説明

エアセル及びそれを備えたエアマット

【課題】ハンモック現象が生じにくく、寝返りが行いやすい形状のエアセルとこのエアセルを備えたエアマットを提供すること。
【解決手段】複数本並設することによりエアマットを構成する多層構造のエアセルであって、下層部は円筒形状に形成された円筒部からなり、上層部はブロック形状に形成された複数のブロック部からなるブロック群として形成され前記下層部の上面長手方向に一列に配置され、かつ前記下層部の円筒部と前記上層部の各ブロック部との間にはエアが流動するための通気孔が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病人等が長期に渡って床に伏せる場合などに生じる褥瘡を予防するためのエアマットを構成するエアセル及びそれを備えたエアマットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
寝返りを打てない病人等が長期に渡って床に伏していると、床ずれ(褥瘡)が体に生じる場合がある。床ずれの原因としては、寝返りを打てないことにより寝具からの圧が身体の一定箇所に集中して血行不良が生じることや、体力の衰えや栄養状態の悪化、あるいは汗等による過湿によって細菌の繁殖等が原因といわれている。
【0003】
このような床ずれを防止するため、種々の医療用のエアマットが開発されており、一般的なエアセルの構造は、主に単層〜3層程度の断面形状を持ち、細長い袋状になっていて、エアマットはこのエアセルを利用者の左右を横断する形で10本〜30本ほど並べて配置して、これらのエアセルにエアポンプからエアを送り込み膨らませて利用するものである。
このエアマットの利用者が臥床すると、エアセルが利用者の身体表面形状に追従することで身体とエアマットの接触面積を広げ、床ずれ防止効果を発揮している。
【0004】
なお、エアセルは、布地などのような可撓性の生地に高重合ポリマーフィルムをラミネート加工したもの、あるいはプラスチックフィルムそのまま、若しくはプラスチックフィルムの表面を梨地加工したものである。
【0005】
エアセルは、上記のように従来単層〜多層の断面形状を持ち、多層の場合は、図3(a)、(b)に示すように、各層の内圧が同等となるように層間の仕切に通気孔が設けられているため、層間のエアには流動性がある。図3(a)は、三層構造のエアセル30であり、上層部31、中層部32、下層部33と別れ、それぞれの層間には仕切膜34,35が設けられており、各仕切膜34,35にはエアが流入流出できるように通気孔34a、35aが設けられている。
【0006】
図3(b)は二層構造のエアセル36で、上層部37と下層部38とに別れ、層間には仕切膜39が設けられており、仕切膜39には、同じくエアが流入流出できるように通気孔39aが設けられている。
これらの構造は、エアセルの高さ全てを除圧層として利用でき、十分な余裕を持って身体を沈めることが可能なため優れた体圧分散性能を確保することが可能である(特許文献1の図4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−6939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
円筒を組み合わせた従来のエアセルは、身体の保持力に優れ体圧分散性能と寝心地がある程度両立されたものであるが、円筒形状であるため身体を大きく沈めたときに円筒長手方向の生地に張力が加わり、図4に示すように、ハンモック現象が生じる。
【0009】
その際、骨突出部など局部的な出っ張り先端は、図4の一点鎖線の円で囲まれた拡大図である図5に示すように、その周辺部とは接触圧に大きな差が生じる。限界まで身体を沈み込ませても骨突出部などの局部的な出っ張りに追従させるには無理がある。
【0010】
また、エアマットに身体を沈み込ませた場合、図6に示すように、エアセルがすり鉢状に変形するため利用者が寝返り行うには坂を上がる状態となり、利用者の活動を制限してしまう場合がある。特に、身体能力の低下が見られる利用者にとっては厳しい場合がある。
【0011】
そこで、本発明の課題は、ハンモック現象が生じにくく、寝返りが行いやすい形状のエアセルとこのエアセルを備えたエアマットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、複数本並設することによりエアマットを構成する多層構造のエアセルであって、下層部は円筒形状に形成された円筒部からなり、上層部はブロック形状に形成された複数のブロック部からなるブロック群として形成され前記下層部の上面長手方向に一列に配置され、かつ前記下層部の円筒部と前記上層部の各ブロック部との間にはエアが流動するための通気孔が形成されていることを特徴とするエアセル。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のエアセルにおいて、前記ブロック部は、複数の異なる長さのものを有し、エアセルによって異なる配列を有することを特徴としている。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1、2記載のエアセルを複数本並設したエアマットであって、各エアセルの上層部のブロック部と隣接する左右のブロック部の境が、隣接するエアセル間で互い違いになるようにエアセルを並設したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、上から荷重が加わったときに、上層部のブロック部が個々に凹み、下層部の円筒部の長手方向に働く張力を断ち切りハンモック現象を極力小さくすることができる。また、ブロック部は複数に分割形成されているので、身体表面への追従性を上げることができる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、エアセルの位置、すなわち、身体部位に当たるブロック部の位置によってブロック部の大きさを変えることで、内圧が同じであっても、身体への接触圧変化を付けることができ、また、寝心地を良くしたり、寝姿勢を整えることも可能となる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、エアマットとして隣り合うブロック部の境が並べたエアセル間で直線状にならないため、寝心地に違和感を生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るエアセルの(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエアセルを並設して構成したエアマットの平面図である。
