、または改変された多角体を適用して、培地との接触の細胞培養系に組み入れることができる標的分子を封入した多角体の表面に標的分子を含んでいて、標的分子を含むその改変された多角体がないことができることも明らかである。これは、組織培養法プレートのwellの底に、または、発酵培養かバイオリアクタなどのどんな細胞培養系での封入用にも適合させられた表面に、改変された多角体の吸着を含めることができる。
以下に本発明の実施例を記載する。
【実施例1】
【0028】
多角体の発現と同定
昆虫細胞における組換え型と野生型Bombyx mori CPV多角体の発現と精製は、別の箇所で説明された通り実施された(非特許文献22)。CPVの突起タンパク質(VP3)のN-末端断片に融合されたヒトZIP-リン酸化酵素(Accession BAA24955) を含む多角体が、以前に説明された通り、生産された(非特許文献9)。走査電子顕微鏡を用いて、Ptコート試料の観察が行われた。質量スペクトルの分析は、精製された多角体のリボ核酸3リン酸塩の存在を確認して、N-端末アラニンのアセチル化が唯一のポリへドリン翻訳後修飾であることを示した。
【実施例2】
【0029】
構造決定
結晶は50%のエチレン・グリコールの薄いフィルムがのせられた網目の非常に細かいマウント(非特許文献13)の上に広げられ、そして、データは、強く減衰しているビームが結晶に焦点を合わせられている状態で、X06SA beamline(スイスのLight Source)のMD2回折計の上の120Kで集められた。データはDenzo/Scalepack(非特許文献23)と共に空間群123で処理され、そして、強い放射線による多角体の損傷のため、データセットは2-4個の結晶からのデータを合わせることで解析した。うまくいった重原子浸透は、通常至適緩衝液で半分飽和する組換え型の多角体において実行された。セレノメチオニンによって代用された結晶を含む4個の同形の派生物のための重原子置換は、SHELX24にあるSHARP25を使用し、2.6Åの分解能で解析された。組換え型、および感染性の多角体とZIP-キナーゼを含む多角体の構造は、Refmac526を使用することで、2.1Å、1.98Å、および2.45Åの分解能で解析された。最終的なモデルは本質的には同じである。感染性の多角体の構造には、そのような小さい結晶のための高い結晶学的性質があり(R=9.3%、1.98ÅへのRfree=15.4%、表2と表3)、そして、すべての残基がラマチャンドランプロットの許容領域ある(非特許文献27)。
【0030】
【表2】

全データセットの空間群はI23である。完全なデータセットを得るために統合した結晶の数は、以下のデータセットの( )内に示される:感染性のある(3)、リン酸化酵素を含む(5)多角体。
*最も高い分解能が( )内に示されている。
【0031】
【表3】

全データセットの空間群はI23である。完全なデータセットを得るために統合した結晶の数は、以下のデータセットの( )内に示される:非組み換え型 (Native)多角体(2)、KAuCN2(2)、KI/I2(3)、AgNO3(4)に浸漬した多角体、Se-Metに置換した多角体(2)。
*最も高い分解能が( )内に示されている。
【実施例3】
【0032】
モデル分析と図式化
オリゴマーと結晶の接触界面は、European Bioinformatics InstituteでCCP428とPISA29サーバからAREAIMOLで同定された。溶媒空洞とチャンネルはVOIDOO30(Uppsala Software Factory)を用いて分析された。イラストはPyMOL v0.99(DeLano Scientific, San Carlos, CA, USA. http;//www.pymol.org)によって準備された。
【実施例4】
【0033】
H1-EGFPとポリヘドリンが共発現し、蛍光が共焦点顕微鏡で観測された(Z=O.7 um)。結果を図8に示す。
【実施例5】
【0034】
多角体は、バキュロウイルス発現ベクターを使用することで生産され(非特許文献22)、次に、H1-EGFPのある状態で培養された。 1つの多角体が分析され、蛍光が表面の多くのスポットから検出された(Z=O.7um)。結果を図9に示す。
【実施例6】
【0035】
H1-EGFP
