説明

エンコーダ

【課題】エンコーダの分解能を向上する。
【解決手段】インデックス回折格子13で発生した回折光を、移動回折格子15で再干渉させ、その干渉光の干渉縞(周期的な光強度分布)を変調ミラー16の回転振動で振動させ、その周期的な光強度分布の位相変調したうえで、受光部17でその変調信号を検出する。検出装置18では、検出された変調信号の0次成分〜4次成分が検出され、そのうちの1次成分、2次成分に基づいて、インデックス回折格子13に対する移動回折格子15の相対変位量が導き出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンコーダに係り、さらに詳しくは、移動体の変位を検出する光学式のエンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的な光学式エンコーダとして、移動体とともに移動し、かつ移動方向に直交させて等間隔に形成した格子を有する回折格子と、この回折格子に2つの可干渉光束を照射する照射光学系と、回折格子で回折された同次数の正負の回折光を干渉させて干渉光の強度変化を検出する検出器とを備え、この干渉光の強度変化に基づいて、回折格子の移動量を検出する回折干渉式のエンコーダが知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
このような光学式エンコーダにおいて、回折格子の形成精度や、実使用時における回折格子の姿勢(ヨーイング等)に変化が生じると、回折格子の移動量の検出結果に誤差が生じる可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−35570号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第1の観点からすると、移動体の変位に関する情報を検出するエンコーダであって、前記移動体の変位に関する情報に対応した光強度分布を変調する変調装置と;前記変調された光強度分布を有する光を受光し、その受光結果に応じた信号を出力する受光装置と;を備えるエンコーダである。
【0006】
これによれば、移動体の変位に関する情報が含まれている周期的な光強度分布の位相変調結果に基づいて、移動体の相対変位及び方向を検出するので、その検出結果が、回折格子の形成精度や、回折格子の姿勢に影響を受け難くなる。
【0007】
本発明は、第2の観点からすると、移動体の変位に関する情報を検出するエンコーダであって、前記移動体の変位に関する情報に対応した光強度分布を、複数の受光素子で受光し、その受光結果に応じた信号を受光素子毎に出力する受光装置と;前記複数の受光素子の出力信号を、所定の周期信号に従って、時系列信号に変調する変調装置と;前記時系列信号を、前記移動体の変位に関する情報を検出するための信号に変換するコンバータと;を備えるエンコーダである。
【0008】
これによれば、移動体の変位に関する情報に対応する光強度分布を有する光を受光した複数の受光素子の出力信号を、所定の周期信号に従って、時系列信号に変調する。すなわち、移動体の変位に関する情報が含まれている光の強度分布を電気的に変調することにより、移動体の相対変位及び方向を検出する。この場合も、当然に、その検出結果が、回折格子の形成精度や、回折格子の姿勢に影響を受け難くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
≪第1の実施形態≫
以下、本発明の第1の実施形態を図1〜図3(E)に基づいて説明する。図1には、本発明の第1の実施形態に係るエンコーダ100の構成が概略的に示されている。図1に示されるように、このエンコーダ100は、光源11と、コリメータレンズ12と、インデックス回折格子13と、ミラー14A、14Bと、移動回折格子15と、変調用ミラー16と、受光部17と、検出装置18等の信号処理系とを備えている。
【0010】
光源11は、例えば波長850nmのコヒーレントなレーザ光を射出するレーザ光源である。コリメータレンズ12は、光源11の−Z側に配置されている。さらに、コリメータレンズ12の−Z側にあるインデックス回折格子13及び移動回折格子15は、格子線の方向がY軸方向となるように、すなわち、その格子の配列方向がX軸方向となるように、Z軸方向に対向して配置されている。インデックス回折格子13及び移動回折格子15は、透過型の回折格子であり、例えば位相型の回折格子である。これらのインデックス回折格子13と移動回折格子15の格子ピッチは、互いに同じpであり、50μm以下、例えば8μm程度である。
