説明

エラストマー組成物および該エラストマー組成物を用いたタイヤ

【課題】複雑な製造工程を用いることなく、低環境負荷および低コストで製造が可能であり、且つ、代替材料を配合しないエラストマー組成物と同等の性能を有するエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】エラストマー成分に対して有機物の発酵処理において生じる残滓を配合したエラストマー組成物であって、残滓の最大粒径が600μm以下であるエラストマー組成物、或いは、残滓が、粒径90μm以上の残滓を80質量%以下の割合で含んでいるエラストマー組成物である。また、少なくとも一部に該エラストマー組成物を用いたタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー成分の使用量を低減したエラストマー組成物および該エラストマー組成物を使用したタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ等に使用するゴム組成物などのエラストマー組成物は多量のエラストマー成分(ゴム等)を原料として含んでおり、例えばゴム組成物を使用した乗用車用空気入りタイヤの場合、ゴム組成物の50質量%以上が天然ゴムと合成ゴムとを配合したゴム成分からなる。従って、これらのゴム組成物および当該ゴム組成物を使用したタイヤは、原油価格の高騰や天候不良によるゴムの不作等の影響を受け、原料コストが上昇したり、安定した製品の供給が困難となったりする恐れがある。
【0003】
また、近年では世界的に環境問題が重視される傾向にあり、特に地球温暖化防止の観点からCOの排出量の規制が強化され、石油資源の使用量の低減が求められていると共に、資源循環型社会の形成が求められている。
【0004】
そこで、タイヤ製造時の石油資源の使用量を低減するため、例えば特許文献1には、全重量の75重量%以上を石油外資源からなる原材料で構成した、いわゆるエコタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−63206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来技術にかかるゴム組成物およびタイヤでは、石油資源の使用量は低減できるものの、製造工程が複雑になったり、石油資源の代替原料の単価が高かったりするため、必ずしも製造コストを低減できなかった。
【0007】
また、代替原料について、使用に際して必要な加工エネルギー(例えば、代替原料の破砕に必要なエネルギー)や、代替原料自体の燃料・資源等としての利用可能性が高いという観点等から改良および選択の余地があった。
【0008】
そのため、使用に際して必要な加工エネルギーが少なく、且つ、燃料・資源等としての利用可能性が低い代替材料であって、ゴム等の代わりに配合してもエラストマー組成物の物性を大幅に低下させることが無いものを配合した、低コストで製造できるエラストマー組成物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のエラストマー組成物は、エラストマー成分に対して有機物の発酵処理において生じる残滓を配合したエラストマー組成物であって、前記残滓の最大粒径が600μm以下、好ましくは300μm以下、更に好ましくは150μm以下であることを特徴とする。このように、有機物の発酵処理において生じる残滓等の、資源を利用した後に残る残滓を配合すれば、エラストマー組成物中のエラストマー成分の使用量を低減することができる。また、有機物の発酵処理において生じる残滓は安価な残物であるから、代替原料として適している。よって、該残滓をエラストマー組成物に配合することで、安価且つ環境負荷の低いエラストマー組成物を提供することが出来る。更に、発酵処理後の残滓は、発酵処理の過程で腐敗要因、例えば蛋白質や脂質の大部分が分解されるので扱い易いという利点も有している。その上、配合する残滓の最大粒径が600μm以下であれば、エラストマー組成物中で残滓が均一に分散し易いので、エラストマー組成物の物性(例えば、亀裂成長性など)が代替材料を配合しないエラストマー組成物と比較して大幅に悪化することが無い。なお、エラストマー成分中で均一に分散してエラストマー組成物の物性を低下させないという観点からは、エラストマー成分に配合する残滓の最大粒径は小さい方が好ましい。ここで、最大粒径とは、配合した残滓の中で最も粒径が大きい残滓の粒径を指す。また、有機物の発酵とは、微生物の働きで有機物を分解することを意味し、嫌気的発酵および好気的発酵の双方を含み、糖質等が分解されることも含む概念である。
【0010】
