説明

エマルジョン混合機とエマルジョン燃料の製造方法

【課題】
長期間安定した乳化状態を維持する各種のエマルジョンを効率良く製造できるエマルジョン混合機を提供し、油類中の水分子が数十ミクロン以下になる乳白色のエマルジョン燃料を製造する。
【解決手段】
二重筒体の外側に配置する外筒部と、二重筒体の内側に配置するとともに下端を開放し、外筒部への連通路を設けた内筒部と、内筒部内に密に取り付けて撹拌と上昇流が生じるように回転させる螺旋翼と、内筒部下端より下方において外筒部内で回転自在に設置し、外周片が円周方向に所定の間隔をおいて上方、下方または交互に屈曲する混和翼とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間安定した乳化状態を維持する各種のエマルジョンを効率良く製造できるエマルジョン混合機に関し、油類中の水分子が数十ミクロン以下になる乳白色のエマルジョン燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重油や軽油などの石油類に水と少量の界面活性剤を添加混合して乳化させたエマルジョン燃料は、石油類の使用量を減少させるとともに、燃焼効率の向上、NOxや煤煙スラッグなどの放出を減少させるので、生活環境改善の有効な手段として、実用化への取り組みが盛んに行われている。従来では、水に潜熱をとられてかえって燃料消費量が増加するため、燃焼可能なエマルジョン燃料の水の混合割り合いは1〜10重量%程度が実用上の限界であった。
【0003】
石油類に水を分散させたエマルジョン燃料は、特開平3−97788号、特開平6−57268号、特開平7−233381号に開示するように、石油類に水を安定に分散させる手法として、界面活性剤とポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子とを併用している。石油類の中でも、大型船舶の内燃機関や工場等の大型ボイラーによく使用されるC重油は、水を取り込みやすい性質があるため比較的水を安定に分散させやすく、前記の方法でC重油をエマルジョン燃料にすることが可能である。
【0004】
前記の方法では、石油類の中でもA重油や軽油は一般的に水を分散させにくいことから、経時安定性に優れたエマルジョン燃料を得ることができない。A重油または軽油と水を乳化させた場合には、特開2009−249638号は、エマルジョン燃料について経時安定性、燃焼性および熱効率を良化させるために、石油類と水に対して、エチレン性不飽和単量体とエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤とを含む不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られる樹脂を添加し、反応性乳化剤は、不飽和単量体中に5〜80質量%含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−97788号公報
【特許文献2】特開平6−57268号公報
【特許文献3】特開平7−233381号公報
【特許文献4】特開2009−249638号公報
【特許文献5】特開平10−47652号公報
【特許文献6】特開2000-21137号公報
【特許文献7】特開2002-159832号公報
【特許文献8】特開2007−152214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エマルジョン燃料について、A重油や軽油を効率良く乳化させ、高い経時安定性を付与するためには、前記のような添加剤の改良だけでなく、混合攪拌装置の改良も必須である。エマルジョン燃料の製造装置を小型化して、経時安定性が高いエマルジョン燃料を得ることができれば、家庭用の暖房器具、温泉の加温ボイラー、農業ハウスの保温ボイラーなどの燃焼装置に適用できる。
【0007】
エマルジョン燃料の製造装置として、特開平10−47652号は、撹拌用プロペラを垂直に取り付けた独立した2台のタンクを連接し、第1のタンクで水および親水性の乳化剤と灯油および親油性の乳化剤とを高速攪拌して初期エマルジョンを得てから、第2のタンクで初期エマルジョンを水と低速攪拌して乳化物を取得する。この製造装置は、LPGガスボンベを併設したエマルジョン燃料燃焼装置と一体であり、汎用性を欠いている。
【0008】