【0011】
ミラー14A、14Bは、インデックス回折格子13と移動回折格子15との間に、互いにX軸方向に対向するように配置されている。変調ミラー16は、その反射面がY軸回りに回転する回転軸を備えており、後述する回転駆動装置21により、所定の周期で、その回転軸を中心に回転振動している。受光部17は、その受光面が、変調ミラー16の反射面に対向するように配置された複数の受光素子(例えば、多分割受光素子)を備えている。光源11、コリメータレンズ12、インデックス回折格子13、ミラー14A、14B、受光部17は、互いの位置関係が固定されている。移動回折格子15は、不図示の移動体とともにX軸方向に移動する。すなわち、その移動方向は、移動回折格子15の格子の形成面と平行であり格子線に垂直な方向となっている。
【0012】
このエンコーダ100における照明光の光路について説明する。光源11から射出された照明光は、コリメータレンズ12で平行光に変換され、インデックス回折格子13に入射し、インデックス回折格子13の回折作用により各次数の回折光が発生する。図1では、これらの回折光のうち±1次回折光のみが図示されている。この±1次回折光は、ミラー14A、14Bでそれぞれ偏向された後、移動回折格子15に入射する。±1次回折光は、この移動回折格子15上に干渉縞を形成する。移動回折格子15では、その回折作用により、入射した±1次回折光に対する新たな±1次回折光が形成され、一部の回折光は再び干渉する。これらの干渉光のうち、−Z方向に直進する干渉光は、変調ミラー16で反射された後、受光部17に入射する。受光部17の各受光素子は、入射した干渉光の光強度に対応する信号を出力する。
【0013】
受光部17に入射する干渉光は、その受光面上に干渉縞を形成する。この干渉縞は、正弦波形となり、その正弦波形の位相が、インデックス回折格子13に対する移動回折格子15の相対変位に対応している。受光部17の各受光素子(それぞれ受光素子1〜nとする)は、それぞれが受光した干渉縞の光強度に相当する干渉信号Inを出力する。上述したように、変調ミラー16は、所定の周期信号に従って回転振動しているので、受光部17の受光面上の干渉縞もその所定の周期信号に従ってZ軸方向に振動するようになる。
【0014】
図2には、受光部17の各受光素子で受光される干渉信号Inを説明するための図が示されている。変調ミラー16は、正弦波状に振動しており、所定の周期信号を正弦波としている。ここで、この振動の角周波数をωとし、受光面上における干渉縞の振動振幅をε(片振幅ε/2)とする。tは、時間軸である。この場合、図2に示されるように、例えばx=x1に位置する受光素子では、太い矢印で示した範囲εの干渉縞の光強度の変動が繰り返し観測されるようになる。すなわち、x=x1の位置する受光素子で観測される干渉信号Inは、図2に示されるように、片振幅ε/2、角周波数ωの正弦波で変調された信号となる。なお、実際には、干渉縞はZ軸方向に振動するが、この干渉縞は、本来、変調ミラー16がなければ、X軸方向に形成される干渉縞であるため、図2では、横軸をZ軸ではなく、X軸としている。
【0015】
図3(A)〜図3(E)には、インデックス回折格子13と、移動回折格子15との相対変位(本実施形態では、変位を角度表現で示す)を表す異なる5つの位相xでの、干渉信号Inの変調の様子が示されている。図3(A)には、x=−81°であるときの干渉信号Inの時間変化波形が示され、図3(B)には、x=−36°であるときの干渉信号Inの時間変化波形が示され、図3(C)には、x=0°であるときの干渉信号Inの時間変化波形が示され、図3(D)には、x=+36°であるときの干渉信号Inの時間変化波形が示され、図3(E)には、x=+81°であるときの干渉信号Inの時間変化波形が示されている。
【0016】
図3(A)〜図3(E)にそれぞれ示されるように、それぞれの移動で、干渉信号Inの時間変化波形は異なるようになり、その信号波形から、干渉縞の位相を検出することが可能であるのがわかる。また、位相の正負により、干渉信号Inの時間変化波形は、対称的な波形となる。例えば、図3(B)に示されるx=−36°の変調波形と、図3(D)に示されるx=+36°の変調波形とでは、干渉信号Inの時間変化波形は、対称となっている。このことから、この干渉信号Inを解析すれば、移動回折格子の移動方向をも検出することが可能となるのがわかる。
【0017】
干渉信号Inは、ところで、位相変調された信号であるため、次式で表されるようになる。
n=1+J0(2d)・cos(4πx/p)