また、本発明のエラストマー組成物は、エラストマー成分に対して有機物の発酵処理において生じる残滓を配合したエラストマー組成物であって、前記残滓が、粒径90μm以上の残滓を80質量%以下、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、特に好ましくは10質量%以下の割合で含んでいる。このように、有機物の発酵処理において生じる残滓等の、資源を利用した後に残る残滓を配合すれば、エラストマー組成物中のエラストマー成分の使用量を低減することができる。また、有機物の発酵処理において生じる残滓は安価な残物であるから、代替原料として適している。よって、該残滓をエラストマー組成物に配合することで、安価且つ環境負荷の低いエラストマー組成物を提供することができる。更に、発酵処理後の残滓は、発酵処理の過程で腐敗要因、例えば蛋白質や脂質の大部分が分解されるので扱い易いという利点も有している。その上、配合する残滓中に含まれている粒径が90μm以上の残滓の割合が80質量%以下であれば、組成物中で残滓が均一に分散し易いので、エラストマー組成物の物性(例えば、亀裂成長性など)が代替材料を配合しないエラストマー組成物と比較して大幅に悪化することが無い。なお、エラストマー成分中で均一に分散してエラストマー組成物の物性を低下させないという観点からは、エラストマー成分に配合する残滓中における粒径90μm以上の残滓の割合は低い方が好ましい。
【0011】
ここで、本発明のエラストマー組成物は、前記有機物がバイオマスであることが好ましい。再生可能な生物由来の有機性資源であるバイオマスを用いれば、エラストマー組成物製造時の環境負荷をより低減することができるからである。
【0012】
本発明のエラストマー組成物は、前記発酵処理が発酵菌を用いた有機物の発酵処理であり、前記残滓が前記発酵菌の細胞壁を含有することが好ましい。発酵菌を用いた有機物の発酵処理の際に生じる余剰汚泥等の残滓は多量に存在する利用可能性の低い廃棄物であるので安価であり、また、配合に際して複雑な工程や大きな加工エネルギーを必要としないからである。
【0013】
本発明のエラストマー組成物は、前記残滓の主成分がペプチドグリカンであることが好ましい。ペプチドグリカンは、エラストマー成分に配合した際にエラストマー組成物に与える影響が少ない物質だからである。ここで、残滓の主成分とは残滓を構成する成分の主なものをいい、例えば残滓の50質量%以上を構成する成分をいう。
【0014】
本発明のエラストマー組成物は、前記残滓を燻煙処理または炭化処理した後に前記エラストマー成分に配合することが好ましい。ここで、燻煙処理とは木材を熱した時に出る煙で残滓を燻すことを言う。燻煙処理を行うことにより、脱硫(消臭)および殺菌した取り扱いが容易な状態で残滓をエラストマー成分に配合することができる。また、炭化処理とは炭焼炉を用いて800℃程度の温度で残滓を炭化することを言う。
【0015】
また、本発明のエラストマー組成物は、前記有機物が植物の細胞壁および該植物の細胞壁が連なった短繊維の少なくとも一方を含有する有機物であり、前記残滓が前記植物の細胞壁および短繊維の少なくとも一方を含有することが好ましい。なお、本明細書では、アスペクト比が1〜5のものを粒子、6〜50のものを短繊維と呼んでいる。
【0016】
本発明のエラストマー組成物は、前記残滓が、前記植物の細胞壁の主成分であるセルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方からなることが好ましい。セルロース粒子およびヘミセルロース粒子は、分散性が良くエラストマー組成物の性能に悪影響を与えないという点で代替材料に適しているからである。また、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方を単体でエラストマー組成物に配合すれば、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子がミクロな排水溝として働くからである。従って、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方を配合したエラストマー組成物を例えばスタッドレスタイヤに使用すれば、スタッドレスタイヤの性能(氷上性能等)を向上することができる。
【0017】
ここで、前記セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の粒径は、0.02μm〜600μmであることが好ましい。粒径が0.02μm未満の場合は取り扱い難く、粒径が600μmより大きい場合はエラストマー成分中での分散性が悪いからである。また、前記セルロース粒子およびヘミセルロース粒子が凝集して塊状となっている場合、取り扱い性および分散性の観点から、該塊の直径は0.5μm〜2mmであることが好ましい。
【0018】
本発明のエラストマー組成物は、前記残滓が前記短繊維からなり、該短繊維は、セルロース短繊維およびヘミセルロース短繊維の少なくとも一方からなることが好ましい。セルロースまたはヘミセルロースの短繊維は、エラストマー組成物の繊維補強材としても機能し得るので、代替材料として適している。
【0019】