特開2000−21137号や特開2002-159832号では、円筒状の大型攪拌機において油に乳化剤を加え攪拌混合し、ゲル状にした油に対して数倍の水を加えてさらに攪拌してエマルジョンを製造し、基部の攪拌部分および複数の上層の部分に噴流攪拌部を設けて、油、水および乳化剤を攪拌混合してエマルジョンを製造する。この攪拌機は、構造が大型で複雑になってしまう。また、特開2007−152214号は、回転螺旋翼を内装した長尺の筒状容器を傾斜設置し、該筒状容器で攪拌した乳化物の一部を該筒状容器内に返送して循環させながら乳化処理を継続する。この筒状容器は、回転する螺旋帯で混合攪拌することにより、液体の下降とともに水と油を乳化剤と混合を促進して乳化するけれども、螺旋翼の回転速度が容器の内容積によって自ずから制限されるため、長期間安定した乳化状態を維持できるエマルジョンを製造することはできない。
【0009】
本発明は、従来のエマルジョン製造に関する前記の問題点を改善するために提案されたものであり、1ヶ月以上も安定した乳化状態を維持する各種のエマルジョンを製造できるエマルジョン混合機を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、各種のエマルジョンを比較的短時間で効率良く製造できるエマルジョン混合機を提供することである。本発明の別の目的は、多量の水を含む乳白色のW/O型エマルジョン燃料を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るエマルジョン混合機は、二重筒体の外側に配置する外筒部と、二重筒体の内側に配置するとともに下端を開放し、外筒部への連通路を設けた内筒部と、内筒部内に密に取り付けて撹拌と上昇流が生じるように回転させる螺旋翼と、内筒部下端より下方において外筒部内で回転自在に設置し、外周片が円周方向に所定の間隔をおいて上方、下方または交互に屈曲する混和翼とを備える。この混合機では、二重筒体へ収容した液体を混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させながら混合を促進し、さらに外筒部と内筒部との間を下方へ送ることで筒体底の混和翼の位置へ戻すことにより、液体を連続的に循環させて十分な乳化を達成する。この混合機は、筒体底の混和翼において、外周片は円周方向に所定の間隔をおいて上方と下方に交互に屈曲し、且つ表面が平坦な内板部の外径は内筒部の外径よりも大きいと好ましく、且つ表面が平坦な内板部に複数の貫通孔を円周方向に等間隔に設けることにより、混和翼の下側に流入する液体が螺旋翼の方へ流動しやすくなる。
【0011】
本発明に係るエマルジョン混合機は、二重筒体の外側に配置する外筒部と、二重筒体の内側に配置し且つ下端を開放した内筒部と、外筒部と内筒部との間に垂直配置した少なくとも2枚の仕切り板と、内筒部内に密に取り付けて撹拌と上昇流が生じるように回転させる螺旋翼と、内筒部下端より下方において外筒部内で回転自在に設置する混和翼とを備えていてもよい。この混合機では、二重筒体へ収容した液体を混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させながら混合を促進し、さらに外筒部と内筒部との間を少なくとも二方に分けて下方へ送り、筒体底の混和翼の位置で合流させることにより、液体を連続的に循環させて十分な乳化を達成する。この混合機は、3枚の仕切り板を外筒部と内筒部との間に等間隔に垂直配置し、液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させながら混合を促進し、さらに外筒部と内筒部との間を少なくとも三方に分けて下方へ送って筒体底の混和翼の位置で合流させると好ましい。
【0012】
本発明のエマルジョン混合機は、螺旋翼において、翼板下側に外周縁と直角に複数枚の邪魔板を固着することにより、螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動する液体の攪拌を促進すると好ましい。また、螺旋翼において、翼板に複数個の貫通孔を設けることにより、螺旋翼の回転数に対する液体の上方移動速度を調整すると好ましい。
【0013】
