説明

エンジンのブローバイガス還元装置

【課題】クランクケース内のオイル液面が異常上昇しても、オイルセパレータからクランクケースにオイルを戻すオイル戻し配管を介して、オイルが吸気管内に流出することを抑制できるブローバイガス還元装置を提供する。
【解決手段】エンジン1から排出されたブローバイガスは、オイルセパレータ11でオイルが分離された後、エンジン1の吸気管13に還流される。オイルセパレータ11で分離したオイルを、クランクケース6に戻すためのオイル戻し配管15には、フロートバルブ16を設けてある。クランクケース6内のオイル液面が異常上昇し、オイルがオイル戻し配管15内に入り込むと、オイル液面にフロートバルブ16のフロートが浮くことで、オイル戻し配管15を閉鎖し、オイル戻し配管15を介して吸気管13内にオイルが流出することを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブローバイガスからオイルを分離するオイルセパレータを含むエンジンのブローバイガス還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンのブローバイガスを吸気管に戻すブローバイガス還元装置が知られており、係るブローバイガス還元装置として、ブローバイガスからオイルを分離するオイルセパレータを備え、オイルセパレータでオイルが分離されたブローバイガスを吸気管に戻し、オイルセパレータで分離したオイルをエンジンのクランクケースに戻すようにした装置があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−364328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようにオイルセパレータを備えたブローバイガス還元装置においては、オイルセパレータが分離したオイルをクランクケースに戻すオイル戻し配管のクランクケースに対する接続位置を、クランクケース内におけるオイル液面よりも高い位置に設定し、クランクケース内のオイルがオイル戻し配管(ドレン配管)及びオイルセパレータを介してエンジンの吸気管内に流入することを抑制することが好ましい。
しかし、エンジンに燃料を供給する燃料噴射弁からの燃料漏れなどによって、クランクケース内のオイル液面が異常上昇すると、オイル戻し配管の接続位置よりもオイル液面が高くなってしまい、オイルが吸気管内に流入してしまう可能性があった。
【0005】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、クランクケース内のオイル液面が異常上昇しても、オイル戻し配管を介してオイルが吸気管内に流入してしまうことを抑制できるエンジンのブローバイガス還元装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明では、エンジンから排出されたブローバイガスからオイルを分離するオイルセパレータと、前記オイルセパレータが分離したオイルを前記エンジンのクランクケースに戻すオイル戻し配管と、前記オイルセパレータでオイルが分離されたブローバイガスを前記エンジンの吸気管に戻す還流配管と、を備えたエンジンのブローバイガス還元装置において、前記オイル戻し配管内におけるオイル液面の上昇に応じて前記オイル戻し配管を閉鎖するフロートバルブを設けた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フロートバルブは、オイル戻し配管内におけるオイル液面が上昇した場合にオイル戻し配管を閉鎖するから、クランクケース内のオイル液面が異常上昇することで、オイルがオイル戻し配管側にオイルが逆流したときに、フロートバルブがオイル戻し配管を閉鎖し、オイルがフロートバルブを通過してエンジンの吸気管にまで流入してしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態におけるエンジンのブローバイガス還元装置を示す概略図
【図2】実施形態におけるフロートバルブの一例を示す断面図
【図3】図2のフロートバルブの閉弁状態を示す断面図
【図4】実施形態におけるフロートバルブの別の例を示す断面図
【図5】図4のフロートバルブの閉弁状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施形態を詳述する。
図1は、本願発明に係るブローバイガス還元装置を備えたエンジン1を示す。
