説明

エナメル革製品の製造方法

【課題】エナメル革製品の表面に不規則・不定形の色柄を形成し得て、デザイン上のバリエーションを確保し、汎用性を向上することができるエナメル革製品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、染色していない銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップと、エナメル加工された銀面付皮革様シートを所定の製品用パーツ形状に合わせて切断する切断ステップと、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品を形成する組み付けステップと、組み付けた一次製品の裏面側から銀面側に淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップと、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップと、一次乾燥後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップと、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞄や財布等の各種ケース、靴等の履物、その他エナメル革製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、艶のある銀面付皮革様シートは、高級感を有することから靴や鞄の各種革製品に用いられてきた。銀面付皮革様シートの製造方法としては、基材表面に表皮層を乾式法と称する方法を用いて得られる皮革様シートの風合いが柔軟であるうえ、工程が簡素であることから、一般的に用いられている。また、皮革様シートの中でも、高級感を表現するため表皮層に平滑感及び透明感を持たせて表面の艶や光沢を多くしたものはエナメル調と呼ばれ、高付加価値を有するものの一つとして評価されている。
【0003】
一般的には、図5に示すように、原反(銀面付皮革様シート)の状態で、所望の色合い(単色)にて染色加工を行い(ステップS1)、その表面側(銀面側)にウレタン等を吹き付けてエナメル加工を施し(ステップS2)、乾燥させた後に(ステップS3)、所望のパーツ形状等に切断し(ステップS4)、縫製等による組み付け(ステップS5)を行ってエナメル部分の製品本体を作成し、最終的な二次加工等を行って製品とする(ステップS6)。
【0004】
また、このような銀面にエナメル塗料を塗布したエナメル革製品の製造方法は、その色合いが単色であるため、例えば、靴の内側側面にシールを貼着して保護兼用の色柄としている(特許文献1参照)。
【0005】
なお、上述した組み付けには、接着や切断したパーツのプレス等による曲げ・屈曲加工等を含む。また、二次加工としては、例えば、靴の場合ではゴム底の接着、鞄等であればショルダー金具やエンブレム等の組み付け等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−036561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したエナメル革製品の製造方法にあっては、原反(シート)の状態でエナメル加工を施したうえで、所定の製品用に切断加工、縫製加工を施しているが、上述したように色合いが単色で、柄等を施すことが困難であり、デザイン上のバリエーションに乏しいという問題が生じていた。
【0008】
そこで、本発明は、不規則・不定形の色柄を形成し得て、デザイン上のバリエーションを確保し、汎用性を向上することができるエナメル革製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のエナメル革製品の製造方法は、染色していない銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップと、エナメル加工された銀面付皮革様シートを所定の製品用パーツ形状に合わせて切断する切断ステップと、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品を形成する組み付けステップと、組み付けた一次製品の裏面側から銀面側に淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップと、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップと、一次乾燥後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップと、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップと、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のエナメル革製品の製造方法は、染色していない銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップと、エナメル加工された銀面付皮革様シートを所定の製品用パーツ形状に合わせて切断する切断ステップと、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品を形成する組み付けステップと、組み付けた一次製品の銀面側から淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップと、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップと、一次乾燥後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップと、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップと、を備えることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明のエナメル革製品の製造方法は、染色していない銀面付皮革様シートの銀面に淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップと、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップと、一次乾燥後の銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップと、エナメル加工された銀面付皮革様シートを所定の製品用パーツ形状に合わせて切断する切断ステップと、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品を形成する組み付けステップと、組み付け後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップと、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップと、を備えることを特徴とする。