本発明に係るエマルジョン燃料の製造方法は、油類と液状添加剤を二重筒体内へ収容し、回転数が700〜1000rpmである筒体底の混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させ、さらに外筒部と内筒部との間を下方へ送ることによって液体を数分間循環攪拌し、ついで水を加えてさらに筒体底の混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させ、さらに外筒部と内筒部との間を下方へ送ることによって液体を数分間連続的に循環させて乳化状態を安定化させる。この製造方法では、油類と液状添加剤を150〜240秒間攪拌してから、ついで水を加えてさらに90〜150秒間攪拌すると好ましく、且つA重油または軽油などの石油類と水の割合が容積比で8:2〜6:4であり、界面活性剤を含む液状添加剤は微量であると好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るエマルジョン混合機は、経時安定性が高い乳化状態のエマルジョンを製造でき、製造後約1ヶ月を経過してもエマルジョンの乳化状態が安定している。このため、エマルジョンをバッチ方式で製造して次の使用まで保管しておいても、使用に際して油水分離などの問題が発生しない。本発明のエマルジョン混合機は、油類と水からなるエマルジョン燃料を製造するほかにも、例えば、化粧品、食品、農業、医療などの分野における各種のエマルジョンの製造や、種々の液体の混合する際などに使用することができる。
【0015】
本発明に係るエマルジョン混合機は、廃油を燃料として再利用することも可能であり、安定した乳化状態のエマルジョンを効率良く製造できるうえに、比較的小型であるので運搬しやすくしかも安価である。このため、本発明のエマルジョン混合機は、工業的用途のほかに、家庭用の暖房器具や浴場ボイラーなどに付設でき、さらに単なるエマルジョンの製造装置または混合装置としての用途もある。
【0016】
本発明で製造したエマルジョン燃料は、多量の水を含む乳白色のW/O型エマルジョンであり、油類に対して30容積%前後の多量の水を含むエマルジョンであるので相当に経済的である。このエマルジョン燃料は、乳化状態が安定して長期間の保存が可能なうえに、燃焼効率が向上し、NOxや煤塵などの放出を減少できる。したがって、このエマルジョン燃料は、家庭用の暖房器具、ガスタービン、温泉や公衆浴場の加温ボイラー、農業用ハウスの石油ボイラーなどの各種の燃焼装置で使用して生活環境を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るエマルジョン混合機の概略断面図であり、該混合機を含むエマルジョン製造装置の全体を示している。
【図2】図1のA−A線に沿って切断した拡大断面図である。
【図3】図1のB−B線に沿って切断した拡大断面図である。
【図4】図1のC−C線に沿って切断した拡大断面図である。
【図5】本発明で用いる内筒部を示す断面図である。
【図6】モータ軸に固着した拡散翼、螺旋翼および混和翼を示す斜視図である。
【図7】外周片を折り曲げる前の混和翼の裏面を示す平面図である。
【図8】本発明で用いる混和翼の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るエマルジョン混合機は、それ単独でボイラー付近に取り付けても、図1に例示するように、矩形状に組んだフレーム2内において液状添加剤用の円筒容器7およびエマルジョン保留タンク8とともに設置してもよい。エマルジョン混合機5は、フレーム2の下端部にキャスタ3を取り付けると、所望の場所への移動が容易である。図示のエマルジョン混合機5の容量は、エマルジョン5リットル用であり、これを10リットル用またはそれ以上の容量に定めるならば、二重筒体の形状、内筒部24における貫通孔42,44の高さ位置などを適宜変更すればよい(図6参照)。
【0019】
エマルジョン混合機5は、二重筒体の外側に配置する外筒部22と、二重筒体の内側に配置する内筒部24と、内筒部内に密に取り付ける螺旋翼48と、内筒部下端より下方に配置する混和翼50とを備える。一般に、外筒部22は細長いタンク状であり、内筒部24は円筒形である。エマルジョン混合機5において、各部品は一般に金属製であるけれども、外筒部22や内筒部24の一部を透明プラスチック製にしてもよく、外筒部22の一部が透明であると液体の乳化状態が目視できるので便利である。
【0020】