エンジン1のシリンダブロック2の上部には、ピストン3を収容するシリンダ4が複数形成されている。
【0010】
シリンダブロック2のスカート部2aの下部にはオイルパン5が取り付けられ、スカート部2aとオイルパン5とでクランクケース6が構成される。
クランクケース6は、図示省略したクランク軸を収容すると共に、オイル(潤滑油)を貯留する。
【0011】
シリンダブロック2の上部にはシリンダヘッド7が取り付けられ、シリンダヘッド7の上部はヘッドカバー8で覆われ、シリンダヘッド7とヘッドカバー8とでヘッド室9が形成される。
ヘッド室9には、バルブ駆動装置などを潤滑するために、図示省略したオイル循環装置によってクランクケース6から送出されたオイルが供給され、ヘッド室9に供給されたオイルは、ヘッド室9とクランクケース6内とを連通させるオイル通路10を介してクランクケース6の底部のオイル溜まり6aに戻される。
【0012】
また、ブローバイガス還元装置として、ブローバイガスからオイルを分離するオイルセパレータ11と、ヘッド室9(シリンダヘッド7)から排出されるブローバイガスをオイルセパレータ11に供給するブローバイガス供給配管12と、オイルセパレータ11でオイルが分離された残部のブローバイガスを、エンジン1の吸気管13に還流させる還流配管14と、オイルセパレータ11で分離したオイルをクランクケース6内に戻すオイル戻し配管15と、オイル戻し配管15の途中に介装したフロートバルブ16とを備える。
【0013】
オイルセパレータ11は、サイクロン式やフィルタ式などの公知のオイルセパレータを適宜用いることができる。
また、オイルセパレータ11内のオイル戻し経路には、前後差圧に応じて開閉動作し、クランクケース6側からオイルセパレータ11内に向かう流れを遮断するチェックバルブを設けてある。
【0014】
また、オイル戻し配管15は、クランクケース6のオイル液面OLよりも高い位置に開口するように、クランクケース6に対して接続される。
フロートバルブ16は、クランクケース6内のオイルがオイル戻し配管15内に入り込み、フロートがオイル液面に浮いたときに、オイル戻し配管15を閉鎖するバルブであり、フロートがオイル液面に浮いていない状態では、フロートの自重で開弁位置に位置し、オイル戻し配管15を介したオイルのクランクケース6内への戻しを可能にする。
【0015】
図2及び図3は、フロートバルブ16の詳細を示す断面図である。
図2及び図3に示すフロートバルブ16は、上部にオイルセパレータ11から延設されるオイル戻し配管15aが接続され、下部にクランクケース6にまで延設されるオイル戻し配管15bが接続される箱状のハウジング16aと、ハウジング16内に略水平な軸P回りに揺動可能に支持されるステー16bと、ステー16bの先端に取り付けられたフロート16cと、揺動軸P付近のステー16bの上部に取り付けられた弁体16dと、ハウジング16aの天井壁に開口するオイル戻し配管15aの接続口に形成した弁座部16eと、を備える。
【0016】
そして、フロート16cはハウジング16a内のオイル液面に浮き、ステー16bの揺動角度はハウジング16a内のオイル液面の高さに応じて変化する。
フロート16cがオイル液面に浮いていない場合には、図2中に実線で示すように、フロート16cの重さで、ステー16bは図2及び図3における反時計回りに揺動し、ステー16bに取り付けた弁体16dは、弁座部16eから離間して開弁状態となり、オイルセパレータ11で分離されたオイルがクランクケース6に向けて流れる。
【0017】
一方、フロート16cがオイル液面に浮くと、ハウジング16a内におけるオイル液面が高いほどステー16bは図2及び図3における反時計回りに揺動し、オイル液面の高さが設定値を超えると、図3に示すように、ステー16bの上部に取り付けた弁体16dが、弁座部16eに着座することで閉弁状態となり、オイル戻し配管15aを閉鎖する。
図2及び図3に示したフロートバルブ16は、フロートがオイル液面に応じて略水平軸回りに揺動する構造のものであるが、図4及び図5に示すように、フロートがオイル液面に応じて上下に直線的に変位する構造のものであってもよい。
【0018】
図4及び図5に示すフロートバルブ16は、上部にオイルセパレータ11から延設されるオイル戻し配管15aが接続され、下部にクランクケース6にまで延設されるオイル戻し配管15bが接続される筒状のハウジング16fと、バルーン状のフロート弁体16gと、ハウジング16fの内側に張り出すように形成された弁座部16hと、フロート弁体16gの上端部に取り付けられた係止部16iと、を備える。