H1-EGFPの融解は、EGFPドメインにリンクされたポリヘドリンドメインのN-端末30のアミノ酸を含むように設計された。 H1-EGFPを作成するために、pEU-ポリヘドリン核外遺伝子は、フォワードプライマー:、SEQ ID NO.1とリバースプライマー: SEQ IDNO.2で増幅された。 リバースプライマーはBamHI部位を含むが、フォワードプライマーはEcoRI部位を含んだ。この得られたPCR断片は、EcoRI-BamHを用いて切断され、pH1-EGFPを作成するためにpEGFP-N3(CLONTECH)のEcoRI-BamHI部位にくくりつけられた。H1-EGFP構造物は、ゲートウェイシステム(Invitrogen)を使用することでつくられた。これらのpEU-H76CとpH1-EGFPプラスミドは、H1EGFP: BP組換え反応のための追加attB配列を含むSEQ ID NO3とSEQ ID NO4にプライマーセットを合成し、PCRによって増幅された。増幅されたPCR断片は、メーカーの指示に従い、エントリークローンpDNR-H1-EGFPを作製し、BP組換え反応を通して、プラスミドベクターpDONR221(Invitrogen)に導入された。構造物は、それから、ゲートウェイのシステム親和発現("DEST")ベクターpDESTと共にLR組換え反応を実行する際に使用された。我々は合成ベクターをpDEST- H1-EGFPと命名した。作製したDNAは、塩基列決定により確認された(the PE Applied Biosystems Model 373A automated sequencer)。発現ベクターは、直線化したAcNPV DNAと共にSf21細胞にトランスフェクショんされた(BaculoGold Baculo virus DNA, PharMingen)。4日間27℃で培養後、培地は回収され、10分間1000G遠心分離にかけられ、上清は増幅のためのより多くの細胞を感染させることに使用された。組み換え型ウイルスの増幅が3回を繰り返され、組み換えバキュロウイルスを含む上清を多量に得た。pDEST-H1EGFPを用いて得られた組み換えバキュロウイルスは、AcH1-EGFPと呼ばれた。 Sf21細胞(75cm2容器あたり5×107の細胞)は、10PFU/細胞の感染多様性(MOI)で組換え型のウイルスを接種した。二重感染力に関しては、各ウイルスは5PFU/細胞のMOIで加えられた。この研究では、我々はAcH1EGFPとSf21細胞の中へのポリヘドリンが生産されたAcCP-HのH1EGFPと二重感染をもって実験を行った。H1GFPによって固定されたポリヘドリンは、既に説明された(非特許文献9)通り、感染したSf21細胞から分離、精製された。
H1EGFPは、H1EGFP組み換えバキュロウイルスへの感染の5日後のSGI 細胞からイオン交換クロマトグラフィーによって精製された。一時的に、可溶性抽出物を準備するために、細胞は遠心分離によって集められ、超音波処理でPBS緩衝液に溶解させられた。タンパク質精製が以下のステップで行われた: (1) NaCl勾配溶離(0-0.2 M)DEAE Sepharoseイオン交換クロマトグラフィー、および(2) Sephadex G-75におけるゲル濾過。すべてのクロマトグラフィーが20 mM Tris緩衝液pH7.5で実行され、H1EGFPを含む断片は可視緑色蛍光によって測定された。タンパク質は、10mM Tris(pH7.0)に対して透析され、遠心濃縮容器(Millipore、Centricon YMl000)を使用して濃縮された。
H1EGFPは、室温で1.5M硫酸アンモニウム・15%のグリセロール・100mM Tris pH8.5含有リザーバ溶液と等量のH1EGFP2μLを混ぜた懸滴蒸気拡散法を用いて結晶化された。小さい結晶は、約3日間成長するのを許容します。
Sf21細胞は2個の組換え型のバキュロ・ウイルスAcH1EGFPとAcCP-Hに感染していた。
また、別の多角体(VP3EGFP多角体)は、AcVP3EGFPとAcCP-Hへの共同感染によって準備された。多角体を感染細胞から回収して、既報のとおり精製した(非特許文献38)。H1EGFP多角体の緑色蛍光はVP3EGFP多角体のものと比較された。結果を図10に示す。