内筒部24には、外筒部22への連通路として、縦一直線状に逆三角形状の貫通孔42,44を形成し、これらの貫通孔は円形、スリットまたは切り込みでもよく、両者を一連に形成してもよい。これらの貫通孔は、内筒部24内を上昇する液体の外方への流動がスムースになるように大きさや高さ位置を定める。一般に、上方の貫通孔42の方が、下方の貫通孔44よりも大きい(図6参照)。エマルジョン混合機5では、油類と添加剤の攪拌および水の追加の2段階で攪拌するので2列の貫通孔42,44を形成し、3段階以上で攪拌するために3列以上の貫通孔を設けることも可能である。モータ軸20に拡散翼72を取り付けると、内筒部24内を上昇する液体が速やかに貫通孔を通過することになるので好ましい。
【0021】
外筒部22と内筒部24との間には、垂直配置した2枚から5枚程度の仕切り板36を円周方向に等間隔に取り付け、下方流動する液を分離して流れをスムースにすると好ましい。図3と図4に示すように、各仕切り板36は、半径方向に設置しても、液の回転方向に沿って半径方向から若干傾斜させてもよい。
【0022】
螺旋翼48および混和翼50は、構造簡略化のために、二重筒体内においてモータ18の軸20にともに固着する。螺旋翼48の傾斜角度および混和翼50の翼形状は、攪拌すべき液体の粘度や添加量、モータ18の好適な回転速度に対応させる。油類を攪拌する場合、混和翼50の回転数は一般に700〜1000rpmであり、特に重油の攪拌では850rpmが好適である反面、螺旋翼48の回転数はそれ以下であると液流れに乱れが生じにくい。このため、螺旋翼48の傾斜角度を20度前後と比較的緩やかにするとともに、該螺旋翼には、液流れを穏やかにするために所望数の貫通孔54を形成してもよい。また、これらの貫通孔に代えて、スリットや切り込みなどを形成することも可能である。この螺旋翼は、混和翼50を別個のモータで回転させてもよく、この場合には両者の回転調整は比較的容易である。
【0023】
螺旋翼48には、外周縁に沿って所定の間隔で矩形状の小邪魔板52を翼下側に固着してもよい。小邪魔板52により、内筒部24内を上方へ移動する液体を螺旋翼48においていっそう良好に攪拌できる。小邪魔板52は、図示のように半径方向に取り付けても、軸方向に所定の角度を有していてもよい。小邪魔板52は、矩形や半円形平面であり、該邪魔板に代えて螺旋翼の表面に凹凸などを形成してもよい。
【0024】
筒体底の混和翼50は、内筒部24の下方において、該内筒部に近接させて外筒部22内で回転自在に設置し、内筒部24の下端へ流れ込む液体を効果的に攪拌する。混和翼50は、液体を攪拌混合しても、液体の流れを乱さないような形状であることが好ましく、このため全体がオール型、タービン型、プロペラ型の翼は好ましくない。混和翼50は、円形平面の内板部60の表面が平坦であり、該内板部に対して直角または直角に近い鋭角に屈曲させた外周片56を、円周方向に所定の間隔をおいて上方、下方または交互に形成させる。図7と図8では、円周方向に12分割された矩形状の外周片56が上方と下方に交互にほぼ直角に屈曲され、比較的単純な翼形状で液体の流れに対して直交状に回動するので液流動を乱すことが少ない。外周片56の数は、上または下方向だけで3枚以上であればよく、通常、上下交互に6枚以上であると好ましい。
【0025】
筒体底の混和翼50において、平坦な内板部60の外径は内筒部24の外径よりも大きいと好ましい。混和翼50の各外周片56は、回転の際に仕切り板36の下方内側縁と近接する。混和翼50の内板部60には、比較的大径の貫通孔64を円周方向で等間隔に2個以上形成し、円形の貫通孔に代えてスリットや切り込みを形成してもよい。混和翼50において、内板部60に複数の貫通孔64を設け、該内板部の下方に小翼板70を半径方向に取り付けることにより、攪拌時に混和翼50の下側における液体の滞留を防ぎ、その下側に流入する液体が螺旋翼48の方へ流れやすくして、均一な混合を促進する。
【0026】
エマルジョン混合機5を用いてエマルジョン燃料を製造するには、油類、水および液状添加剤を全量同時に加えて攪拌してもよいが、まず、油類と液状添加剤を二重筒体内へ収容して攪拌し、ついで水を加えてさらに攪拌すると好ましい。用いる油類は、軽油、灯油、A重油、C重油、動植物廃油、ミシン油、天ぷら油などであり、これを二重筒体内へ注入し、同時に液状添加剤を二重筒体内へ注入する。油類と液状添加剤を150〜240秒間攪拌してから、ついで水を加えてさらに90〜150秒間攪拌する。これらの攪拌時間が不足すると、安定した乳化状態のエマルジョン燃料が得られず、攪拌時間が長くても状態変化がないので不経済である。
【0027】