ここで、前記短繊維の直径は1μm〜150μmであることが好ましく、前記短繊維の長さは0.3mm〜2mmであることが好ましい。直径が大きい場合および長さが長い場合には分散性が悪く、直径が小さい場合および長さが短い場合には補強効果が低いからである。更に、前記短繊維は、2〜10本集合して束状となっていることが好ましい。束状となることで補強効果が大きくなるが、集合する繊維数が多すぎると分散性が悪くなるからである。
【0020】
本発明のエラストマー組成物は、前記残滓が、前記植物の細胞壁の主成分であるセルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方と、前記植物の細胞壁が連なった短繊維とを含むことが好ましい。粒子と短繊維との双方を含む場合、短繊維に粒子が付随し、そして付随した粒子により短繊維等の表面に微細な凹凸が生じてエラストマー成分との物理的接着が強まるからである。
【0021】
本発明のエラストマー組成物は、前記発酵処理が麹菌および酵母菌の少なくとも一方を用いた処理であり、前記セルロース粒子およびヘミセルロース粒子には、麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随していることが好ましい。また、本発明のエラストマー組成物は、前記発酵処理が麹菌および酵母菌の少なくとも一方を用いた処理であって、前記短繊維には、麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随していることが好ましい。このように麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随している場合、付随した麹菌および酵母菌により短繊維等の表面に微細な凹凸が生じ、エラストマー成分との物理的接着が強まるからである。
【0022】
また、本発明のエラストマー組成物は、前記残滓が芋焼酎粕であることが好ましい。ここで、芋焼酎粕とは、芋焼酎の製造過程において発生する粕であり、例えば二次醪を蒸留した後に生じる残渣等が含まれる。
【0023】
そして、本発明のエラストマー組成物は、前記残滓の配合量が、前記エラストマー成分100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましい。残滓の配合量を1質量部以上とすることで本発明の目的である環境負荷の低減を十分に達成することができ、また、残滓の配合量を50質量部以下とすることで、代替原料を使用しないエラストマー組成物と近い性能を有するエラストマー組成物を提供することができるからである。
【0024】
なお、本発明のエラストマー組成物は、エラストマー成分がゴム成分または樹脂であることが好ましい。
【0025】
そして、本発明のタイヤは、少なくとも一部を上記エラストマー組成物で構成したことを特徴とする。従来のタイヤではゴム組成物等のエラストマー組成物のみで構成していた部分を、有機物の発酵処理において生じる残滓を配合したエラストマー組成物で構成することにより、タイヤとしての性能を維持しつつエラストマー成分の使用量を低減して環境負荷を低減することができる。
【0026】
なお、本発明において、粒径または直径とは、レーザー回折による粒子径測定(JIS Z8825−1)で求められ、該レーザー回折による方法において、残滓の長軸−短軸の平均(球形と捉えられる)を測定して得られる値である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、複雑な製造工程を用いることなく、低環境負荷および低コストで製造が可能であり、且つ、代替材料を配合しないエラストマー組成物と同等の性能を有するエラストマー組成物を提供することができる。また、当該エラストマー組成物を用いた、環境負荷が低いタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のタイヤの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<エラストマー組成物>
以下に、本発明のエラストマー組成物を詳細に説明する。本発明に従うエラストマー組成物は、エラストマー成分に、有機物の発酵処理において生じる残滓であって所定の性状を有する残滓を配合して混練することで、エラストマー成分の使用量を低減したことを特徴とする。
【0030】
ここで、エラストマー成分は、天然ゴム、合成ゴム等のゴム成分、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー等の樹脂、或いは、それらを配合したものからなり、合成ゴムとしては、具体的には、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーとしては、エチレン−メチルアクリレート共重合体、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等が挙げられ、熱硬化性エラストマーとしては、フェノール系エラストマー、ウレア系エラストマー、メラミン系エラストマー、エポキシ系エラストマー等が挙げられる。なお、本発明のエラストマー組成物は、任意に、カーボンブラックおよびシリカ等の補強性充填剤や、アロマオイル等の軟化剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤等の一般に添加される添加剤等を含んでも良い。