H1EGFPは、Sf21細胞中に発現し、NaCl勾配溶離(0-0.2 M)DEAE Sepharoseイオン交換クロマトグラフィー、および(2)セファデックスG-75におけるゲル濾過で浄化されました。 精製されたH1EGFPは、懸滴蒸気拡散法を用いて、結晶化にかけられた。追補情報は、Nature公表のオンラインバージョンwww.nature.com/natureにリンクされている。
【実施例7】
【0036】
H1/FGF-2
この例において、H1タグに結びつけられた増殖因子FGF-2を含む安定したCPV多角体は、NIH3T3細胞を使用する細胞培養アッセイにおける成長を刺激するのに活性があることが示されている。否定的で積極的な対照実験が、実験を有効にするために行われた。結果を図12に示す。
Bombyx mori CPV(BmCPV)SEQ ID No.5由来の多角体のN-端末αヘリックス(H1)の塩基配列は、バキュロウイルス転写ベクターpVL1392のNotlとEcoWサイトに、標準的なPCRとpVL1392/H1と呼ばれるプラスミドを生産する技法でよく知られているクローン技術を用いてクローン化された。H1の塩基配列は配列番号6(SEQ ID No6)に示されるアミノ酸配列に対応している。GATEWAYクローン技術(Invitrogen)は、EGFP、FGF-2、およびFGF-7の高処理量発現と固定を容易にするために使用された。目的地ベクター(pDEST/N-H1)は、リーディングフレームカセットB(Invitrogen)をpVL1392(Invitrogen)のXbal部位に挿入することによって、構成された。FGF-2の遺伝子は、等身大のヒトcDNAライブラリーからPCRによって増幅され、そこでは、attBlとattB2配列がプライマーに含まれていた。得られたattBによって側面攻撃させられたPCR製品は、BP クローン化酵素混合液を使用するGATEWAYクローン技術のBP反応でドナーベクター(pDONR221)にクローン化された。ORFsを結果として起こるエントリーベクターのattLlとattL2サイトの間でクローンを作って、LRクローン化酵素混合溶液とのLR クローン化酵素反応でpDEST/H1に移した。結果として起こる発現ベクター(pAcH1)はBmCPV ポリヘドリンのN-末端H1配列から成り、そして、異種タンパクの遺伝子は線状化されたAcNPVのDNA(Baculogold Baculovirus DNA(Pharmingen))とともにSf21細胞の中にトランスフェクションしました。外来タンパク質が固定された多角体を得るために、組換え型のAcNPVs(AcH1 /EGFP、AcH1/FGF-2、AcH1/FGF-7)はBmCPV ポリヘドリンを発現したAcCP-Hに共感染させた。感染細胞は、Ultrasonic Homogenizer VP5(TAITEC)を使用することで細胞膜と核エンベロープを取り外すために集められて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS; 20mM NaH2PO4、20mM Na2HPO4、150mM NaCl、pH7.2)で洗われて、均質化された。EGFP-多角体は、滅菌水で洗うことによって、精製された。 そして、FGF-2多角体は、ペニシリン(1万ユニット/ml)とストレプトマイシン(10mg/ml)を含む滅菌水を用いて、10分間15,000rpm遠心分離にかけて洗われた。
FGF-2は、H1配列(H1/FGF-2多角体)を使用することによりBmCPV多角体に固定された。多角体に固定されたFGF-2の生物学的活動度は、以下の通り検査された。
NIH3T3細胞は、4000細胞/wellの密度で96wellのプレートに播種され、10%のウシ胎仔血清を含むDME培養液で一晩培養され、次に、α-MEMでウシ胎仔血清なしで6時間飢餓状態に置かれ、細胞の成長の休止をもたらした。そして、飢餓細胞はウシ胎仔血清がないとき4日間どちらの改変されていない多角体も含むα-MEM、FGF-2多角体(0.1x104〜1xl05/4000細胞)またはrFGF-2(R & D systems)(100ngへの0.1ng)に培養された。rFGF-2を含む培地には、2日毎にrFGF-2を含む新しい培地が補給された。