油類がA重油または軽油であると、これらと水の割合が一般に水が少なく、容積比で8:2〜6:4であると好ましく、界面活性剤を含む液状添加剤は全量の1/200以下の微量である。水の割合が20%未満であると、燃焼効率の向上が小さく、NOxや煤塵などの放出を減少させる効果が小さい。また、水の割合が40%を超えると、燃焼効率が著しく低下して燃費が悪くなり、乳化状態の安定性も低下する。
【0028】
この液状添加剤は、例えば、親油性および親水性の界面活性剤と少量のグリコール類とからなる。親油性の界面活性剤として、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノオイレン酸ソルビタンなどが例示でき、親水性の界面活性剤として、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレアートなどが例示できる。少量のグリコール類は、エチレングリコールまたはポリエチレングリコールであり、これは油類と水とを結びつける。
【0029】
この液状添加剤は、油類がA重油や軽油であれば、エチレン性不飽和単量体およびエチレン性不飽和基を有する反応性乳化剤を含む不飽和単量体組成物をラジカル重合して得られる樹脂でもよい。エチレン性不飽和基として、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどが例示できる。また、反応性乳化剤は、市販品であればよく、例えば、エーテルサルフェート型やリン酸エステル型のアニオン系反応性乳化剤、ノニオン系反応性乳化剤などがあり、ノニオン系反応性乳化剤が好ましい。ラジカル重合反応時の温度は60℃〜130℃である。ラジカル重合で得た樹脂の重量平均分子量は10000〜100000であると好ましい。樹脂の重量平均分子量を調整する際に、n−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、β−メルカプトプロピオン酸などの連鎖移動剤を添加してもよい。
【0030】
エマルジョン混合機5は、重油類と液状添加剤を攪拌する際には、モータ18の回転数を700〜1000rpmに定め、特に850rpm前後にすると好ましい。重油類と液状添加剤の液面Fは、内筒部24における下方の貫通孔44まで達する。モータ18を回転すると、この液体を筒体底の混和翼50で攪拌するとともに、螺旋翼48の回転によって内筒部24内を強制的に上方へ移動させ、この移動時にも螺旋翼48および複数の小邪魔板52で液体をさらに攪拌する。上昇した液体は、3組の貫通孔44を通過して外筒部22内へ入り、複数の仕切り板36で複数に分かれて外筒部22と内筒部24との間を下方へ移動する。
【0031】
下方移動した液体が筒体底の混和翼50に達すると、該混和翼の直角外周片56でさらに攪拌され、内板部60の上側を通って螺旋翼48まで戻ったり、内板部60の下側から貫通孔64を通過して螺旋翼48に帰還する。重油類と液状添加剤の混合処理を所定時間継続した後に、水を二重筒体内へ追加して液量を増やすと、液体の液面Eは、内筒部24における上方の貫通孔42のほぼ中間位置まで達する。さらに液体の攪拌を継続すると、内筒部24内を上昇した液体は、その一部が上方の貫通孔42を通過し且つ他の一部が下方の貫通孔44を通過して外筒部22内へ入り、3枚の仕切り板36で三方に分かれて外筒部22と内筒部24との間を下方へ移動する。この循環をさらに所定時間継続して混合を促進すると、乳白色のエマルジョン燃料を製造することができる。
【0032】
エマルジョン混合機5で製造したエマルジョン燃料は、エマルジョン製造装置1における保留タンク8に溜め、所定の石油ボイラーや燃焼炉へ適宜に送り込む。エマルジョン製造装置1は、家庭用の暖房器具、ガスタービン、温泉や公衆浴場の加温ボイラー、農業用ハウスの石油ボイラーなどの燃焼装置に付設することができる。エマルジョン製造装置1は、エマルジョン燃料を製造するほかに、例えば、化粧品、食品、農業、医療などの分野で使用されるエマルジョンの製造または各種液体の混合に適用してもよい。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。エマルジョン製造装置1は、図1に示すように、縦長の矩形状に組んだフレーム2と、該フレームの下端部に取り付けた複数個のキャスタ3を有し、該キャスタによって移動可能である。製造装置1のフレーム2内には、その縦方向中央にエマルジョン混合機5および該装置より上方に液状添加剤用の円筒容器7をそれぞれ垂直に設置し、さらにフレーム下方に角形のエマルジョン保留タンク8を取り付ける。円筒容器7は、トロコイドポンプ10およびチェックバルブ12(図2)を経て管14によって混合機5と接続する。一方、保留タンク8は、マルチレックスバルブ15を経て管16によって混合機5と接続し、該装置から乳化状態の安定したエマルジョンを受け入れる。