【0031】
発酵処理される有機物としては、特に限定されるものではないが、例えば、紙、家畜排泄物、食品廃棄物、焼酎粕、建設発生木材、黒液、余剰汚泥(例えば、下水汚泥、屎尿汚泥、メタン発酵汚泥)等の廃棄物系バイオマスと、稲わら、麦わら、籾殻、林地残材(間伐材・被害木など)等の未利用バイオマスと、飼料作物、果実、穀物、根菜類、でんぷん系作物等の資源作物バイオマスとを含む、再生可能な生物由来の有機性資源であるバイオマスが挙げられる。このようなバイオマスを用いれば、エラストマー組成物製造時の環境負荷をより低減できる。なお、資源の有効活用および環境負荷の低減という観点から、廃棄物系バイオマスを有機物として用いることが好ましい。
【0032】
また、上述した有機物の中でも、植物の細胞壁および該植物の細胞壁が連なった短繊維の少なくとも一方を含有する有機物としては、例えばブドウ、リンゴ、サクランボ、ヤシの実等の果実、米、麦、トウモロコシ等の穀物、ジャガイモ、サツマイモ等の根菜類、およびサトウキビなどの資源作物バイオマス、尾索類、例えばホヤの被のうの他、芋焼酎粕、米焼酎粕、麦焼酎粕等の廃棄物系バイオマス、稲わら、麦わら等の未利用バイオマスなどが挙げられる。特に、入手容易性および資源としての再利用性の有無の観点から、芋焼酎粕、米焼酎粕、麦焼酎粕が好ましい。また、芋焼酎粕、米焼酎粕、麦焼酎粕は、焼酎の製造工程で原料が粉砕される(例えば、芋焼酎の製造では二次仕込みで粉砕したサツマイモを添加する)ため粕中のセルロース短繊維等が十分に細かくなっている点においても、好ましい。
【0033】
ここで、有機物の発酵処理とは、上述したような有機物を、例えば麹菌や酵母菌等の微生物の働きを用いて分解し、特定の物質を生成することであり、嫌気的発酵および好気的発酵の双方を含むものである。具体的には、有機物の発酵処理方法としては、嫌気性微生物を用いた発酵処理として、例えばメタン生成菌を用いたメタン発酵、エタノール発酵菌を用いたエタノール発酵、水素生成菌を用いた水素発酵等があり、好気性微生物を用いた発酵処理として、例えば酢酸産生菌を用いた酢酸発酵、アンモニア酸化細菌等の各種酸化細菌を用いた排水処理等がある。
【0034】
そして、有機物の発酵処理において生じる残滓とは、発酵処理において分解されなかった余剰汚泥や、各種焼酎粕等の発酵処理後の残留物を意味し、ろ過を行った後の残りかすである残渣をも含むものである。なお、余剰汚泥を残滓として用いる場合にはエラストマー組成物の軽量化および金属含有によるエラストマー組成物への悪影響防止という観点から、鉄系の凝集剤を含まない汚泥、例えばアルミ化合物を凝集剤として使用した汚泥が好ましく、凝集剤を含まない汚泥がより好ましい。
【0035】
なお、残滓は、例えば燻煙処理で硫化水素を除去した後、または800℃程度の高温で炭化処理をした後にエラストマー成分に配合することができる。ここで、燻煙処理には、木材を熱した時に出る煙で残滓を燻すことが含まれる。燻煙処理を行うことにより、脱硫(消臭)および殺菌した取り扱いが容易な状態で残滓をエラストマー成分に配合することができる。
【0036】
エラストマー成分に配合し得る残滓の他の例としては、発酵菌等の細胞壁に含まれるペプチドグリカン、植物の細胞壁に含まれるセルロース粒子、ヘミセルロース粒子、リグニン、植物の細胞壁が連なった短繊維(セルロース短繊維、ヘミセルロース短繊維等)、またはそれらの混合物を含有する残滓が挙げられる。なお、残滓は、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方を単体で含むことが好ましい。また、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方と、短繊維との双方を含むことが更に好ましい。セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方を単体でエラストマー組成物に配合することにより、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子がミクロな排水溝として働くことができるので、該エラストマー組成物を例えばスタッドレスタイヤに用いた場合にスタッドレスタイヤの性能(氷上性能等)を向上することができるからである。また、粒子と短繊維との双方を含むことにより、例えばエラストマー組成物をスタッドレスタイヤに使用した場合に、水分を吸収するという効果を奏することが可能だからである。更に、残滓は、ペプチドグリカン、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方、並びにセルロース短繊維およびヘミセルロース短繊維の少なくとも一方を含むことが好ましい。ペプチドグリカンと、粒子と、短繊維とを含むことにより、例えばエラストマー組成物をスタッドレスタイヤに使用した場合に、水分を吸収するという効果を奏することが可能だからである。