NIH3T3細胞の増殖は、既知の技術どおり、WST-8アッセイで測定された。簡潔に、WST-8は細胞の中に存在する脱水素酵素によって減少させられて、組織培地で可溶な黄色い色をした製品(ホルマザン)を与える。細胞における脱水素酵素の活動で発生するホルマザン染料の量は、生きた細胞の数に正比例する。WST-8分析評価において、Cell-Counting Kit-8溶液(Dojinケミカル株式会社)は、メーカーの指示通り、4時間、37℃、空気中二酸化炭素濃度5%の条件で培養された。450nmでの吸収は、マイクロプレートリーダーを使用することで決定した。
H1/FGF-2多角体は増殖に匹敵する依存する方法がrFGF-2と共に処理された細胞中に検出した投与量における、飢えるNIH3T3細胞の増殖を刺激した。特異的に、2x104H1/FGF-2多角体の添加により誘導されたNIH3T3細胞の成長は、10 ng rFGF-2で処理された細胞のものと非常に似通っていた。NIH3T3細胞の増殖は10ng rFGF-2での処理により影響を受けなかった。これらの結果を図12に示す。
H1/FGF-2多角体を補給しないとき、H1/FGF-2多角体を含む培養液で育てられた細胞の増殖は継続した。H1/FGF-2 多角体の添加のない状態で、培地の交換だけを行うことにより、増殖が観測された。対照的に、rFGF-2を含む培地で処理された細胞の増殖は、2日間毎にrFGF-2を含む新鮮培地を与えることを必要とした。
【実施例8】
【0037】
H1/FGF-7
この例では、H1タグに結びつけられた増殖因子FGF-7を含む安定したCPV多角体は、細胞培養試験において、ヒト表皮角化細胞の成長を促進するのにおいて活性があることを示す。否定と肯定の対照実験が、実験を有効にするために行われた。結果を図13に示す。
上記の実施例7で説明された方法を使用して、H1配列(H1/FGF-7多角体)を使用することによって、FGF-7はBmCPV多角体に固定化された。多角体に固定化されたFGF-7の生物学的活動度が検査された。H1/FGF-7多角体(0.2×104〜1×105)と改変されていない多角体は、96wellプレートのwellの表面に加えられ、3時間、室温、乾燥に耐えた。
クラボウからヒト表皮角化細胞NHEK(F))を購入した。凍結された角化細胞はDefined Keratinocyte-SFM (GIBCO)で洗浄され、Keratinocyte-SFMに懸濁された。角化細胞は、上述の通り、いかなる成長サプリメントのない状態で Defined Keratinocyte-SFMの中に2500 cell/cm2の密度で、多角体で前もってコーティングされた96wellプレートのwellにおかれた。肯定的なコントロールとして、インシュリン、EGF、およびFGF(GIBCO)を含む成長サプリメントは、図13が示すようにDefined Keratinocyte-SFMに加えられた。
2日間毎に成長サプリメントを含む新鮮培地で、成長サプリメントを含む培養液を補給した。
5日間の培養の後に、角化細胞の増殖が測定された。Cell- Counting Kit-8溶液(Dojinケミカル株式会社)は、メーカーの指示に従い4時間、37℃、空気中二酸化炭素5%で培養された。450nmでの吸収は、マイクロプレートリーダーを使用することで決定された。
H1/FGF-7多角体は、ウシ胎仔血清と成長サプリメントがない状態で角化細胞の増殖を刺激した。成長補足による角化細胞の増殖は5x104のHI/FGF-7多角体の付加と比較した。H1/FGF-7多角体によって増殖させられた角化細胞の形状は、成長サプリメントによって処理された角化細胞のものと非常に似かよっていた。これらの結果を図13に示す。
成長サプリメントを含む培地を補給しないとき、FGF-7多角体を含む培地で育てられた細胞の増殖は維持された。対照的に、成長サプリメントを含んだ培地で処理された細胞の増殖は、2日間毎に成長サプリメントを含む新鮮な培地の追加を必要とした。
本発明は特定の例を引用して説明されるが、本発明は、ここに説明された発明の広い原則と考え方を踏まえて、他の多くの形状で封入されるであろう技術により高く評価されるであろう。
【実施例9】
【0038】