【0034】
エマルジョン混合機5は、上端に配置して下向きに固着したインダクションモータ18を有し、該モータの回転軸20は二重筒体の外筒部22および内筒部24と同軸状に配列する。例えば、外筒部22は内径170mm、内筒部24は内径70mmである。外筒部22は、水導入管25(図2)、石油類導入管26(図2)、添加剤供給管14および斜め配置した液注入用キャップ28をそれぞれ接続した金属製の上方椀部30と、ポリ塩化ビニルなどの透明プラスチック製の中間筒部32と、下端にエマルジョン送出管16を接続した金属製の下方椀部34とで構成する。一方、内筒部24は外筒部22よりも寸法が短く、該内筒部の上端面は外筒部22の上方椀部30内に入って該上方椀部の内壁と近接する。内筒部24の下端面は、外筒部22の下方椀部34の内壁と離隔させ、その間に混和翼50を配置する。
【0035】
外筒部22と内筒部24との間には、半径方向に垂直配置した3枚の仕切り板36を円周方向に等間隔に取り付ける。図3と図4に示すように、各仕切り板36は、その内側縁と外側縁が外筒部22と内筒部24の内周壁と密接する。各仕切り板36の上端部は、上方椀部30と中間筒部32との間で水平に設置した切欠きプレート(図示しない)に対して、L字金具(図示しない)を介して垂直にボルト止めし、該仕切り板の下方部を外筒部22に形成した内方突起(図示しない)の溝に差し込んで垂直に固定する。各仕切り板36の下方部は、切り欠き37(図1)によって細幅になり、その内側面が混和翼50と接触することはない。
【0036】
内筒部24には、外筒部22への連通路として、図6から明らかなように、上方および下方(縦方向中間)に逆三角形状の貫通孔42,44と、下周端に三角形状の切欠き46とを縦一直線状に配列する。貫通孔42,44および切欠き46は、円周方向で等間隔にそれぞれ3組形成し、外筒部22と内筒部24との間において、3枚の仕切り板36で構成される三方の流通路にそれぞれ対応させる。上方の貫通孔42の組は、例えば、石油類と水を合わせて5リットル注入した際に、その液面が該貫通孔のほぼ中間に達するように位置する(図1の液面E参照)。また、下方の貫通孔44の組は、石油類と添加剤を合わせて3.5リットル注入した際に、その液面が該貫通孔のほぼ中間に達するように位置する(図1の液面F参照)。切欠き46は、循環する液体が内筒部24内へ流れ込みやすくするために設ける。
【0037】
図6に示す内筒部24は、上端枠体38および1対の板材39を介して外筒部22の上方椀部30の内壁に垂直に取り付ける。内筒部24は、外方からの3本の保持アーム40(図3)によって垂直状態を維持している。
【0038】
螺旋翼48および混和翼50は、二重筒体内においてともにモータ軸20に固着する(図5参照)。螺旋翼48は、内筒部24内に収納し、上方の貫通孔42の下方位置から下端の切欠き46の高さ位置に達する長さを有する。例えば、螺旋翼48の傾斜角度は約20度に設定する。図5に示すように、螺旋翼48には、外周縁に沿って90度の間隔で矩形状の小邪魔板52を翼下側に固着する。複数の小邪魔板52により、内筒部24内を上方へ移動する液体を螺旋翼48でいっそう良く攪拌する。また、螺旋翼48には、円周方向に沿って45度の間隔で直径7mmの円形貫通孔54を形成する。複数の貫通孔54により、螺旋翼48が矢印G(図3)に回転した際に、液体の上方移動速度を調整でき、混和翼50の好適な回転数で液のスムースな上方流れを達成させる。
【0039】
筒体底の混和翼50は、図7と図8に示すように、板体を外周方向に12等分して切り込んだ半径方向線55で形成された12個の外周片56,57を有し、全体で十二角形の折線58(図7)で上方に屈曲した外周片56と下方に屈曲した外周片57とを交互に配列する。混和翼50は、外周片56,57を一体の内板部60の中心に取付筒部62を垂直に溶接し、該筒部をモータ軸20の下端部に嵌装して固着することにより、内筒部24の下方において外筒部22内に配置する。上方屈曲の外周片56は、回転の際に仕切り板36の下方内側縁と近接する。内板部60は、その表面が平坦であって、該内板部の外周つまり折線58の径は内筒部24の外径よりも大きい。内板部60には、直径15mmである比較的大径の貫通孔64を円周方向で等間隔に6個形成する。
