説明

エンジンのシリンダブロック構造

【課題】クランクジャーナル軸受部を充分に補強し得、且つ潤滑冷却流体流路の距離が長くなることを防止し得、圧力損失を抑えて効率向上を図り得るエンジンのシリンダブロック構造を提供する。
【解決手段】スティフニングプレート5より外周側のシリンダブロック1のクランクケース2下面に、潤滑冷却流体流路6の接続部6aを開口せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダブロック構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両等に用いられるエンジンのシリンダブロックは、内部にエンジンオイルや冷却水等の潤滑冷却流体流路が形成されており、該シリンダブロックのクランクケース下面にはエンジンオイルを溜めるオイルパンが接合されている。
【0003】
そして、前記エンジンの運転時には、シリンダブロックのクランクケースの特にクランクジャーナル軸受部が爆発荷重に伴うクランクシャフトの捩れの影響を受けることから、例えば、図4及び図5に示される如く、シリンダブロック1のクランクケース2下面におけるオイルパン3接合部に、クランクジャーナル軸受部4の補強用のスティフニングプレート5を取り付けることにより、シリンダブロック1の剛性を高め、応力を低減し且つ振動を抑制することが行われている。
【0004】
図4に示されるスティフニングプレート5は、全てのクランクジャーナル軸受部4を補強するためにシリンダブロック1のクランクケース2下面全体に設けられたものであるが、前記爆発荷重に伴うクランクシャフト(図示せず)の捩れの影響を最も強く受けるクランクジャーナル軸受部4のみに限定して補強することを目的として、図6に示される如く、シリンダブロック1のクランクケース2下面の一部にスティフニングプレート5を設けたものもある。
【0005】
尚、前述の如きシリンダブロック1のクランクケース2下面の剛性を高める構造と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−138267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記シリンダブロック1のクランクケース2下面には、潤滑冷却流体流路6の接続部6aが開口され、該接続部6aには、エンジンオイルの吸上管7を接続する必要があるため、スティフニングプレート5には、前記潤滑冷却流体流路6の接続部6aと対応する位置に孔8を穿設しなければならない。
【0008】
しかしながら、スティフニングプレート5に孔8を穿設すると、該スティフニングプレート5の剛性が低下し、クランクジャーナル軸受部4の補強が不充分となり、期待した効果が得られなくなるという欠点を有していた。
【0009】
又、図6に示されるようにシリンダブロック1のクランクケース2下面の一部にのみスティフニングプレート5を設けたものの場合、前記スティフニングプレート5に孔8を穿設することを避けるために、潤滑冷却流体流路6の接続部6aの開口位置を図7に示される如くスティフニングプレート5で覆われない位置に移設することは可能であるが、このように接続部6aの開口位置を移設すると、設置位置が制約されるオイルポンプ等の流体機器(図示せず)から接続部6aの開口位置が離れ、その分、潤滑冷却流体流路6の距離が長くなり、圧力損失が増加して効率の低下につながる虞があった。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、クランクジャーナル軸受部を充分に補強し得、且つ潤滑冷却流体流路の距離が長くなることを防止し得、圧力損失を抑えて効率向上を図り得るエンジンのシリンダブロック構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内部に潤滑冷却流体流路が形成されたシリンダブロックのクランクケース下面におけるオイルパン接合部に、クランクジャーナル軸受部の補強用のスティフニングプレートを取り付けてなるエンジンのシリンダブロック構造において、
前記スティフニングプレートより外周側のシリンダブロックのクランクケース下面に、前記潤滑冷却流体流路の接続部を開口せしめたことを特徴とするエンジンのシリンダブロック構造にかかるものである。
【0012】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0013】
前述の如く、スティフニングプレートより外周側のシリンダブロックのクランクケース下面に、潤滑冷却流体流路の接続部を開口せしめると、スティフニングプレートに潤滑冷却流体の吸上管接続用の孔を穿設しなくて済むため、該スティフニングプレートの剛性が低下せず、クランクジャーナル軸受部の補強が充分に行われ、期待した効果が得られる。
【0014】
又、前記スティフニングプレートに孔を穿設することを避けるために、潤滑冷却流体流路の接続部の開口位置をスティフニングプレートで覆われない位置に移設する必要がなくなることから、設置位置が制約されるオイルポンプ等の流体機器から接続部の開口位置が離れてしまうことを回避可能となり、潤滑冷却流体流路の距離を長くしなくて済み、圧力損失が増加しなくなって効率の向上につながることとなる。
【0015】
前記エンジンのシリンダブロック構造においては、前記潤滑冷却流体流路の屈曲部を湾曲形状とすることができ、このようにすると、前記潤滑冷却流体流路の屈曲部が角のある形状となっているのに比べ、流路抵抗が下がり、前記流体機器の負担が小さくなって振動や騒音の低減につながると共に、キャビテーションが発生する心配もなくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエンジンのシリンダブロック構造によれば、クランクジャーナル軸受部を充分に補強し得、且つ潤滑冷却流体流路の距離が長くなることを防止し得、圧力損失を抑えて効率向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のエンジンのシリンダブロック構造の実施例を示す斜視断面図である。
【図2】本発明のエンジンのシリンダブロック構造の実施例を示す下面図である。
【図3】本発明のエンジンのシリンダブロック構造の実施例における潤滑冷却流体流路を示す側断面図であって、図2のIII−III断面相当図である。