【0012】
このような方法によれば、段階的に染色を銀面側に表出させることにより、不規則・不定形な濃淡の異なる部位を容易に形成することができ、見掛け上で模様状で濃淡を有する斑を浮かせることができ、デザイン上のバリエーションを確保し、汎用性を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエナメル革製品の製造方法は、不規則・不定形の色柄を形成し得て、デザイン上のバリエーションを確保し、汎用性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のエナメル革製品の製造方法を用いたエナメル革製品としてのエナメル革靴を示し、(A)は下地染色後の革本体部分の側面図、(B)は本染め加工後の革本体部分の側面図、(C)は最終エナメル皮製尾品としての靴の側面図である。
【図2】本発明のエナメル革製品の製造方法を示す作業工程のフロー図である。
【図3】本発明のエナメル革製品の第2の製造方法を示す作業工程のフロー図である。
【図4】本発明のエナメル革製品の第3の製造方法を示す作業工程のフロー図である。
【図5】従来のエナメル革製品の製造方法を示す作業工程のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の一実施形態に係るエナメル革製品の製造方法について、図面を参照して説明する。尚、以下に示す実施形態は本発明のエナメル革製品の製造方法における好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。また、以下に示す実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下に示す実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0016】
図1は本発明のエナメル革製品の製造方法を用いたエナメル革製品としてのエナメル革靴を示し、図1(A)は下地染色後の革本体部分の側面図、図1(B)は本染め加工後の革本体部分の側面図、図1(C)は最終エナメル皮製尾品としての靴の側面図である。なお、以下の説明においては、エナメル革製品としての紳士靴の場合で説明するが、例えば、婦人用のパンプス、ハイヒール、ブーツ等の履物のほか、鞄や財布或いは小物入れ等のケース、ベルト等のその他各種革製品全般に適用することができる。ここで、一次製品とは、最終のエナメル革製品によって状態が異なり、例えば、靴であればゴム等の靴底を取り付ける前の靴甲皮の状態、鞄であればエナメル加工を施さない取っ手(ショルダー紐等を含む)を取り外した状態、等を示す。これに対し、例えば、財布や小物入れ等のようにファスナやエンブレム、或いは各種金具等を取り付けて完成製品とするような場合には完成製品状態でも良い。
【0017】
図1において、1は靴の先端部、2は甲部、3は踵部であり、これらを立体状に縫製して靴甲皮4としている。先端部1、甲部2、踵部3は、予め染色加工を施さないままの銀面付皮革様シートの銀面に染色加工を施さずに直接エナメル加工を施した後に、それぞれの形状に切断加工を施し、ミシン等により縫製加工を施したものである。
【0018】
この縫製状態、即ち、エナメル革部分である靴甲皮4は、所望の色の淡色染色液に全体を浸して下地染色を行う。ここでの下地染色は、皮裏面側から染色液を浸透させて銀面側に染色液を表出させる。また、この際の表出色は、染色液の色又は浸透時間を調節することにより、図1(A)に示すように、最終製品時の色合いよりも薄い色合いで表出させる。
【0019】
ここで、下地染色に用いる染色液には、皮革用シンナーに含金酸性染料を混合したものを用い、皮革用シンナーに対して含金酸性染料を3〜4重量%前後の割合で混入することで淡色染色液とする。なお、皮革用シンナーに対する含金酸性染料の混入割合(配合)は、色によって異なり、例えば、黒系や紺系等であれば3重量%前後、赤系(エンジ系)であれば4重量%前後、等となる。
【0020】
そして、下地染色後の靴甲皮4は、一旦乾燥工程を経由して下地染色を安定させた後、上地染色を行う。
【0021】
上地染色は、靴甲皮4の銀面側から下地染色時と同系色の濃色染色液を染み込ませた皮染色加工用の公知のスポンジを用い、手塗りにより所望の部位を重ね塗りで塗り込みしつつ、図1(B)に示すように、色ムラが出るようにエナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる。
【0022】
ここで、上地染色に用いる染色液には、皮革用シンナーに含金酸性染料と溶剤顔料とを混合したもを用い、皮革用シンナーに対して、含金酸性染料を7重量%前後、顔料を3重量%前後の割合で混入することで濃色染色液とする。なお、皮革用シンナーに対する含金酸性染料の混入割合(配合)は、色によって異なり、例えば、黒系や紺系等であれば7重量%未満、赤系(エンジ系)であれば7重量%以上、等となる。
【0023】
上地染色後の靴甲皮4は、図1(C)に示すように、靴底5を組み付けることにより、最終製品であるエナメル紳士靴6とすることができる。なお、靴紐7は、下地染色を行う前から装着しておけば、エナメル紳士靴6の全体の色合いとで一体感を持たせることができる。
【0024】