【0040】
混和翼50において、内板部60の裏側に筒体66を同心状に固着し、該筒体の内径は取付筒部62の外径よりも大きい。筒体66には適宜の位置に複数の貫通孔68を設け,さらに該筒体の外周に小翼板70を半径方向に取り付け、該小翼板は円周方向に等間隔に3個配列する。混和翼50において、循環する液体が内板部60の表側に来ると表面が平坦であるので直ちに通過して内筒部24へ流れ込み、一方、該内板部の裏側に来ると、小翼板70で上昇力が生じて貫通孔64を通過しやすくなり、内筒部24へ容易に流れ込むことで、攪拌時に混和翼50の下側における液体の滞留を防いでいる。
【0041】
モータ軸20には、図5のように螺旋翼48の上方に拡散翼72も固着し、該拡散翼では軸方向に傾斜した翼板74を円周方向に等間隔に4個配列する(図3参照)。拡散翼72は、内筒部24の貫通孔42の高さに位置し、翼板74の外側縁は内筒部24の内周に近接する。内筒部24内を上昇した液体は、拡散翼72によって速やかに貫通孔42を通過して外筒部22の方へ移動する。
【0042】
エマルジョン製造装置1において、円筒容器7には、内部の添加剤が冬期に凍結するのを防ぐためにヒータ(図示しない)を周壁に敷設すると好ましい。エマルジョン保留タンク8は、公知のレベル計を取り付けるとともに、収納したエマルジョンの分離を防ぐための攪拌機76を設置しておく。また、エマルジョン混合機5は、透明プラスチック製のレベル計78を備えている。
【0043】
エマルジョン混合機5を用いてエマルジョン燃料を製造するには、導入管26(図2)から3.5リットルのA重油をエマルジョン混合機5の二重筒体内へ注入するとともに、円筒容器7からポンプ10を経て20ccの液状添加剤を二重筒体内へ注入し、モータ18の回転数を850rpmに定める。注入液の液面F(図1)は、内筒部24における下方の貫通孔44のほぼ中間位置まで達する。モータ18を回転方向G(図3)へ回転すると、この液体を筒体底の混和翼50で攪拌するとともに、螺旋翼48の回転によって内筒部24内を強制的に上方へ移動させ、この移動時にも螺旋翼48および複数の小邪魔板52で液体をさらに攪拌する。上昇した液体は、3組の貫通孔44を通過して外筒部22内へ入り、3枚の仕切り板36で三方に分かれて外筒部22と内筒部24との間を下方へ移動する。
【0044】
下方移動した液体が筒体底の混和翼50に達すると、該混和翼の直角外周片56でさらに攪拌され、内板部60の上側を通って内筒部24内の螺旋翼48まで直接戻ったり、内板部60の下側では小翼板70で回転力が生じて貫通孔64を通過して螺旋翼48に帰還する。液体は、前記のようにエマルジョン混合機5内を循環し、この循環を3分間続けて混合をさらに促進する。この混合処理において、混和翼50の回転数は700〜1000rpmが好適であり、螺旋翼48が同回転数であると機内の流動が乱れがちになるので、該螺旋翼に複数の貫通孔54を設けることによって液の乱れを抑制する。
【0045】
重油と液状添加剤の混合処理を3分間継続した後に、導入管25(図2)から1.5リットルの水を二重筒体内へ追加して全量を5リットルとすると、液体の液面E(図1)は、内筒部24における上方の貫通孔42のほぼ中間位置まで達する。さらに液体の攪拌を継続すると、内筒部24内を上昇した液体は、拡散翼72によってその多くが上方の貫通孔42を通過し、且つ他の一部が下方の貫通孔44を通過して外筒部22内へ入り、3枚の仕切り板36で三方に分かれて外筒部22と内筒部24との間を下方へ移動する。この循環をさらに2分間継続して混合を促進すると、重油中の水分子が数十ミクロン以下の細かさになる乳白色のエマルジョン燃料を製造することができる。
【0046】
エマルジョン混合機5で製造したエマルジョン燃料は、エマルジョン製造装置1における保留タンク8に溜め、所定の石油ボイラー(図示しない)へ適宜に送り込む。エマルジョン製造装置1は、エマルジョン燃料を製造するほかに、例えば、化粧品、食品、農業、医療などの分野で使用されるエマルジョンの製造または各種液体の混合に適用してもよい。また、このエマルジョン燃料では、使用可能な油類として、石油系燃料の軽油、灯油、A重油、C重油、さらに動植物廃油、ミシン油、天ぷら油などが例示できる。
【符号の説明】
【0047】
1 エマルジョン製造装置
5 エマルジョン混合機
8 エマルジョン保留タンク
7 液状添加剤の円筒容器
18 インダクションモータ
20 モータ軸
22 外筒部
24 内筒部
36 仕切り板