+2J1(2d)・sin(4πx/p)・sin(ωt)
+2J2(2d)・cos(4πx/p)・cos(2ωt)
+2J3(2d)・sin(4πx/p)・sin(3ωt)
+2J4(2d)・cos(4πx/p)・cos(4ωt)
+・・・ …(1)
ここで、Jnは、n次ベッセル展開係数であり、dは、変調度であり、2d=2πε/pである。pは、前述のとおり、インデックス回折格子13、移動回折格子15のピッチである。本実施形態では、2d=2.3であるものとする。
【0018】
図1に戻り、エンコーダ100の信号処理系は、検出装置18と、変位検出装置19と、変調制御装置20と、回転駆動装置21と、光量制御装置22と、光源駆動装置23と、発振回路24とを備えている。
【0019】
検出装置18は、同期検波により、干渉信号Inにおける変調信号(角周波数ω、振幅ε/2)を基本波とするその0次成分〜4次成分を抽出する。この同期検波は、発振回路24から与えられるパルス信号に従って行われる。例えば、1次成分の同期検波は、角周波数ωのパルス信号(sinωt)を用いて行われ、2次成分の同期検波は、sinωtとは、角周波数2ωのパルス信号(cos2ωt)を用いて行われる。
【0020】
変位検出装置19は、抽出された1次成分、2次成分を入力し、それらの成分と、ベッセル関数J1(2d)、J2(2d)の値を、上記式(1)に代入して、sin(4πx/p)と、cos(4πx/p)との値を算出し、出力する。この出力がエンコーダ100の出力、すなわち、移動体の変位に関する情報となる。
【0021】
変調制御装置20は、抽出された1次成分〜4次成分を入力して、変調ミラー16による変調度dをモニタし、そのモニタ結果に基づいて、その変調度(2d=2πε/p)が目標値に一致するように、回転駆動回路21を介して、変調ミラー16の回転振動を制御する。これにより、変調度が一定値(例えば、2d=2.3)に保たれる。なお、この変調度の設定値2.3は、変位検出及び光量制御等を最も簡便にする値となっている。
【0022】
光量制御装置22は、抽出された干渉信号Inの0次成分を入力し、その0次成分の変動が抑制されるように、光源駆動装置23を介して光源11を駆動制御する。これにより、光源11から発せられる照明光の光量が一定値に保たれるようになる。
【0023】
なお、検出装置18、変調制御装置20、回転駆動装置21には、発振回路24から出力された変調ミラー16を回転振動させるための駆動信号に相当する信号(角周波数ω)が送られている。検出装置18、変調制御装置20及び回転駆動装置21では、この駆動信号に基づいて、干渉信号Inの各次成分の検出、変調度2dの制御、変調ミラー16の駆動が行われる。
【0024】
次に、エンコーダ100の動作について説明する。まず、初期状態として、図3(C)に示されるように移動回折格子15が、x=0°の状態にあるとする。この場合、干渉信号Inとして、図3(C)に示されるような信号波形が、受光部17から出力される。検出装置18は、干渉信号Inからその1次成分と2次成分とを検出し、それらの成分を、変位検出装置19に送る。変位検出装置19は、エンコーダ100の出力としてx=0°を出力するようになる。また、この間、検出装置18は、変調制御装置20に対し0次成分〜4次成分を送るとともに、光量制御装置22に対し、0次成分を送る。変調制御装置20及び光量制御装置22の制御により、変調度d及び光量が一定に保たれる。
【0025】
次に、図3(B)に示されるように、不図示の移動体の移動に伴って移動回折格子15がx=−36°の位置に移動したものとする。この場合、干渉信号Inとして、図3(B)に示されるような信号波形が、受光部17から出力される。検出装置18は、この干渉信号Inから1次成分と、2次成分とを検出し、それらの成分を、変位検出装置19に送る。この場合、変位検出装置19は、エンコーダの出力としてx=−36°を出力するようになる。また、この間も、検出装置18は、変調制御装置20に対して0次成分〜4次成分を送るとともに、光量制御装置22に対して0次成分を送る。変調制御装置20及び光量制御装置22の制御により、変調度d及び光量が一定に保たれる。
【0026】
このようにして、常時、変位検出装置19によって、インデックス回折格子13に対する移動回折格子15の相対変位に関する情報が常時検出され、例えば移動体の位置制御などに用いられる。
【0027】