フロート弁体16gは、オイル液面に浮くフロートであって、半球状に形成された上部が弁座部16hに密着することで弁体として機能する。
【0019】
係止部16iは、フロート弁体16gの上端に一端が取り付けられ、弁座部16hの開口部に挿通される棒状部16jと、棒状部16jの先端に取り付けられ、弁座部16hのオイルセパレータ11側の端面に当接することで、フロート弁体16gがクランクケース6側に抜け落ちることを阻止するストッパ部16kとを有し、フロート弁体16gは、その上部が弁座部16hに着座する位置と、ストッパ部16kが弁座部16hのオイルセパレータ11側の端面に当接する位置の間で移動可能に構成されている。
【0020】
そして、フロート弁体16gがオイル液面に浮いていない場合には、図4に示すように、フロート弁体16gの重さで、弁座部16hのオイルセパレータ11側の端面にストッパ部16kが当接する位置に保持され、このとき、弁座部16hとフロート弁体16gの上部とは離間して開弁状態となり、弁座部16hの開口部及び弁座部16hとフロート弁体16gの上部との隙間を介して、オイルセパレータ11で分離されたオイルがクランクケース6に向けて流れる。
【0021】
一方、フロート弁体16gがオイル液面に浮くと、ハウジング16f内におけるオイル液面が高いほど、フロート弁体16gは上方に変位して弁座部16hに近づき、オイル液面の高さが設定値を超えると、図5に示すように、フロート弁体16gの半球状上部が弁座部16hに着座することで閉弁状態となり、オイル戻し配管15aを閉鎖する。
尚、フロートバルブ16の構造は、図2〜図5に示したものに限定されず、公知の種々の構造のフロートバルブを用いることができる。例えば、フロート又は弁体を開弁時の位置に向けて付勢する付勢手段を備えたフロートバルブであってもよい。
【0022】
次に、上記構成のブローバイガス還元装置の作用を説明する。
エンジン1のピストン3とシリンダ4との隙間をクランクケース6側に吹き抜けたブローバイガスは、シリンダ4の内周面に付着するオイルと接触することで、オイルを含んでいる。
このオイルを含むブローバイガスは、オイル通路10、ヘッド室9及びブローバイガス供給配管12を通って、オイルセパレータ11に流入する。
【0023】
そして、オイルセパレータ11に流入したブローバイガスに含まれるオイルは、オイルセパレータ11で分離され、オイルが分離された残部のブローバイガスは、還流配管14を介してエンジン1の吸気管13に還流される。
一方、オイルセパレータ11でブローバイガス中から分離されたオイルは、フロートバルブ16を通過して、オイル戻し配管15aによってクランクケース6内に戻される。
【0024】
前述のように、オイル戻し配管15aのクランクケース6に対する接続位置は、クランクケース6のオイル液面OLよりも高い位置に設定されているため、オイル液面OLの異常上昇がない通常時には、オイル戻し配管15a内に、クランクケース6内のオイルが入り込むことがなく、従って、フロートバルブ16は開弁状態を維持し、オイルセパレータ11で分離されたオイルは、オイル戻し配管15aを介してクランクケース6内に戻される。
【0025】
一方、エンジン1に燃料を噴射する燃料噴射弁の漏れなどが発生することで、クランクケース6内のオイル液面が異常上昇し、これによって、オイル戻し配管15a内にクランクケース6内のオイルが入り込み、フロートバルブ16のフロートがオイル液面に浮くと、フロートバルブ16が閉弁してオイル戻し配管15aを閉鎖することで、クランクケース6内のオイルがフロートバルブ16を通ってオイルセパレータ11側に流れることが抑制される。
従って、上記ブローバイガス還元装置によると、クランクケース6内のオイル液面が異常上昇した場合であっても、ブローバイガス還元装置を経由して、クランクケース6内のオイルがエンジン1の吸気管13に流出することを抑制できる。
【0026】
尚、オイルセパレータ11のオイル戻し経路に、前後差圧に応じて開閉動作するチェックバルブを備えていても、係るチェックバルブは、一般的に差圧が小さい領域では閉弁しきれないため、オイル戻し配管15a内に入り込んだオイルが、エンジン1の吸気管13に流出することを確実に阻止することはできない。