【図4】全てのクランクジャーナル軸受部を補強するためにシリンダブロックの下面全体に設けられたスティフニングプレートの一例を示す斜視図である。
【図5】シリンダブロックのクランクケース下面に接合されるオイルパン及び潤滑冷却流体流路に接続されるエンジンオイルの吸上管の一例を示す斜視断面図である。
【図6】特定のクランクジャーナル軸受部のみに限定して補強するためにシリンダブロックの下面の一部に設けられたスティフニングプレートの一例を示す斜視図である。
【図7】潤滑冷却流体流路の接続部の開口位置をスティフニングプレートで覆われない位置に移設する場合の一例を示す下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1〜図3は本発明のエンジンのシリンダブロック構造の実施例であって、図中、図4〜図7と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図4〜図7に示す従来のものと同様であるが、本実施例の特徴とするところは、図1〜図3に示す如く、スティフニングプレート5より外周側のシリンダブロック1のクランクケース2下面に、潤滑冷却流体流路6の接続部6aを開口せしめた点にある。
【0020】
本実施例の場合、オイルパン3をアルミニウムダイカストにて成形するようにしてあり、これにより、クランクケース下面に対するオイルパン3のシールラインの変更の自由度が増し、前記スティフニングプレートより外周側のシリンダブロックのクランクケース下面に、前記潤滑冷却流体流路6の接続部6aを開口せしめることが可能となっているが、オイルパン3が従来のように鋼板である場合、クランクケース下面に対するオイルパン3のシールラインの変更の自由度が低く、本実施例のように、前記スティフニングプレートより外周側のシリンダブロックのクランクケース下面に、前記潤滑冷却流体流路6の接続部6aを開口せしめることは困難となる。
【0021】
又、本実施例の場合、前記潤滑冷却流体流路6の屈曲部は、図3に示す如く、湾曲形状としてある。因みに、前記潤滑冷却流体流路6は、鋳抜きによって屈曲部が湾曲形状となるよう形成してあるが、機械加工によって形成することも可能である。
【0022】
尚、図1に示すオイルパン3は、底部の水平面で二分割された上部材3aと下部材3bとを接合すると共に、該上部材3aの上縁部に、内周側へ張り出してクランクケース2下面に接合されるフランジ部3cを形成した形式のものとなっており、前記上部材3aにおける上部内周面側に厚肉部3dを形成し、該厚肉部3dに前記潤滑冷却流体流路6の接続部6aとつながる連通流路3eを設け、該連通流路3eに吸上管7を接続しているが、このような形式に限定されるものではなく、例えば、底部の水平面で二分割せずに一部材とすると共に、クランクケース2下面に接合される前記フランジ部3cを外周側へ張り出させ、該フランジ部3cの下面側に前記厚肉部3dを形成し、該厚肉部3d及びフランジ部3cに前記連通流路3eを潤滑冷却流体流路6の接続部6aとつながり且つ側壁内面側に開口するよう設け、該連通流路3eに吸上管7を接続するようにしても良いことは言うまでもない。
【0023】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0024】
前述の如く、スティフニングプレート5より外周側のシリンダブロック1のクランクケース2下面に、潤滑冷却流体流路6の接続部6aを開口せしめると、スティフニングプレート5にエンジンオイルの吸上管7接続用の孔8(図4〜図7参照)を穿設しなくて済むため、該スティフニングプレート5の剛性が低下せず、クランクジャーナル軸受部4の補強が充分に行われ、期待した効果が得られる。
【0025】
又、前記スティフニングプレート5に孔8を穿設することを避けるために、潤滑冷却流体流路6の接続部6aの開口位置を図7に示される如くスティフニングプレート5で覆われない位置に移設する必要がなくなることから、設置位置が制約されるオイルポンプ等の流体機器(図示せず)から接続部6aの開口位置が離れてしまうことを回避可能となり、潤滑冷却流体流路6の距離を長くしなくて済み、圧力損失が増加しなくなって効率の向上につながることとなる。
【0026】
更に又、前記潤滑冷却流体流路6の屈曲部が仮に角のある形状となっていると、流路抵抗が高まり、前記流体機器の負担が大きくなって振動や騒音の増加につながると共に、キャビテーションが発生することも懸念されるが、本実施例の場合、前記潤滑冷却流体流路6の屈曲部は、図3に示す如く、湾曲形状としてあるため、流路抵抗が下がり、前記流体機器の負担が小さくなって振動や騒音の低減につながると共に、キャビテーションが発生する心配もなくなる。
【0027】
こうして、クランクジャーナル軸受部4を充分に補強し得、且つ潤滑冷却流体流路6の距離が長くなることを防止し得、圧力損失を抑えて効率向上を図り得る。
【0028】
尚、本発明のエンジンのシリンダブロック構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
1 シリンダブロック
2 クランクケース
3 オイルパン
4 クランクジャーナル軸受部
5 スティフニングプレート
6 潤滑冷却流体流路
6a 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に潤滑冷却流体流路が形成されたシリンダブロックのクランクケース下面におけるオイルパン接合部に、クランクジャーナル軸受部の補強用のスティフニングプレートを取り付けてなるエンジンのシリンダブロック構造において、
前記スティフニングプレートより外周側のシリンダブロックのクランクケース下面に、前記潤滑冷却流体流路の接続部を開口せしめたことを特徴とするエンジンのシリンダブロック構造。
【請求項2】
前記潤滑冷却流体流路の屈曲部を湾曲形状とした請求項1記載のエンジンのシリンダブロック構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−100777(P2013−100777A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245256(P2011−245256)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】