以上詳細に述べたように、本実施形態に係る光学式のエンコーダ100によれば、受光部17は、インデックス回折格子13に対する移動回折格子15の相対変位に関する情報に対応する光強度分布が変調された状態で、その干渉光を受光する。そして、この変調された干渉信号In、すなわち不図示の移動体の変位に関する情報が含まれている周期的な光強度分布の位相変調結果に基づいて、不図示の移動体の相対変位及び方向を検出している。このようにすれば、インデックス回折格子13及び移動回折格子15の形成精度や各回折格子の姿勢が、エンコーダの出力に影響を与えないようにすることができる。また、干渉光の光強度分布を高調波で変調するので、周波数に比例して小さくなくなるいわゆる1/f雑音などを低減し、そのS/N比を向上させることができる。
【0028】
また、本実施形態によれば、変調ミラー16は、その干渉光の偏向方向を周期的に変動させ、受光部17では、周期的に変動する干渉光の偏向方向に沿って複数の受光素子が配置されている。このようにすれば、干渉光の光強度分布の変調状態を受光部17において検出することができる。
【0029】
また、本実施形態では、干渉光の光強度分布の変調は、変調ミラー16と、その変調ミラー16の回転量を周期的に変動させる回転駆動装置21とによって実現される。なお、本実施形態では、変調ミラー16を、回転振動するものとしたが、これには限られず、変調ミラーとして、Z軸方向に平行に振動するようなミラーを用いるようにしてもよい。また、ミラーの代わりに、プリズムや回折格子を用いても良い。要は、受光部17の前に、干渉光の光路を周期的に変動させるような光学素子と、その光学素子を振動させる駆動装置とがあればよい。
【0030】
なお、本実施形態では、受光部17が、多分割の受光素子であるものとしたが、本発明はこれには限られない。例えば、受光部17の受光素子は単一のものとしても、その受光素子の大きさを、多分割の受光素子の1つ1つの画素と同等の大きさとすれば、変調された光強度分布の変調状態を検出可能となり、本実施形態と同様にして、インデックス回折格子13に対する移動回折格子15の相対変位を検出することが可能となる。
【0031】
なお、光学式エンコーダで、照明光を変調して移動体の変位やその移動方向を検出する方法として、例えば、インデックス回折格子13をX軸方向に振動させたり、インデックス回折格子13で生じた±1次回折光の一方の位相を変調するなどして、回折格子で生じた一方の回折光を変調する方法も採用することができるが、本実施形態では、受光部17の受光素子に入射する干渉光の光強度分布を振動させ、その位相変調を行っている。このようにすれば、移動回折格子15に関し、光路の上流側ではなく、光路の下流側、例えば、受光素子の直前で変調を行うこととなるので、受光結果における、変調機構の機械的なドリフトなどの影響を極力低減することができる。
【0032】
≪第2の実施形態≫
次に、本発明の第2の実施形態について図4〜図7(C)を参照して説明する。図4には、本実施形態に係るエンコーダ101の構成が概略的に示されている。本実施形態に係るエンコーダ101は、変調ミラー16の変わりに、固定のミラー16’を備え、ミラー16’と受光部17との間に、空間フィルタ25が挿入されており、回転駆動装置21の代わりにフィルタ駆動装置21’を備えており、受光部17の代わりに、受光部17’を備えている点が、上記第1の実施形態に係るエンコーダ100の構成と異なる。したがって、以下においては、重複記載を防止する観点から、これらの装置及びそれぞれの構成各部については上記第1の実施形態と同一の符号を用いるとともに、主として、上記第1の実施形態と処理内容が異なる部分について説明する。また、図4では、光量制御装置22、光源駆動装置23などの光量制御系、変調制御装置20などの変調制御系などについては、上記第1の実施形態と同様であるため、特に図示していない。
【0033】
本実施形態では、ミラー16’が固定となっているので、空間フィルタ25に入射する光強度分布は変調されていない。空間フィルタ25は、その入射する光の透過率分布を調整可能なフィルタである。フィルタ駆動装置21’は、所定の周期信号に従って、空間フィルタ25の透過率分布を変更する。受光部17’は、多分割受光素子ではなく、単一の受光素子を有している。
【0034】
図5には、空間フィルタ25と、フィルタ駆動装置21’との詳細な構成が示されている。空間フィルタ25は、一列に配置された複数の領域に分割されており、領域毎に、透過率を設定可能なスリットシャッタ方式のフィルタである。このような空間フィルタとしては、例えば液晶方式のものを用いることができる。本実施形態では、説明を簡単にするために、空間フィルタ25の各領域は、干渉光の光強度分布の1/4周期に対応するものとしている。したがって、連続する4つの領域が、干渉光の光強度分布の1周期分に相当するようになる。しかしながら、本発明がこれには限られず、1周期分の領域数は、任意に設定できる。