【0037】
ここで、セルロース粒子およびヘミセルロース粒子とは、植物の細胞壁の主成分であり、アスペクト比が1〜5のものである。またセルロース短繊維およびヘミセルロース短繊維とは、植物の細胞壁が連なったものであり、アスペクト比が6〜50のものである。セルロース粒子およびヘミセルロース粒子とセルロース短繊維およびヘミセルロース短繊維とは、それらの混合物から例えば粒子を洗い流すこと等により単離することができる。
【0038】
ここで、前記セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の粒径は、0.02μm〜600μmであることが好ましい。粒径が0.02μm未満の場合は取り扱い難く、粒径が600μmより大きい場合はエラストマー成分中での分散性が悪いからである。また、前記短繊維の直径は1μm〜150μmであることが好ましく、前記短繊維の長さは0.3mm〜2mmであることが好ましい。直径が大きい場合および長さが長い場合には分散性が悪く、直径が小さい場合および長さが短い場合にはエラストマー組成物に対する補強効果やエラストマー組成物の排水効果が低いからである。更に、前記短繊維は、2〜10本集合して束状となっていることが好ましい。束状となることでエラストマー組成物に対する補強効果やエラストマー組成物の排水効果が大きくなるが、集合する繊維数が多すぎると分散性が悪くなるからである。
【0039】
セルロース粒子およびヘミセルロース粒子には、麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随していることが好ましい。また、短繊維にも、麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随していることが好ましい。このように麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随している場合、付随した麹菌および酵母菌により短繊維等の表面に微細な凹凸が生じ、エラストマー成分との物理的接着が強まるからである。
【0040】
そして、本発明の第1態様においてエラストマー成分に配合される上記残滓は、最大粒径が600μm以下、好ましくは300μm以下、更に好ましくは150μm以下であり、本発明の第2態様においてエラストマー成分に配合される上記残滓は、粒径90μm以上の残滓を80質量%以下、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、特に好ましくは10質量%以下の割合で含有している。なお、本発明において、エラストマー成分に配合される残滓は、最大粒径が600μm以下、且つ、粒径90μm以上の残滓の含有量が80質量%以下であっても良い。また、本発明において、有機物の発酵処理において生じる残滓の粒径は、0.02μm以上であることが好ましい。微細な残滓は、入手が困難であり、且つ、取り扱い難いからである。
【0041】
そして、本発明のエラストマー組成物は、有機物を発酵処理した後に残る上述の残滓をエラストマー成分に配合した以外特に制限はなく、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0042】
まず、上述した残滓を乾燥し、任意に、例えば温度800℃で燻煙処理する。なお、必要に応じて、篩い分け、圧搾、破砕等の既知の手段を用いて残滓の粒径を調整しても良い。
【0043】
次に、乾燥および燻煙処理した残滓を、任意の充填剤(カーボンブラック等)および添加剤とともにエラストマー成分に配合して混練する。なお、本発明のエラストマー組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば、バンバリーミキサーやロール等を用いて、エラストマー成分に、残滓と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを練り込んで調製することができる。ここで、残滓は、エラストマー組成物中の残滓の含有量が0.5〜30質量%となるように配合することが好ましい。
【0044】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、少なくとも一部を上記エラストマー組成物で構成したことを特徴とし、それ以外は通常のタイヤと同様の製造方法を用いて製造することができる。
【0045】