【図3】従来の多層式エアセルの模式断面図である。
【図4】従来のエアセルのハンモック現象を説明する図である。
【図5】図4に示す一点鎖線の円で囲む部分の拡大図である。
【図6】従来のエアセルを用いたエアマットの寝返りをする際の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るエアセル及びそれを備えたエアマットの実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態におけるエアセルの断面図である。
本体部分は三層式のエアセル10で、上層部11、中層部12a、下層部12bを備え、それぞれの層間には仕切膜14,15が設けられており、各仕切膜14,15にはエアが流入流出できるように図示を省略した通気孔が設けられているので、上層と下層の内圧は同じくなるようになっている。
また、下層部12bには、エアセル10全体にエアを給気し或いは排気するための給気コネクタ16が設けられている。なお、中層部12aと下層部12bを含めて下層部(円筒部)12という場合もある。また、図中の符号17は留め金でシートやカバーにエアセル10を固定するためのものである。
【0020】
この下層部12bと中層部12aは一体に形成され、仕切膜15で仕切られた円筒形状の円筒部12からなり、上層部11はブロック形状に形成された複数のブロック部11aからなるブロック群として形成されていて、前記円筒部12の上面長手方向に一列に配置されている。
このブロック部11aは、かまぼこ型に成形されており、隣接して配置されている。なお、この例では、かまぼこ型であるが、豆腐を入れる容器のような形状であっても良く、いずれにしてもその下端部の端辺は円筒部12の上面に溶着されている。
【0021】
このブロック部11aは、上方から荷重を加えられた際に、自ら変形して円筒部12の長手方向に働く張力を断ち切りハンモック現象を極力小さくすることができるとともに、荷重部に対する追従性を上げることができる。
また、ブロック部11aは、複数の異なる長さのものが有り、エアセル10によって異なる配列にすることができる。例えば、全て所定の長さのブロック部11aを一列に並べても良いし、異なる長さのものを適宜配列しても良い。
【0022】
図2は、このエアセル10を複数本並設したエアマット20の平面図である。
図に示すように、最上部のエアセル10のブロック部11aは、ブロック群の端部両側の長さが短くて、その間に挟まれた4個のブロック部11aは長さの長いもので構成されている。
【0023】
一方、その下方に隣接して並設されたエアセル10は、前記エアセル10の長いブロック部11aと同じ形状のものを5個配列している。
次には、また最上部のエアセル10と同じものを配置し、その下方には2番目のものと同じエアセル10を配置するように繰り返し、臥床した人の足や踵の部分にあたるところは、数列に渡って長さが中程度のブロック部11aを6個配列している。なお、一点鎖線で記載した図は臥床する身体の模式図である。
【0024】
このように、エアマット20でブロック部11aの長さ(大きさ)を身体部位で変えることにより、エアセル10の内圧が同じでも身体への追従性に変化を付けることが可能である。例えば、踵部のように小さな荷重しか加わらない部分にはブロック部11aを上記例のように、小さくすることでエアマット10内圧が一定でも、意図的に保持力を制御することが可能となる。
【0025】
また、身体に接触するブロック部11aだけが沈み込むため、利用者が寝返りを行う際に坂を上がる間隔が抑えられる。さらに、寝返りを行う方向のブロック部11aは身体の回転を阻害せず、反対側のブロック11aは形状が復帰して身体を押し上げる作用があるため、寝返り動作が容易となる。
【0026】
また、図2に示すように、このエアマット20は、各エアセル10の上層部のブロック部11aと隣接する左右のブロック部11aの境21が、隣接するエアセル10間で互い違いになるようにエアセル10が並設されているので、隣接するブロック部11aの境(隙間)が直線状にならず、寝心地を快適にすることができる。
【0027】
なお、上記実施の形態で、エアマット20のブロック部11aの数を記載したが、単なる例であって、数は如何様にも変更することができ、また形状もこれに限ったものではない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係るエアセルは、常時伏せっていることが多い、患者や老人等用のエアマットに利用することができとともに、健常者用のエアマットにも用いることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
10 エアセル
11 上層部(ブロック群)
12a 中層部(円筒部)
12b 下層部(円筒部)
14 仕切膜
15 仕切膜
16 給気口
17 留め金
20 エアマット
21 境

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本並設することによりエアマットを構成する多層構造のエアセルであって、下層部は円筒形状に形成された円筒部からなり、上層部はブロック形状に形成された複数のブロック部からなるブロック群として形成され前記下層部の上面長手方向に一列に配置され、かつ前記下層部の円筒部と前記上層部の各ブロック部との間にはエアが流動するための通気孔が形成されていることを特徴とするエアセル。
【請求項2】
前記ブロック部は、複数の異なる長さのものを有し、エアセルによって異なる配列を有することを特徴とする請求項1記載のエアセル。
【請求項3】
請求項1、2記載のエアセルを複数本並設したエアマットであって、各エアセルの上層部のブロック部と隣接する左右のブロック部の境が、隣接するエアセル間で互い違いになるようにエアセルを並設したことを特徴とするエアマット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−40191(P2012−40191A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184128(P2010−184128)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000105213)株式会社ケープ (14)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】