【0035】
図5に示されるように、フィルタ駆動装置21’は、シフトレジスタ31と、4つの駆動装置32と、シフト方向設定回路33とを備えている。シフトレジスタ31の各レジスタは、フリップフロップ回路で構成されており、そのレジスタの数は4ビットである。すなわち、シフトレジスタ31のビット数は、干渉光の光強度分布の1周期分の空間フィルタ25の領域の数に相当する。シフトレジスタ31の各レジスタの内容は、発振回路24(図4参照)から入力されるクロック信号にしたがって、1ビットずつシフトする。シフトレジスタ31は、双方向のシフトレジスタであり、シフト方向設定回路33からの入力により、そのシフト方向が右であるか左であるかが決定される。シフト方向設定回路33は、クロック信号が3つのシフトするごとに、シフト方向を逆(左→右、右→左)に変更する。図5では、シフトレジスタ31に、1、0、0、0がセットされている。
【0036】
シフトレジスタ31の各レジスタに設定された値に相当する信号は、各駆動装置32にそれぞれ出力されている。各駆動装置32の出力は、空間フィルタ25の幾つかの領域に接続されている。空間フィルタ25の各領域は、3つ置きに(光強度分布の周期で)、同一の駆動装置32に接続されている。各駆動装置32は、入力されたビットの値が1である場合には、空間フィルタ25の透過率を100%に設定し、0である場合には、対応する空間フィルタ25の領域の透過率を0%に設定する。図5では、透過率が0%に設定された領域がグレイ表示されている。
【0037】
図6(A)〜図7(C)には、シフトレジスタ31による、空間フィルタ25の制御の様子が示されている。図6(A)〜図6(D)に示されるように、シフトレジスタのデータが、右にシフトして、1、0、0、0→0、1、0、0→0、0、1、0→0、0、0、1と変遷していくにつれて、空間フィルタ25において、光を透過させる領域も、1つずつ右にシフトしていくようになる。すなわち、シフトレジスタ31の各レジスタの内容が1ビットずつ右にシフトしていくと、空間フィルタ25を通過する干渉光の光強度分布の位相が右に90度ずつずれていくようになる。
【0038】
この後、シフト方向設定回路33により設定されるシフト方向の設定が、右から左に変更されると、図7(A)、図7(B)に示されるように、シフトレジスタ31の各レジスタの内容は、0、0、1、0→0、1、0、0と進むようになる。これに従って、空間フィルタ25において、干渉光を透過させる領域も、1つずつ左にシフトしていくようになる。すなわち、シフトレジスタ31のレジスタの内容が1ビットずつ左にシフトしていくと、空間フィルタ25を通過する光強度分布の位相は、左に90度ずつずれていくようになる。
【0039】
この後、シフトレジスタ31のレジスタの内容は、図7(C)(すなわち図6(A)と同じ状態)に示される状態に戻り、再び、図6(A)〜図7(C)に示される状態が繰り返されることになる。すなわち、この空間フィルタ25では、通過する位相の光が、シフトレジスタ31の左右データシフトにより、左右に90度ずつずれていくようになり、受光部17’では、空間フィルタ25を通過した同位相の光を受光し、その強度信号を出力するようになる。この結果、受光部17’から出力される信号は、干渉光の光強度分布が、シフトレジスタ13のデータシフトに基づいて変調された信号となる。上述したシフトレジスタ31のデータシフトは、発振回路24から送られたクロック信号によって一定間隔で行われるため、この変調は、三角波信号による干渉光の光強度分布の変調であるとみなすことができる。
【0040】
上記第1の実施形態では、正弦波によって干渉光の光強度分布を変調したが、本実施形態では、上述したように、三角波によって干渉光の光強度分布を変調している。このように、変調信号が三角波であっても、正弦波の場合と同様にして、位相変調が行われた干渉光の光強度分布を変調して移動回折格子15の変位を検出することができる。なお、シフトレジスタ31のデータシフトを、一定のクロック信号で行わずに、正弦波状のタイミングでデータシフトを行えば、本実施形態における変調は、上記第1の実施形態と同様の、正弦波信号による光強度分布の位相変調であるとみなすことができる。
【0041】