次に、本発明のタイヤを、図を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明のタイヤの一例の断面図である。図1に示すタイヤは、一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、上記一対のビード部1間にトロイド状に延在してこれら各部1,2,3を補強するカーカス4と、該カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に位置するベルト5とを具える。
【0046】
図示例のタイヤにおいて、カーカス4は、一枚のカーカスプライからなり、また、上記ビード部1内に夫々配設した一対のビードコア(ワイヤ)6間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア6の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなる。なお、図示例のカーカス4は、一枚のカーカスプライよりなるが、本発明のタイヤにおいては、カーカスプライの枚数は複数であってもよい。
【0047】
また、図示例のタイヤにおいて、ベルト5は、二枚のベルト層からなるが、本発明のタイヤにおいて、ベルトを構成するベルト層の枚数は一枚以上であればよく、これに限られるものではない。更に、本発明のタイヤは、ベルト5のタイヤ半径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなるベルト補強層を具えてもよく、ベルト5の端部と該ベルト補強層との間に更に層間ゴムを具えることもできる。
【0048】
そして、図示例のタイヤは、少なくともトレッド部3に、上述したセルロース短繊維を配合したエラストマー組成物を用いることを特徴とする。セルロース短繊維を配合したエラストマー組成物をトレッド部3に使用することで、セルロース短繊維と路面との相互作用により走行安定性、ウェット性能、氷雪性能の向上が可能なタイヤを提供することができる。
【0049】
なお、上記エラストマー組成物を用いる部材としては、トレッドゴムの他、サイドゴム、ビードワイヤの半径方向外側に位置するビードフィラーないしスティフナー、カーカスやベルトのコーティングゴム等が挙げられる。
【0050】
また、本発明のタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
(従来例1)
バンバリーミキサーを用いて、表1および表2に示す配合処方で芋焼酎粕を含まないエラストマー組成物としてのゴム組成物を調製し、既知の加硫剤等を配合して通常の方法で加硫した後に以下の方法で亀裂成長性を測定、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0053】
(実施例1〜7)
バンバリーミキサーを用いて、表1に示す配合処方で芋焼酎粕Aを含むエラストマー組成物としてのゴム組成物を調製し、既知の加硫剤等を配合して通常の方法で加硫した後に以下の方法で亀裂成長性を測定、評価した。結果を表1に示す。なお、芋焼酎粕Aとは、芋麹:米麹=1:4の割合で発酵処理を行い製造した芋焼酎の粕をスプレードライヤー(大川原加工機製)により含水率8%まで乾燥した芋焼酎粕である。
【0054】
(実施例8〜14および比較例1)
バンバリーミキサーを用いて、表2に示す配合処方で芋焼酎粕Bを含むエラストマー組成物としてのゴム組成物を調製し、既知の加硫剤等を配合して通常の方法で加硫した後に以下の方法で亀裂成長性を測定、評価した。結果を表2に示す。なお、芋焼酎粕Bとは、芋麹:米麹=1:4の割合で発酵処理を行い製造した芋焼酎の粕をCDドライヤー(西村鐵工所製)により含水率8%まで乾燥した後にワンダーブレンダー(アズワン製)により粉砕した芋焼酎粕である。
【0055】
(亀裂成長性試験)
従来例1、実施例1〜14および比較例1で作製したゴム組成物を160℃で15分加硫して得た加硫ゴムに対し、株式会社島津製作所製のサーボパルサーを用いて、温度:80℃、周波数:20Hz、振幅:定量5%伸張の条件で亀裂成長性を測定した。そして、従来例1の亀裂成長性を基準として指数評価した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
*1 乳化重合SBR、ゴム成分100質量部に対して37.5質量部のアロマ油で油展
*2 旭カーボン株式会社製、N110
【0059】
表1および表2から、最大粒径が600μm以下の芋焼酎粕を配合したゴム組成物は、芋焼酎粕を配合していないゴム組成物と比べて、亀裂成長性が大幅に低下することは無いことが明らかとなった。また、配合した芋焼酎粕中における粒径90μm以上の芋焼酎粕の割合を80質量%以下とすれば、亀裂成長性が大幅に低下することは無いことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0060】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5 ベルト