通常の多角体がThermanoxカバーガラスに滴下され、H1/FGF-2多角体とrFGF-2はThermanoxカバーガラスに滴下された。完全な乾燥の後に、カバーガラスは8wellのプレートに置かれ1wellあたり1×104 の細胞密度でATDC5細胞が播種された。2日間培養後、細胞の増殖へのこれらの処理の効果が調査された。NP、標準は多角体:F2P、滴下されえ乾固されたH1/FGF-2多角体:dF2、滴下され乾固されたrFGF-2: F2、rFGF-2。 スケールバー100μm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞質多角体病ウイルスの多角体結晶構造の解析情報(coordinates)の、(a)改変された多角体もしくはその一部、あるいは(b)多角体もしくはその一部からなる複合体の設計および/または製造への使用。
【請求項2】
多角体タンパク質であるポリヘドリンタンパク質の重要な領域の特定からなる請求項1の使用。
【請求項3】
前記の領域が、多角体結晶構造物の構築に必要となる領域である請求項2の使用。
【請求項4】
前記の領域が、多角体結晶もしくはその一部に封入される融合分子を作るために、標的分子に付加されるのに少なくとも必要となる領域である請求項2の使用。
【請求項5】
前記の領域が、ポリヘドリンタンパク質のN末にあるα−へリックス1(H1へリックス)の少なくとも一部分あるいはそれと同等の機能を持つものを含んでいる請求項2ないし5のいずれかの使用。
【請求項6】
ポリヘドリンタンパク質のN末にあるα−へリックス1(H1へリックス)は配列番号6(SEQ ID No6)、またはそれと同等の機能を持つ配列からなる請求項5の使用。
【請求項7】
下記のステップからなる標的分子の機能を保存、延長、保護する方法。
(i)ポリヘドリンタンパク質の重要な領域を特定するのに細胞質多角体病ウイルス(CPV)の多角体の結晶構造の分析情報を用いる、および
(ii)融合分子が多角体またはその一部分に封入されるように、標的分子と少なくともその重要な領域からなる融合分子を調製する。
【請求項8】
前記の領域が、多角体結晶を構築するのに寄与する重要な領域である請求項7の方法。
【請求項9】
前記の領域が、ポリヘドリンタンパク質のN末にあるα−へリックス1(H1へリックス)の少なくとも一部あるいはそれと同等の機能を持つものからなる請求項7または8の方法。
【請求項10】
前記のN末にあるα−へリックス1(H1へリックス)は、配列番号6(SEQ ID No6)、またはそれと同等の機能を持つ配列を含んでいる請求項9の方法。
【請求項11】
下記のステップを含む改変した多角体またはその一部分を調製する方法。
(a)重要な領域を特定するのに、細胞質多角体病ウイルスの多角体結晶構造の解析情報(co-ordinates)を用いる、
(b)標的分子とその重要な領域からなる融合分子が、多角体結晶またはその一部分に封入されるように、該融合分子を調製する、
(c)融合分子を多角体に封入する。
【請求項12】
融合分子が、(i)融合分子を多角体に接触させること、または(ii)融合分子を多角体と共発現させることにより多角体に封入される請求項11の改変した多角体またはその一部分を調製する方法。
【請求項13】
請求項11または12の方法によって調製され改変した多角体またはその一部分。
【請求項14】
標的分子と多角体ンタンパク質またはその一部分を融合した融合分子と、多角体またはその一部分とを含む複合体。
【請求項15】
複合体は、カプセル化されたウイルス粒子を含んでいない、請求項14の複合体。
【請求項16】
多角体のタンパク質が、多角体のタンパク質のN末にあるα−へリックス1(H1へリックス)またはそれと同等の機能を持つものである請求項14または15の複合体。
【請求項17】
多角体のタンパク質は、配列番号6(SEQ ID No6)、もしくはそれと同等の機能を持つ配列を含んでいる請求項14ないし16のいずれかの複合体。
【請求項18】
請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体の、活性な表面を製造し、その活性な表面上の標的分子の機能を保存、延長、保護することへの使用。
【請求項19】
改変した多角体またはその一部分、または複合体またはその一部分が活性な表面上に乾燥されている請求項18の使用。
【請求項20】
活性な表面は細胞を培養する培地中で使用されているか、培地と接触している請求項18または19の使用。