42,44 貫通孔
46 切欠き
48 螺旋翼
50 混和翼
52 小邪魔板
54 貫通孔
56,57 外周片
60 内板部
64 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重筒体の外側に配置する外筒部と、二重筒体の内側に配置するとともに下端を開放し、外筒部への連通路を設けた内筒部と、内筒部内に密に取り付けて撹拌と上昇流が生じるように回転させる螺旋翼と、内筒部下端より下方において外筒部内で回転自在に設置し、外周片が円周方向に所定の間隔をおいて上方、下方または交互に屈曲する混和翼とを備え、二重筒体へ収容した液体を混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させながら混合を促進し、さらに外筒部と内筒部との間を下方へ送ることで筒体底の混和翼の位置へ戻すことにより、液体を連続的に循環させて十分な乳化を達成するエマルジョン混合機。
【請求項2】
筒体底の混和翼において、外周片は円周方向に所定の間隔をおいて上方と下方に交互に屈曲し、且つ表面が平坦な内板部の外径が内筒部の外径よりも大きい請求項1記載のエマルジョン混合機。
【請求項3】
筒体底の混和翼において、表面が平坦な内板部に複数の貫通孔を円周方向に等間隔に設けることにより、混和翼の下側に流入する液体が螺旋翼の方へ流動しやすくなる請求項1記載のエマルジョン混合機。
【請求項4】
二重筒体の外側に配置する外筒部と、二重筒体の内側に配置し且つ下端を開放した内筒部と、外筒部と内筒部との間に垂直配置した少なくとも2枚の仕切り板と、内筒部内に密に取り付けて撹拌と上昇流が生じるように回転させる螺旋翼と、内筒部下端より下方において外筒部内で回転自在に設置する混和翼とを備え、二重筒体へ収容した液体を混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させながら混合を促進し、さらに外筒部と内筒部との間を少なくとも二方に分けて下方へ送り、筒体底の混和翼の位置で合流させることにより、液体を連続的に循環させて十分な乳化を達成するエマルジョン混合機。
【請求項5】
3枚の仕切り板を外筒部と内筒部との間に等間隔に垂直配置し、液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させながら混合を促進し、さらに外筒部と内筒部との間を少なくとも三方に分けて下方へ送って筒体底の混和翼の位置で合流させる請求項4記載のエマルジョン混合機。
【請求項6】
螺旋翼において、翼板下側に外周縁と直角に複数枚の邪魔板を固着することにより、螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動する液体の攪拌を促進する請求項1または4記載のエマルジョン混合機。
【請求項7】
螺旋翼において、翼板に複数個の貫通孔を設けることにより、螺旋翼の回転数に対する液体の上方移動速度を調整する請求項1または2記載のエマルジョン混合機。
【請求項8】
油類と液状添加剤を二重筒体内へ収容し、回転数が700〜1000rpmである筒体底の混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させ、さらに外筒部と内筒部との間を下方へ送ることによって液体を数分間循環攪拌し、ついで水を加えてさらに筒体底の混和翼で撹拌するとともに、この液体を螺旋翼によって内筒部内を上方へ移動させ、さらに外筒部と内筒部との間を下方へ送ることによって液体を数分間連続的に循環させて乳化状態を安定化させるエマルジョン燃料の製造方法。
【請求項9】
油類と液状添加剤を150〜240秒間攪拌してから、ついで水を加えてさらに90〜150秒間攪拌する請求項8記載のエマルジョン燃料の製造方法。
【請求項10】
A重油または軽油などの石油類と水の割合が容積比で8:2〜6:4であり、界面活性剤を含む液状添加剤は微量である請求項8記載のエマルジョン燃料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−40519(P2012−40519A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184644(P2010−184644)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(510226510)
【Fターム(参考)】