6 ビードコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー成分に対して有機物の発酵処理において生じる残滓を配合したエラストマー組成物であって、
前記残滓の最大粒径が600μm以下であることを特徴とする、エラストマー組成物。
【請求項2】
前記最大粒径が300μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
前記最大粒径が150μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載のエラストマー組成物。
【請求項4】
エラストマー成分に対して有機物の発酵処理において生じる残滓を配合したエラストマー組成物であって、
前記残滓が、粒径90μm以上の残滓を80質量%以下の割合で含んでいることを特徴とする、エラストマー組成物。
【請求項5】
前記残滓が、前記粒径90μm以上の残滓を50質量%以下の割合で含んでいることを特徴とする、請求項4に記載のエラストマー組成物。
【請求項6】
前記残滓が、前記粒径90μm以上の残滓を25質量%以下の割合で含んでいることを特徴とする、請求項4に記載のエラストマー組成物。
【請求項7】
前記残滓が、前記粒径90μm以上の残滓を10質量%以下の割合で含んでいることを特徴とする、請求項4に記載のエラストマー組成物。
【請求項8】
前記有機物がバイオマスである、請求項1〜7の何れかに記載のエラストマー組成物。
【請求項9】
前記発酵処理が発酵菌を用いた有機物の発酵処理であり、
前記残滓が前記発酵菌の細胞壁を含有することを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載のエラストマー組成物。
【請求項10】
前記残滓の主成分がペプチドグリカンであることを特徴とする、請求項9に記載のエラストマー組成物。
【請求項11】
前記残滓を燻煙処理または炭化処理した後に前記エラストマー成分に配合することを特徴とする、請求項9に記載のエラストマー組成物。
【請求項12】
前記有機物が植物の細胞壁および該植物の細胞壁が連なった短繊維の少なくとも一方を含有する有機物であり、
前記残滓が前記植物の細胞壁および短繊維の少なくとも一方を含有することを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載のエラストマー組成物。
【請求項13】
前記残滓が、前記植物の細胞壁の主成分であるセルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方からなることを特徴とする、請求項12に記載のエラストマー組成物。
【請求項14】
前記残滓が前記短繊維からなり、
該短繊維は、セルロース短繊維およびヘミセルロース短繊維の少なくとも一方からなることを特徴とする、請求項12に記載のエラストマー組成物。
【請求項15】
前記セルロース粒子およびヘミセルロース粒子の粒径が0.02〜600μmであることを特徴とする、請求項13に記載のエラストマー組成物。
【請求項16】
前記残滓が、前記植物の細胞壁の主成分であるセルロース粒子およびヘミセルロース粒子の少なくとも一方と、前記植物の細胞壁が連なった短繊維とを含むことを特徴とする、請求項12に記載のエラストマー組成物。
【請求項17】
前記発酵処理が麹菌および酵母菌の少なくとも一方を用いた処理であり、
前記セルロース粒子およびヘミセルロース粒子には、麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随していることを特徴とする、請求項13に記載のエラストマー組成物。
【請求項18】
前記発酵処理が麹菌および酵母菌の少なくとも一方を用いた処理であって、
前記短繊維には、麹菌および酵母菌の少なくとも一方の細胞壁が付随していることを特徴とする、請求項12または14に記載のエラストマー組成物。
【請求項19】
前記短繊維が、2〜10本集合して束状となっていることを特徴とする、請求項12または14に記載のエラストマー組成物。
【請求項20】
前記残滓が芋焼酎粕であることを特徴とする、請求項1〜7の何れかに記載のエラストマー組成物。
【請求項21】
前記エラストマー成分がゴム成分であることを特徴とする、請求項1〜20の何れかに記載のエラストマー組成物。
【請求項22】
前記エラストマー成分が樹脂であることを特徴とする、請求項1〜20の何れかに記載のエラストマー組成物。
【請求項23】
少なくとも一部を請求項1〜22の何れかに記載のエラストマー組成物で構成したことを特徴とする、タイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215722(P2010−215722A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61736(P2009−61736)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】