【請求項21】
標的分子あるいは同等の機能を持つ分子は活性な表面から培地中に徐放され、培地にそれらの分子を補充する必要がない請求項20の使用。
【請求項22】
活性な表面がアッセイに用いられる請求項18または19の使用。
【請求項23】
アッセイがマイクロアッセイである請求項22の使用。
【請求項24】
標的分子が、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、ヌクレオチド、核酸、脂質、脂質タンパク質、薬剤(drug)、サイトカイン、抗原、抗体、抗体断片、蛍光分子、色素、pH感受性分子、毒素、毒、生物活性物質、ケモカインおよびマイトジェンからなる群から選ばれる、請求項1ないし6いずれか、または18ないし23のいずれかの使用、請求項7ないし12のいずれかの多角体またはその一部分を調製する方法、請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体またはその一部分。
【請求項25】
標的分子が成長因子である、請求項1ないし6いずれか、または18ないし23のいずれかの使用、請求項7ないし12のいずれかの多角体またはその一部分を調製する方法、請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体またはその一部分。
【請求項26】
成長因子は線維芽細胞増殖因子である、請求項25の使用、多角体またはその一部分を調製する方法、改変した多角体またはその一部分、または複合体またはその一部分。
【請求項27】
線維芽細胞増殖因子はFGF-2もしくはFGF7である、請求項26の使用、多角体またはその一部分を調製する方法、改変した多角体またはその一部分、または複合体またはその一部分。
【請求項28】
請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体またはその一部分を含む細胞培養系または細胞培養の構成成分。
【請求項29】
請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体またはその一部分を含むか、または接触している培地用いて、細胞を接触させることからなる細胞を培養する方法。
【請求項30】
請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体またはその一部分で構成する分析評価法。
【請求項31】
分析評価法がマイクロアッセイである請求項30の分析評価法。
【請求項32】
請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体またはその一部分で構成するバイオセンサー。
【請求項33】
バイオセンサーがpHセンサーである、請求項32のバイオセンサー。
【請求項34】
請求項13の改変した多角体またはその一部分、または請求項14ないし17のいずれかの複合体またはその一部分を含む生物殺虫剤。
【請求項35】
標的分子が宿主昆虫に対して有害である、請求項34の生物殺虫剤。
【請求項36】
標的分子がバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が産生する毒素である、請求項34または35の生物殺虫剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−520196(P2010−520196A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551648(P2009−551648)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際出願番号】PCT/NZ2008/000030
【国際公開番号】WO2008/105672
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(503447416)オークランド ユニサーヴィスィズ リミテッド (10)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(301070357)株式会社プロテインクリスタル (3)
【Fターム(参考)】