以上詳細に述べたように、本実施形態に係るエンコーダ101では、透過率分布が変動する空間フィルタ25を用いて、移動体の変位量に関する情報が含まれる干渉光の光強度分布の変調を行う。この空間フィルタ25は、干渉光の光強度分布に同期した透過率分布を有し、その透過率分布を周期的に変動させているため、その空間フィルタ25を同時に通過する光は、干渉光の光強度分布の特定の位相における光のみとなる。本実施形態では、空間フィルタ25における透過率分布を調整し、透過する光強度分布の位相を周期的に変動させて、光強度分布の変調が実現される。
【0042】
この空間フィルタ25は、干渉光の光路上に配置されたスリットシャッタ方式のフィルタであり、このフィルタの明暗部(すなわち、透過率が0%の領域と100%の領域)をフィルタ駆動装置21’の駆動で周期的に変動させることにより、干渉光の光強度分布の変調が実現されている。しかしながら、その明暗部のピッチが、干渉光の光強度分布の周期の整数分の一となっている空間フィルタを、干渉光の光強度分布に沿って機械的に振動させるようにしてもよい。また、このような空間フィルタは、1本のスリットを有するものであってもよい。
【0043】
≪第3の実施形態≫
次に、本発明の第3の実施形態について、図8〜図10に基づいて説明する。図8には、本実施形態に係るエンコーダ102の構成が概略的に示されている。本実施形態に係るエンコーダ102は、受光部17’の代わりに、受光部17’’を備え、ミラー16’と受光部17との間に空間フィルタ25が挿入されていない点と、処理系の構成とが、上記第2の実施形態に係るエンコーダ101と異なる。したがって、以下においては、重複記載を防止する観点から、これらの装置及びそれぞれの構成各部については上記第2の実施形態と同一の符号を用いるとともに、主として、上記第2の実施形態と処理内容が異なる部分について説明する。
【0044】
エンコーダ102での処理系は、発振回路24と、切換装置27と、検出装置28とを備えている。図9には、切換装置27の詳細な構成が示されている。図9に示されるように、選択回路40と、切換回路41、42と、減算器43と、増幅器44と、フィルタ45とを備えている。図9に示されるように、受光部17’’は、連続して配置された4つのフォトダイオード等の受光素子A〜Dを有している。この4つの受光素子A〜Dで形成される受光面の幅が、干渉光の光強度分布の1周期に相当する。
【0045】
選択回路40には、発振回路24からのクロック信号が入力されている。選択回路40は、このクロック信号に基づいて、2ビットの信号を、切換回路41、42に出力している。具体的には、選択回路40は、2進数で、00(すなわち0)、01(すなわち1)、10(すなわち、2)、11(すなわち3)の値の信号を、一定の周期で、繰り返し出力している。
【0046】
切換回路41、42は、それぞれ4つのスイッチ411〜414、421〜424を備えている。4つのスイッチ411〜414、421〜424は、同時に1つのスイッチしかクローズすることができないようになっている。切換回路41、42には、選択回路40からの2ビットの信号が入力されており、切換回路41では、この信号の値に従って、一定の周期で、クローズするスイッチが、スイッチ411→412→413→414の順で繰り返し切り替わり、切換回路42では、クローズするスイッチが、スイッチ421→422→423→424の順で繰り返し切り替わっている。
【0047】
スイッチ411、421がクローズされている期間を、期間aとする。この場合、切換回路41からは受光素子Aで検出された光強度に相当する電流信号が出力される。この受光素子Aで検出された光強度に相当する電流信号の値は、インデックス回折格子13と、移動回折格子15との相対変位xに関する−sinxを表している。また、切換回路42からは、受光素子Cで検出された光強度に相当する電流信号が出力される。この受光素子Cで検出された光強度に相当する信号の値は、インデックス回折格子13と、移動回折格子15との相対変位xに関するsinxを表している。これらの出力は、期間aでホールドされた状態となる。減算器43では、切換回路41の出力値から、切換回路42の出力値が減算された値の電流信号が出力される。増幅器44では、この出力値の1/2の値に相当する電流信号が出力される。この信号の値は、−sinxとなる。
【0048】
同様に、スイッチ412、422がクローズされている期間を期間bとする。この場合、切換回路41からは受光素子Bによって検出された光強度に相当する電流信号が出力される。この受光素子Bで検出された光強度に相当する電流信号の値は、インデックス回折格子13と、移動回折格子15との相対変位xに関する−cosxを表している。また、切換回路42からは、受光素子Dで検出された光強度に相当する電流信号が出力される。この受光素子Dで検出された光強度に相当する電流信号の値は、インデックス回折格子13と、移動回折格子15との相対変位xに関するcosxを表している。この結果、増幅器44からは、−cosxの値に相当する電流信号が出力されるようになる。