これに対し、本実施形態のように、オイル戻し配管15aにフロートバルブ16を設ければ、フロートバルブ16は、オイル液面にフロートが浮くことでオイル戻し配管15aを閉鎖するので、オイル戻し配管15a内に入り込んだオイルがエンジン1の吸気管13に流出することを、より確実に阻止することができる。
【0027】
また、上記ブローバイガス還元装置では、フロートバルブ16が閉弁している状態であっても、ブローバイガスの吸気管13への還流が停止されることがなく、クランクケース6内の圧力が異常に高く上昇してしまうことがない。
【0028】
ところで、図1に示すように、フロートバルブ16のフロートがオイル戻し配管15aを閉鎖する位置に位置しているか否かを検出するスイッチ31を設け、このスイッチ31で、エンジン1を搭載した車両のコンビネーションメータに付設した警告手段としての警告灯32に対する通電のオン・オフを制御させるように構成することができる。
そして、フロートバルブ16のフロートがオイル液面に浮いてオイル戻し配管15aを閉鎖したとき、換言すれば、オイル戻し配管15aにクランクケース6内のオイルが入り込むようなオイル液面の異常上昇が発生しているときに、スイッチ31がオンとなって警告灯32を点灯させるようにすれば、オイル液面の異常上昇が発生していることを運転者に認識させることができる。
【0029】
尚、クランクケース6内におけるオイル液面の異常上昇を警告する手段としては、警告灯32に代えて又は警告灯32と共に、警告音を発生するブザーなどを用いることができる。
また、スイッチ31としては、リミットスイッチなどの接触式スイッチの他、非接触式のスイッチを用いることができる。
【0030】
また、エンジン1を制御する電子制御ユニットが、スイッチ31のオン・オフ信号を入力し、電子制御ユニットが、警告灯32などの警告手段の動作を制御し、また、スイッチ31の信号に基づいてオイル液面の異常上昇が発生していると判断したときに、エンジン1の出力や車速を制限するなどのフェイルセーフ制御を実行することができる。
また、フロートバルブ16を、オイルセパレータ11に内蔵させても良いし、また、クランクケース6のオイル戻し配管15aを接続する接続口にフロートバルブ16を設けたり、オイルセパレータ11のオイル取り出し口にフロートバルブ16を設けたりすることができる。
更に、フロートバルブ16のハウジング16a,16fに透明な窓部を設け、フロートバルブ16がオイル液面に浮いて閉弁状態になっているか否かを目視確認できるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン
2 シリンダブロック
3 ピストン
4 シリンダ
5 オイルパン
6 クランクケース
7 シリンダヘッド
8 ヘッドカバー
9 ヘッド室
10 オイル通路
11 オイルセパレータ
12 ブローバイガス供給配管
13 吸気管
14 還流配管
15 オイル戻し配管
16 フロートバルブ
31 スイッチ
32 警告灯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出されたブローバイガスからオイルを分離するオイルセパレータと、前記オイルセパレータが分離したオイルを前記エンジンのクランクケースに戻すオイル戻し配管と、前記オイルセパレータでオイルが分離されたブローバイガスを前記エンジンの吸気管に戻す還流配管と、を備えたエンジンのブローバイガス還元装置において、
前記オイル戻し配管内におけるオイル液面の上昇に応じて前記オイル戻し配管を閉鎖するフロートバルブを設けたことを特徴とするエンジンのブローバイガス還元装置。
【請求項2】
前記フロートバルブが前記オイル戻し配管を閉鎖する位置に変位したことを検出するスイッチを設けたことを特徴とする請求項1記載のエンジンのブローバイガス還元装置。
【請求項3】
前記スイッチのオン・オフに応じて動作し、前記オイル戻し配管内におけるオイル液面の上昇を警告する警告手段を設けたことを特徴とする請求項2記載のエンジンのブローバイガス還元装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122431(P2012−122431A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275285(P2010−275285)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】