このように、本発明のエナメル紳士靴6にあっては、図2に示すように、染色していない銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップ(ステップS11)、エナメル加工された銀面付皮革様シートを乾燥後に所定の製品用パーツ形状としての先端部1、甲部2、踵部3に合わせて切断する切断ステップ(ステップS12)、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品としての靴甲皮4を形成する組み付けステップ(ステップS13)、組み付けた一次製品の裏面側から銀面側に淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップ(ステップS14)、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップ(ステップS15)、一次乾燥後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップ(ステップS16)、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップ(ステップS17)、をこの順に行うことにより、不規則・不定形の色柄を形成し得て、デザイン上のバリエーションを確保し、汎用性を向上することができる。
【0025】
ところで、上記実施の形態では、組み付けた一次製品に淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップ(ステップS14)において裏面側から銀面側に淡色染色液を浸み込ませた場合で説明したが、例えば、図3に示すように、組み付けた一次製品の銀面側から淡色染色液を吹き付けによりエナメル層の下層に淡色染色液を浸み込ませても良い。
【0026】
この場合、裏面側から淡色染色液を浸み込ませた場合に比べて、所謂色落ちを良くk精することができる。
【0027】
また、上記実施の形態では、染色していない銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を先に形成したもので説明したが、例えば、図4に示すように、エナメル加工を施す前に、淡色染色液を表面側からスプレー塗布しても良い。
【0028】
この場合、エナメル加工後に下地染色を行う場合に比べて、所望の色合いで容易に染色することができるうえ、色落ちし難く、しかもエナメル層の特性を高く維持することができるという利点を有する。
【0029】
このように、本発明のエナメル革製品の製造方法にあっては、淡色染色液による下地染色と濃色染色液による上地染色とを別々に行うことにより、エナメル革製品の表面に不規則・不定形の色柄を形成し得て、デザイン上のバリエーションを確保し、汎用性を向上することができる。
【符号の説明】
【0030】
1…先端部
2…甲部
3…踵部
4…靴甲皮(一次製品)
5…靴底
6…靴(エナメル革製品)
7…靴紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色していない銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップと、エナメル加工された銀面付皮革様シートを所定の製品用パーツ形状に合わせて切断する切断ステップと、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品を形成する組み付けステップと、組み付けた一次製品の裏面側から銀面側に淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップと、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップと、一次乾燥後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップと、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップと、を備えることを特徴とするエナメル革製品の製造方法。
【請求項2】
染色していない銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップと、エナメル加工された銀面付皮革様シートを所定の製品用パーツ形状に合わせて切断する切断ステップと、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品を形成する組み付けステップと、組み付けた一次製品の銀面側から淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップと、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップと、一次乾燥後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップと、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップと、を備えることを特徴とするエナメル革製品の製造方法。
【請求項3】
染色していない銀面付皮革様シートの銀面に淡色染色液を浸み込ませる下地染色ステップと、下地染色後の一次製品の淡色染色液を乾燥させる一次乾燥ステップと、一次乾燥後の銀面付皮革様シートの表面にエナメル層を形成するエナメル加工ステップと、エナメル加工された銀面付皮革様シートを所定の製品用パーツ形状に合わせて切断する切断ステップと、切断された製品用パーツを組み付けて一次製品を形成する組み付けステップと、組み付け後の一次製品の前記エナメル層の下層に濃色染色液を浸み込ませる上地染色ステップと、上地染色後の一次製品を濃色染色液を乾燥させる二次乾燥ステップと、を備えることを特徴とするエナメル革製品の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−229515(P2012−229515A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−95366(P2012−95366)
【出願日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔刊行物名〕 SENSE 5月号 〔発行者〕 株式会社センス 〔発行日〕 2012年4月10日
【出願人】(508066371)株式会社ソスウインターナショナル (1)
【Fターム(参考)】