【0049】
同様に、スイッチ413、423がクローズされている期間を期間cとする。この場合、切換回路41からは受光素子Cからのsinxに相当する電流信号が出力され、切換回路42からは、受光素子Aからの−sinxに相当する電流信号が出力される。この結果、増幅器44からは、sinxの値に相当する電流信号が出力されるようになる。同様に、スイッチ414、424がクローズされている期間を期間dとする。この場合、切換回路41からは受光素子Dからのcosxに相当する電流信号が出力され、切換回路42からは、受光素子Bからの−cosxに相当する電流信号が出力される。この結果、増幅器44からは、cosxの値に相当する電流信号が出力されるようになる。
【0050】
図10には、このサンプルホールドされた電流信号が示されている。このサンプルホールドされた電流信号は、ローパスフィルタ45に入力される。ローパスフィルタ45の出力は、図10に示されるように正弦波状の電流信号となる。図8に戻り、ローパスフィルタ45の出力は、検出装置28のI−Vコンバータ50に入力される。I−Vコンバータ50は、切換装置27から出力された正弦波状の電流信号を電圧信号に変換して出力する。検出装置28では、I−Vコンバータ50から出力された電圧信号に基づいて、インデックス回折格子13に対する移動回折格子15の相対変位量xが検出され、エンコーダ102の出力として出力される。
【0051】
このエンコーダ102の光学系は、いわゆるホモダイン光学系であり、周波数変調などを行っていないため、FM雑音について考慮する必要はなく、IM雑音についても、APC帯域を上げることで低減が可能である。したがって、このエンコーダ102においては、干渉光を受光してから変位情報を検出するまでの処理回路中におけるノイズの主な発生源は、検出装置28のI−Vコンバータ50となる。このI−Vコンバータ50では、いわゆる1/f雑音が発生する。本実施形態では、受光信号を、I−Vコンバータ50で変換する前に、切換装置27において、受光部17’’で受光された干渉光の光強度分布に相当する信号を電気的に変調する。このようにすれば、I−Vコンバータ50で発生する1/f雑音を低減してS/N比を向上させることができるようになり、エンコーダ102における変位の検出精度が向上する。なお、本実施形態において、切換装置により実現される光強度分布に相当する信号の電気的な変調は、のこぎり波による光強度分布に相当するものである。
【0052】
なお、上記各実施形態では、それぞれ、正弦波、三角波、のこぎり波による変調であったが、変調信号は周期信号であればよい。また、上記各実施形態に係るエンコーダは、すべて回折光干渉方式のエンコーダであるものとしたが、これらのエンコーダは、影絵方式のエンコーダであってもよい。また、リニアエンコーダだけでなく、ロータリーエンコーダにも本発明を適用することができることは勿論である。また、ミラー14A、14Bの代わりに、±1次回折光を、移動回折格子15上の同一位置に偏向させるガラスブロックなどの光学素子を備えるようにしてもよい。また、インデックス回折格子13及び移動回折格子15の一方は、反射型の回折格子であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のエンコーダは、物体の変位情報を検出するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るエンコーダの構成を示す概略図である。
【図2】受光素子で検出される干渉信号の一例を示す図である。
【図3】図3(A)は、x=−81°であるときの干渉信号Inの時間変化波形が示す図であり、図3(B)は、x=−36°であるときの干渉信号Inの時間変化波形を示す図であり、図3(C)は、x=0°であるときの干渉信号Inの時間変化波形を示す図であり、図3(D)は、x=+36°であるときの干渉信号Inの時間変化波形を示す図であり、図3(E)は、x=+81°であるときの干渉信号Inの時間変化波形を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るエンコーダの構成を示す概略図である。
【図5】フィルタ駆動装置と、空間フィルタとの詳細な構成を示す図である。
【図6】図6(A)は、シフトレジスタと、空間フィルタの透過率の関係を示す図であり(その1)、図6(B)は、シフトレジスタと、空間フィルタの透過率の関係を示す図であり(その2)、図6(C)は、シフトレジスタと、空間フィルタの透過率の関係を示す図であり(その3)、図6(D)は、シフトレジスタと、空間フィルタの透過率の関係を示す図である(その4)。
【図7】図7(A)は、シフトレジスタと、空間フィルタの透過率の関係を示す図であり(その5)、図7(B)は、シフトレジスタと、空間フィルタの透過率の関係を示す図であり(その6)、図7(C)は、シフトレジスタと、空間フィルタの透過率の関係を示す図である(その7)。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るエンコーダの構成を示す概略図である。
【図9】切換装置及び検出装置の詳細な構成を示す図である。
【図10】出力信号の波形を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
11…光源、12…コリメータレンズ、13…インデックス回折格子、14A、14B…ミラー、15…移動回折格子、16…変調用ミラー、16’…ミラー、17、17’、17’’…受光装置、18…検出装置、19…変調検出装置、20…変調制御装置、21…回転駆動装置、23…光源駆動装置、24…発振回路、27…切換装置、28…検出装置、31…シフトレジスタ、32…駆動装置、33…シフト方向設定装置、40…選択回路、41、42…切換回路、100、101、102…エンコーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の変位に関する情報を検出するエンコーダであって、
前記移動体の変位に関する情報に対応した光強度分布を変調する変調装置と;
前記変調された光強度分布を有する光を受光し、その受光結果に応じた信号を出力する受光装置と;を備えるエンコーダ。
【請求項2】
前記変調装置は、
前記光強度分布を有する光を所定方向に周期的に変動させ、
前記受光装置は、
前記所定方向に沿って配置された複数の受光素子を有することを特徴とする請求項1に記載のエンコーダ。
【請求項3】
前記変調装置は、
前記光を偏向させる光学素子と;
前記光学素子の位置又は姿勢を周期的に変動させる駆動素子と;を備えることを特徴とする請求項2に記載のエンコーダ。
【請求項4】
前記変調装置は、
前記光強度分布に対応した透過率分布を有し、該透過率分布の位相を周期的に変動させる空間フィルタであることを特徴とする請求項1に記載のエンコーダ。
【請求項5】
前記空間フィルタは、
前記光の光路上に配置されたスリットシャッタと;
該スリットシャッタの明暗部を周期的に変動させる駆動装置と;を備えることを特徴とする請求項4に記載のエンコーダ。
【請求項6】
移動体の変位に関する情報を検出するエンコーダであって、
前記移動体の変位に関する情報に対応した光強度分布を、複数の受光素子で受光し、その受光結果に応じた信号を受光素子毎に出力する受光装置と;
前記複数の受光素子の出力信号を、所定の周期信号に従って、時系列信号に変調する変調装置と;
前記時系列信号を、前記移動体の変位に関する情報を検出するための信号に変換するコンバータと;を備えるエンコーダ。
【請求項7】
前記光強度分布は、
前記移動体の変位方向に沿って周期的に変動する強度分布を有し、
前記複数の受光素子は、前記光強度分布の周期の整数倍に対応する範囲で配置されることを特徴とする請求項6に記載のエンコーダ。
【請求項8】
前記変調装置は、
前記所定の周期信号に従って、前記光強度分布の1周期に対応する前記複数の受光素子の出力信号のうちのいずれか1つの出力信号を選択する選択回路と;
前記選択された出力信号を、所定のサンプリング周期でサンプルホールドするサンプルホールド回路と;を備えることを特徴とする請求項7に記載のエンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−285717(P2007−285717A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109898(P2006−109898)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(593152661)株式会社仙台ニコン (63)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】